(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料
(51)【国際特許分類】
C03C 8/04 20060101AFI20240521BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C8/04
H01L21/316 H
(21)【出願番号】P 2020061749
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 将行
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067477(WO,A1)
【文献】特開2018-43912(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038230(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
H01L21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、ZnO+SiO
2 40~65%、B
2O
3 7~25%、A
l
2O
3 5~15%、MgO 8~22%を含有し、
モル比SiO
2
/ZnOが、0.5~2.0であり、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラス。
【請求項2】
モル比Al
2O
3/(ZnO+SiO
2)が、0.08~0.30であることを特徴とする請求項
1に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項3】
30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20~55×10
-7/℃であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の半導体素子被覆用ガラス。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25質量%を含有することを特徴とする半導体素子被覆用材料。
【請求項5】
30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20~55×10
-7/℃であることを特徴とする請求項
4に記載の半導体素子被覆用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンダイオード、トランジスタ等の半導体素子では、一般的に、半導体素子のP-N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより、半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)半導体素子との熱膨張係数差によるクラック等が発生しないように、半導体素子の熱膨張係数に適合する熱膨張係数を有すること、(2)半導体素子の特性劣化を防止するために、低温(例えば900℃以下)で被覆可能であること、(3)被覆層を形成した後の酸処理工程で侵食されない程度の耐酸性を有すること、(4)半導体素子の電気特性を最適化するために、表面電荷密度を一定の範囲に規制すること、等が挙げられる。
【0004】
従来から、半導体素子被覆用ガラスとして、PbO-SiO2-Al2O3-B2O3系ガラス等の鉛系ガラスが知られているが(例えば、特許文献1参照)、環境負荷物質を含有することを回避する観点から、現在では、ZnO-B2O3-SiO2系等の亜鉛系ガラス等が主流となっている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-236239号公報
【文献】国際公開第2014/155739号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、亜鉛系ガラスは、鉛系ガラスと比較して、化学耐久性に劣り、被覆層を形成した後の酸処理工程で侵食され易いという問題があった。このため、被覆層の表面に更に保護膜を形成してから酸処理を行う必要があった。
【0007】
この問題を解決すべく、ガラス組成中のSiO2の含有量を多くすると、耐酸性が向上すると共に、半導体素子の逆電圧が向上するが、半導体素子の逆漏れ電流が大きくなるという不具合が生じる。特に、低耐圧用の半導体素子では、逆電圧の向上よりも、逆漏れ電流を抑制して、表面電荷密度を低減することが優先されるため、上記問題が顕在化する。また、ガラスの軟化点が大幅に上昇するため、低温焼成(例えば900℃以下)で被覆を行う際に、ガラスの軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、環境負荷物質を実質的に含有せず、900℃以下の焼成温度での被覆を可能にしつつ、耐酸性に優れ、且つ表面電荷密度が低い半導体素子被覆用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の組成を有するガラスを用いることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%でZnO+SiO2 40~65%、B2O3 7~25%、Al2O3 5~15%、MgO 8~22%を含有し、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。ここで、ZnO+SiO2とは、ZnOとSiO2のそれぞれの含有量の合計値である。また、「実質的に~を含有しない」とは、ガラス成分として該当成分を意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。具体的には、不純物を含めた該当成分の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0010】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、上記の通り、各成分の含有範囲を規制している。これにより、環境負荷物質を実質的に含有せず、900℃以下の焼成温度での被覆を可能にしつつ、耐酸性に優れ、且つ表面電荷密度が低下する。結果として、低耐圧用の半導体素子の被覆に好適に使用可能になる。
【0011】
さらに、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成中のSiO2/ZnOのモル比は、0.5~2.0であることが好ましい。これにより、耐酸性の向上と900℃以下の焼成温度での被覆を両立することができる。
【0012】
さらに、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成中のAl2O3/(ZnO+SiO2)のモル比は、0.08~0.30であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性と耐酸性を維持しつつ、ガラスの溶融性を維持できる。
【0013】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20~55×10-7/℃であることが好ましい。ここで、「30~300℃の温度範囲における熱膨張係数」は、押し棒式熱膨張係数測定装置により測定した値を指す。
【0014】
また、本発明の半導体素子被覆用材料は、上記の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25質量%を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の半導体素子被覆用材料は、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20~55×10-7/℃であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%でZnO+SiO2 40~65%、B2O3 7~25%、Al2O3 5~15%、MgO 8~22%を含有し、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。
【0017】
各成分の含有量を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りのない限り、モル%を意味する。
【0018】
ZnO+SiO2は、ガラスを安定化させる成分である。ZnO+SiO2は、40~65%であり、好ましくは43~63%、より好ましくは45~60%、更に好ましくは47~58%、特に好ましくは50~55%である。ZnO+SiO2が40%未満になると溶融時にガラス化が困難になり、またガラス化しても焼成時にガラス中から失透(意図しない結晶物)が析出し、ガラスの軟化流動が阻害され、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。一方、ZnO+SiO2が65%を超過すると、ガラスの軟化点が大幅に上昇し、900℃以下でのガラスの軟化流動が阻害され、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。
【0019】
ZnOは、ガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量は、好ましくは10~40%であり、より好ましくは15~38%、更に好ましくは20~35%、特に好ましくは25~32%である。ZnOの含有量が少な過ぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られ難くなる。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下し易くなる。
【0020】
SiO2は、ガラスの網目形成成分であるため、ガラスを安定化させ、耐酸性を高める成分である。SiO2の含有量は、好ましくは15~45%であり、より好ましくは18~42%、更に好ましくは20~38%、特に好ましくは25~35%である。SiO2の含有量が少な過ぎると、耐酸性が低下する傾向がある。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、ガラスの軟化点が大幅に上昇し、900℃以下でのガラスの軟化流動が阻害され、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。
【0021】
B2O3は、ガラスの網目形成成分であり、軟化流動性を高める成分である。B2O3の含有量は7~25%であり、好ましくは10~22%、より好ましくは12~18%である。B2O3の含有量が少な過ぎると、結晶性が強くなるため、被覆時にガラスの軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなったり、耐酸性が低下する傾向がある。
【0022】
Al2O3は、耐酸性を改善し、表面電荷密度を調整する成分である。Al2O3の含有量は5~15%であり、好ましくは7~14%、より好ましくは9~13%、特に好ましくは10~12%である。Al2O3の含有量が少な過ぎると、ガラスが失透し易くなると共に、耐酸性が低下する。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、表面電荷密度が大きくなり過ぎる虞があり、また、溶融時にガラス融液中から結晶物が析出し、溶融が困難になる虞がある。
【0023】
MgOは、ガラスの粘性を下げる成分である。MgOは8~22%であり、好ましくは9~20%、より好ましくは10~19%、更に好ましくは11~18%、特に好ましくは12~17%である。MgOが少な過ぎると、ガラスの焼成温度が上昇し易くなる。一方、MgOが多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、耐酸性が低下したり、絶縁性が低下する虞がある。
【0024】
耐酸性の向上と900℃以下の焼成温度での被覆を両立すべく、ガラス組成中のSiO2/ZnOのモル比は、0.5~2.0、0.6~1.8、0.8~1.6、特に1.0~1.4であることが好ましい。SiO2/ZnOが小さすぎると、耐酸性が低下する。一方、SiO2/ZnOが大きすぎると、ガラスの軟化点が顕著に上昇し、900℃以下でのガラスの軟化流動が阻害され、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。
【0025】
ガラス組成中の、Al2O3、ZnO、SiO2のバランスを考慮することで、ガラスの安定性や耐酸性を維持しつつ、難溶融性を回避することができる。ガラス組成中のAl2O3/(ZnO+SiO2)のモル比は、好ましくは0.08~0.30、より好ましくは0.10~0.25、更に好ましくは0.12~0.20、特に好ましくは0.14~0.18である。Al2O3/(ZnO+SiO2)が小さすぎると、ガラスの溶融が困難になり易い。一方、Al2O3/(ZnO+SiO2)が大きすぎると、ガラス安定性や耐酸性が低下し易くなる。
【0026】
上記成分以外にも、他の成分(例えば、CaO、SrO、BaO、MnO2、Ta2O5、Nb2O5、CeO2、Sb2O3等)を7%まで(好ましくは3%まで)含有してもよい。
【0027】
環境的観点から、実質的に鉛成分(例えばPbO等)を含有せず、実質的にBi2O3、F、Clも含有しないことが好ましい。また、半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分(Li2O、Na2O及びK2O)も実質的に含有しないことが好ましい。
【0028】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、粉末状であること、つまりガラス粉末であることが好ましい。ガラス粉末に加工すれば、例えば、ペースト法、電気泳動塗布法等を用いて半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。
【0029】
ガラス粉末の平均粒子径D50は、好ましくは25μm以下、特に15μm以下である。ガラス粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、ペースト化が困難になる。また、電気泳動法による粉末付着も困難になる。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。なお、「平均粒子径D50」は、体積基準で測定した値であり、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0030】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、例えば、各酸化物成分の原料粉末を調合してバッチとし、1500℃程度で約1時間溶融してガラス化した後、成形(その後、必要に応じて粉砕、分級)することによって得ることができる。
【0031】
本発明の半導体素子被覆用材料は、前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末を含むが、必要に応じて、セラミック粉末と混合し、複合粉末としてもよい。セラミック粉末を添加すれば、熱膨張係数を調整し易くなる。
【0032】
セラミック粉末として、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β-スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β-ユークリプタイト、β-石英、ウィレマイト、コーディエライト等からなる粉末を、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
ガラス粉末とセラミック粉末の混合割合は、好ましくはガラス粉末75~100体積%、セラミック粉末0~25体積%であり、より好ましくはガラス粉末80~99体積%、セラミック粉末1~20体積%であり、更に好ましくはガラス粉末85~95体積%、セラミック粉末5~15体積%である。セラミック粉末の含有量が多過ぎると、相対的にガラス粉末の割合が少なくなるため、ガラスの軟化流動が阻害され、半導体素子表面の被覆が困難になる。
【0034】
セラミック粉末の平均粒子径D50は、好ましくは30μm以下、特に20μm以下である。セラミック粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、被覆層の表面平滑性が低下し易くなる。セラミック粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0035】
本発明の半導体素子被覆用材料において、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは20~55×10-7/℃、より好ましくは30~50×10-7/℃である。熱膨張係数が上記範囲外になると、半導体素子との熱膨張係数差によるクラック、反り等が発生し易くなる。
【0036】
本発明の半導体素子被覆用材料において、表面電荷密度は、例えば1000V以下の半導体素子表面を被覆する場合、好ましくは12×1011/cm2以下、より好ましくは10×1011/cm2以下である。表面電荷密度が高過ぎると、耐圧が高くなるが、同時に漏れ電流も大きくなる傾向がある。なお、「表面電荷密度」は、後述する実施例の欄に記載の方法によって測定した値を指す。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0038】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~4)と比較例(試料No.5~8)を示している。
【0039】
【0040】
各試料は、以下のようにして作製した。まず表中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチとし、1500℃で2時間溶融してガラス化した。続いて、溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径D50が12μmとなるガラス粉末を得た。なお、試料No.4では、得られたガラス粉末に対して、コーディエライト粉末(平均粒子径D50:12μm)を15質量%添加して、複合粉末とした。
【0041】
各試料について、熱膨張係数、表面電荷密度、被覆性及び耐酸性を評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
熱膨張係数は、押し棒式熱膨張係数測定装置を用いて、30~300℃の温度範囲にて測定した値である。
【0043】
表面電荷密度は、次のようにして測定した。まず、各試料を有機溶媒中に分散し、電気泳動によってシリコン基板表面に一定の膜厚になるように付着させた後、焼成して被覆層を形成した。次に、被覆層の表面にアルミニウム電極を形成した後、被覆層中の電気容量の変化をC-Vメータを用いて測定し、表面電荷密度を算出した。
【0044】
被覆性は、次のようにして評価した。各試料の密度分の重量を採取し、直径20mmの金型に入れプレス成型して乾式ボタンを作製した後、ガラス基板の上に乾式ボタンを乗せ、900℃で焼成(保持時間10分)して焼成体の流動性を確認した。焼成体の流動径が18mm以上であるものを「○」、18mm未満のものを「×」と判定した。
【0045】
耐酸性は次のようにして評価した。各試料を直径20mm、厚み4mm程度の大きさにプレス成型した後、900℃で焼成(保持時間10分)してペレット状試料を作製し、この試料を30%硝酸中に25℃、1分浸漬した後の質量減から単位面積当たりの質量変化を算出し、耐酸性の指標とした。なお、単位面積当たりの質量変化が1.0mg/cm2未満を「○」、1.0mg/cm2以上を「×」と判定した。
【0046】
表1から明らかなように、試料No.1~4は、表面電荷密度が12×1011/cm2以下であり、且つ被覆性や耐酸性の評価も良好であった。よって、試料No.1~4は、低耐圧用半導体素子の被覆に用いる半導体素子被覆用材料として好適であると考えられる。
【0047】
一方、試料No.5は、ZnO+SiO2が少なかったため、ガラス化しなかった。試料No.6は、Al2O3の含有量が多かったため、表面電荷密度が大きくなり不良であった。また、試料No.7は、ZnO+SiO2が多かったため、被覆性が不良であり、またAl2O3の含有量が多かったため、表面電荷密度が大きくなり不良であった。更に、試料No.8は、B2O3の含有量が多かったため、耐酸性が不良であった。