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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】成形用組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240521BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240521BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240521BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/02
C08L1/02
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020066638
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021161337
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏泰
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0071591(US,A1)
【文献】特開2005-307078(JP,A)
【文献】特開2005-272783(JP,A)
【文献】特開2016-094539(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137449(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物であって、
前記パルプ繊維の含有量をP(質量部)とし、前記生分解性樹脂の含有量をQ(質量部)とした場合、P:Q=10:90~60:40であり、
前記パルプ繊維の加重平均繊維幅が14.00~20.00μmであり、かつ前記パルプ繊維の加重平均繊維長が200~800μmであり、
前記生分解性樹脂がポリブチレンサクシネート樹脂又はポリブチレンサクシネート/アジペート樹脂であり、
JIS K 7152-1に準じて前記成形用組成物から成形体を成形した際の、前記成形体のガラス転移温度が0℃以下であり、曲げ弾性率が1.0~5.0GPaである、成形用組成物。
【請求項2】
JIS K 7152-1に準じて前記生分解性樹脂から成形体を成形した際の、前記生分解性樹脂の成形体の曲げ弾性率は0.05~1.2GPaである、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
前記生分解性樹脂は、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂である、請求項1又は2に記載の成形用組成物。
【請求項4】
JIS K 7152-1に準じて前記成形用組成物から成形体を成形した場合、JIS K 7111-1に準じて測定した前記成形体のノッチ付きシャルピー衝撃強さが8.0~20.0kJ/mである、請求項1~のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の成形用組成物を成形加工してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、私たちの生活に利便性と恩恵をもたらしている有用な物質であるが、通常、不適切な廃棄処分で流出すると長期間にわたり自然環境中にとどまることとなる。特に、海洋に流出しているプラスチックごみは世界全体で年間数百万トンを超えると推計されており、地球規模での環境汚染による生態系、生活環境、漁業、観光等への悪影響が懸念されている。こうした問題の解決のためには、経済活動を制約することなくプラスチックごみの流出を抑えることが望ましいが、仮に自然環境へ流出しても分解される素材の開発や、こうした素材への転換も期待されている。近年、生分解性プラスチックの利用が注目を集めており、農業用マルチフィルムや生ゴミ袋、釣り糸、植生ネットといった用途に活用され始めている。
【0003】
プラスチック製品の中で、家電部品や自動車部品のように耐久性の求められる用途においては、機械的強度を備えることが求められる。一般的に、樹脂に強度を付与するためには強化フィラーを添加する手法が取られる。これまでに強化フィラーとしてガラス繊維や炭素繊維のような強化繊維を添加したプラスチックが実用化されているが、これらは自然環境中での分解が困難であり、かつリサイクル性にも課題が残っている。
【0004】
一方、植物繊維は自然環境下で分解されるため、植物繊維により強化された生分解プラスチックは、環境中に流出しても負荷が少なく、様々な用途への展開が期待される。
【0005】
例えば、特許文献1では、熱可塑性の生分解性樹脂中にパルプまたはセルロース系繊維が5~60重量%含まれてなる生分解性複合材料からなる成形体が開示されている。ここでは、叩解した新聞古紙パルプとポリカプロラクトン繊維を水中で離解し、湿式造粒法により円柱状ペレットとし、得られたペレットを加熱して射出成形して成形体を得る方法が検討されている。
【0006】
また、特許文献2には、セルロース、ガラス繊維、及びゴム成分を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、結晶化度が50%未満であるセルロースが5~350重量部、ガラス繊維が1~25重量部、ゴム成分が1~45重量部であり、かつ、ゴム成分とガラス繊維の重量比(ゴム成分/ガラス繊維)が0.1~10であり、ポリ乳酸樹脂が架橋されたポリ乳酸を含有する、ポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献3には、(A)ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、(B)セルロース繊維1~100重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂組成物中の(A)ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端量が、10eq/t~100eq/tの範囲内であり、(B)セルロース繊維の平均繊維径が1μm~15μmの範囲内、かつ平均繊維長が200μm~800μmの範囲内である、熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、紙を樹脂と混練することにより得られた紙と樹脂との複合材であって、紙と樹脂との配合比率が重量比率で5:95~90:10あり、上記の樹脂は、ポリブチレンサクシネートであり、上記の紙は、解繊することによって繊維状とされたものであり、解繊した紙の繊維長の平均が2mm以上であって、繊維群を構成する紙の繊維の80%が、繊維長のバラツキを2.5mm以下の範囲内に揃えたものであることを特徴とする紙と生分解性樹脂との複合材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平06-345944号公報
【文献】特許第5689375号公報
【文献】特許第5527489号公報
【文献】特許第3673403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
樹脂に繊維をフィラーとして添加した成形体においては、曲げ弾性率等の剛性が向上することが知られている。しかしながら、本発明者らが上記従来技術において得られた成形体について検討を重ねたところ、得られる成形体において曲げ弾性率と耐衝撃性が両立されておらず、改善の余地があることがわかった。
【0011】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、曲げ弾性率等の剛性と耐衝撃性を兼ね備えた成形体を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物において、パルプ繊維の含有量と生分解性樹脂の含有量を所定の比率とし、パルプ繊維の加重平均繊維幅をパルプ繊維の加重平均繊維長を所定範囲とし、さらに、成形用組成物から形成される成形体のガラス転移温度を所定範囲とすることにより、剛性と耐衝撃性を兼ね備えた成形体が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0013】
[1] パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物であって、
パルプ繊維の含有量をPとし、生分解性樹脂の含有量をQとした場合、P:Q=10:90~60:40であり、
パルプ繊維の加重平均繊維幅が14.00~20.00μmであり、かつパルプ繊維の加重平均繊維長が200~800μmであり、
JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形した際の、成形体のガラス転移温度が0℃以下であり、曲げ弾性率が1.0~5.0GPaである、成形用組成物。
[2] JIS K 7152-1に準じて生分解性樹脂から成形体を成形した際の、生分解性樹脂の成形体の曲げ弾性率は0.05~1.2GPaである、[1]に記載の成形用組成物。
[3] 生分解性樹脂は、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂である、[1]又は[2]に記載の成形用組成物。
[4] 生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリヒドロキシアルカン酸及びポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の成形用組成物。
[5] JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形した場合、JIS K 7111-1に準じて測定した成形体のノッチ付きシャルピー衝撃強さが8.0~20.0kJ/mである、[1]~[4]のいずれかに記載の成形用組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の成形用組成物を成形加工してなる成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、剛性と耐衝撃性を兼ね備えた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
(成形用組成物)
本発明は、パルプ繊維、生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物に関する。ここで、成形用組成物中におけるパルプ繊維の含有量をPとし、生分解性樹脂の含有量をQとした場合、P:Q=10:90~60:40である。また、パルプ繊維の加重平均繊維幅は14.00~20.00μmであり、パルプ繊維の加重平均繊維長は200~800μmである。そして、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形した場合、該成形体のガラス転移温度は0℃以下であり、曲げ弾性率は1.0~5.0MPaとなる。
【0017】
本発明の成形用組成物は、上記構成を有するものであるため、剛性に優れ、かつ耐衝撃性に優れた成形体を成形することができる。本発明の成形用組成物においては、特定の繊維長、繊維幅のパルプ繊維に加えて、成形体を構成した際に所定のガラス転移温度となる生分解性樹脂を用いることにより、成形用組成物から成形される成形体の剛性と耐衝撃性を向上させることができる。
【0018】
成形体の剛性は、JIS K 7171に準じて測定した成形体の曲げ弾性率によって評価できる。ここで、曲げ弾性率の測定に供される成形体は、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形された成形体である。具体的には、成形体の曲げ弾性率は、1.0GPa以上であればよく、1.6GPa以上であることが好ましい。成形体の曲げ弾性率が上記範囲内にあれば、成形体は優れた剛性を有していると判定できる。なお、成形体の曲げ弾性率の上限値は、5.0GPa以下である。
【0019】
また、成形体の耐衝撃性は、JIS K 7111-1に準じて測定した成形体のシャルピー衝撃強さによって評価できる。ここで、シャルピー衝撃強さの測定に供される成形体は、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形され、かつ、JIS K 7139に記載の多目的試験片(A1)形状に成形された成形体であり、JIS K 7144に準じてノッチ加工を施した成形体である。成形体のシャルピー衝撃強さは8.0kJ/m以上であることが好ましく、8.5kJ/m以上であることがより好ましく、9.0kJ/m以上であることがさらに好ましい。成形体のシャルピー衝撃強さが上記範囲内にあれば、成形体は優れた耐衝撃性を有していると判定できる。なお、成形体のシャルピー衝撃強さは、例えば、20.0kJ/m以下であることが好ましい。
【0020】
JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形した場合、該成形体のガラス転移温度は0℃以下であればよく、-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-15℃以下であることがさらに好ましく、-20℃以下であることが特に好ましい。なお、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形した場合、該成形体のガラス転移温度の下限値は特に限定されるものではないが-60℃以上であることが好ましい。本明細書における成形体のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出される値である。示差走査熱量測定には、例えば、DSC装置(パーキンエルマー社製、ダイアモンドDSC)を用いることができる。なお、ガラス転移温度の測定に用いる試験片には、直径又は各辺の長さが0.5mm以下となるように切断したものを使用する。
【0021】
JIS K7171に準じて測定される成形体の曲げ強度は、40MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましく、60MPa以上であることがさらに好ましい。成形体の曲げ強度の上限値は特に限定されるものではないが、300MPa以下であることが好ましい。なお、曲げ強度の測定に供される成形体は、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形され、かつ、JIS K 7139に記載の多目的試験片(A1)形状に成形された成形体である。
【0022】
JIS K7171に準じて測定される成形体の曲げひずみは4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましい。成形体の曲げひずみの上限値は特に限定されるものではないが、20%以下であることが好ましい。なお、曲げひずみの測定に供される成形体は、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形され、かつ、JIS K 7139に記載の多目的試験片(A1)形状に成形された成形体である。
【0023】
さらに、本発明の成形用組成物は、バイオマス資源であるパルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物である。このため、製造時の低コスト化を可能とし、かつ生産が化石資源に依存しないカーボンニュートラルな素材の割合が増えるため、廃棄処理時には二酸化炭素の排出量を低減することも可能となる。また、成形用組成物から成形される成形体は、自然環境下で生分解され得るものであり、生分解性に優れている。成形体の生分解性は、例えば、ASTM D6691に規定された自然海水を用いた生分解性試験によって評価することができ、生分解度が所定値以上である場合、生分解性が良好であると評価することができる。
【0024】
なお、自然環境中には、セルロース分解性の微生物が数多く存在しており、30±2℃の自然海水中において6ヶ月でセルロースの80%以上が水と二酸化炭素に分解されることが知られている。このため自然環境中での生分解が比較的緩やかに行われる樹脂であっても、セルロースを配合することで組成物としての生分解速度を向上できる。加えて、組成物を構成するセルロースが分解されることで成形体に空隙が生じ、樹脂の表面積が増すため、樹脂自体の生分解速度の向上も期待できる。
【0025】
成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、2.0g/10min以上であることが好ましく、2.5g/10min以上であることがより好ましく、3.0g/10min以上であることがさらに好ましい。また、成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の上限値は特に限定されるものではないが、50.0g/10min以下であることが好ましい。成形用組成物のメルトフローレート(MFR)を上記範囲内とすることにより、成形用組成物から成形体を成形する際の成形性をより効果的に高めることができる。なお、成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて測定される値である。
【0026】
成形用組成物は、パルプ繊維、生分解性樹脂が混練されてなる組成物であり、その性状は固形状体であってもよく、溶融状態の液状体であってもよい。なお、成形用組成物が固形状体である場合、成形用組成物は、ペレット状や、フレーク状、粉粒状であってもよい。
【0027】
(パルプ繊維)
パルプ繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプ等を用いることができる。木材パルプとしては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、広葉樹溶解パルプ(LDKP、LDSP)、針葉樹溶解パルプ(NDKP、NDSP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、コットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。中でも、パルプ繊維は、広葉樹由来のパルプであることが好ましい。
【0028】
パルプ繊維長の加重平均繊維長は200μm以上であればよく、300μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましい。パルプ繊維長の加重平均繊維長は800μm以下であればよく、700μm以下であることが好ましい。また、パルプ繊維の加重平均繊維幅は、14.00μm以上であればよく、14.50μm以上であることが好ましく、15.00μm以上であることがより好ましい。パルプ繊維の加重平均繊維幅は、20.00μm以下であればよく、19.00μm以下であることが好ましく、18.00μm以下であることがより好ましい。以上のように、パルプ繊維の繊維長と繊維幅を上記範囲内とすることにより、成形体の耐衝撃性をより効果的に高めることができる。なお、パルプは、レファイナーやニーダー、サンドグラインダーなどで処理して繊維長、繊維幅を調整したものを使用してもよい。また、パルプ繊維の繊維長と繊維幅を上記範囲内とすることにより、混練時の摩擦熱の発生を抑えてパルプ繊維由来の着色や臭気の発生を防ぐこともできる。
【0029】
パルプ繊維長の加重平均繊維長及び加重平均繊維幅を測定する際には、パルプ繊維単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する有機溶剤等を用いて樹脂成分のみを抽出して試験に供することが好ましい。なお、抽出の際に用いる有機溶剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤などが挙げられる。有機溶剤は単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。溶解効率の良い有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(以後MEKと記す)、メチルイソプチルケトン(4ーメチルー2-ペンタノン)(以後MlBKと記す)、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロへキサノン単独や、アセトンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、MEKエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ΜΙΒΚエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ジオキサンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、テトラヒドロフランエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、シクロへキサノンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、アセトンイソプロパノール混合溶液、ΜΕΚイソプロパノール混合溶液、MIBKイソプロパノール混合溶液、ジオキサンイソプロパノール混合溶液、テトラヒドロフランイソプロパノール混合溶液、シクロへキサノンイソプロパノール混合溶液などが好適に使用できる。
【0030】
なお、所定の繊維長と繊維幅を有するパルプ繊維を添加することにより成形体の耐衝撃性が向上する理由は定かではないが、成形体が衝撃を受けた際に、(1)繊維が樹脂から引き抜かれる際の力学的な摩擦が生じてエネルギーが散逸すること、(2)パルプ繊維に沿ってエネルギーが分散されること、が考えられる。このため、パルプ繊維と生分解性樹脂間が適度な相溶性を有すること、またこれらが均一に分散している場合に、より優れた耐衝撃性が発揮されるものと考えられる。
【0031】
パルプ繊維としては、セルロース純度が90%以上のパルプ繊維を用いることが好ましい。セルロース純度が90%以上のパルプ繊維を用いることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を抑えることができる。これは、パルプ繊維のセルロース純度を90%以上とすることにより、通常の植物繊維に含まれるヘミセルロースやリグニンの含有率を有意に低減することが可能となり、これにより、ヘミセルロースやリグニンの分解時に生じる着色や臭気の発生を抑制できているものと推測される。
【0032】
セルロース純度が90%以上のパルプ繊維としては、例えば、溶解パルプを挙げることができる。なお、通常の抄紙工程で用いられる広葉樹晒クラフトパルプのセルロース純度は、85%程度である。
【0033】
溶解パルプは、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等に含まれるリグノセルロース物質からヘミセルロースとリグニンを選択的に除去することにより得ることができる。中でも、溶解パルプは、酸性サルファイト蒸解法又は前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた溶解パルプであることが好ましい。溶解パルプの生産に使用するリグノセルロース物質は、樹木、非樹木のいずれの原材料に由来するでもよく、異なる樹種、異なる原材料から得られたリグノセルロース物質を混合して加工した溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとしては、異なる樹種、異なる原材料から得られた溶解パルプを混合して用いてもよい。
【0034】
溶解パルプは、広葉樹由来パルプであることがより好ましい。一般に針葉樹材よりも広葉樹材の方が、容積重量が高く処理効率の高い溶解パルプが得られる点において好適である。さらに広葉樹の中でも容積重量が高いユーカリやアカシアは特に好ましく用いられる。このような広葉樹としては、例えば、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーログランディス、ユーカリ・ペリータ、ユーカリ・ブラシアーナ、アカシア・メランシ等を挙げることができ、中でもユーカリ・ペリータは好ましく用いられる。
【0035】
広葉樹の容積重量は、450~700kg/mであることが好ましく、500~650kg/mであることがより好ましい。広葉樹の容積重量を上記範囲内とすることにより、パルプの生産効率を上げることができ、さらに、前加水分解やアルカリ蒸解時に薬液が十分に浸透するためセルロース純度の高いパルプを得ることができる。
【0036】
パルプのセルロース純度は90%以上が好ましく、95%以上であることがより好ましい。パルプのセルロース純度を上記範囲内とすることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を効果的に抑えることができる。パルプのセルロース純度は98%以下であることが好ましい。パルプ中に極微量のヘミセルロースやリグニンが含まれることにより、パルプの分散性を向上させることができる。
【0037】
パルプ繊維のセルロース純度は、具体的には、以下の方法で算出することができる、まず、20℃恒温水槽中のビーカーに絶乾量5gのパルプ繊維を入れた後、17.5質量%の水酸化ナトリウム溶液50mlを均一に添加する。3分30秒放置した後、ガラス棒を用いて5分間試料を押し潰して十分に離解させる。試料の表面を平らに均して20分間置いた後、蒸留水を50ml加えて内容物をガラス棒で掻き混ぜる。その後、内容物を濾過した後、洗浄水総量900mlで吸引・脱水を繰り返して内容物を水洗する。10%酢酸40mlを注ぎ5分間放置して酸液を十分に浸透させた後、1Lの煮沸水で水洗して内容物を乾燥させる。内容物の乾燥重量が供試料の絶乾量に占める割合をαセルロース含有率として算出し、セルロース純度(%)とする。
セルロース純度(%)=(絶乾αセルロースの重量/絶乾パルプ繊維の重量)×100
なお、パルプ繊維のセルロース純度を測定する際にはパルプ繊維単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する有機溶剤等を用いて樹脂成分のみを抽出して試験に供することが好ましい。なお、抽出の際に用いる有機溶剤としては、上述した有機溶媒を使用することができる。
【0038】
パルプ繊維のJIS P 8121-1995に準じて測定されるカナダ標準パルプ濾水度は600~750mlであることが好ましく、650~750mlであることがより好ましい。パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記上限以下とすることにより、パルプ繊維同士が適度に交絡して、成形体の曲げ弾性率を高めることができる。また、パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記下限値以上とすることにより、成形用組成物中における生分解性樹脂の分散性が高まり、均一な成形用組成物が得られる。また、成形用組成物を混練及び成形する際の摩擦熱の発生を抑えてパルプ繊維由来の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。なお、パルプ繊維の濾水度を測定する際にはパルプ単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出して、パルプ濾水度の試験に供することが好ましい。
【0039】
パルプ繊維の含有量は、成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であればよく、15~55質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性をより効果的に高めることができる。また、パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の曲げ弾性率を高めることもでき、さらには成形体の生分解性を高めることもできる。なお、成形用組成物中におけるパルプ繊維の含有量は、成形用組成物を作製する際に添加したパルプ繊維の配合量から算出できるが、成形用組成物をX線回折に供して得られた回折強度値から簡易的に算出することも可能である。例えば、パルプ繊維は回折角2θ=15.4、22.5に、ポリブチレンサクシネートは回折角2θ=19.6、22.7、28.9に結晶ピークが存在し、回折角2θ=15.4(パルプ繊維)、19.6(ポリブチレンサクシネート)はそれぞれ殆ど干渉しない。配合率が既知の複数の試料について非干渉ピーク部の回折強度を測定し、検量線を引くことで、配合率が未知の試料であってもその配合率推定が可能となる。また、パルプ繊維と成形用樹脂の配合比を測定する手段として、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出し、重量比を測定してもよい。
【0040】
(生分解性樹脂)
生分解性樹脂は、微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解される樹脂をいう。生分解性樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル系樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子;上述した脂肪族ポリエステル系樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル系樹脂との混合物;等の生分解性を有するポリエステル系樹脂等が挙げられる。生分解性樹脂としては、上記樹脂が複数種類含有されていてもよい。また、生分解性を損なわない範囲で、上述した生分解性樹脂を構成するモノマー成分と生分解性樹脂以外の樹脂を構成するモノマー成分との共重合体を用いてもよく、生分解性樹脂と生分解性樹脂以外の樹脂の混合物を用いてもよい。
【0041】
生分解性樹脂は、ポリエステル系樹脂であることが好ましく、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を含むことがより好ましい。この場合、ポリエステル系樹脂の合計含有量は、生分解性樹脂の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。ポリエステル系樹脂の合計含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の耐熱性や可撓性を高めることができる。
【0042】
生分解性樹脂は、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂であることが好ましく、融点が155℃以下のポリエステル系樹脂であることがより好ましく、融点が150℃以下のポリエステル系樹脂であることがさらに好ましい。生分解性樹脂として、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂を用いることにより、混練及び成形する際の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。また、生分解性樹脂として、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂を用いることにより、得られる成形体の曲げ弾性率をより効果的に高めることもできる。なお、生分解性樹脂の融点は、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出される値である。
【0043】
融点が160℃未満のポリエステル系樹脂としては、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート、ポリウレタン等が挙げられる。中でも、融点が160℃未満のポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリヒドロキシアルカン酸及びポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種であるであることが好ましい。ポリブチレンサクシネートはパルプと混練した際の強度や柔軟性のバランスの観点から好ましく用いられる。さらに、海洋分解性を有するポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート/アジペートを用いることも生分解性の観点から好ましく用いられる。
【0044】
生分解性樹脂は、ガラス転移温度が0℃以下の樹脂であることが好ましい。実用温度がガラス転移温度より高い場合においては、ポリマー分子のミクロ運動が活発になるため、外部から加えられた衝撃エネルギーを、力学的減衰によって熱として散逸することが可能となり、得られる成形体の耐衝撃性を高めることができる。
【0045】
JIS K 7152-1に準じて生分解性樹脂を成形した場合、JIS K7171に準じて測定した生分解性樹脂の成形体の曲げ弾性率は0.05GPa以上であることが好ましく、0.1GPa以上であることがより好ましく、0.3GPa以上であることがさらに好ましく、0.5GPa以上であることが特に好ましい。また、JIS K 7152-1に準じて成形用組成物から成形体を成形し、かつ、JIS K 7139に記載の多目的試験片(A1)形状に成形した場合、JIS K7171に準じて測定した生分解性樹脂の成形体の曲げ弾性率は1.2GPa以下であることが好ましく、1.0GPa以下であることがより好ましい。生分解性樹脂の曲げ弾性率を上記範囲内とすることにより、軟質な生分解性樹脂を用いることになるため、衝撃を受けた際に延性破壊の挙動を示し、受けたエネルギーが変形に転化することで、成形体の耐衝撃性をより効果的に高めることができる。
【0046】
生分解性樹脂の含有量は、成形用組成物の全質量に対して40~90質量%であればよく、50~85質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の曲げ弾性率をより効果的に高めることができる。また、生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性を高めることができ、成形体の耐熱性や可撓性を高めることもできる。さらに、生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の生分解性を高めることもできる。
【0047】
(任意成分)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維、生分解性樹脂に加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、可塑剤;充填剤(無機充填剤、有機充填剤);滑剤;加水分解抑制剤;難燃剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;防曇剤;光安定剤;顔料;防カビ剤;抗菌剤;発泡剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を挙げることができる。また、任意成分として、生分解性樹脂以外の高分子材料や他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0048】
成形用組成物における任意成分の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。任意成分の含有量を上記範囲内とすることにより、自然環境における生分解性を高めることができる。
【0049】
(成形用組成物の製造方法)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維及び生分解性樹脂を溶融混練して得られるものである。溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、それらを組み合わせた二軸・単軸複合型押出機等の押出機など公知のものを用いることができる。より具体的には、KTK型二軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型二軸押出機(東芝機械社製)、PCM型二軸押出機(池貝鉄工社製)、TEX型二軸押出機(日本製鋼所社製)等が挙げられる。
【0050】
溶融混練装置に原料を供給する方法としては、パルプ繊維及び生分解性樹脂を個別に直接供給する方法、上記成分を予め混合した後に一括して供給する方法、上記成分一部予め混合した後に、他の成分を直接共有する方法、ヘンシェルミキサーなどの高速ミキサーを用いて原料を凝集(造粒)させた後に供給する方法などいずれの方法も用いることができる。溶融混練装置への原料供給は、供給量を一定に調節できる重量フィーダーを用いて供給することが好ましい。
【0051】
溶融混練時の設定温度は特に限定されないが、本発明では、パルプ繊維の退色と臭気の発生を抑制し、かつ強度の優れた成形体を製造する観点から、溶融混練物の温度(T(℃))が100℃≦T≦200℃であることが好ましく、100℃≦T≦180℃であることがより好ましい。
【0052】
混練された成形用組成物は、ストランドに成形されるが、後の射出成形時の操作性の観点から、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化したり、ダイスから排出されると同時にホットカッター又はアンダーウォーターカッターなどの切断手段を用いてペレット化したりしても構わない。なお、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化する際には、得られる溶融混練物の強度をより高くするために、溶融混練後にストランドを液体媒体中に保持してもよい。この際の液体媒体の温度は、15~40℃であることが好ましく、20~40℃であることがより好ましく、25~30℃であることがさらに好ましい。また、液体媒体中における保持時間は、0.5~10秒であることが好ましく、1~10秒であることがより好ましい。なお、液体媒体としては、例えば、水、エチレングリコール、シリコンオイル等の沸点が100℃以上の低粘度液体が挙げられ、安全性及び取扱い性の観点から水であることが好ましい。液体媒体の温度は、液体媒体を温調機器で循環させる等によって安定的に保持されることが好ましい。
【0053】
(成形体の製造方法)
本発明の成形用組成物を用いた成形体の製造方法としては、射出成形機による成形方法や溶融押出ダイによるシート状成形物の製造方法が挙げられる。射出成形型又は溶融押出ダイに注入する成形用組成物の温度は、得られる成形物の退色や臭気発生の抑制と強度を両立する観点から、120~200℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましい。
【0054】
射出成形時の金型温度は、樹脂組成物の結晶化速度向上の観点から、10~90℃であることが好ましく、20~85℃であることがより好ましく、50~85℃であることがさらに好ましい。
【0055】
(成形体)
本発明は、上述した成形用組成物を成形加工してなる成形体に関するものでもある。なお、本発明において、成形体には、最終成形物の他に、成形用組成物を成形体加工してなる成形シートであって、さらに成形加工に供される成形シートも含まれている。このような成形シートをさらに成形加工することにより、湾曲部や凹凸部を有する複雑な形状の最終成形物を成形することが容易となる。このような成形シートは前駆成形体と呼ぶこともできる。
【0056】
(成形体の用途)
本発明の成形体の用途としては、例えば、電子機器や家電製品などの筐体、補強材、土木、建材用部品、内装部品、自動車、二輪車用部品、航空機用部品、鉄道車両用部品、日用雑貨品、包装材などの部材等が挙げられるが、中でも、ディスポーザブルな用途として好適である。本発明の成形体は自然環境中に流出しないことが望ましいが、仮に流出しても、自然環境中で分解されるため環境への負荷を減らすことができる。
【実施例
【0057】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
(実施例1)
広葉樹晒しパルプ(セルロース純度が85%)20質量部とポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル株式会社、バイオPBS FZ71PM)80質量部、ステアリン酸カルシウム(日油株式会社、カルシウムステアレート)1質量部を二軸混練機に投入し、温度を160℃、回転速度を30rpmとして溶融混練した。溶融混練して得られた成形用組成物(樹脂組成物)は、ストランド形状に押出した後に断裁してペレットとした。次いで、ペレットを射出成形機に供給し、JIS K 7152-1に準じて、かつJIS K 7139に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(多目的試験片(A1)形状)に成形した。射出成形時は、シリンダー温度を一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0059】
(実施例2)
広葉樹晒しパルプの配合量を30質量部に変更し、さらにポリブチレンサクシネート樹脂の配合量を70質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0060】
(実施例3)
広葉樹晒しパルプの代わりに前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ(セルロース純度が95%)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0061】
(実施例4)
前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ30質量部とポリブチレンサクシネート/アジペート樹脂(三菱ケミカル株式会社、バイオPBS FD91PM)70質量部、ステアリン酸カルシウム(日油株式会社、カルシウムステアレート)1質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0062】
(比較例1)
広葉樹晒しパルプの代わりに前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ(セルロース純度が95%)の粉砕品を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。なお、溶解パルプの粉砕はカッターミルを用いて行い、得られた粉砕後のパルプの加重平均繊維長は0.19mmであった。
【0063】
(比較例2)
広葉樹晒しパルプの代わりにケナフパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0064】
(比較例3)
広葉樹晒しパルプの代わりに針葉樹晒しパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0065】
(比較例4)
広葉樹晒しパルプの代わりに麻パルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0066】
(比較例5)
広葉樹晒しパルプの代わりにワラパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0067】
(比較例6)
広葉樹晒しパルプの代わりに前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ(セルロース純度が95%)30質量部とポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社、ノバテックPP MA3)70質量部、ステアリン酸カルシウム(日油株式会社、カルシウムステアレート)1質量部を二軸混練機に投入し、温度を200℃、回転速度を30rpmとして溶融混練した。溶融混練して得られた成形用組成物(樹脂組成物)は、ストランド形状に押出した後に断裁してペレットとした。次いで、ペレットを射出成形機に供給し、JIS K 7152-1に準じて、かつJIS K 7139に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(多目的試験片(A1)形状)に成形した。射出成形時は、シリンダー温度を一律220℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0068】
(比較例7)
広葉樹パルプを主体とした古紙パルプ20質量部とポリ乳酸樹脂(Nature works社、ingeo 3251D)80質量部を二軸混練機に投入し、温度を180℃、回転速度を30rpmとして溶融混練した。射出成形時のシリンダー温度を一律180℃に設定した以外は実施例1と同様にして、成形体を作製した。
【0069】
(比較例8)
ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル株式会社、バイオPBS FZ71PM)を射出成形機に投入し、JIS K 7152-1に準じて、かつJIS K 7139に記載された多目的試験片(A1)形状に成形した。射出成形時は、シリンダー温度は一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0070】
(比較例9)
ポリブチレンサクシネート樹脂をポリブチレンサクシネート/アジペート樹脂(三菱ケミカル株式会社、FD91PM)に変更した以外は比較例8と同様にして、成形体を作製した。
【0071】
(比較例10)
ポリブチレンサクシネート樹脂をポリ乳酸樹脂(Nature works社、ingeo 3251D)に変更し、シリンダー温度を180℃、金型温度を30℃に設定した以外は比較例8と同様にして、成形体を作製した。
【0072】
(比較例11)
ポリブチレンサクシネート樹脂をポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社、ノバテックPP MA3)に変更し、シリンダー温度を220℃、金型温度を30℃に設定した以外は比較例8と同様にして、成形体を作製した。
【0073】
(測定及び評価)
<加重平均繊維長及び加重平均繊維幅>
パルプ繊維の加重平均繊維長及び加重平均繊維幅は、Valmet社製の「Valmet FS5UHD」を用いて測定した。
【0074】
<樹脂のガラス転移温度及び融点>
実施例及び比較例で用いた樹脂のガラス転移温度、及び融点は、DSC装置(パーキンエルマー社製、ダイアモンドDSC)を用いて、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出した。
【0075】
<樹脂の曲げ弾性率>
実施例及び比較例で用いた樹脂の曲げ弾性率、曲げ強度、曲げひずみは、JIS K 7171に準じて測定した。
【0076】
<メルトフローレート(MFR)>
成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の測定は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて行った。比較例8~11の樹脂単体のMFRの測定は、190℃、2.16kg荷重下において行った。
【0077】
<成形体のガラス転移温度>
実施例及び比較例で得られた成形体のガラス転移温度、及び融点は、DSC装置(パーキンエルマー社製、ダイアモンドDSC)を用いて、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出した。
【0078】
<曲げ弾性率・曲げ強度・曲げひずみ>
実施例及び比較例で得られた成形体の曲げ弾性率、曲げ強度、曲げひずみを、JIS K 7171に準じて測定した。
【0079】
<シャルピー衝撃強さ>
実施例及び比較例で得られた成形体に東洋精機社製の「自動ノッチ加工機 A-4」を用いてJIS K 7144に準じてノッチ加工を施した後、JIS K 7111に準じてシャルピー衝撃強さの測定を行った。シャルピー衝撃強さは、東洋精機社製の「NO.556耐衝撃試験機IT」を用いて測定した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
実施例で得られた成形体は、曲げ弾性率が高く、かつ耐衝撃性にも優れていた。一方で、比較例で得られた成形体においては、曲げ弾性率と耐衝撃性が両立されていなかった。