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特許7490923免疫療法効果が向上し副作用が軽減した変異抗CTLA-4抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】免疫療法効果が向上し副作用が軽減した変異抗CTLA-4抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240521BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N15/13 ZNA
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020542291
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 US2019015686
(87)【国際公開番号】W WO2019152423
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】62/625,662
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/647,123
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/754,781
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521449809
【氏名又は名称】オンコシーフォー、インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】511298990
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド、ボルチモア
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン、パン
(72)【発明者】
【氏名】タン、 フェイ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、 ミィンユエ
(72)【発明者】
【氏名】デーヴェンポート、 マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ、 シュエシャン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、 ヤン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-539096(JP,A)
【文献】国際公開第2017/106372(WO,A1)
【文献】特表2016-500251(JP,A)
【文献】T. Igawa, et al.,Biochimica et Biophysica Acta,2014年,Vol.1844,p.1943-1950
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5又は配列番号6に示される配列を含む重鎖及び配列番号2に示される配列を含む軽鎖を含む、抗CTLA-4抗体。
【請求項2】
配列番号6に示される配列を含む重鎖を含む、請求項1に記載の抗CTLA-4抗体。
【請求項3】
配列番号5に示される配列を含む重鎖を含む、請求項1に記載の抗CTLA-4抗体。
【請求項4】
対象におけるがん免疫治療に使用するための、請求項2又は請求項3に記載の抗CTLA-4抗体を含む医薬組成物。
【請求項5】
PD-1又はPD-L1に結合する抗体と組み合わせて使用される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体がニボルマブ又はペンブロリズマブである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
対象のがんの処置において使用するための、請求項2又は請求項3に記載の抗CTLA-4抗体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性が向上し副作用が軽減した変異抗CTLA-4抗体、並びにかかる抗体を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗CTLA-4モノクローナル抗体(anti-CTLA-4 monoclonal antibody(mAb))は、がんの免疫療法効果(cancer immunotherapeutic effect(CITE))をもたらすが、重度の免疫療法関連の有害事象(immunotherapy-related adverse event(irAE))を引き起こす。抗CTLA-4 mAbsはマウスモデル及び黒色腫患者でCITEを示していた。抗PD-1 mAbであるニボルマブ(Nivolumab)と抗CTLA-4 mAbであるイピリムマブ(Ipilimumab)との併用により、進行性黒色腫患者の客観的奏効率が大幅に増加した。進行性非小細胞肺がん(NSCLC)における当併用療法からも有望な結果が現出した。別の抗CTLA-4 mAb(トレメリムマブ(Tremelimumab))を第II相臨床試験で抗PD-L1 mAbであるデュルバルマブ(Durvalumab)と併用した場合、臨床的有用性の暫定的なエビデンスが得られた。
【0003】
抗CTLA-4 mAbの単独又は併用による幅広い臨床使用に対する主要な障害となるのは、重篤な有害事象(Severe Adverse Event(SAE))である。イピリムマブ(最初の臨床的抗CTLA-4 mAb)の治験で観察されたSAEは、免疫療法関連の有害事象(Immunotherapy-related Adverse Event(irAE))の概念につながった。特に、イピリムマブ及びニボルマブ(抗PD-1)の併用療法では、50%超の患者がグレード3及びグレード4のSAEを発症した。NSCLCでは、イピリムマブ及びニボルマブの併用療法により高い奏効率が得られたが、グレード3及びグレード4のSAEも高率で生じた。同様に、デュルバルマブ(抗PD-L1)及びトレメリムマブ(抗CTLA-4)の組み合わせは、NSCLCで臨床活性を示したが、おそらく容認できない毒性のせいで、グレード3及びグレード4のSAEの発生率並びに患者の脱落率が高かった。抗CTLA-4 mAbの高用量は単剤療法及び併用療法の両方でより良い臨床転帰と関連しているため、irAEは多くの患者が免疫療法を継続することを妨げるだけでなく、CITEの有効性も制限する。さらに、両方の抗CTLA-4 mAbで脱落した患者の数が多かったことは、いくつかの臨床試験で臨床評価項目を満たすことができなかったためと考えられる。
【0004】
より最近では、切除されたステージIII及びステージIVの黒色腫に対するアジュバント(術後補助)療法としての抗PD-1 mAbであるニボルマブ及び抗CTLA-4 mAbであるイピリムマブの直接比較により、イピリムマブのCITEは小さいがirAEは大きく、CTLA-4-標的免疫療法の見通しにさらなる影を落としている。しかしながら、3年間生存したイピリムマブ投与患者は、10年間の生存率ではさらなる低下を示さなかった。奏功が顕著に持続することは、特にirAEを制御下に置くことができる場合、免疫療法のためにCTLA-4を標的とすることの例外的な利点を強調するものである。
【0005】
安全で効果的な抗CTLA-4 mAbの生成に関する基本的な問題は、CITE及びirAEが本質的に関連しているかどうかである。これまでのチェックポイント阻害の仮説は、リンパ系臓器でナイーブT細胞の活性化を促進するB7-CTLA-4相互作用の負のシグナルを遮断することにより、抗CTLA-4 mAbががん免疫を促進することを規定している。このモデルによれば、治療用抗体はCTLA-4-B7相互作用を機能的に不活性化するアンタゴニストである。CTLA-4発現の遺伝的不活性化はマウス及びヒトにおける自己免疫疾患を引き起こすため、irAEはCITEに必要な対価であると考えられている。一方我々は、抗マウスCTLA-4 mAbの治療効果には、B7-CTLA-4相互作用を阻害することよりも、特に腫瘍微小環境内において、抗体媒介によってTregを枯渇させること(antibody-mediated depletion of Treg)が必要であることを示した。抗体がCITEの誘導のための生理学的条件下でB7-CTLA-4相互作用を阻害可能であるかどうかは無関係である。これらの研究は、CTLA-4発現の遺伝的不活性化を模倣することなく局所的なTregの枯渇を達成できれば、CITEがirAEなしで達成できるという興味深い可能性を提起している。ヒト対立遺伝子に対してホモ接合性又はヘテロ接合性のいずれかであるマウスを使用して、CITEは単一対立遺伝子の関与(monoallelic engagement)のみを必要とする一方で、irAEは両対立遺伝子の関与(biallelic engagement)を必要とすることがわかった。これらのデータは、irAEがCTLA-4機能への拮抗を必要とする一方で、CITEは抗体のアゴニスト活性に依存することを示唆する。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において、抗CTLA-4抗体のアンタゴニスト活性を抑制すると共にそれらのFc受容体アゴニスト活性を維持及び向上する方法が提供される。具体的に開示されるのは、抗体結合の酸性pHに対する感受性を増加する方法であり、これにより抗CTLA-4抗体はCTLA-4への結合の低下を示す。本明細書に記載される、抗CTLA-4抗体結合活性の低下などの変化は、特定の抗体組成物についての2つの異なるpHレベルの間の相対的な差異であり得る。一実施形態では、CTLA-4への結合は、細胞内エンドソームコンパートメントを反映するpHで減少する。好ましい実施形態では、CTLA-4への結合は、中性pH(pH7.0)における結合と比較して、エンドソームpH5.5において50%超減少する。かかる減少は、pH7.0と比較して、リソソームpH4.5では75%超に達し得る。pH7.0で事前に形成された抗体-抗原複合体は、pH4.5~6.0の酸性環境下で解離し得る。結合の減少は、同じ標準試料(standard)を使用した場合にpH感受性がかなり低い参照抗体と比較してもよい。参照抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブなどの当技術分野で公知の抗体であってもよい。改変抗体との関連で、前記変化はまた、同じ標準試料を使用した場合にpH感受性がかなり低くなり得る野生型抗体と比較してもよい。
【0007】
別の態様では、本明細書において、抗腫瘍効果が改善されている及び/又は毒性が低減されている抗CTLA-4抗体を同定する方法であって、プレートコーティングされたCTLA-4と可溶性抗体との間の相互作用を、pH4.5~7.0の範囲内の1又は複数のpHで試験又は測定すること、及び酸性pHにおける結合の減少が観察されるpH感受性が高い抗体(antibodies with increased pH sensitivity such that reduced binding is observed at acidic pH)を選択することを含む前記方法が提供される。一実施形態では、pHは7.0及び5.5である。その他の場合は、pHは7.0及び4.5であるか7.0、5.5、及び4.5である。
【0008】
別の態様では、本明細書において、毒性が低減されている抗CTLA-4抗体を、細胞表面CTLA-4のレベルに対するそれら抗体の効果によって同定する方法が提供される。好ましい実施形態では、前記抗体は、細胞内のCTLA-4から解離し、CTLA-4が細胞表面に再循環(リサイクル)することを可能にし得るものであり、これは、細胞表面CTLA-4の減少が最小であるか又は減少しないことに基づいて決定することができる。
【0009】
別の態様では、本明細書において、抗腫瘍効果を改善及び/又は毒性を低減するために、酸性pHにおいてCTLA-4への結合の減少が観察されるようにpH感受性を高めることにより抗CTLA-4抗体を設計又は改変する方法が提供される。これらの特徴を示す抗CTLA-4抗体も提供される。一実施形態では、前記抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブなどの野生型抗CTLA-4抗体の軽鎖及び/又は重鎖可変領域の1又は複数のCDR領域内又は近傍にある1又は複数のチロシン残基をヒスチジン残基で置換することにより設計され得る。酸性pHにおけるCTLA-4への結合が野生型抗体と比較して減少するように、抗CTLA-4抗体、トレメリムマブ、又はイピリムマブの変異バージョンを生成してもよい。
【0010】
別の態様では、本明細書において、ADCCレポーターアッセイを使用して抗腫瘍効果が改善された抗体を同定する方法であって、増強されたADCC活性が抗腫瘍活性の読み取り(readout)として使用される前記方法が提供される。
【0011】
本明細書において、抗腫瘍活性が増強されている及び/又は毒性が低減されている特定の抗CTLA-4抗体、その抗体フラグメント、及びその組成物(compositions of foregoing)も提供される。前記抗体は、配列番号1、3、5、6、又は8に示される配列を含む重鎖及び配列番号2又は4に示される配列を含む軽鎖を含み得る。前記抗体はまた、配列番号14~18のうち1つに示される配列を含む重鎖及び配列番号10~12のうち1つに示される配列を含む軽鎖を含み得る。
【0012】
さらに、本明細書において、がん免疫療法又はがんの処置方法であって、本明細書に記載の抗CTLA-4抗体組成物を、単独又は1又は複数の他の抗がん治療と組み合わせて使用する前記方法が提供される。一態様では、前記他の抗がん治療は免疫療法である。別の態様では、前記免疫療法は抗PD-1治療又は抗PD-L1治療である。前記免疫療法はニボルマブ、デュルバルマブ、又はペンブロリズマブ(Pembrolizumab)であってもよい。がんを処置するための医薬の製造における、本明細書に記載の抗体組成物の使用も提供される。前記がんを処置する方法は、本明細書に記載の組成物を、がん処置を必要とする対象に投与することを含み得る。前記対象はヒトであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A図1BはTremeIgG1及びそのバリアントのpH感受性を示す。ELISAプレートにおいてHis-hCTLA-4(0.5μg/mL)をコーティングし、pH4.5~7.0の範囲内でバッファーに1μg/mLの異なる抗CTLA-4 mAbを添加した。表示されるpHは、結合及び洗浄の条件を表す。CTLA-4に結合した抗体は、西洋ワサビペリオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体を使用して測定した。
図2図2はTremeIgG1及びそのバリアントのpH感受性結合解離を示す。図1と同様に、pH7.0においてプレート結合CTLA-4に結合した抗体の一群を除いては、その後、表示されるpHのバッファーでプレートが洗浄された。
図3図3は総CTLA-4レベルに対する抗CTLA-4抗体の効果を示す。ヒトCTLA-4 cDNAをトランスフェクトしたCHO細胞を抗CTLA-4抗体と37℃で4時間インキュベートし、細胞内のCTLA-4の総量を総細胞溶解物のウエスタンブロットで測定した。CTLA-4のダウンレギュレーションは、TremeIgG1及びmAb154によって引き起こされるが、他の抗体バリアントによってはわずかである。
図4図4はエンドサイトーシス後の生細胞においてCTLA-4から解離した抗体のpH感受性を示す。hCTLA-4を発現する293T安定細胞株を、4℃で30分間、抗CTLA-4 mAbで標識し、未結合の抗体を洗い流した後、細胞を37℃で1時間へ移植した。抗体結合表面CTLA-4はプロテインGビーズで捕捉され、抗CTLA-4抗体(H-126):sc-9094(Santa Cruz biotechnology(サンタクルーズバイオテクノロジー)社)を使用したウエスタンブロットで検出された。図4Aは、4℃での抗体の結合を示した図である。図4Bは、37℃でのインキュベーション後に残存する抗体のレベルを示した図である。改変抗体、特にAB156及びAB157は、mAb139(TremeIgG1)又はpH感受性の低い他のバリアントに較べると、37℃での抗体誘導内部移行(antibody-induced Internalization)中にCTLA-4から解離する。
図5図5は細胞表面CTLA-4に対する抗CTLA-4抗体の効果を示す。ヒトCTLA-4発現CHO細胞をTremeIgG1及びその変異体で37℃又は4℃で2時間処理した。未結合の抗体を洗い流した後、表面CTLA-4を抗hIgG(H+L)-alex488によって4℃で30分間で検出し、フローサイトメトリーによって分析した。表示されるデータは、37℃でインキュベートしたサンプルの4℃でインキュベートしたサンプルに対するMFIの比率であり、平均が1.0と定義されているHL12の比率に対して正規化したものである。示されているデータは、3つの独立した実験からのもので、それぞれグループ毎に2つのサンプルを含む。
図6図6はTremeIgG1及びそのpH感受性バリアントのADCC活性を示す。示されているデータは、FcγRIIIAを発現するレポーター細胞から放出された発光ユニットである。ヒトCTLA-4分子を発現する293T細胞を標的細胞として使用している。
図7図7は、腫瘍微小環境でTregを枯渇させることにおいてAb157が改善された活性を示すことを表す。MC38担持Ctla4h/hマウス(n=9)は、腫瘍接種後14日目にTremeIgG1(AB139)又はそのpH感受性バリアントAb157(30μg/マウス)を腹腔内投与された。腫瘍微小環境におけるTreg細胞の選択的枯渇は、抗体処理後16時間のCD4 T細胞におけるTreg細胞の割合(%)で測定された。*P<0.05。
図8図8A図8EはTremeIgG1及びそのpH感受性バリアントの免疫療法効果を示す。図8Aは実験の設計を示す。図8B図8Eは、IgG-Fc(図8B)、TremeIgG1(AB139;図8C)、AB156(図8D)、又はAB157(図8E)のいずれかを投与されたマウスにおける腫瘍増殖を示す。
図9】抗PD-1との併用療法で使用した場合、pH感受性は抗ヒトCTLA-4抗体の安全性の向上に関連する。CTLA-4h/hマウスは、生後10、13、17、及び20日目における100μg/マウス/注射の用量のTremeIgG1(AB139)、AB156、AB157、AB158、及びAB159のうちいずれかの抗CTLA-4と抗PD-1との併用療法を受けた。安全性は、経時的生存率の観点から表される。N=6。AB157対TremeIgG1はP=0.01であり、AB156対TremeIgG1はP=0.03である。
図10図10は、野生型抗体TremeIgG1と比較して、pH感受性バリアント抗CTLA-4抗体であるAB157の安全性がより優れていることを示す独立した2つの実験のデータの生存率分析である。TremeIgG1(AB139)及びAB157は、生後10、13、17、及び20日目に100μg/マウス/注射の用量で投与された。安全性は、経時的生存率の観点から表される。データは独立した2つの実験の要約である。2つの処置群間で統計的に有意な差が観察された。AB157又はhIgGFc対照+抗PD-1の場合はN=15、TremeIgG1+抗PD-1の場合はN=16である。P<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.定義
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、「可変領域」抗原認識部位を有する免疫グロブリン分子を指す。「可変領域」という用語は、抗体によって広く共有されるドメイン(抗体Fcドメインなど)とは異なる免疫グロブリンのドメインを指す。可変領域は、その残基が抗原結合の能力を担う「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域(Complementarity Determining Region)」又は「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、典型的には軽鎖可変ドメインのおよそ24~34番目(L1)、50~56番目(L2)、及び89~97番目(L3)の残基並びに重鎖可変ドメインのおよそ27~35番目(H1)、50~65番目(H2)、及び95~102番目(H3)の残基、参考文献44)を含み、「超可変ループ」からのそれらの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの26~32番目(L1)、50~52番目(L2)、及び91~96番目(L3)の残基並びに重鎖可変ドメインの26~32番目(H1)、53~55番目(H2)、及び96~101番目(H3)の残基)を含み得る。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。本明細書に開示される抗体は、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ラクダ化抗体、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、イントラボディ、又は抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体及び抗抗Id抗体を含む)。特に、前記抗体は、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、又はIgYなどの免疫グロブリン分子であってもよく、又はIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、若しくはIgAなどのクラス又はサブクラスのものであってもよい。
【0015】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、抗体の相補性決定領域(CDR)及び所望により抗体の「可変領域」抗原認識部位を含むフレームワーク残基抗体を含み、抗原を免疫特異的に結合する能力を示す、抗体の1又は複数の部分を指す。かかるフラグメントには、Fab’、F(ab’)、Fv、一本鎖(ScFv)、及びそれらの変異体、天然に存在するバリアント、並びに抗体の「可変領域」抗原認識部位及び異種タンパク質(例えば、毒素、異なる抗原の抗原認識部位、酵素、受容体、又は受容体リガンドなど)を含む融合タンパク質が含まれる。本明細書中で使用される場合、「フラグメント」という用語は、少なくとも5個の連続したアミノ酸残基、少なくとも10個の連続したアミノ酸残基、少なくとも15個の連続したアミノ酸残基、少なくとも20個の連続したアミノ酸残基、少なくとも25個の連続したアミノ酸残基、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基、少なくとも50個の連続したアミノ酸残基、少なくとも60個の連続したアミノ酸残基、少なくとも70個の連続したアミノ酸残基、少なくとも80個の連続したアミノ酸残基、少なくとも90個の連続したアミノ酸残基、少なくとも100個の連続したアミノ酸残基、少なくとも125個の連続したアミノ酸残基、少なくとも150個の連続したアミノ酸残基、少なくとも175個の連続したアミノ酸残基、少なくとも200個の連続したアミノ酸残基、又は少なくとも250個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドをいう。
【0016】
ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体は、ヒトにおけるインビボでの使用に特に好ましいが、マウス抗体又は他の種の抗体は、多くの用途(例えば、インビトロ検出アッセイ又はインサイチュ検出アッセイ、急性のインビボでの使用など)に有利に使用され得る。
【0017】
「キメラ抗体(chimeric antibody)」は、抗体の異なる部分(different portions of the antibody)が異なる免疫グロブリン分子に由来する分子であり、例えば非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体などである。非ヒト種由来の1又は複数のCDRとヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域とを含むキメラ抗体は、例えばCDRグラフティング(欧州特許第239,400号、国際公開第91/09967号、並びに米国特許第5,225,539号、第5,530,101号、及び第5,585,089号)、ベニア化(veneering)又は表面再仕上げ(resurfacing)(欧州特許第592,106号、欧州特許第519,596号、46~48)、及びチェーンシャフリング(chain shuffling)(米国特許第5,565,332号)などの当技術分野で公知の様々な技法を使用して製造可能であり、これら全ての内容は、参照により本明細書に援用される。
【0018】
本明細書で記載される抗体はヒト化抗体であってよい。本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒトフレームワーク領域及び非ヒト(通常はマウス又はラット)免疫グロブリンからの1又は複数のCDRを含む免疫グロブリンを指す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と称され、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と称される。定常領域は存在しなくてもよいが、存在する場合、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85%~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。したがって、おそらくCDRを除いて、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖免疫グロブリン及びヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。例えば、典型的なキメラ抗体は、キメラ抗体の可変領域全体が非ヒトであるなどのため、ヒト化抗体には包含されないであろう。ドナー抗体が「ヒト化(humanization)」のプロセスによって「“ヒト化”(humanized)」されたものとされるのは、得られるヒト化抗体がCDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合すると予想されるためである。ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域残基が、望ましい特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)からの超可変領域残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり得る。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(Framework Region(FR))残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの修飾により、抗体の性能がさらに向上する場合がある。ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み得、超可変領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を所望により含み得、これは、1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加(すなわち、変異)の導入によって変更された、FcγRIIBポリペプチドに免疫特異的に結合するヒト免疫グロブリンのものであり得る。
【0019】
1.抗CTLA4抗体組成物
イピリムマブ及びトレメリムマブを含む、ヒトCTLA-4タンパク質に対する抗体は、唯一の免疫療法薬としても、又は抗PD-1抗体などの別の治療薬と組み合わせても、がん患者の生存率を高めることが示されている。しかしながら、その治療効果は、免疫関連の重大な有害作用と関連している。より優れた治療効果又は自己免疫副作用のさらなる減少を達成するために、新規な抗CTLA-4抗体を開発する大きな需要がある。本発明者らは、驚くべきことに、免疫療法に関連する重大な自己免疫副作用を低減しながらがん拒絶を誘導するために使用することができる抗CTLA-4抗体を見出した。
【0020】
本明細書では、抗体及びその抗原結合フラグメント、並びに前述のものを含む組成物が提供される。前記組成物は医薬組成物であってもよい。前記抗体は抗CTLA-4抗体であってもよい。前記抗体は、モノクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体であってもよい。前記抗体はまた、単一特異性、二重特異性、三重特異性、又は多重特異性であり得る。前記抗体は検出可能に標識されていてもよく、共役毒素、薬剤、受容体、酵素、又は受容体リガンドを含んでいてもよい。
【0021】
本明細書では、内因性濃度又はトランスフェクトした濃度で(at an endogenous or transfected concentration)生細胞の表面に発現され得る、CTLA-4、特にヒトCTLA-4に免疫特異的に結合する抗体の抗原結合フラグメントも本明細書に提供される。抗原結合フラグメントはCTLA-4に結合し得るものであり、生細胞はT細胞であり得る。
【0022】
特定の実施形態では、前記抗CTLA-4抗体は、Treg枯渇及びFc受容体依存性腫瘍拒絶を効率的に誘発し得る。他の実施形態では、前記抗CTLA-4抗体は、細胞内酸性pH表示下においてCTLA-4から解離し、CTLA-4が細胞表面に再循環(リサイクル)することを可能にし得る。
【0023】
さらに、本明細書において、本明細書に記載の抗体の機能的特徴又は属性を組み込むことによる、新規抗CTLA-4抗体の設計、並びに既存の抗CTLA-4抗体の有効性又は毒性プロファイルを改善する方法が提供される。
【0024】
前記抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブであり得る公知の抗CTLA-4抗体のアミノ酸配列の変異体を含み得る。野生型抗体配列と比較して、前記変異配列は、重鎖又は軽鎖の少なくとも一方における1又は複数のCDR1、CDR2、及びCDR3領域の近傍又は内部に、ヒスチジンによるチロシンの1又は複数の置換を含み得る。抗CTLA-4抗体は、配列番号1、3、5、6、及び8のうち1つに示される配列を含む重鎖、及び配列番号2~4のうち1つに示される配列を含む軽鎖を含み得る。特に、前記重鎖は、配列番号6に示される配列を含み得、前記軽鎖は、配列番号2に示される配列を含み得る。前記重鎖はまた、配列番号14~18のうち1つに示される配列を含み得、前記軽鎖は、配列番号10~12のうち1つに示される配列を含み得る。
【0025】
2.抗CTLA-4抗体組成物の有効性及び安全性を改善する方法
本明細書において、改善された抗腫瘍活性及び/又は安全性を示す抗体組成物を設計(変異導入又は改変)又は選択する方法が提供される。具体的には、酸性pHにおける抗体結合の感受性を高めることが可能であり、これにより、抗CTLA-4抗体は、より低いpHではCTLA-4への結合の減少を示す。一実施形態では、CTLA-4への結合は、エンドソームコンパートメントを反映するpHで減少する。好ましい実施形態では、CTLA-4への結合は、中性pH(pH7.0)での結合と比較して、pH5.5で減少する。pH5.5におけるかかる減少した結合は、中性pHで観察されるCTLA-4結合の50%以上であり得る。結合などの、本明細書に記載の抗CTLA-4抗体活性の減少又は増加などの変化は、参照抗体又は野生型抗体と比較してもよい。参照抗体は、イピリムマブ又はトレメリムマブなどの当技術分野で公知の抗体であってもよい。前記変化はまた、本明細書に記載の特定の抗体組成物の2つの異なるpHレベルの間で相対的であり得る。
【0026】
プレートコーティングされたCTLA-4と可溶性抗体との間の相互作用をpH4.5~7.0の範囲内で試験すること、及び酸性pHで結合の減少が観察されるpH感受性が高い抗体を選択することにより、抗腫瘍活性が改善され且つ/又は毒性が低減された抗CTLA-4抗体が同定され得る。
【0027】
抗CTLA-4抗体は、細胞表面CTLA-4のレベルへの影響による毒性が低減された状態で同定され得る。好ましい実施形態では、前記抗体は、細胞内のCTLA-4から解離し、CTLA-4が細胞表面に再循環することを可能にするものであり、これは、細胞表面CTLA-4の減少が最小であるか又は減少しないことや抗体の結合した表面CTLA-4の量の減少に基づいて決定することができる。
【0028】
本明細書において、CTLA-4への結合の減少が酸性pHで観察されるようにpH感受性を高めることによって抗腫瘍効果を改善し且つ/又は毒性を低減するために抗CTLA-4抗体を設計又は改変する方法が提供される。一実施形態では、前記抗体は、抗体の軽鎖及び/又は重鎖可変領域のCDR領域内又は近傍の1又は複数のチロシン残基をヒスチジン残基で置換することにより設計される。前記方法は、酸性pHでCTLA-4への結合の減少を示す抗CTLA-4抗体トレメリムマブ又はイピリムマブの変異体バージョンを作製することを含み得る。
【0029】
ADCCレポーターアッセイを使用して抗腫瘍効果が改善されるように抗体を設計又は変更してもよく、ここでは増強されたADCC活性が抗腫瘍活性の読み取りとして使用される。好ましい実施形態では、抗腫瘍活性を増大させるために、CTLA-4標的化剤は、腫瘍微小環境においてTregを選択的に枯渇させるであろう。特定の実施形態では、前記抗CTLA-4 mAbは、Fc媒介性Treg枯渇活性が増大している。Tregの枯渇は、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)又は抗体依存性細胞貪食(ADCP)などのFc媒介性エフェクター機能によって発生し得る。Fc媒介性エフェクター機能は、当技術分野で公知の任意の方法によって導入又は増強することができる。一例では、前記抗体は、他のアイソタイプと比較してエフェクター機能が向上したIgG1アイソタイプである。前記Fc媒介性エフェクター機能は、Fcドメインのアミノ酸配列の変異によってさらに増強することが可能である。例えば、3つの変異(S298A、E333A、及びK334A)をFcドメインのCH領域に導入して、ADCC活性を高めることができる。ADCC媒介性活性に使用される抗体には、通常、ADCC活性を強化するために何らかの修飾が必要となる。前記抗体のFc領域のオリゴ糖がフコース糖単位を持たないように抗体を改変してFcγIIIa受容体への結合を改善することを通常は含む、いくつかの利用可能な技術がある。抗体がアフコシル化されている場合、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)を増加させる効果がある。例えば、BioWa社のPOTELLIGENT(登録商標)テクノロジーは、FUT8遺伝子ノックアウトCHO細胞株を使用して、100%アフコシル化抗体を生成するものである。FUT8は、複合型オリゴ糖の1,6結合におけるGDP-フコースからGlcNAcへのフコースの転移を触媒する1,6-フコシルトランスフェラーゼをコードする、唯一の遺伝子である。ProBioGen社は、MAb上のフコシル化グリカンの産生が低レベルであるように改変されたCHO株を開発したが、FUTノックアウトによるものではない。ProBioGen社のシステムは、細胞によって代謝され得ない糖ヌクレオチドへとデノボフコース合成経路をリダイレクトする細菌酵素を導入するものである。代替のアプローチとして、Seattle Genetics社は、CHO(及びおそらく他の)細胞株において産生するMAb上のフコシル化グリカンの産生が低レベルである独自のフィードシステムを所有する。Xencor社は、腫瘍や他の病理細胞の免疫系の排除を改善するように設計したXmAb Fcドメインテクノロジーを開発した。このFcドメインには2つのアミノ酸変化があり、FcγRIIIaに対して40倍の親和性が得られる。また、FcγRIIaとの親和性が高まり、異物を貪食して消化することで免疫における役割を果たすマクロファージなどの他のエフェクター細胞を動員する可能性がある。
【0030】
3.治療方法
本明細書に記載の抗体組成物又は本明細書に記載の方法に基づき設計される抗体は、免疫応答を上方制御するために使用されてもよい。免疫系の上方調節は、がん及び慢性感染症の処置において特に望ましく、したがって、本明細書に記載の抗体組成物は、かかる障害の処置において有用性を有する。本明細書で使用される「がん」という用語は、細胞の異常な制御されない増殖から生じる新生物又は腫瘍を指す。「がん」には、白血病及びリンパ腫が明示的に含まれる。「がん」という用語は、遠位部位に転移する可能性を有する細胞が関与する疾患も指す。
【0031】
本明細書に記載の抗体組成物は、医薬の製造において使用され得る。前記組成物は、処置を必要とする対象に投与してもよい。前記対象はヒトであり得る。前記対象は、本明細書に記載の疾患又は状態の処置を必要としている場合がある。
【0032】
したがって、本明細書に記載の方法及び組成物はまた、以下を含むがこれらに限定されない、様々ながん又は他の異常な増殖性疾患の処置又は予防において有用であり得る:膀胱、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、及び皮膚のがんを含むがん腫;扁平上皮がんを含む;白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫を含むリンパ系の造血器腫瘍;急性及び慢性骨髄性白血病並びに前骨髄球性白血病を含む、骨髄系の造血性腫瘍;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含む間葉起源の腫瘍;黒色腫、セミノーマ(精上皮腫)、テラトカルシノーマ(胚性奇型腫)、神経芽細胞腫、神経膠腫を含む他の腫瘍;星細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、神経鞘腫を含む中枢及び末梢神経系の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫を含む間葉系腫瘍;及び黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ(角化棘細胞腫)、セミノーマ、甲状腺濾胞がん、及びテラトカルシノーマ(奇形がん)を含む他の腫瘍。アポトーシスの異常によって引き起こされるがんもまた、本発明の方法及び組成物によって処置されると考えられる。そのようながんには、濾胞性リンパ腫、p53変異を伴うがん腫、乳房、前立腺、及び卵巣のホルモン依存性腫瘍、家族性腺腫性ポリポーシスなどの前がん性病変、並びに骨髄異形成症候群が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、悪性腫瘍又は増殖異常性変化(化生及び異形成など)、又は過剰増殖性障害は、卵巣、膀胱、乳房、結腸、肺、皮膚、膵臓、又は子宮における本発明の方法及び組成物によって処置又は予防される。他の特定の実施形態では、肉腫、黒色腫、又は白血病は、本発明の方法及び組成物によって処置又は予防される。
【0033】
前記抗体組成物及びその抗原結合フラグメントは、現在の標準的及び実験的化学療法、ホルモン療法、生物学的療法、免疫療法、放射線療法、又は手術から選択され得るがこれらに限定されない別の抗腫瘍療法と共に使用されてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の分子は、がん、自己免疫疾患、感染症、又は中毒の治療又は予防のために当業者に公知の治療的又は予防的有効量の1又は複数の薬剤、治療用抗体、又は他の薬剤と組み合わせて投与され得る。かかる薬剤には、例えば、上記の生物学的応答修飾因子、細胞毒素、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、有糸分裂阻害剤、又は免疫療法剤のいずれかが含まれる。
【0034】
前記抗体組成物及びその抗原結合フラグメントは、別の抗腫瘍免疫療法と共に使用されてもよい。かかる実施形態では、前記組成物は、免疫調節効果を増強するために、代替免疫調節経路(TIM3、TIM4、OX40、CD40、GITR、4-1-BB、B7-H1、PD-1、B7-H3、B7-H4、LIGHT、BTLA、ICOS、CD27、又はLAG3など)を妨害又は増強するか、又はサイトカイン(例えば、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、GF-β、IFNg、Flt3、BLys)及びケモカイン(例えば、CCL21)などのエフェクター分子の活性を調節する分子と組み合わせて投与される。特定の実施形態は、抗PD-1(ペンブロリズマブ(Keytruda)又はニボルマブ(Opdivo))、抗B7-H1(アテゾリズマブ(Tecentriq)又はデュルバルマブ(Imfinzi))、抗B7-H3、抗B7-H4、抗LIGHT、抗LAG3、抗TIM3、抗TIM4、抗CD40、抗OX40、抗GITR、抗BTLA、抗CD27、抗ICOS、又は抗4-1BBと組み合わせて、本明細書に記載される抗CTLA4抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、二重特異性抗体を含む。さらに別の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、より広範な免疫応答を達成するために、IDO阻害剤などの免疫応答の異なる段階又は側面を活性化する分子と組み合わせて投与される。より好ましい実施形態では、前記抗体組成物及びその抗原結合フラグメントは、自己免疫副作用を悪化させることなく、抗PD-1又は抗4-1BB抗体と組み合わされる。
【0035】
本明細書に記載の組成物は、別の免疫刺激分子に結合する抗体に架橋された抗CTLA4抗体組成物を含む二重特異性抗体を含んでもよい。特定の実施形態は、本明細書に記載される抗CTLA4抗体組成物を含む二重特異性抗体と、抗PD-1、抗B7-H1、抗B7-H3、抗B7-H4、抗LIGHT、抗LAG3、抗TIM3、抗TIM4、抗CD40、抗OX40、抗GITR、抗BTLA、抗CD27、抗ICOS又は抗4-1BBとを含む。かかる抗体は医薬として使用されてもよく、がんを処置するために使用されてもよい。
【0036】
4.産生
本明細書に記載される抗CTLA4抗体及びその抗原結合フラグメントは、真核生物発現系を使用して調製され得る。発現系は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞におけるベクターからの発現を伴い得る。前記抗体はまた、細胞ゲノムに組み込まれているベクター又はベクターの一部から抗体を発現する安定な細胞株から産生されてもよい。
【0037】
本明細書に記載の抗CTLA4抗体及びその抗原結合フラグメントは、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、DEAEイオン交換、ゲル濾過、及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法を使用して精製できる。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチドが親和性マトリックス上に捕獲されることを可能にするアミノ酸配列を含む追加のドメインを含むように改変され得る。例えば、免疫グロブリンドメインのFc領域を含む本明細書に記載される抗体は、プロテインA又はプロテインGカラムを使用して、細胞培養上清又は細胞質抽出物から単離され得る。さらに、抗体の精製を補助するために、c-myc、ヘマグルチニン、ポリヒスチジン、又はFlag(商標)(Kodak社)などのタグを使用することができる。そのようなタグは、カルボキシル基又はアミノ末端のいずれかを含む、ポリペプチド配列内の任意の位置に挿入可能である。有用であり得る他の融合体としては、アルカリホスファターゼなどの、ポリペプチドの検出を補助する酵素が挙げられる。ポリペプチドの精製には免疫親和性クロマトグラフィーが使用されてもよい。
【0038】
5.医薬組成物
本発明はさらに、いずれかの治療的有効量の前述の抗CTLA4抗体組成物又はその抗原結合フラグメント、及び生理学的に許容される担体又は添加剤(excipient)を含む医薬組成物に関する。好ましくは、本発明の組成物は、予防的又は治療的に有効な量の抗CTLA4抗体又はその抗原結合フラグメント及び医薬的に許容される担体を含む。
【0039】
特定の実施形態では、「医薬的に許容される」という用語は、連邦政府又は州政府の規制機関、又は動物、より具体的にはヒトでの使用のために米国薬局方又は他の一般に認められた薬局方によって承認されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全))、添加剤、又は媒体を指す。そのような医薬担体は、水や、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油などの、無菌の液体であり得る。前記医薬組成物が静脈内投与される場合、水は好ましい担体である。生理食塩水、デキストロース水溶液、及びグリセロール溶液も、特に注射剤のための液体担体として使用することができる。適切な医薬添加剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。前記組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤又は乳化剤、例えばポロキサマー又はポリソルベート、又はpH緩衝剤を含んでいてもよい。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。
【0040】
一般に、本発明の組成物の成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプル又は分包などの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、別々に又は混合して単位剤形で供給することができる。前記組成物が注入によって投与される場合、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水を含む注入ボトルでそれを分注可能である。前記組成物が注射により投与される場合、投与前に成分が混合され得るように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0041】
本発明の組成物は、中性又は塩の形態として製剤化され得る。医薬的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンで形成されたもの、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンで形成されたもの含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書に記載の抗CTLA-4抗体組成物又はその抗原結合フラグメントは、特に室温での長期保存を可能にするために凍結乾燥のために製剤化することも可能である。凍結乾燥製剤は、皮下投与に特に有用である。
【0043】
6.投与方法
本明細書に記載の組成物を投与する方法は、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、及び皮下)、硬膜外投与、及び経粘膜投与(例えば、鼻腔内及び経口経路)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本発明の抗体は、筋肉内、静脈内、又は皮下に投与される。前記組成物は、例えば、注入又はボーラス注射、上皮又は粘膜皮膚ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によってなど、任意の簡便な経路によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与することができる。投与は全身的又は局所的であり得る。
【実施例
【0044】
実施例1
低pHで結合活性を失うトレメリムマブバリアントの生成
CTLA-4の遺伝的不活性化は重度の自己炎症性リンパ増殖性疾患をもたらすため、本発明者らは、CTLA-4に拮抗する又はCTLA-4の分解を引き起こす抗体はirAEになりやすいことを認識した。多くの抗原-抗体複合体がリソソームに移動して分解され得るという事実を考慮して、本発明者らは、前記複合体がリソソームに到達する前にCTLA-4への結合を失った抗体は解離し、抗原及び/又は抗体分子の再循環を可能にするであろうことを認識した。リソソームコンパートメントのpHが5.0未満であり得ることから、VL及びVHのCDR領域の部位特異的変異誘発によって、低pHにおいてCTLA-4分子への結合を失うであろうトレメリムマブ及びイピリムマブのバリアントが生成された。ヒスチジンの側鎖はpKが5.97であるため、ヒスチジン残基を組み込んだ抗体は、pH5.5~6.0付近で電荷が変化しやすい。最大限の効果を得るために、トレメリムマブ及びイピリムマブの両方のCDR領域に変異を加えた。
【0045】
野生型(WT)又は変異トレメリムマブ可変領域のいずれかの軽鎖及び重鎖を含む8つの抗体を生成した。Treg枯渇活性は腫瘍拒絶に重要であるため、トレメリムマブのヒトIgG2定常領域をIgG1の当該領域と置換した。よってその生成物はTremeIgG1(AB139)と称され、変異抗体はTremeIgG1M(AB154~159)と称される。前記抗体の組成及び親和性を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
同様のアプローチを用いて、イピリムマブの親重鎖(配列番号13)及び親軽鎖(配列番号9)の変異体を生成した。これにより、配列番号14~18を有する重鎖変異体及び配列番号9~12を有する軽鎖変異体を得た。配列番号1~18に示す配列は例示であり、CDR領域内又は抗体の抗原結合部位近傍において追加的変異を同じ原理に基づいて生じさせることが可能である。
【0048】
前記アプローチを検証するために、トレメリムマブ変異抗体の活性を評価した。CDR領域へのヒスチジンの導入が抗体のpH感度に影響を与えるかどうかを判断するために、その抗原であるポリヒスチジンタグ付きCTLA-4に結合する抗体をpH範囲内で測定した。生データを図1Aに示す。正規化された結合を図1Bに示す。対照として、CTLA-4にpH依存的に結合することが知られており、低/酸性pHで結合が減少する、HL12を使用した。これらのデータは、TremeIgG1が試験した全てのpHでCTLA-4に結合する一方で、全ての変異体が酸性pHではpH感受性の程度が様々であることを示した。とりわけ、Ab154、Ab158、及びAb159は、HL12よりも感受性が低く、一方でAb156及びAb157はより高いpH感受性を示した。重要なことに、後期エンドソームで見られるpH(pH5.5)では、HL12、Ab156、及びAb157は中性pH(pH7.0)と比較して結合が50%以下であったが、Ab158及びAb159は、中性pHと比較して結合が75%以上であった。さらに、Ab158と比較した場合、Ab159は高い親和性にもかかわらずやや高いpH感受性を示したことを考えると、pH依存性は中性pHにおける抗体親和性の低さによるものではない。同様に、Ab157はより高い親和性とより高いpH感受性とを示し、Ab155はCTLA-4に結合せず、本分析から除外した。
【0049】
生理学的条件下において中性pH下で抗CTLA-4抗体がCTLA-4に結合したため、また抗体-抗原複合体が次第に酸性の環境を通過するため、pH感受性及び解離は様々なpHで測定された。図2に示すように、酸性pH及び中性pHでの結合及び洗浄によって識別されたpH感受性抗体も、同様の順で、酸性pHでCTLA-4から解離される。
【0050】
エンドソームの酸性pH内で抗原から抗体を分離するために、TremeIgG1のCDRにおいてチロシン(Y)をヒスチジンに置換した。ヒスチジンは、CDR3の連続する5つのY残基及びCDR2の連続する2つのY残基の数を変えて導入された。CDR3において2つ又は3つの連続するYをHとする変異(Ab157及びAb156)を有するバリアントは、CDR2における1つのYからHへの変異(Ab158)又は2つのYからHへの変異(Ab159)よりも高いpH感受性を示す。Ab156及びAb157は、初期エンドソーム(pH6)でCTLA-4の放出を開始し、後期エンドソームで見られるpH(pH5.5)で示した結合は50%以下であった。一方、Ab158及びAb159は、pH5.5で75%以上の結合を示す。
【0051】
His変異はまた、重鎖可変CDR1(Ab 154)におけるSer31、Tyr32、及びTrp36、又は軽鎖CDR1(Ab155)におけるTyr32及びAsp34の組み合わせ変異で導入された。他の抗体について同等の変異がpH依存的抗原結合に必須であることが報告されているが、それらはTremeIgG1の望ましいpH感受性をもたらしてはいなかった:Ab155がpH5.5で示したCTLA-4結合の損失はわずかであり、中性pHではAb155はCTLA-4への測定可能な結合を示さなかった。前記データは、CDRのチロシンが豊富な領域で複数のチロシンをヒスチジンに置き換えることが、中性pH下における抗原への結合を維持しながらpH感受性である抗体を取得する簡単な方法を提示するものであることを示唆する。
【0052】
実施例2
細胞表面CTLA-4レベルを低下させない抗体の同定
総CTLA-4レベルに対する抗CTLA-4抗体の効果を決定するために、トレメリムマブ抗体を、ヒトCTLA-4 cDNAでトランスフェクトしたCHO細胞と37℃で4時間インキュベートした。細胞中のCTLA-4の総量を、総細胞溶解物のウエスタンブロットによって決定した。図3に示すように、野生型(WT)TremeIgG1とそのバリアントAb154ではCTLA-4の大幅な低減が誘導された。他の変異抗体で誘導された低減は、非常に少なかった。
【0053】
抗体のpH感受性が生細胞でのCTLA-4からの解離を引き起こすかどうかを判断するために、まず抗体を、ヒトCTLA-4を安定して発現する293T細胞の2つの複製と4℃でインキュベートした。30分後、アリコートを37℃で1時間に切り替えた。次に、未結合の抗体を洗い流した。1%TritonX100で溶解した後、プロテインGビーズを使用して抗CTLA-4抗体をプルダウンし、ウエスタンブロットで検出した。図4Aに示すように、同程度の量のCTLA-4タンパク質が、4℃で抗体Ab139、Ab154、及びAb156~Ab159に結合した。37℃でインキュベートした後では、Ab139(TremeIgG1)又はpH感受性の低い他のバリアントと比較して、Ab156及びAb157に付随していたCTLA-4は非常に少なかった(図4B)。対応して、細胞溶解物中の総CTLA-4の量は、Mab156及び157処理細胞においてより高かった。これらのデータは、Ab156及びAb157が37℃で細胞内に到達すると、CTLA-4から解離することを示唆している。
【0054】
TremeIgG1又はそのバリアントの処理後の細胞表面CTLA-4レベルを直接評価する目的で、CTLA-4を安定して発現するCHO細胞を、TremeIgG1(Ab139)又は変異抗体Ab154及びAb156~Ab159と共に、4℃(ダウンレギュレーションなし)又は37℃でインキュベートした。細胞表面抗体結合CTLA-4の量は、抗ヒトCTLA-4試薬を使用して測定した。対照としてHL12及びイピリムマブを含めた。図5に示すように、37℃でTremeIgG1とプレインキュベーションすると、細胞表面CTLA-4が大幅に減少した。Ab154及びイピリムマブで同様の減少が誘発された。注目すべきは、Ab156及びAb157は、非毒性のHL12と同様に、細胞表面CTLA-4を減少させなかった。Ab158及びAb159ではわずかな減少が誘導された。抗体による細胞表面CTLA-4の減少は、抗体のCTLA-4分子への結合のpH依存性と強く相関している(図1)。これらのデータは、pH感受性が細胞表面抗CTLA-4分子の抗体媒介減少(antibody-mediated reduction of cell surface anti-CTLA-4 molecules)の優れた指標であるという仮説と一致している。
【0055】
実施例3
抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)及びpH感受性抗CTLA-4抗体の抗腫瘍活性の増加
近年、抗CTLA-4抗体のADCC活性が、インビボでのTregの枯渇及び腫瘍拒絶を与えるのに必要かつ十分であることが本発明者ら及びその他により証明された(16-18、20)。したがって、抗CTLA-4抗体の潜在的抗腫瘍活性を、ADCC活性のインビトロレポーターアッセイを用いて評価することは、興味深いことである。図6に示すように、TremeIgG1(Ab139)は強力なADCC活性を示すが、pH感受性が最も高い2つの抗体は、特により高い抗体用量で、さらに高いADCC活性を示した。
【0056】
ADCCレポーターアッセイが腫瘍微小環境における選択的Treg枯渇を反映しているかどうかを確認した。MC38腫瘍細胞を受けて14日目の、平均直径7mmの腫瘍を有するマウスに、TremeIgG1及びAb157を注射した。16時間後、腫瘍を採取し、CD4 T細胞におけるTregの割合(%)をフローサイトメトリーで測定した。図7に示すように、TremeIgG1はこの初期の時点ではほとんど効果がなかったが、Ab157はTregの有意な減少を引き起こした。
【0057】
pH感受性抗体が腫瘍拒絶を引き起こすのに有効であるかどうかを試験するために、CTLA-4h/hマウスにMC38腫瘍細胞を皮下注射した。7日後、腫瘍のサイズが直径約5mmに達した時点で、TremeIgG1とそのpH感受性変異体であるAb156及びAb157を含む抗CTLA-4 mAbの低用量でマウスを処置した。腫瘍の成長又は再発を、6.5週間観察した(図8A)。図8B図8Eに示すように、3回の注射後、TremeIgG1は80%のマウスで完全な腫瘍拒絶を引き起こした。注目すべきことに、Ab156及びAb157によって100%の拒絶が達成された。これらのデータは、pH感受性の増加が、おそらくはADCC活性の増加によって、抗CTLA-4抗体の抗腫瘍効果を改善することを示している。
【0058】
実施例4
pH感受性TremeIgG1変異体は、親TremeIgG1抗体より毒性が低い
TremeIgG1バリアント抗体の毒性に対するpH感受性の影響を試験するために、対照IgG1Fc、抗PD-1+対照IgG1Fc、抗PD-1+TremeIgG1、抗PD-1+Ab156、Ab157、Ab158、またはAb159のいずれかを生後10日目から100μg/マウス/注射×4の用量で、10日目、13日目、17日目、及び20日目に投与したマウスを比較した。マウスを生存率について観察した。図9に示すように、対照IgG1Fc又は対照IgG1Fc+抗PD-1を受けたマウスは観察期間を通じて死亡しなかったが、TremeIgG1を受けたマウスは1個体を除いて全てが死亡した。対照的に、Ab157を投与されたマウスは1個体を除いて全てが全期間生存した。TremeIgG1と比較すると、Ab157では生存率の大幅な改善が観察された(P=0.01)。Ab157を使用した場合にも、有意な改善が観察された(P=0.03)。Ab158及びAb159も、TremeIgG1と比較してある程度より良い生存率を示したが、その差は統計的に有意なレベルには達しなかった。それにもかかわらず、pH感受性及び安全性の間には強い相関関係があるようである。15個体のマウスを含む2つの実験のデータを組み合わせると、TremeIgG1を超えるAb157での安全性の改善はさらに明確となる(図10)。これらのデータは、pH感受性が抗CTLA-4抗体の安全性のための優れた代替マーカーであることを示している。
【0059】
まとめると、酸性pHでCTLA-4への結合を保持する抗体は、CTLA-4に結合してリソソーム分解に向かわせることにより、細胞表面CTLA-4レベルの低下を引き起こすことが実証された。結果として、これらの抗体は機能的にアンタゴニストであり、CTLA-4機能を不活性化する。インビボでは、かかる抗体は抗PD-1抗体と組み合わせて使用すると高い毒性を示す。対照的に、より低いpHにおけるCTLA-4への結合を失っている抗体は、CTLA-4が細胞表面にリサイクル可能となることによって細胞表面CTLA-4を減少させることができなかったため、アゴニストとして作用不可能である。注目すべきことに、これらの抗体は親和性が低いにもかかわらず、ADCC活性と腫瘍拒絶においてより有力であると思われる。これらのデータは、抗CTLA-4抗体の低pH感受性を増加させることを、毒性を軽減しながら腫瘍の治療効果を高めるための新たなアプローチとして示している。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
酸性pHにおいてCTLA-4への結合が減少する抗CTLA-4抗体を生成する方法であって、前記抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のうち少なくとも一方における1又は複数のCDR1~CDR3領域内又は近傍にあるチロシンをヒスチジンで置換することを含む、方法。
<2>
軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のうち少なくとも一方における1又は複数のチロシン残基がヒスチジンで置換されているトレメリムマブ又はイピリムマブのアミノ酸配列を含む、酸性pHにおいてCTLA-4への結合が減少する抗CTLA-4抗体バリアント。
<3>
配列番号1、3、5、6、又は8に示される配列を含む重鎖及び配列番号2又は4に示される配列を含む軽鎖を含む、抗CTLA-4抗体。
<4>
配列番号6に示される配列を含む重鎖及び配列番号2に示される配列を含む軽鎖を含む、<3>に記載の抗CTLA-4抗体。
<5>
配列番号14~18のうち1つに示される配列を含む重鎖及び配列番号10~12のうち1つに示される配列を含む軽鎖を含む、抗CTLA-4抗体。
<6>
がん免疫治療を必要とする対象におけるがん免疫治療の方法であって、単独で、又は1又は複数の他の治療と組み合わせて、<1>~<5>のいずれか一項に記載の抗CTLA-4抗体を前記対象に投与することを含む、方法。
<7>
前記他の治療は、PD-1又はPD-L1に結合する抗体である、<6>に記載の方法。
<8>
前記抗PD-1抗体がニボルマブ又はペンブロリズマブである、<7>に記載の方法。
<9>
対象のがんを処置する際に使用するための、<1>~<8>のいずれか一項に記載の抗CTLA-4抗体。
<10>
対象のがんを処置するための医薬の製造における、<1>~<9>のいずれか一項に記載の抗CTLA-4抗体の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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