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特許7491053作業工程判定システム及び作業工程判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】作業工程判定システム及び作業工程判定方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240521BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G06Q50/08
E21D9/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020090295
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021185452
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 孝義
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕作
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】元村 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝文
【審査官】木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027097(JP,A)
【文献】特開2011-076253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気を動力にして稼働する複数の建設機械を利用し施工を行う建設現場において、該建設現場に給電される電流値に基づいて作業工程の種類を判定する作業工程判定システムであって、
前記建設現場に給電する分電盤の1次側に接続される1次側電線における電流値を測定する電流検知装置と、
該電流検知装置で測定した電流値に基づいて、前記作業工程の種類を判定する作業工程判定装置と、
該作業工程判定装置で判定された作業工程を出力する出力装置と、
を備え、
前記作業工程判定装置が、
前記電流検知装置で測定した電流値に基づいて、前記建設機械が稼働している時間帯を検知し、高電流時間帯として検出する高電流時間帯検出部と、
前記高電流時間帯における電流値の時系列データと、あらかじめ前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データとに基づいて、前記高電流時間帯における作業工程の種類を判定する作業工程判定部と、を備え
前記作業工程判定部が、
前記高電流時間帯における電流値の時系列データを入力された際に、該高電流時間帯における前記作業工程の種類を自動判定する、自動判定部を備え、
該自動判定部が、
前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データよりなる学習用時系列データと、該学習用時系列データに対応する前記作業工程の種類よりなる正解ラベルと、を紐付けた教師データを用いて機械学習により生成された、学習済みモデルを備えることを特徴とする作業工程判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業工程判定システムを用いて、電気を動力にして稼働する複数の建設機械を利用し施工を行う建設現場における、作業工程の種類を判定する作業工程判定方法であって、
前記1次側電線における電流値を連続的に測定し、前記電流値に基づいて、前記建設機械の稼働している時間帯を高電流時間帯として検出する高電流時間帯検出工程と、
前記高電流時間帯における電流値の時系列データと、あらかじめ前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データとに基づいて、前記高電流時間帯における作業工程の種類を判定する作業種類判定工程と、
を備えることを特徴とする作業工程判定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の作業工程判定方法において、
前記作業種類判定工程で、前記高電流時間帯における電流値の時系列データが、前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データのいずれにも対応しない場合に、前記建設現場における異常警告を、前記出力装置に出力することを特徴とする作業工程判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設現場で実施する作業工程を、建設現場に給電される電気の電流値を利用して判定するための、作業工程判定システム及び作業工程判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NATM工法によるトンネル工事において、施工管理者は切羽近傍での施工管理業務として、例えば、発破掘削・機械掘削を行ったのちの切羽写真の撮影作業や、コンクリートの1次吹付け作業を行ったのちに実施する支保工建込み時の建込み位置測量を実施する。また、支保工の建込み後には、ロックボルトを挿入するための削孔位置の測量、及び打設したロックボルトの出来形計測等、様々な施工管理業務を行う。
【0003】
このため施工管理者は、上述したような切羽近傍での施工管理業務を遅延なく実施するべく、過去のサイクルタイムから施工状況を予測し早めに施工現場に入る、もしく現場事務所や詰め所にて、切羽近傍における作業の進捗状況をネットワークカメラで確認しながら待機するなどしていた。
【0004】
このような中、例えば特許文献1には、トンネル施工に用いられる複数の重機各々に供給される電気の電流値を用いて、トンネル施工における作業工程を把握する方法が開示されている。具体的には、外部から受電点にて受電した電力は、変圧器で降圧されたのち、遮断機が設けられた分電盤を経由して複数の重機各々に供給される。そこで、分電盤と複数の重機とを接続する2次側電線各々に電流センサを設ける。
【0005】
そして、この電流センサを用いてあらかじめ、トンネル施工に用いる重機各々に供給される電流値を測定するとともに統計処理し、作業工程ごとに電流の上下閾値を取得しておく。以降、トンネル施工時に、電流センサで測定した電流の実測値と、あらかじめ取得した作業工程ごとの電流の上下閾値とに基づいて、実測値を測定した時間帯に実施していた作業工程を判別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6645906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法によれば、施工管理者は建設現場を不在にしている場合にも、現在の作業工程を把握し、施工管理業務の実施時間を予測し現場に赴くことができる。しかし、特許文献1では、分電盤とトンネル施工に用いる重機とを接続する2次側電線の電流を測定している。一般に2次側電線は、重機各々の数量分だけ用意されているため、複数の2次側電線各々に電流を測定する電流センサを設置しなければならず、設備費用が増大化しやすい。
【0008】
また、トンネル施工の作業工程を判別するべく、作業工程内で時間変動する電流の平均や標準偏差に基づいて、作業工程ごとの電流の上下閾値を取得している。しかし、このような電流の上下閾値は、作業工程を確実に判別できる数値として確立されたものでもはなく、その算定方法も煩雑なため、汎用性に欠ける。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、建設現場に給電される電気の電流値に基づいて、建設現場で実施する作業工程の種類を、効率よくかつ高い精度で判定することの可能な作業工程判定システム及び作業工程判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため本発明の作業工程判定システムは、電気を動力にして稼働する複数の建設機械を利用し施工を行う建設現場において、該建設現場に給電される電流値に基づいて作業工程の種類を判定する作業工程判定システムであって、前記建設現場に給電する分電盤の1次側に接続される1次側電線における電流値を測定する電流検知装置と、該電流検知装置で測定した電流値に基づいて、前記作業工程の種類を判定する作業工程判定装置と、該作業工程判定装置で判定された作業工程を出力する出力装置と、を備え、前記作業工程判定装置が、前記電流検知装置で測定した電流値に基づいて、前記建設機械が稼働している時間帯を検知し、高電流時間帯として検出する高電流時間帯検出部と、前記高電流時間帯における電流値の時系列データと、あらかじめ前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データとに基づいて、前記高電流時間帯における作業工程の種類を判定する作業工程判定部と、を備え、前記作業工程判定部が、前記高電流時間帯における電流値の時系列データを入力された際に、該高電流時間帯における前記作業工程の種類を自動判定する、自動判定部を備え、該自動判定部が、前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データよりなる学習用時系列データと、該学習用時系列データに対応する前記作業工程の種類よりなる正解ラベルと、を紐付けた教師データを用いて機械学習により生成された、学習済みモデルを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の作業工程判定方法は、本発明の作業工程判定システムを用いて、電気を動力にして稼働する複数の建設機械を利用し施工を行う建設現場における、作業工程の種類を判定する作業工程判定方法であって、前記1次側電線における電流値を連続的に測定し、前記電流値に基づいて、前記建設機械の稼働している時間帯を高電流時間帯として検出する高電流時間帯検出工程と、前記高電流時間帯における電流値の時系列データと、あらかじめ前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データとに基づいて、前記高電流時間帯における作業工程の種類を判定する作業種類判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の作業工程判定方法は、前記作業種類判定工程で、前記高電流時間帯における電流値の時系列データが、前記作業工程ごとに取得した電流値の時系列データのいずれにも対応しない場合に、前記建設現場における異常警告を、前記出力装置に出力することを特徴とする。
【0014】
上述する作業工程判定システムおよび作業工程判定方法によれば、分電盤の1次側に接続される1次側電線の電流値に基づいて建設機械が稼働している時間帯を検知し、これを高電流時間帯とした検出する。こうして、建設機械が稼働していることを確認した高電流時間帯における電流値の時系列データと、あらかじめ作業工程ごとに取得した電流値の時系列データとに基づいて、高電流時間帯に実施している作業工程の種類を判定する。
【0015】
これにより、現在が高電流時間にあるか否かを的確に把握し、高電流時間帯にある場合には、作業工程ごとの特徴が反映された電流値の時系列データを利用して、効率よくかつ高い精度で作業工程を判定し、出力装置に出力することが可能となる。したがって、例えば、出力装置として携帯端末を選択すれば、施工管理者は建設現場を不在にしている場合にも、現在の作業工程を正確に把握できるため、施工管理業務の実施時間を的確に予測して建設現場に赴くことができ、施工管理業務の遅延を防止することが可能となる。
【0016】
また、例えば、作業員が2班に分かれて交代勤務している場合に、待機中の作業班は出力装置に出力される情報を確認することにより、建設現場で現行の作業班が実施している作業工程の進捗状況を把握できる。したがって、これらの情報を反映させて作業計画の見直しや作業指示書を作成する等の事前準備を実施でき、建設現場における施工性を大幅に向上することが可能となる。
【0017】
さらに、分電盤に接続される1次側電線の電流を電流値として測定するから、電気検知部は1次側電線に一つ設ければよい。したがって、分電盤を経由し分岐ブレーカーを介して分電された複数の2次側電線の電流を個別に測定する場合と比較して、その設備費を大幅に削減することが可能となる。また、出力される電流値も1種類のみであるため、作業工程を判定する際のデータの取り扱いが容易となる。
【0018】
加えて、高電流時間帯における電流値の時系列データが、あらかじめ作業工程ごとに取得した電流値の時系列データのいずれにも対応しない場合、異常警告を出力する。これにより、建設現場において機械トラブル等の不測の事態を発生した場合にも、これらを早期に発見し、迅速に対策を講じることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、建設現場に給電される電気の電流値に基づいて、建設現場で実施する作業工程を、効率よくかつ高い精度で判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態における平面からみたトンネル施工の建設現場と、作業工程判定システムの概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるトンネル施工の作業工程の概略と、これに使用する建設機械を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるトンネル施工の作業開始時から現在おける電流実測値Atの推移を示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるあらかじめ作業工程ごとに取得した電流値の時系列データを示す図である。
図5】本発明の実施の形態における作業工程判定装置の詳細を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における作業工程の種類を判定するための学習済みモデルを生成する手順を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における作業工程の種類を判定するためのフロー図である。
図8】本発明の実施の形態における出力装置の画像表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、電気を動力にして稼働する複数の建設機械を利用し、施工を行う建設現場において実施されるの作業工程の種類を、遮断機が設けられた分電盤を経由する前の1次側の電流値に基づいて判定するものである。
【0022】
本実施の形態では、建設現場として、NATM工法による山岳トンネル工事をレール方式で実施する現場を事例に挙げ、以下に図1図8を参照しつつ、作業工程判定システム及び作業工程判定方法を説明する。
【0023】
図1の平面図で示すように、トンネルTの切羽S近傍では、電源設備30を介して供給された電気を動力として稼働する建設機械20を利用して、切羽Sの掘削に係る様々な作業が実施されている。ここで利用する主な建設機械20は例えば、ドリルジャンボ21、ホイールローダー22、コンクリート吹付機23、エレクター24等が挙げられ、これらはそれぞれ、図2で示すような作業工程で使用される。
【0024】
まず、切羽Sの発破掘削を実施するための装薬穿孔工程では、切羽Sの穿孔にドリルジャンボ21などの穿孔機を用いる。こののち、切羽Sに設けた穿孔への装薬を行ったのち、発破及び換気を行って掘削ずりを排出するずり出し作業が行われる。
【0025】
ずり出し工程では、切羽Sの近傍に堆積した掘削ずりの搬出に、ホイールローダー22等の積み込み用重機を用いる。掘削ずりを搬出したのちには、切羽S近傍の掘削端面及びトンネルTの内壁面に、1次吹付けコンクリートが施工される。
【0026】
吹付工程(1次)では、コンクリート吹付けにエアーコンプレッサーやコンクリートポンプを備えたコンクリート吹付機23を用いる。こうして1次吹付けコンクリートにより保護されたトンネルTの内壁面に対して、支保工の建込み作業が行われるとともに、2次吹付けコンクリートが施工される。
【0027】
支保工の建込み工程では、1次吹付けコンクリートが施工されたトンネルTの内壁面に沿わせて、H型鋼や金網等を組み立てる作業にエレクター24を用いる。また、支保工を建込んだのちに実施する2次コンクリートの吹付工程では、吹付工程(1次)と同様のコンクリート吹付機23を用いる。
【0028】
最後に、ロックボルトの打設工程では、2次吹付けコンクリートが施工されたトンネルTの内壁面にロックボルトを打設するための穿孔を設ける作業に再度、装薬穿孔工程で使用したドリルジャンボ21などの穿孔機を使用する。
【0029】
上記のとおり、装薬穿孔工程、ずり出し工程、吹付(1次及び2次)工程、支保工の建込み工程、及びロックボルトの打設工程の5つの作業工程ごとで、それぞれ使用する主な建設機械20は定まっている。また、例えば、装薬穿孔工程とロックボルトの打設工程のように、使用する主な建設機械20が同じドリルジャンボ21であっても、これらの工程ではその作業条件や作業内容が異なるため、トンネル施工の建設現場全体でみると、作業工程ごとで使用する電力は異なる。
【0030】
そこで、トンネル施工の建設現場で実施されている作業工程の種類を判定するにあたって、建設機械20に給電される電気の電流値を個別に取得するのではなく、作業工程ごとに使用されるその他の設備に給電される電気の電流値を含めて、各作業工程ごとで建設現場全体に給電される電気の電流値を測定する。そして、この建設現場全体に給電される電気の電流値に基づいて、電流値を測定した時点で実施されている作業工程を判定することとした。
【0031】
トンネル施工の建設現場に給電される電流は、図1で示すように、電源設備30を経由している。電源設備30は、電源台車31と、分電盤32と、1次側電線33と、2次側電線とを備える。電源台車31は、電力会社等の外部から供給された電力の電圧を降圧して分電盤32に送る装置であり、分電盤32は、配線用遮断器や漏電遮断器(図示せず)が備えられている。
【0032】
電源台車31と分電盤32とは1次側電線33により接続され、1次側電線33及び分電盤32を経由した電流は、分岐ブレーカー(図示せず)を介して分電される。分電された電流は、建設機械20や施工に係るその他の電気設備、また、トンネルT内の照明や換気等の施設関連設備等に、複数の2次側電線34を介して個別に給電される。
【0033】
したがって、上記の電源設備30における配線用遮断器を備えた分電盤32を経由する前の1次側電線33を測定位置とし、この1次側電線33に流れる電流を測定して得た電流値である電流実測値Atを、建設現場全体に給電される電気の電流値として扱う。こうすると、複数の2次側電線34に流れる電流を個別に測定して建設現場全体の電流値を算出する場合と比較して、測定に係る設備費を大幅に削減できる。また、測定結果も電流実測値Atの1種類のみであるため、データの取り扱いが容易となる。
【0034】
ここで、図3に、トンネル施工の開始時から連続して取得した電流実測値Atの時間推移の事例を示す。図3を見ると、作業開始時の装薬穿孔工程から現時刻の支保工建込み工程に至るまでの間に、10Aを大幅に超える高電流時間帯THと10Aに満たない低電流時間帯TLが、時間の推移とともに交互に出現する様子がわかる。
【0035】
この事例の場合、高電流時間帯THは、上記の建設機械20を主に使用する5つの作業工程のうち、装薬穿孔工程、ずり出し工程、吹付け工程、支保工建込み工程を実施している時間帯である。また、低電流時間帯TLは、その他の作業(例えば、建設機械20の入れ替えや清掃作業等)が実施されている時間帯である。
【0036】
そして、高電流時間帯THでは、装薬穿孔工程で電流実測値Atが130A近傍をばらつきながら推移している。また、ずり出し工程では70A近傍を、吹付け工程では90A近傍を、支保工の建込み工程では150A近傍を、それぞれ推移している。このように、高電流時間帯THにおける電流実測値Atの推移、つまり電流実測値Atの時系列データは、5つの作業工程ごとで電流実測値Atの分布域に特徴を有することがわかる。
【0037】
このため、作業工程の判別は、まず、図3で示すような、高電流時間帯THを検知しておく。そのうえで、あらかじめ取得した図4(a)~(e)で示すような5つの作業工程ごとにその特徴がよく反映された電流値の時系列データのいずれかと、高電流時間帯THにおける電流実測値Atの時系列データが対応するかを検証することにより行う。以下に、この検証に用いる作業工程判定システム10を説明する。
【0038】
≪作業工程判定システム10≫
作業工程判定システム10は、図1で示すように、前述した1次側電線33の電流を測定する電流検知装置200と、作業工程判定装置100と、出力装置300とを備える。
【0039】
電流検知装置200は、1次側電線33の電流を測定できる測定器であればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、1次側電線33をクランプすることにより通電状態のまま電流を測定することのできるクランプメーターを採用している。電流検知装置200で測定された電流値は、無線もしくは有線で作業工程判定装置100に入力される。
【0040】
作業工程判定装置100は、入力部110、出力部120、記憶部130、及びCPU、GPU、ROM、RAM及びハードウェアインタフェース等の演算処理部140を備える、コンピュータシステムにより構成されている。
【0041】
入力部110は、上記の電流検知装置200に加え、キーボードやマウス等の入力装置から入力される情報を、作業工程判定装置100に供給する。また、出力部120は、入力部110から供給された情報や記憶部130に格納された情報等を、ディスプレーやプリンタ等の出力装置300に出力する。
【0042】
そして、図5で示すように、演算処理部140のCPUが所定のプログラムを実行することにより、高電流時間帯検出部141、判定方法選択部142、作業工程判定部143が備える自動判定部150、及び学習済みモデル生成部160の機能が実現される。
【0043】
ここで、高電流時間帯検出部141は、電流実測値Atを取得した時点が、高電流時間帯THに属するか否かを電流実測値Atに基づいて検知する。判定方法選択部142は、高電流時間帯THにおける電流実測値Atの時系列データが、5つの作業工程ごとにあらかじめ取得した電流値の時系列データのうち、いずれに対応するかを判定するための判定方法を、作業工程判定部143の中から選択する。
【0044】
判定方法はいずれによるものであってもよいが、本実施の形態では作業工程判定部143に、少なくとも自動判定部150を準備している。自動判定部150は、図6の自動判定時の部分で示すように、学習済みモデルMに高電流時間帯THにおける電流実測値Atの時系列データを入力することで、高電流時間帯THにおける作業工程を判定するものである。
【0045】
なお、学習済みモデルMは、図6の学習時の部分で示すように、5つの作業工程ごとにあらかじめ取得した図4(a)~(e)で示すような、電流値の時系列データよりなる学習用時系列データD1~D5と、これらに対応する作業工程の種類よりなる正解ラベルとを紐付けた教師データを用いて機械学習により生成する。この学習済みモデルMの詳細については、作業工程判定方法の説明と併せて後述する。
【0046】
≪建設工事における作業工程判定方法≫
上述する構成の作業工程判定システム10を用いて、電流実測値Atを取得した時点で、トンネル施工の建設現場で実施される作業工程の種類を判別する手順を、図7のフローを参照しつつ説明する。
【0047】
≪事前情報の設定:Step1≫
まず、電流実測値Atを取得した時点が、高電流時間帯THにあるかを検知する段階(Step2)、及び高電流時間帯THにあると検知された場合に、作業工程の種類を判定する段階(Step3)で用いる事前情報の設定を行う。その一方で、前述した作業工程を自動判定するために用いる、学習済みモデルMの生成を行う。
【0048】
≪作業工程判定のための情報設定≫
電流実測値Atを測定した時点が、高電流時間帯THにあると検知する条件として、電流実測値Atが下限電流値Au以上であって、この数値が、最低継続時間ΔT1を超えて継続して測定されていることを条件とする。一方、電流実測値Atを測定した時点から過去に遡って規定時間ΔT4以上にわたって電流実測値Atが、下限電流値Auを超えない状態を継続している場合に、電流実測値Atを測定した時点は低電流時間帯TLとする。
【0049】
例えば、下限電流値Auを10Aに設定し、最低継続時間ΔT1を3分に設定する。この場合には、電流実測値Atを測定した時点から過去に遡って3分以上にわたり、電流実測値Atが10A以上で継続している場合、電流実測値Atを測定した時点は、高電流時間帯THにある、と検知される。なお、下限電流値Auは、トンネルT内の施設関連設備等に給電される電流値に基づいて設定すると良い。
【0050】
また、電流実測値Atを測定した時点が、高電流時間帯THにあると判定された場合に、前述した学習済みモデルMには、時間幅ΔT2の電流実測値Aの時系列データを入力する。例えば、時間幅ΔT2を20分に設定した場合、電流実測値Atを測定した時点から過去に20分にわたって遡った範囲の電流実測値Atを切り出し、これを電流の時系列データとする。
【0051】
さらに、作業工程は、判定時間間隔ΔT3で判定を行う。例えば、判定時間間隔ΔT3を1分に設定すると、作業工程の判定は、時間が1分経過するごとに実施される。
【0052】
上記のあらかじめ設定した各種事前情報(下限電流値Au、下限電流値Auの最低継続時間ΔT1、電流値の時系列データの時間幅ΔT2、作業工程を判定する判定時間間隔ΔT3、規定時間ΔT4)はいずれも、作業工程判定装置100の入力部110を介して記憶部130に格納しておく。
【0053】
≪学習済みモデルMの生成≫
学習済みモデルMは、例えば、ディープラーニング(Deep Learning)や、ニューラルネットワーク(Neural Network)、サポートベクターマシン(Support Vector Machine:SVM)、ランダムフォレスト(Random Forest)等の各種のアルゴリズムを用いた学習により得られた学習結果であり、作業工程判定装置100の学習済みモデル生成部160にて作成され、記憶部130に格納される。
【0054】
学習済みモデル生成部160は、図5で示すように、学習用データ取得部161と、正解ラベル取得部162と、教師データ作成部163と、機械学習部164とを備え、図6の学習時の部分で示すように、以下の手順で学習済みモデルMを生成する。
【0055】
演算処理部140が学習用データ取得部161の指令を受け、入力部110を介して記憶部130に格納された学習用時系列データD1~D5を取得し、教師データ作成部163に供給する。なお、記憶部130にはあらかじめ、前述した図4(a)~(e)で示す5つの作業工程(装薬穿孔工程、ずり出し工程、吹付工程、鋼製支保工の建込み工程、ロックボルトの打設工程)それぞれの特徴を精度よく反映する学習用時系列データD1~D5を格納しておく。
【0056】
学習用時系列データD1~D5を取得するにあたっては、図4(a)~(e)それぞれに枠囲いしたように、作業工程を開始した直後の立ち上がりデータと、作業開始後であって電流値の推移が安定した状態のデータとを、少なくとも含むようにするとよい。
【0057】
また、演算処理部140が正解ラベル取得部162の指令を受け、入力部110を介して記憶部130に格納された上記の5つの作業工程のうち、学習用時系列データD1~D5各々に対応するいずれか1つの作業工程を正解ラベルとして取得し、教師データ作成部163に供給する。
【0058】
なお、あらかじめ記憶部130に格納しておく上記の5つの作業工程には、学習用時系列データD1~D5の識別情報が付与されており、正解ラベル取得部162は、この識別情報に基づいて、学習用データ取得部161から供給された学習用時系列データD1~D5各々に対応する作業工程を、正解ラベルとして記憶部130から取得する。
【0059】
学習用時系列データD1~D5及びこれら各々に対応する正解ラベルが教師データ作成部163に供給されると、演算処理部140が教師データ作成部163の指令を受け、学習用時系列データD1~D5と、これに対応する作業工程とを紐付けた教師データLを作成する。そして、この教師データLを、機械学習部164及び記憶部130に供給する。
【0060】
教師データLが機械学習部164に供給されると、演算処理部140が機械学習部164の指令を受け、先に例示した機械学習の手法(アルゴリズム)を用いて、教師データLの機械学習を行い、その結果として、学習済みモデルMを作成し、記憶部130に格納する。
【0061】
なお、機械学習を行うにあたり、学習用時系列データD1~D5の特徴を定量的に数値化する方法は、いずれでもよい。例えば、時間軸に沿って等間隔に電流値を並べてベクトルを作成する、もしくは、電流値の時系列データにおける平均や分散、最大値、分位数、歪度などの各種統計量を並べてベクトルを作成する等が検討される。
【0062】
≪1次側の電流測定の開始≫
作業工程判定システム10の作業工程判定装置100において、上記の事前情報の設定及び学習済みモデルMの生成が終了したところで、図1で示すように、配線用遮断器を備えた分電盤32の上流側にある1次側電線33に電流検知装置200を設置し、電流値の測定を開始する。電流検知装置200で測定した電流実測値Atは、作業工程判定装置100の入力部110を介して、測定時間とともに記憶部130に格納される。
【0063】
≪高電流時間帯の検出:Step2≫
1次側の電流測定を開始後、所定の時間が経過したところで、現在の作業工程を判定するべく、高電流時間帯THの検出作業を開始する。なお、高電流時間帯THの検出作業は、作業工程を判定する判定時間間隔ΔT3ごとに実施する。
【0064】
まず、演算処理部140が高電流時間帯検出部141の指令を受け、記憶部130に格納された現在の電流実測値Atを取得する。電流実測値Atが、下限電流値Auを超えている場合には、記憶部130に格納された過去の電流実測値Atを参照し、現在から過去に遡って、下限電流値Auを超えてる期間が最低継続時間ΔT1を超えていることを確認する。
【0065】
現在から過去に遡って、電流実測値Atが下限電流値Auより高く、かつこの数値が最低継続時間ΔT1以上にわたり連続している場合(図3の、現在(時刻N3)の場合)には、現在が高電流時間帯THにあるものと判定する。判定結果は、時刻情報と電流実測値Atに紐づけて記憶部130に格納するとともに、演算処理部140の判定方法選択部142に供給する。
【0066】
また、電流実測値Atが下限電流値Auより高いものの、この数値が最低継続時間ΔT1まで連続していない場合には、次の判定時間が到来するまで判定を保留する。さらに、電流実測値Atが下限電流値Auを下回っている場合であって、この数値の継続時間が現在から過去に遡って規定時間ΔT4を経過していない場合も、次の判定時間が到来するまで判定を保留する。
【0067】
一方、電流実測値Atが下限電流値Auを下回っている場合であって、この数値の継続時間が現在から過去に遡って規定時間ΔT4を経過している場合(例えば、現在が図3の時刻N1の場合)は、現在が低電流時間帯TLにあるものと判定する。つまり、切羽S近傍では、上記の5つの作業工程のいずれも実施されておらず、その他の作業工程にあると判定する。判定結果は時間情報と併せて、記憶部130に格納するとともに、出力部120を介して出力装置300に出力する。
【0068】
出力装置300への出力方法はいずれでもよいが、例えば、図8で示すようなディスプレイ上にタイムテーブルとして出力すると良い。図8で示すディスプレイのタイムテーブルでは、現在の作業工程が「ずり出し工程」である場合を事例としている。したがって、現在が、「その他」の作業工程であると判定された場合には、現在のタイムバーの位置に、「その他」の表示がされることとなる。
【0069】
≪作業工程の種類判定:Step3≫
上記の高電流時間帯THの検出(Step2)において、現在が高電流時間帯THにあると判定されると、演算処理部140が判定方法選択部142の指令を受け、作業工程判定部143に格納された自動判定部150に、高電流時間帯THにあると検知された現在の時刻情報と電流実測値Atを供給する。
【0070】
なお、作業工程判定部143に、自動判定部150とは異なる他の判定方法を実施する機能が含まれている場合(例えば、波形解析等)には、ユーザーが入力部110を介して選択情報を入力することにより、判定方法を選択できるようにしてもよい。
【0071】
本実施の形態では、ユーザーが自動判定を選択した場合を事例としている。このため、演算処理部140が自動判定部150の指令を受け、以下の手順で電流実測値Atを測定した時刻における作業工程の種類を自動判定を行う。
【0072】
まず、演算処理部140が自動判定部150の指令を受け、現在から過去に時間幅ΔT2だけ遡った範囲の電流実測値Atを、記憶部130に格納された格納された電流実測値Atの蓄積情報から切り出し、電流実測値Atの時系列データを作成する。これを、同じく記憶部130に格納された学習済みモデルMに入力し、対応する作業工程が5つの作業工程(装薬穿孔工程、ずり出し工程、吹付工程、支保工の建込み工程、ロックボルトの打設工程)のうちのいずれであるかを判定する。
【0073】
例えば、図3を見ると、高電流時間帯THにある現在(時刻N3)において、電流実測値Atにおける現在から時間幅ΔT2だけ過去に遡った範囲(枠囲いの範囲)が、電流実測値Atの時系列データとして学習済みモデルMに入力される。学習済みモデルMにより自動判定された作業工程の種類は、支保工建て込み工程であり、図8に示す出力装置300のディスプレイに、判定結果がリアルタイムで出力される。
【0074】
上記のような、トンネル施工の建設現場における作業工程の判定作業を、トンネル施工が終了するまで順次、判定時間間隔ΔT3ごとに繰り返す。
【0075】
なお、例えば現在が、図3における時刻N2である場合には、学習済みモデルMに入力される電流実測値Atの時系列データ(枠囲いの範囲)が、低電流時間帯TLを挟んで、過去側と現在側(時刻N2側)とで、特徴の異なる2種類の時系列データが含まれる状態となる。このような場合を想定し、自動判定部150にはあらかじめ、電流実測値Atの時系列データが特徴の異なる2種類の時系列データを含んでいる場合には、現在側(時刻N2側)の時系列データのみを、学習済みモデルMに入力するような、設定をしておくと良い。
【0076】
もしくは、図2で示すようにトンネル施工における作業工程は、その順序が決まっていることから、学習済みモデルMを生成する際に、前述した図4(a)~(e)で示す学習用時系列データD1~D5だけでなく、先行する作業工程の終了時近傍の時系列データと、後行する作業工程の開始時近傍の時系列データとを含んだ学習用時系列データを新たに用意し、教師データLを作成してもよい。この場合の正解ラベルは、後行する作業工程が採用されることとなる。
【0077】
また、学習済みモデルMによる自動判定の結果、現在が高電流時間帯THにあると検知されたにもにもかかわらず、上記の5つの作業工程のいずれにも該当しない結果となった場合は、電流検知装置200が異常電流を感知したものと推測される。したがって、作業工程判定装置100は、出力部120を介して出力装置300に、異常警告を出力する。こうすると、建設現場で機械トラブル等の不測の事態が発生した場合に、これを早期に発見し、迅速に対処を講じることが可能となる。
【0078】
なお、上記の判定結果の出力はいずれもディスプレイ等の出力装置300に限定するものではない。例えば、図1で示すように、現場作業員や施工管理者が携帯する携帯端末301に、同様の情報を提供することができる。こうすると施工管理者は、建設現場を不在にしている場合にも、現在実施されている作業工程を正確に把握できるため、施工管理業務の実施時間を的確に予測して建設現場に赴くことができ、施工管理業務の遅延を防止することが可能となる。
【0079】
また、例えば、作業員が2班に分かれて交代勤務している場合に、待機中の作業班は出力装置300に出力される情報を確認することにより、建設現場で現行の作業班が実施している作業工程の進捗状況を把握できる。したがって、これらの情報を反映させて作業計画の見直しや作業指示書を作成する等の事前準備を実施でき、建設現場における施工性を大幅に向上することが可能となる。
【0080】
本発明の作業工程判定システム及び作業工程判定方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0081】
例えば、本実施の形態では、建設現場としてトンネル施工の建設現場を事例に挙げ、作業工程判定システムおよび作業工程判定方法を説明した。しかし、建設現場はこれに限定するものではなく、電気を動力にして稼働する建設機械を使用して施工する建設現場であれば、いずれの現場でも採用することが可能である。
【0082】
また、本実施の形態では、現在の作業工程を判別する場合を事例に挙げたが、過去に取得した電流実測値Atが蓄積データが存在すれば、この蓄積データを利用して建設現場における過去の作業状況を把握することも可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 作業工程判定システム
100 作業工程判定装置
110 入力部
120 出力部
130 記憶部
140 演算処理部
141 高電流時間帯検出部
142 判定方法選択部
143 作業工程判定部
150 自動判定部
160 学習済みモデル生成部
161 学習用データ取得部
162 正解ラベル取得部
163 教師データ作成部
164 機械学習部
170 画像処理判定部
200 電流検知装置
300 出力装置
301 携帯端末
20 建設機械
21 ドリルジャンボ
22 ホイールローダー
23 コンクリート吹付機
24 エレクター
30 電源設備
31 電源台車
32 分電盤
33 1次側電線
34 2次側電線
T トンネル
S 切羽
At 電流実測値
D1~D5学習用時系列データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8