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特許7490932硬化性樹脂組成物および電子デバイスの製造方法
<図1>
  • 特許-硬化性樹脂組成物および電子デバイスの製造方法 図1
  • 特許-硬化性樹脂組成物および電子デバイスの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240521BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240521BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240521BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20240521BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20240521BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C08L63/00 C
B32B27/34
B32B27/38
C08G59/24
C08G59/32
G03F7/004 511
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019140591
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024870
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】川崎 律也
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-232854(JP,A)
【文献】特開2019-109295(JP,A)
【文献】特開2013-076004(JP,A)
【文献】特開2020-056847(JP,A)
【文献】特開2018-093120(JP,A)
【文献】特開2018-145409(JP,A)
【文献】特開2019-096738(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141717(WO,A1)
【文献】特開2015-179166(JP,A)
【文献】特開2013-100419(JP,A)
【文献】特開2012-072297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G
B32B
G03F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)、感光剤および溶剤を必ず含み、ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2)を任意に含み、光硬化性であり、
電子デバイス製造において、電子デバイスの部材である基板に塗布し、溶剤を乾燥させて樹脂膜とし、その樹脂膜を硬化させてバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層を形成する用途に用いられる、硬化性樹脂組成物であって、
当該硬化性樹脂組成物の不揮発成分全体に対する、前記エポキシ樹脂(A1)と前記エポキシ樹脂(A2)の合計量が、40質量%以上であり、
当該硬化性組成物は前記エポキシ樹脂(A2)を含まないか、または、当該硬化性組成物が前記エポキシ樹脂(A2)を含む場合にはエポキシ樹脂全体中の前記エポキシ樹脂(A2)の量が10~60質量%である、硬化性樹脂組成物(ただし、ポリベンゾオキサゾール前駆体、感光剤、2官能以上のエポキシ化合物、および、熱酸発生剤を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物を除く)。
【請求項2】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を必ず含み、ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2)を任意に含み、充填材を含まず、電子デバイス製造におけるバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層の形成に用いられる、硬化性樹脂組成物であって、
さらに感光剤を含み、光硬化性であり、
当該硬化性樹脂組成物の不揮発成分全体に対する、前記エポキシ樹脂(A1)と前記エポキシ樹脂(A2)の合計量が、40質量%以上であり、
当該硬化性組成物は前記エポキシ樹脂(A2)を含まないか、または、当該硬化性組成物が前記エポキシ樹脂(A2)を含む場合にはエポキシ樹脂全体中の前記エポキシ樹脂(A2)の量が10~60質量%である、硬化性樹脂組成物(ただし、ポリベンゾオキサゾール前駆体、感光剤、2官能以上のエポキシ化合物、および、熱酸発生剤を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物を除く)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A1)は、以下一般式(1)~(3)で表される少なくともいずれかを含む、硬化性樹脂組成物。
【化1】
一般式(1)~(3)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基を表す。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに、フェノキシ樹脂を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに、ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2)を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記感光剤は、光酸発生剤を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記基板は表面に段差を有する基板である、硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2に記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに溶剤を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
表面に段差を有する基板の当該表面に、請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成する製膜工程と、
前記樹脂膜を硬化させて硬化膜とする硬化工程と、
を含む電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記硬化工程の後に、前記硬化膜にレーザを当てて溝を設けるレーザグルービング工程をさらに含む、電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記基板の当該表面には、ポリイミド膜が設けられている、電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス製造において、バッファーコート膜や、再配線層中の絶縁層の形成には、通常、熱および/または光により硬化する硬化性樹脂組成物が適用される。
【0003】
一例として、特許文献1には、重合性二重結合を有するポリエステルアミド酸、エポキシ化合物、および、必要に応じて添加剤を含む熱硬化性組成物が記載されている。特許文献1によれは、この組成物は、耐傷性及びバリア性に優れる硬化膜を与える。
【0004】
別の例として、特許文献2には、特定の部分構造を有するポリイミド樹脂と、エポキシ樹脂とを含有する熱硬化性樹脂組成物が記載されている。特許文献1によれは、この熱硬化性樹脂組成物により、寸法安定性に優れる硬化物や、低温溶融性に優れる絶縁層が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-35068号公報
【文献】特開2013-100419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子デバイスの開発の進展に伴い、バッファーコート膜や再配線層中の絶縁層を形成するための樹脂組成物にも、性能の向上性能が求められている。
本発明者らは、今回、信頼性の高い電子デバイスを製造可能な硬化性樹脂組成物を提供することを目的として、鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
本発明によれば、
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含み、電子デバイス製造におけるバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層の形成に用いられる、硬化性樹脂組成物
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
表面に段差を有する基板の当該表面に、前記硬化性樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成する製膜工程と、
前記樹脂膜を硬化させて硬化膜とする硬化工程と、
を含む電子デバイスの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いて、電子デバイス製造におけるバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層を形成することで、信頼性の高い電子デバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電子デバイスの製造方法の一例を説明するための模式的な図である。
図2】実施例における平坦性の評価方法に関する補足図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0013】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0014】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書における「電子装置」の語は、半導体チップ、半導体素子、プリント配線基板、電気回路ディスプレイ装置、情報通信端末、発光ダイオード、物理電池、化学電池など、電子工学の技術が適用された素子、デバイス、最終製品等を包含する意味で用いられる。
【0015】
<硬化性樹脂組成物>
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含み、電子デバイス製造におけるバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層の形成に用いられる。
【0016】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、適度に剛直な多環骨格であるナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含む。このことにより、バッファーコート膜または再配線層中の絶縁層のガラス転移温度を十分に高くすることができると考えられる。また、バッファーコート膜または再配線層中の絶縁層の熱膨張が抑えられると考えられる。
【0017】
また、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)は、適度に剛直であるため、熱収縮が抑えられると考えられる。また、過度に剛直ではないため、膜形成時の樹脂組成物の流動性を十分に担保しやすいと考えられる。このことにより、例えば段差基板上に平坦な樹脂膜を形成しやすいと考えられる。
【0018】
これら、(i)十分なガラス転移温度/熱膨張の抑制、(ii)平坦な膜形成、等の点で、本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いることで信頼性の高い電子デバイスを製造可能となると考えられる。
【0019】
加えて、ナフタレン骨格の適度な光吸収性により、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、レーザグルービングを含む電子デバイス製造プロセスに好適に適用される(レーザグルービングについては追って詳述する)。
【0020】
念のため述べておくと、上記記載により本発明は限定されない。
【0021】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の含有成分などについて説明を続ける。
【0022】
(ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1))
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、1または2以上の、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含む。
エポキシ樹脂(A1)は、ナフタレン骨格を有する限り、任意のエポキシ樹脂であることができる。
エポキシ樹脂(A1)は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する。
エポキシ樹脂(A1)は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。
エポキシ樹脂(A1)の分子量や分子構造は特に限定されない。
【0023】
エポキシ樹脂(A1)のエポキシ当量は、特に限定されないが、例えば100~400g/eq程度である。
【0024】
エポキシ樹脂(A1)は、好ましくは、以下一般式(1)~(3)で表される少なくともいずれかを含む。
【0025】
【化1】
【0026】
一般式(1)~(3)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基を表す。
【0027】
が1価の有機基である場合、その有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシ基などを挙げることができる。1価の有機基の炭素数は、例えば1~30、具体的には1~20、より具体的には1~10である。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0028】
入手性、合成容易性などの観点からは、Rは水素原子であることが好ましい。
【0029】
後述するレーザグルービング性の観点などから、エポキシ樹脂(A1)は、ある程度多くのナフタレン骨格を含むことが好ましい。
具体的には、エポキシ樹脂(A1)全体中の、エポキシ樹脂(A1)中のナフタレンの炭素骨格(C10の多環炭素骨格)の割合は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これの上限は、例えば80質量%以下である。
【0030】
(ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2))
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、好ましくは、ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2)を1または2以上含む。これにより、例えば、機械物性などの諸特性のバランスが良好な硬化膜を得やすい。
【0031】
エポキシ樹脂(A2)としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、芳香族多官能エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂肪族多官能エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0032】
エポキシ樹脂(A2)は、好ましくは、3官能以上の多官能エポキシ樹脂(1分子中にエポキシ基を3個以上有する多官能エポキシ樹脂)を含む。このことにより、膜が十二分に硬化することとなり、例えば永久膜としての耐熱性や耐久性を高めることができる。また、耐熱性が高いということは、加熱によっても永久膜の性状が変化しにくいということであり、平坦性の一層の向上につながる。
【0033】
3官能以上の多官能エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。これにより、樹脂膜の耐熱性を高めつつ、適切な熱膨張係数を実現できる。
【0034】
(エポキシ樹脂に関する追加情報)
エポキシ樹脂の含有量(エポキシ樹脂(A1)と(A2)の合計量)の下限値は、硬化性樹脂組成物の不揮発成分全体に対して、例えば40質量%以上、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。これにより、最終的に得られる硬化膜の耐熱性や機械的強度を十二分に向上させることができる。
エポキシ樹脂の含有量(エポキシ樹脂(A1)と(A2)の合計量)の上限値は、硬化性樹脂組成物の不揮発成分全体に対して、例えば90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。これにより、性能向上のための任意成分を十分な量用いることができるようになる。その結果、例えば感光性を向上させることができる。
【0035】
硬化性樹脂組成物の「不揮発成分」とは、水や溶剤等の揮発成分を除いた残部を意味する。硬化性樹脂組成物の不揮発成分全体に対する含有量とは、溶剤を含む場合には、硬化性樹脂組成物のうちの溶媒を除く不揮発成分全体に対する含有量を指す。
【0036】
本実施形態の硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂(A1)に加えてエポキシ樹脂(A2)を含む場合、エポキシ樹脂全体中のエポキシ樹脂(A2)の量は、例えば10~60質量%、好ましくは25~50質量%である。
エポキシ樹脂(A2)の量が適度に多いことで、例えば、硬化物のガラス転移温度が高くなりすぎず、機械物性などの諸特性のバランスが特に良好な硬化膜が得られると考えられる。また、エポキシ樹脂(A2)の量が多すぎないことで、相対的にエポキシ樹脂(A1)の量が多くなり、高い信頼性の電子デバイスを製造できるという効果を確実に得られると考えられる。
【0037】
エポキシ樹脂(A1)、(A2)それぞれの分子量は、特に限定されない。分子量は、例えば300~9000、好ましくは500~8000である(分子量分布がある場合には、重量平均分子量がこの範囲にあることが好ましい)。
【0038】
(フェノキシ樹脂)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、好ましくはフェノキシ樹脂を含む。「フェノキシ樹脂」とは、狭義にはビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルである。本明細書では、多官能エポキシ樹脂と多官能フェノール類とを重付加反応させて得られる高分子(広義のフェノキシ樹脂)もフェノキシ樹脂に含める。
【0039】
フェノキシ樹脂には、エポキシモノマー由来の柔軟なエーテル骨格が含まれるため、膜の可撓性を高める機能があると考えられる。よって、例えば電子デバイスの製造時や使用時の急激な温度変化による膨張-収縮による応力を緩和することができ、電子デバイスの信頼性を一層高められると考えられる。
また、フェノキシ樹脂の柔軟性により、段差基板上に平坦な樹脂膜を一層形成しやすくなるとも考えられる。
【0040】
フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂とビスフェノールS型フェノキシ樹脂との共重合フェノキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂またはビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂が好ましい。
フェノキシ樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~80,000、さらに好ましくは35,000~80,000である。
フェノキシ樹脂のMwが比較的大きいことにより、硬化収縮を一層抑えることができ、平坦性を一層向上させることができる。このメカニズムの詳細は不明であるが、Mwが比較的大きいと、分子鎖の熱運動が抑制され、その結果として平坦性が一層向上すると推測される。
一方、溶剤溶解性などの点で、フェノキシ樹脂のMwは100,000以下であることが好ましい。
重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法のポリスチレン換算値として測定される。
【0042】
フェノキシ樹脂は、分子鎖両末端または分子鎖内部にエポキシ基等の反応性基を有してもよい。フェノキシ樹脂中の反応性基は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と架橋反応可能なものである。このようなフェノキシ樹脂を使用することにより、樹脂膜の耐溶剤性や耐熱性を高めることができる。
【0043】
フェノキシ樹脂としては、25℃で固形であるものが好ましく用いられる。具体的には、不揮発分が90質量%以上であるフェノキシ樹脂が好ましく用いられる。このようなフェノキシ樹脂を用いることにより、硬化物の機械的特性を良好にすることができる。
【0044】
本実施形態の硬化性樹脂組成物がフェノキシ樹脂を含む場合、1種のみのフェノキシ樹脂を含んでもよいし、2種以上のフェノキシ樹脂を含んでもよい。
本実施形態の硬化性樹脂組成物がフェノキシ樹脂を含む場合、フェノキシ樹脂の含有量の下限値は、エポキシ樹脂((A1)と(A2)の合計)を100質量部としたとき、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。これにより、十分な可撓性を得ることができる。また、過度な熱硬化の抑制や流動などによる膜表面の平坦化の効果が十二分に得られることになると考えられる。
本実施形態の硬化性樹脂組成物がフェノキシ樹脂を含む場合、フェノキシ樹脂の含有量の上限値は、エポキシ樹脂((A1)と(A2)の合計)を100質量部としたとき、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。これにより、フェノキシ樹脂は後述の溶剤に十分溶解することとなり、塗布性を良好とすることができる。
【0045】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。この熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン等)、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。
他の熱可塑性樹脂が用いられる場合は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
(感光剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、感光剤を含む。これにより、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、通常「光硬化性」となる。
感光剤は、典型的には、光酸発生剤、すなわち、光(典型的には紫外線)を照射されることで酸を発生する化合物を含む。
本実施形態の硬化性樹脂組成物が感光剤を含む場合、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、光酸発生剤から発生した酸が触媒的に作用する化学増幅型の樹脂組成物となることができる(光酸発生剤から発生した酸がエポキシ基の重合を開始させ、酸は触媒的に再生される)。
【0047】
感光剤としては、例えば、オニウム塩化合物が挙げられる。より具体的には、ジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等のヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩のようなスルホニウム塩、トリアリールビリリウム塩、ベンジルピリジニウムチオシアネート、ジアルキルフェナシルスルホニウム塩、ジアルキルヒドロキシフェニルホスホニウム塩などの、光酸発生剤またはカチオン型光重合開始剤が挙げられる。
中でも、パターニング性の観点から、トリアリールスルホニウム塩を用いることが好ましい。
【0048】
オニウム塩化合物の対アニオンとしては、ボレートアニオン、スルホネートアニオン、ガレートアニオン、リン系アニオン、アンチモン系アニオン等が挙げられる。より具体的には、スルホン酸アニオン、ジスルホニルイミド酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、フルオロアンチモン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸アニオンなどが挙げられる。
【0049】
感光剤を用いる場合、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
感光剤を用いる場合、その含有量は、硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、0.3~5.0質量%、好ましくは0.5~4.5質量%、より好ましくは1.0~4.0質量%である。0.3質量%以上とすることにより、パターニング性を高めることができる。また、5.0質量%以下とすることにより、膜中のイオン成分を少なくすることができ、最終的な膜の絶縁性や信頼性を高めることができる。
【0050】
本実施形態の硬化性樹脂組成物に感光剤を含ませて光硬化性とすることで、例えば、段差基板上に硬化膜を形成する際の膜表面の平坦性を一層高めることができると考えられる。
光により基板上の樹脂膜を硬化させることで、膜の熱膨張/収縮や、成分の揮発などによる膜表面の平坦性の影響を小さくし、平坦性を一層高めることができると考えられる。
【0051】
(熱酸発生剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、熱酸発生剤を含んでもよい。
特に、本実施形態の硬化性樹脂組成物が非感光性である場合、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、熱酸発生剤を含むことが好ましい。
【0052】
熱酸発生剤としては、公知のものを挙げることができる。例えば、公知の熱酸発生剤のうち、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩、オキソニウム塩、アンモニウム塩等に該当するものを挙げることができる。
【0053】
熱酸発生剤を用いる場合、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の硬化性樹脂組成物が熱酸発生剤を含む場合、その含有量は、感光剤を用いる場合の含有量と同程度とすることができる。
【0054】
(密着助剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、密着助剤を含むことが好ましい。これにより、例えば基板との密着性をより高めることができる。
【0055】
密着助剤は、特に限定されない。例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、スルフィド基含有シランカップリング剤等のシランカップリング剤を用いることができる。
シランカップリング剤を用いる場合、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えばビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノ-プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基含有シランカップリング剤としては、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシジルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤としては、例えばγ-((メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-((メタ)アククリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ-((メタ)アクリロイルオキシプロピル)メチルジエトキシシラン等が挙げられる。
メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えばビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
ウレイド基含有シランカップリング剤としては、例えば3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
スルフィド基含有シランカップリング剤としては、例えばビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等が挙げられる。
酸無水物含有シランカップリング剤としては、例えば3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-トリエトキシシシリルプロピルコハク酸無水物、3-ジメチルメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0057】
また、密着助剤としては、シランカップリング剤だけでなく、チタンカップリング剤やジルコニウムカップリング剤等も挙げることができる。
【0058】
密着助剤が用いられる場合、単独で用いられてもよいし、2種以上の密着助剤が併用されてもよい。
密着助剤が用いられる場合、その使用量は、硬化性樹脂組成物の不揮発性成分の全量を基準として、好ましくは0.3~5質量%、より好ましく0.4~4質量%、さらに好ましくは0.5~3質量%である。
【0059】
(添加剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、その他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、シリカ等の充填材、増感剤、フィルム化剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0060】
(溶剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、好ましくは溶剤を含む。これにより、段差基板などの基板に対して塗布法により樹脂膜を容易に形成することができる。
溶剤は、通常、有機溶剤を含む。上述の各成分を溶解または分散可能で、かつ、各構成成分と実質的に化学反応しないものである限り、有機溶剤は特に限定されない。
【0061】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、プロピレンカーボネート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロプレングリコールメチルーn-プロピルエーテル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらは単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
【0062】
溶剤は、硬化性樹脂組成物中の不揮発成分全量の濃度が、好ましくは30~75質量%、より好ましくは35~70質量%となるように用いられる。この範囲とすることで、各成分を十分に溶解または分散させることができる。また、良好な塗布性を担保することができ、ひいては平坦性の更なる良化にもつながる。さらに、不揮発成分の含有量を調整することにより、感光性樹脂組成物の粘度を適切に制御できる。
【0063】
<電子デバイスの製造方法>
本実施形態の電子デバイスの製造方法は、
・表面に段差を有する基板のその表面に、上述の硬化性樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成する製膜工程と、
・上記樹脂膜を硬化させて硬化膜とする硬化工程と、
を含む。このような製造方法により、信頼性の高い電子デバイスを製造可能である。
【0064】
好ましくは、本実施形態の電子デバイスの製造方法は、製膜工程と硬化工程に加え、
・硬化工程の後に、硬化膜にレーザを当てて溝を設けるレーザグルービング工程、
・レーザグルービング工程で設けられた溝の位置で基板をダイシングするダイシング工程、
等を含む。
【0065】
上述の硬化性樹脂組成物は、特に、レーザグルービング工程を含む電子デバイス製造方法に好ましく適用される。レーザグルービングとは、基板の個片化に先立って、基板上の樹脂膜をレーザで焼き切って、基板表面を露出させる工程である。レーザグルービング工程自体は、電子デバイスの製造において公知であり、例えば特開2019-96738号公報の図6などで説明されている。
【0066】
以下、製膜工程、硬化工程、レーザグルービング工程およびダイシング工程を含む、本実施形態の電子デバイスの製造方法の具体的な態様の一例を説明する。以下で説明する例では、硬化性樹脂組成物は感光剤を含み光硬化性である。また、最終的に形成される硬化膜は永久膜である。
【0067】
・樹脂膜5の形成
まず、一方の面側に中間層3と段差10が設けられた基板1の、その一方の面側に、上述の硬化性樹脂組成物を用いて樹脂膜5を形成する(図1のA)。
樹脂膜5の形成方法は特に限定されない。例えば、スピンコート法、噴霧塗布法、浸漬法、印刷法、ロールコーティング法、インクジェット法などを挙げることができる。樹脂膜5を形成する方法は、典型的にはスピンコートである。
樹脂膜5の形成においては、加熱乾燥を行ってもよい。加熱乾燥の温度は、通常50~180℃、好ましくは60~150℃である。また、加熱乾燥の時間は、通常30~600秒、好ましくは30~300秒程度である。この加熱乾燥で溶剤を十分に除去することができる。加熱は、典型的にはホットプレートやオーブン等で行う。
樹脂膜5の厚み(段差10が無い部分の厚み)は、例えば20~50μm、好ましくは25~40μmである。この厚みは、段差10の高さより大きければよい。
【0068】
基板1は特に限定されない。基板1としては、例えば、シリコンウェハ、セラミック基板、アルミ基板、SiC基板、SiN基板、GaN基板などが挙げられる。基板1は、未加工の基板であってもよいし、素子および/または配線を備える基板であってもよい。
中間層3は、例えばポリイミド膜である。
段差10は、典型的には何らかの素子や配線、金属バンプなどである。段差10の高さは、例えば1~30μm、好ましくは2~25μmである。
【0069】
・露光
樹脂膜5が形成された後、樹脂膜5に対し、露光を行うことができる(図1のB)。これにより、樹脂膜5が硬化する。
前述のように、光により樹脂膜5を硬化させることで、膜の熱膨張/収縮や、成分の揮発などによる膜表面の平坦性の影響が小さくなり、平坦性が一層高まると考えられる。
露光用の活性光線としては、例えばX線、電子線、紫外線、可視光線などである。波長でいうと200~500nmの活性光線が好ましい。装置の取り扱いやすさの点で、光源は水銀ランプのg線、h線又はi線であることが好ましい。また、2つ以上の光線を混合して用いてもよい。
露光工程における露光量は、通常40~1500mJ/cm、好ましくは80~1000mJ/cmの間で適宜調整される。
【0070】
ちなみに、樹脂膜5が非感光性である場合には、例えば、露光のかわりに加熱による硬化を行うことが考えられる。また、露光と加熱を両方してもよい。
【0071】
・レーザグルービング
露光(および/または加熱)によって樹脂膜5を硬化させた後、その樹脂膜5に対してレーザ光を照射し、樹脂膜5の一部を焼き切って「溝」を形成する(図1のC)。この溝が、基板1を個片化する際の分割ラインの目安となる。この工程はしばしば「レーザグルービング工程」と呼ばれ、はんだバンプや金属配線等により段差が形成されたシリコンウェハを個片化(ダイシング)する工程を含む場合の前工程として知られている(例えば特開2019-096738号公報)。レーザグルービング工程においては、通常、樹脂膜5だけでなく中間層3も焼き切られ、基板1の表面が露出する。
レーザ光の波長は、典型的には355nmである。レーザの出力、レーザがパルスレーザの場合はその周波数、レーザを動かすスピードなどは、特に限定されない。レーザグルービングが可能である限り任意の条件を採用することができる。
レーザグルービングは、具体的には、πレーザグルービング、ωレーザグルービングなどとして知られている、細い溝(グルーブ)を2本形成する方法であってもよい。
【0072】
本実施形態においては、樹脂膜5が、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含む硬化性樹脂組成物により形成されていることに起因して、レーザグルービング性が良好である。「レーザグルービング性が良好」とは、例えば、レーザグルービングで焼き切った樹脂膜5および/または中間層3の近傍に、剥離が発生しないことを言う。
【0073】
レーザグルービングは、樹脂膜5を「発熱させて焼き切る」プロセスである。よって、樹脂膜5は、適度にレーザ光を吸収し、そして吸収された光が熱に変換されることが好ましい。
この点、樹脂膜5は、ナフタレン骨格を含むため、レーザグルービングに通常用いられる波長355nmのレーザ光を適度に吸収する。このため、波長355nmのレーザ光によりレーザグルービングを良好に行うことができる。
【0074】
また、樹脂膜5がナフタレン骨格を含むことにより、樹脂膜5のレーザ光の吸収性と、中間層3(典型的にはポリイミド膜)のレーザ光の吸収性とがおおよそ同程度となる。そして、樹脂膜5と中間層3の両方を一括してレーザグルービングする際にも、剥離等を発生しづらくすることができる。
ちなみに、本発明者らの知見によれば、樹脂膜5がナフタレン骨格を含まず、レーザ光をあまり吸収しない場合には、レーザグルービングにより中間層3のみが加熱される。そして、樹脂膜5をレーザグルービングにより適切に除去することができない場合がある。
【0075】
特に、本実施形態には、樹脂膜5がナフタレン骨格を含むことにより、前述の露光(図1のB)で樹脂膜5を適切に光硬化させることができ、かつ、レーザグルービング性を良好とすることができる、という利点がある。具体的には以下の通りである。
【0076】
光硬化には、通常、波長365nmのi線が用いられる。この場合、樹脂膜5の表面から下部までを十分に硬化させるためには、波長365nmの光の透過性が十分大きいことが好ましい。
一方で、前述のように、レーザグルービングには、通常、波長355nmのレーザ光が用いられる。そして、良好なレーザグルービング性の観点では、波長355nmの光の吸収性が十分大きい(透過性が十分小さい)ことが好ましい。
つまり、波長355~365nm付近の近紫外光の吸収性の観点で、良好な「光硬化性」と良好な「レーザグルービング性」は両立させ難いように思われる。
【0077】
しかし、ナフタレン骨格は、波長355~365nm付近の近紫外光を「適度に吸収」し、また、「適度に透過」する。そのため、電子デバイスの製造で通常考えられる厚みの範囲において、樹脂膜5の光硬化性とレーザグルービング性を両立されることができる。
【0078】
・ダイシング
レーザグルービングにより樹脂膜5(および中間層3)に溝が形成された後、その溝の部分にダイシングブレードを当てるなどして、基板1をダイシングする(図1のD)。使用可能なダイシングブレードや、ダイシングの具体的な条件などについては、従来技術を適宜適用することができる。
【0079】
以上のような工程により、個片化された電子素子を得ることができる。
個片化された電子素子は、例えば、ボンディング、封止などのプロセスを経て、最終製品としての電子デバイスとなる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(A1)を含み、電子デバイス製造におけるバッファーコート膜または再配線層中の絶縁層の形成に用いられる、硬化性樹脂組成物。
2.
1.に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A1)は、前掲の一般式(1)~(3)で表される少なくともいずれかを含む、硬化性樹脂組成物。
一般式(1)~(3)中、R は、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基を表す。
3.
1.または2.に記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに、フェノキシ樹脂を含む、硬化性樹脂組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに、ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂(A2)を含む、硬化性樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物であって、
さらに感光剤を含み、光硬化性である、硬化性樹脂組成物。
6.
5.に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記感光剤は、光酸発生剤を含む、硬化性樹脂組成物。
7.
表面に段差を有する基板の当該表面に、1.~6.のいずれか1つに記載の硬化性樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成する製膜工程と、
前記樹脂膜を硬化させて硬化膜とする硬化工程と、
を含む電子デバイスの製造方法。
8.
7.に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記硬化工程の後に、前記硬化膜にレーザを当てて溝を設けるレーザグルービング工程をさらに含む、電子デバイスの製造方法。
9.
7.または8.に記載の硬化性樹脂組成物であって、
前記基板の当該表面には、ポリイミド膜が設けられている、電子デバイスの製造方法。
【実施例
【0081】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0082】
<硬化性樹脂組成物の調製>
・実施例1~5および比較例1
表1に記載された各成分を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させて溶液とした。その後、溶液を0.2μmのポリプロピレンフィルターで濾過した。これにより、25℃で、粘度が約1000mPa・sの硬化性樹脂組成物を得た(粘度が約1000mPa・sとなるように、PGMEA量を適宜調整した)。
硬化性樹脂組成物の粘度は、コーンプレート型粘度計(TV-25、東機産業製)を用いて、回転速度を100rpmに設定して測定した。
【0083】
・比較例1
特開平11-237736号公報の実施例1に記載の樹脂組成物(ポリベンゾオキサゾール前駆体含有)を準備した。
【0084】
表1の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0085】
・ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂
ナフタレンエポキシA:DIC社製のエポキシ樹脂「HP-6000」、一般式(1)において全てのRが水素原子であるもの
ナフタレンエポキシB:DIC社製のエポキシ樹脂「HP-4032D」、一般式(3)においてRが水素原子であるもの
ナフタレンエポキシC:DIC社製のエポキシ樹脂「HP-4700」、一般式(2)において全てのRが水素原子であるもの
【0086】
・ナフタレン骨格を有しないエポキシ樹脂
エポキシ樹脂A:以下構造で表される多官能エポキシ樹脂(日本化薬社製「EPPN201」、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、25℃で固形、nはおよそ5)
【0087】
【化2】
【0088】
・フェノキシ樹脂
フェノキシ樹脂A:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「jER1256」、分子量約50,000))
【0089】
・光酸発生剤
光酸発生剤A:トリアリールスルホニウムボレート塩(サンアプロ社製、CPI-310B)
【0090】
・密着助剤
密着助剤A:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製のシランカップリング剤、KBM-403)
【0091】
・界面活性剤
界面活性剤A:フッ素系界面活性剤(3M社製、FC4432)
【0092】
・熱酸発生剤
熱酸発生剤A:三新化学工業社製「サンエイドSI-B3」
【0093】
【表1】
【0094】
表1において、界面活性剤以外の成分の数値は、質量部を表す。界面活性剤の数値は、溶剤(PGMEA)を除く組成物全体中の界面活性剤の濃度を表す。
【0095】
<平坦性の評価>
実施例1~3および比較例1の硬化性樹脂組成物(感光性)においては、まず、以下の手順で硬化膜付きウェハを得た。
(1)基板として、高さ3~4μm、幅100μmの、Cuにより形成された段差(凸状の部分)が、200μmピッチで設けられた、直径8インチのシリコンウェハを準備した。
(2)上記基板の段差がある面に、スピンコートにより硬化性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させた。これにより基板上に樹脂膜を形成した。
(3)上記(2)で形成された感光性樹脂膜に対して、手動露光機(オーク製作所製・HMW-201GX、g線、i線、h線などの混合光)を用いて、800mJ/cmの露光量で全面露光した。
(4)上記(3)の露光の後、窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により樹脂膜を完全に硬化させた。
【0096】
実施例4の硬化性樹脂組成物(非感光性)においては、(3)の露光を行わなかった以外は、上記と同様にして硬化膜付きウェハを得た。
【0097】
上記で得られた硬化膜付きウェハを割り、その断面を拡大して撮影した。
撮影された画像に基づき、図2に示されるH(凸状の段差の上にある硬化膜の厚みと、凸状の段差の高さとの合計)、H(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)、および、H(凸状の段差の高さ)を求めた。
-Hの絶対値|H-H|(単位:μm)、および、{|H-H|/H}×100(単位:%)の評価式により、平坦性を評価した(実施例ごとに基板が異なり、Hが完全には同じでないため、前者の評価式に加え、「段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性」を表す後者の評価式も用いて評価した)。
評価式の値が10%以下の場合をOK、10%超の場合をNGとした。
【0098】
<ガラス転移温度の測定>
実施例1~3および比較例1の硬化性樹脂組成物(感光性)においては、まず、以下の手順でガラス転移温度測定用硬化膜を得た。
(1)シリコンウェハ上に、スピンコートにより硬化性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させた。これにより基板上に樹脂膜を形成した。
(2)樹脂膜に対して、手動露光機(オーク製作所製・HMW-201GX、g線、i線、h線などの混合光)を用いて、800mJ/cmの露光量で全面露光した。
(3)窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により樹脂膜を完全に硬化させた。これにより硬化膜付きウェハを得た。
(4)硬化膜付ウェハを、幅4.5mm/長さ20mmに、カットスピード10mm/secにてハーフダイシングし、その後、1%フッ酸水溶液に30分浸して測定用フィルムを剥離した。さらにその後、硬化膜に付着したフッ酸水溶液を十分に水洗した。
(5)剥離・水洗された硬化膜を、オーブンを用いて、60℃で10時間乾燥し、そして室温(23℃)まで冷却した。これをガラス転移温度測定用硬化膜とした。
【0099】
実施例4の硬化性樹脂組成物(非感光性)においては、(2)の露光を行わなかった以外は、上記と同様にして硬化膜付きウェハを得た。
【0100】
得られたガラス転移温度測定用硬化膜を、日立ハイテクサイエンスの熱機械分析装置「TMA-6000」にセットした。そして、サンプルに引張荷重30mNをかけつつ、昇温速度5℃/分で10℃から400℃まで昇温して、横軸:温度、縦軸:伸び量のグラフを描いた。このグラフにおける高温側の直線部分の延長線と、低温側の直線部分の延長線との交点を、ガラス転移温度(Tg)とした。
【0101】
<熱膨張係数の測定>
上記の、熱機械分析装置を用いたガラス転移温度の測定で得られたデータに基づき、50~100℃における熱膨張係数を算出した。
【0102】
<レーザグルービング性の評価>
実施例1~3および比較例1の硬化性樹脂組成物(感光性)においては、以下の手順で評価した。
(1)硬化ポリイミド膜付きのシリコンウェハのポリイミド硬化膜が設けられた面側に、スピンコートにより硬化性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させた。これにより基板上に樹脂膜を形成した。
(2)感光性樹脂膜に対して、手動露光機(オーク製作所製・HMW-201GX、g線、i線、h線などの混合光)を用いて、800mJ/cmの露光量で全面露光した。
(3)窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により樹脂膜を完全に硬化させて硬化膜とした。
(4)株式会社ファインデバイス製の装置「MWL-WS05T」を用いて、以下条件でレーザグルービングを行い、硬化膜および硬化ポリイミド膜を焼き切った。その後、レーザグルービングにより形成されたライン上を、カットスピード10mm/secでダイシングした(すなわち、シリコンウェハをカットした)。
[レーザグルービング条件]
レーザ波長:355nm
出力:0.8W
繰り返し周波数:10kHz
加工速度:500mm/min
【0103】
カットされたシリコンウェハの断面を走査電子顕微鏡 (SEM)で観察し、下記判断基準に基づいてOK/NGで評価した。
OK:断面のSEM観察において、硬化膜と硬化ポリイミド膜の間に剥離が全くない。
NG:レーザーグルービング・ダイシング後のダイシングライン断面のSEM観察において、硬化膜と硬化ポリイミド膜の間の剥離が見られる。
【0104】
評価結果をまとめて表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示されるとおり、実施例1~4の硬化性樹脂組成物を用いた評価において、平坦性は良好であった。また、実施例1~4の硬化性樹脂組成物の硬化物の、ガラス転移温度は十分大きく、熱膨張係数は十分小さかった。これらより、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物を用いることで、信頼性の高い電子デバイスを製造可能なことが示された。
【0107】
加えて、実施例1~4の硬化性樹脂組成物の硬化物については、レーザグルービング性も良好であった。レーザグルービングに用いられた波長355nmのレーザ光を適度に吸収したためと考えられる。
【符号の説明】
【0108】
1 基板
3 中間層
5 樹脂膜
10 段差
図1
図2