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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】セキュリティ機能の印刷
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240521BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019570933
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018066416
(87)【国際公開番号】W WO2019002046
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】17177904.4
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】マルティーニ, ティボー
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】清水 康司
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520170(JP,A)
【文献】特表2012-531496(JP,A)
【文献】特開2007-46034(JP,A)
【文献】特開2002-86889(JP,A)
【文献】特開2009-209316(JP,A)
【文献】特開2016-22583(JP,A)
【文献】特表2004-519536(JP,A)
【文献】特表2005-509717(JP,A)
【文献】特開昭64-60671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/00
B41J2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セキュリティ機能を媒体に印刷する方法であって、
1種又は複数の顔料を含むインクをインクジェット印刷するステップを備え、
少なくとも1種の顔料が、式
【数1】

を満たし、
式中、
Δρは顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは温度であり、
前記顔料粒子直径D90はμm~50μmであり、前記顔料粒子の密度が5000~10000kg/mであり、前記インクビヒクルの密度が800~1300kg/mであり、
前記インクは、1000s-1及び25℃で30mPa・s未満の粘度を有し、
前記インクのインクジェット印刷は、フレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造によって行われ、
印刷は、1種又は複数のセキュリティ機能を前記媒体に付与するように行われ、
前記少なくとも1種の顔料が蛍光体を含まない、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の顔料がセキュリティ顔料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セキュリティ機能が、QRコード、バーコード、英数字記号、顕在的な機能、半顕在的な機能、及び/又はニス塗り区域を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の顔料が、磁性顔料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記媒体が、紙又は他の繊維質材料、紙含有材料、ガラス、金属、セラミック、ポリマー、金属化ポリマー、複合材料、及びこれらの混合物又は組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記媒体が、インク受容層を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法によるセキュリティ機能を印刷するための印刷システムであって、
インクを印刷するためのフレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造、及び
1種又は複数の顔料を含むインク
を備え、
少なくとも1種の顔料が、式
【数2】

を満たし、
式中、
Δρは顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは温度であり、
前記顔料粒子直径D90はμm~50μmであり、前記顔料粒子の密度が5000~10000kg/mであり、前記インクビヒクルの密度が800~1300kg/mであり、
前記インクは、1000s-1及び25℃で30mPa・s未満の粘度を有し、
前記少なくとも1種の顔料が蛍光体を含まない、印刷システム。
【請求項8】
前記セキュリティ機能が、QRコード、バーコード、英数字記号及び/又はニス塗り区域を含む、請求項7に記載の印刷システム。
【請求項9】
前記少なくとも1種の顔料がセキュリティ顔料を含む、請求項7又は8に記載の印刷システム。
【請求項10】
前記少なくとも1種の顔料が、磁性顔料である、請求項7~9のいずれか一項に記載の印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、セキュリティ機能を印刷する方法及びシステムに関する。
【関連技術の説明】
【0002】
カラーコピー及びカラー印刷の品質が絶え間なく向上するのに伴い、銀行券、有価文書又はカード、輸送機関チケット、税金票及び製品ラベルなどのセキュリティ文書を、偽造、改ざん又は違法複製に対して保護する試みにおいて、セキュリティ文書に様々なセキュリティ機能を組み込むことが知られている。セキュリティ機能の典型的な例としては、セキュリティスレッド又はストライプ、ウィンドウ、ファイバー、プランシェット、箔、デカール、ホログラム、透かし、並びにセキュリティインクを用いて印刷されたセキュリティ機能が挙げられる。前記セキュリティインクは、磁気特性、IR吸収特性、光学的可変特性、偏光特性、発光特性、導電特性及びこれらの組み合わせなどの特有の特性を、印刷されたセキュリティ機能に与えることができる選択された化合物を含む。
【0003】
セキュリティインク中の化合物は、通常、以下の要件のうちの1つ以上を満たすべきである。
化学薬品(洗濯化学薬品など)及び汚染された空気に対する高度な耐性
損耗に対する高度な耐性(例えば銀行券の流通に耐える)
経時的に一定の信号強度(例えば発光性、導電性又は磁性化合物)
素人目で容易に観察可能であり経時的に分解しない色変化(光学的可変顔料)
【0004】
これらの要件を満たすために、前記化合物が、顔料、すなわちインクのマトリックス中で非常に低い溶解度を示す粒子の形態で使用され、粒径、粒径分布又はモルフォロジーなどの特有の固体特性を特徴とすることが有利であり得る。そのような顔料は、通常、かなり大きな粒径、典型的にはマイクロメートル範囲の粒径、並びに広い粒径分布(レーザー回折又は示差沈降分析などの周知の測定方法を使用して得られる、顔料のD50又はD90の値によって特性評価される)を示す。
【0005】
前記顔料のうちの1種又は複数を含有するセキュリティインクを印刷する、当業界で知られている印刷方法は、例えばオフセット印刷、スクリーン印刷、輪転グラビア印刷、フレキソ印刷及び凹版印刷である。
【0006】
オフセット印刷は、印刷版からブランケットに粘性のある(又はペースト状の)インクを転写し、次いで、物品又は基材にインクを塗布することを特徴とする方法である。従来のオフセット印刷方法において、印刷版は、インクが付けられる前に、通常、水又は湿し水を用いて湿らされる。そのような従来の方法において、水は、印刷版の親水性領域(すなわち非画像領域)に膜を形成するが、撥水領域(すなわち画像領域)ではごく小さい小滴に収縮する。インクが付けられたローラーが湿った印刷版を通過すると、水膜が覆った領域にインクを付けることができないが、しかし、撥水領域の小滴を押しやり、インクが付く。ドライオフセット印刷は、当業界でオフセット活版印刷又はレターセット印刷とも称され、活版印刷及び平版印刷の両方の特色を組み合わせている。そのような方法において、画像は、活版印刷のように突起しているが、基材に印刷する前にゴムブランケットへオフセットされる。
【0007】
スクリーン印刷は、ファインメッシュ/多孔性布及び/又は金属で支持されたステンシルを通して液体インクが表面へ転写されるステンシルプロセスである。スクリーン印刷は、例えばThe Printing ink manual、R.H.Leach及びR.J.Pierce、Springer Edition、第5版、58~62頁及びPrinting Technology、J.M.Adams及びP.A.Dolin、Delmar Thomson Learning、第5版、293~328頁にさらに記載されている。
【0008】
輪転グラビア/グラビアは、画素が、シリンダー、多くの場合、金属シリンダーの表面に彫刻された印刷方法である。印刷前に、前記シリンダーの表面全体にインクが付けられ、液体インクであふれさせる。過剰のインクは、印刷の前にワイパー又はブレードによって非画像領域から除去され、その結果、インクは、シリンダーの彫刻に対応するセル中にのみ残存する。画像は、圧力によって、及び基材とインクの間の密着力によってセルから基材に転写される。
【0009】
フレキソ印刷は、ドクターブレード、好ましくはチャンバードクターブレード、アニロックスローラー及び版シリンダーを有するユニットを使用するのが好ましく、版シリンダーは、基材へ転写される画素を保持する。アニロックスローラーは液体インクで満たされた小さなセルを有することが有利であり、その体積及び/又は密度がインク塗布割合を決定する。ドクターブレードは、アニロックスローラーに接して存在し、同時に余分のインクをこすり取る。アニロックスローラーは版シリンダーへインクを転写し、版シリンダーが最終的に基材へインクを転写する。版シリンダーはポリマー又はエラストマー材料から作製することができる。
【0010】
凹版印刷は、当業界で、彫刻銅版印刷、彫刻スチールダイ印刷とも称される。凹版印刷方法中、印刷されるパターン又は画像が彫刻された版を保持する彫刻スチールシリンダーに、1つ又は複数のインク付けシリンダー(又はシャブロンシリンダー)から来る粘性のある(又はペースト状の)インクが供給され、各インク付けシリンダーは、セキュリティ機能を形成する少なくとも1つの対応する色にインク付けされる。インク付けに続いて、凹版印刷版の表面の前記ペースト状のインクの過剰分は、例えばポリマーのロールなどの回転する拭き取りシリンダーで拭き取られる。印刷シリンダーの彫刻内に残存するインクは、印刷される基材に圧力下で転写され、その間、拭き取りシリンダーが拭き取り溶液によって浄化される。紙での拭き取り又はティッシュペーパーでの拭き取り(「キャラコ」)などの他の拭き取り技法も使用することができる。拭き取りステップに続いて、インク付けされた凹版は基材と接触させられ、インクは、凹版印刷版の彫刻から、印刷されることになる基材に圧力下で転写され、厚い盛り上がった線の印刷パターンを基材に形成する。凹版印刷は、例えば、The Printing ink manual、R.H.Leach及びR.J.Pierce、Springer Edition、第5版、74頁及びOptical Document Security、R.L.van Renesse、2005年、第3版、115~117頁にさらに記載されている。
【0011】
これらの公知の印刷方法はすべて、基材に転写されるデザインを保持するマスターロール(例えば、凹版印刷方法の彫刻スチールダイ、又は輪転グラビア印刷方法の彫刻金属シリンダーなど)の時間がかかる高価な製作を必要とする。したがって、これらは、低コスト、汎用性及び容易な可変性に欠如している。
【概要】
【0012】
本発明の一態様によると、1種又は複数の顔料を含むインクをインクジェット印刷するステップを備える、セキュリティ機能を媒体に印刷する方法であって、少なくとも1種の顔料が、式
【数1】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは絶対温度であり、
インクのインクジェット印刷は、フレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造によって行われ、印刷は、1種又は複数のセキュリティ機能を媒体に付与するように行われる、方法が提供される。
【0013】
さらに、前述の方法に従ってセキュリティ機能を印刷するための印刷システムであって、インクを印刷するためのフレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造、及び、1種又は複数の顔料を含むインクを備え、少なくとも1種の顔料が、式
【数2】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは絶対温度である、
印刷システムが提供される。
【詳細な説明】
【0014】
本発明は、より良好な理解のために例示の実施形態として説明される。
【0015】
本発明に係るセキュリティ機能を媒体に印刷する方法は、1種又は複数の顔料を含むインクをインクジェット印刷するステップを備え、少なくとも1種の顔料が、式
【数3】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数(9.81m/s)であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数(1.381×10-23J/K)であり、及び
Tは絶対温度であり、
インクのインクジェット印刷は、フレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造によって行われ、印刷は、1種又は複数のセキュリティ機能を媒体に付与するように行われる。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「顔料」は、インク媒体中で低い乃至は非常に低い溶解度を有する複数の粒子を指し、それらの形状(針状、薄片、球体など)、寸法及び粒度分布(D50、D90など)、固体状態の特性(磁性、可視及びNIR吸収、発光など)、及び/又はそれらの固体の性質に関係した他の特性を特徴とする。
【0017】
本発明によれば、上記のそれらの特性が異なってよい前記1種又は複数の顔料が、インク中に存在してもよい。
【0018】
上記の式(例えば、Sedimentation, Peclet number, and hydrodynamic screening、K.Benes、P.Tong及びB.J.Ackerson、Physical Review E 76、056302(2007年)に記載されているように、いわゆるペクレ数に基づく)は、流体中の粒子の沈降エネルギーEsedと、ブラウン運動による熱エネルギーEthermの間の比として解釈することができ、
【数4】

式中、Esedは、重力場gにおいて粒子の半径に等しい距離a、流体中で沈降したとき質量mの粒子によって獲得されるエネルギーを表し:
【数5】

式中、mは、粒子によって置き換えられた流体の質量である。
【0019】
置き換えられた流体の体積が粒子Vの体積と等しいので、沈降エネルギーは、
【数6】

となり、式中、Δρは、粒子と流体との間の密度差である。粒子が半径aの球形状粒子に近似される場合、上記の表現は
【数7】

となる。
【0020】
therm(ブラウン運動によって得られるエネルギー)は、
【数8】

によって表現され、式中、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度である。
【0021】
上記のペクレ数Peは、
【数9】

となる。
【0022】
粒径測定から得られる顔料粒子の直径d=2aが使用される場合、式は
【数10】

となる。
【0023】
この場合、Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差である。ペクレ数が1より大きい場合、それは、インクビヒクル中の顔料粒子の運動が、ブラウン運動によるものより、沈降によって支配されるということを意味する。ペクレ数が1よりはるかに大きい場合、それは、粒子運動が、沈降によってもっぱら支配されるということを意味する。
【0024】
プリントヘッドのノズルの沈降及び詰まりは、主としてインク中に存在する最も大きな粒子のために起こる。したがって、粒子直径D90は、定義によって、インク中に存在する顔料粒子の90%が、D90の値より小さいか等しいので、粒子直径dとして使用されている。1種又は複数の顔料の粒子直径D90(並びにメジアン粒径D50)は、レーザー回折又は示差沈降などの当業界で周知の測定法を使用して測定される。レーザー回折測定はISO 13320に従って実行されるが、示差沈降測定はISO 13318に従って実行される。
【0025】
記載されるように、インクジェット印刷は、フレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造の使用により行われる。そのような構造は、一般的な種類のインクジェットプリントヘッドにあたり、当業界で公知である。
【0026】
通常、フレックステンショナルトランスデューサーは、本体又は基材、画定されたオリフィスを有する可撓性の膜、及びアクチュエーターを含む。基体は、流動性材料の供給を保持するための貯蔵器を画定し、可撓性の膜は、基体が支持するに周囲縁を有する。アクチュエーターは、圧電性であっても(すなわち、それは、電圧が印加されるとき変形する圧電材料を含む)、又は、熱的活性化のいずれでもよく、例えば米国特許第8,226,213号に記載されている。したがって、アクチュエーターの材料が変形すると、可撓性の膜が曲がるので、ある量の流動性材料が、貯蔵器からオリフィスを通って排出される。
【0027】
例えば、Stanford Universityからの米国特許第5,828,394号は、フレックステンショナルプリントヘッド構造を記載している。ノズルを画定するオリフィスを有する薄い弾性膜、及びノズルから流体の液滴を排出するために膜を曲げる電気信号に応答する要素を含む1つの壁を含む流体エジェクターが開示されている。
【0028】
フレックステンショナルプリントヘッド構造についての別の例は、米国特許第6,394,363号に記載されている。このデバイスは、例えば、ノズルを組み込んだ表面層の励起を利用し、このノズルは、アドレス指定能力を有しながら1つの表面層に配置されて、液体噴射アレイを形成しており、様々な広範囲の液体をもって、高周波数で作動させることが可能である。
【0029】
なお別の例は、米国特許第9,517,622号において見いだすことができ、ノズルが膜部材中に形成された液体保持ユニット中で保持された液体を排出するよう、振動するように構成された膜部材を含む液体小滴形成機器を記載している。さらに膜部材を振動させる振動ユニット、並びに、排出波形及び撹拌波形を振動ユニットへ選択的に印加する駆動ユニットが提供される。
【0030】
米国特許第8,226,213号は、パッシブビームにアクティブビームを融合させた熱屈曲アクチュエーターを始動させる方法を記載している。上記の方法は、アクティブビームに電流を通し、パッシブビームに対してアクティブビームの熱弾性膨張及びアクチュエーターの屈曲を引き起こすことを含む。0.2μs以下の短い始動パルスが、液滴形成の引き金に用いられる。
【0031】
上記のフレックステンショナルプリントヘッド構造は、単なる例示であり、これに限定されると理解されるべきではない。他のすべてのフレックステンショナルプリントヘッド構造又はいくつかのプリントヘッド構造さえも、本発明に従って使用することができる。
【0032】
フレックステンショナルプリントヘッドは、一般に、インクジェットプリントヘッドとしての利点を有し、接触しない方法で、比較的高速で印刷を行うことができ、印刷方法は非常に融通性があり、印刷されるパターンは容易に変更可能である。特に各単一の印刷されたアイテムのために印刷されたパターンを注文生産する実現性(例えば銀行券又はパスポートのフロントページ)が注目される。
【0033】
本明細書において上に言及したように、本明細書に記載される本発明に従って使用される顔料は、一般に、大きな粒径及び/又は高密度を有するので、インク中で沈降し易くなる。驚くべきことに、フレックステンショナルプリントヘッド構造を使用すると、粒子は、沈殿するのではなく、むしろその代わりにインク中で分散を保つ傾向があることが分かった。
【0034】
このようなフレックステンショナルプリントヘッドを使用して印刷されてもよい、本発明のセキュリティインク組成物の好ましい実施形態によるインク組成物は、低粘度水性インク、低粘度溶媒系インク、低粘度の放射線硬化性インク及び低粘度二重硬化インクからなる群から選択される。
【0035】
上記の説明による低粘度とは、本発明に従って記載される印刷方法を使用して印刷されることが適切なインクの粘度が、コーン-プレーン幾何形状及び40mmの直径を有する、TA Instrumentsからの回転粘度計DHR-2を使用して、25℃で求めた場合、1000s-1及び25℃で約30mPas未満でなければならないと規定するべきであり、約25mPas未満が好ましく、約20mPas未満がより一層好ましい。
【0036】
低粘度水性(又は水系)インク、好ましくは本明細書において記載される印刷方法に適切なセキュリティインクは、好ましい実施形態によると、水、1種又は複数の樹脂、1種又は複数の湿潤剤、1種又は複数の界面活性剤、1種又は複数のセキュリティ顔料及び1種又は複数の添加剤を含んでもよい。それらの一般的な組成は以下の表に示される。
【表1】
【0037】
1種又は複数の樹脂は、水溶性及び/又は水分散性樹脂であってもよい。水溶性樹脂には、例えば陰イオン性ポリアクリラート、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、改質デンプン、セルロースエステル又はエーテル(酢酸セルロース及びカルボキシメチルセルロースなど)、並びにコポリマー及びこれらの組み合わせが含まれる。水分散性樹脂には、例えばビニルコポリマー分散液、アクリル分散液、ポリウレタン分散液、アクリル-ポリウレタン分散液などが含まれる。上記の分散液は、多くの場合「ラテックス」分散液と称され、対応するインクはラテックスインクジェットインクと称される。
【0038】
1種又は複数の樹脂の役割は、通常、インク中で顔料粒子のコロイド安定性を高め、基材へのインク層の密着性を与えるのみならず、機械的特性及び耐薬品性を改善することである。
【0039】
1種又は複数の湿潤剤は、インク中で顔料の分散を高め、一旦顔料粒子が分散すれば、再凝集及び沈降を回避することができる。
【0040】
1種又は複数の界面活性剤は、とりわけ、インクの静的表面張力を下げるために使用され、基材の良好な濡れ及びインクの吐出で良好な液滴形成を確実にするためには、約40mN/m未満でなければならず、約35mN/m未満が好ましく、約30mN/m未満がより好ましく、25mN/m未満がさらにより好ましい。静的表面張力は、Wilhelmyプレートを備えた張力計を使用して測定される。
【0041】
1種又は複数の添加剤は、防腐剤、湿潤剤(グリセリンなど)、共溶媒(エチレングリコール又は他のグリコールなど)、消泡剤、充填剤(焼成シリカなど)は、pH制御剤及び標準着色顔料を含んでもよい。それらはまた法医学マーカー及び/又はタガントを含んでもよい。
【0042】
インクビヒクル(すなわち1種又は複数の顔料以外のインクのすべての成分)の密度は、本質的にインク中に含有される水の量に依存し、すなわち、それは約1000kg/m~約1100kg/mの間にある。
【0043】
所望の基材及び/又は媒体に印刷されたら、インク中に含有される水は、基材又は媒体それぞれに一部吸収され、熱風トンネル及び/又は赤外線加熱器を使用して部分的に蒸発させられる。
【0044】
インクビヒクル(水)の少なくとも一部は基材に吸収されなければならないので、前記基材は、多孔性材料で作製された基材、及び専用のインク受容層を含む基材からなる群から選ばれるのが好ましい。
【0045】
多孔性材料で作製された基材には、典型的には、紙又は他の繊維質材料(織物及び不織繊維質材料を含む)、並びに複合材料が含まれる。典型的な紙、紙状又は他の繊維質材料は、マニラ麻、綿、リネン、木材パルプ及びこれらのブレンドを含むがこれらに限定されない様々な繊維から作製される。当業者に周知のように、木材パルプが一般に非銀行券セキュリティ文書に使用されているが、綿及び綿/リネンのブレンドは銀行券用に好ましい。複合材料の典型的な例は、少なくとも1つのプラスチック又はポリマー最下層、及び少なくとも1つの紙の最上層で作製された多層構造又は積層体(Landqartからのデュラセーフ(Durasafe)(登録商標)など、2つの綿紙層の間に挟んだポリアミド層を特色とする)、並びに本明細書において上記に記載されたものなどの紙状又は繊維質材料中に組み込まれたプラスチック及び/又はポリマー繊維を含む。
【0046】
専用のインク受容層を含む基材は、多孔性若しくは非多孔性材料、又はこれらのブレンド若しくは組み合わせで作製された少なくとも1つの最下層、及び多孔性材料を含む少なくとも1つの最上層で作製されている。少なくとも1つの最下層が多孔性材料で作製されている場合、前記多孔性材料は本明細書において上に記載されるのと同じものである。それが非多孔性材料で作製されている場合、前記非多孔性材料には、ガラス、金属、セラミック、プラスチック及びポリマー、金属化プラスチック又はポリマーが含まれる。プラスチック及びポリマーの典型的な例には、二軸配向ポリプロピレン(BOPP)を含むポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリ(エチレンテレフタラート)(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート(PBT)、ポリ(エチレン2,6-ナフトア-ト)(PEN)などのポリエステル、及びポリ塩化ビニル(PVC)が含まれる。商標タイベック(Tyvek)(登録商標)の下に販売されているものなどのSpunbondオレフィン繊維もまた基材として使用されてもよい。金属化プラスチック又はポリマーの典型的な例は、その表面に金属を連続的に又は不連続的に配置した、本明細書において上に記載されたプラスチック又はポリマーの材料を含む。金属の典型的な例は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、これらの合金及び前述の金属の2種以上の組み合わせを含むがこれらに限定されない。本明細書において上に記載されたプラスチック又はポリマーの材料の金属化は、電着プロセスによって、高真空蒸着プロセス又はスパッタリングプロセスによって行われてもよい。
【0047】
インク受容性の最上層は、通常、印刷又はコーティングによって別個のステップで最下層に加えられる。それは、インク中に含有される水の吸収を目的とした多孔性粒子、1種又は複数の結合剤、及び任意選択の添加剤、又は水を吸収しインク液滴の衝突で膨潤するポリマーのいずれかを含有する。
【0048】
多孔性粒子には、金属酸化物、例えば、酸化アルミニウム(γ-アルミナなど)、酸化アルミニウム/水酸化アルミニウム(擬ベーマイトなど)、二酸化チタン(ルチル又はアナターゼ)、酸化亜鉛又はシリカ(フュームドシリカ又は沈降シリカ)、炭酸塩(炭酸カルシウム又は炭酸アルミニウムナトリウムなど)、ケイ酸塩(例えばケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム)、硫酸塩(硫酸バリウムなど)及びこれらの組み合わせが含まれる。インク受容層の透明性が必須である場合、低い屈折率及び小さな粒径(フュームドシリカ又は擬ベーマイトなど)を有する材料で作製された多孔性粒子の使用が好ましい。1種又は複数の結合剤は、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの誘導体、ポリビニルピロリドン及びこれらの混合物を含む。結合剤の量は、多孔性粒子の量の約5重量%~約100重量%の間にあり、約10重量%~50重量%の間にあるのが好ましく、約15重量%~約30重量%の間にあるのがより好ましい。上述のポリマーについて効果的な架橋剤として働く、当業者に公知の添加剤の1つは、ホウ酸である。
【0049】
水で膨潤するポリマーは、例えばポリビニルアルコール、改質ポリビニルアルコール、ゼラチン、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メトキシエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ポリビニル-メチルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、四級化ポリビニルピリジンなどの陽イオン性ポリマー及びこれらの組み合わせを含む。膨潤は、インクドットの固定及びインク滲みの回避を助ける。次いで、水はゆっくり蒸発し(最終的に熱風トンネルに印刷された基材を通すことにより支援される)、層厚さはその公称値(すなわち印刷前の値)に戻る。
【0050】
インクジェット印刷のために特別に生産される基材は、通常、紙又は紙状材料の少なくとも1つのコアと、紙のコアの両面の2層の非吸収性ポリマー(ポリエチレン又はPETなど)とを有する複合基材である。本明細書において上に記載されるインク吸収性の層は、基材の片面又は両面に存在してもよい。
【0051】
さらに、特定の事例において、密着性を高めるために、プライマー層が、1つ又は複数の最下層とインク受容層の間に存在してもよい。代替として、同じ目的で、1つ又は複数の最下層は、印刷の前に静電気放電(コロナ)、又はインク受容層のコーティングによって処理されてもよい。
【0052】
低粘度溶媒系インク、好ましくは本明細書において記載される印刷方法に適切なセキュリティインクは、1種又は複数の有機溶媒、1種又は複数の樹脂(又は樹脂)、1種又は複数の湿潤剤、1種又は複数のセキュリティ顔料及び1種又は複数の添加剤を含むのが好ましい。上記の一般的な組成は以下の表に示される。
【表2】
【0053】
本発明の上記の好ましい実施形態に従って使用される1種又は複数の溶媒は、例えばアルコール(エタノールなど)、ケトン(メチルエチルケトンなど)、エステル(酢酸エチル又は酢酸プロピルなど)、グリコールエーテル(DOWANOL DPMなど)又は例えばブチルグリコールアセタートなどのグリコールエーテルエステルを含む。
【0054】
溶媒系インク用の1種又は複数の樹脂には、例えばニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリアクリラート、ポリアミド、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ロジン改質フェノール樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリケトン樹脂などが含まれる。
【0055】
1種又は複数の湿潤剤は、1種又は複数の溶媒が蒸発したら、インク中の顔料粒子を安定化し、顔料粒子と樹脂マトリックスの間の相互作用を上げるために使用されるのが好ましい。
【0056】
印刷後、印刷された基材は、熱風及び/又は赤外線トンネルにさらに運ばれてよく、1種又は複数の溶媒は上記のトンネルを通過することにより蒸発させられる。1種又は複数の溶媒の蒸発と同時に、印刷された層の厚さは縮小し、1種又は複数の樹脂中に含有されるポリマーは硬化し始め、大幅な粘度の増加をもたらし、印刷された基材の安全な取り扱いを可能にする(「半硬化乾燥」状態)。よりゆっくりしたペースであるが、ポリマーマトリックスは暗所で硬化し続ける。
【0057】
1種又は複数の添加剤は、防腐剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤(焼成シリカなど)及び標準着色顔料を含んでもよい。それらはまた法医学マーカー及び/又はタガントを含んでもよい。
【0058】
インクビヒクル(すなわち1種又は複数の顔料以外のインクのすべての成分)の密度は、本質的にインク中に含有される溶媒に依存し、すなわち、それは約800kg/m~約1000kg/mの間にある。
【0059】
低粘度水性インクに関して、低粘度溶媒系インクの静的表面張力は、基材の良好な濡れ及びインクの吐出で良好な液滴形成を確実にするためには、約40mN/m未満でなければならず、約35mN/m未満が好ましく、約30mN/m未満がより好ましく、25mN/m未満がさらに一層好ましい。
【0060】
溶媒系インクの乾燥が、通常、主として1種又は複数の溶媒の蒸発によって得られるので、低粘度水性インク用の、以前に論じたような非多孔性並びに多孔性基材は、溶媒系インクと共に使用されてもよい。特定の事例において、特有のインク受容層が存在してもよい。代替として、基材は、乾燥したインク層と前記基材の間の密着性を高めるために、印刷の前に静電気放電(コロナ)によって処理されてもよい。
【0061】
低粘度の放射線硬化性インク、好ましくは、本発明のなお別の実施形態に従って使用されてもよい適切なセキュリティインクは、1種又は複数の放射線硬化性モノマー、1種又は複数の放射線硬化性オリゴマー、1種又は複数の光開始剤、1種又は複数の湿潤剤、1種又は複数のセキュリティ顔料及び1種又は複数の添加剤を含むのが好ましい。それらの一般的な組成は以下の表に示される。
【表3】
【0062】
インク組成物中で使用される1種又は複数のモノマー及び1種又は複数のオリゴマー/プレポリマーは、1種又は複数の光開始剤の機能によって、放射線を受けると重合して固化するが、それらに限定されない。例えば一官能性基、二官能性基、又は三官能性基若しくはより多官能性の基を有する様々なモノマー及びオリゴマーを使用することができる。重合は、電子線(EB)硬化又はUV硬化によって行われてもよい。重合はLED(発光ダイオード)を有するUV硬化によって行われるのが好ましく、したがって、1種又は複数の光開始剤が選ばれる。LEDの数は1に限定されず、複数のLEDが複数の発光ピーク波長を有する光を発するように使用されてもよい。
【0063】
1種又は複数の添加剤は、1種又は複数の増感剤、1種又は複数の重合阻害剤、1種又は複数の界面活性剤、並びに防腐剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤(焼成シリカなど)及び標準着色顔料を含んでもよい。それらはまた法医学マーカー及び/又はタガントを含んでもよい。
【0064】
インクビヒクル(すなわち1種又は複数の顔料以外のインクのすべての成分)の密度は、本質的にインク中に存在するモノマー/オリゴマーの混合物に依存している。それは、通常約1100kg/m~約1300kg/mの間で含まれる。
【0065】
放射線硬化性インクの利点は、乾燥が、通常、ほとんど即時であり、揮発性の成分が放出されないことである。層厚さは、硬化後、ほとんど同じであり、これらは硬化するとランダム配向を維持する傾向があるので、光学的可変顔料(OVP(登録商標))などの、基材に沿ったアライメントが必要な高アスペクト比セキュリティ顔料にとっては困難を生じることがある。
【0066】
溶媒系インクの場合のように、任意の種類の基材(多孔性、又は非多孔性)は、放射線硬化性インクと共に使用されてもよいが、これらに限定されない。基材は、硬化されたインク層と前記基材の間の密着性を高めるために、印刷の前に静電気放電(コロナ)によって処理されてもよい。
【0067】
低粘度二重硬化インク、好ましくはセキュリティインクは、本発明のなお別の実施形態に従って、放射線硬化性インクと同じ原料及び1種又は複数の溶媒を含むのが好ましい。
【表4】
【0068】
1種又は複数の溶媒は、通常、熱風トンネル及び/又は赤外線加熱器へ印刷された基材を運ぶことにより蒸発させ、次いで、インクの放射線硬化部位は、UV LEDを使用するUV硬化によって硬化されるのが好ましい。インク層は、インク中に存在する溶媒の量に応じて、いくらか縮小するので、高アスペクト比顔料は平らに配向する。
【0069】
インクビヒクル(すなわち1種又は複数の顔料以外のインクのすべての成分)の密度は、本質的に、インク中に存在するモノマー/オリゴマーの混合物、及び溶媒に依存する。それは、通常約900kg/m~約1100kg/mの間で含まれる。
【0070】
低粘度溶媒系インク及び低粘度の放射線硬化性インクの場合のように、任意の種類の基材/媒体(多孔性又は非多孔性)は、低粘度二重硬化インクと共に使用されてもよいが、これに限定されない。基材は、硬化されたインク層と前記基材の間の密着性を高めるために、印刷の前に静電気放電(コロナ)によって処理されてもよい。
【0071】
1種又は複数の顔料、好ましくは、本発明に使用されるのに適切なセキュリティ顔料は、磁気特性、IR吸収特性、光学的可変特性、偏光特性、発光特性、導電特性及びこれらの組み合わせからなる群から選択される特性を、本明細書において記載される印刷方法に従って印刷されたセキュリティインクに与えるために選ばれる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態に従って使用されることが適切な磁性顔料は、セキュリティ用途のマーキング材料として広く使用され、銀行券印刷の分野で古くから使用されて隠されたセキュリティ機能、すなわち検知及び/又は測定デバイスを使用して検知できるセキュリティ機能を印刷される通貨に与え、この場合、磁性検出器は、市中銀行によって銀行券の高速選別に使用されるものなどである。磁性顔料は、強磁性又はフェリ磁性型の特有の検知できる磁気特性を示し、永久磁性顔料(保磁度Hc>1000A/mを有する硬磁性材料で作製された)及び磁化できる顔料(IEC60404-1(2000)による保磁度Hc≦1000A/mを有する軟磁性材料で作製された)を含む。磁性材料の典型的な例には、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン及びそれらの磁性合金、カルボニル鉄、二酸化クロムCrO、酸化鉄磁性体(例えばFe、Fe)、磁性フェライトM(II)Fe(III)及びヘキサフェライトM(II)Fe(III)1219、磁性ガーネットM(III)Fe(III)12(イットリウム鉄ガーネットYFe12など)及びそれらの磁性の同形置換体及び永久磁化を有する材料(例えばCoFe)が含まれる。国際公開第2010/115986号に記載されているものなどの別の材料の少なくとも1つの層に囲まれた(コーティングされた)磁心材料を含む磁性顔料もまた本発明に使用されてもよい。
【0073】
別の実現性は、赤外線(IR)吸収性顔料、すなわち電磁スペクトルの近赤外(NIR)範囲において、最も一般的には700nm~2500nmの波長範囲で吸収する材料で作製された顔料の使用である。それらは広く公知であり、それらの認証を助ける隠されたセキュリティ要素をセキュリティ用途で印刷された文書に与えるためにマーキング材料として使用される。例えば、IR吸収特性を有するセキュリティ機能は、自動通貨処理装置によって使用する銀行券において、銀行及び販売用途(自動預金受払機、自動販売機など)において、求められる流通証券を認識しその真正性を検証するために、特にそれとカラー複写機によって作製された複製品とを識別するために実施されてきた。IR吸収性材料としては、IR吸収性無機材料、協同効果としてIR吸収を示すIR吸収性原子若しくはイオン又は構成要素を相当量含むガラス、IR吸収性有機材料、及びIR吸収性有機金属材料(個別の陽イオン及び/又は個別の配位子、或いは両方が一緒になって、IR吸収特性を有する、陽イオン(複数可)の、有機配位子との錯体)が挙げられる。IR吸収性材料の典型的な例は、とりわけ、カーボンブラック、キノン-ジイモニウム又はアミニウム塩、ポリメチン(例えば、シアニン、スクアライン、クロコナイン)、フタロシアニン又はナフタロシアニン型(IR吸収性π系)、ジチオレン、クアテリレンジイミド、金属(例えば、遷移金属又はランタニド)リン酸塩、六ホウ化ランタン、インジウムスズ酸化物、ドープしたインジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物及びドープした酸化スズ(IV)(SnO結晶の協同特性)が挙げられる。遷移元素化合物を含み、その赤外線吸収が遷移元素原子又はイオンのd殻内での電子遷移の結果であるIR吸収性材料、例えば国際公開第2007/060133号に記載されているものも、本発明に使用されてもよい。
【0074】
光学的可変顔料は、別の実施形態で使用される別の選択肢であり、視角又は入射角に依存する色を示す。光学的可変顔料は、セキュリティ用途においてマーキング材料として広く使用され、銀行券印刷の分野で古くから使用されていて、肉眼で直接観察できる顕在的なセキュリティ機能を印刷された通貨又は文書に与える。光学的可変顔料は、薄膜干渉顔料、磁性薄膜干渉顔料、干渉被覆顔料、磁性干渉コーティング顔料、光学的可変コレステリック液晶顔料、磁性コレステリック液晶顔料及びこれらの混合物からなる群から選択される。磁性薄膜干渉顔料、磁性コレステリック顔料及び磁性干渉コーティング顔料は、それらが、当業界で公知の電子手段によって感知して磁性材料を検出することができる、追加の、隠された機能を有するという、非磁性対応物に対する利点を有する。
【0075】
薄膜干渉顔料は、例えば、米国特許第4,705,300号;米国特許第4,705,356号;米国特許第4,721,271号;米国特許第5,084,351号;米国特許第5,214,530号;米国特許第5,281,480号;米国特許第5,383,995号;米国特許第5,569,535号、米国特許第5,571624号及びそれに関連する文書に開示されている。薄膜干渉顔料は、ファブリ-ペロ反射体/誘電体/吸収体多層構造を備えるのが好ましく、ファブリ-ペロ吸収体/誘電体/反射体/誘電体/吸収体多層構造を備えるのがより好ましく、ここで、吸収体層は入射光を部分的に透過し部分的に反射し、誘電体層は入射光を透過し、反射体層は入射光を反射する。反射体層は、金属、金属合金及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるのが好ましく、反射性金属、反射性金属合金及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるのが好ましく、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)及びこれらの混合物からなる群から選択されるのがより好ましく、アルミニウム(Al)であるのがなおより好ましい。誘電体層は、独立して、フッ化マグネシウム(MgF)、ケイ素二酸化物(SiO)及びこれらの混合物からなる群から選択されるのが好ましく、フッ化マグネシウム(MgF)であるのがより好ましい。吸収体層は、独立して、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、金属性合金及びこれらの混合物からなる群から選択されるのが好ましく、クロム(Cr)であるのがより好ましい。特に、Cr/MgF/Al/MgF/Cr多層構造からなる、ファブリ-ペロ吸収体/誘電体/反射体/誘電体/吸収体多層構造が好ましい。
【0076】
また別の例として、磁性薄膜干渉顔料は、当業者に公知であり、例えば、米国特許第4,838,648号;国際公開第2002/073250号;欧州特許第0686675号;国際公開第2003/000801号;米国特許第6,838,166号;国際公開第2007/131833号;欧州特許出願公開第2402401号、及びこれらに引用されている文書に開示されている。磁性薄膜干渉顔料は、5層ファブリ-ペロ多層構造を有する顔料であり、及び/又は6層ファブリ-ペロ多層構造を有する顔料であり、及び/又は7層ファブリ-ペロ多層構造を有する顔料であることが好ましい。
【0077】
好ましい5層ファブリ-ペロ多層構造は、吸収体/誘電体/反射体/誘電体/吸収体多層構造を備え、ここで反射体及び/又は吸収体も磁性層であり、反射体及び/又は吸収体は、ニッケル、鉄及び/若しくはコバルト、並びに/又はニッケル、鉄及び/若しくはコバルトを含む磁性合金、並びに/又はニッケル(Ni)、鉄(Fe)及び/若しくはコバルト(Co)を含む磁性酸化物を含む磁性層であるのが好ましい。
【0078】
好ましい6層ファブリ-ペロ多層構造は、吸収体/誘電体/反射体/磁性体/誘電体/吸収体多層構造を含む。
【0079】
好ましい7層ファブリ-ペロ多層構造は、国際公開第2002/073250号に開示されているような吸収体/誘電体/反射体/磁性体/反射体/誘電体/吸収体多層構造を含む。
【0080】
さらに、薄膜干渉顔料及び磁性薄膜干渉顔料は、印刷された通貨又は文書への追加の、隠されたセキュリティ機能を加えるためにタガントとして使用されてもよい。そのような顔料は、それらの既に記載された色シフト特性以外には、強力に拡大することによってのみ観察可能である、特有の形状及び/又は特別に設計した輪郭及び/又はロゴ又は証印を有する。そのような顔料は、例えば米国特許第7,241,489号、米国特許第9,164,575号及び米国特許第9,458,324号に記載されている。
【0081】
適切な干渉コーティング顔料としては、金属酸化物で作製された1つ又は複数の層でコーティングされた金属コア、例えば、チタン、銀、アルミニウム、銅、クロム、鉄、ゲルマニウム、モリブデン、タンタル又はニッケルからなる群から選択される基材を含む構造、並びに金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅及び酸化鉄)で作製された1つ又は複数の層でコーティングされた合成又は天然の雲母、他の層状ケイ酸塩(例えば、タルク、カオリン及びセリサイト)、ガラス(例えば、ホウケイ酸塩)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、グラファイト、並びにこれらの混合物で作製されたコアからなる構造が含まれ、上述した構造は、例えば、Chem.Rev.、99(1999年)、G.Pfaff及びP.Reynders、1963~1981頁、及び国際公開第2008/083894号に記載されている。上記の干渉コーティング顔料の典型的な例としては、限定されることなく、酸化チタン、酸化スズ及び/又は酸化鉄で作製された1つ又は複数の層でコーティングされた酸化ケイ素コア;酸化チタン、酸化ケイ素及び/又は酸化鉄で作製された1つ又は複数の層でコーティングされた天然又は合成の雲母コア、特に、酸化ケイ素及び酸化チタンで作製された交互層でコーティングされた雲母コア;酸化チタン、酸化ケイ素及び/又は酸化スズで作製された1つ又は複数の層でコーティングされたホウケイ酸塩コア;並びに酸化鉄、水酸化鉄、酸化クロム、酸化銅、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、バナジン酸ビスマス、チタン酸ニッケル、チタン酸コバルト、及び/又はアンチモンドープ、フッ素ドープ、若しくはインジウムドープ酸化スズで作製された1つ又は複数の層でコーティングされた酸化チタンコア;酸化チタン及び/又は酸化鉄で作製された1つ又は複数の層でコーティングされた酸化アルミニウムコアが含まれる。
【0082】
適切な磁性干渉コーティング顔料は、1つ又は複数の層でコーティングされたコアからなる群から選択される基材を含む構造を含むがこれらに限定されず、ここで、コアの少なくとも1つ又は1つ若しくは複数の層は磁気特性を有する。そのような顔料は、例えば欧州特許第0341002号、欧州特許第0686675号、国際公開第2010/149266号及び国際公開第2012/084097号に記載されている。欧州特許第0341002号は、光学的可変特性を有する磁性干渉コーティング顔料を開示し、基材及び多層薄膜金属誘導体干渉コーティングをそこに含み、ここで、金属誘導体干渉コーティングは、コバルトニッケル合金などの、磁気特性並びに反射特性を有する材料である反射性金属層を含む、欧州特許第0686675号は、第1の強磁性層、シリカ、アルミナ又はそれらの水和物の第2の層、金属又は金属酸化物の第3の層、及び任意選択の無色又は有色金属酸化物の第4の層でコーティングされた層状非強磁性金属性基材で作製された磁性干渉コーティング顔料を記載する。国際公開第2010/149266号は、少なくとも2つの主表面を有する透明な薄片状基材、及びマグヘマイト(γ-Fe)を含むコーティングを有する磁性干渉コーティング顔料を開示している。基材とマグヘマイト層の間及び/又は前記層の上にある任意選択の誘電体層は、顔料に光学的可変特性を与える。国際公開第2012/084097号は、国際公開第2010/149266号と類似の顔料を開示し、ここで、マグヘマイト層は、ヘマタイト(α-Fe)及び/又は針鉄鉱(α-FeO(OH))の第1の層、及び、マグネタイト(Fe)の第2の層と置き換えられ、マグネタイトで構成される層の厚さは、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層の厚さより大きい。
【0083】
本発明の別の実施形態によると、コレステリック相の液晶の特有の特性に基づくコレステリック液晶顔料を使用することができ、これは、その分子長軸に垂直な螺旋高次構造の形態の分子秩序を示す。螺旋高次構造は、液晶材料全体にわたる周期的な屈折率変調の源であり、その結果、光の所定波長の選択的透過/反射(干渉フィルター効果)をもたらす。コレステリック液晶顔料は、キラル相を含む1種又は複数の架橋性物質(ネマチック化合物)をアライメント、配向させることによって得ることができるコレステリック液晶ポリマーで作製される。ピッチ(すなわち、螺旋状配置の360°の回転が1周する距離)は、特に、温度及び溶媒濃度を含めた選択可能な要因を変動させることによって、キラル成分(複数可)の性質、及びネマチック化合物とキラル化合物の比を変更することによって調整することができる。UV放射線の影響下での架橋により、所望の螺旋状形態を固定することによって所定の状態でピッチが固まり、その結果、得られるコレステリック液晶材料の色は、温度などの外部要因にもはや依存しない。
【0084】
次いで、コレステリック液晶ポリマーは、引き続いて、ポリマーを所望の粒径に細分することによってコレステリック液晶顔料に成形されてもよい。コレステリック液晶材料から作製されるコーティング、膜及び顔料、並びにこれらの調製の例は、米国特許第5,211,877号;米国特許第5,362,315号及び米国特許第6,423,246号、欧州特許出願公開第1213338号;欧州特許出願公開第1046692号及び欧州特許出願公開第0601483号に開示されている。
【0085】
磁性コレステリック液晶顔料は、磁性単層コレステリック液晶顔料及び磁性多層コレステリック液晶顔料を含むがこれらに限定されない。そのような顔料は、例えば国際公開第2006/063926号、米国特許第6,582,781号及び米国特許第6,531,221号に開示されている。国際公開第2006/063926号は、強い輝き及び色シフト特性を有し、磁化力などの追加の特有の特性を有する、単層及びそこから得られる顔料を開示している。前記単層を細分することによりそこから得られる、開示された単層及び顔料は、3次元架橋したコレステリック液晶混合物及び磁性ナノ粒子を含む。米国特許第6,582,781号及び米国特許第6,410,130号には、配列A1/B/A2を含む小板形状コレステリック多層顔料が開示されており、A1及びA2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれは、少なくとも1つのコレステリック層を含み、Bは、層A1及びA2を透過する光のすべて又は一部を吸収する中間層であり、前記中間層に磁気特性を付与する。米国特許第6,531,221号には、配列A/B及び任意選択でCを含む小板形状コレステリック多層顔料が開示され、A及びCは、磁気特性を付与する吸収層であり、Bはコレステリック層である。
【0086】
前述の特性に加えて、コレステリック液晶顔料及び磁性コレステリック液晶顔料は、また特有の偏光特性を示すことができる。コレステリック相の液晶は、その分子長軸に垂直な螺旋高次構造の形態の分子秩序を示し、回転の向きは前記分子のキラリティーに依存する。上記の螺旋分子配置は、非偏光の入射光を円偏光に、すなわち、螺旋の回転の向きによって左螺旋又は右螺旋に円偏光する反射光に分光する特性を示すコレステリック液晶材料をもたらす。人の目は、光の偏光状態を感知することができないため、コレステリック液晶顔料を含むセキュリティ機能は、簡単な円偏光フィルター又は特別に設計された電子デバイスの使用によって観察される。
【0087】
本明細書において上に記載された光学的可変セキュリティ顔料の光学的可変特性は、電磁スペクトルの可視範囲に限定されないことが留意されるべきである。例えば顔料から得られる光学的可変セキュリティ機能は、少なくとも1つの視角で、可視光、IR(赤外線)又はUV(紫外線)範囲の選択反射帯域の異なる位置及び/又は異なるCIE(1976)色指標パラメーター、及び/又は可視範囲からIR範囲若しくはUV範囲から可視範囲への、又はUV範囲からIR範囲への色シフト特性を示し得る。
【0088】
発光性材料は、セキュリティ用途にマーカーとして使用することができる。発光性化合物は、例えば、無機系(無機母体結晶又は発光性イオンがドープされたガラス)、有機系、又は有機金属系(発光性イオン(複数可)と有機配位子(複数可)との錯体)の物質であってもよい。発光性材料は、電磁スペクトル、すなわちUV、可視及びIR範囲で特定の種類のエネルギーを吸収することができ、それらに作用し、続いて電磁放射として少なくとも部分的に上記の吸収エネルギーを発する。発光性材料は、特定の波長の光に曝露して発した光を分析することにより検出される。ダウンコンバート発光性材料は、より高周波(より短い波長)の電磁放射線を吸収し、それをより低周波(より長い波長)で少なくとも部分的に再放射する。アップコンバート発光性材料は、より低周波の電磁放射線を吸収し、より高周波で少なくとも部分的に再放射する。発光性材料の発光は、原子又は分子の励起状態から生じる。発光性材料は、以下に分類されてもよい。(i)燐光性材料、励起放射線が除去された後、時間遅延放射が観察可能である(典型的には、約1μs~約100sの崩壊寿命を有する)(ii)蛍光性材料、励起されると即時の放射線放出が観察可能である(典型的には、1μs未満の崩壊寿命)。蛍光性及び燐光性材料の両方が、本明細書において記載されるセキュリティインクに使用されてもよい。燐光性化合物の場合には、減衰特性の測定もまた追加の認証手段として行われてもよい。
【0089】
本発明の好ましい実施形態に従ってインクに使用することができる発光性顔料は、例えば米国特許第6565770号、国際公開第2008/033059号及び国際公開第2008/092522号に記載されている。発光性顔料の例には、酸化物の中でも、例えば欧州特許出願公開第0985007号、米国特許第6180029号又は米国特許第7,476,411号に言及されたものなどの、遷移金属及び希土類イオンからなる群から選択される少なくとも1つの発光性陽イオンでドープされた非発光性陽イオンの硫化物、オキシ硫化物、リン酸塩、チオガリウム酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩、チタン酸塩など;例えば米国特許第8,257,612号に開示されているものなどの、励起に対して複数の応答をする発光性材料が含まれる。発光性顔料の典型的な例は、米国特許第7,922,936号及び欧州特許第2038372号に記載されているものなどのイットリウム化合物(イットリア、ホウ酸イットリウム、リン酸イットリウム、アルミン酸イットリウムが好ましい)、ルテチウム化合物(酸化ルテチウム及びアルミン酸ルテチウムが好ましい)、ランタン化合物(酸化ランタン、ランタンオキシ硫化物、リン酸ランタン、アルミン酸ランタン、ホウ酸ランタン及びケイ酸ランタンが好ましい)及びこれらの混合物、並びに少なくとも1種のランタニド元素ドーパント(イッテルビウム陽イオン、エルビウム陽イオン、ツリウム陽イオン及びこれらの混合物からなる群から選択されるのが好ましい)からなる群から選択される少なくとも1つの格子を含むがこれらに限定されない。他の典型的な例は、ランタニド(III)キレート顔料を含み、本明細書において使用される用語「キレート」は、1個又は複数の金属中心及び1個又は複数の有機配位子を含み、次には金属結合のための配位部位を与える化合物と定義する。前記ランタニド(III)キレート顔料は、≪Handbook on the Physics and Chemistry of rare earths≫35巻、225章、145~153頁、2005年に開示されているものなどの、UV光を吸収することができる1種又は複数の有機配位子を含むのが好ましい。他の例は例えば米国特許第7,108,742号に見いだされる。特定の種類の発光性顔料は、UV範囲で吸収し、NIR範囲又はIR範囲で放射する化合物である。そのような化合物は、肉眼によってそれらを観察することができず、励起及び発光検出の両方に特殊装置を必要とし、したがってそれらを含むセキュリティ要素の偽造に抗する抵抗力を大いに高めるので、セキュリティ用途にとって特に望ましい。そのような化合物は、例えばMizoguchiら(J.Am.Chem.Soc.、2004年、126、9796)によって記載されたスズ酸バリウム顔料であってもよい。
【0090】
本明細書において記載される本発明用の顔料として有用な一般的なアップコンバート材料は、無機の性質のものであり、希土類イオンが活性剤及び増感剤として存在する結晶格子から本質的になる。アップコンバート材料の励起及び発光特性は、用いられる希土類イオンの生来の特性である。希土類イオンの発光活性剤は、比較的長寿命の励起状態及び特有の電子構造を有する。そのために、2個以上の光子のエネルギーが連続して単一の発光中心にうまく伝搬されてそこに集積する。電子は、それにより入ってくる光子エネルギーに対応する準位より高いエネルギー準位へ持ち上がる。この電子がより高い準位から基底状態まで戻ると、集積された励起光子のエネルギーのほぼ総量を有する光子が放射される。この方法で、例えばIR放射線を可視光線へ変換することが可能である。アルカリ及びアルカリ土類金属ハロゲン化物、及びハロゲン化物、イットリウムのオキシハロゲン化物及びオキシ硫化物、ランタン及びガドリニウムは、主にホスト材料として使用され、例えばEr3+、Ho3+及びTm3+は活性剤として役立つ。さらに、Yb3+及び/又は他のイオンは、量子収率を上げる増感剤として結晶格子中に存在することができる。アップコンバート顔料は、例えば国際公開第2001/051571号、欧州特許出願公開第2621736号及び欧州特許第0966504号に記載されている。
【0091】
別の可能な実施形態は、導電性顔料の使用であり、これは、セキュリティ印刷の分野において有価証券(例えば銀行券、パスポート、IDカードなど)に追加の、隠されたセキュリティ機能を与えるために使用される。1種又は複数の導電性顔料を含むセキュリティインクで作製されるセキュリティ機能は、前記セキュリティ機能と接触される電極回路のように簡単な検出デバイスによって検出されてもよい。前記検出デバイスは、誘導式又は容量式センサーなどの接触がない電子手段を含むことが有利である。セキュリティの分野において、容量式センサーは環境(基材又は周囲のハードウェア)と相互作用せずに、小さな導体素子を検出することができるので、通常好ましい。
【0092】
本発明のなおさらなる実施形態に従って使用される導電性インクは、例えば、導電性層によって包まれた、酸化チタン、合成又は天然の雲母、他のフィロシリケート、ガラス、二酸化ケイ素又は酸化アルミニウムなどの非導電性基材で作製された導電性顔料を含有する。リーフィング顔料とも呼ばれる高アスペクト比を示す導電性顔料が好ましく、これは、印刷後、自ら急速に配向し、それらの2つの最長寸法が基材表面と実質的に平行になり、それによりセキュリティ機能の導電率を向上させる。高アスペクト比の導電性顔料の厚さ及び印刷インク層の厚さに応じて、セキュリティ文書の設計に組み入れるのが容易である、透明又は半透明導電性セキュリティ機能を得ることは可能である。米国特許第7416688号は、例えば導電性層でコーティングされた薄片形態の基材の透明導電性顔料を開示し、ここで、透明導電性顔料の数加重メジアン粒子面積F50は、150μm以上である。特に好ましい顔料は、アンチモンドープした酸化スズ層でコーティングされた雲母、酸化チタン層でコーティングされた雲母、酸化シリコン層及びアンチモンドープした酸化スズ層又はアンチモンドープした酸化スズ層でコーティングされた雲母及び金属酸化物層、特に酸化チタン層を含む。
【0093】
代替として、また、高い透明性が必須ではない場合、本発明の別の例に従って使用される印刷可能な導電性インクは、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、鉛、亜鉛及びスズ並びにこれらの合金などの1種又は複数の金属で作製された高アスペクト比の薄片を含有してもよい。
【0094】
さらに、1種又は複数の導電性材料を含むセキュリティ機能は、1種又は複数の発光性材料を含有してもよい。1種又は複数の発光性材料は、発光性分子(均質にインクマトリックスに溶解される)、発光性顔料(前記インクマトリックス内に分散される)、半導体量子ドット(CdSe、ZnS、ZnSe、CdZnSe、CdS、InAs、InP、CdSeSのような)、発光性ポリマー、及び発光性層で表面処理された顔料からなる群から選択される。接触又は非接触(例えば、容量式又は誘導式の)による電気的刺激で、1種又は複数の発光性材料は、肉眼で見える及び/又は当業界で公知の電子手段を使用して検知され得る電磁放射線を発する。そのようなセキュリティ機能は例えば米国特許出願公開第2014/291495号に記載されている。
【0095】
1種又は複数の顔料のメジアン粒度D50は、約0.5μm~約30μmであるのが典型的であり、約1μm~約20μmであるのが好ましく、約2μm~約10μmであるのがより好ましい。粒径D90は、約1μm~約50μmであり、約2μm~約30μmであるのが好ましく、約5μm~約20μmであるのがより好ましい。
【0096】
本明細書において記載される印刷方法は、それが通常は標準のインクジェット印刷ヘッドの事例であるので、1種又は複数の顔料の密度によって限定されない。光学的可変顔料(コレステリック液晶顔料を含む)、磁性又は磁化できる薄膜干渉顔料及び干渉コーティング粒子(光沢のある顔料)の密度は、約1.2×10kg/m~約4×10kg/mの間にあり、発光性顔料の密度は、約3×10kg/m~約5×10kg/mの間にあり、磁性材料又は顔料の密度は、それぞれ約5×10kg/m~約10kg/mの間にあるのが典型的である。
【0097】
1種又は複数のセキュリティ顔料の濃度は、本明細書において上に論じられた、インクの粘度によってのみ限定される。例えば、光学的可変顔料(OVP(登録商標))を含有するインクにおいて、前記色可変顔料の濃度は、所望の視覚的な効果に依存して約2.5重量%~約35重量%の間にある。磁性顔料を含有するインクにおいて、前記磁性顔料の濃度は、十分に強力な磁気信号を得るために約5重量%~約60重量%の間にあり、発光性顔料含有インクにおいて、前記発光性顔料の濃度は、所望の発光強度に応じて約2重量%~約20重量%の間にある。
【0098】
本発明の好ましい実施形態によると、本明細書において記載される印刷方法を使用して得られるセキュリティ機能は、光学的可変顔料(コレステリック液晶顔料を含む)からなる群から選択される1種又は複数の顔料を含む顕在的なセキュリティ機能であって、少なくとも1種の顔料が、式
【数11】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは絶対温度である、顕在的なセキュリティ機能である。
【0099】
【数12】

であるのが好ましい。
【0100】
本発明の別の好ましい実施形態によると、本明細書において記載される印刷方法を使用して得られるセキュリティ機能は、磁性顔料、磁性薄膜干渉顔料、磁性干渉コーティング顔料、磁性コレステリック液晶顔料、発光性顔料、導電性顔料及び赤外線吸収性顔料からなる群から選択される1種又は複数の顔料を含む隠されたセキュリティ機能であって、少なくとも1種又は複数の顔料が、式
【数13】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは絶対温度である、隠されたセキュリティ機能である。
【0101】
【数14】

であるのが好ましい。
【0102】
前記顕在的な及び/又は隠されたセキュリティ機能は、バーコード、2Dコード(QRコードなど)、又は英数字記号を形成するために本明細書において記載される印刷方法を使用して印刷されてもよい。別の実施形態において、それらは、幾何学的図形(規則的又は不規則な多角形など)、ロゴ、画像又はランダムパターンを形成してもよい。
【0103】
本発明は、また、上記の方法のいずれかによりセキュリティ機能を印刷するためのシステムに関する。ここで、当該システムは、インクを印刷するためのフレックステンショナル・インクジェットプリントヘッド構造、及び、1種又は複数のセキュリティ顔料を含むインクを備え、少なくとも1種の顔料が、式
【数15】

を満たし、
式中、
Δρは、顔料とインクビヒクルとの間の密度差であり、
gは重力加速定数であり、
dは顔料粒子直径D90であり、
はボルツマン定数であり、及び
Tは絶対温度である。
【実施例1】
【0104】
これより、本発明は、非限定的な実施例に関して、より詳細に検討される。下記の実施例は、本発明によるインクジェットインクの調製及び使用についてのさらなる詳細を提供する。
【0105】
実施例に記載される異なるインクを、圧電始動させるフレックステンショナルノズルを用いて単一プリントヘッドを備えた特注の印刷機で印刷した。上記のノズル構造は、例えば欧州特許第1071559号に記載されている。さらに、顔料の沈降を回避するために、印刷機は沈降する顔料専用のインク供給システムを備えている(例えば、欧州特許第2867027号に記載されている)。プリントヘッドを用いる印刷は、少なくとも4時間試験した。
実施例1
【表5】
【0106】
ここで、a)は、粒径D50約15μm、D90約24μm、厚さ約1μm及び密度約2400kg/mの薄片形状を有する、シアンから紫色への光学的可変顔料である。CILAS 1090レーザー回折機器を使用して、粒径分布を求めた。
【0107】
ISO 758:1976(工業的用途の液体化学製品、20℃での密度計測)に従って、較正したブラウブランド(BlauBrand)(登録商標)比重びんを用いてインクビヒクルの密度を870kg/mと測定した。
【0108】
粒径D90=2.4×10-5m、インクビヒクルの測定した密度870kg/m及び顔料の密度2400kg/mから、ペクレ数(Pe)が室温で約320000に等しいと計算した。
【0109】
溶媒の混合物へ樹脂を加えて、完全に溶解するまで45℃で撹拌した。湿潤剤を加え、最後に顔料を加え、Dispermat(LC220-12)を使用して、5分間3000rpmで分散した。インクの粘度は、1000s-1及び25℃で10.6mPasであった。インクの表面張力は、張力計(KrussからのK11、Wilhelmyプレートを備えている)を使用して測定して24.2mN/mであった。
【0110】
そのようにして得られた低粘度溶媒系インクを含有するOVP(登録商標)をHP Premium Plusの写真用インクジェット紙(インク受容層を有するPEコーティングした紙)にフレックステンショナル印刷ヘッドを使用して印刷して、寸法1cm×1cmの色シフトするQRコードを形成した。
【0111】
インクの色シフト特性を、光学的可変インクのために特別に開発したゴニオメーター(Phyma GmbH AustriaによるGoniospektrometer Codec WI-10 5&5)を使用して求めた。印刷パッチのL値を、22.5°の照射を用いて法線に対して0°(下記表1cに直角の視点として下記に表示した)及び45°の照射を用いて法線に対して67.5°(下記表1cにグレージングの視点として下記に表示した)の2つの角度でそれぞれ求めた。下記表に示すh及びc値は、CIELAB(1976)色空間に従ってa及びb値から計算した:ここで、
【数16】

であり、
【数17】

である。
【表6】
【0112】
3GVisionからアプリi-nigma QRを備えたApple SEスマートフォンを使用して容易に1cm×1cm QRコードを読み取ることができた。
【0113】
表1cの結果から推測することができるように、実施例1の低粘度溶媒系インクを含有するOVP(登録商標)は著しい色シフト効果を与えた。OVP(登録商標)のインク(8重量%)の高濃度、高密度(2400kg/m)及び大きな粒径(D50=15μm、D90=24μm)にもかかわらず、基材に堆積するOVP(登録商標)の量が減少する原因となるノズルの詰まり又は沈降を起こすことなく、数時間の間インクを印刷することができた。
実施例2
【表7】
【0114】
ここで、b)は、マグネタイトFe(CI顔料ブラック11)、D50約6.5μm、D90約12.5μm、密度5200kg/m、保磁力18kA/mである。
【0115】
実施例1中のようにインクビヒクルの密度を1028kg/mと測定した。
【0116】
粒径D90=1.25×10-5m、インクビヒクルの測定した密度1028kg/m及び顔料の密度5200kg/mから、ペクレ数(Pe)が室温で約65000に等しいと計算した。
【0117】
水、グリセリン及び水酸化アンモニウムを含む溶液に樹脂を加え、完全に溶解されるまで撹拌した。完全溶解の後、pHは約8であった。次いで、消泡剤及び湿潤剤を加えて、5分間500rpmでDispermat(LC220-12)を使用して混合した。最後に、黒色磁性顔料を加えて5分間3000rpmで分散した。インクの粘度は、1000s-1及び25℃で26.4mPasであり、表面張力は23.7mN/mであった。
【0118】
そのようにして得られた低粘度黒色磁性水系インクをフレックステンショナル印刷ヘッドを使用してGascogne紙積層体M-cote 120基材に印刷し、寸法28cm×13cmの長方形状パターンを形成した。Altisurf 500(Altimet)を使用して求めて約6μmの厚さを有するインク層を得た。
【0119】
インク層の2つの試料を剥がし取り、Lake Shore Cryotronics Inc.によるVSM(振動試料型磁力計)を使用して1テスラの磁場強度を用いて、それらの磁気性能を測定した。完全なヒステリシスループを両試料について記録し、残留磁気(Wb/m)並びに保磁力(A/m)を曲線から誘導した。結果は下記表2cに見ることができる。
【表8】
【0120】
インク(20重量%)において黒色磁性顔料の高濃度、高密度(5200kg/m)及び大きな粒径(D50=6.5μm、D90=12.5μm)にもかかわらず、基材に堆積する黒色磁性顔料の量が減少する原因となるノズルの詰まり又は沈降を起こすことなく、数時間の間インクを印刷することができた。
実施例3
【表9】
【0121】
ここで、c)は、D50約3.45μm、D90約12.5μm、密度約4900kg/mを有するオキシ硫化物顔料である。
【0122】
実施例1及び2のようにインクビヒクルの密度を868kg/mと測定した。
【0123】
粒径D90=1.25×10-5m、インクビヒクルの計算した密度868kg/m及び顔料の密度4900kg/mから、ペクレ数(Pe)が室温で約62000に等しいと計算した。
【0124】
溶媒の混合物に樹脂を加えて、完全に溶解するまで45℃で撹拌した。湿潤剤を加えて、最後に、アップコンバータを加えてDispermat(LC220-12)を使用して、5分間3000rpmで分散した。インクの粘度は、1000s-1及び25℃で11.6mPasであり、表面張力は24.5mN/mであった。
【0125】
アップコンバータを含有する、そのようにして得られた低粘度溶媒系インクを、フレックステンショナル印刷ヘッドを使用してGascogne紙積層体M-cote 120基材に印刷し、寸法28cm×13cmの長方形状パターンを形成した。
【0126】
980nmのレーザーダイオード(Ledgor Lighting Technology)を用いて印刷した試料に照射した。表3cは、照射した印刷パッチの色特性を示す。
【表10】
【0127】
表3cの結果から推測することができるように、実施例3の低粘度溶媒系インクを用いて印刷したパッチは、NIRレーザーダイオードを用いて照射した場合、肉眼で明確に認識可能であった。さらに、アップコンバータの高密度(4900kg/m)及び大きな粒径(D50=3.5μm、D90=12.5μm)にもかかわらず、基材に堆積するアップコンバータの量が減少する原因となるノズルの詰まり又は沈降を起こすことなく、数時間の間インクを印刷することができた。
実施例4
【表11】
【0128】
ここで、d)は、D50約0.6μm、D90約1.1μm、密度約4100kg/mを有する硫化亜鉛顔料である。
【0129】
個別の成分の密度からインクビヒクルの密度を872kg/mと計算した。
【0130】
粒径D90=1.1×10-6m、インクビヒクルの計算した密度872kg/m及び顔料の密度4100kg/mから、ペクレ数(Pe)が室温で約3に等しいと計算した。
【0131】
実施例4のインクジェットインクを調製するために、まず130gの樹脂を520gのエタノール95%(溶媒1)に加え、完全に溶解するまで45℃で撹拌した。室温に上記の溶液を冷却し、APS 3000ビーズミルシステム(VMA Getzmann GmbH)の容器に注いだ。200gの発光性顔料、40gのワックス、10gの増量剤及び100gのn-プロパノール(溶媒2)を穏やかに撹拌しながら順次加えた。次いで、Dispermat CN 20(VMA Getzmann GmbH)に付けたDMS 100二重ブレードポリアミド製インペラーを混合物まで下げた。インペラーをゆっくり回転させ、500gのガラスビーズ(φ2.85~3.3mm、VMA Getzmann GmbH)を加えた。混合物は、最終的に5分間5000rpmで分散した。上記の方法は、20%の発光性顔料を含有する1kgのインク濃縮物(部分A)を与えた。
【0132】
500gのインク濃縮液(部分A)を、250gのエタノール95%(溶媒3)と250gのDowanol DPM(溶媒4)の混合物(部分B)に対して緩やかな撹拌下に加えた。これは、10%の発光性顔料を含有する、実施例4の1kgの低粘度溶媒系インクを与えた。最終のインクの粘度は、1000s-1で14.8mPasであり、表面張力は24mN/mであった。
【0133】
発光性顔料を含有する、そのようにして得られた低粘度溶媒系インクを、フレックステンショナル印刷を使用してGascogne紙積層体M-cote 120基材に印刷し、寸法28cm×13cmの長方形状パターンを形成した。
【0134】
365nmのUVランプ(Fovea UV-512)を用いて印刷した試料に照射して強力なグリーン発光が生じた。表4cは、照射したときの印刷パッチの色特性を示す。
【表12】
【0135】
発光性顔料の高密度(4100kg/m)、高濃度(10%)及び大きな粒径(D50=0.6μm、D90=1.1μm)にもかかわらず、基材に堆積する発光性顔料の量が減少する原因となるノズルの詰まり又は沈降を起こすことなく、数時間の間インクを印刷することができた。
【0136】
本発明の実施形態を記載し説明したが、そのような実施形態は、本発明の例証のみと考えられるべきである。本発明には、本明細書において詳細に記載されず又は説明されない変異形が含まれてもよい。したがって、本明細書において記載され説明された実施形態は、添付の請求項に従って解釈される本発明に限定されると考えられるべきでない。