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特許7490963水系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】水系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240521BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20240521BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240521BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20240521BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240521BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240521BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20240521BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/324
B41J2/01 501
B41J2/16 401
B41J2/16 507
B41J2/14 501
B41M5/00 120
C09D11/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020008188
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021116309
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小坂 光昭
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-026965(JP,A)
【文献】特開2005-097433(JP,A)
【文献】特開平11-181340(JP,A)
【文献】特開2018-177943(JP,A)
【文献】特開2018-002778(JP,A)
【文献】特開2006-130868(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075715(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドからインクを吐出して行うインクジェット記録方法に用いられる水系インクジェットインク組成物であって、
前記インクジェットヘッドは、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有し、
自己分散顔料と、下記式(1)で表される化合物を含む溶剤と、を含有し、
パルスNMRにより測定される前記自己分散顔料の比表面積が3~18m2/g以下であり、
前記自己分散顔料の体積平均粒子径が50~150nmである、水系インクジェットインク組成物。
1-O-R2-OH ・・・(1)
(式(1)中、R1は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R2は、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基、又は下記式(2)で表される基を示す。
3-O-R4 …(2)
(式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す。))
【請求項2】
前記溶剤が、さらにモノアルコール類を含む、請求項1記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記水系インクジェットインク組成物の総量に対する、前記モノアルコール類の含有量が1質量%以上6質量%以下である、請求項2記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項4】
パルスNMRにより測定される前記自己分散顔料の比表面積が~18m2/gである、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記自己分散顔料の体積平均粒子径が90nm以上150nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記水系インクジェットインク組成物の総量に対する、前記自己分散顔料の含有量が4質量%以上8質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記自己分散顔料がカーボンブラックからなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記水系インクジェットインク組成物の総量に対する、前記式(1)で表される化合物の含有量が2質量%以上16質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項9】
前記式(1)で表される化合物の分子量が50以上150以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項10】
前記式(1)中、R1が水素原子である、請求項1~9のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項11】
前記式(1)で表される化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される1種以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項12】
前記ノズルが、エッチング処理と、エッチング側壁保護処理とを交互に繰り返し複数行うことにより形成されたものである、請求項1~11のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出する吐出工程を備え、
前記インクジェットヘッドが、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有するインクジェットヘッドである、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェット記録装置は、インクを吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、ノズルからインクを吐出させる駆動手段と、データに応じて駆動手段を制御する制御手段とを備えている。吐出ヘッドのノズルは、高配列密度及び多ノズル化を実現するためにシリコン基板をドライエッチングすることにより形成される。このようにして形成されたノズルの側壁面の形状は、スキャロップ形状と呼ばれるホタテ貝の貝殻表面に認められるような波形の形状であることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ノズルの側壁面の形状がスキャロップ形状であるノズルを有するインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられる水系インク組成物を開示している。この文献によれば、20℃における粘度、20℃における降伏値、及び水を25%蒸発させたときの20℃における降伏値がそれぞれ所定範囲内である水系インク組成物は、高温環境下においても連続印字安定性(以下、「印字安定性」を単に「印字性」ともいう。)に優れていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-002778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、ノズルの側壁面の形状がスキャロップ形状であるノズルを有するインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられる水系インク組成物に対して、自己分散顔料を含有するインクは、未だ吐出信頼性が不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、自己分散顔料と、特定の化合物を含有する溶剤とを含む水系インクジェットインク組成物は、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、インクジェットヘッドからインクを吐出して行うインクジェット記録方法に用いられる水系インクジェットインク組成物であって、上記インクジェットヘッドは、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有し、自己分散顔料と、下記式(1)で表される化合物を含む溶剤と、を含有する。
1-O-R2-OH ・・・(1)
(式(1)中、R1は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R2は、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基、又は下記式(2)で表される基を示す。
3-O-R4 …(2)
(式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す。))
本発明のインクジェット記録方法は、本発明の水系インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出する吐出工程を備え、前記インクジェットヘッドが、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有するインクジェットヘッドである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ノズルの一部の詳細な形状を示す断面図である。
図2図2は、インクジェットの一部を示す断面図である。
図3図3は、インクジェット記録装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
本明細書において、「吐出信頼性」とは、間欠印字性、常温及び高温連続印字性に優れる性質をいう。本明細書において、「間欠印字性」とは、吐出を止めて、次の吐出を行うまでの時間が長い場合であっても、安定して吐出できる性能をいう。
本明細書において、「常温連続印字性」とは、常温で連続印刷しても、安定して吐出できる性質を言い、例えば、25℃程度で7~9時間連続して印刷しても、安定して吐出できる性質を言う。
本明細書において、「高温連続印字性」とは、比較的高温で連続印刷しても、安定して吐出できる性質を言う。例えば、30~50℃の高温で7~9時間連続して印刷しても、安定して吐出できる性質などである。
【0011】
[水系インクジェットインク組成物]
本実施形態の水系インクジェットインク組成物は、インクジェットヘッドからインクを吐出して行うインクジェット記録装置に用いられる。上記インクジェットヘッドは、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有する。水系インクジェットインク組成物は、自己分散顔料と、下記式(1)で表される化合物を含む溶剤とを含有する。
以下、水系インクジェットインク組成物を単に「水系インク」又は「インク組成物」ともいう。
1-O-R2-OH ・・・(1)
(式(1)中、R1は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R2は、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基、又は下記式(2)で表される基を示す。
3-O-R4 …(2)
(式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す。))
【0012】
吐出ヘッドのノズルは、高配列密度及び多ノズル化を実現するために、側壁面にスキャロップ形状を有する。このような形状を有する場合、顔料を含有する水系インクの吐出時にアライメント劣化、いわゆる位置ずれが起きやすいという問題がある。また、側壁面にスキャロップ形状を有する場合、ノズル内部の表面積が大きいことに起因して、水系インクを吐出してメニスカスが引き込まれた時に、ノズル内部で水系インクが乾燥し、顔料を主成分とする固形分がノズル内部に付着して堆積する。その結果、吐出方向のズレが生じたり、水系インクを吐出できなかったりする。この問題に対して、本発明者が鋭意検討したところ、顔料として自己分散顔料を用いて、比較的低分子量を有し、エーテル基及び水酸基を含有する化合物を溶剤として用いると、吐出方向のズレが生じにくくなったり、水系インクの不吐出を抑制できたりすることを見出した。この要因は、このような溶剤が顔料を被覆して、顔料の分散安定性を高め乾燥時の増粘を抑制していることと考えられる。特に、自己分散顔料は、ノズルのスキャロップ内面でインクが乾燥した場合、顔料が固化したときに、再分散しにくい傾向があるが、本実施形態においては、上記の溶剤が自己分散顔料を被覆して乾燥を抑制し、顔料の再分散性を高める働きをすると推測する。つまり、式(1)で表される化合物を含む溶剤は、自己分散顔料の保湿剤として優れている。ただし、要因はこれに限定されない。
インクジェットインク組成物は、インクジェットヘッドから吐出して記録に用いるインク組成物である。水系インクは、インクの主要な溶媒成分として少なくとも水を含むインクである。
【0013】
(自己分散顔料)
インク組成物は、自己分散顔料を含む。
自己分散顔料とは、その表面にカルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基、及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上の官能基が、直接的又は間接的に結合することにより表面改質された顔料をいう。
自己分散顔料は、他の色材に比べ記録媒体上で凝集しやすいものであるため、印刷部の光学濃度を高めることができる。特に、普通紙(ビジネス文書)では高い黒濃度が求められ、黒濃度を高くするために、特にカーボンブラックの自己分散顔料が必要である。
また、自己分散顔料は、分散安定性が高いため、樹脂などの分散剤を用いて分散させる必要がなく、粘度を適度なものとすることができる。このため、自己分散顔料を用いた場合には、その含有量を大きくしても取り扱いが容易であり、発色性に優れた画像を形成できる。一方、自己分散顔料ではない顔料の場合、分散剤が必要であり、分散剤によりインクの粘度が高くなってしまう等の弊害があり、吐出安定性に難がある。このため、インクの色材の含有量を多くできず、インクの高濃度を得る点で不利である。
このように、分散剤を用いる必要がなく、インクの粘度を比較的低くできる点で、自己分散顔料が有用である。特に、高濃度の印刷を行いたい場合であってインクの顔料の濃度を比較的高濃度にしたい場合であっても、インクの粘度を低く抑えられる点で、自己分散顔料は有用である。一方、自己分散顔料は、樹脂などの分散剤で分散した顔料と比べて、インクが乾燥した場合などにおいて顔料が一旦凝集すると、その分散安定性が低下しやすく、顔料が再分散しにくい傾向にある。特に、顔料の表面への官能基の導入量を一定以下に留めた自己分散顔料はこの傾向が強い。
インク組成物は、顔料として自己分散顔料を用い、さらに溶剤に特定の化合物を用いることにより、水系インクの不吐出を抑制できる。
【0014】
自己分散顔料としては、例えば、カーボンブラック、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料、チタン白、亜鉛華、鉛白、カーボンブラック系、ベンガラ、朱、カドミウム赤、黄鉛、群青、コバルト青、コバルト紫、ジンクロメート等の無機顔料等が挙げられる。
【0015】
自己分散顔料は、これらの中でも高濃度で黒色を印刷でき、吐出信頼性に一層優れる観点から、カーボンブラックであることが好ましい。
【0016】
自己分散顔料としては、公知の方法で調整した調製品又は市販品が用いられる。市販品としては、例えば、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、「マイクロジェットCW2」、キャボット社製の「CAB-O-JET 200」、「CAB-O-JET 300」等が挙げられる。
【0017】
パルスNMRにより測定される自己分散顔料の比表面積は、発色性に一層優れる観点から、60m2/g以下であることが好ましい。さらには、25m2/g以下であることがより好ましく、22m2/g以下であることがさらにより好ましく、18m2/g以下であることが更に好ましく、15m2/g以下であることが特に好ましい。
一方、パルスNMRにより測定される自己分散顔料の比表面積は、非沈降性に一層優れる観点から、3m2/g以上であることが好ましく、5m2/g以上であることがより好ましく、6m2/g以上であることが更に好ましく、7m2/g以上であることが特に好ましい。
自己分散顔料の比表面積は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
自己分散顔料の比表面積を調整する方法としては、自己分散顔料の表面処理に用いる表面処理剤の濃度、添加量などを調整したり、表面処理条件(例えば、処理温度等)を調整したり、表面処理剤の種類などを適宜変更するといった方法が挙げられる。通常、顔料表面に導入された官能基の量が多いと比表面積は大きくなる傾向にある。
自己分散顔料の比表面積が大きい場合、顔料の分散安定性が高くなるので好ましい。一方、比表面積が小さい場合、自己分散顔料の表面処理に要する時間や材料を少なくできるので好ましい。
また、比表面積が大きい場合、顔料が記録媒体と親和性が高く、記録媒体が吸収性記録媒体の場合に、記録媒体に顔料が吸収されやすく、顔料の発色性が劣る場合がある。一方、顔料の比表面積が小さい場合、顔料の発色性が優れるので好ましい。
なお、顔料表面の単位面積当たりの官能基導入量が等しい場合に、顔料の体積平均粒子径が小さいほうが、自己分散顔料の比表面積が大きくなる傾向にある。
【0018】
自己分散顔料の体積平均粒子径は、150nm以下であることが好ましい。一方、自己分散顔料の体積平均粒子径は、50nm以上であることが好ましい。本明細書において、体積平均粒子径は単に平均粒子径ともいう。
自己分散顔料の体積平均粒子径が上記の数値以上であることにより、水系インクは、吐出信頼性及び発色性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、自己分散顔料の体積平均粒子径は、80nm以上であることがより好ましく、90nm以上であることが更に好ましく、100nm以上であることが一層好ましく、110nm以上であることが特に好ましい。
顔料の体積平均粒子径が150nm以下であることにより、水系インクは、顔料の非沈降性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、自己分散顔料の体積平均粒子径は、140nm以下であることがより好ましく、130nm以下であることが更に好ましく、110nm以下であることが一層好ましい。
自己分散顔料の体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定したものであり、D50値である。体積平均粒子計の測定は、例えば、マイクロトラックベル社製のナノトラックシリーズ粒子系分布測定装置により測定すればよい。詳細には、後述する実施例に記載の方法により求められる。
自己分散顔料の体積平均粒子径の調整方法としては、例えば、分散前の自己分散顔料の粉砕の程度を調整するする方法、分散時の攪拌条件(例えば、攪拌速度、攪拌温度等)による調整方法、分散後のフィルターを用いた濾過による調整方法などが挙げられる。
【0019】
自己分散顔料の含有量は、水系インク全体に対して、4.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。
自己分散顔料の含有量が4質量%以上であることにより、水系インクは、発色性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、自己分散顔料の含有量は、4.5質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることが更に好ましい。
自己分散顔料の含有量が8質量%以下であることにより、水系インクは、吐出信頼性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、自己分散顔料の含有量は、7.0質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0020】
(溶剤)
溶剤は、下記式(1)で表される化合物を含む。溶剤が特定の化合物を含むことにより、水系インクは、吐出信頼性に優れる。式(1)で表される化合物は、溶剤の1種であり、特には有機溶剤である。
以下、下記式(1)で表される化合物を単に「特定の化合物」といもいう。
【0021】
1-O-R2-OH ・・・(1)
式(1)中、R1は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。R2は、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基、又は下記式(2)で表される基を示す。
3-O-R4 …(2)
式(2)中、R3及びR4は、各々独立して、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す。なお、R2が式(2)で表される基である場合、式(1)は以下のように表される。
1-O-R3-O-R4-OH ・・・(1)
【0022】
式(1)において、R1は、常温連続吐出安定性、間欠吐出安定性、非沈降性及び発色性に一層優れる観点から、水素原子であることが好ましい。
【0023】
5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基としては、例えば、直鎖状アルカンジイル基、分岐状アルカンジイル基、及び2価の脂環式飽和炭化水素基が挙げられる。本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基は、直鎖状アルカンジイル基又は分岐状アルカンジイル基であることが好ましい。
【0024】
直鎖状アルカンジイル基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基(トリメチレン基)、1,4-ブチレン基(テトラメチレン基)及び1,5-ペンチレン基(ペンタメチレン基)が挙げられる。分岐状アルカンジイル基としては、例えば、1,1-エチレン基、1,1-プロピレン基、1,2-プロピレン基、2,2-プロピレン基、1,4-ペンチレン基、2,4-ペンチレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、2-メチルプロパン-1,2-ジイル基及び2-メチルブタン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0025】
5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基は、吐出信頼性に一層優れる観点から、2~4の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基であることが好ましく、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基であることがより好ましい。
【0026】
式(2)において、2又は3の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基としては、2又は3の炭素数を有する直鎖状アルカンジイル基、及び2又は3の炭素数を有する分岐状アルカンジイル基が挙げられる。2又は3の炭素数を有する直鎖状アルカンジイル基としては、1,2-エチレン基及び1,3-プロピレン基が挙げられる。2又は3の炭素数を有する分岐状アルカンジイル基としては、1,1-エチレン基、1,1-プロピレン基、1,2-プロピレン基及び2,2-プロピレン基が挙げられる。
【0027】
式(2)において、R3及びR4は、吐出信頼性に一層優れる観点から、いずれもエチレン基、又はいずれもプロピレン基であることが好ましく、プロピレン基であることがより好ましく、1,2-プロピレン基であることが更に好ましい。
【0028】
特定の化合物は、式(1)中、(i)R1が、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、R2が、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す化合物、又は、(ii)R1が、水素原子を示し、R2は、式(2)で表される基を示す化合物であることが好ましい。特定の化合物が、このような化合物であることにより、水系インクは、吐出信頼性に一層優れる傾向にある。
【0029】
特定の化合物は、式(1)中、(iii)R1が、水素原子又はメチル基を示し、R2が、3以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素基を示す化合物、(iv)R1が、水素原子を示し、R2が、式(2)で表される基であり、R3及びR4は、いずれもエチレン基、又はいずれもプロピレン基である化合物であることが好ましい。特定の化合物が、このような化合物であることにより、水系インクは、高温連続印字性に一層優れる傾向にある。
【0030】
特定の化合物の分子量は、吐出信頼性、非沈降性及び画質に一層優れる観点から、50以上150以下であることが好ましく、50以上135以下であることがより好ましく、50以上130以下であることがより好ましく、50以上115以下であることが更に好ましく、60以上110以下であることが一層好ましい。
【0031】
特定の化合物の代表例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、特定の化合物は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。特定の化合物が、このような化合物であることにより、水系インクは、一層優れた常温連続吐出安定性、間欠吐出安定性、非沈降性及び発色性を同時に満たす傾向にある。
【0033】
特定の化合物の含有量は、水系インク全体に対して、2質量%以上16質量%以下であることが好ましい。
特定の化合物の含有量が2質量%以上であることにより、水系インクは、間欠吐出安定性及び高温連続吐出安定性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、特定の化合物の含有量は、水系インク全体に対して、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましい。
特定の化合物の含有量が16質量%以下であることにより、水系インクは、インクの保存安定性に一層優れる傾向にある。また、その含有量を過度に多くしないことにより、インクの粘度を低くすることができる点で好ましい。同様の観点から、特定の化合物の含有量は、水系インク全体に対して、13質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
(モノアルコール類)
溶剤は、さらにモノアルコール類を含むことが好ましい。
溶剤にモノアルコール類を含めると、自己分散顔料の表面への浸透性に優れ、自己分散顔料の表面に気泡が残るのを抑制できる。
また、溶剤にモノアルコール類を含めると、ノズルの側壁面の形状であるスキャロップ形状の窪みへのインクの濡れ性を高めることができ、窪みに気泡が残るのを抑制できる。
このように、溶剤にモノアルコール類を含めると、自己分散顔料の表面に気泡が残るのを抑制でき、残った気泡がインク中に発生して吐出安定性が悪化することを防止できる。また、同様に、スキャロップ形状の窪みに気泡が残るのを抑制すると推測されるため、特に常温において吐出不良となることを抑制できる。ただし要因はこれに限るものではない。
【0035】
ここでいうモノアルコールとは、アルカンが有する1つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物の総称である。該アルカンとしては、炭素数10以下のものが好ましく、6以下のものがより好ましく、3以下のものが更に好ましい。アルカンの炭素数は1以上であり、2以上であることが好ましい。アルカンは、直鎖型であってもよく、分枝型であってもよい。モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノールが挙げられる。
【0036】
インク組成物の総量に対する、モノアルコール類の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上6質量%以下であることがより好ましい。
モノアルコール類の含有量が上記下限値以上であることにより、常温連続吐出安定性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、モノアルコール類の含有量は2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。
モノアルコール類の含有量が上記上限値以下であることにより、インクにおける溶剤の含有量を過度に多くしないことになり、インクの粘度を低くできる点や、インクの保存安定性が優れる点で好ましい。同様の観点から、モノアルコール類の含有量は5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
溶剤は、ピロリドン系溶剤を含むことが好ましい。溶剤がピロリドン系溶剤を含むことにより、水系インクは、高温連続印字性及び耐擦性に一層優れる傾向にある。
【0038】
ピロリドン系溶剤としては、例えば、2-ピロリドン、N-アルキル-2-ピロリドン、及び1-アルキル-2-ピロリドンが挙げられ、本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、ピロリドン系溶剤は、2-ピロリドンであることが好ましい。
【0039】
ピロリドン系溶剤を含む場合、その含有量は、水系インク全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、0.7質量%以上7質量%以下がより好ましく、1質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以上2質量%以下が特に好ましい。
【0040】
溶剤は、特定の化合物、モノアルコール類、及びピロリドン系溶剤以外のその他の溶剤を含んでもよい。その他の溶剤としては、ポリオール類、グリコールエーテル類などが挙げられる。
ポリオール類としては、水酸基を3個以上有するアルカン、アルカンジオール、アルカンジオールの水酸基間縮合物などが挙げられる。
グリコールエーテル類としては、上記のアルカンジオールがエーテル化したモノエーテル又はジエーテルが挙げられる。ただし、その他の溶剤は、前述の特定の化合物以外のものである。
その他の溶剤として、ポリオール類が好ましく、アルカンジオールがより好ましい。このような化合物を用いることにより、インク組成物は、耐擦性に一層優れる傾向にある。
【0041】
その他の溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、ヘキサメチングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4-ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4-ジヒドロキシフェニルメタン、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールメラミン、ポリオキシプロピレントリオール、ジメチル-1,3-ペンタンジオール、ジエチル-1,3-ペンタンジオール、ジプロピル-1,3-ペンタンジオール、ジブチル-1,3-ペンタンジオール、及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
その他の溶剤の含有量は、水系インク全体に対して、1質量%以上25質量%以下が好ましく、2質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
グリセリンの含有量は、水系インク全体に対して、20.0質量%以下であることが好ましく、13.0質量%以下がより好ましく、11.0質量%以下がさらに好ましい。グリセリンの含有量が上記範囲であることにより、水系インクは、間欠印字性及び耐擦性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、グリセリンの含有量が、水系インク全体に対して、10.0質量%以下であることが好ましく、9.5質量%以下であることがより好ましく、9.0質量%以下であることがさらに好ましい。
水系インクは、その他の溶剤としてグリセリンを含むことも好ましい。グリセリンの含有量は、水系インク全体に対して、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。この場合、吐出信頼性などがより優れる点で好ましい。グリセリンは標準沸点が比較的高く、インクの保湿性に優れる。一方、グリセリンは粘度が高いため、ノズルの側壁のスキャロップで水系インクが乾燥した時に、水系インクの粘度がより増加する傾向がある。水系インクのグリセリンの含有量を上記範囲とすることで、粘度増加に起因する吐出不良を低減できると推測する。ただし原因はこれに限るものではない。
【0044】
(樹脂粒子)
水系インクは、樹脂粒子を含むことが好ましい。水系インクは、樹脂粒子を含むことにより、吐出信頼性、及びインクの保存安定性に一層優れる傾向にある。
【0045】
樹脂粒子は、水に安定に分散させるために親水性成分が導入された自己分散型の樹脂粒子であってもよく、外部乳化剤の使用により水分散性となる樹脂粒子であってもよい。
【0046】
樹脂粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、フルオレン系樹脂粒子、ポリオレフィン系樹脂粒子、ロジン変性樹脂粒子、テルペン系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、エポキシ系樹脂粒子、塩化ビニル系樹脂粒子、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体粒子、及びエチレン酢酸ビニル系樹脂粒子が挙げられる。これらの中でも、樹脂粒子は、高温連続印字性に一層優れる観点から、アクリル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子のいずれかであることが好ましく、インクの保存安定性に一層優れる観点から、アクリル系樹脂粒子又はウレタン系樹脂粒子であることが好ましく、高温連続印字性、及びインクの保存安定性に一層優れる観点から、アクリル系樹脂粒子であることが好ましい。
【0047】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。アクリル系単量体は、アクリル単量体、メタクリル単量体が挙げられる。
共重合体として、例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。ビニル系単量体としてスチレン類と、アクリル系単量体との共重合体であるスチレンアクリル系樹脂であってもよい。スチレン類は、スチレン、αメチルスチレンなどのスチレン誘導体である。
スチレンアクリル系樹脂粒子におけるスチレンアクリル系樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のいずれの形態を有してもよい。
【0048】
スチレンアクリル系樹脂は、高温連続印字性、及びインクの保存安定性に一層優れる観点から、メタクリルモノマーを構成成分として含有するスチレンアクリル系樹脂粒子であることが好ましい。このようなスチレンアクリル系樹脂としては、例えば、スチレン-メタクリル酸共重合体、及びスチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。これらのスチレンアクリル系樹脂の粒子は、市販品を用いてもよく、公知の方法に準じて調製した調製品を用いてもよい。
【0049】
スチレンアクリル系樹脂は、高温連続印字性、及びインクの保存安定性に一層優れる観点から、α-メチルスチレンモノマーを構成成分として含有するスチレンアクリル系樹脂であることが好ましい。このようなスチレンアクリル系樹脂としては、例えば、スチレン-αメチルスチレン-アクリル酸共重合体、及びスチレン-αメチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0050】
ウレタン系樹脂粒子におけるウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂が挙げられる。ウレタン系樹脂粒子は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、「タケラック(登録商標)W-6061」(三井化学社製)、「タケラック(登録商標)W-6021」(三井化学社製)、「WBR-016U」(大成ファインケミカル(株)製)が挙げられる。
【0051】
ポリエステル系樹脂粒子としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、「バイロナールMD-1100」、「バイロナールMD-1500」(東洋紡社製)等が挙げられる。
【0052】
樹脂粒子の含有量は、水系インク全体に対して、0.2質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が更に好ましく、0.7質量%以上1.5質量%以下が一層好ましい。
【0053】
(界面活性剤)
水系インクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0054】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ株式会社製品)、サーフィノール465、サーフィノール61(日信化学工業株式会社製品)等が挙げられる。
【0055】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製品);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製品);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製品)などが挙げられる。
【0056】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製品)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学株式会社製品)等が挙げられる。
【0057】
界面活性剤の含有量は、水系インク全体に対して、0.1質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0058】
(中和剤)
水系インクは、樹脂粒子の分散安定性を向上させるために中和剤を含んでもよい。中和剤としては、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基等が挙げられる。
【0059】
中和剤の含有量は、水系インク全体に対して、1質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0060】
(水)
水系インクは水を含んでもよい。水としては、特に限定されず、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水及び超純水が挙げられる。水系インクは、インクの溶媒成分として少なくとも水を含有するインクである。
【0061】
水の含有量は、水系インク全体に対して、例えば、30質量%以上であり、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。上限は、限るものではないが、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0062】
水系インクは、側壁面の形状がスキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有するインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置に用いられる。水系インクは、該インクジェットヘッドから吐出して記録を行うインクジェット記録方法に用いるインクである。
スキャロップ形状とは、ノズルの断面を見た時に、ノズル側壁が、ノズルをインクが通過する方向に対して連続多段形状になっていることをいう。このようなインクジェットヘッドの一例としては、例えば、特開2018-002778号公報(特許文献1)に開示されたインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。
【0063】
図1は、ノズルの側壁の一部の断面の形状を示す断面図である。図1に示すように、ノズル100の側壁面の形状がスキャロップ形状である場合、顔料を含有する水系インクの吐出時にアライメント劣化が起きやすいという問題がある。従来の水系インクを用いる場合、このようなノズル内部の表面積が大きいことに起因して、水系インクを吐出してメニスカスが引き込まれた時に、ノズル内部で水系インクが乾燥する。そして、顔料を主成分とする固形分がノズル内部に付着して堆積し、その結果、吐出方向のズレが生じたり、水系インクを吐出できなかったりする。これに対し、本実施形態の水系インクを上記のノズルを有するインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いると、吐出方向のズレが生じにくくなったり、水系インクの不吐出を抑制したりでき、吐出信頼性に優れる。
【0064】
ノズルはノズル形成基板に、貫通する穴を設けることで形成されている。ノズルは、その側壁の少なくとも一部がスキャロップ形状になっていればよく、ノズルを断面図にした場合に、ノズルの厚み(ノズル形成基板の厚み方向のノズルの長さ)の30%以上がスキャロップ形状になっていることが好ましく、50%以上がスキャロップ形状になっていることがより好ましく、80%以上がスキャロップ形状になっていることがさらに好ましい。
【0065】
ノズル形成基板の厚みは、20μm以上が好ましく、限るものではないが、20μm以上300μm以下がより好ましく、30μm以上200μm以下がさらに好ましく、40μm以上100μm以下がよりさらに好ましく、45μm以上80μm以下が特に好ましい。ノズル形成基板の厚み方向のノズルの長さも、上記範囲が好ましい。
【0066】
ノズルは、インクが吐出する側の最外側における直径が、5μm以上50μm以下であると好ましく、10μm以上40μm以下であるとより好ましく、15μm以上30μm以下であるとさらに好ましい。これらの場合、ノズルの形成のしやすさや、吐出性能を得やすい点で好ましい。
【0067】
ノズル形成基板を構成する材料は、エッチング処理によって表面が浸食を受ける材料が好ましく、無機材料がより好ましい。そのような材料としては、例えば、金属、半金属、それらの無機化合物などが挙げられ、例えばシリコンが挙げられる。
【0068】
ここで、図1から明らかなとおり、スキャロップ幅S1とは、スキャロップ形状における隣り合う凸部間の距離をいい、図1ではS100で示す。ノッチ深さS2とは、ノズル開口近傍の側壁面に形成される凹部の深さをいう。図1では、S200で示す。凸部又は凹部が複数ある場合、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2は、それぞれ上記距離の平均値及び上記深さの平均値を表す。S1/S2≧4の関係式を満たすことにより、水系インクのスキャロップ段差部で水系インクが取り残されることを低減でき、段差部でのインクの乾燥により吐出信頼性が低下することを低減でき、吐出信頼性に優れる。S1/S2の値が大きい方が、吐出信頼性により優れ好ましい。S1/S2の値が小さい方が、ノズル製造時に、エッチング処理の回数を少なくできるなどの点で好ましく、S1/S2が上記範囲以下の場合、ノズル孔の製造のしやすさの点でも好ましい。
同様の観点から、S1/S2は、4~30であることが好ましく、4.5~20であることがより好ましく、5~15であることが更に好ましく、5~10であることがより好ましい。
【0069】
スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2は、それぞれ1.0μm以下が好ましい。スキャロップ幅S1は、0.30μm以上1.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.40μm以上0.80μm以下であり、特に好ましくは0.45μm以上0.70μm以下である。ノッチ深さS2は、0.010μm以上0.30μm以下が好ましく、より好ましくは0.015μm以上0.20μm以下であり、特に好ましくは0.020μm以上0.15μm以下である。これらの場合、ノズルの形成のしやすさや、ノズルの性能が得られやすい点で好ましい。
【0070】
ノズルは、エッチング処理と、エッチング側壁保護処理とを交互に繰り返し複数行うことにより形成されたものであることが好ましい。この場合、高密度ノズル列の製造がしやすく、製造が高精度で行え、好ましい。こうして製造したインクジェットヘッドにより、高解像度で高精細な画像の記録が可能となり好ましい。このようなノズルの形成により、ノズルの側壁がスキャロップになる傾向がある。ノズルがこのように形成されていることにより、水系インクの優れた吐出信頼性がより一層有効に発現できる傾向にある。
【0071】
ノズルの形成方法としては、例えば、BOSCH法を用いてノズルを形成する方法が挙げられる。より詳細には、シリコン基板をドライエッチングにより多段階でエッチングすることにより、ノズルを形成する。
【0072】
図2は、インクジェットヘッドの一例の一部分を示す断面図である。インクジェットヘッド101は、ノズル形成基板であるノズルプレート10と、流路形成基板110と、圧力室基板120と、振動板30と、圧電素子32と、コンプライアンスシート140と、カバー150と、を備える。ノズル127が、ノズルプレート10を貫通する穴として、ノズルプレート10に形成されている。圧力室20が、流路形成基板110と、圧力室基板120と、振動板30とによって区画される空間として形成されている。圧力室20は、振動板30の変位によって容積が変化することで、インクをノズルから吐出する力を生成する。インク供給室40が、流路形成基板110と、コンプライアンスシート140とによって区画される空間として形成されている。流路が、流路形成基板110と、コンプライアンスシート140とによって区画されるインクの通路として、インク供給室から圧力室までと、圧力室からノズルまでとに形成されている。インクは、図中の矢印に沿って流れて移動し、ノズルから吐出される。図中の12は、インクがノズルから吐出する部分を示す。
【0073】
図3は、インクジェット記録装置の構成の一例を示す斜視図である。図2に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTと、インク収容体12を備える。インクジェット記録装置1は、図2に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。記録ヘッド2は、インクをインクジェットヘッド2の下面に備えるノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う。インクジェットヘッド2は、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向MSに主走査しつつインクを吐出し、インクを記録媒体Mに付着させる。記録媒体Mは、搬送方向SSに搬送され、副走査が行われる。主走査と副走査を交互に繰り返し行い記録が行われる。
【0074】
[インクジェット記録方法]
本実施形態のインクジェット記録方法は、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、スキャロップ幅S1及びノッチ深さS2が、S1/S2≧4の関係式を満たすノズルを有するインクジェットヘッドを用いて行うインクジェット記録方法である。インクジェット記録方法は、本実施形態の水系インクを、インクジェットヘッドから吐出する吐出工程を含む。
【0075】
(吐出工程)
吐出工程では、例えば、水系インクをインクジェットヘッドから吐出することにより、被記録媒体に付着させる。吐出方法は、例えば、公知の方法である。
【0076】
被記録媒体(記録媒体)としては、特に限定されないが、例えば、インクジェット専用紙、PPC等の普通紙、布帛、表面加工紙(例えば、アルミニウム蒸着紙、コート紙、アート紙、及びキャストコート紙)、インク受容層が形成されたプラスチックフィルム(例えば、ポリカーボネートフィルム、PETフィルム、及び塩化ビニルシート)が挙げられる。特に、黒色の高濃度な文字や絵などの記録を行う点で、普通紙やインクジェット専用紙などが好ましい。また、インクを吸収しやすい吸収性記録媒体が好ましい。吸収性記録媒体は、記録媒体の記録面が、紙、布、インクを吸収する性質を有する有機材料や無機材料など、から構成される記録媒体である。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0078】
[樹脂粒子の調製]
滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、及び撹拌機を有する反応容器に、イオン交換水100質量部を入れ、撹拌しながら、窒素雰囲気70℃で重合開始剤である過硫酸カリウム0.4質量部を添加した。その反応容器に、イオン交換水37質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.25質量部、スチレン22質量部、n-ブチルアクリレート50質量部、メチルアクリレート47質量部、エチルアクリレート20質量部、アクリル酸5質量部、及びt-ドデシルメルカプタン0.52質量部を含むモノマー溶液を、70℃で滴下して重合反応させた。反応後の反応容器の内容物を水酸化ナトリウムで中和し、pH8~8.5に調整して、0.3μmのフィルターでろ過することにより樹脂粒子の水分散液を調製した。
【0079】
[自己分散顔料1の調製]
ファーネス法で調製したカーボンブラック原末500g(一次粒子径=18nm、BET比表面積=180m2/g、DBP吸収量=186mL/100g)を、イオン交換水3750gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら、45℃まで昇温した。その後、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いたサンドミルにより、粉砕しながらこれに、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度=12%)の水溶液30000gを45℃で3.5時間かけて滴下した。引き続きサンドミルにより30分間粉砕し続け、自己分散型カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュの金網で濾過し、ジルコニアビーズ及び未反応カーボンブラックと、反応液とを分別した。分別して得た反応液に、水酸化カリウム5%水溶液を加えて、pH=7.5に調整した。液の電導度が1.5mS/cmになるまで限外濾過膜により、脱塩及び精製を行なった。電気透析装置を用いて液の電導度が1.0mS/cmになるまでさらに脱塩及び精製を行った。その液を、自己分散型カーボンブラックの濃度が17質量%になるまで濃縮した。この濃縮液を、遠心分離機にかけ粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過した。得られた濾液にイオン交換水を加え、自己分散型カーボンブラックの濃度が15質量%になるまで希釈し、分散させて、自己分散顔料1を得た。
自己分散顔料1の平均粒子径は110nmであり、比表面積は11m2/gであった。
【0080】
[自己分散顔料2、3の調製]
次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の滴下の後のサンドミルによる粉砕の時間を延長したこと以外は、上述の自己分散顔料1の調製と同様にした。得られた自己分散顔料の平均粒子径が80nmになるように、粉砕時間を調整した。こうして、自己分散顔料2を得た。
さらに別途、得られた自己分散顔料の平均粒子径が140nmになるように、粉砕時間を減らした。こうして、自己分散顔料3を得た。
自己分散顔料2、3とも、比表面積は11m2/gであった。
【0081】
[自己分散顔料4、5の調製]
次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の滴下量を増やしたこと以外は自己分散顔料1の調製と同様にした。得られた自己分散顔料の比表面積が25m2/gになるように、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の滴下量を調整した。こうして、自己分散顔料4を得た。
さらに別途、得られた自己分散顔料の比表面積が35m2/gになるように、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の滴下量を調整した。こうして、自己分散顔料5を得た。
自己分散顔料4、5とも、平均粒子径は110nmであった。
【0082】
[樹脂分散顔料の調製]
カーボンブラック15質量部に、分散剤としてのスチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩(重量平均分子量10000)をポリマー成分として10質量部、イオン交換水55質量部を加えて十分に混合した後、この混合物をサンドミル(株式会社安川製作所製)中でガラスビーズ(直径1.7mm、混合物の1.5倍量)とともに2時間分散した。分散後、ガラスビーズを取り除き、樹脂分散顔料分散液を得た。
【0083】
[水系インクジェットインク組成物の調製]
次に、自己分散顔料又は樹脂分散顔料と樹脂粒子の分散液と、他の下記各表に示す成分とを混合し、撹拌して、5μmのフィルターで濾過することにより、水系インクジェットインク組成物を調製した。なお、表中の数値の単位は質量部であり、水系インクジェットインク組成物の合計は100.0質量部である。顔料及び樹脂粒子の組成は、固形分量である。表中、プロパノールはイソプロパノールである。
【0084】
自己分散顔料の平均粒子径は、以下のようにして求めた。顔料濃度が50ppmになるように純水で希釈してサンプルを調製し、サンプルを動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(マイクロトラックベル社製品、型式「Nanotrac 150」)を用いて体積平均粒子径D50を測定した。
【0085】
自己分散顔料の比表面積は、以下のようにして求めた。
〔測定条件〕
パルスNMR: Xigo nanotools社製Acorn Drop
測定温度:30℃
測定試料:0.5mL
測定試料A1:各水系顔料インク
測定試料A2:測定試料A1の遠心分離(415,000G×60分、25℃)後の上澄み液
Sp={[(Rav/Rb)-1]×Rb}/(0.0016×ψp)
式中、Spは、インク組成物中の顔料の比表面積[m2/g]
Ravは、測定試料A1を用いて得られたパルスNMRの測定値の逆数
Rbは、測定試料A2を用いて得られたパルスNMRの測定値の逆数
ψpは、下記式によって算出して求められる。
ψp=(Sc/Sd)/[(1-Sc)/Td]
式中、Scは、測定試料A1の顔料固形分濃度(質量%)
Sdは、測定試料A1の顔料の密度
Tdは、測定試料A2の上澄み液の密度。
なお、Sdは、顔料がカーボンブラックであれば、例えば1.7である。Tdは、上澄み液がほぼ水であれば、水の密度1.0である。Scは、水系顔料インクの組成から算出または測定して求めた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
下記の評価試験を実施するにあたり、インクジェット記録装置(セイコーエプソン株式会社製の型式「SC-T7050」)の改造品を用意し、この改造品に、側壁面の形状が、スキャロップ形状であり、ノッチ深さS2に対するスキャロップ幅S1の割合(S1/S2)が各表に示す値であるノズルを有するインクジェットヘッドを備え付けた。なお、表中、S1/S2はb/aと表記している。
【0092】
インクジェットヘッドのノズルとして、シリコン基板であるノズルプレートに対して、BOSCH法で多段階でドライエッチング処理を行うことで、そのノズルプレートに形成したノズルを用いた。ノズルの側壁の全体がスキャロップ形状であった。ノズルは下記のノズル密度で1列に形成した。ノズルプレートの厚み方向のノズルの長さを50μmとした。各ノズルは吐出側の最外側の直径を20μmとした。
【0093】
なお、他ヘッド1(表中の非スキャロップ1)は、ステンレス製のノズルプレートにパンチで穴を打ち、ノズルを形成したものであり、スキャロップ形状を有しないノズルを備えるインクジェットヘッドであった。他ヘッド2(表中の非スキャロップ2)は、他ヘッド1と同様にしてノズルを形成したものであるが、パンチ穴の直径をノズル内で変えることで、ノズル側壁の、ノズルプレート厚み方向の約中央に、ノズル直径方向に0.2μmの段差を1段設けたインクジェットヘッドとしたものであり、スキャロップ形状を有しないノズルを備えるインクジェットヘッドであった。
【0094】
カートリッジに水系インクジェットインク組成物を充填した。被記録媒体には、写真用紙(セイコーエプソン株式会社製の型式「PXMC44R13」)を用い、テストパターンは、記録解像度1200×1200dpiの画像を印刷した。ノズル数は300個とし、ノズル密度は300dpiとした。
【0095】
〔間欠記録試験〕
35℃、20%R.H.の恒温室において、全ノズルから水系インクジェットインク組成物を吐出して、着弾位置の確認パターンを記録した。次に、インクを吐出させない走査である空走を10秒間行った。この間は、フラッシングを行わず、空走中は、インクを吐出しない程度の振動である微振動を行った。次に、全ノズルから水系インクジェットインク組成物を吐出して、着弾位置の記録パターンを記録した。ノズルからの吐出の有無、着弾位置ズレ(ヨレ)の有無を確認し、間欠吐出安定性を以下の評価基準により評価した。
【0096】
(評価基準)
AA :吐出しなかったノズルはなく、位置ズレもない。
A :吐出しなかったノズルはなく、位置ズレが発生したノズルが2%以内であった。
B :吐出しなかったノズルはなく、位置ズレが発生したノズルが2%超であった。
C :吐出しなかったノズルが存在し、位置ズレが発生したノズルが存在した。
【0097】
〔高温連続記録試験〕
上記の改造品を40℃、20%R.H.の恒温室にて、7時間連続印刷した。印刷後、チェックパターンを印刷し、1つ目のノズルの着弾位置を基準として、印刷後のノズルの着弾位置のズレ量を、スマートスコープZIP250(Ogp社製)を用いて測定した。測定結果に基づいて、高温連続吐出安定性を以下の評価基準により評価した。
【0098】
(評価基準)
AA:吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは全て±20μm以内であった。
A :吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは±20μm超、±50μm以内発生したノズルが5個以下であり、残りのノズルにおける着弾ズレは全て±20μm以内であり、±50μm超のノズルは存在しなかった。
B :吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは±20μm超、±50μm以内発生したノズルが6個以上であり、±50μm超のノズルが存在した。
C :吐出しなかったノズルが存在した。
【0099】
〔常温連続記録試験〕
上記の改造品を25℃、20%R.H.の恒温室にて、21時間連続印刷した。印刷後、チェックパターンを印刷し、1つ目のノズルの着弾位置を基準として、印刷後のノズルの着弾位置のズレ量を、スマートスコープZIP250(Ogp社製)を用いて測定した。測定結果に基づいて、常温連続吐出安定性を以下の評価基準により評価した。
【0100】
(評価基準)
AA:吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは全て±20μm以内であった。
A :吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは±20μm超、±50μm以内発生したノズルが5個以下であり、残りのノズルにおける着弾ズレは全て±20μm以内であり、±50μm超のノズルは存在しなかった。
B :吐出しなかったノズルはなく、着弾ズレは±20μm超、±50μm以内発生したノズルが6個以上であり、±50μm超のノズルが存在した。
C :吐出しなかったノズルが存在した。
【0101】
〔沈降評価〕
遠心管、蓋及び水系インクジェットインク組成物の全質量が55gとなるように量を調整した水系インク組成物を、上記遠心管に入れて蓋をした。この蓋付き遠心管を遠心分離機(日立工機株式会社製の型式「CR-20B2」、ROTOR NO.36)にセットし、10000rpmの回転数で15分間処理した後、上澄み液(気液界面から5gの領域)を採取した。その上澄み液、及び遠心分離前の水系インクジェットインク組成物の波長500nmの光の吸光度を測定した。水系インクジェットインク組成物の吸光度と上澄み液の吸光度との比率を算出し、沈降性を以下の評価基準により評価した。なお、吸光度と、上澄み濃度とは正の相関性がある。
【0102】
(評価基準)
AA:上澄み濃度が、初期濃度の90%以上であった。
A :上澄み濃度が、初期濃度の85%以上90%未満であった。
B :上澄み濃度が、初期濃度の80%以上85%未満であった。
C :上澄み濃度が、初期濃度の80%未満であった。
【0103】
〔OD値〕
被記録媒体である写真用紙(セイコーエプソン社製品)に、付着量11mg/inch2にて記録した記録部分を乾燥後、分光光度計(Spectrolino(商品名)、GretagMacbeth社製品)により反射濃度値(OD値)を測定した。測定値に基づいて、以下の評価基準により評価した。
【0104】
(評価基準)
AA: 2.8以上
A : 2.5以上2.8未満
B : 2.2以上2.5未満
C : 2.0以上2.2未満
【0105】
(考察)
インクが、自己分散顔料と、溶剤として式(1)で表される化合物とを含み、インクを吐出したノズルが、S1/S2≧4の関係式を満たす実施例は、いずれも吐出信頼性に優れていた。
これに対し、そうではない比較例は、いずれも吐出信頼性に劣っていた。以下詳細を記す。
実施例1、30、31、比較例1及び比較例2の結果から、S1/S2値が高いほうがノズルの吐出信頼性により優れることが分かった。
実施例1及び17~19、並びに実施例11及び21~23の結果から、水系インクジェットインク組成物にモノアルコール類を含めることにより、常温連続吐出安定性に一層優れることが分かった。
実施例19及び20の結果から、モノアルコール類の含有量を高めることにより、常温連続吐出安定性に一層優れることが分かった。
実施例1、26及び27の結果から、自己分散顔料の比表面積を大きくすると、沈降性を一層抑制でき、自己分散顔料の比表面積を小さくすると、発色性に一層優れることが分かった。
実施例1、24及び25の結果から、自己分散顔料の平均体積粒子径を大きくすると、吐出信頼性及び発色性に一層優れ、自己分散顔料の平均体積粒子径を小さくすると、沈降性を一層抑制できることが分かった。
実施例1、28及び29の結果から、自己分散顔料の含有量を大きくすると、発色性に一層優れ、自己分散顔料の含有量を小さくすると、吐出信頼性に一層優れることが分かった。
実施例1、15及び16の結果から、式(1)で表される化合物の含有量を大きくすると、間欠吐出安定性及び高温連続吐出安定性に優れることが分かった。
実施例1~14の結果から、式(1)で表される化合物の分子量を50以上150以下とすることにより、優れた吐出信頼性、非沈降性及び発色性を同時に満たすことが分かった。
実施例4、5と実施例8、9との比較から、式(1)中、R1が水素原子であることにより、より優れた常温連続吐出安定性、間欠吐出安定性、非沈降性及び発色性を同時に満たすことが分かった。
実施例13、14、16と実施例7~11との比較から、式(1)で表される化合物において、R2が、5以下の炭素数を有する2価の飽和炭化水素である場合、吐出信頼性により優れることが分かった。
実施例1、2、6、8、10及び13の結果から、式(1)で表される化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はエチレングリコールモノメチルエーテルであることにより、優れた常温連続吐出安定性、間欠吐出安定性、非沈降性及び発色性を同時に満たすことが分かった。なかでも、エチレングリコール、ジエチレングリコールは、特に優れていた。
比較例3~10は、インクが式(1)で表される化合物を含まず、吐出信頼性に劣っていた。
比較例1、2は、ノズルのS1/S2の値が4未満であり、吐出信頼性に劣っていた。
参考例1、2は、インクに含まれる顔料が自己分散顔料ではなく、樹脂の分散剤により分散された顔料であったが、インクにおける顔料の含有量を高くするとインキの粘度が高くなってしまう傾向にあり、顔料の含有量をやや少なくしたため、OD値が低くなった。比較例2は、インクが式(1)で表される化合物を含まなかったが、吐出信頼性に劣らなかった。このことから、自己分散顔料を含むインクの場合に、優れた吐出信頼性を得るために、式(1)で表される化合物が必要になることが分かった。
参考例3~6は、スキャロップ形状を有するノズルではないインクジェットヘッドを用いたものであるが、このようなインクジェットヘッドは、高ノズル密度のインクジェットヘッドを低コストで製造することができないものであった。比較例4、6は、インクが式(1)で表される化合物を含まなかったが、吐出信頼性に劣らなかった。このことから、スキャロップ形状を有するノズルを備えるインクジェットヘッドからインクを吐出する場合に、優れた吐出信頼性を得るために、式(1)で表される化合物が必要になることが分かった。
【符号の説明】
【0106】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、9…キャリッジ、10…ノズルプレート、11…プラテン、12…インク収容体、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、20…圧力室、30…振動板、32…圧電素子、40…インク供給室、100…ノズル、101…インクジェットヘッド、110…流路形成基板、120…圧力室基板、127…ノズル、140…コンプライアンスシート、150…カバー、M…記録媒体、MS…主走査方向、S1…スキャロップ幅、S2…ノッチ深さ。
図1
図2
図3