(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20240521BHJP
B60T 13/122 20060101ALI20240521BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20240521BHJP
B60T 13/68 20060101ALI20240521BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240521BHJP
B60T 8/42 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T13/122 A
B60T13/138 A
B60T13/68
B60T8/17 B
B60T8/42
(21)【出願番号】P 2020049272
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
(72)【発明者】
【氏名】坂上 雅貴
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105405(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/105749(WO,A1)
【文献】特開2017-30553(JP,A)
【文献】国際公開第2016/84838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
B60T 13/122
B60T 13/138
B60T 13/68
B60T 8/17
B60T 8/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダのマスタ室に第1液路を介して接続され、前記第1液路の液圧に基づいて第1ホイールシリンダに液圧を出力する第1液圧出力部と、
前記マスタシリンダとは独立して液圧を発生させる液圧発生部と、
前記液圧発生部に第2液路を介して接続され、前記第2液路の液圧に基づいて第2ホイールシリンダに液圧を出力する第2液圧出力部と、
前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉するノーマルクローズ型の電磁弁である連通制御弁と、
前記第1液路において、前記連通路との接続部よりも前記マスタシリンダ側に設けられたノーマルオープン型の電磁弁であるマスタカット弁と、
を備え
、
前記第1液圧出力部は、前記マスタシリンダ及び前記液圧発生部を含む上流ユニットが基礎液圧を増大させることなく、前記第1液路の液圧に基づいて第1ホイールシリンダの液圧を増大可能に構成され、
前記第2液圧出力部は、前記上流ユニットが基礎液圧を増大させることなく、前記第2液路の液圧に基づいて第2ホイールシリンダの液圧を増大可能に構成される車両用制動装置。
【請求項2】
前記マスタシリンダ内には、マスタピストンにより単一の前記マスタ室が形成されている請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記液圧発生部は、電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動することにより出力室に液圧を発生させる電動シリンダであって、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置が所定の接続位置である場合に、前記出力室がブレーキ液を貯留するリザーバに接続されるように構成されている請求項1又は2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記電動シリンダは、前記ピストンを前記出力室とは反対側に付勢する付勢部材を有し、前記電気モータの非通電時に前記ピストンと前記シリンダとの相対位置が初期位置に移動するように構成され、
前記接続位置は前記初期位置である請求項3に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記連通制御弁を開弁させ、前記マスタカット弁を閉弁させ、且つ前記ピストンを移動させて、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置を前記接続位置から前記出力室と前記リザーバとの接続を遮断する遮断位置に変更する遮断制御を実行可能に構成された遮断制御部をさらに備える請求項3又は4に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
液漏れが発生しているか否かを判定する液漏れ判定部をさらに備え、
前記遮断制御部は、前記液漏れ判定部により液漏れが発生していると判定された場合、前記遮断制御を実行する請求項5に記載の車両用制動装置。
【請求項7】
前記液漏れ判定部は、前記リザーバの液面レベルに基づいて液漏れが発生しているか否かを判定する請求項6に記載の車両用制動装置。
【請求項8】
前記遮断制御部は、車両のイグニッションがオンされた場合、前記遮断制御を実行する請求項5に記載の車両用制動装置。
【請求項9】
前記液圧発生部と前記リザーバとを接続するブレーキ液供給路に設けられ、前記ブレーキ液供給路を開閉する供給路制御弁を備える請求項3に記載の車両用制動装置。
【請求項10】
液漏れが発生しているか否かを判定する液漏れ判定部と、
前記液漏れ判定部により液漏れが発生していると判定された場合、前記供給路制御弁を閉弁する遮断制御部と、
をさらに備える請求項9に記載の車両用制動装置。
【請求項11】
車両のイグニッションがオンされた場合、前記供給路制御弁を閉弁する遮断制御部をさらに備える請求項9に記載の車両用制動装置。
【請求項12】
前記連通制御弁を開弁させ且つ前記マスタカット弁を閉弁させて、前記液圧発生部及び前記第1液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダの液圧を調整可能にし、前記液圧発生部及び前記第2液圧出力部の少なくとも一方により前記第2ホイールシリンダの液圧を調整可能にする通常制御と、
前記連通制御弁を閉弁させ且つ前記マスタカット弁を開弁させて、前記第1液圧出力部により前記第1ホイールシリンダの液圧を調整可能にし、前記第2液圧出力部により前記第2ホイールシリンダの液圧を調整可能にする特定制御と、
を選択的に実行する制御部をさらに備える請求項1~11の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項13】
前記第1液路、前記第2液路、前記第1液圧出力部と前記第1ホイールシリンダとを接続する液路、又は前記第2液圧出力部と前記第2ホイールシリンダとを接続する液路で液漏れが発生しているか否かを判定する特定液漏れ判定部をさらに備え、
前記制御部は、前記特定液漏れ判定部により液漏れが発生していると判定された場合、前記特定制御を実行する請求項12に記載の車両用制動装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記特定制御において、前記連通制御弁の閉弁状態が維持される範囲で前記液圧発生部により前記第2液圧出力部に入力される液圧を調整する請求項12又は13に記載の車両用制動装置。
【請求項15】
前記液圧発生部を制御する第1ブレーキECUと、
前記第1液圧出力部及び前記第2液圧出力部を制御する第2ブレーキECUと、
前記第1ブレーキECU及び前記第2ブレーキECUに電力を供給する電源装置と、
を備える請求項1~14の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項16】
前記電源装置は、前記第1ブレーキECUに電力を供給する第1電源と、前記第1電源から独立して前記第2ブレーキECUに電力を供給する第2電源と、を備える請求項15に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制動装置には、失陥時を考慮して、複数のホイールシリンダが2つの系統に分かれて接続されたものがある。例えば国際公開第2019/105749号に記載の車両用制動装置では、電動シリンダの出力液路が第1系統と第2系統とに分岐している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用制動装置には、電気失陥等の装置の故障だけでなく、一方の系統で液漏れが発生した場合に、他方の系統で適切に制動力を発生させることが求められる。本発明の目的は、装置の故障時及び液漏れ発生時にも、適切に制動力を発生させることができる新たな構成の車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両用制動装置は、マスタシリンダのマスタ室に第1液路を介して接続され、前記第1液路の液圧に基づいて第1ホイールシリンダに液圧を出力する第1液圧出力部と、前記マスタシリンダとは独立して液圧を発生させる液圧発生部と、前記液圧発生部に第2液路を介して接続され、前記第2液路の液圧に基づいて第2ホイールシリンダに液圧を出力する第2液圧出力部と、前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉するノーマルクローズ型の電磁弁である連通制御弁と、前記第1液路において、前記連通路との接続部よりも前記マスタシリンダ側に設けられたノーマルオープン型の電磁弁であるマスタカット弁と、を備え、前記第1液圧出力部は、前記マスタシリンダ及び前記液圧発生部を含む上流ユニットが基礎液圧を増大させることなく、前記第1液路の液圧に基づいて第1ホイールシリンダの液圧を増大可能に構成され、前記第2液圧出力部は、前記上流ユニットが基礎液圧を増大させることなく、前記第2液路の液圧に基づいて第2ホイールシリンダの液圧を増大可能に構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液圧発生部の正常時には、液圧発生部の出力液圧を連通路を介して第1液路に導入し、その出力液圧に基づいて第1液圧出力部から第1ホイールシリンダに液圧を出力することができ、第2液路の液圧に基づいて第2液圧出力部から第2ホイールシリンダに液圧を出力することができる。
【0007】
一方、液圧発生部の故障時には、マスタシリンダの出力液圧を第1液路に導入して、第1液路の液圧に基づいて第1液圧出力部から第1ホイールシリンダに液圧を出力することができる。
【0008】
また、液圧発生部、第2液路、第2液圧出力部、及び第2ホイールシリンダからなる第2系統に液漏れ(ブレーキ液の漏れ)が発生したとしても、連通制御弁により連通路を遮断してマスタシリンダや第1液圧出力部により第1ホイールシリンダに液圧を出力することができる。一方、マスタシリンダ、第1液路、第1液圧出力部、及び第1ホイールシリンダからなる第1系統に液漏れが発生したとしても、連通制御弁により連通路を遮断して液圧発生部や第2液圧出力部により第2ホイールシリンダに液圧を出力することができる。
【0009】
また、本発明によれば、電源失陥時には連通制御弁により連通路が遮断されるため、マスタシリンダから第1ホイールシリンダに液圧を出力することができる。このように、本発明の新たな構成によれば、装置の故障時及び液漏れ発生時にも、適切に制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図2】第1実施形態の電動シリンダを説明するための概念図である。
【
図3】第1実施形態のアクチュエータの構成図である。
【
図4】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
【
図5】第1実施形態の電源装置の変形態様を示す概念図である。
【
図6】第2実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図である。
【0012】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制動装置1は、
図1に示すように、上流ユニット11と、下流ユニットを構成するアクチュエータ3と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、電源装置903と、を備えている。上流ユニット11は、下流ユニットに基礎液圧を供給可能に構成されている。
【0013】
上流ユニット11は、電動シリンダ(「液圧発生部」に相当する)2と、マスタシリンダユニット4と、第1液路51と、第2液路52と、連通路53と、ブレーキ液供給路54と、連通制御弁61と、マスタカット弁62と、を備えている。第1ブレーキECU901は、少なくとも上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU902は、少なくともアクチュエータ3を制御する。なお、
図1は、車両用制動装置1の非通電状態を表している
【0014】
電動シリンダ2は、リザーバ45に接続され、第1ホイールシリンダ81、82及び第2ホイールシリンダ83、84を加圧可能な加圧ユニット(調圧ユニット)である。第1ホイールシリンダ81、82は第1系統のホイールシリンダであり、第2ホイールシリンダ83、84は第2系統のホイールシリンダである。第1系統は第1液路51を介してブレーキ液が供給される系統であり、第2系統は第2液路52を介してブレーキ液が供給される系統である。第1実施形態では、例えば、第1ホイールシリンダ81、82は前輪に設けられ、第2ホイールシリンダ83、84は後輪に設けられている。
【0015】
電動シリンダ2は、シリンダ21と、電気モータ22と、ピストン23と、出力室24と、付勢部材25と、を有する。電気モータ22は、回転運動を直線運動に変換する直動機構22aを介してピストン23に接続されている。電動シリンダ2は、シリンダ21内に単一の出力室24が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。
【0016】
ピストン23は、電気モータ22の駆動によりシリンダ21内を軸方向に摺動する。ピストン23は、軸方向一方側に開口し軸方向他方側に底面を有する有底円筒状に形成されている。つまり、ピストン23は、開口を形成する筒状部分と、底面(受圧面)を形成する円柱部分と、を備えている。
【0017】
出力室24は、シリンダ21とピストン23により区画されており、ピストン23の移動により容積が変化する。出力室24は、リザーバ45及びアクチュエータ3に接続されている。ピストン23は、
図2に示すように、軸方向において、出力室24の容積が最小となる位置と、出力室24の容積が最大となる位置とを含む摺動領域R内で摺動する。摺動領域Rは、出力室24とリザーバ45との間を連通させる連通領域R1、及び出力室24とリザーバ45との間を遮断する遮断領域R2で構成されている。連通領域R1は、出力室24の容積が最大となるピストン23の初期位置(
図1、2の位置)を含んでいる。遮断領域R2は、出力室24の容積が最小となるピストン23の位置を含んでいる。遮断領域R2は、軸方向において、連通領域R1よりも大きい。なお、
図2では、各領域R、R1、R2がピストン23の軸方向一端(先端)の位置を基準に表されている。
【0018】
より詳細に、シリンダ21には、入力ポート211及び出力ポート212が形成されている。出力ポート212は、出力室24と第2液路52とを連通させている。入力ポート211は、ピストン23が初期位置にある際に、ピストン23の筒状部分とオーバーラップしている。ピストン23の筒状部分には、貫通孔231が形成されている。貫通孔231は、ピストン23が初期位置にある場合に、入力ポート211に対向する位置(オーバーラップする位置)に形成されている。
【0019】
入力ポート211と貫通孔231がオーバーラップしている状態で、出力室24とリザーバ45とが連通する。ピストン23が軸方向一方側に移動することで、入力ポート211と貫通孔231とがオーバーラップする幅は減少する。入力ポート211と貫通孔231とがオーバーラップしない状態になると、出力室24とリザーバ45との間が遮断される。入力ポート211は、初期位置におけるピストン23の円柱部分の軸方向一端面(ピストン23の受圧面)付近に形成されている。シリンダ21には、シール部材X1、X2が設けられている(
図2参照)。入力ポート211は、シール部材X1とシール部材X2の間に形成されている。
【0020】
オーバーラップ距離(貫通孔231及び/又は入力ポート211の軸方向の幅)が大きいほど、連通領域R1が大きくなる。第1実施形態では、入力ポート211と貫通孔231とは同レベルの軸方向幅を有している。ピストン23の軸方向一方側への移動において、連通領域R1は、ピストン23が初期位置から所定量(オーバーラップ距離)移動するまで継続する。付勢部材25は、出力室24に配置され、ピストン23を軸方向他方側に(初期位置に向けて)付勢するばねである。
【0021】
連通領域R1は、ピストン23の初期位置と、初期位置から軸方向一方側に所定量離れた位置との間の領域である。第1実施形態において、この所定量は、入力ポート211の軸方向の幅以下に形成されている。入力ポート211の流路断面積(開口面積)は、ピストン23の初期位置でのみ最大となる。
【0022】
(電動シリンダのまとめ)
このように、電動シリンダ2は、電気モータ22により駆動されるピストン23がシリンダ21内を摺動することにより出力室24に液圧を発生させる装置であって、ピストン23とシリンダ21との相対位置が所定の接続位置(接続相対位置)である場合に出力室24がブレーキ液を貯留するリザーバ45に接続されるように構成されている。また、電動シリンダ2は、ピストン23を出力室24とは反対側に付勢する付勢部材25を有し、電気モータ22の非通電時にピストン23とシリンダ21との相対位置が初期位置に移動するように構成されている。第1実施形態において、接続位置は、初期位置である。なお、接続位置は初期位置に限らない。例えば、ピストン23が初期位置よりも、出力室24の体積を小さくする方向に位置した状態で、電動シリンダ21とリザーバ45とが液圧的に接続されるよう構成されていてもよい。この場合、ピストン23が初期位置に位置する状態では、電動シリンダ21はリザーバ45と液圧的に接続されない。
【0023】
アクチュエータ3は、第1ホイールシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、第2ホイールシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備える調圧ユニット(下流ユニット)である。アクチュエータ3は、電動シリンダ2に接続されている。
【0024】
第1液圧出力部31は、上流ユニット11が発生させる基礎液圧を増大させることなく、第1ホイールシリンダ81、82の液圧を増大可能に構成されている。換言すると、第1液圧出力部31は、入力された液圧と第1ホイールシリンダ81、82の液圧との間に差圧を発生させることで第1ホイールシリンダ81、82を加圧するように構成されている。同様に、第2液圧出力部32は、基礎液圧を増大させることなく第2ホイールシリンダ83、84の液圧を増大可能に構成されている。換言すると、第2液圧出力部32は、入力された液圧と第2ホイールシリンダ83、84の液圧との間に差圧を発生させることで第2ホイールシリンダ83、84を加圧するように構成されている。
【0025】
アクチュエータ3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイールシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。アクチュエータ3は、第2ブレーキECU902の制御に応じて、例えばアンチスキッド制御(ABS制御とも呼ばれる)、横滑り防止制御(ESC)、又はトラクションコントロール等を実行する。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、アクチュエータ3の液圧回路上、互いに独立している。アクチュエータ3の構成については後述する。
【0026】
マスタシリンダユニット4は、リザーバ45に接続され、ブレーキ操作部材Zの操作量(ストローク及び/又は踏力)に応じて機械的にアクチュエータ3の第1液圧出力部31にブレーキ液を供給するユニットである。マスタシリンダユニット4と電動シリンダ2とは、互いに独立して液圧を発生させることができる。マスタシリンダユニット4は、第1液圧出力部31を介して第1ホイールシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。マスタシリンダユニット4は、マスタシリンダ41と、マスタピストン42と、を備えている。
【0027】
マスタシリンダ41は、有底円筒状の部材である。マスタシリンダ41には、入力ポート411と出力ポート412が形成されている。マスタピストン42は、ブレーキ操作部材Zの操作量に応じて、マスタシリンダ41内を摺動するピストン部材である。マスタピストン42は、軸方向一方側に開口し軸方向他方側に底面を有する有底円筒状に形成されている。
【0028】
マスタシリンダ41内には、マスタピストン42により単一のマスタ室41aが形成されている。換言すると、マスタシリンダ41には、マスタシリンダ41とマスタピストン42とによりマスタ室41aが形成されている。マスタ室41aの容積は、マスタピストン42の移動により変化する。マスタピストン42が軸方向一方側に移動すると、マスタ室41aの容積が小さくなり、マスタ室41aの液圧(以下「マスタ圧」という)が増大する。マスタ室41aには、マスタピストン42を初期位置に向けて(軸方向他方側に)付勢する付勢部材41bが設けられている。第1実施形態のマスタシリンダユニット4は、シングルタイプのマスタシリンダユニットである。
【0029】
出力ポート412は、マスタ室41aと第1液路51とを連通させる。入力ポート411は、マスタピストン42の筒状部分に形成された貫通孔421を介して、マスタ室41aとリザーバ45とを連通させる。マスタ室41aの容積が最大となるマスタピストン42の初期位置において、入力ポート411と貫通孔421とはオーバーラップし、マスタ室41aとリザーバ45とが連通する。マスタピストン42が初期位置から軸方向一方側に所定量(オーバーラップ距離)移動すると、マスタ室41aとリザーバ45との接続が遮断される。
【0030】
マスタシリンダユニット4には、ストロークシミュレータ43及びシミュレータカット弁44が設けられている。ストロークシミュレータ43は、ブレーキ操作部材Zの操作に対して反力(負荷)を発生させる装置である。ブレーキ操作が解除されると、付勢部材41bによりマスタピストン42が初期位置に戻される。ストロークシミュレータ43は、例えばシリンダ、ピストン、及び付勢部材により構成される。ストロークシミュレータ43とマスタシリンダ41の出力ポート412とは、液路43aにより接続されている。シミュレータカット弁44は、液路43aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。
【0031】
(液路と電磁弁)
第1液路51は、マスタ室41aと第1液圧出力部31とを接続している。第2液路52は、電動シリンダ2と第2液圧出力部32とを接続している。連通路53は、第1液路51と第2液路52とを接続している。
【0032】
連通制御弁61は、連通路53に設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。連通制御弁61は、電動シリンダ2による第1液圧出力部31へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。連通制御弁61は、閉弁時の第1ホイールシリンダ81、82から電動シリンダ2へのブレーキ液の逆流を防ぐため、弁体が弁座よりも第1ホイールシリンダ81、82側(第1系統側)に配置されている。これにより、連通制御弁61閉弁時に第1ホイールシリンダ81、82の液圧が電動シリンダ2の出力液圧よりも高くなっても、弁体には弁座に押し付けられる方向に力が加わるため(セルフシールされ)、閉弁が維持される。
【0033】
マスタカット弁62は、第1液路51のうち、第1液路51と連通路53との接続部50と、マスタシリンダ41との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。マスタカット弁62は、マスタシリンダユニット4から第1液圧出力部31へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。
【0034】
ブレーキ液供給路54は、リザーバ45と電動シリンダ2の入力ポート211とを接続している。なお、リザーバ45は、ブレーキ液を貯留し、内部の圧力は大気圧に保たれている。また、リザーバ45の内部は、各々ブレーキ液が貯留された2つの部屋451、452に区画されている。リザーバ45の一方の部屋451にはマスタシリンダユニット4が接続され、他方の部屋452にはブレーキ液供給路54を介して電動シリンダ2が接続されている。リザーバ45は、2つの部屋でなく、2つの別々のリザーバで構成されてもよい。
【0035】
(アクチュエータの構成例)
アクチュエータ3の構成例について、第1ホイールシリンダ81に接続された液路を例に簡単に説明する。アクチュエータ3の第1液圧出力部31は、
図3に示すように、主に、液路311と、差圧制御弁312と、保持弁313と、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、還流液路317aと、を備えている。
【0036】
液路311は、第1液路51と第1ホイールシリンダ81とを接続している。液路311には、圧力センサ75が設置されている。差圧制御弁312は、ノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度(電磁力による閉弁側への力)が制御されることで、上下流間に差圧を発生させることができる。第1液路51から第1ホイールシリンダ81へのブレーキ液の流通のみを許可するチェックバルブ312aが差圧制御弁312と並列に設けられている。
【0037】
保持弁313は、液路311のうち差圧制御弁312と第1ホイールシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。また、チェックバルブ313aが保持弁313と並列に設けられている。減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313と第1ホイールシリンダ81との間の部分と、リザーバ317とを接続している。
【0038】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動力により作動する。ポンプ315は、ポンプ液路315aに設けられている。ポンプ液路315aは、液路311のうち差圧制御弁312と保持弁313との間の部分(以下「分岐部X」という)と、リザーバ317とを接続している。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のブレーキ液が分岐部Xに吐出される。
【0039】
リザーバ317は、調圧リザーバである。還流液路317aは、第1液路51とリザーバ317とを接続している。リザーバ317は、ポンプ315の作動により、リザーバ317内のブレーキ液が優先的に吸入され、リザーバ317内のブレーキ液が減少すると開弁して還流液路317aを介して第1液路51からブレーキ液が吸入されるように構成されている。
【0040】
第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3により第1ホイールシリンダ81を加圧する場合、差圧制御弁312に目標差圧(第1ホイールシリンダ81の液圧>第1液路51の液圧)に応じた制御電流を印加し、差圧制御弁312を閉弁させる。この際、保持弁313は開弁しており、減圧弁314は閉弁している。また、ポンプ315が作動することで、第1液路51からリザーバ317を介して分岐部Xにブレーキ液が供給される。これにより、第1ホイールシリンダ81が加圧される。
【0041】
第1ホイールシリンダ81の液圧(以下「ホイール圧」という)と第1液路51の液圧との差が目標差圧を超えて高くなろうとすると、力の大小関係から差圧制御弁312が開弁する。加圧後のホイール圧は、第1液路51の液圧すなわち基礎液圧と、目標差圧との和になる。このように、アクチュエータ3は、電動シリンダ2の出力液圧である基礎液圧とホイール圧との間に差圧を発生させることで、ホイールシリンダ81~84を加圧する。アクチュエータ3は、加圧制御において、基礎液圧に影響を与えず、基礎液圧に対して付加圧(差圧分の液圧)を付加する。
【0042】
第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等でアクチュエータ3によりホイール圧を減圧する場合、減圧弁314を開弁させ且つ保持弁313を閉弁させた状態でポンプ315を作動させ、ホイールシリンダ81内のブレーキ液をポンプバックさせる。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3によりホイール圧を保持する場合、保持弁313及び減圧弁314を閉弁させる。電動シリンダ2又はマスタシリンダユニット4の作動のみによりホイール圧を加圧又は減圧する場合、第2ブレーキECU902は、差圧制御弁312及び保持弁313を開弁し、減圧弁314を閉弁させる。
【0043】
(車両用制動装置の構成のまとめ)
車両用制動装置1は、マスタシリンダ41のマスタ室41aに第1液路51を介して接続され、第1液路51の液圧に基づいて第1ホイールシリンダ81、82に液圧を出力する第1液圧出力部31と、マスタシリンダ41とは独立して液圧を発生させる電動シリンダ2と、電動シリンダ2に第2液路52を介して接続され、第2液路52の液圧に基づいて第2ホイールシリンダ83、84に液圧を出力する第2液圧出力部32と、第1液路51と第2液路52との間を接続する連通路53に設けられ、連通路53を開閉するノーマルクローズ型の電磁弁である連通制御弁61と、第1液路51において、連通路53との接続部50よりもマスタシリンダ41側に設けられたノーマルオープン型の電磁弁であるマスタカット弁62と、を備えている。
【0044】
(ブレーキECU及び各種センサ)
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU901、902は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0045】
第1ブレーキECU901は、電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44に制御可能に接続されている。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3に制御可能に接続されている。各ブレーキECU901、902は、各種センサの検出結果に基づいて各種制御を実行する。各種センサとして、車両用制動装置1には、例えば、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、75、レベルスイッチ74、車輪速度センサ(図示略)、及び加速度センサ(図示略)等が設けられている。
【0046】
ストロークセンサ71は、ブレーキ操作部材Zのストロークを検出する。車両用制動装置1には、各ブレーキECU901、902に一対一で対応するように、2つのストロークセンサ71が設けられている。ブレーキECU901、902は、それぞれ対応するストロークセンサ71からストローク情報を取得する。圧力センサ72は、マスタ圧を検出するセンサであって、例えば第1液路51のうちマスタカット弁62よりもマスタシリンダ41側の部分に設けられている。圧力センサ73は、電動シリンダ2の出力液圧を検出するセンサであって、例えば第2液路52に設けられている。レベルスイッチ74は、リザーバ45に設けられ、リザーバ45の液面レベルが所定値未満になったことを検出する。圧力センサ75は、第1液路51から第1液圧出力部31への入力液圧を検出する。各種センサの検出値は、両方のブレーキECU901、902に送信されてもよい。
【0047】
第1ブレーキECU901は、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、及びレベルスイッチ74の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいて電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44を制御する。第1ブレーキECU901は、圧力センサ72、73の検出結果及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。
【0048】
第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいてアクチュエータ3を制御する。第2ブレーキECU902は、圧力センサ75及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。第2ブレーキECU902は、設定部94を備えている。設定部94は、第1差圧(入力圧と第1ホイールシリンダ81、82の液圧との差圧)の目標値である第1目標差圧、及び第2差圧(入力圧と第2ホイールシリンダ83、84の液圧との差圧)の目標値である第2目標差圧を設定する。
【0049】
電源装置903は、各ブレーキECU901、902に電力を供給する装置である。電源装置903は、バッテリを備えている。電源装置903は、両ブレーキECU901、902に接続されている。つまり、第1実施形態では、2つのブレーキECU901、902に共通の電源装置903から電力が供給される。
【0050】
(第1実施形態の構成による効果)
第1実施形態によれば、電動シリンダ2の正常時には、電動シリンダ2の出力液圧を連通路53を介して第1液路51に導入し、その出力液圧に基づいて第1液圧出力部31から第1ホイールシリンダ81、82に液圧を出力することができ、第2液路52の液圧に基づいて第2液圧出力部32から第2ホイールシリンダ83、84に液圧を出力することができる。
【0051】
一方、電動シリンダ2の故障時には、マスタシリンダ41の出力液圧を第1液路51に導入して、第1液路51の液圧に基づいて第1液圧出力部31から第1ホイールシリンダ81、82に液圧を出力することができる。電動シリンダ2の故障とは、例えば、第1ブレーキECU901の故障や電気モータ22の断線である。
【0052】
また、電動シリンダ2、第2液路52、第2液圧出力部32、及び第2ホイールシリンダ83、84からなる第2系統に液漏れが発生したとしても、連通制御弁61により連通路53を遮断してマスタシリンダ41や第1液圧出力部31により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を出力することができる。一方、マスタシリンダ41、第1液路51、第1液圧出力部31、及び第1ホイールシリンダ81、82からなる第1系統に液漏れが発生したとしても、連通制御弁61により連通路53を遮断して電動シリンダ2や第2液圧出力部32により第2ホイールシリンダ83、84に液圧を出力することができる。
【0053】
また、第1実施形態によれば、電源失陥時には連通制御弁61により連通路53が遮断されるため、マスタシリンダ41から第1ホイールシリンダ81、82に液圧を出力することができる。このように、第1実施形態が示す新たな構成によれば、装置の故障時及び液漏れ発生時にも、適切に制動力を発生させることができる。
【0054】
ここで、2系統を有する車両用制動装置のもう一つの課題として下記の点が挙げられる。従来の車両用制動装置では、マスタシリンダユニットが接続された第1系統にて液漏れが発生している場合、電動シリンダによって第2系統のホイールシリンダが加圧される。この際、連通制御弁が閉弁され、電動シリンダによる第1系統へのフルード供給が禁止される。電動シリンダの出力による液漏れを防ぐためには、電動シリンダによる第2系統の加圧時に、連通制御弁が閉弁状態で維持されなければならない。
【0055】
連通制御弁61は、車両用制動装置1の構成上、ノーマルクローズ型であり、且つ閉弁時には付勢部材により弁体が電動シリンダ2側に付勢されて弁座に当接(着座)するように構成されている。連通制御弁61よりも電動シリンダ2側の液圧が、連通制御弁61よりも第1系統のホイールシリンダ81、82側の液圧よりも所定圧だけ高くなると、弁体が弁座から離れて連通制御弁61は開弁する。連通制御弁61が閉弁している状態で、電動シリンダ2の作動により系統間の差圧(第1系統<第2系統)が所定圧を超えると、連通制御弁61は開弁する。この所定圧は、電磁弁の耐差圧(通電により閉弁維持可能な最大差圧)といえる。連通制御弁61が閉弁され電動シリンダ2が第2系統のみを加圧する場合、連通制御弁61の耐差圧が電動シリンダ2の加圧限界を決める。したがって、第2系統で十分な制動力を発揮させるために、連通制御弁61の耐差圧を大きくすることが求められる。
【0056】
耐差圧は、主に、弁体を付勢するばね力と、弁体の受圧面積(弁座の流路面積に対応する値)によって決まる。ばね力(ばね定数)を大きくすると、耐差圧は大きくなるが、開弁制御時に必要な電力の増大やコイルの大型化が生じる。そこで、従来、弁座の流路面積を小さくして差圧により弁体に加わる力を小さくすることで、耐差圧を大きくすることが行われている。しかしながら、弁座の流路面積が小さくなると、電動シリンダ2から第1系統のホイールシリンダ81、82へのフルード供給流路が狭くなる。したがって、通常時(正常な状態で)、電動シリンダ2が第1系統及び第2系統にフルードを供給するに際して、第1系統へのフルード供給が第2系統へのフルード供給に比べて遅れてしまう。つまり、従来の構成には、通常時の第1系統の応答性の面で改良の余地がある。
【0057】
ここで、第1実施形態によれば、アクチュエータ3が両系統のホイールシリンダ81~84を加圧可能であるため、液漏れ時に電動シリンダ2が第2ホイールシリンダ83、84を加圧する必要がない。さらに、アクチュエータ3は、上流ユニット11の出力液圧である基礎液圧に対して下流側に差圧を発生させる構成であるため、各系統のホイールシリンダ81~84を加圧するにあたって電動シリンダ2の出力液圧を増大させる必要もない。したがって、第2系統を加圧するにあたり、閉弁状態の連通制御弁61が受ける液圧(基礎液圧)が大きく増大しない。
【0058】
これにより、連通制御弁61の耐差圧を大きくするために弁座の流路面積を小さくする必要がなくなる。つまり、第1実施形態によれば、流路設計において連通制御弁61の耐差圧による制限がなく、両系統に対して良好な応答性を確保することができる。このように、第1実施形態によれば、通常時の各系統の応答性を確保でき、且つ失陥時に少なくとも一方の系統を加圧することができる。
【0059】
(通常制御、特定制御、及び遮断制御)
第1ブレーキECU901は、制御部91と、液漏れ判定部92と、特定液漏れ判定部93と、を備えている。制御部91は、状況に応じて、通常制御と特定制御とを選択的に実行する。さらに、制御部91は、遮断制御を実行可能に構成されている。制御部91は遮断制御部を兼ねている。また、第2ブレーキECU902は、通常制御及び特定制御においてアクチュエータ3を制御する下流制御部95を備えている。
【0060】
通常制御は、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を開弁させ且つマスタカット弁62を閉弁させて、前記電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82の液圧を調整可能にし、電動シリンダ2及び第2液圧出力部32の少なくとも一方により第2ホイールシリンダ83、84の液圧を調整可能にする制御(制御モード)である。
【0061】
通常制御は、マスタシリンダユニット4とホイールシリンダ81~84とを液圧的に切り離し、各ブレーキECU901、902の制御によりホイール圧を調整するいわゆるバイワイヤモードを形成する。具体的に、制御部91は、マスタカット弁62が閉弁され且つシミュレータカット弁44及び連通制御弁61が開弁された状態で、ストロークセンサ71及び圧力センサ72が検出したデータを基に電動シリンダ2を駆動させる。第1ブレーキECU901は、ストロークセンサ71及び圧力センサ72の検出結果に基づいて目標減速度及び目標ホイール圧を設定し、ホイール圧が目標ホイール圧に近づくように電動シリンダ2を制御する。第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等の実行に際してアクチュエータ3を作動させる。
【0062】
特定制御は、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を閉弁させ且つマスタカット弁62を開弁させて、第1液圧出力部31により第1ホイールシリンダ81、82の液圧を調整可能にし、第2液圧出力部32により第2ホイールシリンダ83、84の液圧を調整可能にする制御(制御モード)である。特定制御では、連通制御弁61が閉弁しているため、電動シリンダ2が吐出するブレーキ液は第2液圧出力部32のみに供給される。
【0063】
また、特定制御では、マスタカット弁62が開弁しているため、マスタシリンダユニット4と第1液圧出力部31とが連通する。ブレーキ操作部材Zが操作された場合、マスタ室41aの容積が小さくなる。これに伴いマスタシリンダユニット4からブレーキ液が、開いたマスタカット弁62を通ってアクチュエータ3に供給される。つまり、マスタ圧が第1液圧出力部31に入力される基礎液圧となる。また、第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ72から送信されたデータを基に、ポンプ315や差圧制御弁312を制御する。このように、第1液圧出力部31は、マスタシリンダユニット4で発生された基礎液圧を基に、ブレーキ操作部材Zの操作に応じた差圧を発生させて第1ホイールシリンダ81を加圧できる。
【0064】
通常制御において、上流ユニット11が発生させる基礎液圧は、電動シリンダ2の出力液圧である。特定制御において、上流ユニット11が発生させる基礎液圧は、第1液圧出力部31に対してはマスタ圧であり、第2液圧出力部32に対しては電動シリンダ2の出力液圧である。
【0065】
遮断制御は、連通制御弁61を開弁させ且つマスタカット弁62を閉弁させて、電動シリンダ2のピストン23を遮断領域R2に移動させる制御(制御モード)である。遮断制御において、シミュレータカット弁44は開弁される。遮断制御は、連通制御弁61を開弁させ、マスタカット弁62を閉弁させ、且つピストン23を移動させて、ピストン23とシリンダ21との相対位置を接続位置(連通領域R1参照)から出力室24とリザーバ45との接続を遮断する遮断位置(遮断領域R2参照)に変更する制御である。遮断制御が実行されるタイミングの例は後述する。
【0066】
ブレーキECU901、902は、ピストン23の位置を遮断領域R2で維持しつつ、ホイール圧を調圧してもよい。例えば、ピストン23が遮断領域R2を維持しつつ軸方向に移動することで電動シリンダ2が作動し、ホイール圧を調圧することができる。また、アクチュエータ3の作動に応じてピストン23が遮断領域R2を維持したまま移動することで(例えば基礎液圧を発生させることで)、電動シリンダ2とアクチュエータ3との間でブレーキ液の流通が可能となり、アクチュエータ3によりホイール圧を調圧することができる。つまり、遮断制御中でも、アクチュエータ3は、アンチスキッド制御等の制御を実行することができる。制御部91は、遮断制御中、原則として電動シリンダ2によりホイール圧を調圧し、アンチスキッド制御等の実行に際してアクチュエータ3を作動させる。
【0067】
(液漏れ判定)
液漏れ判定部92は、液漏れが発生しているか否かを判定する。一例として、液漏れ判定部92は、リザーバ45の液面レベルに基づいて液漏れの有無を判定する。液漏れ判定部92は、レベルスイッチ74の検出結果に基づいて、液漏れが発生しているか否か(液漏れの蓋然性が高いか否か)を判定する。液漏れ判定部92は、リザーバ45内のブレーキ液の液面レベルが所定値未満になると、液漏れが発生していると判定する。
【0068】
特定液漏れ判定部93は、第1液路51、第2液路52、第1液圧出力部31と第1ホイールシリンダ81、82とを接続する液路310、又は第2液圧出力部32と第2ホイールシリンダ83、84とを接続する液路320での液漏れ(以下「特定液漏れ」という)が発生しているか否かを判定する。特定液漏れ判定部93は、液路310、320と、第1液路51及び第2液路52のうち上流ユニット11とアクチュエータ3とを接続する部分510、520の液漏れ(外部漏れ)の有無を判定するといえる。
【0069】
例えば、特定液漏れ判定部93は、通常制御の実行により電動シリンダ2が初期位置から所定ストローク以上軸方向に沿って摺動しブレーキ液を供給している状態で、圧力センサ73の検出値が上昇していない場合、特定液漏れが発生していると判定する。液路310、液路320、第1液路51、及び第2液路52のうち少なくとも1つからブレーキ液が漏れている場合、電動シリンダ2の出力液圧は上昇しない。特定液漏れ判定部93は、目標減速度と実際の減速度(例えば加速度センサの検出結果)との差に基づいて、特定液漏れの有無を判定してもよい。なお、液路310は、液路311の一部といえる。
【0070】
(制御例1)
制御例1について
図4を参照して説明する。制御部91は、所定条件が満たされると通常制御を実行する。具体的に、制御部は、例えば車両のイグニッションがオンされた場合に、通常制御を実行する。つまり、通常時(正常時)の制動制御は、バイワイヤモードで実行される。イグニッションがオンされた場合には、例えば電気自動車において車両が発進可能に起動された場合も含む。
【0071】
制御部91は、リザーバ45の液面レベルが所定値未満となり、液漏れ判定部92が液漏れ有りと判定した場合(S101:Yes)、遮断制御を実行する(S102)。例えば、ブレーキ操作部材Zが操作されず、電動シリンダ2及びアクチュエータ3が作動していない状態でリザーバ45の液面レベルが所定値未満になった場合、どこかからブレーキ液が漏れている蓋然性が高い。そこで、遮断制御により、電動シリンダ2の入力ポート211が閉鎖されることで、電動シリンダ2を介したリザーバ45とホイールシリンダ81~84との接続は遮断される。
【0072】
また、遮断制御が実行されてもマスタカット弁62の閉弁状態は維持されるため、マスタシリンダユニット4を介したリザーバ45と第1ホイールシリンダ81、82との接続も遮断される。つまり、遮断制御により、リザーバ45とホイールシリンダ81~84との接続は遮断される。
【0073】
通常制御中又は遮断制御中、例えば目標ホイール圧の上昇に対して実際のホイール圧が上昇せず、特定液漏れ判定部93が特定液漏れ(外部漏れ)が発生していると判定した場合(S103:Yes)、制御部91は特定制御を実行する(S104)。これにより、制御モードは、通常制御(バイワイヤモード)から特定制御に切り替わる。電動シリンダ2のピストン23が遮断領域R2にある場合、特定制御の実行により電気モータ22がオフされ、付勢部材25によりピストン23は初期位置に戻され、入力ポート211は開口する。なお、電気モータ22の逆回転によりピストン23が初期位置に戻されてもよい。また、液漏れ判定より先に特定液漏れ判定が為されてもよい。
【0074】
このように、制御部91は、通常制御を原則として、液漏れ判定部92の判定に基づいて遮断制御を実行し、特定液漏れ判定部93の判定に基づいて特定制御を実行する。第1ブレーキECU901は、起動後、常時(所定間隔ごとに)、液漏れの有無を監視しているといえる。また、第1ブレーキECU901は、加圧制御及び保持制御の実行中、常時(所定間隔ごとに)、特定液漏れの有無を監視しているといえる。なお、上流ユニット11及び/又は第1ブレーキECU901の電気失陥時には、連通制御弁61は閉弁されマスタカット弁62は開弁されるため、マスタシリンダユニット4による第1ホイールシリンダ81、82への加圧が可能である。アクチュエータ3及び/又は第2ブレーキECU902の電気失陥時には、電動シリンダ2によるホイールシリンダ81~84への加圧が可能である。電気失陥とは、ブレーキECU901、902の失陥や、各ユニットに含まれる電磁弁のショート等である。
【0075】
(遮断制御の効果)
遮断制御が実行されると、上記のように、電動シリンダ2及びマスタカット弁62により液路が閉鎖されるため、液漏れ箇所があっても電動シリンダ2の作動による基礎液圧の発生が無い状態では、理論上、当該液路が負圧になるような変化すなわち外部への液漏れは生じない。したがって、遮断制御によれば、液路310、320での液漏れや液路へのエアの混入を抑制することができる。遮断制御中に、ブレーキ操作部材Zが操作された場合(目標ホイール圧が上昇した場合)、制御部91は、この遮断状態を維持しつつ、電動シリンダ2及びアクチュエータ3の少なくとも一方によりホイールシリンダ81~84を加圧する。
【0076】
また、第1実施形態において、遮断領域R2の長さは、連通領域R1の長さよりも大きい。このため、ピストン23が初期位置にある状態から遮断制御を実行するにあたり、ピストン23を大きく軸方向一方側に移動させることなく、ピストン23を連通領域R1から遮断領域R2に移動させることができる。これにより、遮断制御による電動シリンダ2からのブレーキ液吐出量が抑制され、液漏れが抑制される。また、遮断領域R2が大きいことで、遮断制御中にアクチュエータ3を作動させる場合の電動シリンダ2の余力(ブレーキ液量)が大きくなる。特に第1実施形態では、連通領域R1がピストン23の初期位置付近(初期位置を含む初期駆動領域)にしかないため、ピストン23の少しの移動で入力ポート211を遮断することができる。例えば、初期駆動領域でのピストン23の軸方向一方側への移動では、ホイール圧は変動しない。
【0077】
(特定制御の効果)
上記のように、通常制御中又は遮断制御中に、例えば目標ホイール圧に対して実際のホイール圧(ここでは圧力センサ73の検出結果)が所定圧以上不足している場合、特定制御が実行される。特定制御の実行によれば、第1系統がマスタシリンダユニット4により加圧可能となる上、両系統のホイールシリンダ81~84がアクチュエータ3によって加圧可能となる。これにより、正常な系統におけるホイール圧の加圧が可能となる。
【0078】
また、第1液圧出力部31にはマスタシリンダユニット4を介してリザーバ45(部屋451)からブレーキ液が供給され、第2液圧出力部32には電動シリンダ2を介してリザーバ45(部屋452)からブレーキ液が供給される。これにより、部屋451と部屋452はリザーバ45内で分離されているため、第1系統と第2系統とが実質分離した状態となり、破損した系統にエアが混入したとしても、正常な系統にエアが混入することは防止される。系統にエアが混入すると、系統が正常であっても液圧が十分に上昇せず、十分な制動力が得られない可能性がある。しかしながら、特定制御によれば、正常な系統へのエアの混入を抑制でき、より確実に正常な系統で制動力を発生させることができる。
【0079】
(制御例2)
制御例2では、制御部91は、液漏れ判定部92の判定によらず、通常制御の実行とともに遮断制御を実行する。制御部91は、例えばイグニッションがオンされた場合に、通常制御と遮断制御を実行する。制御部91は、ピストン23を遮断領域R2に移動させ、ピストン23が遮断領域R2にある状態を維持しつつ、各ホイール圧を調圧する。これにより、液漏れの有無によらず、リザーバ45とホイールシリンダ81~84との間を遮断した状態で、電動シリンダ2、又は電動シリンダ2とアクチュエータ3との両方によりホイール圧が調圧される。
【0080】
制御例2によれば、例えば走行中の飛び石等により液路310、320の一方が破損した場合でも、電動シリンダ2の入力ポート211が閉鎖され且つマスタカット弁62が閉弁しているため、ブレーキ液が破損箇所から漏れ出ることやエアが液路内に混入することは抑制される。制御例2によれば、通常制御と同時に遮断制御が実行されるため、配管破損時から液漏れを抑制することができる。なお、制御例2の場合、レベルスイッチ74及び液漏れ判定部92については、車両用制動装置1の構成から除くことができる。
【0081】
(制御例3)
制御例3では、制御部91は、特定制御において、連通制御弁61の閉弁状態が維持される範囲で、電動シリンダ2により第2液圧出力部32に入力される液圧(基礎液圧)を調整する。電動シリンダ2の出力液圧(連通制御弁61よりも第2系統側の液圧)が、第1ホイールシリンダ81、82の液圧(連通制御弁61よりも第1系統側の液圧)よりも所定圧以上高くなると、閉弁状態の連通制御弁61は開弁する。この所定圧は、構造で決まる連通制御弁61の耐差圧に相当する。
【0082】
連通制御弁61の出入口間の差圧(以下「系統間差圧」ともいう)が耐差圧を超えるまでは、電動シリンダ2が第2ホイールシリンダ83、84を加圧しても連通制御弁61は開弁しない。したがって、制御部91は、例えば系統間差圧(第2系統の液圧>第1系統の液圧)が連通制御弁61の耐差圧に達するまでは、特定制御中であっても電動シリンダ2を作動させることができる。このように、制御例3によれば、特定制御において、電動シリンダ2及びアクチュエータ3により第2ホイールシリンダ83、84を加圧することができる。
【0083】
(第1実施形態の変形態様)
図5に示すように、電源装置903は、第1ブレーキECU901に電力を供給する第1電源903aと、第1電源903aから独立して第2ブレーキECU902に電力を供給する第2電源903bと、を備えていてもよい。この場合、例えば、第1電源903aは第1バッテリを備え、第2電源903bは第1バッテリとは別個の第2バッテリを備えている。これにより、一方の電源又は電源ラインが故障しても他方の電源により第1ブレーキECU901又は第2ブレーキECU902は作動する。つまり、故障等により一方の電源からの給電が停止しても、電動シリンダ2又はアクチュエータ3を作動させることができ、制動力を発生させることができる。この構成によれば、冗長性がさらに向上する。
【0084】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制動装置10は、
図6に示すように、電動シリンダ2とリザーバ45とを接続するブレーキ液供給路54に設けられた、ブレーキ液供給路54を開閉する供給路制御弁63を備えている。供給路制御弁63は、ノーマルオープン型の電磁弁である。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を適宜参照できる。
【0085】
制御部91は、例えば第1実施形態の遮断制御の実行タイミングにおいて、第1実施形態の遮断制御に替えて、供給路制御弁63を閉弁する。第2実施形態の遮断制御は、供給路制御弁63を閉弁する制御といえる。
図6は、通常制御中に(バイワイヤモードにおいて)、供給路制御弁63が閉弁された状態を表している。
【0086】
遮断制御の実行タイミングは、第1実施形態同様、例えば、液漏れ判定部92により液漏れが発生していると判定された場合又は車両のイグニッションがオンされた場合に設定される。第2実施形態によれば、通常制御中、リザーバ45と電動シリンダ2との接続が遮断され、第1実施形態の遮断制御と同様の効果が発揮される。例えば、第1実施形態の制御例1~3の遮断制御を、供給路制御弁63の閉弁に置き換えることができる。なお、部品点数の観点では、第1実施形態が有利である。また、第1実施形態の変形態様(
図5の構成)を第2実施形態に適用することもできる。
【0087】
<その他>
本発明は、上記実施形態及び制御例に限られない。例えば、アクチュエータ3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、車両用制動装置1、10は、液圧発生部として、電動シリンダ2に替えて、例えばポンプを含む加圧ユニットを備えてもよい。また、制御部91は、遮断制御を実行しないように構成されてもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
【0088】
また、本発明は、所謂クロス配管にも適用できる。この場合、例えば第1ホイールシリンダ81と第2ホイールシリンダ83とが前輪に設けられ、第1ホイールシリンダと82と第2ホイールシリンダ84とが後輪に設けられる。また、上記実施形態では、マスタシリンダユニット4、リザーバ45、ストロークシミュレータ43、シミュレータカット弁44、マスタカット弁62、連通制御弁61、及び電動シリンダ2が1つのモジュール内に配置されていたが、これらは複数のモジュールに分かれて配置されてもよい。例えば、上述のうち電動シリンダ2以外のコンポーネントは1つのモジュール内に配置され、電動シリンダ2は別のモジュール内に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1…車両用制動装置、2…電動シリンダ(液圧発生部)、21…シリンダ、22…電気モータ、23…ピストン、24…出力室、3…アクチュエータ、31…第1液圧出力部、32…第2液圧出力部、4…マスタシリンダユニット、41…マスタシリンダ、41a…マスタ室、42…マスタピストン、51…第1液路、52…第2液路、53…連通路、54…ブレーキ液供給路、61…連通制御弁、62…マスタカット弁、63…供給路制御弁、81、82…第1ホイールシリンダ、83、84…第2ホイールシリンダ、91…制御部(制御部と遮断制御部)、92…液漏れ判定部、93…特定液漏れ判定部、Z…ブレーキ操作部材。