(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
H02M3/155 K
(21)【出願番号】P 2020019603
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆晃
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153492(JP,A)
【文献】特開2015-027225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載電池と車載蓄電器の間で電圧を変圧する電圧コンバータと、電流センサと、コントローラを備えている電力変換器であって、
前記電圧コンバータは、
上側スイッチング素子と、
前記上側スイッチング素子に直列に接続されている下側スイッチング素子と、
前記上側スイッチング素子と前記下側スイッチング素子の中点に一端が接続されており、他端が前記車載電池に接続されているリアクトルを備えており、
前記電流センサは、磁性コアを備えており、前記リアクトルを流れる電流に起因して前記磁性コアに生じる磁束から前記リアクトルを流れる電流値を計測し、
前記コントローラは、
車両が停止状態にあり、
前記電流センサの計測値またはその時間微分値が予め定められた閾値より小さく、
かつ、前記車載蓄電器の電圧が前記
車載電池
の電圧より高いという条件を満たすタイミングを選択して、
所定時間の間、前記上側スイッチング素子と前記下側スイッチング素子を交互にオンオフし、
その後の前記電流センサの計測値に基づいて前記電流センサのゼロ点を補正する、電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電力変換器に関する。特に、車載電池と車載蓄電器の間で電圧を変圧する電圧コンバータと、電流センサと、コントローラを備えている電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に搭載される電力変換器は、車載電池と車載蓄電器の間に配置されている電圧コンバータによって車載電池の出力電圧を昇圧して電気自動車の走行用モータに伝達する。走行用モータに伝達する電圧を平滑化するために、電圧コンバータは、コンデンサ等の車載蓄電器と走行用モータに接続されている。また電力変換器は、走行用モータが発電した電力(回生電力)を電圧コンバータによって降圧して車載電池を充電する。電圧コンバータは、リアクトルに電流を流すことで、電気エネルギを磁気エネルギに変換して変圧する。電力変換器は、リアクトルを流れる電流を検知する電流センサを備えており、電力変換器のコントロ-ラは、電流センサの検知した電流値によって電圧コンバータのスイッチング素子を制御する。なお、本明細書における「電気自動車」には、モータとエンジンの双方を備えるハイブリッド車が含まれる。
【0003】
リアクトルを流れる電流を検知する電流センサに誤差が生じると、電圧コンバータのスイッチング素子を的確に制御できない。電流センサに誤差を生じると、実際には電流が流れていないにも関わらず、電流センサの出力が0A(ゼロアンペア)以外を示す。この現象は、ゼロ点(原点)のずれとして知られている。
【0004】
ゼロ点のずれを補正する技術が例えば特許文献1に開示されている。電流センサのゼロ点がずれる量は、電流センサの温度によって異なる。特許文献1の電力変換器(特許文献1では、昇圧コンバータ装置と称している)は、電流センサが所定の温度範囲内の温度となったときに、ゼロ点のずれを補正する補正量を変更することで温度特性による誤差を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電力変換器の電流センサは、磁性コアを備えている。電流センサは、計測対象である電流に起因して磁性コアに生じる磁束から電流値を計測する。また、リアクトルも、コイルを挿通する磁性コアを備えている。磁性コアを備えている電流センサやリアクトルに一定時間同じ方向に電流が流れると、電流センサやリアクトルが備える磁性コアが着磁する。その結果、電流センサの計測値にはヒステリシス誤差が含まれる。特許文献1の電力変換器は、ヒステリシス誤差が含まれている計測値に基づいて電流センサのゼロ点を補正するおそれがある。ヒステリシス誤差が含まれている計測値に基づいて電流センサのゼロ点を補正すると、ゼロ点がヒステリシス誤差の分だけずれる。ヒステリシス誤差によってずれたゼロ点を基準として電流値を計測すると、電力収支にずれが発生してしまう。本明細書では、ゼロ点を補正する際のヒステリシス誤差を小さくすることができる電力変換器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する電力変換器は、車載電池と車載蓄電器の間で電圧を変圧する電圧コンバータと、電流センサと、コントローラを備えている。電圧コンバータは、上側スイッチング素子と、上側スイッチング素子に直列に接続されている下側スイッチング素子と、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子の中点に一端が接続されており、他端が車載電池に接続されているリアクトルを備えている。電流センサは、磁性コアを備えており、リアクトルを流れる電流に起因して磁性コアに生じる磁束からリアクトルを流れる電流値を計測する。コントローラは、車両が停止状態にあり、電流センサの計測値またはその時間微分値が予め定められた閾値より小さく、かつ、車載蓄電器の電圧が電池電圧より高いという条件を満たすタイミングを選択して、所定時間の間、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子を交互にオンオフする。コントローラは、その後の電流センサの計測値に基づいて電流センサのゼロ点を補正する。
【0008】
電流センサの計測値に誤差が含まれていると、リアクトルに電流が流れていない場合であっても、電流センサの計測値は0Aにならない。コントローラは、電流センサの計測値またはその時間微分値が予め定められた閾値より小さく、車載蓄電器の電圧が電池電圧より高いという条件を満たすタイミングを選択して、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子を交互にオンオフする。ここで用いる閾値は、電流センサに電流が流れていないと推測できる値であり、生じ得る誤差またはその時間微分値よりは大きい値である。車載蓄電器の電圧が電池電圧より高いという条件を満たすタイミングで上側スイッチング素子と下側スイッチング素子が交互にオンオフされると、電流センサおよびリアクトルに流れる電流の向きが交互に入れ替わる。すなわち、車載蓄電器の電圧が電池電圧より高いという条件を満たすタイミングで上側スイッチング素子と下側スイッチング素子が交互にオンオフすると、電流センサおよびリアクトルに0Aを跨ぐ波形を有する交流電流が流れる。0Aを跨ぐ波形を有する交流電流は、ヒステリシス誤差を小さくする。上述した電力変換器のコントローラは、交流電流によりヒステリシス誤差が小さくなった後の電流センサの計測値に基づいてゼロ点を補正する。すなわち、本明細書が開示する電力変換器は、ゼロ点を補正する際のヒステリシス誤差を小さくすることができる。
【0009】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の電力変換器を搭載する電気自動車のブロック図である。
【
図2】電流センサの計測値の変化を示すグラフである。
【
図4】ゼロ点補正時にコントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】ゼロ点補正時の電流センサの計測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して実施例の電力変換器について説明する。
図1は、実施例の電力変換器5を搭載している電気自動車100の電力系のブロック図を示す。電気自動車100は、メインバッテリ2、システムメインリレー4、電力変換器5、車載蓄電器7、インバータ20、走行用モータ8を備えている。
【0012】
メインバッテリ2は、モータ8を駆動するために電気自動車100に搭載される電池である。すなわち、メインバッテリ2は車載電池である。メインバッテリ2の出力電圧は100ボルトを超える。メインバッテリ2は、例えばリチウムイオン電池である。モータ8は、三相交流モータである。電力変換器5は、システムメインリレー4を介してメインバッテリ2に接続されているとともに、車載蓄電器7とインバータ20を介してモータ8に接続されている。電力変換器5は、メインバッテリ2が出力する電圧をモータ8の駆動電圧に昇圧して車載蓄電器7に蓄電したり、車載蓄電器7の電圧をメインバッテリ2の電圧に降圧してメインバッテリ2を充電したりする。
【0013】
システムメインリレー4は、コントローラ6によって制御される。システムメインリレー4は、ノーマルオープンタイプであり、電力が供給されていない間はオープン状態に保持される。車両のメインスイッチ31がオフからオンに切り替えられると、コントローラ6は、システムメインリレー4を閉じ、メインバッテリ2を電力変換器5に接続する。車両のメインスイッチ31がオンからオフに切り替えられると、コントローラ6は、システムメインリレー4を開き、メインバッテリ2を電力変換器5から切り離す。図示は省略しているが、電気自動車100は、サブバッテリを備えている。サブバッテリは、コントローラ6やシステムメインリレー4などの小電力機器へ電力を供給する。
【0014】
図中の矢印付き破線は信号の流れを示している。先に述べたように、コントローラ6は、システムメインリレー4を制御する。また、コントローラ6は、車速センサ32やアクセル開度センサ33のセンサデータに基づいて、モータ8の目標出力値を算出する。コントローラ6は、目標出力値が実現されるように、電力変換器5とインバータ20を制御する。後述するように電力変換器5は、いくつかのスイッチング素子を備えており、コントローラ6は、電力変換器5の出力が目標出力値に一致するように、電力変換器5のスイッチング素子を制御する。
【0015】
電力変換器5は、双方向電圧コンバータ10と、コントローラ6を備えている。双方向電圧コンバータ10の低電圧端11(低電圧正極端11a、低電圧負極端11b)がシステムメインリレー4を介してメインバッテリ2に接続されている。高電圧端12(高電圧正極端12a、高電圧負極端12b)が、平滑コンデンサ7とインバータ20に接続されている。高電圧端12は、平滑コンデンサ7とインバータ20を介してモータ8に接続されている。
【0016】
平滑コンデンサ7は、双方向電圧コンバータ10の高電圧正極端12aと高電圧負極端12bの間に接続されている。平滑コンデンサ7は、双方向電圧コンバータ10とインバータ20の間を流れる電圧の脈動を抑えるために電気自動車100に搭載される車載蓄電器である。また、フィルタコンデンサ14が、低電圧正極端11aと低電圧負極端11bの間に接続されている。
【0017】
インバータ20は、双方向電圧コンバータ10が出力して平滑コンデンサ7で平滑化した直流電力を交流電力に変換してモータ8に供給する。モータ8は、車両の慣性エネルギを使って発電する場合もある。モータ8が発電した電力は回生電力と呼ばれる。インバータ20は、モータ8の回生電力(交流電力)を直流電力に変換して双方向電圧コンバータ10に供給することもできる。インバータ20の回路構成は良く知られているので、図示と説明は省略する。
【0018】
双方向電圧コンバータ10は、メインバッテリ2の電圧を昇圧して平滑コンデンサ7とインバータ20に供給する昇圧機能と、平滑コンデンサ7とインバータ20から供給される回生電力(直流電力)の電圧を降圧してメインバッテリ2へ供給する降圧機能を備えている。以下では、説明の便宜上、双方向電圧コンバータ10を単純に電圧コンバータ10と称する。
【0019】
電圧コンバータ10の回路構成を説明する。電圧コンバータ10は、フィルタコンデンサ14、リアクトル15、スイッチング素子16a、16b、還流ダイオード17a、17bを備えている。電圧コンバータ10は、さらに、電流センサ18と、電圧センサ13a、13bを備えている。2個のスイッチング素子16a、16bは、高電圧正極端12aと、高電圧負極端12bの間に直列に接続されている。以下では、高電圧正極端12aに近い側のスイッチング素子16aを上側スイッチング素子16aと称し、高電圧負極端12bに近い側のスイッチング素子16bを下側スイッチング素子16bと称する場合がある。スイッチング素子16a、16bは、n型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、あるいは、n型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。スイッチング素子16a、16bは、ターンオンすると、コレクタ(ドレイン)からエミッタ(ソース)へ電流を通す。
【0020】
上側スイッチング素子16aには還流ダイオード17aが逆並列に接続されており、下側スイッチング素子16bには還流ダイオード17bが逆並列に接続されている。より詳しくは、上側スイッチング素子16aのコレクタ(ドレイン)に還流ダイオード17aのカソードが接続されており、エミッタ(ソース)に還流ダイオード17aのアノードが接続されている。下側スイッチング素子16bと還流ダイオード17bの接続関係も同様である。
【0021】
リアクトル15は、2個のスイッチング素子16a、16bの直列接続の中点と、低電圧正極端11aの間に接続されている。すなわち、リアクトル15は、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bの中点に一端が接続されており、他端がシステムメインリレー4を介してメインバッテリ2に接続されている。図示は省略したが、リアクトル15は、コイルと、磁性体で形成された圧粉コアを備えている。コイルは、圧粉コアに巻回されている。リアクトル15のコイルに電流が流れると、コアに磁束が生じる。リアクトル15は、コイルに流れた電流の電気エネルギを圧粉コアの磁気エネルギに変換することで、電圧を変圧する。
【0022】
上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bの中点と、リアクトル15の間に電流センサ18が接続されている。電流センサ18は、リアクトル15に流れる電流を計測する。
図1の上部の拡大図に示されるように、電流センサ18は、磁性コア18aを備えている。磁性コア18aは、一部に切り欠きを備えているリング形状を有しており、磁性コア18aの切り欠きにはホール素子18bが配置されている。磁性コア18aは、リアクトル15に接続される導体(例えば、バスバ)を挿通させる。リアクトル15に流れる電流が磁性コア18aを通過すると、その電流によって磁性コア18aに磁束が生じる。リアクトル15を流れる電流に起因して磁性コア18aに生じた磁束は、ホール素子18bによって出力電圧に変換される。磁性コア18aに生じる磁束は、リアクトル15を流れる電流の大きさによって変化する。リアクトル15を流れる電流が大きくなると、ホール素子18bの出力電圧も大きくなる。リアクトル15を流れる電流が小さくなると、ホール素子18bの出力電圧も小さく。このように、電流センサ18は、磁性コア18aに生じる磁束からリアクトル15を流れる電流値を計測する。
【0023】
電圧センサ13aは、低電圧正極端11aと低電圧負極端11bの間の電圧を計測する。別言すれば、電圧センサ13aは、メインバッテリ2の電圧を計測する。電圧センサ13bは、高電圧正極端12aと高電圧負極端12bの間の電圧を計測する。別言すれば、電圧センサ13bは、平滑コンデンサ7の電圧を計測する。
【0024】
スイッチング素子16a、16bは、コントローラ6によって制御される。コントローラ6は、車速センサ32とアクセル開度センサ33のセンサデータに基づいて、電圧コンバータ10のバッテリ側の電圧とインバータ側の電圧の目標電圧比を決定する。コントローラ6は、電流センサ18と、電圧センサ13a、13bのセンサデータに基づいて、実際の電圧比が目標電圧比に一致するように、スイッチング素子16a、16bを制御する。
【0025】
下側スイッチング素子16bと還流ダイオード17aが主に昇圧機能に関与し、上側スイッチング素子16aと還流ダイオード17bが主の降圧機能に関与する。コントローラ6は、目標電圧比が実現されるように、スイッチング素子16a、16bのそれぞれの駆動信号(PWM信号)を生成し、それぞれのスイッチング素子16a、16bに供給する。
【0026】
図2を参照して、リアクトル15を流れる電流の計測値ILの変化について説明する。
図2は、電気自動車100(
図1参照)の走行状況における電流センサ18の計測値の変化を示している。
図2の区間(A1,A2)では、電気自動車100が停車している間の電流センサ18の計測値を示している。
図2(B)では、電気自動車100が加速している間の電流センサ18の計測値を示している。
図2(C)では、電気自動車100が一定の速度で走行している間の電流センサ18の計測値を示している。
図2(D)では、電気自動車100が減速している間の電流センサ18の計測値を示している。
【0027】
また、
図2では、メインバッテリ2(
図1参照)からモータ8へ向かって電流センサ18を流れる電流を正の値(すなわち、0Aの上側)で表現している。モータ8からメインバッテリ2に向かって電流センサ18を流れる電流を負の値(すなわち、0Aの下側)で表現している。別言すれば、
図2では、電圧コンバータ10が昇圧しているときに電流センサ18に流れる電流を正の値で示しており、電圧コンバータ10が降圧しているときに電流センサ18に流れる電流を負の値で示している。
【0028】
図2(A1)に示されるように、電気自動車100(
図1参照)が停車している場合は、電流センサ18の計測値はほぼ0Aである。その後、電気自動車100が加速すると、電圧コンバータ10は、メインバッテリ2の電圧を昇圧する。その結果、
図2(B)に示されるように、電流センサ18の計測値は、大きな正の値となる。その後、電気自動車100の加速が終了して一定の速度で走行すると、電圧コンバータ10は、昇圧も降圧も行わない。その結果、
図2(C)に示されるように、電流センサ18の計測値は、ほぼ0Aとなる。さらに、電気自動車100が減速すると、モータ8が発電した回生電力を電圧コンバータ10が降圧してメインバッテリ2に供給する。その結果、
図2(D)に示されるように、電流センサ18の計測値は、大きな負の値となる。その後、電気自動車100が減速を続け、電気自動車100が停車すると、電圧コンバータ10は昇圧も降圧も行わないため、
図2(A2)に示されるように、電流センサ18の計測値は0Aに近づく。
【0029】
先に述べたように、電流センサ18は、磁性コア18a(
図1参照)を備えている。電気自動車100が加速、減速の際、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bはオンオフされる。その際、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bは発熱する。その結果、電流センサ18の温度は高温になる。電流センサ18の磁性コア18aの温度特性などの影響により、電流センサ18のゼロ点がずれることがある。電流センサ18のゼロ点がずれると、
図2(A2)に示されるように、電流センサ18に電流が流れていないにも関わらず、電流センサ18の計測値は0Aとならない。電流センサ18の計測値は、誤差d1となる。このため、実施例の電力変換器5は、電流センサ18のゼロ点を補正して、新たなゼロ点を基準としてリアクトル15を流れる電流値を計測するゼロ点補正を行う。ゼロ点補正を行うことで、電流センサ18のゼロ点がずれた場合であっても、電力収支を合わせることができる。
【0030】
電流センサ18と同様に、リアクトル15も、磁性体で形成されている圧粉コアを備えている。磁性体に一定時間同じ方向に電流が流れると、その磁性体は着磁する。着磁した磁性体は、電流が流れているか否かに関係なく磁束を生じる。
図1を参照して説明したように、電流センサ18は、磁性コア18aの磁束をホール素子18bが出力電圧に変換して電流値を計測する。そのため、電流センサ18の磁性コア18a、リアクトル15の圧粉コアが着磁すると、リアクトル15に電流が流れていない場合であっても、電流センサ18は、着磁した磁束を変換して電流値として計測する。すなわち、電流センサ18の磁性コア18a、リアクトル15の圧粉コアが着磁すると、電流センサ18のゼロ点のずれが大きくなる。着磁の影響で大きくずれたゼロ点を用いてゼロ点補正を行うと、電力収支がずれる。
【0031】
ここで、
図3を用いて、電流センサ18(
図1参照)の磁性コア18aの一般的な特性を説明する。
図3のグラフの横軸Iinは、リアクトル15(
図1参照)を流れる電流(すなわち被測定電流)であり、縦軸Voutは電流センサ18の測定値(すなわち出力電圧)である。
図3は、電流センサ18の磁性コア18aの残留磁束のヒステリシス特性を示している。リアクトル15に流れる電流が大きくなると、
図3の矢印I1に示されるように、電流センサ18の測定値も大きくなる。その後、磁性コア18aが着磁すると、矢印I2に示されるように、リアクトル15に流れる電流が0A(すなわち、
図3の縦軸Vout上)になった場合であっても、電流センサ18の出力電圧はヒステリシス誤差Hdとなる。このような磁性コア18aのヒステリシス特性によって、一定時間リアクトル15に電流が流れた場合には、電流センサ18の計測値は、ヒステリシス誤差Hdを含む。
図2を参照して説明したように、
図2(D)に示される区間では、電気自動車100(
図1参照)は、一定時間をかけて減速している。すなわち、電力変換器5(
図1参照)は、一定時間降圧を行っている。その結果、電流センサ18には、モータ8からメインバッテリ2(ともに
図1参照)に向かう電流が一定時間流れる。すなわち、
図2の誤差d1には、ヒステリシス誤差Hdが含まれる。このため、誤差d1の値を新たなゼロ点に補正すると、ヒステリシス誤差Hd分だけ、ゼロ点がずれる。また、リアクトル15(
図1参照)の圧粉コアについても、磁性コア18aと同様にヒステリシス誤差が発生し、その影響により、電流センサ18の計測値がずれる。
【0032】
磁性コア18aの着磁により発生したヒステリシス誤差Hdは、着磁した磁性コア18aに、0Aを跨ぐ交流電流を流すことで小さくすることができる。着磁した磁性コア18aに、プラスIrとマイナスIrの間で0Aを跨ぐ電流が磁性コア18aに流れると、
図3の破線矢印に示すように、ヒステリシス曲線はらせん状に小さくなる。
【0033】
図4を参照して、実施例の電力変換器5(
図1参照)が備えているコントローラ6が、ゼロ点を補正する際に実行する処理について説明する。まず、コントローラ6は、電気自動車100の車速が0Km/hか否かを判定する(ステップS2)。先に述べたように、コントローラ6は、車速センサ32からの信号を受信している。コントローラ6は、車速センサ32からの信号に基づいて、電気自動車100の車速が0Km/hか否かを判定する。電気自動車100の車速が0Km/hでない場合には(ステップS2:NO)、電気自動車100が走行しているため、リアクトル15および電流センサ18に電流が流れている。そのためコントローラ6は、ゼロ点の補正を中止する。
【0034】
電気自動車100の車速が0Km/hである場合には(ステップS2:YES)、電気自動車100は停止状態であるため、リアクトル15および電流センサ18(ともに、
図1参照)に電流が流れていない可能性が高い。そのため、コントローラ6は、電流センサ18の計測値ILが閾値Ithよりも小さいか否かを判定する(ステップS4)。ここで、閾値Ithは、リアクトル15および電流センサ18に電流が流れていないと推測できる値である。さらに、閾値Ithは、例えば電気自動車100のエンジン(付図示)によるメインバッテリ2の充電等、車両停止時においてリアクトル15および電流センサ18に流れる可能性のある電流の値よりも小さい値である。このため、コントローラ6は、電流センサ18の計測値ILが閾値Ithよりも大きい場合には(ステップS2:NO)、メインバッテリ2が充電状態であると判定し、ゼロ点の補正を中止する。なお、コントローラ6は、計測値ILの時間微分値を閾値と比較し、計測値ILの時間微分値が閾値より大きい場合に、メインバッテリ2が充電状態であると判定してもよい。計測値ILと閾値Ithの比較に代えて、計測値ILの時間微分値と閾値を比較することで、電流センサ18の計測値ILが瞬間的に閾値Ithを超え、閾値Ith以下に戻るような異常を排除することができる。すなわち、より正確に電流センサ18に電流が流れているかどうかを判定することができる。なお、閾値Ithは前記誤差d1が取り得る最大値より大きく設定されており、誤差によってステップS4がNOとなることはない。
【0035】
電流センサ18の計測値ILが閾値Ithよりも小さい場合には(ステップS4:YES)、リアクトル15および電流センサ18(ともに、
図1参照)に電流が流れていない状態であると判断できる。その場合、コントローラ6は、電圧センサ13aの計測値Vaと電圧センサ13bの計測値Vbを比較する(ステップS6)。すなわち、コントローラ6は、平滑コンデンサ7(
図1参照)の電圧とメインバッテリ2(
図1参照)の電圧を比較する。
【0036】
電圧センサ13bの計測値Vb(すなわち、平滑コンデンサ7の電圧)が電圧センサ13aの計測値Va(すなわち、メインバッテリ2の電圧)よりも大きい場合には(ステップS6:YES)、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16b(ともに
図1参照)を交互にオンオフする(ステップS8)ことによって、電圧コンバータ10に0Aを跨ぐ交流電流を通電することができる。電圧コンバータ10に0Aを跨ぐ交流電流を通電するために、ステップS6でYESとなるタイミングを選択して、ステップS8を実施する。
【0037】
ステップS8では、コントローラ6が、所定時間が経過するまで(ステップS12がYESとなるまで)、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bのオンオフを継続する。ここでの所定時間は、リアクトル15の圧粉コアや電流センサ18の磁性コア18aに発生したヒステリシス誤差を解消するために要する時間であり、リアクトル15および電流センサ18の磁性コアの材質や大きさ、または電圧コンバータ10に流れる最大電流値等の条件により決定される。
【0038】
上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bのオンオフを所定時間継続した後(ステップS12がYESとなると)、コントローラ6は、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bをともにオフする(ステップS14)。これにより、リアクトル15および電流センサ18を流れる交流電流が停止して、リアクトル15および電流センサ18に流れる電流の値が一定となる。また、0Aを跨ぐ交流電流により、電流センサ18のヒステリシス誤差Hd(
図3参照)が小さくなっている。コントローラ6は、ヒステリシス誤差Hdが小さくなった電流センサ18の計測値に基づいて電流センサ18のゼロ点を補正する(ステップS16)。
【0039】
図5を参照して、電流センサ18(
図1参照)のゼロ点が補正される際の電流の変化について説明する。
図5は、
図2(D)の一部および
図2(A2)を拡大したグラフである。
図5に示されるように、電気自動車100が減速(
図5(D))を終了した後、電流センサ18の計測値ILは誤差d1となる。先に述べたように、誤差d1は、ヒステリシス誤差Hd(
図3参照)を含んでいる。
図4を参照して説明したように、コントローラ6は、電流センサ18のゼロ点を補正する際、平滑コンデンサ7の電圧がメインバッテリ2の電圧よりも大きいタイミングを選択して、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bを交互にオンオフする。これによりOAを跨ぐ交流電流LIがリアクトル15および電流センサ18に流れる。交流電流LIは、リアクトル15または電流センサ18の着磁した磁性コアを流れ、ヒステリシス誤差Hdを小さくする。コントローラ6は、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bをオンオフする期間を、昇圧または降圧時にオンオフする期間よりも短くすることが好ましい。その結果、交流電流LIの値は、昇圧または降圧時よりも小さくなる。これにより、ヒステリシス誤差Hdを短時間で小さくすることができる。
【0040】
コントローラ6は、所定時間の間、交流電流LIをリアクトル15および電流センサ18に流した後、上側スイッチング素子16aと下側スイッチング素子16bをともにオフする。その結果、交流電流LIが消滅し、計測値ILは誤差d2となる。ヒステリシス誤差Hdが小さくなった誤差d2は、誤差d1よりも小さい。コントローラ6は、タイミングt0において、ヒステリシス誤差Hdが小さくなった誤差d2に基づいて電流センサ18のゼロ点を補正する。その結果、電流センサ18の計測値ILは補正され、計測値ILは0Aとなる。
【0041】
このように、実施例の電力変換器5は、電流センサ18のゼロ点を補正する際に、0Aを跨ぐ交流電流LIをリアクトル15および電流センサ18に意図的に流すことで、リアクトル15よび電流センサ18の磁性コア18aのヒステリシス誤差を小さくする。すなわち、電力変換器5は、ヒステリシス誤差が小さくなった電流センサ18の計測値に基づいてゼロ点を補正することができる。
【0042】
実施例の留意点をいかに述べる。実施例の電流センサ18は、リアクトル15とスイッチング素子16a、16bの中点の間に設けられているが、これに限定されず、例えば、電流センサ18は、リアクトル15とフィルタコンデンサ14の間に設けられていてもよい。また、電流センサ18は、電圧コンバータ10と別体で構成されてもよい。さらに、実施例のコントローラ6は、電気自動車100の車速によって車両停止状態を判定しているが、これに限定されず、コントローラ6は、例えば、シフトレバーの位置がパーキングの位置にある場合に、車両が停止していると判定してもよい。さらに、交流電流LIは、徐々に小さくなるように減衰させてもよい。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0044】
2 :メインバッテリ
4 :システムメインリレー
5 :電力変換器
6 :コントローラ
7 :平滑コンデンサ
8 :モータ
10 :双方向電圧コンバータ
11 :低電圧端
11a :低電圧正極端
11b :低電圧負極端
12 :高電圧端
12a :高電圧正極端
12b :高電圧負極端
13a :電圧センサ
13b :電圧センサ
14 :フィルタコンデンサ
15 :リアクトル
16a :上側スイッチング素子
16b :下側スイッチング素子
17a、17b :還流ダイオード
18 :電流センサ
18a :磁性コア
18b :ホール素子
20 :インバータ
31 :メインスイッチ
32 :車速センサ
33 :アクセル開度センサ
100 :電気自動車