(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】感熱転写媒体および情報記録体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/382 20060101AFI20240521BHJP
B41J 31/00 20060101ALI20240521BHJP
B41M 5/385 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B41M5/382 700
B41J31/00 C
B41M5/382 300
B41M5/385
(21)【出願番号】P 2020090461
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】浦田 誠子
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-034174(JP,A)
【文献】特開2004-142445(JP,A)
【文献】特開2003-001944(JP,A)
【文献】特開昭63-281887(JP,A)
【文献】特開平10-211768(JP,A)
【文献】実開平05-080793(JP,U)
【文献】特開2018-176663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/035
B41M 5/26- 5/52
B41J 17/00-17/42
B41J 27/00-27/22
B41J 31/00-35/38
B44C 1/16- 1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、複数色の熱転写インクのインクパネルが面順次に塗り分けられて設けられた感熱転写媒体であって、前記インクパネルは、少なくとも、第1のセキュリティ層、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、第2のセキュリティ層、接着層、のインクパネルを有してこの順で塗り分けられ、第1のセキュリティ層および第2のセキュリティ
層が、光輝性インクを含み、かつ染料受容層を含まずに構成された層であることを特徴とする感熱転写媒体。
【請求項2】
第1のセキュリティ層に含まれる光輝性インクと第2のセキュリティ層に含まれる光輝性インクが異なる色相を有していることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写媒体。
【請求項3】
第1のセキュリティ層に含まれる光輝性インクと第2のセキュリティ層に含まれる光輝性インクが同じ色相を有していることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写媒体。
【請求項4】
第1のセキュリティ層および第2のセキュリティ層の少なくとも一方が蛍光剤を含む層であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の感熱転写媒体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の感熱転写媒体を用いて作製され、基材上に、第1のセキュリティ層の熱転写インクが転写されて形成された第1のセキュリティパターン層と、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクパネルから転写された熱転写インクで形成された目視画像層と、第2のセキュリティ層の熱転写インクが転写されて形成された第2のセキュリティパターン層とが順次積層されたパターン層が形成されたとこを特徴とする情報記録体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスポートやIDカードなどに代表される個人認証用の情報記録体を作製するための感熱転写媒体およびそれを用いた情報記録体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、文字や絵柄が種々の方法で印刷された印刷物、特に、パスポートやIDカード等の個人認証媒体はじめ、クレジットカード、通帳などセキュリティ性を求められる情報記録体に、通常の顔写真や文字情報の画像以外に、偽造や改ざんを防止するためのセキュリティ性、本物であることを示す真正性や意匠性を付与するために特殊な視覚効果を有する画像を設けることが行われている。
【0003】
感熱転写媒体と中間転写箔を用いる間接転写記録方式の場合には、中間転写箔の中間層に設けられたホログラムなどに代表される光学的可変素子の効果によって、偽造防止性を発揮するものである。ホログラムなどによって表現される立体画像や色変化などは装飾性も高く、偽造することも難しいという利点がある一方で、一見すると似たような効果を有するものを代用された場合に、目視による真偽判定を実施しようとする際には、真偽判定を行なう専門家でないと判別が難しいという課題もあった。
【0004】
また、カラーデジタル複写機のトナーでは再現できない色を印刷することで、カラーコピー機等での複製を困難にすることも行われている。例えば、緑、紫、橙、金、銀などの特色を印刷することで、複写物の色の再現性が落ちる様にする、さらには、干渉色を有する光源性材料を印刷することで、カラーデジタル複写機での複製をより一層再現し難くする、といった手法が知られている。
【0005】
あるいはまた、通常の環境下では不可視な蛍光インキ(紫外線領域の光を照射すると可視光領域の光を発光する)を用い、通常の環境下での目視では何も見えないところに特定波長の光を照射することで発色する様にしたり、特殊インキを用いて、対応する検証機認証する様にしたりすることで真贋判定をする方法もある。
【0006】
例えば特許文献1には、感熱間接転写方式のプリンタに用いる特殊なインクリボンとして、次のような特徴を持つインクリボンが開示されている。すなわち、プライマパネルを有するインクリボンにおいて、2層構成のプライマ層の間にセキュリティ層がパターン印刷されている。印字すると色層(YMCK)よりも基材側(表側からみて下層)のカード全面にセキュリティ文字がパールで印刷されているように見える記録媒体が得られる。
【0007】
上記の様な各手法は、共通のセキュリティパターンを形成するのに適しているが、個別のセキュリティ情報をオンデマンドで形成することができないため、使用されているカードなどの情報記録体が本物であるかどうかの識別には良いが、発行されたカードの表示内容が本物かどうかを判別できるようにするためには、カード1枚毎に印刷版を作成する必要があるなど、現実的でなかった。また手法によってはユーザーが特別な検証機を導入しなくてはならないため、負担が大きいという問題点があった。
【0008】
情報の偽造、改竄はますます巧妙になっており、新規のセキュリティ機能の付与が常に求められている。特に、重要な個人情報である顔画像部分は、顔写真が印字されている転写箔に対して上側または下側から転写フィルムを剥がすなどして偽変造されことが多く、新たな偽造防止対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの問題点を踏まえてなされたもので、個々の情報記録体に印字されている情報が真正であるかどうかの真贋判定が可能で、かつ、不正行為の痕跡を残さずに改竄することが困難で、偽造や改竄の誘因となりにくい記録が行える間接転写記録方式に適した感熱転写媒体、およびそれを用いた情報記録体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一側面は、
支持体上に、複数色の熱転写インクのインクパネルが面順次に塗り分けられて設けられた感熱転写媒体であって、前記インクパネルは、少なくとも、第1のセキュリティ層、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、第2のセキュリティ層、接着層、のインクパネルを有してこの順で塗り分けられ、第1のセキュリティ層および第2のセキュリティ層が、光輝性インクを含み、かつ染料受容層を含まずに構成された層であることを特徴とする感熱転写媒体である。
【0012】
上記感熱転写媒体において、第1のセキュリティ層に含まれる光輝性インクと第2のセキュリティ層に含まれる光輝性インクが異なる色相を有していて良い。
【0013】
上記感熱転写媒体において、第1のセキュリティ層に含まれる光輝性インクと第2のセキュリティ層に含まれる光輝性インクが同じ色相を有していて良い。
【0014】
上記感熱転写媒体において、第1のセキュリティ層および第2のセキュリティ層の少なくとも一方が蛍光剤を含む層であって良い。
【0015】
また、本発明の別の側面は、
上記の感熱転写媒体を用いて作製され、基材上に、第1のセキュリティ層の熱転写インクが転写されて形成された第1のセキュリティパターン層と、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクパネルから転写された熱転写インクで形成された目視画像層と、第2のセキュリティ層の熱転写インクが転写されて形成された第2のセキュリティパターン層とが順次積層されたパターン層が形成されたことを特徴とする情報記録体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の感熱転写媒体によれば、光輝性インキを用いたパターンを個人情報等の色材層の上下から挟むように形成できるため、情報を改竄しようとする表裏面からのアタックを共に防ぐことが可能となり、改竄が困難でセキュリティ性の高い個人認証媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の感熱転写媒体の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明の情報記録体を形成するプリンタの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の情穀記録体の一形態を示す模式図である。
【
図4】本発明の情報記録体の一形態をX-X’で切断した断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態の情報記録体を傾けた時と紫外線を照射した時の潜像の変化の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0019】
図1は、本発明の感熱転写媒体の一実施形態の外観模式図である。感熱転写媒体1は、支持体2上に長手方向に複数の熱転写インクパネルが面順次に塗り分けられて形成された態様である。熱転写インクパネルは光輝性インクAを含む第1のセキュリティインクパネルPS1と、ブラックK、シアンC、マゼンタM、イエローYの4色のカラーインクパネルと、光輝性インクBを含む第2のセキュリティインクパネルPS2と、接着層パネル3から形成されている。すなわち、通常の目視画像の色材層となるK、C、M、Yのインクパネルの両側にセキュリティインクパネルPS1およびPS2が配置される。各パネルの大きさは、最終的に記録を行う情報記録体の記録サイズの仕様に合わせるなどして適宜設定できる。また必要に応じセンサマークMを設けても良い。また、支持体2の各インクパネルと反対面側に、耐熱層、滑性層などのバックコート層(図示せず)を設けても良い。
【0020】
この様な構成の感熱転写媒体によれば、間接転写記録装置により、中間転写媒体にまず第1のセキュリティインクパネルPS1から任意のパターンを転写し、その上にブラックK、シアンC、マゼンタM、イエローYの4色のカラーインクによるカラー画像を形成し、その上に第2のセキュリティインクパネルPS2から任意のパターンを転写することが容易に行える。すなわち、カラー画像がその上層側と下層側の両方からセキュリティインク層で挟まれた態様とすることが容易に行える。さらに接着層を転写することで、被転写体への転写が確実に行えるようにすることができる。
【0021】
光輝性インクAおよび光輝性インクBは、特に制限はなく既存の光輝性顔料をバインダー樹脂などに分散するなどしたものから適宜選択して使用することができる。なお、光輝性インクAおよび光輝性インクBは異なる種類のものでも、同一の種類のものでも良い。また使用する光輝性顔料は、異なる種類のものでも、同一の種類のものでも良い。用途に応じて選択すれば良く、同一の色とすることで、見た目には1つしかセキュリティが入っていないと錯覚させることができる。また異なった色とすることで見る角度により色が変わっていくなど、より複雑な見え方にすることもできる。
【0022】
光輝性顔料は、例えば合成マイカを核とし、酸化チタンや酸化ケイ素を被覆し、対象物に対して視野角度を変えた時に色を発現する顔料である。例えば所定の膜厚の酸化チタンが設けてあれば、傾けると構造色の緑色を呈する。また光輝性顔料は、上記の例に限定されず、用途に応じて、傾けた際に赤色や青色などの他色を呈する膜厚の酸化チタンを用いても良い。また、さらに外側に酸化鉄を被覆して赤褐色から特定色に変化するようにしたものも使用できる。酸化チタンや酸化ケイ素の被覆厚みと被覆した材料の屈折率によって構造色効果を出すため、傾けた時に反射光の波長の長さに応じた色を呈する。言い換えると、必要な色の波長に応じた光路長となるように、被覆量をコントロールして設計すればよい。
【0023】
上記の様に、光輝性顔料を含むインクにより形成されたパターンは、通常の視認条件では見えず、所定の角度に傾けたときに見える様にすることができるため、これを潜像として利用することができ、偽造や改竄を抑制する効果が得られ、また改竄されたことが発見しやすくなるためセキュリティ機能として利用できる。またインクリボンであるためサーマルヘッドで任意の形状の個別パターンを容易に形成でき、セキュリティ性がより高まる。
【0024】
また、セキュリティインクパネルPS1とセキュリティインクパネルPS2の少なくとも一方に蛍光剤を含ませることができ、例えばセキュリティインクパネルPS1は紫外線を照射するとエネルギー励起をして赤色発光する蛍光剤を含有し、セキュリティインクパネルPS2は紫外線を照射するとエネルギー励起をして青色発光をする蛍光剤を含有する、などとすることができるが、これに限定されるものではなく、可視光下では不可視即ち白色または透明で、紫外光などの特殊光を照射した際に、可視光領域の光を発光する発光材料であればいずれも用いることができる。
【0025】
セキュリティインクパネルPS1とセキュリティインクパネルPS2に用いる蛍光剤は、可視光下では、不可視即ち白色または透明で、紫外線などの特殊光を照射した際に、可視光領域の光を発光する発光材料であればいずれも用いることができる。セキュリティインクパネルPS1とセキュリティインクパネルPS2に用いる蛍光剤は、同一のものでも、互いに異なるものでも良い。互いに異なるものとすると、転写後に異なる色相の発光が重なって見え、より複雑な発光パターンを形成でき、またグラデーションの様な効果を実現できる。蛍光剤を含むことにより紫外線を照射したときのみに特別な色の発光が見られるため、偽造や改竄を発見しやすく、光輝性顔料と合わせ用いることでセキュリティ性はさらに高まる。
【0026】
各インクパネルに用いられるバインダー樹脂としては、実質的に透明な熱可塑性樹脂であれば、いずれも用いることができ、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、ロジン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、また各熱可塑性樹脂を単独あるいは混合物、更には共重合物などの複合物として用いることができる。
【0027】
接着層パネル3に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などビニル系樹脂、塩素化ポリオレフィン、エチレン-アクリル共重合体、エポキシ系樹脂、ロジン系樹脂などを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものでなく、またこのような熱可塑性樹脂は、単独あるいは2つ以上の混合物または複合物として用いることができる。また、状況に応じて、無機系フィラー類、有機系フィラー類などの他に、ワックス類などが添加されても良い。
【0028】
図2は、本発明の感熱転写媒体を使用して情報記録体を作成する接転写記録装置の例の概略ブロック図である。本発明の情報記録体は、上述の様な感熱転写媒体を使用して熱転写プリンタにより作製することができる。
図2は熱転写プリンタを間接転写方式のプリンタで構成した例である。間接転写記録装置100において、感熱転写媒体1は、巻出しロール4から巻き出され、中間転写フィルム7への熱転写プリントを行う一次転写部101のサーマルヘッド6とプラテンローラ11の間を通過して巻取りロール5に巻き取られる。また、基材上に少なくともオーバーレイ層が剥離可能に設けられた中間転写フィルム7が、巻出しロール8から巻き出され、一次転写部101のサーマルヘッド6プラテンローラ11の間を通過して、被転写体12に熱圧転写を行う二次転写部102でヒートローラ10とプラテンローラ11の間を通過して巻取りロール9に巻き取られる。ここでオーバーレイ層は感熱転写媒体の熱転写インクの受像層ともなる層である。
【0029】
一次転写部101においては、感熱転写媒体1から中間転写フィルム7の受像層ともなるオーバーレイ層上に、第1のセキュリティインクパネルPS1から光輝性インクAを含む所定のパターンが転写され、次いでその光輝性インクAを含む所定のパターンに重ねてブラックK、シアンC、マゼンタM、イエローYの4色のインクパネルからカラー画像や文字等のパターンが転写され、さらに第2のセキュリティインクパネルPS2から光輝性インクBを含む所定のパターンが重畳転写される。すなわち、カラー画像や文字等のパターンが光輝性インクAを含む所定のパターンと光輝性インクBを含む所定のパターンの間に挟まれた状態となる。ただし、カラー画像や文字等のパターンの一部が光輝性インクAを含む所定のパターンと光輝性インクBを含む所定のパターンの間に挟まれない部位に転写されても良い。またカラー画像のパターンには、一部の色、例えばブラックを含まない場合もあることは言うまでもない。次いで接着層パネル3がカード等の被転写体12に転写される領域全体にわたってさらに重畳転写される。
【0030】
各パターンが形成された中間転写フィルム7は二次転写部102に搬送され、ヒートローラ10により被転写体12に熱圧着されることで、一次転写部101で形成された各パターンがオーバーレイ層と共に被転写体12に転写される。カラー画像や文字等のパターン、光輝性インクA、光輝性インクBのパターンのいずれも、サーマルヘッド6を適宜制御することで任意のパターンとすることができ、任意の個別情報を中間転写フィルム7に、そして被転写体12に形成することができる。
【0031】
図3は、上記の様にして各画像パターンおよび光輝性インクのパターンが形成された本発明の情報記録体の一実施形態の平面図である。情報記録体13は、典型的にはIDカードなどのカード状であるが、シート状、冊子状であっても良く、平坦な記録面を持つ記録体であれば特に制限はない。情報記録体13には、シアンC、マゼンタM、イエローYの3色のインクパネルから転写されて形成された顔写真画像のパターンを、第1のセキュリティインクパネルPS1から転写された光輝性インクAを含む第1のセキュリティ層S1のパターンと第2のセキュリティインクパネルPS2から転写された光輝性インクBを含む第2のセキュリティ層S2のパターンで挟んだカラー画像14と、ブラックKのインクパネルから転写されて形成された文字15が形成されている。
【0032】
各画像パターンが形成された情報記録体を線分X-X´で切断したときの断面を
図4に例示する。情報記録体13は、被転写体12が基材となり、その表面に、オーバーレイ層16にシアンC,マゼンタM,イエローYのインクによる顔写真画像(CMYで示す)のパターンが光輝性インクAを含む第1のセキュリティ層S1による所定のパターンと光輝性インクBを含む第2のセキュリティ層S2による所定のパターンの間に挟まれたカラー画像14と、ブラックKのインクパネルから転写されて形成された文字15と、接着層パネル3が重畳転写された態様となっている。
【0033】
この様に複雑な層構成自体、再現することは容易ではなく、贋造、偽造、変造を抑止する効果がある。また特に重要な個人情報である顔写真画像の改竄防止に有効であり、表面側(図の上側)から改竄しようとすると第1のセキュリティ層S1のパターンが、裏面側(図の下側)から改竄しようとすると第2のセキュリティ層S2のパターンがダメージを受けるため、どちらの側から改竄が試みられた場合でもその痕跡が残り、改竄されたことが容易に発見でき、また改竄や変造を未然に防ぐ効果がある。各セキュリティ層は、必要であれば文字15の部分にも設けることができるため、文字15の部分を同様に保護することもできる。
【0034】
さらに第1のセキュリティ層S1または第2のセキュリティ層S2またはその両方に蛍光剤を含有させると、組合せによりさらに複雑な発色・発光パターンが得られる。そのとき使用する蛍光剤の種類を変え、さらに各セキュリティ層の印字領域をずらすことと組み合わせると、部分的にセキュリティ層の重なりを作り、紫外線照射時に3色の色領域を作り出すこともできる。
【0035】
第1のセキュリティ層S1のパターンおよび第2のセキュリティ層S2のパターンの形状、大きさおよび設ける位置はそれぞれ任意に設定でき、あえてカラー画像の一部のみに係る様に設けたり、互いに大きさを変えたり、位置をずらして設けたりしても良い。またそれぞれのパターン中にID番号や氏名などの各種個人情報を盛り込むこともでき、個人情報を暗号化して盛り込むとさらにセキュリティ性が高まる。
図3の例では第2のセキュリティ層S2のパターンをより大きなパターンとしている。この様にした場合の効果を、
図6を用いてより具体的に説明する。
【0036】
図6はカラー画像14の部位を拡大した図である。この部位では第1のセキュリティ層S1のパターン、シアンC,マゼンタM,イエローYのインクによる顔写真画像(CMYで示す)および第2のセキュリティ層S2のパターンが視認方向から見たとき重なっており、しかもそれぞれの大きさが異なっている。そのため、視認方向から目視すると、領域Aでは顔写真画像CMYの上に第1のセキュリティ層S1のパターンが重なり、領域Bでは第1のセキュリティ層S1のパターンと第2のセキュリティ層S2のパターンが重なり、領域Cでは第2のセキュリティ層S2のパターンのみとなっている。そのためこの情報記録体を視認するときの角度を変えたり、紫外線を照射したりすることでカラー画像14の部分の見え方が変わってくる。
【0037】
情報記録体13を所定の角度傾けたときの光輝性顔料の効果としては、領域Aでは、顔写真画像のある部分では顔写真画像と第1のセキュリティ層S1の構造色が重なって見え、領域Aの顔写真画像のない部分および領域Bでは、第1のセキュリティ層S1の構造色と第2のセキュリティ層S2の構造色が傾ける角度により単独で、または重なって見える。領域Cでは、第2のセキュリティ層S2の構造色が見える態様となる。
【0038】
図4に例示した情報記録体13を、ほぼ正面から見たのが
図5の上段の図である。このとき、第1のセキュリティ層S1および第2のセキュリティ層S2の光輝性インクのパターンは見えず、そのパターンは潜像の状態であり、顔写真画像が通常の状態で見える。
【0039】
この情報記録体13を
図5の中段の図の様に傾けた状態で見ると、光輝性インクのパターンを設けた領域では、前述のように傾ける角度に応じて第1のセキュリティ層S1の構造色や第2のセキュリティ層S2の構造色が発現して見える様になる。従って、正面から見る状態と傾けて見る状態を切り替えることで、それぞれの色のパターンが見えたり見えなくなったりするため、真正性を判定するセキュリティ機能として利用することができる。このとき光輝性インクのパターンは、例えば名前、ID番号等の任意の個別情報のパターンとすることができるのは前述のとおりである。
【0040】
また、第1のセキュリティ層S1および第2のセキュリティ層S2に蛍光剤を含有させた場合の例が
図5の下段の図である。紫外線光源17から紫外線を照射すると、蛍光剤を含有させた領域では蛍光を発する。例えば第1のセキュリティ層S1に赤色に発行する蛍光剤を含有させ、第2のセキュリティ層S2には青色に発光する蛍光剤を含有させると、紫外線を照射したときに、第1のセキュリティ層S1のみの部分は赤色に発光し(領域A)、第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2が重なっている部分は赤色と青色の光の混合するため、マゼンタ色に発光し(領域B)、第2のセキュリティ層S2のみの部分は青色に発光し(領域C)、全体に3色の色変化領域を形成できる。
【0041】
第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2で施した潜像があることは情報記録体の傾きを変えて色変化を起すことで確認できるが、蛍光剤の効果は紫外線を照射するまで気づかれない。一般にセキュリティ機能は、その機能が設けられていること自体が分からないほうがセキュリティ性を高いとされるため、セキュリティをより高める効果がある。
【0042】
以上説明したように、本発明によると、下記の効果がある。
・構造色を有する光輝性インキを用いた感熱転写媒体(インクリボン)とすることで、オンデマンドに個人情報(文字、画像、記号、図形など)を作製することができ、情報記録体を傾けるだけで、光学変化を伴う個人情報の確認ができる。また改竄された場合にその痕跡が残るため、容易かつ迅速に偽変造、改竄の判定が可能になる。更に蛍光剤を含む光輝性インキを用いた感熱転写媒体(インクリボン)にすることで、リボン作製の難易度が上がる。可視光下の認証だけでなく、紫外光下での個人情報の確認もでき、2段階のセキュリティを付与することができる。
・セキュリティ層に光輝性顔料を用いることで、カラーデジタル複写機やインクジェットでの複製がしにくくなる。
・第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2に使用する光輝性顔料を同色とすることで、可視光下で情報記録体を傾けて目視確認を行う際に、セキュリティパターンが1つのパターンとして認識できる。
・第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2に使用する蛍光剤を可視光下で無色、紫外線光下で異色に発光する材料を選択することで、可視光下では一見すると1つのセキュリティパターン(同色のため、セキュリティ層が1つの様に見える)となるが、紫外線を照射すると、多色に発光し、2段階のセキュリティ機能を持たせることができる。
・第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2を意図的にずらして印字することで、上側から視認すると、可視光下では1色の光輝性顔料の色変化となるが、紫外光下では3色の色変化領域を形成することができ、より複雑なセキュリティを施すことができる。
【実施例】
【0043】
(感熱転写媒体の作製)
支持体である厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面に、蛍光剤Aと光輝性顔料Aを含むセキュリティインク1を用いて作製したセキュリティインクパネルPS1、ブラックK、シアンC、マゼンタM、イエローYの各色素を含むカラーインクパネル、蛍光剤Bと光輝性顔料Aを含むセキュリティインキ2を用いて作製したセキュリティインクパネルPS2、接着層パネル、をグラビアコーターにより、順次形成し、カラーインクパネルの厚みが1.0μm、セキュリティインクパネルPS1およびPS2の厚みが1.2μm、接着パネルが1.2μmとし、熱転写媒体とした。
なお、光輝性顔料Aは、合成マイカ(合成ガラス)を核とし、酸化チタン(TiO2)を被覆したもので、傾けた時に緑色を呈する。
また、蛍光剤Aは、紫外線を照射すると赤色に発光する顔料であり、蛍光剤Bは紫外線を照射すると青色に発光する顔料である。
【0044】
[シアンインクの組成]
シアン顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[マゼンタインクの組成]
マゼンタ顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[イエローインクの組成]
イエロー顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[ブラックインクの組成]
カーボンブラック顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
【0045】
[セキュリティインク1の組成]
光輝性顔料A 5重量部
蛍光剤A 3重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[セキュリティインク2の組成]
光輝性顔料A 5重量部
蛍光剤B 3重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
【0046】
(中間転写媒体の作製)
12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面に、オーバーレイ層としてエポキシ系樹脂をグラビアコーターにより、厚み0.8μmに形成し、中間転写媒体1を得た。
[オーバーレイ層のインク組成]
jER1003(三菱ケミカル株式会社) 20重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
【0047】
(印画試験)
上記の中間転写媒体と感熱転写媒体とをカードプリンタCP500(凸版印刷株式会社製)に装着し、塩ビカードを被転写体として
図3に示す例と同様のレイアウトで印画した情報記録体を作成した。
その結果は下記の通りであった。
・画像パターン
感熱転写媒体とすることで、オンデマンドで任意の画像、文字、図形などを形成できた。
・可視光下での認証
カードを傾けることで、セキュリティインク1とセキュリティインク2の光輝性顔料を同色とすることで、1つの画像として、無色から緑色へ色変化が確認できた。
・紫外線下での認証
紫外線照射を行ったところ、セキュリティインク1のみの部分は赤色に発光し(領域A)、セキュリティインク1とセキュリティインク2が重なっている部分は赤色と青色の光の混合するため、マゼンタ色に発光し(領域B)、セキュリティインク2のみの部分は青色に発光し(領域C)、全体で色変化領域が確認できた。
【0048】
光輝性顔料による潜像があることは情報記録体の傾きを変えて色変化を起すことで確認できたが、蛍光剤からなる潜像があることは情報記録体に紫外線を照射するまで発見できなかった。
【0049】
(改竄試験)
・上側からのアタック
オーバーレイ層側からカラー画像14に相当する部分を引っかき、変造を試みた。顔写真画像を改竄したところ第1のセキュリティ層S1の破壊が確認され、痕跡が残った。
・下側からのアタック
特殊な溶剤を用いて、情報記録体からプリンタにより転写された層全体を剥がし、接着層側から顔写真画像を変造した。顔写真画像を改竄したところ第2のセキュリティ層S2の破壊が確認され、痕跡が残った。その際に情報記録体の基材であるカードにあるプレ印刷には変化がなく、第2のセキュリティ層S2の偽造の痕跡があることで初めて改竄されたことが分かり、セキュリティ性を強化していることが確認された。
【0050】
様々な部分からの改竄、変造を試みた場合、その痕跡を容易に発見することができ、第1のセキュリティ層S1と第2のセキュリティ層S2で個人情報を含む画像を挟み込むことが効果的であることが確認された。また、各セキュリティ層に搭載された効果が異なるため、より複雑な偽造防止効果を発揮できた。
【符号の説明】
【0051】
1・・・感熱転写媒体
2・・・支持体
PS1・・・第1のセキュリティインクパネル
PS2・・・第2のセキュリティインクパネル
K・・・ブラック
C・・・シアン
M・・・マゼンタ
Y・・・イエロー
3・・・接着層パネル
4・・・巻き出しロール
5・・・巻き取りロール
6・・・サーマルヘッド
7・・・中間転写箔
8・・・巻き出しロール
9・・・巻き取り部ロール
10・・・ヒートローラ
11・・・プラテンローラ
12・・・被転写体
13・・・情報記録体
14・・・カラー画像
CMY・・・顔写真画像
S1・・・第1のセキュリティ層
S2・・・第2のセキュリティ層
15・・・文字
16・・・オーバーレイ層
17・・・紫外線光源