(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】シアン化物不溶化材
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20240521BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
C09K3/00 S
(21)【出願番号】P 2020005254
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】井出 一貴
(72)【発明者】
【氏名】大西 健司
(72)【発明者】
【氏名】日野 良太
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-119674(JP,A)
【文献】特開昭50-075976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00-10
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン汚染土壌に対し、アスファルト乳剤と、
前記シアン汚染土壌に対し2重量%のポリ硫酸第二鉄と、
を添加することを含む
シアン汚染土壌のシアン化物不溶化
方法。
【請求項2】
前記アスファルト乳剤は、カチオン系であることを特徴とする請求項1記載の
シアン汚染土壌のシアン化物不溶化
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化物不溶化材に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン、カドミウム、六価クロム、水銀、セレン、鉛、砒素、ふっ素、ほう素、及びその化合物は、土壌汚染対策法において第2種特定有害物質(重金属等)に分類されるものである。重金属等は、毒性が強いため、汚染土壌からの溶出を抑制する必要がある。
【0003】
ここで、特許文献1には酸化マグネシウムを含む重金属等の不溶化材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、土壌に含まれるシアン化物を不溶化するための新規な材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、アスファルト乳剤を含むシアン化物不溶化材である。
また、アスファルト乳剤は、カチオン系であることが好ましい。
また、シアン化物不溶化材は、鉄系の無機凝集剤を更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の材は、土壌中に含まれるシアン化物を不溶化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1~5、及び比較例1のシアン溶出量を示すグラフである。
【
図2】実施例1~5、及び比較例1のコーン指数を示すグラフである。
【
図3】実施例6~10のシアン溶出量を示すグラフである。
【
図4】実施例6~10のコーン指数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0010】
==シアン化物不溶化材==
本明細書に開示されるシアン化物不溶化材は、アスファルト乳剤を含む。
【0011】
[シアン化物]
シアン化物は、シアン化物イオン(CNー)をアニオンとして有する物質である。シアン化物は、たとえば、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムやその錯塩(たとえばフェロシアン化カリウム)である。シアン化物は、工場や産業廃棄物処理場等の土壌中に多く含まれる。以下、シアン化物を含む土壌を「シアン汚染土壌」という場合がある。
【0012】
[アスファルト乳剤]
アスファルト乳剤は、アスファルトを水中に分散させ、粘度を低下させたものである。すなわち、アスファルト乳剤は、アスファルトを乳化させたものである。アスファルト乳剤は、常温で使用することができる。なお、アスファルト乳剤は、アスファルト及び水の他、乳化剤を含む。
【0013】
アスファルト乳剤は、乳化剤の種類により、カチオン系、アニオン系、ノニオン系に分類することができる。シアン化物の不溶化の観点からは、カチオン系がより好ましい。カチオン系のアスファルト乳剤としては、たとえば、日本工業規格(JIS)で規定されているPK-1、PK-2、PK-3、PK-4、MK-1、MK-2、MK-3がある。
【0014】
[鉄系の無機凝集剤]
シアン化物不溶化材は、鉄系の無機凝集剤を更に含んでもよい。鉄系の無機凝集剤は、たとえば、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄である。
【0015】
==シアン化物不溶化材の使用について==
シアン化物不溶化材をシアン汚染土壌に添加することにより、シアン化物の溶出を抑制することができる。すなわち、シアン化物の不溶化を行うことができる。また、シアン化物不溶化材をシアン汚染土壌に添加することにより、土質が改良され、土壌の固化を促進することができる。
【0016】
シアン化物の不溶化及びシアン汚染土壌の固化の観点から、アスファルト乳剤は、シアン汚染土壌に対し5重量%~50重量%添加することが好ましく、10重量%~30重量%添加することがより好ましい。
【0017】
同様に、シアン化物の不溶化及びシアン汚染土壌の固化の観点から、鉄系の無機凝集剤は、シアン汚染土壌に対し0.5重量%~5重量%添加することが好ましく、約2重量%添加することがより好ましい。
【0018】
なお、シアン化物不溶化材を添加するシアン汚染土壌が広範囲にわたる場合、水道水等で希釈したシアン化物不溶化材を用いることがより好ましい。
【0019】
==実施例==
[アスファルト乳剤によるシアン化物の不溶化について]
アスファルト乳剤によるシアン化物の不溶化について実験を行った。
【0020】
(シアン汚染土壌)
シアン汚染土壌は、荒木田土1.5kgにフェロシアン化カリウム水溶液(100mL辺りのシアン化物の量が0.27g、全シアン濃度1000mg/L)を21mL、及び水道水を0.55L添加し、撹拌混合することにより作成した。
【0021】
(アスファルト乳剤)
実施例1-3は、アスファルト乳剤としてカチオン系の剤を用いた例である。カチオン系のアスファルト乳剤は、pK-3(東亜道路工業株式会社製)を使用した。実施例4及び5は、アスファルト乳剤としてノニオン系の剤を用いた例である。ノニオン系のアスファルト乳剤は、MN-1(東亜道路工業株式会社製)を使用した。一方、比較例1は、アスファルト乳剤を用いていない例である。
【0022】
(アスファルト乳剤の添加量)
シアン汚染土壌に対するアスファルト乳剤の添加割合は、以下の表1に示すとおりである。添加割合は、シアン汚染土壌に対するアスファルト乳剤の重量比である。たとえば、実施例1は、シアン汚染土壌160gに対し、アスファルト乳剤を16mL添加している(すなわち、添加割合は10重量%となる)。なお、表1に示すアスファルト乳剤の添加量は原液の量である。
【0023】
【0024】
(実験方法)
実施例1-5については、アスファルト乳剤を添加したシアン汚染土壌を室温22℃のドラフトチャンバー内で2日間養生した。比較例1については、シアン汚染土壌を室温22℃のドラフトチャンバー内で2日間養生した。その後、シアン溶出量の分析を行った。
【0025】
シアン溶出量の分析は、(1)環境省告示18号に基づく溶出試験を行った後、(2)JIS規格K0102に基づき(1)の試験により得られた溶出液中に含まれるシアン濃度を測定した。
【0026】
(実験結果)
図1に示したように、アスファルト乳剤を添加した実施例は、比較例1と比べ、シアン溶出量が抑制された。また、カチオン系のアスファルト乳剤を用いた場合(実施例1-3)、シアン溶出量をより抑制することができた。更に、カチオン系のアスファルト乳剤の添加量を増やすことにより、シアン溶出量をかなり低く抑制することができた。
【0027】
以上から明らかなように、アスファルト乳剤を添加することにより、土壌に含まれるシアン化物を不溶化することができた。
【0028】
[アスファルト乳剤によるシアン汚染土壌の固化について]
アスファルト乳剤によるシアン汚染土壌の固化について実験を行った。
【0029】
(実験方法)
実施例1-5及び比較例1で使用したシアン汚染土壌(実施例1-5については、アスファルト乳剤を添加したシアン汚染土壌を室温22℃のドラフトチャンバー内で2日間養生したもの。比較例1については、シアン汚染土壌を室温22℃のドラフトチャンバー内で2日間養生したもの)に対し、フォールコーン実験を行った。
【0030】
フォールコーン実験は、フォールコーン貫入試験(地盤工学会基準(JIS 1431-1995)の「ポータブルコーン貫入試験方法」参照)を行い、フォールコーン貫入量を測定した。その後、測定したフォールコーン貫入量を、予め求められているフォールコーン貫入量とコーン指数の関係式(特許5448380号の
図1参照)に当てはめることにより、コーン指数を求めた。表2は、実施例1-5及び比較例1のシアン汚染土壌を用いた場合のフォールコーン貫入量及びコーン指数を示したものである。
【0031】
【0032】
(実験結果)
図2に示したように、アスファルト乳剤を添加した実施例は、比較例1と比べ、コーン指数が高い値を示した。また、アスファルト乳剤の添加量が同様の場合、ノニオン系のアスファルト乳剤に比べて、カチオン系のアスファルト乳剤の方が高いコーン指数を示した。更に、アスファルト乳剤の添加量を増やした場合には、より高いコーン指数を示した。
【0033】
以上から明らかなように、アスファルト乳剤を添加することにより、シアン汚染土壌を固化することができた。
【0034】
[鉄系の無機凝集剤について]
次に、アスファルト乳剤及び鉄系の無機凝集剤を添加した場合のシアン化物の不溶化、及びシアン汚染土壌の固化について実験を行った。
【0035】
(シアン汚染土壌)
実施例1等で使用したシアン汚染土壌と同様である。
【0036】
(アスファルト乳剤)
実施例6-8は、実施例1-3と同様、カチオン系のアスファルト乳剤(pK-3(東亜道路工業株式会社製))を使用した。実施例9及び10は、実施例4及び5と同様、ノニオン系のアスファルト乳剤(MN-1(東亜道路工業株式会社製))を使用した。
【0037】
(鉄系の無機凝集剤)
実施例6-10は、鉄系の無機凝集剤としてポリテツ(登録商標。日鉄鉱業株式会社製)を用いた例である。
【0038】
(アスファルト乳剤の添加量)
シアン汚染土壌に対するアスファルト乳剤及びポリテツの添加割合は、以下の表3に示すとおりである。アスファルト乳剤の添加割合は、シアン汚染土壌に対するアスファルト乳剤の重量比である。ポリテツの添加割合は、シアン汚染土壌に対するポリテツの重量比である。たとえば、実施例6は、シアン汚染土壌160gに対し、アスファルト乳剤を16mL添加し(すなわち、添加割合は10重量%)、ポリテツを3.2mL添加(すなわち、添加割合は2重量%)した例である。なお、表3に示すアスファルト乳剤及びポリテツの添加量は、原液の量である。
【0039】
【0040】
(実験方法)
シアン溶出量の分析、及びコーン指数の測定については、実施例1-5及び比較例1と同様である。
【0041】
(実験結果)
図3に示したように、シアン汚染土壌にアスファルト乳剤及びポリテツを添加することにより、アスファルト乳剤単独の場合と比べてもシアン溶出量をかなり抑制することができた。
【0042】
また、
図4に示したように、シアン汚染土壌にアスファルト乳剤及びポリテツを添加することにより、アスファルト乳剤単独の場合と比べ、コーン指数は更に高い値を示した。また、カチオン系のアスファルト乳剤を用いた場合(実施例6-8)、コーン指数がより高い値を示した。更に、アスファルト乳剤の添加量を増やした場合には、より高いコーン指数を示した。
【0043】
以上から明らかなように、シアン汚染土壌に対し、アスファルト乳剤と併せてポリテツを添加することにより、シアン化物の不溶化を更に抑制することができた。また、シアン汚染土壌に対し、アスファルト乳剤と併せてポリテツを添加することにより、土壌の固化を更に進めることができた。