(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】結合材、繊維体形成装置及び繊維体形成方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/587 20120101AFI20240521BHJP
【FI】
D04H1/587
(21)【出願番号】P 2020117078
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】佐合 拓己
(72)【発明者】
【氏名】中沢 政彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 芳弘
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041242(JP,A)
【文献】特開2015-092032(JP,A)
【文献】特開2005-187516(JP,A)
【文献】国際公開第2017/06533(WO,A1)
【文献】特開2019-065420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 5/10
C09J 9/00 - 201/10
D04H 1/00 - 18/04
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、繊維と繊維とを結着させる、繊維体形成用の結合材であって、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い、結合材。
【請求項2】
請求項1において、
前記結合材のガラス転移温度は、65℃以上である、結合材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記結合材の軟化温度は、150℃以下である、結合材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記結合材の体積平均粒子径は、12μm以下である、結合材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の結合材を備えた、繊維体形成装置。
【請求項6】
繊維と結合材とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
を含む繊維体形成方法であって、
前記結合材は、
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い、繊維体形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合材、繊維体形成装置及び繊維体形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙等の繊維体の製造方法として、乾式法と称する水を全く又はほとんど用いない方法が期待されている。例えば、特許文献1には、乾式で繊維と熱可塑性樹脂とを混合し、混合物を堆積した状態で熱を印加することにより、シートを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維と樹脂とを混合した混合物は、樹脂の溶融温度より高い温度まで加熱することで樹脂が繊維に濡れ拡がり、その後冷却により樹脂が固化することで繊維と繊維とが結着されて繊維体となる。
【0005】
しかし、繊維と樹脂とを混合した混合物には、短繊維や微粉などの非常に小さいパーティクルが含まれる場合がある。このような微細なパーティクルを含む混合物を用いて繊維体を製造する場合には、微粉が繊維体から脱落して、例えば装置内に粉塵が生じるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る結合材の一態様は、
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、繊維と繊維とを結着させる、繊維体形成用の結合材であって、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い。
【0007】
本発明に係る繊維体形成装置の一態様は、
上記態様の結合材を備える。
【0008】
本発明に係る繊維体形成方法の一態様は、
繊維と結合材とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
を含む繊維体形成方法であって、
前記結合材は、
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る繊維体製造装置を模式的に示す図。
【
図2】実施例及び比較例に係る結合材の動的粘弾性測定における粘性率の温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0011】
1.結合材
本実施形態に係る結合材は、繊維と繊維とを結着させることができ、繊維体を形成するために好適に用いることができる。
【0012】
1.1.繊維
結合材により結着される繊維としては、特に限定されず、広範な繊維材料を用いることができる。繊維としては、天然繊維(動物繊維、植物繊維)、化学繊維(有機繊維、無機繊維、有機無機複合繊維)などが挙げられ、更に詳しくは、セルロース、絹、羊毛、綿、大麻、ケナフ、亜麻、ラミー、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、針葉樹、広葉樹等からなる繊維等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよいし、精製などを行った再生繊維を用いてもよい。
【0013】
繊維の原料としては、例えば、古紙、古布等が挙げられるが、上述の繊維の少なくとも1種を含んでいればよい。また、各種の表面処理がされていてもよい。また、繊維の材質は、純物質であってもよいし、不純物、添加物及びその他の成分など、複数の成分を含む材質であってもよい。
【0014】
繊維は、独立した1本の繊維としたときに、その平均的な直径(断面が円でない場合には長手方向に垂直な方向の長さのうち、最大のもの、又は、断面の面積と等しい面積を有する円を仮定したときの当該円の直径(円相当径))が、平均で、1μm以上1000μm以下、好ましくは、2μm以上500μm以下、より好ましくは3μm以上200μm以下である。
【0015】
繊維の長さは、特に限定されないが、独立した1本の繊維で、その繊維の長手方向に沿った長さは、1μm以上5mm以下、好ましくは、2μm以上3mm以下、より好ましくは3μm以上2mm以下である。
【0016】
本実施形態の結合材で結着される繊維は、短繊維を含んでもよい。短繊維の長手方向に沿った長さは、1μm以上1mm以下、好ましくは2μm以上100μm以下である。繊維体から脱落するパーティクルを抑制するという点からは、繊維体の原料となる繊維には、短繊維は含まれないか、より少ない量で含まれることが好ましいが、本実施形態の結合材は、繊維体からの短繊維の脱落を抑制しやすいので、繊維に短繊維が含まれる場合には、本実施形態の結合材のパーティクルを抑制するという効果がより顕著に発現する。
【0017】
1.2.繊維体
本実施形態の結合材を用いて形成される繊維体は、繊維と繊維とが結合材により結着された構造を有するものであれば特に限定されない。繊維体の形状としては、シート状、ボード状、ウェブ状、凹凸を有する板状、塊状、ブロック状、又はそれらを組み合わせた形状であってもよい。繊維体の典型としては、紙や不織布が挙げられる。紙は、例えば、パルプや古紙を原料としシート状に成形した態様などを含み、筆記や印刷を目的とした記録
紙や、壁紙、包装紙、色紙、画用紙、ケント紙などを含む。不織布は、紙より厚いものや低強度のものであり、一般的な不織布、繊維ボード、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、クリーナー、フィルター、液体吸収材、吸音体、緩衝材、マットなどを含む。
【0018】
1.3.結合材の構成
本実施形態に係る結合材は、ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含む。
【0019】
1.3.1.ポリエステル
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)に由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含む。換言すると、ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)と、多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを含む混合原料の反応生成物である。
【0020】
1.3.1.1.ポリエチレンテレフタレート(PET)に由来する構成単位
ポリエステル中のPETに由来する構成単位は、混合原料に含有される原料としてのPETが反応することによりポリエステル中に導入される。
【0021】
PETとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等とのエステル化若しくはエステル交換、並びに重縮合により、常法に従って製造されたものを用いることができる。
【0022】
PETとしては、未使用のPETを用いてもよいし、使用済のPET又はPET製品を再生(リサイクル)したリサイクルPETを用いてもよい。また、PETとして植物由来原料を使用したPETを用いてもよい。
【0023】
リサイクルPETとしては、使用済みのPETをペレット状に加工したものを使用してもよいし、フィルム、ボトルなどの製品あるいは端材を破砕したものを使用してもよい。
【0024】
植物由来原料を使用したPETとしては、エチレングリコール及びテレフタル酸の少なくとも一方が植物由来であるPETが挙げられる。PETが植物由来原料を使用しているか否かについては、例えば、ASTM D6866「放射性炭素(C14)測定法を利用した生物起源炭素濃度を決定する標準規格」により確認することができる。
【0025】
環境保全の観点から、PETとしては、リサイクルPET、植物由来原料を使用したPETが好ましい。植物由来原料を使用したPETについても、未使用でもよいし、使用済みでもよい。
【0026】
PETは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
PETのIV値は、得られるポリエステルの結晶性制御の観点から、0.2以上1.2以下が好ましく、0.3以上1.1以下がより好ましく、0.4以上0.6以下がさらに好ましい。
【0028】
PETのIV値は、固有粘度であり、PETの分子量の指標となる。PETのIV値は重縮合時間等により調整することができる。
【0029】
PETのIV値は、フェノールと1,1,2,2-テトラクロルエタンとを質量比1:1で混合した混合溶媒30mLにPET0.3gを溶解し、得られた溶液について、ウベローデ粘度計を使用して30℃で測定した値である。
【0030】
混合原料中のPETの含有量は、得られるポリエステルの結晶性制御の観点から、混合原料の総質量に対して30質量%以上55質量%以下が好ましく、40質量%以上55質量%以下がより好ましく、50質量%以上55質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
また、酸成分の合計100モル%に対する、PET由来の酸成分の割合は、40モル%以上75モル%以下が好ましく、50モル%以上75モル%以下がより好ましく、60モル%以上75モル%以下がさらに好ましい。
【0032】
なお、ここでいう「酸成分」は、混合原料に含まれる全ての酸成分のことである。酸成分には、PET由来の酸成分(例えばテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル等)、多価カルボン酸成分及び後述の1価のカルボン酸が含まれる。
【0033】
1.3.1.2.多価カルボン酸に由来する構成単位
ポリエステル中の多価カルボン酸に由来する構成単位は、混合原料に含有される原料としての多価カルボン酸が反応することによりポリエステル中に導入される。
【0034】
多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸、3価以上のカルボン酸が挙げられる。2価のカルボン酸及び3価以上のカルボン酸は、いずれも複数種を用いることができるし、適宜併用することもできる。
【0035】
2価のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、ナフタレンの1,4-位、1,5-位、1,6-位、1,7-位、2,6-位、又は、2,7-位に2つのカルボキシ基が結合した化合物)、及びこれらの低級アルキルエステル若しくは酸無水物等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、フランジカルボン酸、及びこれらの低級アルキルエステル若しくは酸無水物等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0036】
テレフタル酸、イソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えばテレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチルなどが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、2価のカルボン酸としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸が好ましい。
【0038】
3価以上のカルボン酸としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、及びこれらの酸無水物や低級アルキルエステルなどが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、3価以上のカルボン酸としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物が好ましく、トリメリット酸及びその無水物が特に好ましい。
【0040】
混合原料中の多価カルボン酸成分の含有量は、混合原料の総質量に対して15質量%以上30質量%以下が好ましく、15質量%以上25質量%以下がより好ましく、15質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0041】
また、酸成分の合計100モル%に対する、多価カルボン酸成分の割合は、25モル%
以上60モル%以下が好ましく、25モル%以上50モル%以下がより好ましく、25モル%以上40モル%以下がさらに好ましい。
【0042】
1.3.1.3.多価アルコールに由来する構成単位
ポリエステル中の多価アルコールに由来する構成単位は、混合原料に含有される原料としての多価アルコールが反応することによりポリエステル中に導入される。
【0043】
多価アルコールは、少なくともトリメチロールプロパンを含み、ポリエステルには、多価アルコールとしてのトリメチロールプロパンに由来する構成単位が少なくとも含まれる。ポリエステル中のトリメチロールプロパン由来の構成単位の含有量は、酸成分に由来する構成単位100モル部に対して1モル部以上4モル部以下であり、1.5モル部以上4モル部以下が好ましい。
【0044】
したがって、混合原料中のトリメチロールプロパンの含有量は、酸成分100モル部に対して1モル部以上であり、1モル部以上5モル部以下が好ましく、1モル部以上4モル部以下がさらに好ましく、1.5モル部以上~3モル部以下が最も好ましい。
【0045】
また、混合原料中のトリメチロールプロパンの含有量は、混合原料の総質量に対して0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.2質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
トリメチロールプロパンの含有量が上記下限値以上であると、反応性がより良好となり、ポリエステルの着色をさらに抑えることができる。加えて、結合材の繊維体における繊維と繊維との結着性が向上する。トリメチロールプロパンの含有量が上記上限値以下であると、ポリエステルを含む結合材の高温環境下での保存性がより向上する。加えて、ポリエステル中のゲル生成をさらに抑制できる。
【0047】
ポリエステルにおけるトリメチロールプロパン由来の構成単位の含有量が上記下限値以上であると、ポリエステルの着色をより少なくすることができる。また、ポリエステルを含む結合材の繊維体における繊維と繊維との結着性が向上する。トリメチロールプロパン由来の構成単位の含有量が上記上限値以下であると、結合材の高温環境下での保存性がさらに向上する。
【0048】
多価アルコールは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物をさらに含むことが好ましい。すなわち、ポリエステルは、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0049】
ポリエステル中のビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物由来の構成単位を含有する場合、その含有量は、酸成分に由来する構成単位100モル部に対して18モル部以上28モル部以下が好ましく、20モル部以上27モル部以下がより好ましい。
【0050】
ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物としては、例えば、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。なおここで例示した化合物の名称における「プロピレン」の字句の後のカッコ内の数値は、プロピレンオキサイド(PO)の平均付加モル数を表す。
【0051】
ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を使用する場合、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
多価アルコール成分としては、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物以外の2価のアルコール(以下、「他の2価のアルコール」ともいう。)、トリメチロールプロパン以外の3価以上のアルコール(以下、「他の3価以上のアルコール」ともいう。)をさらに含んでいてもよい。
【0053】
他の2価のアルコールとしては、例えばポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族アルコール;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、D-イソソルバイド、L-イソソルバイド、イソマンニド、エリスリタン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン等の脂肪族アルコールなどが挙げられる。なおここで例示した化合物の名称における「エチレン」の字句の後のカッコ内の数値は、エチレンオキサイド(EO)の平均付加モル数を表し、「プロピレン」の字句の後のカッコ内の数値は、POの平均付加モル数を表す。
【0054】
他の2価のアルコールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
他の3価以上のアルコールとしては、例えばソルビトール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン、グリセリンなどが挙げられる。
【0056】
他の3価以上のアルコールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
混合原料にビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を含む場合、その含有量は、酸成分100モル部に対して18モル部以上28モル部以下が好ましく、20モル部以上27モル部以下がより好ましい。
【0058】
また、混合原料中のビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物の含有量は、混合原料の総質量に対して25質量%以上45質量%以下が好ましく、25質量%以上40質量%以下がより好ましく、25質量%以上35質量%質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
1.3.1.4.その他の構成単位
ポリエステルは、上述した構成単位以外に他の成分に由来する構成単位を含んでもよい。すなわち原料となる混合原料は、PET、多価カルボン酸及び多価アルコール以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。他の成分に由来する構成単位は、混合原料に含有される原料としての他の成分が反応することによりポリエステル中に導入される。
【0060】
他の成分としては、例えば、1価のカルボン酸、1価のアルコールなどが挙げられる。1価のカルボン酸としては、例えば安息香酸、p-メチル安息香酸等の炭素数30以下の
芳香族カルボン酸;ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸;桂皮酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸などが挙げられる。
【0061】
1価のアルコールとしては、例えばベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコール;オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0062】
ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、結合材の保存性の観点から65℃以上が好ましく、65℃以上85℃以下がより好ましく、70℃以上80℃以下がさらに好ましい。ポリエステルのガラス転移温度が上記下限値以上であると、ポリエステルを含む結合材の高温環境下での保存性がより向上する。ポリエステルのガラス転移温度が上記上限値以下であると、結合材による繊維と繊維との結着性がより向上する。
【0063】
ポリエステルのガラス転移温度は、以下のようにして求める。すなわち、示差走差熱量計を用い、昇温速度20℃/minで測定したときのチャートの低温側のベースラインと、ガラス転移温度近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求め、これをガラス転移温度とする。
【0064】
ポリエステルの軟化温度は、100℃以上150℃以下が好ましく、100℃以上140℃以下がより好ましい。ポリエステルの軟化温度が上記下限値以上であると、ポリエステルを含む結合材及び製造した繊維体の高温環境下での保存安定性がより向上する。ポリエステルの軟化温度が上記上限値以下であると、ポリエステルを含む結合材の結着性がより向上する。
【0065】
ポリエステルの軟化温度は、以下のようにして求める。すなわち、フローテスターを用い、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重20kgf、昇温速度5℃/minの等速昇温下で測定し、ポリエステル1.0g中の半量が流出したときの温度を測定し、これを軟化温度とする。
【0066】
ポリエステルの酸価(AV)は、10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下がより好ましい。ポリエステルの酸価が上記下限値以上であると、ポリエステルの生産性が向上する。ポリエステルの酸価が上記上限値以下であると、ポリエステルの耐湿性が向上し、使用環境の影響を受けにくい結合材が得られやすくなる。
【0067】
ポリエステルの酸価とは、試料1g当たりのカルボキシル基を中和するのに必要な水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、単位:mgKOH/gで示される。ポリエステルの酸価は、ポリエステルをベンジルアルコールに溶解し、クレゾールレッドを指示薬として、0.02規定のKOH溶液を用いて滴定して求めた値である。
【0068】
ポリエステルの分子量は特に限定されるものではないが、ガラス転移温度を上げ、かつ、軟化温度を下げることができる観点から、重量平均分子量(Mw)が、好ましくは5000以上、より好ましくは8000以上から、好ましくは30000以下、より好ましくは20000以下の範囲である。また、同様の観点から、数平均分子量(Mn)が、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上から、好ましくは10000以下、より好ましくは8000以下の範囲である。
【0069】
ポリエステルの分子量分布は特に限定されるものではないが、ガラス転移温度を上げ、
かつ、軟化温度を下げることができる観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上から、好ましくは30以下、より好ましくは10以下の範囲である。
【0070】
1.3.1.5.ポリエステルの製造方法
ポリエステルの製造方法の一例について説明する。ポリエステルの製造方法は、上述したPET、多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分と、必要に応じて他の成分とを含む混合原料を反応させる工程を含む。
【0071】
混合原料を反応させる工程は、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、混合原料を反応させる工程の後に、重縮合反応を行うことが好ましい。
【0072】
具体的には、混合原料と触媒等を反応容器に投入し、加熱昇温して、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を行い、反応で生じた水又はアルコールを除去する。その後、引き続き重縮合反応を実施するが、このとき反応装置内を徐々に減圧し、150mmHg(20kPa)以下、好ましくは15mmHg(2kPa)以下の圧力下で多価アルコール成分を留出除去させながら重縮合を行うことで、ポリエステルを製造することができる。
【0073】
エステル化反応若しくはエステル交換反応、並びに重縮合反応時に用いる触媒としては特に制限されないが、例えばアルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物、カルボン酸チタン、カルボン酸チタニル、カルボン酸チタニル塩、チタンキレート化合物等のチタン系化合物;ジブチルスズオキシド等の有機スズ;酸化スズ、2-エチルヘキサンスズ等の無機スズなどが挙げられる。また、上述した以外にも触媒として、例えば酢酸カルシウム、酢酸カルシウム水和物、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムなどを用いてもよい。
【0074】
アルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物としては、例えばテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラペントキシチタン、テトラオクトキシチタンなどが挙げられる。
【0075】
カルボン酸チタン化合物としては、例えば蟻酸チタン、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、オクタン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタン、安息香酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタン、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタン、2,5-トルエンジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタン、トリメリット酸チタン、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタン、ピロメリット酸チタン、2,3,4,6-ナフタレンテトラカルボン酸チタンなどが挙げられる。
【0076】
これらの中でも、触媒としては、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)の総量(TVOC:Total Volatile Organic Compound)が低減されたポリエステルが得られやすい点で、チタン系化合物が好ましく、その中でも特に、テトラブトキシチタンが好ましい。
【0077】
触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
エステル化反応若しくはエステル交換反応、並びに重縮合反応時における重合温度は180℃以上280℃以下が好ましく、200℃以上270℃以下がより好ましい。重合温度が上記下限値以上であると、ポリエステルの生産性が向上する。重合温度が上記上限値以下であると、ポリエステルの分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制でき、TVOCを低減できる。
【0079】
重合終点は、例えばポリエステルの軟化温度により決定される。例えば、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を行った後、重合を終了させればよい。ここで、「重合を終了させる」とは、反応容器の攪拌を停止し、反応容器の内部に窒素を導入して容器内を常圧とすることをいう。必要に応じて、冷却した後に得られたポリエステルを所望の大きさに粉砕してもよい。
【0080】
1.3.2.凝集抑制剤
本実施形態の結合材は、凝集抑制剤を含む。凝集抑制剤は、粉体となった結合材の粒子を、互いに凝集させにくくする機能を有する。凝集抑制剤は、ポリエステルの粒子の表面に配置される(コーティング(被覆)等でもよい。)種のものを使用することが好ましい。なお、凝集抑制剤は、ポリエステルの粒子に対しても、結合材全体の粒子に対しても有効である。
【0081】
このような凝集抑制剤としては、無機物からなる微粒子が挙げられ、これを結合材の表面に配置することで、非常に優れた凝集抑制効果を得ることができる。なお、凝集とは、同種又は異種の物体が、静電気力やファンデルワールス力によって物理的に接して存在する状態を指す。また、複数の物体の集合体(例えば粉体)において、凝集していない状態という場合には、必ずしも当該集合体を構成する物体のすべてが離散して配置されることを指すものではない。すなわち、凝集していない状態には、集合体を構成する物体の一部が凝集している状態も含まれ、そのような凝集した物体の量が、集合体全体の10質量%以下、好ましくは5質量%以下程度となっていても、この状態を、複数の物体の集合体において「凝集していない状態」に含めるものとする。さらに、粉体を袋詰め等した場合には、粉体の粒子同士は接触して存在する状態となるが、柔和な撹拌、気流による分散、自由落下など、粒子を破壊しない程度の外力を加えることにより、粒子を離散した状態にすることができる場合は、凝集していない状態に含めるものとする。
【0082】
凝集抑制剤の材質の具体例としては、シリカ、ヒュームドシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、炭酸カルシウムを挙げることができる。
【0083】
凝集抑制剤の粒子の平均粒子径(数平均粒子径)は、特に限定されないが、好ましくは、0.001μm以上1μm以下であり、より好ましくは、0.008μm以上0.6μm以下である。凝集抑制剤の粒子は、いわゆるナノパーティクルの範疇に近く、粒子径が小さいことから、一次粒子となっていることが一般的であるが、一次粒子の複数が結合して高次の粒子となっていてもよい。凝集抑制剤の一次粒子の粒子径が上記範囲内であれば、結合材の表面に良好にコーティングを行うことができ、十分な凝集抑制効果を付与することができる。
【0084】
結合材における凝集抑制剤の含有量は、結合材100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下とすれば、上記効果を得ることができ、該効果を高め、及び/又は製造される繊維体から凝集抑制剤が脱落することを抑制する、などの観点から結合材100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上4質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上3質量部以下である。
【0085】
凝集抑制剤を結合材の表面に配置(コーティング)する方法としては、特に限定されず、溶融混練等によってポリエステルとともに凝集抑制剤を配合してもよい。しかし、このようにすると、凝集抑制剤の多くがポリエステル粒子の内部に配置されるため、凝集抑制剤の添加量に対する凝集抑制効果が小さくなる場合がある。凝集抑制剤はその凝集抑制メカニズムからして、結合材の粒子のできるだけ表面に配置されることがより好ましい。結合材の表面に凝集抑制剤を配置する態様としては、コーティング、被覆等が挙げられる。
【0086】
凝集抑制剤を結合材の表面へ配置する方法としては、両者を単に混ぜ合せ静電気力やファンデルワールス力によって表面に付着させるだけでもよいが、結合材の粉体と凝集抑制剤を高速回転するミキサーに投入し均一混合する方法が好ましい。このような装置としては公知のものが使用でき、FMミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどが挙げられる。
【0087】
このような方法により結合材の粒子の表面に凝集抑制剤の粒子を配置することができる。粒子の表面に配置された凝集抑制剤の粒子は、少なくとも一部が結合材の粒子の表面に食込むような状態又はめり込んだ状態で配置される場合があり、結合材の粒子から凝集抑制剤が脱落しにくくすることができ、安定して凝集抑制効果を奏することができる。
【0088】
1.3.3.その他の構成
結合材は、必要に応じて合成樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、難燃材、帯電抑制剤、帯電調節剤、有機溶剤、界面活性剤、防黴剤・防腐剤、酸化防止剤、酸素吸収剤等を含有してもよい。またこれらの成分は、結合材の一成分として、結合材の粒子とは別体で配合されてもよい。
【0089】
合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシ絡酸、ポリ乳酸、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。また、合成樹脂は、共重合体化や変性されていてもよく、共重合体化や変性によって非晶性としたスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系共重合樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N-ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂等を用いてもよい。
【0090】
結合材は、繊維体の原料とする場合、繊維を結着する機能を有する。また、結合材は、繊維体の原料とする場合に、繊維体の引っ張り、引き裂き等の機械的強度や紙力を維持、向上させる機能を有する。なお、このような結合材が繊維体に含まれるか否かについては、例えば、IR(赤外分光)、NMR(核磁気共鳴)、MS(質量分析)、各種クロマトグラフィー等により確認することができる。
【0091】
1.4.結合材の物性
1.4.1.結合材の粘性率
結合材は、動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い。結合材の動的粘弾性測定における150℃での粘性率は、好ましくは4000ポアズ以上、より好ましくは4500ポアズ以上、さらに好ましくは5000ポアズ以上である。結合材の動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高いことにより、繊維体を製造する際に、繊維体の表面付近の結合材が内部に向かって浸透することが抑制され、その場で濡れ拡がりやすい。これにより繊維体の表面近くにおける結合材に含
まれるポリエステルが短繊維等の微粉と結着しやすくなるので、微粉の脱落を抑制することができる。
【0092】
結合材の動的粘弾性測定における150℃での粘性率の上限は、50000ポアズ以下、好ましくは30000ポアズ以下、より好ましくは10000ポアズ以下である。結合材の動的粘弾性測定における150℃での粘性率の上限がこの程度であると、繊維体の成形の際に過度の圧力を要することなく変形、流動して広がることができる。
【0093】
結合材の動的粘弾性測定は、動的粘弾性測定装置を用いて定法に従い行うことができる。動的粘弾性装置としては、例えば、株式会社ユーピーエム社製「Rheosol G3000」が挙げられる。測定に供する結合材の形状は、特に限定されないが、例えば、ペレット状、短冊状、タブレット状とする。測定においては試料の形状に適合した治具を用いる。測定の条件としては、例えば、室温から昇温速度5℃/分で加熱し、例えば100℃から180℃の温度範囲で、周波数1Hzの応力を印加してその応答を検出する。このようにすることで、粘性率、弾性率等の温度依存性のデータが得られる。得られたデータから、150℃における粘性率を読み取ることで、結合材の動的粘弾性測定における150℃での粘性率を知ることができる。
【0094】
1.4.2.結合材のガラス転移温度
本明細書において、結合材のガラス転移温度は、上述したポリエステルのガラス転移温度と同じである。しかし結合材にガラス転移温度が異なる複数種のポリエステルが含有される場合には、結合材のガラス転移温度は、最も低いガラス転移温度を有するポリエステルのガラス転移温度と同じとする。
【0095】
結合材のガラス転移温度は、保存性の観点から65℃以上が好ましく、65℃以上85℃以下がより好ましく、70℃以上80℃以下がさらに好ましい。結合材のガラス転移温度が上記下限値以上であると、結合材の高温環境下での保存性がより向上する。結合材のガラス転移温度が上記上限値以下であると、結合材による繊維と繊維との結着性がより向上する。
【0096】
結合材のガラス転移温度は、上述したポリエステルのガラス転移温度と同様にして求めることができる。
【0097】
1.4.3.結合材の軟化温度
結合材の軟化温度は、100℃以上150℃以下が好ましく、100℃以上140℃以下がより好ましい。結合材の軟化温度がこの範囲にあれば、より良好な機械的強度を有する繊維体を形成することができる。
【0098】
結合材の軟化温度は、上述したポリエステルの場合と同様にして求めることができる。
【0099】
1.4.4.結合材の平均粒子径
結合材は、上述したミキサー等により粉砕された粉体として用いることが好ましい。結合材の粉体の粒子の体積基準の平均粒子径は、形成される繊維体の機械的強度を高めること等を考慮して適宜設定され、これに併せて粉砕、分級操作を行うことができる。結合材の好適な体積平均粒子径dは、繊維体における複合体の配合量に依存するが、配合量が5質量%以上70質量%以下である場合には、体積平均粒子径dは1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以上50μm以下である。
【0100】
さらに、複合体の粒子の体積平均粒子径は、ばらつき(分布)を有してもよく、独立した1個の複合体について、100以上のn数で得られる分布において、正規分布を仮定し
た場合に、σが0.1μm以上25μm以下、好ましくは0.1μm以上12μm以下、より好ましくは0.6μm以上6μm以下であってもよい。さらに、粒子径分布は、いわゆるバイモーダル(二山分布)やマルチモーダルとすることもでき、これにより、繊維体の強度の向上を図ることができる場合がある。粒子径分布がマルチモーダルとなる場合には、それぞれの分布のピーク付近に平均値を考えることができ、その場合の平均値については、上述の体積平均粒子径dに関して述べたと同様に設定することができる。
【0101】
また、結合材の粒子の外形形状は、球形に近いことが好ましいが、特に限定されず、円盤状、紡錘形、不定形等の形状であってもよい。結合材の粒子の全体としての体積平均粒子径は、適宜設定されるが。結合材の粒子の体積平均粒子径は、分級操作等により、体積平均粒子径、粒子径分布などを調節することができる。
【0102】
結合材の粒子の体積平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)が挙げられる。また、個数基準の粒径累積頻度は、例えば、粒子を水に懸濁させ、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製、商品名「FPIA-2000」)により行うことができる。
【0103】
1.5.結合材の製造方法
本実施形態の結合材は、例えば、ポリエステルを溶融混練する混練工程と、結合材をペレット化するペレット化工程と、ペレット化した結合材を粉砕する粉砕工程と、粉砕物に凝集抑制剤を添加して高速ミキサー等により混合する混合工程とを行うことにより製造することができる。凝集抑制剤は、混練工程で添加されてもよい。また合成樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、難燃材、帯電抑制剤、帯電調節剤、有機溶剤、界面活性剤、防黴剤・防腐剤、酸化防止剤、酸素吸収剤等を含有させる場合においても、適宜の工程で添加することができる。
【0104】
溶融混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、二本ロール、三本ロール、連続式ニーダー、連続式二本ロールなどを用いて行うことができる。粉砕は、ハンマーミル、ピンミル、カッターミル、パルペライザー、ターボミル、ディスクミル、スクリーンミル、ジェットミルなどの粉砕機で行うことができる。これらを適宜組み合わせて結合材のペレットや粉体を得ることができる。
【0105】
粉砕の工程は、まずおよその粒子径が1mm程度となるように粗く粉砕した後、目的の粒径となるように細かく粉砕するなど、段階的に行われてもよい。このような場合でも各段階において、適宜例示した装置を利用することができる。更に結合材の粉砕の効率を高めるため凍結粉砕法を用いることもできる。このようにして得られた結合材の粉体を結合材とすることができ、様々な粒径のものが含まれている場合がある。そのため、必要に応じて公知の分級装置を用いて分級してもよい。
【0106】
2.繊維体の製造方法
本実施形態の繊維体の製造方法は、上述の繊維と上述の結合材とを混合して混合物を得る工程と、混合物を加熱する工程と、を少なくとも含む。得られる繊維体は、上記の結合材と、複数の繊維と、を含み、結合材によって複数の繊維が結着されたものとなる。
【0107】
混合物を得る工程、混合物を加熱する工程は、いずれも広範な態様で行うことができる。混合物を得る工程は、例えば、繊維と結合材とを気中で混合することにより行うことができる。混合物を加熱する工程は、例えば、混合物を熱プレス、ヒートローラー等により加熱し、結合材を溶融又は軟化させることにより行うことができる。混合物を加熱する工
程における温度は、結合材の軟化温度以上の温度となるように適宜設定され得る。
【0108】
繊維体の製造方法は、混合物を得る工程、混合物を加熱する工程の他に、繊維を得る工程、繊維を処理する工程、混合物を成形する工程、混合物を加圧する工程、繊維体を成形する工程など、適宜の工程を含んでもよい。
【0109】
繊維体としてシートを製造する場合には、必要に応じて、例えば、原料としてのパルプシートや古紙などを空気中で切断する工程、原料を空気中で繊維状に解きほぐす解繊工程、解繊された解繊物から不純物や解繊によって短くなった繊維を空気中で分級する分級工程、解繊物から長い繊維(長繊維)や十分に解繊されなかった未解繊片を空気中で選別する選別工程、堆積物及び繊維体の少なくとも一方を加圧する加圧工程、繊維体を裁断する裁断工程、及び繊維体を包装する包装工程からなる群より選択される少なくとも1つの工程を含んでもよい。
【0110】
繊維体において、繊維と結合材との混合比率は、製造される繊維体の強度、用途等により適宜調節できる。繊維体がコピー用紙等のシートであれば、繊維に対する結合材の割合は、例えば5質量%以上70質量%以下である。
【0111】
本実施形態の繊維体の製造方法によれば、上述の結合材を用いるので、混合物を加熱する際に、繊維体の表面付近の結合材が内部に向かって浸透することが抑制され、結合材がその場で濡れ拡がりやすい。これにより繊維体の表面近くにおける結合材に含まれるポリエステルが短繊維等の微粉と結着しやすくなるので、微粉の脱落が抑制された繊維体を製造することができる。
【0112】
3.繊維体の製造装置
以下では繊維体としてシートを製造することのできる繊維体製造装置を説明する。
本実施形態に係る繊維体製造装置の一例について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る繊維体製造装置100を模式的に示す図である。繊維体製造装置100では、繊維体として、解繊された上述の繊維と、ポリエステルと凝集抑制剤とを含む上述の結合材と、を加熱して複数の繊維を結合材により結着させたシートSが製造される。
【0113】
繊維体製造装置100は、
図1に示すように、例えば、供給部10と、粗砕部12と、解繊部20と、選別部40と、第1ウェブ形成部45と、回転体49と、混合部50と、堆積部60と、第2ウェブ形成部70と、シート形成部80と、切断部90と、を含む。
【0114】
供給部10は、粗砕部12に原料を供給する。供給部10は、例えば、粗砕部12に原料を連続的に投入するための自動投入部である。供給部10によって供給される原料は、例えば、古紙やパルプシートなどの上述した繊維を含むものである。
【0115】
粗砕部12は、供給部10によって供給された原料を、大気中等の気中で裁断して細片にする。細片の形状や大きさは、例えば、数cm角の細片である。図示の例では、粗砕部12は、粗砕刃14を有し、粗砕刃14によって、投入された原料を裁断することができる。粗砕部12としては、例えば、シュレッダーを用いる。粗砕部12によって裁断された原料は、ホッパー1で受けてから管2を介して、解繊部20に移送される。
【0116】
解繊部20は、粗砕部12によって裁断された原料を解繊する。ここで、「解繊する」とは、複数の繊維が結着されてなる原料を、繊維1本1本に解きほぐすことをいう。解繊部20は、原料に付着した樹脂粒やインク、トナー、にじみ防止剤等の物質を、繊維から分離させる機能をも有する。
【0117】
解繊部20を通過したものを「解繊物」という。「解繊物」には、解きほぐされた解繊物繊維の他に、繊維を解きほぐす際に繊維から分離した樹脂粒や、インク、トナーなどの色剤や、にじみ防止材、紙力増強剤等の添加剤を含んでいる場合もある。解きほぐされた解繊物の形状は、ひも状である。解きほぐされた解繊物は、他の解きほぐされた繊維と絡み合っていない状態、すなわち独立した状態で存在してもよいし、他の解きほぐされた解繊物と絡み合って塊状となった状態、すなわちダマを形成している状態で存在してもよい。
【0118】
解繊部20は、乾式で解繊を行う。ここで、液体中ではなく、大気中等の気中において、解繊等の処理を行うことを乾式と称する。解繊部20としては、例えば、インペラーミルを用いる。解繊部20は、原料を吸引し、解繊物を排出するような気流を発生させる機能を有している。これにより、解繊部20は、自ら発生する気流によって、導入口22から原料を気流と共に吸引し、解繊処理して、解繊物を排出口24へと搬送することができる。解繊部20を通過した解繊物は、管3を介して、選別部40に移送される。なお、解繊部20から選別部40に解繊物を搬送させるための気流は、解繊部20が発生させる気流を利用してもよいし、ブロアー等の気流発生装置を設け、その気流を利用してもよい。
【0119】
選別部40は、解繊部20により解繊された解繊物を導入口42から導入し、繊維の長さによって選別する。選別部40は、ドラム部41と、ドラム部41を収容するハウジング部43と、を有している。ドラム部41としては、例えば、篩を用いる。ドラム部41は、網を有し、網の目開きの大きさより小さい繊維又は粒子、すなわち網を通過する第1選別物と、網の目開きの大きさより大きい繊維や未解繊片やダマ、すなわち網を通過しない第2選別物と、を分けることができる。例えば、第1選別物は、管7を介して、堆積部60に移送される。第2選別物は、排出口44から管8を介して、解繊部20に戻される。具体的には、ドラム部41は、モーターによって回転駆動される円筒の篩である。ドラム部41の網としては、例えば、金網、切れ目が入った金属板を引き延ばしたエキスパンドメタル、金属板にプレス機等で穴を形成したパンチングメタルを用いる。
【0120】
第1ウェブ形成部45は、選別部40を通過した第1選別物を、管7に搬送する。第1ウェブ形成部45は、メッシュベルト46と、張架ローラー47と、サクション機構48と、を含む。
【0121】
サクション機構48は、選別部40の開口を通過して空気中に分散された第1選別物をメッシュベルト46上に吸引することができる。第1選別物は、移動するメッシュベルト46上に堆積し、ウェブVを形成する。メッシュベルト46、張架ローラー47、及びサクション機構48の基本的な構成は、後述する第2ウェブ形成部70のメッシュベルト72、張架ローラー74、及びサクション機構76と同様である。
【0122】
ウェブVは、選別部40及び第1ウェブ形成部45を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態に形成される。メッシュベルト46に堆積されたウェブVは、管7へ投入され、堆積部60へと搬送される。
【0123】
回転体49は、ウェブVを切断することができる。図示の例では、回転体49は、基部49aと、基部49aから突出している突部49bと、を有している。突部49bは、例えば、板状の形状を有している。図示の例では、突部49bは4つ設けられ、4つの突部49bが等間隔に設けられている。基部49aが方向Rに回転することにより、突部49bは、基部49aを軸として回転することができる。回転体49によってウェブVを切断することにより、例えば、堆積部60に供給される単位時間当たりの解繊物の量の変動を小さくすることができる。
【0124】
回転体49は、第1ウェブ形成部45の近傍に設けられている。図示の例では、回転体49は、ウェブVの経路において下流側に位置する張架ローラー47aの近傍に設けられている。回転体49は、突部49bがウェブVと接触可能な位置であって、ウェブVが堆積されるメッシュベルト46と接触しない位置に設けられている。これにより、メッシュベルト46が突部49bによって磨耗することを抑制することができる。突部49bとメッシュベルト46との間の最短距離は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。これは、メッシュベルト46が損傷を受けずにウェブVを切断することが可能な距離である。
【0125】
混合部50は、選別部40を通過した第1選別物と、上述した結合材と、必要に応じて添加される添加剤からなる添加物を混合する。混合部50は、添加物を供給する添加物供給部52と、第1選別物と添加物とを搬送する管54と、ブロアー56と、を有している。図示の例では、添加物は、添加物供給部52からホッパー9を介して管54に供給される。管54は、管7と連続している。
【0126】
混合部50では、ブロアー56によって気流を発生させ、管54中において、第1選別物と添加物とを混合させながら、搬送することができる。なお、第1選別物と添加物とを混合させる機構は、特に限定されず、高速回転する羽根により攪拌するものであってもよいし、V型ミキサーのように容器の回転を利用するものであってもよい。
【0127】
添加物供給部52としては、
図1に示すようなスクリューフィーダーや、図示せぬディスクフィーダーなどを用いる。添加物供給部52から供給される添加物は、上述の結合材を含む。結合材が供給された時点では、複数の繊維は結着されていない。結合材は、シート形成部80を通過する際に溶融して、複数の繊維を結着させる。
【0128】
なお、添加物供給部52から供給される添加物には、結合材の他、製造されるシートの種類に応じて、繊維を着色するための着色剤や、繊維の凝集や結合材の凝集を抑制するための凝集抑制剤、繊維等を燃えにくくするための難燃剤が含まれていてもよい。混合部50を通過した混合物は、管54を介して、堆積部60に移送される。
【0129】
堆積部60は、混合部50を通過した混合物を導入口62から導入し、絡み合った解繊物をほぐして、空気中で分散させながら降らせる。これにより、堆積部60は、第2ウェブ形成部70に、混合物を均一性よく堆積させることができる。
【0130】
堆積部60は、ドラム部61と、ドラム部61を収容するハウジング部63と、を有している。ドラム部61としては、回転する円筒の篩を用いる。ドラム部61は、網を有し、混合部50を通過した混合物に含まれる、網の目開きの大きさより小さい繊維や結合材の粒子を降らせる。ドラム部61の構成は、例えば、ドラム部41の構成と同じである。
【0131】
なお、ドラム部61の「篩」は、特定の対象物を選別する機能を有していなくてもよい。すなわち、ドラム部61として用いられる「篩」とは、網を備えたもの、という意味であり、ドラム部61は、ドラム部61に導入された混合物の全てを降らしてもよい。
【0132】
第2ウェブ形成部70は、堆積部60を通過した通過物を堆積して、ウェブWを形成する。第2ウェブ形成部70は、例えば、メッシュベルト72と、張架ローラー74と、サクション機構76と、を有している。
【0133】
メッシュベルト72は、移動しながら、堆積部60の開口を通過した通過物を堆積する。メッシュベルト72は、張架ローラー74によって張架され、通過物を通しにくく空気
を通す構成となっている。メッシュベルト72は、張架ローラー74が自転することによって移動する。メッシュベルト72が連続的に移動しながら、堆積部60を通過した通過物が連続的に降り積もることにより、メッシュベルト72上にウェブWが形成される。
【0134】
サクション機構76は、メッシュベルト72の下方に設けられている。サクション機構76は、下方に向く気流を発生させることができる。サクション機構76によって、堆積部60により空気中に分散された混合物をメッシュベルト72上に吸引することができる。これにより、堆積部60からの排出速度を大きくすることができる。さらに、サクション機構76によって、混合物の落下経路にダウンフローを形成することができ、落下中に解繊物や添加物が絡み合うことを防ぐことができる。
【0135】
以上のように、堆積部60及び第2ウェブ形成部70を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態のウェブWが形成される。メッシュベルト72に堆積されたウェブWは、シート形成部80へと搬送される。
【0136】
なお、図示の例では、ウェブWを調湿する調湿部78が設けられている。調湿部78は、ウェブWに対して水や水蒸気を添加して、ウェブWと水との量比を調節することができる。
【0137】
シート形成部80は、メッシュベルト72に堆積したウェブWを加圧加熱してシートSを成形する。シート形成部80では、ウェブWにおいて混ぜ合された解繊物及び添加物の混合物に、熱を加えることにより、混合物中の複数の繊維を、互いに添加物を介して結着することができる。
【0138】
シート形成部80は、ウェブWを加圧する加圧部82と、加圧部82により加圧されたウェブWを加熱する加熱部84と、を備えている。加圧部82は、一対のカレンダーローラー85で構成され、ウェブWに対して圧力を加える。ウェブWは、加圧されることによりその厚さが小さくなり、ウェブWのかさ密度が高められる。加熱部84としては、例えば、加熱ローラー、熱プレス成形機、ホットプレート、温風ブロワー、赤外線加熱器、フラッシュ定着器を用いる。図示の例では、加熱部84は、一対の加熱ローラー86を備えている。加熱部84を加熱ローラー86として構成することにより、加熱部84を板状のプレス装置として構成する場合に比べて、ウェブWを連続的に搬送しながらシートSを成形することができる。カレンダーローラー85と加熱ローラー86は、例えば、それらの回転軸が平行になるように配置される。ここで、カレンダーローラー85は、加熱ローラー86によってウェブWに印加される圧力よりも高い圧力をウェブWに印加することができる。なお、カレンダーローラー85や加熱ローラー86の数は、特に限定されない。
【0139】
切断部90は、シート形成部80によって成形されたシートSを切断する。図示の例では、切断部90は、シートSの搬送方向と交差する方向にシートSを切断する第1切断部92と、搬送方向に平行な方向にシートSを切断する第2切断部94と、を有している。第2切断部94は、例えば、第1切断部92を通過したシートSを切断する。
【0140】
以上により、所定のサイズの単票のシートSが成形される。切断された単票のシートSは、排出部96へと排出される。
【0141】
本実施形態の繊維体の製造装置によれば、上述の結合材を用いるので、結合材によって繊維粉等のパーティクルの発生が抑制される。これにより例えば装置内のパーティクルの堆積を小さく抑えることができる。
【0142】
4.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0143】
4.1.評価試料の作成
4.1.1.実施例1
以下のようにして実施例1の結合材を得た。
【0144】
4.1.1.(1)ポリエステルの合成
酸成分100モル部に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)72モル部と、テレフタル酸27.9モル部と、アジピン酸0.1モル部と、ポリオキシプロピレン-(2..3)-2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン24モル部と、トリメチロールプロパン2モル部と、触媒としてテトラブトキシチタンを酸成分に対して500ppmとを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。なお、PETは、テレフタル酸1モル及びエチレングリコール1モルからなるユニットをPET 1モルとし、PET1モルにつき、PET由来のテレフタル酸は酸成分1モルとして、PET由来のエチレングリコールはアルコール成分1モルとして、それぞれカウントする。次いで、反応容器中の撹拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持してエステル化反応を行った。反応系からの水の留出がなくなった時点で、エステル化反応を終了した。
【0145】
次いで、反応系内の温度を下げて255℃に保ち、反応容器内を約20分かけて減圧し、真空度を133Paとし、反応系から多価アルコールを留出させながら重縮合反応を行った。反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに真空度を上昇させ、撹拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで縮合反応を実施した。そして、所定のトルクを示した時点で撹拌を停止し、反応系を常圧に戻し、窒素により加圧して反応物を反応容器から取り出し、ポリエステルを得た。得られたポリエステルを室温まで冷却し固化させた後、ロートプレックスで粗粉砕した。
【0146】
4.1.1.(2)ポリエステルのサイズ調整
粗粉砕したポリエステルをハンマーミル(株式会社ダルトン製、商品名「ラボミルLM-5」)で直径1mm以下の粒になるまで粉砕した。さらに粉砕した粒子をジェットミル(日本ニューマチック社製、商品名「PJM-80SP」)により粉砕し、最大粒子径が40μm以下の粒子を得た。この粒子を気流分級機(日本ニューマチック社製、商品名「MDS-3」)により分級し、体積平均粒子径を8μmとなるようにした。
【0147】
4.1.1.(3)ポリエステルの粒子への凝集抑制剤のコーティング
未コーティングのポリエステルの粒子100重量部と、凝集抑制剤としてヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「AEROSIL R972」)1重量部とを、ブレンダ―(Waring社製、商品名「ワーリングブレンダー7012型」)に投入し、回転数15600rpmで60秒間混合を行った。当該処理を行った樹脂粒子は、ガラス容器に取り分け、室温で24時間放置したところ、樹脂が凝集して塊化(ブロッキング)になることは認められず、流動性のある粉粒体の状態を維持していた。このことより凝集抑制剤がコーティングされ、凝集されない状態が維持されていることを確認した。なお、得られた結合材のTgは、65℃であった。
【0148】
4.1.1.(4)実施例1のシート(繊維体)の製造
シートの原料である繊維として粉末セルロース(日本製紙株式会社製、商品名「KCフロックW50-S」)を用いた。この繊維を20重量部と、上記結合素材の製造で得られた結合素材を5重量部とをブレンダ―(Waring社製、商品名「ワーリングブレンダー7012型」)に投入し、回転数3100rpmで7秒間混合を行い、繊維と結合材の
混合物を得た。
【0149】
得られた混合物40重量部を目開き0.6mmの直径200mmのふるいに投入し、直径250mm(板厚1mm)のフッ素樹脂コートアルミ円板(住友電工ファインポリマー社製、商品名「スミフロンコートアルミ」)上に、電気ふるい振とう機(レッチェ社製、商品名「AS-200」)を用いて堆積させた。堆積させた混合材上に更に同径のフッ素樹脂コートアルミ円板を載せて、プレス機でシートにかかる圧力が1MPaになるように加圧した。
【0150】
加圧した混合物を加熱する方法は、アルミ板で挟み込んだ状態で加熱プレスにセットして、150℃で15秒間加熱した。圧解放し室温で放置して常温まで冷却した。アルミ板から混合物をはがしとり、シートを得た。この加熱プレス方法は結合材をセルロース間に十分に含浸した状態を形成できる。そのため形成されたシートが本来持つ引張強度や剛性を発現する。得られたシート厚さは、約130μmであった。
【0151】
4.1.2.実施例2
結合材の製造及びシートの製造は、実施例1と同様とし、結合材の体積平均粒子径を12μmとした。
【0152】
4.1.3.実施例3
結合材の製造及びシートの製造は実施例1と同様とし、結合材の体積平均粒子径を20μmとした。
【0153】
4.1.4.比較例1
ポリエステルの合成は実施せず、実施例1~3で用いたポリエステルの代わりに、市販の樹脂である、東洋紡社製ポリエステル「バイロン220」(Tg=54℃)を使用した。
【0154】
サイズ調整と凝集抑制剤のコーティングを実施例1と同様にして、体積平均粒子径が12μmである比較例1の結合材を得た。シートの製造は実施例1と同様とした。
【0155】
4.1.5.比較例2
ポリエステルを以下のように合成した。撹拌機、窒素ガス導入口、温度計を備えた4つ口の5Lステンレスフラスコに、エチレングリコール25.5モル、1,2-プロピレングリコール25.5モル、テレフタル酸47.2モル、無水トリメリット酸1.8モルの比率で仕込み、120℃で加熱溶融させた後、チタンテトライソプロポキシドを添加した。窒素気流下にて240℃まで昇温し3時間反応した後、220℃、5kPaで3時間反応した。得られたポリエステルを室温まで冷却し固化させた後、ロートプレックスで粗粉砕した。
【0156】
サイズ調整と凝集抑制剤のコーティングを実施例1と同様にして、体積平均粒子径が12μmである比較例1の結合材を得た。シートの製造は実施例1と同様とした。なお、得られた結合材のTgは65℃であった。
【0157】
4.2.評価方法
4.2.1.ガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査熱量計(DSC)(リガク社製、商品名「Thermo Plus EVO2
DSC8231」)を用いて測定を行った。アルミパンに試料を10mg計量し、基準試料としてAl2O3粉末を10mg計量した。一度150℃まで昇温した後0℃まで冷却し、再び昇温速度20℃/minで150℃まで昇温した時に得られたDSC曲線の低
温側のベースラインの延長線と、階段状変化部分の曲線の勾配が最大となる点で引いた接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。各例の結合材について測定した結果を表1に記載した。
【0158】
4.2.2.軟化温度の測定
フローテスター(島津製作所株式会社製、商品名「CFT-500D」)を用いた。1.0gの試料を昇温速度5℃/minで加熱しながら、20kgfの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対してストロークをプロットし、試料の半量が流出したときの温度を軟化温度とした。各例の結合材について測定した結果を表1に記載した。
【0159】
4.2.3.結合材の粘度動的粘弾性測定
結合材の動的粘弾性測定には株式会社ユービーエム社のRheosol G3000を使用した。結合素材を内径φ20mmのシリンダーに0.7g入れ、1.5ton/cm
2で加圧し、ペレット状とした。チャックにはパラレルプレートを使用し、昇温温度5℃/minで加熱しながら100℃から180℃の温度範囲で、測定周波数1Hzで測定を行った。各例の結合材について150℃における粘性率の値を表1に記載した。また、表2には、各温度における粘性率の値を記載した。さらに粘性率の温度依存性を示すグラフを
図2に示した。なお、実施例1~3は、材質が同様であるので、実施例1の結果を記載した。
【0160】
4.2.4.シート(繊維体)から発生する紙粉量の測定
製造した各例のシートにそれぞれ低粘着性テープであるフィルムマスキングテープ605#50(株式会社寺岡製作所社製)を20mm×20mmのサイズにカットしたものを貼り付けた。テープを取り外し、テープをキーエンス社製顕微鏡VHX-5000で観察し、テープに転写された紙粉の数を計測した。20mm×20mmサイズのテープに転写された紙粉の数が10個以下の場合は「A」、11個以上50個以下の場合は「B」、51個以上の場合を「C」として、評価結果を表1に記載した。
【0161】
4.2.5.引張強さの測定
各例で得られたシートをJIS P8113に準じて引張試験を行った。シートは熱プレスにより製造したシートを使用した。シートを試験片(全長180mm)に切り出した後、引張試験機(島津製作所社製、商品名「AGS-X」)にセットし、伸長速度20mm/minで引張試験を実施した。試験片が破断するまでの最大荷重から、試験片の破断応力(MPa)を求めて引張強さとした。引張試験はJIS P8111に準じ、室温23℃湿度50%の環境下で行った。引張強度は実用的な引張強度として15MPaを基準として判断した。15MPa以上のものを「A」、15MPa未満のものを「B」として結果を表1に記載した。
【0162】
4.2.6.収容容器内における結合材の保存安定性
収容容器における結合材の保存安定性は、結合材を収容容器に入れて50℃環境で保存試験を行い、粉体の流動性に初期と変化が見られないものを「A」、目視で流動性に変化が見られたものを「B」とし、結果を表1に記載した。
【0163】
【0164】
【0165】
4.3.評価結果
体積平均粒子径が12μmである実施例2と比較例1のシートから発生する紙粉量を比較した場合、実施例2のほうが少なかった。またTgが同等の比較例2と比べても、実施例のいずれもシートから発生する紙粉量が少なかった。この結果は、結合材が溶融した場合の粘性率の影響によると考えられる。
【0166】
実施例の150℃での粘性率は、各比較例より高かった。シートを製造する際に150℃で加熱した場合、粘性率が高いとシートの厚さ方向への浸透が抑制され、加圧によりその場で濡れ拡がることに起因していると考えられる。これによりシートの表面近くで結合材が拡がることで、短繊維の脱落を抑制できたためと考えられる。ただし粘性率が高すぎると加圧しても結合材の拡がりが悪くなるため、粘性率の範囲としては3500ポアズより大きく50000ポアズより低い範囲が好ましいと考えられる。
【0167】
また、実施例1~3を比較した場合、体積平均粒子径が小さいほど紙粉量が少なくなった。また体積平均粒子径が20μmである実施例3では、シートの引張強さが実用基準を満たさなかった。これはシートの形成を重量比率で行っているため、粒子径が大きい場合、同じ重量中の粒子の数が粒子径が小さい場合に比べて少なくなり、結合材と繊維との接着点が減ることに起因したものと考えられる。
【0168】
さらに、Tgが65℃以上である実施例1~3、比較例1では、収容容器での50℃での保存試験において結合素材の流動性に変化は見られなかった。一方Tgが54℃の比較例1では結合素材が凝集するブロッキングが見られた。
【0169】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0170】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0171】
結合材の一態様は、
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、繊維と繊維とを結着させる、繊維体形成用の結合材であって、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い。
【0172】
この結合材は、150℃での粘性率が十分に高い。そのため繊維体を製造する際に、繊維体の表面付近の結合材が内部に向かって浸透することが抑制され、その場で濡れ拡がりやすい。これにより繊維体の表面近くにおける結合材に含まれるポリエステルが短繊維等の微粉と結着しやすくなるので、微粉の脱落を抑制することができる。
【0173】
上記結合材の態様において、
前記結合材のガラス転移温度は、65℃以上であってもよい。
【0174】
この結合材によれば、室温よりも高い温度で保存した場合に、結合材の粉体の流動性に変化が生じにくく、結合材の粉体が凝集するブロッキングを抑制することができ、保存安定性がより良好である。
【0175】
上記結合材の態様において、
前記結合材の軟化温度は、150℃以下であってもよい。
【0176】
この結合材によれば、より良好な機械的強度を有する繊維体を形成することができる。
【0177】
上記結合材の態様において、
前記結合材の体積平均粒子径は、12μm以下であってもよい。
【0178】
この結合材によれば、繊維体を製造する際に、さらに微粉の脱落を抑制することができる。またこの結合材によれば、より良好な機械的強度を有する繊維体を形成することができる。
【0179】
繊維体形成装置の一態様は、
上記いずれかの態様の結合材を備える。
【0180】
この繊維体形成装置によれば、繊維体を製造する際に、結合材によって繊維粉等のパーティクルの発生が抑制される。これにより例えば装置内のパーティクルの堆積を小さく抑えることができる。
【0181】
繊維体形成方法の一態様は、
繊維と結合材とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
を含む繊維体形成方法であって、
前記結合材は、
ポリエステルと、凝集抑制剤と、を含み、
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位と、多価カルボン酸に由来する構成単位と、多価アルコールに由来する構成単位と、を含み、
前記多価アルコールは、トリメチロールプロパンを含み、
動的粘弾性測定における150℃での粘性率が3500ポアズよりも高い。
【0182】
この繊維体形成方法によれば、150℃での粘性率が十分に高い結合材を用いる。そのため混合物を加熱する際に、繊維体の表面付近の結合材が内部に向かって浸透することが抑制され、結合材がその場で濡れ拡がりやすい。これにより繊維体の表面近くにおける結合材に含まれるポリエステルが短繊維等の微粉と結着しやすくなるので、微粉の脱落が抑制された繊維体を製造することができる。
【符号の説明】
【0183】
1…ホッパー、2,3,7,8…管、9…ホッパー、10…供給部、12…粗砕部、14…粗砕刃、20…解繊部、22…導入口、24…排出口、40…選別部、41…ドラム部、42…導入口、43…ハウジング部、44…排出口、45…第1ウェブ形成部、46…メッシュベルト、47,47a…張架ローラー、48…サクション機構、49…回転体、49a…基部、49b…突部、50…混合部、52…添加物供給部、54…管、56…ブロアー、60…堆積部、61…ドラム部、62…導入口、63…ハウジング部、70…第2ウェブ形成部、72…メッシュベルト、74…張架ローラー、76…サクション機構、78…調湿部、80…シート形成部、82…加圧部、84…加熱部、85…カレンダーローラー、86…加熱ローラー、90…切断部、92…第1切断部、94…第2切断部、96…排出部、100…繊維体製造装置