(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】免震装置および免震装置システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2024013390
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301062226
【氏名又は名称】株式会社日本設計
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 竹哉
(72)【発明者】
【氏名】中尾 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】高峰 宏周
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-84100(JP,A)
【文献】特開2011-52432(JP,A)
【文献】特開2020-33716(JP,A)
【文献】特開2022-116800(JP,A)
【文献】特開2019-100040(JP,A)
【文献】特開2000-46104(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111926937(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライダーを有する球面滑り支承と、
CFT柱と、
を備える免震装置であって、
前記CFT柱の上面は柱に接続され、
前記CFT柱の下面は前記球面滑り支承に接続される、
ことを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記CFT柱は、平面視にて円形であり、
平面視における前記CFT柱の直径は、前記球面滑り支承の摺動面の直径と略同一である、
ことを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記柱は、S造の柱、又は、CFT柱である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記CFT柱の下面は、アンカープレートを介し、前記球面滑り支承に接続される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の免震装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の免震装置である第1免震装置と、請求項1又は請求項2に記載の免震装置である第2免震装置と、を含む免震装置システムであって、
前記第1免震装置の上沓は、平面視にて前記第1免震装置の前記柱より大きく、
前記第2免震装置の上沓は、平面視にて前記第2免震装置の前記柱より小さい、
ことを特徴とする免震装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置および免震装置を含む免震装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震のエネルギーを受け流し、建物への揺れの伝わりを低減する免震装置では、免震装置を適切に作動させるために免震装置にかかる荷重を免震装置が対応可能な面圧(基準面圧)以下に調整する調整手段を設ける場合がある。例えば、特許文献1には、基準面圧が異なる二つの免震装置の間に調整手段を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免震装置の中でも球面滑り支承は他の免震装置と比較して高い面圧の荷重を支持することが可能なものとして知られている。建物の躯体をなす柱の直下に免震装置として球面滑り支承を配置する場合、スライダーが摺動面上を移動するため、摺動面の任意位置においても柱の荷重を免震装置に伝達できる調整手段とする必要がある。
【0005】
従来、建物が例えば鉄骨造(S造)の場合、仕口部より下側にリブプレートを複数設けることで、柱の荷重を免震装置に伝達する構造としていた。しかしながら、この構造では限られた空間で溶接作業を行う必要があるため製作性が悪いという課題があった。このように、摺動面の任意位置においても柱の荷重を免震装置に伝達できる調整手段は設計が難しく、設計を容易とすることができる構造が望まれている。
【0006】
本発明は、柱が受ける荷重を球面滑り支承に伝達する手段を有する免震装置において、より容易に設計できる免震装置および免震装置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の一態様に係る免震装置は、スライダーを有する球面滑り支承と、CFT柱と、を備える免震装置であって、前記CFT柱の上面は柱に接続され、前記CFT柱の下面は前記球面滑り支承に接続される、ことを特徴とする。
【0008】
[2]上記[1]において、前記CFT柱は、平面視にて円形であり、平面視における前記CFT柱の直径は、前記球面滑り支承の摺動面の直径と略同一であることが好ましい。
【0009】
[3]上記[1]又は[2]において、前記柱は、S造の柱、又は、CFT柱であることが好ましい。
【0010】
[4]上記[1]又は[2]において、前記CFT柱の下面は、アンカープレートを介し、前記球面滑り支承に接続されることが好ましい。
【0011】
[5]本発明の一態様に係る免震装置システムは、上記[1]又は[2]に記載の免震装置である第1免震装置と、上記[1]又は[2]に記載の免震装置である第2免震装置と、を含む免震装置システムであって、前記第1免震装置の上沓は、平面視にて前記第1免震装置の前記柱より大きく、前記第2免震装置の上沓は、平面視にて前記第2免震装置の前記柱より小さい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柱が受ける荷重を球面滑り支承に伝達する手段を有する免震装置を、より容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る免震装置の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る免震装置の断面図であって、上沓と下沓とが水平方向に相対移動した状態を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る免震装置システムの正面図である。
【
図5】シングルペンデュラムの球面滑り支承の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る免震装置1の断面図である。
図1に示すように、免震装置1は、建物の躯体をなして上下方向に延在する柱Pと地盤との間に配置される。免震装置1が配置されていることにより、地盤と建物とが切り離され、地震の揺れが建物に伝わりにくくなる。
【0015】
本実施形態の建物は、S造(鉄骨造)であり、構造上の主要な部分に鉄骨を用いた構造である。建物の躯体をなす複数の柱のうち少なくとも一部の柱Pは、S造の柱である。免震装置1は、S造の柱Pと地盤の上に設けられた基礎構造BCとの間に配置されている。
【0016】
免震装置1は、柱Pを支持するCFT柱20と、CFT柱20を支持し、基礎構造BCの上に配置された球面滑り支承10とを備える。
球面滑り支承10は、ダブルペンデュラムの球面滑り支承であり、上沓11(上部コンケイブプレート)と、下沓12(下部コンケイブプレート)と、上沓11と下沓12との間を摺動するスライダー13とを有する。
【0017】
上沓11と下沓12とは同形状をなし、平面視にて矩形状をなす板材である。上沓11と下沓12とは溶接構造用圧延鋼材(SM490A、B、C)、建築構造用圧延鋼材(SN490B、C)、もしくは機械構造用炭素鋼鋼材(S45C)等から形成されている。上沓11の下面と下沓12の上面にはそれぞれ、曲率を有する上摺動面11a及び下摺動面12aが設けられている。上摺動面11aと下摺動面12aとは、ステンレス製の滑り板である。上沓11と下沓12には、滑り板の外周において、スライダー13の脱落を防止するための平面視環状のストッパーリング14が固定されている。
【0018】
スライダー13は、曲率を有する上下の摺動面を備え、略円柱状を呈している。スライダー13は、溶接構造用圧延鋼材(SM490A、B、C)、建築構造用圧延鋼材(SN490B、C)、機械構造用炭素鋼鋼材(S45C)、もしくはステンレス鋼等から形成され、面圧235N/mm2(235MPa)程度の耐荷強度(長期耐荷強度:面圧60N/mm2)を有している。本実施形態において、スライダー13の外径は、150~600mmであり、例えば200mmである。
【0019】
CFT(Concrete Filled Steel Tube、コンクリート充填鋼管構造)柱20は、柱Pと免震装置1の取り合い部において、柱Pが受ける荷重を球面滑り支承10に伝達する応力伝達装置として機能する。
図1および
図2に示すように、CFT柱20は、平面視にて円形の鋼管21と、鋼管21の内部に充填されたコンクリート22とを有する。すなわち、CFT柱20は、その軸線が上下方向に延びる鋼管21に、例えばフレキシブルホース等を用いてコンクリート22を流し込んで柱にした構造である。
本実施形態のCFT柱20は円柱状をなし、平面視における直径は、球面滑り支承10の上沓11の上摺動面11aの直径と略同一である。CFT柱20の平面視における直径は、上摺動面11aの直径の0.8倍以上1.2倍以下とすることが好ましい。本実施形態のCFT柱20の直径は、例えば1320.8mmであり、上摺動面11aの直径は、例えば1320mm又は1270mmである。鋼管21は、一般構造用炭素鋼鋼管(SKK400、STK490)、建築構造用炭素鋼鋼管(STKN490)、もしくは鋼管杭(SKK400、SKK490)等から形成されている。
【0020】
本実施形態のCFT柱20は円柱状をなすが、これに限ることはなく、平面視にて、上沓11(下沓12)の上摺動面11a(下摺動面12a)全体を覆うことができるのであれば、角柱状のCFT柱の採用も可能である。
また、本実施形態のCFT柱20の平面視における直径はストッパーリング14の直径よりもやや大きいが、CFT柱20の平面視における直径はストッパーリング14の直径より小さくてもよい。
【0021】
CFT柱20の下面は、アンカープレート32を介し、球面滑り支承10に接続されている。具体的には、CFT柱20を構成する鋼管21の下端がアンカープレート32の上面に例えば溶接により接合され、アンカープレート32と球面滑り支承10の上沓11とがアンカーボルトにより締結されている。アンカープレート32は、例えば溶接構造用圧延鋼材(SM490A、B、C)、もしくは建築構造用圧延鋼材(SN490B、C)により形成することができる。
アンカープレート32の板厚は、上沓11の最も薄い板厚を加えた厚さの中で、スライダー13に作用する面圧(長期耐荷強度で面圧60N/mm2)が鋼材内で応力分散・伝達されるとして、充填コンクリートの長期許容支圧応力度以下となるように設定(プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説(日本建築学会)等に準拠)することが好ましい。
【0022】
CFT柱20の上面は、ダイアフラム31を介し、柱Pに接続されている。ダイアフラム31は、CFT柱20を構成する鋼管21を塞ぐように鋼管21の上端に接合されている。ダイアフラム31の板厚は、鋼管21の板厚と同等以上、かつ取り付く梁フランジの2サイズ以上の板厚することができる。ダイアフラム31は、例えば溶接構造用圧延鋼材(SM490A、B、C)、もしくは建築構造用圧延鋼材(SN490B、C)により形成することができる。
【0023】
また、免震装置1は、平面視において、球面滑り支承10の上沓11の上摺動面11aの内側に柱Pが含まれるように構成されている。換言すれば、球面滑り支承10は、上摺動面11aの直径が柱Pの直径よりも大きいものが選択される。
【0024】
本実施形態においては、基礎構造BCの上面に設けられたベースプレート33と下沓12とが相対移動しないように固定されている。ベースプレート33は溶接構造用圧延鋼材(SM490A、B、C)、もしくは建築構造用圧延鋼材(SN490B、C)等で形成されている。
【0025】
図3に示すように、スライダー13が上沓11と下沓12との間を摺動することで、上沓11と下沓12とは水平方向に相対移動が可能である。これにより、地震動による地盤の振動が下沓12に伝達された時、下沓12が上沓11に対して相対移動する。このような動きをすることで、地震動による地盤の振動が上沓11を介して柱Pに伝達されることを防ぐ。
【0026】
上記実施形態の免震装置1では、柱Pと免震装置1の取り合い部において、柱Pが受ける荷重を球面滑り支承10に伝達する応力伝達装置としてCFT柱20を採用した。よって、上記実施形態の免震装置1によれば、例えば柱の周囲にリブプレートを複数設ける構造の応力伝達装置と比較して、より容易に設計することができる。また、製造も容易となるため、経済性の向上を図ることができる。また、鋼管21が膨張するコンクリート22を拘束するコンファインド効果によって、コンクリートの耐力を増強することができる。
【0027】
また、CFT柱20が平面視にて円形であり、直径を球面滑り支承10の上沓11の上摺動面11aの直径と略同一とすることによって、CFT柱20の大きさを過剰にすることなく、球面滑り支承に適した応力伝達装置として機能させることができる。また、球面滑り支承10の摺動面におけるスライダー13の位置によらず、CFT柱20の上面に接続される柱Pが受ける荷重をスライダー13に集約して伝えることができる。これにより、スライダー13が任意位置にあっても、例えば、球面滑り支承10の上摺動面11aの端部にスライダー13が位置する場合であっても、柱Pが受ける荷重をスライダー13に伝達することができる。
【0028】
また、柱Pが、S造であることによって、柱が受ける荷重を、CFT柱を介して集約して球面滑り支承に伝達する構造をより容易に製造することができる。
また、CFT柱20の下面が、アンカープレート32を介して球面滑り支承10に接続されていることによって、CFT柱20と球面滑り支承10とが水平方向にずれにくくなり、球面滑り支承10に対してCFT柱20をより確実に接続することができる。
また、CFT柱20の上面が、ダイアフラム31を介して柱Pに接続されていることによって、ダイアフラム31をCFT柱20の鋼管21の内部に打設されたコンクリート22の蓋として機能させることができる。
【0029】
次に、上記免震装置を含む免震装置システムについて説明する。
図4に示すように、免震装置システム100は、複数の免震装置1A,1Bを含むシステムであって地盤と建物Cとの間に配置される。具体的には、複数の免震装置1A,1Bは、建物Cの躯体をなす複数の柱P1,P2と、地盤の上に設けられた基礎構造BCとの間に配置されている。
【0030】
複数の免震装置1A,1Bは、上記実施形態の免震装置である第1免震装置1Aと、上記実施形態の免震装置である第2免震装置1Bとを含む。すなわち、第1免震装置1A、第2免震装置1Bは、球面滑り支承10と、上面が柱P1,P2に接続され下面が球面滑り支承10に接続されたCFT柱20と、を備える。
【0031】
建物Cの柱は、第1免震装置1Aに支持される第1柱P1と、第1柱P1の直径よりも大きな直径であり、第2免震装置1Bに支持される第2柱P2とからなる。本実施形態の免震装置システム100の第1柱P1の直径は、第1免震装置1Aを構成する球面滑り支承10の上摺動面11aの直径よりも小さく、第2柱P2の直径は、第2免震装置1Bを構成する球面滑り支承10の上摺動面11aの直径よりも大きい。すなわち、第1免震装置1Aを構成する球面滑り支承10の上摺動面11aは、平面視で、第1柱P1より大きく、第2免震装置1Bを構成する球面滑り支承10の上摺動面11aは、平面視で、第2柱P2より小さい。
【0032】
このように、免震装置によって支持される柱については、直径が異なっていてもよい。より具体的には、一部の柱の直径が、免震装置を構成する球面滑り支承の摺動面の直径よりも大きくてもよい。
設計者は、一部の免震装置が支持する柱の直径が免震装置を構成する球面滑り支承の摺動面の直径よりも大きい場合も、免震装置の設計を同じにしてよい。免震装置の設計を同じにすることによって、設計作業を短縮して設計に掛かるコストを低減することができる。
【0033】
なお、上記各実施形態では、免震装置1として、ダブルペンデュラムの球面滑り支承10を採用したが、これに限ることはなく、シングルペンデュラムの球面滑り支承の採用も可能である。
図5に示すように、シングルペンデュラムの球面滑り支承10Aは、ベースプレート33と、ベースプレート33上に配置されたヒンジ16と、ヒンジ16に支持されたスライダー13Aと、上沓11と、を有する。
スライダー13Aは、上沓11の摺動面の球面半径と対応する球面と、ヒンジ16の球面半径と対応する球面とを有する。摺動面をスライダーは摺動する。スライダーの回転に対応するようにヒンジは関節機能を有する。
【0034】
また、本実施形態の建物の柱PはS造の柱としたが、CFT柱としてもよい。建物の躯体をなす柱をCFT柱とすることによって、コンファインド効果によって、コンクリートの耐力を増強することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…免震装置、1A…第1免震装置、1B…第2免震装置、10…球面滑り支承、11…上沓、11a…上摺動面、12…下沓、12a…下摺動面、13…スライダー、14…ストッパーリング、20…CFT柱、21…鋼管、22…コンクリート、31…ダイアフラム、32…アンカープレート、100…免震装置システム、BC…基礎構造、C…建物、P…柱、P1…第1柱、P2…第2柱。
【要約】
【課題】柱が受ける荷重を球面滑り支承に伝達する手段を有する免震装置を、より容易に設計する。
【解決手段】スライダーを有する球面滑り支承10と、CFT柱20と、を備える免震装置1であって、CFT柱20の上面は柱Pに接続され、CFT柱20の下面は球面滑り支承10に接続される免震装置1を提供する。
【選択図】
図1