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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】表面性状推定システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/10 20060101AFI20240521BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20240521BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240521BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240521BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B24B49/10
B24B49/04 A
B24B49/12
B23Q17/12
G01H17/00 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020087444
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021079534
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019208313
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111149(JP,A)
【文献】特開2001-179620(JP,A)
【文献】特開2018-024079(JP,A)
【文献】特開2001-041739(JP,A)
【文献】特開2005-246494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0252513(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B41/00-51/00
B24B5/00-5/04
B24B5/12
B24B5/14-5/35
B23Q15/00-15/28
B23Q17/12
G01H1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削装置にて砥石車により研削した工作物の表面状態に応じた情報を出力するセンサであり、前記工作物の回転により生じる、前記工作物の表面に接触した接触部材の振動の加速度、前記接触部材の振動の変位、および、前記工作物の表面に非接触で配置されており基準位置から前記工作物の表面までの変位の少なくとも1つを検出するセンサと、
前記工作物の表面における測定位置を少なくとも周方向に移動させた時に、前記センサにより検出された検出値に関する時系列データに基づいて前記工作物の面状の表面性状を生成する表面性状生成装置と、
を備え、
前記表面性状生成装置は、
前記工作物の表面における前記測定位置を螺旋状に移動させた時に、前記工作物の回転軸に対する所定角度毎の螺旋状の位置に対する前記時系列データを基礎データとして取得する基礎データ取得部と、
所定角度毎の螺旋状の位置に対する複数の前記基礎データに基づいて、前記工作物の異なる角度かつ前記工作物の異なる軸方向位置のそれぞれにおける周方向びびりを生成する周方向びびり生成部と、
前記工作物の異なる角度毎の複数の前記周方向びびりを、前記工作物の同一角度における複数の前記周方向びびりとみなして、複数の前記周方向びびりを軸方向に並列させた面状びびりを生成する面状びびり生成部と、
を備える、面状の表面性状推定システム。
【請求項2】
前記表面性状生成装置は、さらに、
前記面状びびり生成部により生成された前記面状びびりにおいて、複数の前記周方向びびりの端点におけるびびり位相を一致するように、複数の前記周方向びびりにおける周方向の相対的な位置を補正する位置補正部を備える、請求項1に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項3】
前記表面性状推定システムは、さらに、
前記工作物の外径を測定する外径測定装置を備え、
前記表面性状生成装置は、
前記基礎データを取得する際に、前記外径測定装置により前記工作物の外径データを取得する外径データ取得部と、
前記面状びびりに対して前記外径データを合成した合成面状びびりを生成する外径合成部と、
を備える、請求項1又は2に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項4】
前記表面性状推定システムは、さらに、
前記工作物の外径を測定する外径測定装置を備え、
前記表面性状生成装置は、さらに、
前記基礎データを取得する際に、前記外径測定装置により前記工作物の外径データを取得する外径データ取得部と、
前記周方向びびりに対して前記外径データを合成した合成周方向びびりを生成する外径合成部と、
を備え、
前記面状びびり生成部は、合成後の複数の前記合成周方向びびりを軸方向に並列させた合成面状びびりを生成する請求項1又は2に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項5】
前記周方向びびり生成部は、前記工作物の表面における前記砥石車の回転数に起因するびびりを周方向びびりとして生成する周方向第一びびり生成部であり、
所定角度毎の螺旋状の位置に対する複数の前記基礎データに基づいて、前記工作物の表面における前記砥石車の回転数に起因するびびり以外の振動による変位を生成する第二びびり変位生成部と、
前記面状びびり生成部により生成された前記面状びびりにおいて、前記第二びびり変位生成部により生成された前記砥石車の回転数に起因するびびり以外の振動による変位の分を、全範囲にオフセットする第二びびりオフセット処理部と、
を備える、請求項1-4の何れか1項に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項6】
さらに、前記表面性状生成装置により生成された表面性状を画像として出力する画像出力部を備える請求項1-5の何れか1項に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項7】
前記センサは加速度に関する時系列データを検出するセンサであり、
前記基礎データ取得部は、前記センサにより検出された加速度に関する前記時系列データである基礎データを取得し、
前記周方向びびり生成部は、前記基礎データに基づいて前記砥石車の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出し、前記工作物の軸方向位置における前記周方向びびりを生成する第一びびりフィルタ装置を備える請求項1-6の何れか1項に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項8】
前記第一びびりフィルタ装置は、
前記基礎データに基づいてFFT解析を行い、第一びびりFFTデータを生成する第一びびりFFT解析部と、
前記第一びびりFFTデータに基づいて、前記砥石車の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出し、第一びびり抽出FFTデータを生成する第一びびり抽出部と、
前記第一びびり抽出FFTデータに基づいて逆FFT解析を行い、第一びびり逆FFTデータを生成する第一びびり逆FFT解析部と、
加速度に関する前記基礎データ、前記第一びびりFFTデータ、前記第一びびり抽出FFTデータ、前記第一びびり逆FFTデータのいずれかを、変位に関する前記基礎データ、前記第一びびりFFTデータ、前記第一びびり抽出FFTデータ、前記第一びびり逆FFTデータのいずれかの対応するデータに変換する第一びびり変位変換部と、
を備える請求項7に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項9】
前記センサは変位に関する時系列データを検出するセンサであり、
前記基礎データ取得部は、前記センサにより検出された変位に関する前記時系列データである基礎データを取得し、
前記周方向びびり生成部は、前記基礎データに基づいて前記砥石車の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出し、前記工作物の軸方向位置における前記周方向びびりを生成する第一びびりフィルタ装置を備える請求項1-6の何れか1項に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項10】
前記表面性状推定システムは、さらに、
前記工作物の外径を測定する外径測定装置を備え、
前記センサは、前記外径測定装置と同一である請求項9に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項11】
前記第一びびりフィルタ装置は、
前記基礎データに基づいてFFT解析を行い、第一びびりFFTデータを生成する第一びびりFFT解析部と、
前記第一びびりFFTデータに基づいて、前記砥石車の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出し、第一びびり抽出FFTデータを生成する第一びびり抽出部と、
前記第一びびり抽出FFTデータに基づいて逆FFT解析を行い、第一びびり逆FFTデータを生成する第一びびり逆FFT解析部と、
前記第一びびり抽出部で用いられる前記第一びびりFFTデータ、又は、前記第一びびり逆FFT解析部で用いられる前記第一びびり抽出FFTデータに対して、周波数毎に信号強度の補償を行う第一びびりゲイン補償部と、
を備える請求項9又は10の何れか1項に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項12】
前記第一びびりゲイン補償部は、周波数と信号強度との関係を記憶するゲイン記憶部と、周波数と信号強度との関係に基づいてゲイン補償を行う調節部と、を備える請求項11に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項13】
前記外径データ取得部は、
前記外径測定装置により検出された前記工作物の外径に関する時系列データに基づいて、特定の周波数領域成分を抽出する外径データフィルタ装置を備える請求項3又は4に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項14】
前記外径データフィルタ装置は、
前記外径測定装置により検出された前記工作物の外径に関する時系列データである外径基礎データを取得する外径基礎データ取得部と、
前記外径基礎データに基づいてFFT解析を行い、外径FFTデータを生成する外径FFT解析部と、
前記外径FFTデータに基づいて、特定の周波数領域成分を抽出し、外径抽出FFTデータを生成する外径抽出部と、
前記外径抽出FFTデータに基づいて逆FFT解析を行い、外径逆FFTデータを生成する外径逆FFT解析部と、
を備える請求項13に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項15】
前記外径抽出部は、工作物の回転周波数に相当する成分を除外した低周波数成分を抽出する請求項14に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項16】
前記第二びびり変位生成部は、
前記基礎データに基づいてFFT解析を行い、第二びびりFFTデータを生成する第二びびりFFT解析部と、
前記第二びびりFFTデータに基づいて、前記砥石車の回転数に対応する回転数周波数成分とは異なる第二びびり周波数成分を抽出し、第二びびり抽出FFTデータを生成する第二びびり抽出部と、
前記第二びびり抽出FFTデータに基づいて逆FFT解析を行い、第二びびり逆FFTデータを生成する第二びびり逆FFT解析部と、
を備える請求項5に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項17】
前記外径データ取得部は、前記工作物の真円度を取得する真円度取得部を備える請求項3又は4に記載の面状の表面性状推定システム。
【請求項18】
前記外径データ取得部は、前記外径測定装置により検出された前記工作物の外径に関する時系列データに基づいて、特定の周波数領域成分を抽出する外径データフィルタ装置を備え
前記外径データフィルタ装置により抽出された外径抽出データから、前記真円度を減算する請求項17に記載の面状の表面性状推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
研削加工は、例えば、高速に回転する工具と、回転する工作物とを接触させて行われる。工具を回転させて工作物を加工する場合に、びびり振動が発生すると、加工面精度が低下したり、工具に過大な負荷が作用することがある。従来、研削加工後の工作物の表面状態を確認することにより、加工時のびびり振動の発生を検出する手法が用いられてきた。工作物の表面状態は、研削加工終了後に、真円度測定器により測定される。研削装置と表面状態測定器とが切り離されているため、工作物表面にびびり振動の発生が認められた場合にも、これを加工条件等にフィードバックするのに時間差ができてしまう問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1のように、びびり振動発生の検出をインプロセスで行う方法も提案されている。びびり振動検出器は、例えば、研削装置、もしくは被加工物の振動加速度、振動変位等を測定し、所定の閾値を越えた振動が検出されたときにびびり振動が発生したと判定している。びびり振動の発生を研削装置上で行うことで、びびり振動が検出された場合に、加工条件を変更してびびり振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-233368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のびびり検出方法では、びびりの発生の有無を知ることができるが、工作物の出来栄えや砥石車の摩耗状態等をより正確に把握するためには、工作物の表面における一定範囲以上の表面性状を知ること望ましい。しかしながら、工作物の表面性状を測定するには、時間がかかり、特にインプロセスにおいて表面性状を得ることは困難である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、研削加工のインプロセスにおいて、素早く工作物の表面性状表面を推定する表面性状推定システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面性状推定システムは、研削装置にて砥石車により研削した工作物の表面状態に応じた情報を出力するセンサであり、前記工作物の回転に伴い生じる、前記工作物の表面に接触した接触部材の振動の加速度、前記接触部材の振動の変位、および、前記工作物の表面に非接触で配置されており基準位置から前記工作物の表面までの変位の少なくとも1つを検出するセンサと、前記工作物の表面における測定位置を少なくとも周方向に移動させた時に、前記センサにより検出された検出値に関する時系列データに基づいて前記工作物の面状の表面性状を生成する表面性状生成装置と、を備える。前記表面性状生成装置は、前記工作物の表面における前記測定位置を螺旋状に移動させた時に、前記工作物の回転軸に対する所定角度毎の螺旋状の位置に対する前記時系列データを基礎データとして取得する基礎データ取得部と、所定角度毎の螺旋状の位置に対する複数の前記基礎データに基づいて、前記工作物の異なる角度かつ前記工作物の異なる軸方向位置のそれぞれにおける周方向びびりを生成する周方向びびり生成部と、前記工作物の異なる角度毎の複数の前記周方向びびりを、前記工作物の同一角度における複数の前記周方向びびりとみなして、複数の前記周方向びびりを軸方向に並列させた面状びびりを生成する面状びびり生成部と、を備える。
【0008】
本発明の表面性状推定システムは、研削加工のインプロセスにおいて、素早く工作物の表面性状を推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】研削装置100の構成を示す平面図である。
図2】研削装置100の定寸装置14付近を示す断面図である。
図3】研削装置100の研削工程を示すフローチャート図である。
図4】本発明の表面性状推定システム1の構成を示すブロック図である。
図5】工作物Wにおける第一例の定寸装置14の接触箇所を示す概念図である。
図6】螺旋状に取得された検出データの一例を示すグラフである。
図7】加速度第一びびりFFTデータD121の一例を示すグラフである。
図8】工作物W表面の凹凸形状の形成過程を示す概念図である。
図9】加速度第一びびり逆FFTデータD141の一例を示すグラフである。
図10】変位第一びびり逆FFTデータD142の一例を示すグラフである。
図11A】面状びびり生成部23によるデータの処理を示す図である。
図11B】面状びびり生成部23によるデータの処理を示す図である。
図12】本発明の表面性状推定システム2の構成を示すブロック図である。
図13】本発明の表面性状推定システム3の構成を示すブロック図である。
図14】表面性状推定システム3により生成された三次元マップである。
図15】研削装置101の定寸装置14付近を示す断面図である。
図16】本発明の表面性状推定システム4の構成を示すブロック図である。
図17】第一びびりゲイン補償部の構成を示すブロック図である。
図18】研削装置102のレーザ式センサ18付近を示す断面図である。
図19】本発明の表面性状推定システム5の構成を示すブロック図である。
図20】本発明の表面性状推定システム6の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第一例)
以下、本発明の表面性状推定システムについて図1図11を参照して説明する。第一例の表面性状推定システム1は、工作物W及び砥石車12を回転させながら工作物Wを研削する研削装置100において、工作物Wの表面性状を推定する。表面性状推定システム1は、研削装置100に設けられた外径測定装置である定寸装置14及び加速度センサ15と、表面性状生成装置200からなる。
【0011】
(1.研削装置の構成)
図1図2に示すように、研削装置100は、ベッド11と、砥石車12と、砥石台121と、主軸台131と、心押台132と、主軸テーブル133と、定寸装置14とを備える。工作物Wは、回転軸方向の両端を、主軸台131及び心押台132に支持され、回転する。研削装置100は、回転する工作物Wの外周に砥石車12を当接させ、研削することにより工作物Wの形状を形成する。
【0012】
砥石車12は、Z軸に平行な軸線回りに回転可能に砥石台121に支持される。ベッド11上には、砥石台案内部122が固定され、砥石台121は、X軸方向に移動可能に砥石台案内部122に支持される。砥石車12には、砥石回転モータ123から回転駆動力が付与され、砥石車12が回転軸周りに回転する。砥石車12は、砥石台121がX軸方向に移動することにより、X軸方向に離間して設置された工作物Wに接近し、工作物Wを研削する。
【0013】
ベッド11上において、砥石台案内部122からX軸方向に離間した位置に、主軸テーブル案内部134が固定される。主軸テーブル案内部134は、主軸テーブル133をZ軸方向に移動可能に支持する。主軸テーブル133の上には、主軸台131及び心押台132が対向配置される。工作物Wは、その両端が主軸台131及び心押台132に回転可能に支持されており、主軸回転モータ135から回転駆動力が付与され、回転する。
【0014】
外径測定装置である定寸装置14は、工作物Wの表面に接触する接触部である一対の測定子141と、測定子141を支持する一対のアーム142を備える。測定子141は、工作物Wの回転中心を挟んだ2点において工作物W表面に当接するように設けられる。定寸装置14は、測定子141の機械的変位を電気信号に変換することにより工作物の外径が検出する。定寸装置14は、軸方向移動装置143に支持され、工作物Wの軸方向、すなわち、Z軸方向に移動可能である。定寸装置14のZ軸方向の移動は、軸方向移動制御部144によって制御される。外径測定装置としては、定寸装置14の他に、接触型のリニアゲージ、非接触型のレーザ式センサ、光学式センサ、渦電流型センサ等を用いることもできる。
【0015】
研削装置100は、図3に示す工程により工作物Wを研削する。研削工程は、砥石送り速度の違いによって分けられ、粗研工程S1、精研工程S2、微研工程S3、スパークアウト工程S4の順で行われる。各工程の砥石送り速度は、粗研工程S1>精研工程S2>微研工程S3>スパークアウト工程S4となる。粗研工程S1では、工作物Wの大まかな形状を形成する。続く精研工程S2、微研工程S3では、砥石送り速度を小さくしながら、工作物Wの表面形状を整える。最後のスパークアウト工程S4では、工作物W表面の仕上げを行い、工作物Wを完成させる。
【0016】
本発明の表面性状推定システム1は、研削が完了するスパークアウト工程S4後の工作物Wの表面性状を推定することが好ましい。なお、本発明はインプロセスにおいて、工作物Wの表面性状を推定するものであるが、インプロセスとは、工作物Wが研削装置100から取り外されるまでの期間をいい、スパークアウト工程S4後も含む。表面性状推定システム1は、工作物Wの研削完了後に工作物Wの研削時の回転を維持した状態において、工作物Wの表面性状を推定することが好ましい。
【0017】
(2.表面性状生成装置の構成)
図4に表面性状生成装置200を含む、表面性状推定システム1の構成を示す。表面性状生成装置200は、基礎データ取得部21と、周方向びびり生成部22と、面状びびり生成部23と、位置補正部24と、を備える。表面性状推定システム1は、一対の定寸装置14の一方に取り付けられた加速度センサ15を備える。第一例の表面性状生成装置200は、まず、図5に示すように、加速度センサ15によって工作物Wの表面における振動の加速度を測定する測定位置を螺旋状に移動させて検出データを取得する。この場合、測定位置は、定寸装置14の測定子141が工作物Wの表面に接触する位置である。螺旋状に取得した検出データは、工作物Wの回転軸に対する角度が所定角度毎となるように分割され、工作物Wの異なる角度かつ異なる軸方向位置における基礎データD11として基礎データ取得部21によって取得される。周方向びびり生成部22は、各軸方向位置毎の周方向びびりを生成する。面状びびり生成部23により、面状びびりを生成した後、位置補正部24により、周方向びびりの端点におけるびびり位相が一致するように補正を行う。
【0018】
(2-1.基礎データ取得部)
基礎データD11とは、加速度又は変位に関する時系列データである。加速度に関する基礎データD11を加速度基礎データD111、変位に関する基礎データD11を変位基礎データD112と呼ぶ。基礎データD11は、一般的には、時間軸を基準とするデータとして取得されるが、時間及び工作物Wの回転速度から、工作物Wの回転角度を基準とするデータに変換されてもよい。
【0019】
基礎データ取得部21は、加速度センサ15の検出値である加速度データに関する時系列データに基づき、加速度基礎データD11を取得する。加速度センサ15は、一対の定寸装置14の一方に取り付けられ、定寸装置14を介して間接的に回転中の工作物Wに接触させた状態となる。すなわち、定寸装置14は、加速度センサ15の接触部材として機能する。加速度センサ15は、回転中の工作物Wの表面に接触している定寸装置14の振動の加速度データを取得し、工作物Wの表面状態の情報として出力する。なお、外径測定装置に非接触型のセンサを用いた場合、加速度センサ15は、少なくとも一部が工作物Wの表面に接触するように接触部材を設ければよい。
【0020】
基礎データ取得部21は、図5に示すように、加速度センサ15による工作物Wの表面における測定位置を螺旋状に移動させた時に、工作物Wの回転軸に対する所定角度毎の螺旋状の位置に対する時系列データを基礎データとして取得する。すなわち、工作物Wを回転させた状態で、定寸装置14の測定子141を工作物Wの表面に接触させ、定寸装置14を軸方向移動装置143により、工作物Wの軸方向に移動させる。こうすることで、定寸装置14と工作物Wとの接触位置は、工作物Wの表面上を螺旋状の軌跡を描いて移動し、加速度センサ15による測定位置も同様に螺旋状の軌跡を描いて移動する。定寸装置14の工作物Wの軸方向への移動速度は、工作物Wの1回転当たり1mm程度とすることが好ましい。定寸装置14の移動速度は、軸方向移動制御部144により制御することができる。
【0021】
検出データを螺旋状に取得する場合、基礎データ取得部21は、定寸装置14を軸方向に移動させながら連続でデータを取得する。このとき、軸方向移動制御部144は、データの取得に必要な工作物Wの軸方向長さを算出し、工作物Wにおいて測定位置の螺旋状の移動における軸方向移動量を確保できる位置に、定寸装置14と工作物Wとの相対位置を動作させることが好ましい。
【0022】
螺旋状に取得した検出データは、図6に示すような、一連の連続した検出データとして取得される。これを工作物Wの回転軸に対する角度が所定角度毎となるように、図中点線で示した領域毎に分割する。分割された検出データは、工作物Wの各々の軸方向位置における基礎データD11として取得される。螺旋状の検出データを周方向に分割することにより、工作物Wの軸方向に一定の幅を持った複数のデータとすることができる。検出データを分割する所定角度としては、90度以下が好ましく、45度以下がより好ましく、30度以下がさらに好ましい。所定角度の下限は特に限定しないが、工作物Wの表面において、砥石車12の回転数周期が検出できる程度の周方向長さを有する区間に分割することが好ましい。また、分割された各区間において、200~300ポイントのデータを取得することが好ましい。
【0023】
(2-2.周方向びびり生成部)
所定角度毎に分割された領域は、工作物Wの表面において周方向長さを有する領域である。周方向びびり生成部22は、周方向長さを有する各領域について取得された複数の基礎データD1に基づいて、各々の軸方向位置における周方向びびりを生成する。分割された各領域の検出データは、螺旋形状の一部であることから、周方向長さと軸方向長さとを有する。しかしながら、軸方向長さは、周方向長さに比べ十分に小さいため、同一円周上の点としてみなし、周方向びびりを生成すればよい。
【0024】
基礎データD11に基づいて周方向びびりを生成する方法は、特に限定されない。加速度センサ15により検出された検出値である加速度に関する時系列データを変位に関する時系列データに変換してそのまま用いてもよいし、検出データに各種処理を施して周方向びびりとしてもよい。周方向びびり生成部22は、基礎データD11に基づいて砥石車12の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出し、周方向第一びびりを生成する第一びびりフィルタ装置を備えることが好ましい。周方向第一びびりとは、周方向におけるびびり振動の内、砥石車12の回転に起因するびびり振動である。第一例の周方向びびり生成部22は、第一びびりFFT解析部221と、第一びびり抽出部222と、第一びびり逆FFT解析部223と、第一びびり変位変換部224と、からなる第一びびりフィルタ装置22aを備える。周方向びびり生成部22は、検出データを、FFT解析し、特定周波数成分を抽出し、逆FFT解析を行うことで周方向第一びびりを生成する。
【0025】
(2-2-1.第一びびりFFT解析部)
第一びびりFFT解析部221は、基礎データD11に基づいてFFT解析を行い、第一びびりFFTデータD12を生成する。加速度に関する基礎データD11である加速度基礎データD111からは図7に示すような、横軸を周波数、縦軸を加速度とする加速度第一びびりFFTデータD121が生成される。一方、変位基礎データD112からは、横軸を周波数、縦軸を変位とする変位第一びびりFFTデータD122が生成される。
【0026】
(2-2-2.第一びびり抽出部)
第一びびり抽出部222は、第一びびりFFTデータD12から、砥石車12の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出する。第一びびり抽出部222によって抽出された第一びびり抽出FFTデータD13は、第一びびりFFTデータD12と同様に、横軸を周波数、縦軸を加速度又は変位とするが、特定周波数以外の数値が除かれる。ここでは、加速度第一びびりFFTデータD121から、特定周波数成分が抽出された加速度第一びびり抽出FFTデータD131が生成される。特定周波数成分は、砥石車12の回転数及びその整数倍の周波数成分である。研削装置100は、砥石車12を回転させながら工作物Wを研削する。そのため、砥石車12の表面形状が、砥石車12の回転数毎に工作物Wの表面に現れる。例えば、図8に示すように、砥石車12表面に、大きく突出した砥粒aがある場合、工作物W表面において、砥粒aと当接する箇所には大きく削り取られた凹部が形成される。凹部は、回転方向に等間隔で形成され、凹部間の間隔は、砥石車12の回転周期と一致する。第一びびり抽出部222において、特定周波数成分を抽出することにより、砥石車12の表面状態又はアンバランス状態に起因するびびり振動を抽出することができる。
【0027】
(2-2-3.第一びびり逆FFT解析部)
第一びびり逆FFT解析部223は、第一びびり抽出部222によって生成された第一びびり抽出FFTデータD13に基づいて逆FFT解析を行い、第一びびり逆FFTデータD14を生成する。第一びびり逆FFT解析部223は加速度第一びびり抽出FFTデータD131に基づいて加速度第一びびり逆FFTデータD141を生成する。図9に加速度第一びびり逆FFTデータ41の一例を示す。加速度第一びびり逆FFTデータD141は、縦軸を加速度、横軸を時系列とするデータである。ここでは、工作物Wの回転数と時間から求めた工作物の回転角度を横軸とする。
【0028】
(2-2-4.第一びびり変位変換部)
第一びびり変位変換部224は、加速度に関する基礎データD11、第一びびりFFTデータD12、第一びびり抽出FFTデータD13、第一びびり逆FFTデータD14のいずれかを、変位に関する基礎データD11、第一びびりFFTデータD12、第一びびり抽出FFTデータD13、第一びびり逆FFTデータD14のいずれかの対応するデータに変換する。第一例の第一びびり変位変換部224は、第一びびり逆FFT解析部223において生成された加速度第一びびり逆FFTデータD141を、変位第一びびり逆FFTデータD142に変換する。第一びびり変位変換部224では、加速度に関するデータを二回積分することにより、変位に関するデータに変換することができる。図10に変位第一びびり逆FFTデータ42の一例を示す。変位第一びびり逆FFTデータD142は、縦軸を変位、横軸を時系列とするデータである。ここでは、工作物Wの回転数と時間から求めた工作物の回転角度を横軸とする。
【0029】
周方向びびり生成部22は、第一びびりFFT解析部221、第一びびり抽出部222、第一びびり逆FFT解析部223、及び、第一びびり変位変換部224の処理により、変位第一びびり逆FFTデータD142を工作物Wの周方向第一びびりとして生成する。
【0030】
(2-3.面状びびり生成部)
周方向びびり生成部22により生成された複数の周方向びびりは、工作物Wの回転軸に体する角度が互いに異なる角度毎に生成される。すなわち、図11Aに示すように、隣接する軸方向位置における周方向びびりは、互いに工作物Wの周方向にずれた位置において取得される。工作物Wの周方向のびびり振動は、砥石車12の回転に起因するものが多く、砥石車12の回転数周期毎に工作物Wの表面に繰り返し見られる。本発明の表面性状推定システムは、工作物Wの同一円周上びびり振動は周期的に繰り返されるものとみなして表面性状を推定する。すなわち、異なる角度毎に取得された各々の軸方向位置における周方向びびりは、工作物Wの同一角度における周方向びびりであるとみなす。面状びびり生成部23は、各々の周方向びびりを周方向(図11Aの矢印方向)に移動させ、図11Bに示すように並列させることにより、一連の面状びびりを生成する。
【0031】
(2-4.位置補正部)
本発明の表面性状推定システム1は、螺旋状に取得した検出データを工作物Wの各々の軸方向位置に分割して面状びびりを生成する。連続した検出データを分割する際に、びびり振動の周期とずれた位置で分割する場合がある。このようなデータに基づいて面状びびりを生成すると、各々の軸方向位置における周方向びびりを、工作物Wの軸方向に対してうまく接続できない場合がある。例えば、周方向びびり振動の主な要因である砥石車12のアンバランス状態を例に挙げると、工作物Wの軸方向において、砥石車12の幅に相当する領域では、周方向びびりの位相は一致する。すなわち、隣接する軸方向位置におけるびびり波形は、山と山、谷と谷が軸方向に隣接し、連続性を有する。表面性状推定システム1は、このような連続性を再現するにあたり、複数の周方向びびりの端点におけるびびり位相が一致するように、各々の周方向びびりにおける周方向の相対的な位置を補正する位置補正部24を備えることが好ましい。位置補正部24により周方向びびりの相対的な位置を補正することで、各々の軸方向位置における周方向びびりの工作物Wの軸方向に対するつながりを円滑にすることができる。
【0032】
(3.画像出力部)
表面性状推定システム1は、表面性状生成装置200により生成された表面性状を画像として出力する画像出力部30を備えることが好ましい。画像出力部30は、補正後の面状びびりを三次元マップとして出力する。
【0033】
(変形例)
第一例では、第一びびり変位変換部224を、第一びびり逆FFT解析部223の後に配置し、基礎データ取得部21、第一びびりFFT解析部221、第一びびり抽出部222、第一びびり逆FFT解析部223、第一びびり変位変換部224の順でデータの処理を行った。周方向びびり生成部22において、第一びびり変位変換部224を配置する順番は特に限定されない。
【0034】
(第二例)
第二例の表面性状推定システム2について、図12を参照して説明する。図12は表面性状推定システム2の構成を示すブロック図である。表面性状推定システム2の表面性状生成装置201は、工作物Wの外径データを取得する外径データ取得部25と、面状びびり及び外径データを合成する外径合成部26を備える。
【0035】
(4.外径データ取得部)
外径データ取得部25は、定寸装置14からの信号に基づいて、工作物Wの外径データを取得する。外径データ取得部25は、定寸装置14により検出される検出データをそのまま外径データとして用いてもよいし、検出データに各種処理を施して外径データとしてもよい。外径データ取得部25は、検出データに基づいて、特定の周波数領域分を抽出する外径データフィルタ装置25aを備えることが好ましい。第二例の外径データ取得部25は、外径基礎データ取得部251と、外径FFT解析部252、外径抽出部253、外径逆FFT解析部254、からなる外径データフィルタ装置25aと、を備える。外径データ取得部25は、検出データを、FFT解析し、特定周波数成分を抽出し、逆FFT解析を行うことで外径データを生成する。
【0036】
外径基礎データ取得部251は、定寸装置14からの信号に基づき、外径基礎データD21を取得する。外径基礎データD21は、縦軸を外径の変位とする時系列データである。
【0037】
外径FFT解析部252は、外径基礎データD21に基づいてFFT解析を行い、外径FFTデータD22を生成する。外径FFTデータD22は、縦軸を外径の変位とし、横軸を周波数とする。
【0038】
外径抽出部253は、外径FFTデータD22に基づいて、特定の周波数領域成分を抽出し、外径抽出FFTデータD23を生成する。外径抽出部253は、外径FFTデータD22の1山/周成分を除外する。1山/周成分は、工作物Wの回転周波数に相当する成分である。工作物Wの回転軸がずれている場合などに1山/周成分が強く検出される。外径データとしては、工作物Wの軸方向の外径変化が得られれば足りるため、ここでは1山/周成分を除外する。また、外径抽出部253は、外径FFTデータD22の低周波数成分を抽出する。外径FFTデータD22の高周波数側には、工作物Wの周方向びびりに起因する振動が検出される。周方向びびりは周方向びびり生成部22にて生成しているため、外径データとしては不要である。ここで抽出する低周波数成分の範囲は、砥石車12及び工作物Wの回転数等から適宜決定すればよいが、例えば、50Hz以下とすることができる。外径抽出部253は、1山/周成分を除く低周波数成分を特定周波数領域成分として抽出することにより、工作物Wの軸方向の外径変化を抽出することができる。
【0039】
外径逆FFT解析部254は、外径抽出部253によって生成された外径抽出FFTデータD23に基づいて逆FFT解析を行い、外径逆FFTデータD24を生成する。外径逆FFTデータD24は、縦軸を外径の変位、横軸を時系列とするデータである。ここでは、定寸装置14の工作物Wの軸方向への移動速度と時間から求めた工作物Wの軸方向位置を横軸とする。
【0040】
外径データ取得部25は、外径基礎データ取得部251、外径FFT解析部252、外径抽出部253、及び、外径逆FFT解析部254の処理により、外径逆FFTデータD24を外径データとして取得する。
【0041】
(5.外径合成部)
外径合成部26は、周方向びびり又は面状びびりに対して外径データを合成する。すなわち、工作物Wの周方向の表面形状変化と軸方向の表面形状変化を合成し、1つのデータとする。外径合成部26により外径データを合成することで、工作物Wの表面性状をより正確に推定することができる。
【0042】
外径合成部26及び面状びびり生成部23でのデータの処理は、どちらを先に行っても構わない。第二例の表面性状推定システム2は、図12に示すように、外径合成部26の処理を先に行っている。すなわち、周方向びびりと外径データとを合成して合成周方向びびりとした後、合成周方向びびりを並列させて合成面状びびりを生成する。変形例として、面状びびり生成部23の処理を先に行う形態を挙げることができる。この場合、周方向びびりを並列させて面状びびりを生成した後、面状びびりに外径データを合成して合成面状びびりを生成する。
【0043】
(第三例)
第三例の表面性状推定システム3について、図13を参照して説明する。図13は表面性状推定システム3の構成を示すブロック図である。表面性状推定システム3の表面性状生成装置202は、第二びびり振動による変位を生成する第二びびり変位生成部27と、第二びびり振動による変位の分をオフセットするオフセット処理部28とを備える。
【0044】
(6.第二びびり変位生成部)
第二びびり変位生成部27は、第二びびりフィルタ装置27aを備え、基礎データD11に基づいて表面における前記砥石の回転数に起因するびびり振動以外の振動による第二びびり変位を生成する。第二びびり変位を生成する方法は特に限定されない。第三例の第二びびり変位生成部27は、基礎データD11を、FFT解析し、第二びびり周波数成分を抽出し、逆FFT解析を行うことで第二びびり変位を生成する。第二びびり変位生成部27は、第二びびりFFT解析部271と、第二びびり抽出部272と、第二びびり逆FFT解析部273と、第二びびり変位変換部274と、を備える。
【0045】
(6-1.第二びびりFFT解析部)
第二びびりFFT解析部271は、基礎データD11に基づいてFFT解析を行い、びびりFFTデータD12を生成する。加速度に関する基礎データD11である加速度基礎データD111からは、横軸を周波数、縦軸を加速度とする加速度第二びびりFFTデータD321が生成される。一方、変位基礎データD112からは、横軸を周波数、縦軸を変位とする変位第二びびりFFTデータD322が生成される。第二びびりFFT解析部271は、周方向びびり生成部22の第一びびりFFT解析部221と同様の処理を行うものであり、同一の構成を用いることができる。
【0046】
(6-2.第二びびり抽出部)
第二びびり抽出部272は、第二びびりFFTデータD32から、砥石車12の回転数に対応する回転数周波数成分とは異なる第二びびり周波数成分を抽出する。第二びびり抽出部272によって抽出された第二びびり抽出FFTデータD33は、第二びびりFFTデータD32と同様に、横軸を周波数、縦軸を加速度又は変位とするが、第二びびり周波数以外の数値が除かれる。ここでは、加速度第二びびりFFTデータD321から、第二びびり周波数成分が抽出された加速度第二びびり抽出FFTデータD331が生成される。第二びびり周波数成分とは、砥石車12の回転数に対応する回転数周波数成分以外に、工作物Wの表面性状に影響を与える振動のことである。具体的には、主軸回転モータ135の回転、砥石台121や主軸テーブル133の移動を制御するサーボモータの回転、外部から加えられる振動、自励びびりなどが挙げられる。第二びびり周波数成分は、例えば、主軸の回転数、サーボモータの回転数等に基づいて抽出してもよいし、回転数周波数成分以外で所定の閾値を超える成分を第二びびり周波数成分として抽出してもよい。
【0047】
(6-3.第二びびり逆FFT解析部)
第二びびり逆FFT解析部273は、第二びびり抽出部272によって生成された第二びびり抽出FFTデータD33に基づいて逆FFT解析を行い、第二びびり逆FFTデータD34を生成する。第二びびり逆FFT解析部273は加速度第二びびり抽出FFTデータD331に基づいて加速度第二びびり逆FFTデータD341を生成する。加速度第二びびり逆FFTデータD341は、縦軸を加速度、横軸を時系列とするデータである。ここでは、工作物Wの回転数と時間から求めた工作物の回転角度を横軸とする。第二びびり逆FFT解析部273は、周方向びびり生成部22の第一びびり逆FFT解析部223と同様の処理を行うものであり、同一の構成を用いることができる。
【0048】
(6-4.第二びびり変位変換部)
第二びびり変位変換部274は、加速度に関する基礎データD11、第二びびりFFTデータD32、第二びびり抽出FFTデータD33、第二びびり逆FFTデータD34のいずれかを、変位に関する基礎データD11、第二びびりFFTデータD32、第二びびり抽出FFTデータD33、第二びびり逆FFTデータD34のいずれかの対応するデータに変換する。第三例の第二びびり変位変換部274は、第二びびり逆FFT解析部273において生成された加速度第二びびり逆FFTデータD341を、変位第二びびり逆FFTデータD342に変換する。第二びびり変位変換部274では、加速度に関するデータを二回積分することにより、変位に関するデータに変換することができる。変位第二びびり逆FFTデータD342は、縦軸を変位、横軸を時系列とするデータである。ここでは、工作物Wの回転数と時間から求めた工作物の回転角度を横軸とする。第二びびり変位変換部274は、周方向びびり生成部22の第一びびり変位変換部224と同様の処理を行うものであり、同一の構成を用いることができる。
【0049】
第二びびり変位生成部27は、第二びびりFFT解析部271、第二びびり抽出部272、第二びびり逆FFT解析部273、及び、第二びびり変位変換部274の処理により、変位第二びびり逆FFTデータD342を第一びびり振動以外の振動による変位として生成する。
【0050】
(7.オフセット処理部)
オフセット処理部28は、第二びびり変位生成部27により生成された第一びびり以外の振動による変位の分を、全範囲の表面性状にオフセットする。第一びびり以外の振動による変位とは、第二びびり変位生成部27に生成された変位第二びびり逆FFTデータD342である。変位第二びびり逆FFTデータD342分をオフセットすることにより、工作物Wの表面性状をより正確に推定することができる。
【0051】
(評価例)
第三例の表面性状推定システム3を用いて、工作物Wの表面性状の推定を行った。推定される工作物Wの表面性状を示す三次元マップを図14に示す。本発明の表面性状評価システムを用いることにより、インプロセスにおいて、工作物Wの表面性状を図14のように可視化することができる。
【0052】
(第四例)
第四例の表面性状推定システム4について、図15図17を参照して説明する。第四例の表面性状推定システム4は、図15に示すように、加速度センサ15に代えて、変位センサを備える。
【0053】
変位センサとしては、例えば、接触型のリニアゲージ16や定寸装置14、非接触型のレーザ式センサ、光学式センサ、渦電流型センサ等を用いることもできる。接触型のリニアゲージ16や定寸装置14等は、工作物Wの表面に接触する接触部材を有し、工作物Wの回転に伴い生じる接触部材の振動の変位を検出する。非接触型のレーザ式センサ、光学式センサ、渦電流型センサ等は、工作物Wの表面に非接触で配置され、工作物Wの回転に伴い生じる基準位置から工作物Wの表面までの変位を検出する。接触型のセンサにより検出される接触部材の振動の変位、及び、非接触型のセンサにより検出される変位は、いずれも、工作物Wの表面の凹凸形状の変位を示す工作物Wの表面状態の情報として出力される。変位センサは、外径測定装置と同一のものを併用してもよい。例えば、研削装置に設けられた定寸装置14を変位センサとして用いる場合、リニアゲージ16等の他の変位センサを設ける必要はない。リニアゲージ16は、工作物Wに接触する接触部である測定子161と、測定子161を支持するアーム162を備える。リニアゲージ16は、測定子161を回転中の工作物Wに接触させた状態で、工作物W表面の変位データを検出する。リニアゲージ16は、軸方向移動装置163に支持され、工作物Wの軸方向、すなわち、Z軸方向に移動可能である。リニアゲージ16のZ軸方向の移動は、軸方向移動制御部164によって制御される。
【0054】
基礎データ取得部21は、リニアゲージ16の検出値である変位に関する時系列データに基づき、変位基礎データD112を取得する。第一びびりFFT解析部221は、変位基礎データD112に基づいて、変位第一びびりFFTデータD122を生成する。第一びびり抽出部222は、変位第一びびりFFTデータD122から、変位第一びびり抽出FFTデータD132を生成する。第一びびり逆FFT解析部223は、変位第一びびり抽出FFTデータD132に基づいて変位第一びびり逆FFTデータD142を生成する。リニアゲージ16は、変位に関する基礎データD11を取得することができる。そのため、加速度に関する各種データを変位に関する各種データに変換する第一びびり変位変換部224を必要としない。第二びびり変位生成部27についても同様である。
【0055】
第四例の表面性状生成装置203は、第一びびりゲイン補償部225を備えることが好ましい。変位センサにより検出される変位データの信号は、特定の周波数を超えると信号強度が減衰する傾向にある。第一びびりゲイン補償部225は、あらかじめ記憶された周波数と信号強度との関係から、周波数毎に信号強度を補償し、出力レベルを一定とする。本例では、第一びびりゲイン補償部225は、第一びびり抽出部222により生成された変位第一びびり抽出FFTデータD132に対してゲイン補償を行う。第一びびりゲイン補償部225は、第一びびり抽出部222よりも上流側に配置されてもよい。すなわち、第一びびりFFT解析部221により生成された変位第一びびりFFTデータD122に対してゲイン補償を行ってもよい。
【0056】
図17に、図16における第一びびりゲイン補償部225の前後の詳細を示す。第一びびりゲイン補償部225は、周波数と信号強度との関係を記憶するゲイン記憶部225aと、周波数と信号強度との関係に基づいてゲイン補償を行う調節部225bと、を備える。ゲイン記憶部225aには、あらかじめ、周波数と信号強度との関係が記憶されている。調節部225bに変位第一びびり抽出FFTデータD132が入力されると、ゲイン記憶部225aから、周波数と信号強度との関係を呼び出す。調節部225bは、当該周波数と信号強度との関係に基づいて変位第一びびり抽出FFTデータD132に対してゲイン補償を行い、出力する。
【0057】
なお、第二びびり変位生成部27においても、第一びびりゲイン補償部225と同様の構成を有する第二びびりゲイン補償部275を備えることが好ましい。第二びびりゲイン補償部275は、第一びびりゲイン補償部225と同様の処理を行うものであり、同一の構成を用いることができる。
【0058】
第一例のように加速度センサ15を用いると、時間当たりの変位が大きい場合に、表面の形状変換に素早く反応でき、びびりの検出精度に優れる。一方、第四例のように変位センサを用いると、時間当たりの変位が小さい場合に、びびりの検出精度に優れる。変位センサを用いた場合でも、ゲイン補償を行うことにより、時間当たりの変位が大きい場合にも精度よくびびりを検出することができる。
【0059】
(第五例)
第五例の表面性状推定システム5について、図18図19を参照して説明する。第五例の研削装置102は、図18に示すように、変位センサとして、非接触型のレーザ式センサ18を備え、レーザ式センサ18は外径測定装置を兼ねる。そして、第五例の表面性状生成装置204は、図19に示すように、周方向びびり生成部22、外径データ取得部25、第二びびり変位生成部27は、FFT変換、逆FFT変換を行わないフィルタ装置22a、25a、27aをそれぞれ備える。
【0060】
レーザ式センサ18は、工作物Wの表面にレーザを照射するレーザ照射部181と、工作物W表面で反射したレーザを受感する受感部182と、を備える。レーザ式センサ18は、非接触で配置され、工作物Wの表面にレーザを照射し、反射したレーザを受感することにより、レーザ式センサ18の配置された基準位置から工作物Wまでの距離を測定する。基準位置から工作物Wまでの距離を測定することにより、工作物Wの回転に伴い生じる変位、すなわち、工作物Wの表面の凹凸形状の変位を検出することができる。また、レーザ式センサ18は、工作物Wの外径を同時に測定することができる。レーザ式センサ18は、軸方向移動装置183に支持され、工作物Wの軸方向、すなわち、Z軸方向に移動可能である。レーザ式センサ18のZ軸方向の移動は、軸方向移動制御部184によって制御される。
【0061】
基礎データ取得部21は、レーザ式センサ18の検出値である変位に関する時系列データに基づいて、変位基礎データD112を取得する。周方向びびり生成部22は、第一びびりフィルタ装置22aを備え、変位基礎データD112に基づいて砥石車12の回転数に対応する回転数周波数成分である特定周波数成分を抽出する。第一びびりフィルタ装置22aは、第一例~第四例と同様の装置でもよいが、ここでは、FFT変換、逆FFT変換を介さない装置とする。具体的には、バンドパスフィルタ、ガウシアンフィルタ等の各種処理により、変位基礎データD112から、所望の周波数領域の成分を抽出する装置である。第一びびりフィルタ装置22aを備え、変位基礎データD112に基づいて、FFT変換を経ずに、変位第一びびり抽出データD152を取得することができる。変位第一びびり抽出データD152による波形は、変位第一びびり逆FFTデータD142の波形と概ね同様である。
【0062】
第二びびり変位生成部27は、周方向びびり生成部22の第一びびりフィルタ装置22aと同様の構成の第二びびりフィルタ装置27aを備える。第二びびりフィルタ装置27aは、第一びびりフィルタ装置22aと同様に、変位基礎データD112に基づいて、FFT変換を経ずに、変位第二びびり抽出データD352生成する。また、外径データ取得部25も、周方向びびり生成部22の第一びびりフィルタ装置22aと同様の構成の外径データフィルタ装置25aを備える。外径データフィルタ装置25aは、レーザ式センサ18が取得した外径基礎データD21に基づいて、外径抽出データD25を生成する。表面性状生成装置204をこのような構成とすると、各種データの処理が容易である。
【0063】
(第六例)
第六例の表面性状推定システム6について、図20を参照して説明する。第六例の表面性状推定システム6は、第五例の表面性状推定システム5に加えて、外径データ取得部25が工作物Wの真円度を取得する真円度取得部255を備える。
【0064】
表面性状推定システム6は、工作物Wの任意の位置において、工作物Wの軸方向同一位置の工作物Wの外径データを工作物Wの真円度として取得する。すなわち、外径測定装置による工作物Wの表面上の外径の測定位置を軸方向に移動させない状態で、工作物Wの外径データを取得する。工作物Wの軸方向に直交する断面は、設計上円形としない場合の他に、研削装置への取り付け時のずれ等より、円形から歪む場合がある。真円度取得部255は、この歪みを取得し、表面性状の推定に反映させるものである。工作物Wの真円度は、軸方向の任意の位置において概ね同等であるとみなすことができるため、真円度は、工作物Wの軸方向一点において測定されれば足りる。真円度を取得するタイミングは特に限定されないが、外径測定装置による工作物Wの表面上の外径の測定位置を螺旋状に移動させつつ基礎データを取得する以前に、工作物Wと外径測定装置との相対位置を移動させずに工作物Wの外周1周分を測定すると容易である。
【0065】
外径データ取得部25は、工作物Wの外周を螺旋状に移動しながら取得した外径抽出データD25から、真円度取得部255により取得された真円度を減算し、外径データとする。このようにすることにより、より正確な表面性状の推定が可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1、2、3、4、5、6:表面性状推定システム、 100、101、102:研削装置、 11:ベッド、 12:砥石車、 121:砥石台、 122:砥石台案内部、 123:砥石回転モータ、 131:主軸台、 132:心押台、 133:主軸テーブル、 134:主軸テーブル案内部、 135:主軸回転モータ、 14:定寸装置、 141:測定子、 142:アーム、 143:軸方向移動装置、 144:軸方向移動制御部、 15:加速度センサ、 16:リニアゲージ、 161:測定子、 162:アーム、 163:軸方向移動装置、 164:軸方向移動制御部、 17:制御部、 18:レーザ式センサ、 181:レーザ照射部、 182:受感部、 183:軸方向移動装置、 184:軸方向移動制御部、 200、201、202、203、204、205:表面性状生成装置、 21:基礎データ取得部、 22:周方向びびり生成部、 22a:第一びびりフィルタ装置、 221:第一びびりFFT解析部、 222:第一びびり抽出部、 223:第一びびり逆FFT解析部、 224:第一びびり変位変換部、 225:第一びびりゲイン補償部、 225a:ゲイン記憶部、 225b:調節部、 23:面状びびり生成部、 24:位置補正部、 25:外径いがいデータ取得部、 25a:外径データフィルタ装置、 251:外径基礎データ取得部、 252:外径FFT解析部、 253:外径抽出部、 254:外径逆FFT解析部、 255:真円度取得部、 26:外径合成部、 27:第二びびり変位生成部、 27a:第二びびりフィルタ装置、 271:第二びびりFFT解析部、 272:第二びびり抽出部、 273:第二びびり逆FFT解析部、 274:第二びびり変位変換部、 28:オフセット処理部、 30:画像出力部、 S1:粗研工程、 S2:精研工程、 S3:微研工程、 S4:スパークアウト工程、 W:工作物
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