(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240521BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240521BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20240521BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60W10/08 900
B60W20/15 ZHV
(21)【出願番号】P 2020109768
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】村松 克好
(72)【発明者】
【氏名】昇 佳史
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭汰
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-200567(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60W 10/08
B60W 20/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスアクスル及び該トランスアクスルに接続されたドライブシャフトを介して駆動輪を制駆動するトルクを発生するモータと、
前記ドライブシャフトの軸ねじれによる車両の振動を予測して前記車両の振動を抑制するようにモータトルクを補償するフィードフォワード制御部と、
前記車両の振動に基づいて前記車両の振動が収束するようにモータトルクを補償するフィードバック制御部と、
減速シフト操作時に前記フィードフォワード制御部を無効化する切替制御部と、
を備え、
前記切替制御部は、指令トルクに前記モータトルクが追従したと推測される時点から前記フィードフォワード制御部を有効化する
、
電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記切替制御部は、前記指令トルクに前記モータトルクが追従したと推測される時点から前記フィードフォワード制御部の影響比率を徐々に拡大する、
請求項
1に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、減速機構及びそれに結合するドライブシャフトを介して駆動輪を制駆動するトルクを発生するモータと、運転者のアクセル操作又はブレーキ操作に基づき前記モータへの回転トルク指令値を算出するトルク指令値算出部と、車両の共振による振動成分を抑制するために前記モータへの制振制御トルク指令値を算出する制振制御トルク算出部と、前記各指令値に基づいて前記モータの発生するトルクを制御するモータ制御部と、を備える電動車両の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示する電動車両の制御装置では、制振制御トルク算出部(フィードフォワード制御部)で振動成分を抑制するために減速シフト操作時に運転者が予期する車両の減速感を得られない虞がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の実施形態は、減速シフト操作時に運転者が予期する車両の減速感を得ることができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る電動車両の制御装置は、トランスアクスル及び該トランスアクスルに接続されたドライブシャフトを介して駆動輪を制駆動するトルクを発生するモータと、前記ドライブシャフトの軸ねじれによる車両の振動を予測して前記車両の振動を抑制するようにモータトルクを補償するフィードフォワード制御部と、前記車両の振動に基づいて前記車両の振動が収束するようにモータトルクを補償するフィードバック制御部と、減速シフト操作時に前記フィードフォワード制御部を無効化する切替制御部と、を備える。
【0007】
上記の構成によれば、減速シフト操作時にフィードフォワード制御部を無効化するので、フィードフォワード制御部がモータトルクを補償することがなく、減速シフト操作時においてフィードフォワード制御部とフィードバック制御部とがモータトルクを補償する場合よりも指令トルクにモータトルクが早く追従する。これにより、減速シフト操作時に運転者が予期する車両の減速感を得ることができる。また、減速シフト操作時にフィードフォワード制御部を無効化してもフィードバック制御部が車両の振動に基づいて車両の振動が収束するようにモータトルクを補償するので、車両の振動を抑制することもできる。
【0008】
本発明の実施形態では、上記の構成において、前記切替制御部は、指令トルクに前記モータトルクが追従したと推測される時点から前記フィードフォワード制御部を有効化する。
【0009】
上記の構成によれば、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点からフィードフォワード制御部がドライブシャフトの軸ねじれによる車両の振動を予測して車両の振動を抑制するようにモータトルクを補償するとともに、フィードバック制御部が車両の振動に基づいて車両の振動が収束するようにモータトルクを補償する。これにより、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点から車両の振動を効果的に抑制できる。
【0010】
本発明の実施形態では、上記の構成において、前記切替制御部は、前記指令トルクに前記モータトルクが追従したと推測される時点から前記フィードフォワード制御部の影響比率を徐々に拡大する。
【0011】
上記の構成によれば、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点からフィードフォワード制御部の影響比率が徐々に拡大するので、制御の切り替わりの際に運転者に与える違和感を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、減速シフト操作時に運転者が予期する車両の減速感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】モータから駆動輪への動力伝達経路を示す図である。
【
図2】制振制御を成立させる構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示したフィードフォワード制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図2に示したフィードバック制御部の構成を示すブロック図である。
【
図7】シフトポジションと制動トルクとの関係を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る制振制御を成立させる構成を示すブロック図である。
【
図9】減速シフト操作後の時間の経過と前後Gの関係を示す図である。
【
図10】フィードフォワード制御部の有効化タイミングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
本発明の実施形態に係る制御装置が搭載される車両1は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV,PHEV)等の電動車両であって、車両1の減速エネルギーを電気エネルギーに回生する。
【0016】
本発明の実施形態に係る制御装置では、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量によってモータ11に要求するトルク(以下「指令トルク」という)が増大する一方、シフトレバー15(
図5参照)又はパドルスイッチ16(
図16参照)によって設定されたシフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減するように指令トルクが増減するように制御される。
【0017】
図1に示すように、モータ11から駆動輪12への動力伝達経路にはトランスアクスル13及びトランスアクスル13に接続されたドライブシャフト14が設けられ、駆動輪12を制駆動するトルク(以下「モータトルク」という)はモータ11からトランスアクスル13及びトランスアクスル13に接続されたドライブシャフト14を通り駆動輪12に伝達される。これにより、モータトルクの変動時、ドライブシャフト14のねじれに起因する駆動系ねじれ振動により車両1が前後に振動する。この振動の抑制を目的として電動車両では制振制御が行われる。
【0018】
図2に示すように、制振制御を成立させる構成に、フィードフォワード制御部21及びフィードバック制御部22を備える。
【0019】
フィードフォワード制御部21は、ドライブシャフト14の軸ねじれによる振動を予測して車両1の振動を抑制するようにモータトルクを補償する。
【0020】
図3に示すように、フィードフォワード制御部21は、車両1の簡易モデルからモータ11への指令トルクに対するドライブシャフト14のトルク特性を表す伝達関数G
T(s)を計算し、ドライブシャフト14のトルクを推測する。そして、推測したドライブシャフト14のトルクを微分したものにドライブシャフト14のねじれ振動を抑制するように計算したゲインDを掛けてモータトルクに補償する。これにより、フィードフォワード制御部21は、モータトルクから軸ねじれ成分を取り除くことができる。
【0021】
フィードバック制御部22は、車両1の振動に基づいて車両1の振動が収束するようにモータトルクを補償する。
【0022】
図4に示すように、フィードバック制御部22は、車両1の実際の速度情報から既に発生している振動情報を得てこれを収束するようにモータトルクを補償する。これにより、フィードフォワード制御部21で抑制できなかった振動や外乱による振動を収束することができる。
【0023】
本発明の実施形態に係る制御装置は、シフトレバー15(
図5参照)又はパドルスイッチ16(
図6参照)によって設定されたシフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減するように指令トルクが増減される(
図7参照)。そして、
図8に示すように、制振制御を成立させる構成に、上述したフィードフォワード制御部21及びフィードバック制御部22のほかに切替制御部23を備える。
【0024】
切替制御部23は、シフトレバー15又はパドルスイッチ16による、減速シフト操作時にフィードフォワード制御部21を無効化する。
【0025】
図8に示すように、切替制御部23には、制振制御切替スイッチ24が接続され、シフトレバー15又はパドルスイッチ16による、減速シフト操作時のシフト操作情報によって制振制御切替スイッチ24が切り替わり、フィードフォワード制御部21を無効化する(切替制御部23をON)にする。
【0026】
図9に示すように、フィードフォワード制御部21を無効化すると、フィードフォワード制御部21がモータトルクを補償することがなく、フィードフォワード制御部21とフィードバック制御部22がモータトルクを補償する場合よりも指令トルクにモータトルクが早く追従する(仮想線で示した制振制御を行わない場合の前後Gに近づく)。これにより、減速シフト操作時に運転者が予期する車両1の減速感を得ることができる。また、シフトレバー15又はパドルスイッチ16による、減速シフト操作時にフィードフォワード制御部21を無効化してもフィードバック制御部22が車両1の振動に基づいて車両1の振動が収束するようにモータトルクを補償するので、車両1の振動を抑制することもできる。
【0027】
図10に示すように、切替制御部23は、減速シフト操作後に指令トルクがモータトルクに追従したと推測される時点からフィードフォワード制御部21を有効化させる。フィードフォワード制御部21の有効化は、切替制御部23をONからOFFにすることによって行われる(
図8参照)。これにより、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点からフィードフォワード制御部21がドライブシャフト14の軸ねじれによる車両1の振動を予測して車両1の振動を抑制するようにモータトルクを補償するとともに、フィードバック制御部22が車両1の振動に基づいて車両1の振動が収束するようにモータトルクを補償する。これにより、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点から車両1の振動を効果的に抑制できる。
【0028】
図10に示すように、切替制御部23は、指令トルクにモータトルクが追従したと推測される時点からフィードフォワード制御部21の影響比率を徐々に拡大する。切替制御部23は、フィードフォワード制御部21と切替制御部23との間に設けられた制御ゲイン25を一定の勾配(係数a)で0から1とすることでフィードフォワード制御部21の影響比率を徐々に拡大する。これにより、フィードフォワード制御部21を有効化する際の運転者に与える違和感を小さくできる。
【0029】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、シフトレバー15又はパドルスイッチ16による、減速シフト操作時にフィードフォワード制御部21を無効化するものとしたが、パドルスイッチ16による、減速シフト操作時にのみフィードフォワード制御部21を無効化するものとしてもよい。これは、
図7に示すように、シフトレバー15を操作することにより、シフトポジションがBからBLに変位すると、回生ブレーキ力が大幅に増大するので、運転者が予期する車両1の減速感を得ることができるからである。
【符号の説明】
【0031】
1 車両
11 モータ
12 駆動輪
13 トランスアクスル
14 ドライブシャフト
15 シフトレバー
16 パドルスイッチ
21 フィードフォワード制御部
22 フィードバック制御部
23 切替制御部
24 制振制御切替スイッチ
25 制御ゲイン