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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】通気部品
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240521BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20240521BHJP
   F02M 35/12 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G10K11/16 110
G10K11/172
F02M35/12 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020095478
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021189334
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍介
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-256834(JP,A)
【文献】特開平08-152890(JP,A)
【文献】特開2001-306080(JP,A)
【文献】特開2018-178904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
G10K 11/172
F02M 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含んで通気性を持つ内層と、前記内層の外周側に設けられて弾性を持つ外層とを有する壁部を、周壁の少なくとも一部に備えた通気部品であって、
前記壁部は、前記内層を質量部とし且つ前記外層をばね部としたときの振動系の固有振動数が、部分的に変化し
前記内層は、全体が筒状に一体成型された構成になっていることを特徴とする通気部品。
【請求項2】
前記外層は、繊維を含んで通気性を持ち、部分的に厚さが変化していることを特徴とする請求項1に記載の通気部品。
【請求項3】
前記内層は、前記外層よりも密度が大きいことを特徴とする請求項2に記載の通気部品。
【請求項4】
前記外層は、通気性を持つ通気部と、通気性を持たない非通気部とを備え、
前記通気部は、前記周壁の内部を流れる空気の音波の定在波の腹となる位置と対応するように配置されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の通気部品。
【請求項5】
前記外層は、全体が筒状に一体成型された構成になっていることを特徴とする請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の通気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関の吸気ダクトなどに用いられる通気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の通気部品に用いられる吸音材として、例えば特許文献1に示すものが知られている。こうした吸音材は、内側に配置された繊維からなる高密度層と、高密度層の外側に配置された低密度層とを備えた積層構造体によって構成されている。この積層構造体は、高密度層を質量部、低密度層をばね部としたマス-ばね系を形成することで、音のエネルギーを減衰させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-152890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の吸音材では、減衰させる狙いの周波数の音波をマス-ばね系で調整しているが、減衰させることができる周波数の音波が単一である。このため、複数の周波数の音波を減衰させることができないので、消音性能を向上する上では改善の余地を残すものとなっている。本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされた。その目的は、壁部の消音性能を効果的に向上できる通気部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する通気部品は、繊維を含んで通気性を持つ内層と、前記内層の外周側に設けられて弾性を持つ外層とを有する壁部を、周壁の少なくとも一部に備えた通気部品であって、前記壁部は、前記内層を質量部とし且つ前記外層をばね部としたときの振動系の固有振動数が、部分的に変化していることを要旨とする。
【0006】
この構成によれば、壁部が複数の固有振動数を持っているので、複数の周波数の音波を共振させて効果的に減衰させることができる。したがって、壁部の消音性能を効果的に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態の吸気ダクトの一部を示す断面図。
図2】変更例の吸気ダクトの要部拡大断面図。
図3】変更例の吸気ダクトの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、通気部品を内燃機関の吸気ダクトに具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、通気部品の一例としての吸気ダクト11は、略円筒状をなしている。吸気ダクト11は、円筒状の周壁12の少なくとも一部が繊維を含む壁部13によって構成されている。本実施形態の周壁12は、全部が壁部13によって構成されている。本実施形態の壁部13は、熱圧縮成型された不織布によって構成されている。
【0009】
壁部13は、周壁12における内周側に位置する円筒状の内層14と、内層14の外周側に設けられて弾性を持つ円筒状の外層15とを有している。内層14及び外層15は、共に繊維を含んで通気性を持っている。内層14の通気度は、外層15の通気度よりも低くなっている。内層14と外層15とは、内層14及び外層15をそれぞれ構成する不織布の繊維同士をニードルパンチによって絡め合わせることによって接合されている。
【0010】
したがって、内層14と外層15とは、接着剤を使用せずに接合されているため、内層14と外層15との境界部分16は、通気性を持っている。この場合、境界部分16の通気度は、内層14の通気度以上になっている。また、内層14の厚さは、外層15の厚さよりも薄くなっている。すなわち、内層14の圧縮率は、外層15の圧縮率よりも高くなっている。つまり、内層14は、外層15よりも密度が大きくなっている。
【0011】
壁部13は、内層14を質量部とし且つ外層15をばね部とした振動系である1自由度のマス-ばね系を形成している。壁部13は、外層15の厚さを部分的に変化させることで、マス-ばね系の固有振動数を部分的に変化させている。一般に、マス-ばね系の固有振動数は、質量部(内層14の通気度)及びばね部のばね定数(外層15の厚さ)のうち少なくとも一方を変化させることで変化する。
【0012】
本実施形態の壁部13は、内層14の厚さを一定にし、外層15の厚さを部分的に変化させてマス-ばね系のばね部のばね定数を部分的に変化させることで、マス-ばね系の固有振動数を部分的に変化させている。すなわち、本実施形態の壁部13は、内層14の厚さが一定であり、外層15の厚さが三段階で変化している。
【0013】
外層15は、径方向の厚さが最も薄い第1肉厚部17と、第1肉厚部17に隣接して第1肉厚部17よりも径方向の厚さが厚い第2肉厚部18と、第2肉厚部18に隣接して第2肉厚部18よりも径方向の厚さが厚い第3肉厚部19とを有している。このため、第1肉厚部17と第2肉厚部18との間には段差が形成され、第2肉厚部18と第3肉厚部19との間にも段差が形成される。
【0014】
したがって、第1肉厚部17のばね定数と、第2肉厚部18のばね定数と、第3肉厚部19のばね定数とは互いに異なる。よって、壁部13においては、第1肉厚部17と対応する部分である第1壁部20の固有振動数と、第2肉厚部18と対応する部分である第2壁部21の固有振動数と、第3肉厚部19と対応する部分である第3壁部22の固有振動数とが互いに異なる。
【0015】
次に、吸気ダクト11の作用について説明する。
さて、吸気ダクト11の周壁12を構成する壁部13の内部に吸気(空気)が流れると、吸気によって様々な周波数(振動数)の音波が発生する。この発生した音波のうち、周波数が第1壁部20の固有振動数と同じ音波は第1壁部20と共振することで効率よく減衰され、周波数が第2壁部21の固有振動数と同じ音波は第2壁部21と共振することで効率よく減衰され、周波数が第3壁部22の固有振動数と同じ音波は第3壁部22と共振することで効率よく減衰される。
【0016】
このように、吸気ダクト11の壁部13は複数(本例では3つ)の固有振動数を持っているので、複数(本例では3つ)の周波数の音波がそれぞれ第1壁部20、第2壁部21、及び第3壁部22と共振して効果的に減衰される。したがって、壁部13の内部を流れる吸気によって発生する騒音レベルが効果的に低減される。
【0017】
加えて、壁部13の内部を流れる吸気の音波の圧力は、一部が通気性を持つ壁部13の外層15を通過する際に外層15を構成する繊維を振動させることによって熱エネルギーに変換されて減衰される。このため、吸気の音波の定在波の発生が抑制されるので、吸気の流れによって発生する騒音が低減される。したがって、壁部13内を流れる吸気による騒音の発生及び壁部13外へ放出される放射音が低減される。
【0018】
また、壁部13は通気性を持っているため、壁部13の外部の空気は壁部13の内部に進入しようとする。しかしながら、本実施形態の吸気ダクト11では、壁部13における内層14は外層15よりも通気度が低いため、壁部13の外部の空気の壁部13の内部への進入が内層14によって効果的に抑制される。つまり、内層14は、周壁12を構成する壁部13の通気をコントロールしている。このため、壁部13の内部を流れる吸気が壁部13の外部から壁部13の内部に進入する空気の悪影響を受け難くなるので、壁部13の内部を流れる吸気の圧力損失が低減される。
【0019】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)吸気ダクト11は、繊維を含んで通気性を持つ内層14と、内層14の外周側に設けられて弾性を持つ外層15とを有する壁部13を、周壁12の少なくとも一部に備える。壁部13は、内層14を質量部とし且つ外層15をばね部としたときの振動系の固有振動数が、部分的に変化している。この構成によれば、壁部13が複数の固有振動数を持っているので、吸気ダクト11内を流れる吸気の複数の周波数の音波を共振させて効果的に減衰させることができる。したがって、壁部13の消音性能を効果的に向上できる。また、壁部13に持たせる固有振動数を適宜調整することで、所望の周波数(例えば、1000Hz~500Hz以下の比較的低い周波数)の音波を狙って減衰させることもできる。
【0020】
(2)吸気ダクト11において、外層15は、繊維を含んで通気性を持ち、部分的に厚さが変化している。この構成によれば、外層15の厚さを部分的に変化させるだけで、外層15のばね定数を部分的に変化させることができる。したがって、壁部13の固有振動数を容易に部分的に変化させることができる。
【0021】
(3)吸気ダクト11において、内層14は外層15よりも密度が大きくなっている。この構成によれば、内層14の内面が滑らかになるので、内層14(壁部13)の内側を流れる吸気の圧力損失を低減できる。
【0022】
(4)吸気ダクト11において、内層14と外層15とは、ニードルパンチによって内層14及び外層15の繊維同士を絡め合わせることによって接合されている。この構成によれば、内層14と外層15とを接合するための接着剤などの材料を別途用意することなく、内層14と外層15とを接合できる。
【0023】
(5)吸気ダクト11は、周壁12全体が通気性を持つ不織布からなる壁部13によって構成されている。この構成によれば、周壁12全体が通気性を持たない硬質の合成樹脂によって構成される場合に比べて、吸気ダクト11を軽くすることができる。
【0024】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0025】
図2に示すように、吸気ダクト11において、外層15は、通気性を有する通気部25と、通気性を有さない非通気部26とを備え、通気部25は、周壁12の内部を流れる吸気の音波の定在波の腹となる位置と対応するように配置されていてもよい。この場合、外層15には、部分的に圧縮率を変えることによって通気性を有する通気部25と、通気性を有さない非通気部26とが設けられる。つまり、外層15における径方向の厚さの薄い高圧縮部が非通気部26となり、外層15における径方向の厚さの厚い低圧縮部が通気部25となる。さらにこの場合、通気部25は、周壁12の内部を流れる吸気の音波の定在波のうち一次の定在波W1の腹と対応する位置A及び二次の定在波W2の腹と対応する位置Bに配置されている。
【0026】
このように構成すれば、周壁12の内部を流れる吸気の複数の周波数の音波のそれぞれの音圧が最も高くなる位置A,Bに通気部25が配置され、且つ通気部25以外の位置に非通気部26が配置される。このため、周壁12全体として、周壁12の内部から外部へ放出される放射音を低減でき、且つ周壁12の外部から周壁12の内部に進入する空気を低減して周壁12の内部を流れる吸気の圧力損失を低減できる。この場合、周壁12の外周面には通気部25と非通気部26とによって段差が形成されるので、周壁12の面剛性が向上する。このため、音波による周壁12の揺れが抑えられるので、周壁12の内部から外部へ放出される放射音の低減に対してより有利となる。
【0027】
図3に示すように、吸気ダクト11において、外層15に、通気性をほとんど持たない高圧縮部27と、高圧縮部27よりも低い圧縮率で圧縮成形されて通気性を持つ低圧縮部28とを設け、低圧縮部28を外層15の軸線方向(図3では左右方向)の全体にわたって連続して延びるように配置してもよい。通常、吸気ダクト11においては、吸気の音波の定在波の腹となる位置、すなわち定在波の音圧が最も高くなる位置に通気性を持つ低圧縮部28が存在すれば、吸気の音波の圧力を、低圧縮部28を通じて外部に逃がすことで当該定在波の発生を効果的に抑制できる。この点、この構成によれば、外層15にその軸線方向の全体にわたって連続して延びるように低圧縮部28が形成されているため、吸気ダクト11の内部に発生し得る様々な周波数の音波の定在波の腹となる位置に低圧縮部28が存在することになる。したがって、幅広い周波数の吸気騒音を低減できる。
【0028】
・外層15の厚さを一定にし、内層14の通気度を部分的に変化させることによって、壁部13の固有振動数を部分的に変化させるようにしてもよい。この場合、内層14は、例えば、部分的にバインダーの配合を変化させることによって、通気度を部分的に変化させるようにしてもよい。
【0029】
・外層15は、グラスウールやウレタンなどの発泡成形によって、互いに厚さの異なる第1肉厚部17、第2肉厚部18、及び第3肉厚部19の密度が同じになるように構成してもよい。
【0030】
・外層15は、必ずしも通気性を持つ必要はない。すなわち、外層15は、通気性を持っていなくてもよい。
・外層15の径方向の厚さは、第1肉厚部17、第2肉厚部18、及び第3肉厚部19の三段階で変化させるようにしたが、二段階で変化させるようにしてもよいし、四段階以上で変化させるようにしてもよい。
【0031】
・吸気ダクト11は、必ずしも周壁12全体が壁部13によって構成されている必要はない。すなわち、周壁12の一部を壁部13によって構成してもよい。
・吸気ダクト11において、内層14は、必ずしも外層15よりも密度が大きくなっている必要はない。すなわち、内層14は、外層15と同じ密度であってもよいし、外層15よりも密度が小さくてもよい。
【0032】
・吸気ダクト11において、外層15の外周面に撥水剤を塗布するようにしてもよい。すなわち、外層15の外周面に例えばフッ素コーティングなどを施して撥水性を持たせてもよい。この場合、撥水剤は、外層15の通気性が維持されるように、外層15の外周面に塗布することが好ましい。
【0033】
・吸気ダクト11は、円筒形状に限らず、四角筒形状や六角筒形状などの多角筒形状であってもよいし、楕円筒形状であってもよい。
・通気部品は、吸気ダクト11に限らず、インレットダクト、エアクリーナ、エアコンの給気ダクトや外気ダクト、電気自動車のモータに冷却風を供給するためのダクト、燃料電池車の燃料電池スタックに酸素を供給するためのダクトなどであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
11…吸気ダクト
12…周壁
13…壁部
14…内層
15…外層
16…境界部分
17…第1肉厚部
18…第2肉厚部
19…第3肉厚部
20…第1壁部
21…第2壁部
22…第3壁部
25…通気部
26…非通気部
27…高圧縮部
28…低圧縮部
A…一次の定在波W1の腹と対応する位置
B…二次の定在波W2の腹と対応する位置
W1…一次の定在波
W2…二次の定在波
図1
図2
図3