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特許7490901二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミスト、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミスト、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/14 20060101AFI20240520BHJP
   B01F 23/2375 20220101ALI20240520BHJP
   C02F 1/36 20230101ALI20240520BHJP
【FI】
A61L9/14
B01F23/2375
C02F1/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024000649
(22)【出願日】2024-01-05
【審査請求日】2024-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390024372
【氏名又は名称】竹本容器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】金高弘恭
(72)【発明者】
【氏名】平野愛弓
(72)【発明者】
【氏名】但木大介
(72)【発明者】
【氏名】庭野道夫
(72)【発明者】
【氏名】竹本笑子
(72)【発明者】
【氏名】藤森宏
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-081972(JP,A)
【文献】国際公開第2015/071995(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/063361(WO,A1)
【文献】特開2018-075240(JP,A)
【文献】国際公開第2021/075332(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/075425(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0147558(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
C02F 1/00- 1/78
B01F 23/00-23/80
A01P 3/00
A01N 59/00-59/24
A61K 33/00-33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除菌用として使用する二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストであって、
含有する二酸化炭素ナノバブルの粒径分布におけるピーク粒子径は70~80nmであり、
溶存二酸化炭素量は2000mg/L以上、ナノバブル濃度は6~8×10particles/mLである
ことを特徴とする二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミスト。
【請求項2】
前記ナノバブル濃度が半減する時間は生成後300時間以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミスト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素ナノバブル水の製造方法であって、
二酸化炭素ガスシリンダ、ガス噴射器、生成容器、圧電振動子を含み、
(ステップ1)前記生成容器に充填した水に、溶存二酸化炭素量が2×10mg/L以上となるよう前記二酸化炭素ガスシリンダに充填されている炭酸ガスを前記ガス噴射器によってバブリングし、
(ステップ2)バブリング後の前記水を、前記圧電振動子によって振動数1~2MHz、50~60分振動させる、
ことを特徴とする二酸化炭素ナノバブル水の製造方法。
【請求項4】
前記水は、水道水、ミネラルウオーター、純水のいずれかである、
ことを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素ナノバブル水の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素ナノバブルミストの製造方法であって、
二酸化炭素ガスシリンダ、ガス噴射器、生成容器、圧電振動子、二酸化炭素ナノバブル水をミストとして外部に放出するためのファン及び噴射筒を含み、
(ステップ1)前記生成容器に充填した水に、溶存二酸化炭素量が2×10mg/L以上となるよう前記二酸化炭素ガスシリンダに充填されている炭酸ガスを前記ガス噴射器によってバブリングし、
(ステップ2)バブリング後の前記水を、前記圧電振動子によって振動数1~2MHz、50~60分振動させて二酸化炭素ナノバブル水を生成し、
(ステップ3)生成後の前記二酸化炭素ナノバブル水の液面に立ち上がる前記二酸化炭素ナノバブルミストに前記ファンによって風を当て、前記噴射筒から前記二酸化炭素ナノバブルミストを前記生成容器の外部に放出する、
ことを特徴とする二酸化炭素ナノバブルミストの製造方法。
【請求項6】
前記水は、水道水、ミネラルウオーター、純水のいずれかである、
ことを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素ナノバブルミストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除菌用として使用する二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミスト、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGsを始めとする環境に優しい活動が世界的な広がりを見せる中、廃棄容器の削減を目的とした酒類、各種飲料、牛乳、化粧水等について、いわゆる「量り売り」を志向する消費者が増加している。
【0003】
こうした量り売りは、消費者自らが持参する容器に店舗側が提供する酒類、各種飲料、牛乳、化粧水等を充填する販売方法であるが、持参した容器内部をいかに清潔に洗浄し、除菌(殺菌)して内容物を安全・安心に充填するかの課題がある。
【0004】
また家庭内においては、哺乳瓶や飲食料品保存容器の除菌(殺菌)は必要不可欠であるが、一般的な熱湯消毒には時間を要し、また火傷等の危険も伴う。
【0005】
さらに、新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、室内空間(一般家庭、職場、店舗、医療現場など)の除菌が求められているが、日常生活環境下においては、健康に害を与える可能性がる薬液を可能な限り使用しない洗浄・除菌・殺菌が望ましい。次亜塩素酸などによる殺菌は簡便で電気を使わず、殺菌効果も有効ではあるものの、人体への悪影響が懸念されるなどの課題がある。
【0006】
薬液を使用しない他の殺菌法としては、紫外線殺菌法等が挙げられるが、波長の短い紫外線は人体に有害である。そのためブラックライトと呼ばれるやや波長の長い紫外光源が殺菌に用いられるようになっているが、紫外線照射による殺菌効果は限定的と言う課題がある。
【0007】
また各種研究によりナノバブルに除菌効果があることが判明しており、特にオゾンナノバブル水を用いた除菌方法も実用化されているが、オゾンの取り扱いには注意が必要である等の課題が残る。
【0008】
一方、特許文献1(特開2009-131770号公報)、特許文献2(特開2011-088842号公報)、特許文献3(特開2020-171263号公報)には、オゾン等に代えて二酸化炭素ナノバブルを除菌用として利用する発明が開示されているが、具体的な除菌効果や除菌作用の持続期間、活用方法などは明確ではなく、有効性に疑問がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-131770号公報
【文献】特開2011-088842号公報
【文献】特開2020-171263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記各特許出願に係る発明に開示されているように、二酸化炭素ナノバブル水に除菌作用があることはある程度判明しているが、二酸化炭素ナノバブルそのものに除菌能があるわけではない。本願発明者らの研究によれば、二酸化炭素ナノバブル水で観察された除菌作用は、主として二酸化炭素ナノバブル水が生成するヒドロキシルラジカルに起因することが判明している。
【0011】
ナノバブルの中圧は数十気圧にも達するが、窒素や酸素から構成されるナノバブルの界面に比べて二酸化炭素ナノバブルの界面は柔らかく、そのため二酸化炭素ナノバブルは、内包された二酸化炭素が窒素ナノバブル、酸素ナノバブル等に比べて外部に噴出しやすい。また、粒径が小さいほどナノバブルの中圧は高くなるため、小粒径の二酸化炭素ナノバブルほど、内包された二酸化炭素が外部に噴出しやすくなり、結果としてヒドロキシルラジカルが大量に発生することになる。
【0012】
すなわち、本発明者らの研究によって明らかにされた事実は、二酸化炭素ナノバブル水によって、除菌能を有するヒドロキシルラジカルをいかに大量かつ有意に生成するかが、除菌作用、除菌効果(除菌能)を左右すると言うことである。なお、本明細書では、大腸菌、黄色ブドウ球菌、歯周病菌を含む細菌類を30分以内に1/100以下に除菌する能力を有意な除菌能として定義する。
【0013】
本願発明は、除菌能を有するヒドロキシルラジカルを有意に生成し、量り売り店舗や家庭内においても簡便かつ安全な方法で容器の内部に存在する菌類、或いは各種の室内環境空気中に存在する菌類を効果的に除菌することが望ましい時代に対応し、サスティナブル社会の進展、環境への配慮の観点から薬液や化学合成製剤を使用せず、使用目的に応じた除菌剤として利用可能な二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストを提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本願発明は、除菌用として使用する二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストであって、含有する二酸化炭素ナノバブルの粒径分布におけるピーク粒子径は70~80nmであり、ナノバブル生成時の溶存二酸化炭素量は2000mg/L以上、ナノバブル濃度は6~8×10particles/mLである、ことを特徴とする。
【0015】
また本願発明は、上記二酸化炭素ナノバブル水の製造方法であって、二酸化炭素ガスシリンダ、ガス噴射器、生成容器、圧電振動子を含み、(ステップ1)前記生成容器に充填した水に、溶存二酸化炭素量が2×10mg/L以上となるよう前記二酸化炭素ガスシリンダに充填されている炭酸ガスを前記ガス噴射器によってバブリングし、(ステップ2)バブリング後の水を、前記圧電振動子によって振動数1~2MHz、50~60分振動させる、ことを特徴とする。
【0016】
さらに本願発明は、上記二酸化炭素ナノバブルミストの製造方法であって、二酸化炭素ガスシリンダ、ガス噴射器、生成容器、圧電振動子、二酸化炭素ナノバブル水をミストとして外部に放出するためのファン及び噴射筒を含み、(ステップ1)前記生成容器に充填した水に、溶存二酸化炭素量が2×10mg/L以上となるよう前記二酸化炭素ガスシリンダに充填されている炭酸ガスを前記ガス噴射器によってバブリングし、(ステップ2)バブリング後の前記水を、前記圧電振動子によって振動数1~2MHz、50~60分振動させて二酸化炭素ナノバブル水を生成し、(ステップ3)生成後の前記二酸化炭素ナノバブル水の液面に立ち上がる前記二酸化炭素ナノバブルミストミストに前記ファンによって風を当て、前記噴射筒から前記二酸化炭素ナノバブルミストを前記生成容器の外部に放出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記構成を有する本願発明の二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストによれば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、歯周病菌などの細菌類を30分以内に1/100以下(洗剤・石けん公正取引協議会が定める公正競争規約・施行規則による)に除菌することができる除菌作用を奏し、人体に害のある薬液を使用しない簡単、安価な除菌剤として利用可能であり、かつ一度生成した二酸化炭素ナノバブル水は300時間以上、除菌作用を維持することから作り置きも可能となる。
【0018】
また本願発明の二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストは、簡素かつ安価な装置を用いて製造できるため、量り売り店舗や一般家庭でも手頃な価格で購入し、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】二酸化炭素ナノバブル水及び二酸化炭素ナノバブルミストを生成するための装置概念図
図2】生成した二酸化炭素ナノバブルの粒径分布を示すグラフ
図3】二酸化炭素ナノバブル濃度の超音波照射時間依存性を示すグラフ
図4】生成した上記二酸化炭素ナノバブル水が有する除菌能の検証結果を示すグラフ及び写真
図5】二酸化炭素ナノバブル水をミスト化した状態での除菌能を検証したグラフ及び写真
図6】二酸化炭素ナノバブルの時間経過に伴う濃度変化を示すグラフ
図7】生成から一週間経過後の二酸化炭素ナノバブル水の除菌効果を示すグラフ及び写真
図8】二酸化炭素ナノバブル濃度と除菌能の相関を示すグラフ
図9】二酸化炭素ナノバブル水(Soda-SNB)、純水ナノバブル水(SNB)、炭酸水(Soda)の典型的なESRスペクトルをプロットしたグラフ
図10】超音波照射時間と二酸化炭素ナノバブルの平均粒径の関係を測定したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る二酸化炭素ナノバブル水及び二酸化炭素ナノバブルミストを生成するための装置概念図である。生成装置1は、給水タンク2、二酸化炭素ガスシリンダ3、ガス噴射器3-1、生成容器4、圧電振動子5、二酸化炭素ナノバブル水をミストとして生成容器4の外部に放出するためのファン6及び噴射筒7から構成される。なお、二酸化炭素ナノバブル水のみを生成する場合には、ミスト化して放出するための上記ファン6及び噴射筒7は必要ない。以下、ナノバブルは「NB」と省略して記載することがあり、二酸化炭素は「炭酸ガス」と呼ぶこともある。
【0021】
本実施例では試料として純水を用い、二酸化炭素ガスシリンダ3は市販のSODASTREAM(登録商標)を用い、圧電振動子5は市販の「IM1-24-PS1」(SEIKO GIKEN Inc.製)を用いた。なお、使用する水は、純水に限らず、水道水、ミネラルウオーターのいずれであっても良い。
【0022】
圧電振動子5の表面はガラス素材でコートされ、駆動超音波周波数は1.7MHzである。生成容器4は、容量200mL(内径50mm)のアルミ製のものを用い、生成容器4の底に圧電振動子5を設置し、生成容器4はペルチェ素子駆動の冷却板の上に設置し、温度を20℃以下に維持した。
【0023】
純水の初期溶存酸素は8.1mg/L、溶存二酸化炭素は0.26mg/Lであった。溶存二酸化炭素濃度を高く調整するために、二酸化炭素ガスシリンダ3に充填されている炭酸ガスをガス噴射器3-1によってバブリングした。バブリング後の溶存二酸化炭素は3.5×10mg/Lであった。
【0024】
バブリング後の生成容器4内の炭酸水を、圧電振動子5によって1.7MHzの超音波で照射した。照射時間は1時間とした。1時間照射後の溶存二酸化炭素の量は35mg/Lに減少し、NB濃度は7×10particles/mLであった。超音波照射によって減少した二酸化炭素は、NB中に閉じ込められたものと推測される。
【0025】
図2は、上記方法で生成した二酸化炭素NBの粒径分布(粒径分散)を示したグラフである。図2に示すとおり、二酸化炭素NBの粒径は50~150nmに分布しており、粒径分布のピーク粒径は約70nmであった。前述したとおり、二酸化炭素NBの粒径が小さいほど内包された二酸化炭素が外部に噴出しやすくなり、結果としてヒドロキシルラジカルが大量に発生することになる。最適粒径は70~80nmであり、この粒径が分布のピークとなる二酸化炭素NBを生成することが望ましい。なお図10は、超音波照射時間と二酸化炭素NBの平均粒径の関係を測定したグラフであり、60分程度までは一気に平均粒径が小さくなるものの100分を過ぎるとNBの合体が進むため逆に大きくなる。このため、超音波照射時間は50~60分程度が最適である。
【0026】
本発明では、炭酸水に超音波を照射して二酸化炭素NBを生成するものであるが、溶存二酸化炭素をNBの中に閉じ込めていくことから、超音波照射時間に比例してNB濃度は高まっていく。
【0027】
図3は、二酸化炭素NB濃度の照射時間依存性を測定した結果を示すグラフである。超音波照射を継続すると二酸化炭素NBの濃度は高まるが、1時間照射後の濃度は7×10 particles/mLまで一気に上昇した。その後も照射を継続したところ二酸化炭素NBの濃度上昇率は鈍化した。
【0028】
二酸化炭素NBの濃度を更に高める方法の一つとして、一定時間ごと(例えば1時間ごと)に炭酸ガスを再バブリングする方法も考えられるが、二酸化炭素NBの濃度が高まると、二酸化炭素NB同士の合体が進み、二酸化炭素NBの粒径が次第に大きくなり、それに伴って小さい粒径の二酸化炭素NBの濃度は低下する。さらに、生成された二酸化炭素NBに超音波を照射することで粒径の肥大化が起こり、結果的に二酸化炭素NB濃度は低下するものと考えられる。そのため、除菌効果の観点での二酸化炭素NBの最適濃度は7×10particles/mL程度である。
【0029】
図4は、生成した上記二酸化炭素NB水が奏する除菌作用についての検証結果を示すグラフ及び写真である。この検証には大腸菌を用いた。図4の写真は、二酸化炭素NB水中に大腸菌を15分保持した後におけるペトリフィルム上のコロニー形態の変化を示しており、コロニー数は、極めて短時間で顕著に減少(死滅)したことが分かる。図4には併せてNB水中の大腸菌の生存率の時間変化のグラフを示している。この時間変化は(生存率)∝EXP(-kt)(tは時間)と表すことができ、指数部の係数kNBをここではナノバブルの除菌能(単位はmin-1)と呼ぶ。この値が大きいほど除菌能が大きい。図4の結果はkNB=0.32(min-1)であり、菌数が1/100になる時間は約14分である。大腸菌を死滅させることができる力は、黄色ブドウ球菌、歯周病菌等にも同等である。
【0030】
図4のグラフにおいて、本発明との比較のため、純水中に大腸菌を放置した結果を○で示している。純水でも大腸菌の生存率は時間とともに若干減少しているが、この生存率低下は、栄養分と酸素不足による脱気純水中で大腸菌が不活性化したことによるものであって、純水による除菌効果を示すものではない。
【0031】
図5は、本願発明に係る二酸化炭素NB水をミスト化した状態での除菌作用を検証したグラフ及び写真である。図5の写真は、図4と同様に二酸化炭素NB水中に大腸菌を15分保持した後におけるペトリフィルム上のコロニー形態の変化を示しており、コロニー数は、極めて短時間で顕著に減少(死滅)したことが分かる。本検証によれば、液体状態だけでなくミスト化した状態でも、液体と同等の除菌作用があることが示された。二酸化炭素NB水を除菌剤として利用する場合、これをミスト化して利用することができれば、複雑な形状を有する容器内部や室内空間の除菌剤として、その利用範囲を大きく広げることができる。
【0032】
二酸化炭素NB水を除菌剤として広く利用・活用する上で、除菌作用の持続力(除菌寿命)は非常に重要な観点である。高い除菌作用を有する二酸化炭素NB水を生成できても、それが数分程度で喪失してしまうものであるとすれば、利用価値は極めて小さくなる。
【0033】
図6は、本願発明に係る二酸化炭素NB水の時間経過に伴うNB濃度変化を示すグラフである。二酸化炭素NB水のNB濃度と除菌作用は、後述するように比例関係にあるが、生成から300時間経過後においてもその濃度は半分程度に減少しただけであり、依然として高い濃度を維持していることを示している。NBの寿命は粒径に比例し、粒径が小さいほど合体する確率が小さくなるからである。
【0034】
図7は、生成から一週間経過後の二酸化炭素NB水の除菌作用を調べた結果を示すグラフ及び写真である。除菌作用(除菌能)はkNB=0.16min-1であった。図7の写真は、図4と同様に二酸化炭素NB水中に大腸菌を15分保持した後におけるペトリフィルム上のコロニー形態の変化を示しており、コロニー数は、短時間で顕著に減少(死滅)したことが分かる。除菌作用は二酸化炭素NB水の生成直後と比べるとやや減少しているものの、依然として強い除菌作用を保持していることが分かる。除菌作用を維持する時間が長いことは、作り置きを可能とし、実製品への応用上きわめて有利となる。
【0035】
図8は、二酸化炭素NB濃度と除菌作用の相関を示すグラフであり、二酸化炭素NBの除菌作用は二酸化炭素NBの濃度の高まりとともに強まる。純水に超音波照射したNB水と、二酸化炭素をバブリングした炭酸水に超音波照射した二酸化炭素NB水の除菌作用を比較すると、同じNB濃度において10倍以上の圧倒的な違いがあることが分かる。純水を超音波照射した際に発生するNBは溶け込んだ空気であり、ほとんどが窒素成分であるため界面は硬く、外部に噴出し難く、ヒドロキシルラジカルの生成が少ないからである。
【0036】
炭酸水を超音波照射することによって生成される二酸化炭素NB水の除菌作用の要因(原因)を調べるため、ESRを用いて二酸化炭素NB水中のラジカル種を検出した。
【0037】
図9は、本願発明に係る二酸化炭素NB水(Soda-SNB)、純水を超音波照射してNBを発生させた純水NB水(SNB)、単なる炭酸水(Soda)の典型的なESRスペクトルをプロットしたグラフであり、図9(a)は二酸化炭素NB水(Soda-SNB)、(b)は純水NB水(SNB)、(c)は炭酸水(Soda)の各ESRスペクトルを示している。図中の●で示したピークは、強い殺菌力を有するヒドロキシルラジカル(・OH)に因るものであり、純水NB水、炭酸水でもヒドロキシルラジカルは確認できるものの、その量は二酸化炭素NB水に比べて遥かに少ない。
【0038】
図9に示すように純水NB水においてNB濃度は十分に高い(4×10 particles/mL)にもかかわらず、除菌作用はほとんど見られなかった。また炭酸水においてもヒドロキシルラジカル量は極めて少なく、溶存二酸化炭素だけでは、除菌作用を奏さないことを示している。このことからも、二酸化炭素NB水が奏する除菌作用は、二酸化炭素NB水によって生成されるヒドロキシルラジカルが発揮する除菌能に起因するものであると結論づけられる。
【0039】
二酸化炭素NB水は、純水のみから生成されたNB水よりも活性酸素の生成が顕著に多く、活性酸素の形成に関与する反応は、NB水に存在する溶質とNBの間で起こったと考えられる。二酸化炭素の水に対する溶解度は、酸素や窒素と比べて3桁程度高い。二酸化炭素は水分子との相互作用が強く、NBに内包された二酸化炭素分子が、NB界面の水分子と反応してNB界面を構造的に不安定にしていると考えられる。
【0040】
前述したとおり、本発明者らは、NBの界面は水分子クラスターからなる二次元界面層があることを提唱し、二酸化炭素分子は界面水分子クラスターと相互作用して界面を柔らかくすることを明らかにした。柔らかくなった界面を持つNBは、その周りの溶質分子や細菌と反応しやすくなり、ラジカルを発生し易くしたと解釈できる。
【0041】
一方、酸素や窒素は界面水クラスターと相互作用し難く、界面が二酸化炭素の場合より硬くなっている。従って、これらのガス分子では活性酸素が発生し難く、大腸菌等に対する除菌能が大きくならなかったと解釈できる。
【0042】
さらに、100nm以下のNBの内圧は数十気圧以上と推定されるため、高圧の内包二酸化炭素がラジカル生成反応を促進する。本発明で生成された二酸化炭素NBの粒径分布におけるピーク粒径は100nm以下であることから、内圧の高さがラジカル生成を促進する。
【0043】
なお、上記した実施例において、二酸化炭素ガスシリンダ3によってバブリングした後の溶存二酸化炭素を3.5×10mg/Lとしたが、2×10mg/L以上であれば良い。
【0044】
また、圧電振動子5による振動数は1.7MHzとしたが1~2MHzであれば良く、また超音波照射時間は1時間としたが1時間以上であれば良く、さらにNB濃度は7×10particles/mLとしたが6~8×10particles/mL程度であれば良い。
【0045】
また、上記実施例では二酸化炭素NBを生成する水温の条件を20℃以下として説明したが、40℃以下であれば良い。
【0046】
以上のとおり、本願発明に係る二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、歯周病菌を含む細菌類を30分内に1/100以下に除菌する有意な除菌作用を有しており、除菌を必要とするあらゆる物品、環境(歯科治療等を含む)に対して活用することができる。特に、ミストでも有意な除菌作用を発揮することから、複雑な形状を有する容器内部の除菌や、加湿器等を用いた室内環境除菌にも活用可能である。
【0047】
また本願発明に係る二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストは極めて簡単で安価な装置で生成することができ、かつ純水ではなく水道水や市販のミネラルウオーターでも生成可能で、作り置きも出来るため、生成に要するランニングコストも極めて低く抑えることができ、小規模店舗や一般家庭でも安価で容易に使用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 生成装置
2 給水タンク
3 二酸化炭素ガスシリンダ
3―1 ガス噴射ノズル
4 生成容器
5 圧電振動子
6 ファン
7 噴射筒
【要約】      (修正有)
【課題】除菌能を有するヒドロキシルラジカルを有意に生成し、薬液や化学合成製剤を使用せず、使用目的に応じた除菌剤として利用可能な二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストを提供すること。
【解決手段】除菌用として使用する二酸化炭素ナノバブル水、又は二酸化炭素ナノバブルミストであって、含有する二酸化炭素ナノバブルのピーク粒子径は100nm以下であり、ナノバブル生成時の溶存二酸化炭素量は2000mg/L以上、ナノバブル濃度は6~8×10particles/mLであり、ナノバブル濃度が半減する時間は生成後300時間以上である。
【選択図】図1
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図10