IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社JVCケンウッドの特許一覧

<>
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図1
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図2
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図3
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図4
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図5
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図6
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図7
  • 特許-位相同期回路及び位相同期方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】位相同期回路及び位相同期方法
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/10 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
H03L7/10 110
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020114202
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012391
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保島 涼
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-067822(JP,A)
【文献】特開2006-135902(JP,A)
【文献】特開2001-320274(JP,A)
【文献】特開平06-112819(JP,A)
【文献】特開2011-040967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準発振器が発振する基準周波数の信号を第1分周器で分周した基準信号と、制御電圧信号に基づいて電圧制御発振器が発振するローカル周波数の信号を第2分周器で分周したローカル信号と、の位相を比較し、位相差に応じた位相比較信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較信号を平滑して前記制御電圧信号を出力するループフィルタと、
前記第1分周器及び前記第2分周器の各々の分周比を設定する制御部と、
前記電圧制御発振器の自走電圧信号を生成する自走電圧生成部と、
前記制御電圧信号の電圧を測定する測定回路と、
前記制御電圧信号の電圧を記憶する記憶部と、
前記自走電圧生成部が、前記分周比を変更する前に前記記憶部に記憶された前記制御電圧信号の電圧値に基づいて算出された自走電圧補正値を、前記自走電圧信号の電圧値に加えて生成した補正後自走電圧信号を、前記電圧制御発振器に伝送するローパスフィルタと、
を備え、
前記自走電圧生成部は、前記分周比を変更した後の自走電圧信号と前記分周比を変更する前の前記自走電圧信号との差分と、前記分周比を変更した後に前記記憶部に記憶された前記制御電圧信号と前記分周比を変更する前に前記記憶部に記憶された前記制御電圧信号との差分と、に基づいて、前記自走電圧補正値を算出する、
位相同期回路。
【請求項2】
基準発振器が発振する基準周波数の信号を第1分周器で分周した基準信号と、制御電圧信号に基づいて電圧制御発振器が発振するローカル周波数の信号を第2分周器で分周したローカル信号と、の位相を比較し、位相差に応じた位相比較信号を出力するステップと、
前記位相比較信号を平滑して前記制御電圧信号を出力するステップと、
前記第1分周器及び前記第2分周器の各々の分周比を設定するステップと、
前記電圧制御発振器の自走電圧信号を生成するステップと、
前記制御電圧信号の電圧を測定するステップと、
前記制御電圧信号の電圧を記憶するステップと、
前記分周比を変更する前に記憶された前記制御電圧信号の電圧値に基づいて算出された自走電圧補正値を、前記自走電圧信号の電圧値に加えて生成した補正後自走電圧信号を伝送するステップと、
前記分周比を変更した後の自走電圧信号と前記分周比を変更する前の前記自走電圧信号との差分と、前記分周比を変更した後に記憶された前記制御電圧信号と前記分周比を変更する前に記憶された前記制御電圧信号との差分と、に基づいて、前記自走電圧補正値を算出するステップと、
を備える、
位相同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相同期回路及び位相同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PLL回路(Phase Locked Loop:位相同期回路)は、一般に、電圧制御発振器の出力周波数が定常状態になってからの特性(定常特性)と、基準周波数信号に位相同期するまでの引込み特性(同期特性)と、が互に相反する関係にある。例えば、同期特性の周波数引込み範囲を広くし且つ同期速度を速くすると、ループの雑音帯域が広くなって定常時の特性が劣化することが知られている。従って、PLL回路としては、電圧制御発振器の発振周波数が基準周波数信号に引込まれて位相同期するまでのロックアップタイムを短くすることが望まれている。
【0003】
下記の特許文献1には、ロックアップタイムを短くするために、電圧制御発振器の発振周波数の一定範囲内の位相変動を制御するループフィルタから出力される可変の制御電圧とは別に、自走周波数を決定するための固定の制御電圧を予め記憶しておき、自走周波数をある周波数から別の周波数に変更する時に、固定の制御電圧を切り換える自走周波数制御電圧供給手段を設けた技術が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-327490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、供給された制御電圧と実際にロックされた状態における制御電圧とは、電圧制御発振器の特性(個体差)により一致しない場合も多く、その電圧の乖離が大きいほどロックアップに要する時間はかかることになる。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、ロックアップタイムを短くすることが可能な位相同期回路及び位相同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる位相同期回路は、基準発振器が発振する基準周波数の信号を第1分周器で分周した基準信号と、制御電圧信号に基づいて電圧制御発振器が発振するローカル周波数の信号を第2分周器で分周したローカル信号と、の位相を比較し、位相差に応じた位相比較信号を出力する位相比較器と、前記位相比較信号を平滑して前記制御電圧信号を出力するループフィルタと、前記第1分周器及び前記第2分周器の各々の分周比を設定する制御部と、前記電圧制御発振器の自走電圧信号を生成する自走電圧生成部と、前記制御電圧信号の電圧を測定する測定回路と、前記制御電圧信号の電圧を記憶する記憶部と、前記自走電圧生成部が、前記分周比を変更する前に前記記憶部に記憶された前記制御電圧信号の電圧値に基づいて算出された自走電圧補正値を、前記自走電圧信号の電圧値に加えて生成した補正後自走電圧信号を、前記電圧制御発振器に伝送するローパスフィルタと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロックアップタイムを短くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るPLL回路の構成を示す図である。
図2図2は、自走電圧信号と発振信号の周波数との理想的な関係を示す図である。
図3図3は、制御電圧信号と発振信号の周波数との理想的な関係を示す図である。
図4図4は、自走電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。
図5図5は、制御電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。
図6図6は、制御電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態に係るPLL回路の課題解決のアプローチの一側面を説明する図である。
図8図8は、実施形態に係るPLL回路の周波数変更動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
<構成>
図1は、実施形態に係るPLL回路(Phase Locked Loop:位相同期回路)の構成を示す図である。PLL回路1は、基準周波数信号発生器2と、CPU(Central Processing Unit)3と、PLLIC(Integrated Circuit)4と、自走周波数制御電圧生成器5と、ループフィルタ6と、ローパスフィルタ7と、電圧制御発振器(VCO)8と、オペアンプ9と、を含む。CPU3は、制御部3aと、記憶部3bと、A/D変換器3cと、を含む。PLLIC4は、第1分周器4aと、第2分周器4bと、位相比較器4cと、を含む。自走周波数制御電圧生成器5は、D/A変換器5aを含む。
【0012】
基準周波数信号発生器2は、基準周波数の信号RefCLKを、第1分周器4aに出力する。
【0013】
基準周波数信号発生器2が、本開示の「基準発振器」の一例に相当する。
【0014】
第1分周器4aは、信号RefCLKを制御部3aから出力される制御信号S1によって設定される分周比で分周した基準信号を、位相比較器4cに出力する。
【0015】
第2分周器4bは、電圧制御発振器8で発振される発振信号CLKを制御信号S1によって設定される分周比で分周したローカル信号を、位相比較器4cに出力する。
【0016】
位相比較器4cは、基準信号と、ローカル信号と、の位相を比較し、位相差に応じた位相比較信号CPをループフィルタ6に出力する。
【0017】
ループフィルタ6は、位相比較信号を平滑した制御電圧信号CVを、電圧制御発振器8及びオペアンプ9に出力する。
【0018】
自走周波数制御電圧生成器5内のD/A変換器5aは、制御部3aから出力される制御信号S2によって設定される自走電圧信号JVを、ローパスフィルタ7に出力する。
【0019】
自走周波数制御電圧生成器5が、本開示の「自走電圧生成部」の一例に相当する。
【0020】
ローパスフィルタ7は、自走周波数制御電圧信号JVを低域通過させてノイズを除去し、電圧制御発振器8に出力する。
【0021】
電圧制御発振器8は、制御電圧信号CV及び自走制御電圧信号JVに基づいて発振し、発振信号CLKを第2分周器4bに出力する。
【0022】
オペアンプ9は、制御電圧信号CVをA/D変換器3cに出力するバッファとして動作する。
【0023】
A/D変換器3cは、制御電圧信号CVをA/D変換したディジタル値を、制御部3aに出力する。制御部3aは、ディジタル値を記憶部3bに記憶させる。記憶部3bは、RAM(Random Access Memory)であっても良いし、書き換え可能な不揮発性メモリ(例えば、フラッシュメモリ(登録商標))であっても良い。
【0024】
A/D変換器3cが、本開示の「測定回路」の一例に相当する。
【0025】
PLL回路1の基本的な動作について、説明する。制御部3aは、外部から指示された周波数fで電圧制御発振器8を発振させる場合、制御信号S1をPLLIC4に出力して、第1分周器4a及び第2分周器4bの各々の分周比を設定する。それとともに、制御部3aは、制御信号S2を自走周波数制御電圧生成器5に出力し、周波数fで電圧制御発振器8を発振させるための自走電圧信号JVを出力するように、自走周波数制御電圧生成器5を制御する。次に、制御部3aは、周波数fを周波数fに変更する指示を外部から受けた場合、周波数fを周波数fに変えるための分周比を設定する制御信号S1を、PLLIC4に出力する。それとともに、制御部3aは、制御信号S2を自走周波数制御電圧生成器5に出力し、周波数fで電圧制御発振器8を発振させるための自走電圧信号JVを出力するように、自走周波数制御電圧生成器5を制御する。このとき、第1分周器4a及び第2分周器4bの各々の分周比が設定されるタイミングと、自走電圧信号JVが変化するタイミングと、が同じであることが好ましい。
【0026】
<課題の一側面>
図2は、自走電圧信号と発振信号の周波数との理想的な関係を示す図である。線101で示すように、理想的には、自走電圧信号JVと発振信号CLKの周波数とは、傾きが一定、即ち線形(リニア)であることが望ましい。
【0027】
図3は、制御電圧信号と発振信号の周波数との理想的な関係を示す図である。線102で示すように、理想的には、発振信号CLKの周波数にかかわらず、制御電圧信号CVは一定であることが望ましい。
【0028】
図4は、自走電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。線103で示すように、実際には、自走電圧信号JVと発振信号CLKの周波数とは、線形にはならない。線形にならない理由は、電圧制御発振器8内のバリキャップの特性等による。但し、電圧制御発振器8を使用する領域では、ある程度の線形性は確保できる。
【0029】
図5は、制御電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。線104で示すように、実際には、発振信号CLKの周波数によって、制御電圧信号CVは一定ではない。点111、点112及び点113は、PLL回路1の生産時に、線104が理想の線102に合致するように調整された点である。しかし、点111、点112及び点113以外の所では、線104と線102との間には、差がある。点111、点112及び点113では、PLL回路1のロックアップタイムは短い。しかしながら、点111、点112及び点113以外の所では、PLL回路1のロックアップタイムは長くなってしまう。
【0030】
図6は、制御電圧信号と発振信号の周波数との実際の関係の一例を示す図である。詳しくは、図6は、PLL回路1の温度変化により、理想の線102と、実際の線105と、の間に差が生じた様子を示す図である。線105は、線104(図5参照)が全体的に図中上方にシフトしたものである。
【0031】
<課題解決のアプローチの一側面>
図7は、実施形態に係るPLL回路の課題解決のアプローチの一側面を説明する図である。制御部3aは、矢印121から矢印128までで示すように、線104と線102との間の差に応じた電圧(補正値ΔJV)だけ、自走電圧信号JVをオフセットさせる。これにより、PLL回路1は、点111、点112及び点113以外の所でも、ロックアップタイムを短くすることができる。
【0032】
以下、PLL回路1の、自走電圧信号JVの補正値ΔJVの算出について、説明する。
【0033】
制御電圧信号CVと、電圧制御発振器8が発振する周波数Freqと、の関係は、制御電圧信号CVの電圧1V当たりの周波数変化量をCV感度とすると、次の式(1)で表すことができる。
Freq[MHz] = CV感度[MHz/V]×CV[V] ・・・式(1)
【0034】
自走電圧信号JVと、周波数Freqと、の関係は、自走電圧信号JVの電圧1V当たりの周波数変化量をJV感度とすると、次の式(2)で表すことができる。
Freq[MHz] = JV感度[MHz/V]×JV[V] ・・・式(2)
【0035】
従って、制御電圧信号CVの想定した電圧(図7の線102参照)に対して実際の電圧(図7の線104参照)が差分を持っていた場合、その差分の電圧をΔCVとすると、次の式(3)が成り立つ。
ΔFreq[MHz] = CV感度[MHz/V]×ΔCV[V] ・・・式(3)
【0036】
式(3)のΔFreqを自走電圧信号JVで補正するための補正値ΔJVは、次の式(4)を満たす。
ΔFreq[MHz] = JV感度[MHz/V]×ΔJV[V] ・・・式(4)
【0037】
式(3)及び式(4)より、次の式(5)が導かれる。
ΔJV[V]
= CV感度[MHz/V]/JV感度[MHz/V]×ΔCV[V] ・・・式(5)
【0038】
従って、制御部3aは、式(5)で算出される補正値ΔJVを自走電圧信号JVへ加算して、補正後自走電圧信号JVADJを算出することにより、ΔCVを補正することができる。
【0039】
これにより、PLL回路1は、点111、点112及び点113以外の所でも、ロックアップタイムを短くすることが可能である。
【0040】
なお、CV感度やJV感度は、周波数によって異なる値であっても良い。また、CV感度やJV感度は、n次(nは、自然数)の関数で表されても良い。
【0041】
制御部3aは、PLL回路1の仕様上の全温度範囲又は全周波数範囲で式(5)の計算を行うことにより、PLL回路1の仕様上の全温度範囲又は全周波数範囲でロックアップタイムを短くすることができる。
【0042】
式(5)の計算は、制御部3aが行うこととしたが、本開示はこれに限定されない。式(5)の計算は、自走周波数制御電圧生成器5が行っても良い。
【0043】
<動作>
図8は、実施形態に係るPLL回路の周波数変更動作を示すフローチャートである。
【0044】
制御部3aは、ステップS100において、目的の周波数のΔCVを、記憶部3bから読み出す。なお、このステップS100で読み出される目的の周波数のΔCVは、目的の周波数に対してフローチャートが前回実行されたときに、後述するステップS114で記憶部3bに記憶されたものである。また、目的の周波数に対して今回が最初のフローチャート実行である場合には、ΔCVは初期値又はデフォルト値であることが例示される。
【0045】
制御部3aは、ステップS102において、式(5)により、補正値ΔJVを算出する。更に、制御部3aは、目的の周波数の補正前の自走電圧信号JVに補正値ΔJVを加算し、補正後自走電圧信号JVADJを算出する。
【0046】
制御部3aは、ステップS104において、周波数変更を行う。詳しくは、制御部3aは、前述したように、分周比を設定するための制御信号S1を、PLLIC4に出力する。それとともに、制御部3aは、制御信号S2を自走周波数制御電圧生成器5に出力し、補正後自走電圧信号JVADJを出力するように、自走周波数制御電圧生成器5を制御する。
【0047】
制御部3aは、ステップS106において、PLL回路1がロックしたか否かを判定する。制御部3aは、PLL回路1がロックしていないと判定した場合(ステップS106でNo)、処理をステップS108に進める。制御部3aは、PLL回路1がロックしたと判定した場合(ステップS106でYes)、処理をステップS110に進める。
【0048】
制御部3aは、ステップS108において、アンロック処理を行う。PLL回路1がロックしていない状態は、エラー状態である。従って、制御部3aは、既知のアンロック処理を行い、その後処理を終了する。
【0049】
制御部3aは、ステップS110において、ウェイト処理を行う。ウェイト処理は、発振信号CLKが安定するまで待つ処理である。
【0050】
制御部3aは、ステップS112において、制御電圧信号CVのディジタル値を、A/D変換器3cから読み出す。
【0051】
制御部3aは、ステップS114において、現在の周波数(目的の周波数)のΔCVを記憶部3bに記憶させて更新し、処理を終了する。
【0052】
<簡易的な算出の一例>
次に、CV感度[MHz/V]/JV感度[MHz/V]の簡易的な算出について、説明する。
【0053】
PLL回路1の各回路素子の性能誤差(個体差)により、CV感度[MHz/V]/JV感度[MHz/V]にも誤差が発生する。
【0054】
CV感度[MHz/V]を求めるには、制御電圧信号CVを変動させたときの発振周波数を測定する必要がある。JV感度[MHz/V]を求めるには、自走電圧信号JVを変動させたときの発振周波数を測定する必要がある。PLL回路1の生産時に、PLL回路1の全ての個体に対してこれらの測定を行うことは、測定器の用意、工数等の観点から、容易ではない。
【0055】
そこで、制御部3aは、ある自走電圧信号JVで電圧制御発振器8を発振させた場合の制御電圧信号CVを記憶部3bに記憶させる。次に、制御部3aは、自走電圧信号JVで電圧制御発振器8を発振させた場合の制御電圧信号CVも、記憶部3bに記憶させる。
【0056】
この場合の、自走電圧信号JVの変化量をΔJV変化量とし、制御電圧信号CVの変化量をΔCV測定値とすると、次の式(6)が成り立つ。
CV感度[MHz/V]/JV感度[MHz/V]
= ΔJV変化量/ΔCV測定値 ・・・(6)
【0057】
式(5)及び式(6)より、次の式(7)が導かれる。
ΔJV[V] = ΔJV変化量/ΔCV測定値×ΔCV[V] ・・・式(7)
【0058】
従って、制御部3aは、2つの自走電圧信号JV及びJVで電圧制御発振器8を動作させた際の2つの制御電圧信号CV及びCVを記憶部3bに記憶させることで、補正値ΔJVを算出できる。
【0059】
これにより、CV感度[MHz/V]及びJV感度[MHz/V]の測定が不要となる。従って、PLL回路1の全ての個体のロックアップタイムを短くすることが可能になる。
【0060】
制御部3aは、発振信号CLKの周波数をfからfへ変更するのに際し、変更後の周波数fに対して、ある電圧を自走電圧信号JVの初期値とする。しかし、自走電圧信号JVによる発振周波数は、必ずしも周波数fに一致しない。そこで、制御部3aは、周波数の変更前の、ロックされた制御電圧信号CVと、周波数の変更後の、ロックされた制御電圧信号CVと、を記憶する。そして、制御部3aは、制御電圧信号CVの差分(ΔCV=CV-CV)と、自走電圧信号JVの差分(ΔJV=JV-JV)と、に基づいて、自走電圧信号JVの補正値ΔJVを算出する。制御部3aは、周波数fへの次回の変更時から、自走電圧信号JVを補正値ΔJVで補正することにより、ロックアップタイムを短くすることができる。
【0061】
制御部3aは、PLL回路1の仕様上の全温度範囲又は全周波数範囲で式(7)の計算を行うことにより、PLL回路1の仕様上の全温度範囲又は全周波数範囲でロックアップタイムを短くすることができる。
【0062】
式(7)の計算は、制御部3aが行うこととしたが、本開示はこれに限定されない。式(7)の計算は、自走周波数制御電圧生成器5が行っても良い。
【0063】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 PLL回路
2 基準周波数信号発生器
3 CPU
3a 制御部
3b 記憶部
3c A/D変換器
4 PLLIC
4a 第1分周器
4b 第2分周器
4c 位相比較器
5 自走周波数制御電圧生成器
5a D/A変換器
6 ループフィルタ
7 ローパスフィルタ
8 電圧制御発振器
9 オペアンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8