(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240521BHJP
B23K 26/352 20140101ALN20240521BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/352
(21)【出願番号】P 2020117143
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岸 哲人
(72)【発明者】
【氏名】大倉 康嗣
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-197428(JP,A)
【文献】特開昭58-130582(JP,A)
【文献】特開2014-192347(JP,A)
【文献】特開2016-76694(JP,A)
【文献】特開2015-153874(JP,A)
【文献】特開2013-4957(JP,A)
【文献】特開2004-289047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
表面(2a)と、裏面(2b)と、前記表面と前記裏面とを繋ぐ側面(2c)とを有する半導体素子(2)と、
前記半導体素子の前記側面を覆う封止材(3)と、を備え、
前記半導体素子は、前記表面が前記裏面よりも平面サイズが大きく、かつ前記表面の少なくとも一部が前記封止材から露出
するとともに、前記表面と前記裏面とを繋ぐ貫通孔(25)を有し、
前記貫通孔は、前記裏面の外郭近傍に配置され、前記封止材により充填されており、前記側面のうち前記貫通孔に隣接する隣接側面に連通する貫通溝であり、
前記側面のうち前記裏面の側の端部から前記表面に向かう少なくとも一部の領域は、前記表面に対する法線方向から見て、前記表面の外郭よりも内側に向かうように傾斜したテーパー部(24)であり、
前記テーパー部は、ナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部(241)を有する、半導体装置。
【請求項2】
半導体装置であって、
表面(2a)と、裏面(2b)と、前記表面と前記裏面とを繋ぐ側面(2c)とを有する半導体素子(2)と、
前記半導体素子の前記側面を覆う封止材(3)と、を備え、
前記半導体素子は、所定以上の電流が生じるパワー半導体素子であるとともに、前記表面が前記裏面よりも平面サイズが大きく、かつ前記表面の少なくとも一部が前記封止材から露出しており、
前記側面の全域は、前記表面に対する法線方向から見て、前記表面の外郭よりも内側に向かうように傾斜したテーパー部(24)であり、
前記テーパー部は、ナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部(241)を有する、半導体装置。
【請求項3】
前記側面のうち前記テーパー部と前記表面とのなす角度をテーパー角度(θ)として、前記テーパー角度は、45°以上90°未満である、請求項1
または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体素子は、SiCを主成分とする半導体基板により構成され、厚みが200μm以下である、請求項1
ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ナノ凹凸部は、ナノメートルオーダーの凹凸が繰り返されたナノ周期構造である、請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の側面が封止材に覆われてなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の半導体装置としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の半導体装置は、ダイパッドとリードを有するリードフレームと、ダイパッド上に搭載される半導体素子と、リードと半導体素子とを繋ぐワイヤと、これらを封止する樹脂材料によりなる封止材とを備える。
【0003】
この半導体装置は、ダイパッドのうち半導体素子が搭載される表面とは異なる側面に凹部または凸部が形成されている。これにより、封止材と金属材料によりなるダイパッドとの線膨張係数の差に起因して応力が生じても、ダイパッドの側面の凹部または凸部により封止材との界面における剥離が抑制され、信頼性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体装置の分野では、薄型化が進められている。本発明者らは、例えば、リードフレームを有さず、半導体素子が側面を封止材で覆われ、電極が形成された表面が封止材から露出した半導体装置を検討している。
【0006】
しかしながら、半導体素子の表面が外部に露出する構造の半導体装置は、半導体素子の薄型化が進むと、半導体素子と封止材との接触面積が減少するため、封止材から露出した面側からこれらの界面で剥離が生じ、当該剥離が裏面側に伸展することが懸念される。半導体素子の側面と封止材との界面剥離が伸展すると、半導体素子のうち側面以外の封止材に覆われた被覆面側における封止材の剥離、あるいは封止材のクラックが生じ得る。そのため、半導体素子の薄型化に際しては、信頼性の確保の観点から、半導体素子の側面と封止材との剥離の伸展抑制が必要となる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、半導体素子の表面が外部に露出し、側面が封止材に覆われている半導体装置において、半導体素子の側面と封止材との界面剥離の伸展を抑制し、薄型化と信頼性向上とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置は、半導体装置であって、表面(2a)と、裏面(2b)と、表面と裏面とを繋ぐ側面(2c)とを有する半導体素子(2)と、半導体素子の側面を覆う封止材(3)と、を備え、半導体素子は、表面が裏面よりも平面サイズが大きく、かつ表面の少なくとも一部が封止材から露出するとともに、表面と裏面とを繋ぐ貫通孔(25)を有し、貫通孔は、裏面の外郭近傍に配置され、封止材により充填されており、側面のうち貫通孔に隣接する隣接側面に連通する貫通溝であり、側面のうち裏面の側の端部から表面に向かう少なくとも一部の領域は、断面形状がテーパー形状であるテーパー部(24)であり、テーパー部は、ナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部(241)を有する。
また、請求項2に記載の半導体装置は、半導体装置であって、表面(2a)と、裏面(2b)と、表面と裏面とを繋ぐ側面(2c)とを有する半導体素子(2)と、半導体素子の側面を覆う封止材(3)と、を備え、半導体素子は、所定以上の電流が生じるパワー半導体素子であるとともに、表面が裏面よりも平面サイズが大きく、かつ表面の少なくとも一部が封止材から露出しており、側面の全域は、表面に対する法線方向から見て、表面の外郭よりも内側に向かうように傾斜したテーパー部(24)であり、テーパー部は、ナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部(241)を有する。
【0009】
これによれば、半導体素子の側面のうち裏面の側の端部から少なくとも一部の領域がナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部となっており、ナノ凹凸部においてアンカー効果により封止材との密着性が向上した構造の半導体装置となる。そのため、半導体素子の側面と封止材との界面における剥離が半導体素子の表面側から生じたとしても、ナノ凹凸部により剥離伸展が抑制され、信頼性が向上する。また、側面にナノ凹凸部を設けることにより、半導体素子の側面と封止材との接触面積が減少した構造であっても、ナノ凹凸部により封止材との密着性が向上するため、薄型化と側面における封止材の剥離伸展抑制による信頼性向上とを両立できる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【
図2】
図1のII方向から見た半導体装置を示す平面図である。
【
図3】
図1のIII領域における半導体素子の構成を示す拡大断面図である。
【
図4】半導体素子の側面におけるナノ凹凸部を示す図である。
【
図5A】第1実施形態の半導体装置の製造工程のうち基板の用意工程を示す断面図である。
【
図5G】
図5Fの工程で形成される基板の側面の最表面における形状を示す図である。
【
図6】第1実施形態の半導体装置の変形例を示す断面図である。
【
図7】
図2に相当する図であって、第2実施形態の半導体装置を示す平面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII間の断面を示す断面図である。
【
図9】第2実施形態の半導体装置の変形例を示す平面図である。
【
図10】
図9のX-X間の断面を示す断面図である。
【
図11】他の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0014】
図2では、後述する半導体素子2の表面2aと裏面2bとの大小関係を分かりやすくするため、封止材3の他面3b側から見たときに目視できない半導体素子2の表面2aの外郭を破線で示している。また、
図2では、見やすくするため、後述する第3電極23を省略している。
図3では、後述するテーパー部24の傾斜についての説明の便宜上、テーパー部24における後述するナノ凹凸部241の一部を省略している。
図4は、後述する半導体素子2の側面2cのうちテーパー部24の最表面近傍を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮像して得られたSEM写真に、大きさを示すスケールおよび符号を付したものである。
【0015】
〔構成〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図1に示すように、表面2aが裏面2bよりも平面サイズが大きい板状の半導体素子2と、半導体素子2のうち表面2aと裏面2bとを繋ぐ側面2cを覆う封止材3と、を備える。半導体装置1は、例えば、半導体素子2の表面2aおよび裏面2bに形成された各電極21~23が封止材3から露出しており、外部電源等と半導体素子2の図示しないデバイス部とが接続可能な構成となっている。
【0016】
半導体素子2は、例えば、炭化珪素(SiC)を主成分とする半導体基板に図示しないデバイス部が形成されてなり、パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistorの略)等のパワー素子である。半導体素子2は、例えば、薄型化されたパワー素子であり、図示しないデバイス部については公知のパワー半導体素子の製造プロセスにより製造される。半導体素子2は、例えば、限定するものではないが、オン抵抗低減による性能向上の観点から、厚みが好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下の薄肉化がなされた構成となっている。半導体素子2は、例えば、
図1に示すように、表面2aに第1電極21と第2電極22とを有し、裏面2bに第3電極23を有する。半導体素子2は、例えば、MOSFETである場合には、第1電極21がソース電極、第2電極22がゲート電極、第3電極23がドレイン電極とされ、表面2aと裏面2bとを繋ぐ方向に電流が生じる縦型のパワー素子とされ得る。
【0017】
なお、説明の便宜上、表面2aに形成される電極21、22を「表面電極」と、裏面2bに形成される第3電極23を「裏面電極」と称することがある。また、半導体素子2の表面電極および裏面電極は、図示しないデバイス部のパターンや種類に応じて、サイズ、数、配置等が適宜変更されてもよい。
【0018】
半導体素子2は、例えば
図1や
図2に示すように、表面2aが裏面2bよりも平面サイズが大きい形状となっている。具体的には、半導体素子2は、側面2cのうち少なくとも裏面2b側の端部から表面2aに向かう一部の領域が、断面視にて傾斜したテーパー形状とされたテーパー部24となっている。言い換えると、半導体素子2の側面2cの一部は、表面2aに対する法線方向から見て、表面2aの外郭よりも内側に向かうように傾斜した傾斜面であるテーパー部24となっている。半導体素子2は、表面2aの少なくとも一部が封止材3から露出すると共に、少なくとも側面2cが封止材3に覆われている。
【0019】
テーパー部24は、例えば
図3に示すように、側面2cのうちテーパー部24のなす傾斜面と半導体素子2の表面2aのなす面とのなす角度をテーパー角度θとして、限定するものではないが、テーパー角度θが45°以上90°未満の範囲となっている。側面2cの少なくとも一部が傾斜したテーパー部24とされることで、テーパー角度θが90°である場合に比べて、側面2cの面積、ひいては封止材3との接触面積が増加し、半導体素子2の側面2cと封止材3との密着性向上に寄与する。また、後述する封止材3の成形時に、側面2cのうち少なくともテーパー部24とされる裏面2b側の端部を含む領域は、封止材3の材料が流れ込みやすい形状となるため、封止材3の成形性が向上する効果も得られる。
【0020】
なお、本実施形態では、
図1に示すように側面2cの全域がテーパー部24である場合を代表例として説明するが、これに限定されるものではなく、側面2cのうち裏面2bの端部からの一部の領域のみがテーパー部24であってもよい。例えば、裏面2bに対する法線方向から半導体素子2を見たとき、テーパー部24は、裏面2bを囲む枠体状、かつ側面2cのうち裏面2b側の端部からの一部の領域とされてもよい。
【0021】
テーパー部24は、例えば
図3に示すように、最表面がナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ凹凸部241となっており、半導体素子2のうちナノ凹凸部241とは異なる部分に比べて封止材3との密着性が向上している。具体的には、テーパー部24のうちナノ凹凸部241は、例えば
図4に示すように、1μm未満の溝、すなわちナノメートルオーダーの凹凸が繰り返し形成された周期的なナノ周期構造となっている。これにより、半導体素子2の側面2cのうち表面2a側の端部から封止材3の剥離が生じたとしても、ナノ凹凸部241を備えるテーパー部24により当該剥離の伸展が抑制され、半導体装置1の信頼性が向上する。テーパー部24およびナノ凹凸部241は、半導体素子2の裏面2bから表面2aに向かう方向にフェムト秒間隔でレーザー光を繰り返し照射する加工(以下「フェムト秒レーザー加工」という)を施すことにより形成される。この詳細については、後述する製造方法にて説明する。
【0022】
封止材3は、例えば、エポキシ樹脂等の任意の絶縁性樹脂材料によりなる。封止材3は、例えば、コンプレッション成形等の任意の樹脂成型方法により形成される。封止材3は、半導体素子2のうち少なくとも側面2cを覆うように形成される。
【0023】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。つまり、半導体装置1は、半導体素子2の側面2cが封止材3に覆われると共に、側面2cのうち少なくとも裏面2bの端部からの一部の領域が封止材3との密着性が向上させるためのナノ凹凸部241を備えるテーパー部24となっている。
【0024】
〔製造方法〕
次に、本実施形態の半導体装置1の製造方法の一例について、
図5A~
図5Jを参照して説明する。
【0025】
図5Gは、
図5F中に二点鎖線で示す領域VGに相当する断面について撮像したSEM写真に、大きさを示すスケールを付したものである。
【0026】
まず、例えば
図5Aに示すように、公知の半導体プロセスにより図示しないデバイス部および第1電極21および第2電極22が形成された炭化珪素基板20を用意する。炭化珪素基板20は、例えば、限定するものではないが、厚みが350μm~500μm程度のウェハとされ、複数の図示しないデバイス部および電極21、22が形成されたものである。なお、炭化珪素基板20の表面20aは、後ほど形成される半導体素子2の表面2aとなる面である。
【0027】
続いて、例えば
図5Bに示すように、ガラス等により構成された支持基板100を用意し、接着剤110により炭化珪素基板20の表面20a側を支持基板100に貼り付けて一時的に固定する。このとき、例えば、支持基板100に接着剤110をディスペンサー等で塗布し、炭化珪素基板20の表面20a側を貼り付けた後、接着剤110を硬化させることにより
図5Bに示す状態となる。接着剤110としては、例えば、アクリル等の成分を含む紫外線硬化性の任意の接着材料が用いられ得るが、これに限定されるものではない。
【0028】
次いで、例えば
図5Cに示すように、炭化珪素基板20の裏面20b側から薄肉化し、厚みを100μm以下とする。これにより、半導体素子2の裏面2bが形成される。炭化珪素基板20の薄肉化は、例えば、図示しないグラインダーを用いた研削等の機械加工により行われ得る。なお、この薄肉化工程の後、必要に応じて、化学研磨(CMP)あるいはエッチング等を行い、上記した薄肉化工程による裏面2bの加工ダメージを除去してもよい。
【0029】
その後、例えば、炭化珪素基板20の裏面2bの全域にスパッタリングなどによりNi(ニッケル)の図示しない薄膜、およびSiCの炭素トラップ用のMo(モリブデン)の図示しない薄膜を成膜する。続けて、ランプアニールあるいはレーザーアニール等による熱処理、すなわちオーミック化アニールを行い、NiSiを形成し、裏面2bにSiCとのオーミック接合するための図示しないオーミック電極を形成する。その後、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Ni等の金属材料によりなる第3電極23をめっきやスパッタリング等の任意の方法により成膜する。これにより、炭化珪素基板20は、
図5Dに示す状態となる。
【0030】
そして、例えば
図5Eに示すように、第3電極23のうち炭化珪素基板20の外郭近傍の所定の領域を覆う部分をレーザー光照射等により除去する。裏面2bのうち第3電極23が除去された領域は、可視領域あるいは赤外領域の波長の光を透過させることができる状態となる。これにより、次の裏面電極に対して裏面2b側からレーザー光照射をする際における照射位置を決めるアライメントが可能となる。具体的には、裏面2bのうち第3電極23が除去された領域に光を照射し、その透過光あるいは反射光を解析することで、表面20a側に形成された図示しないデバイス部のパターンに対する相対位置を確認する。そして、裏面電極のうち側面2cに対応するレーザー光の照射位置を決定することができる。
【0031】
続いて、例えば
図5Fに示すように、裏面2b側から図示しないレーザー光照射装置によりパルス幅がフェムト秒とされたレーザー光を繰り返し照射する「フェムト秒レーザー加工」により、レーザーアブレーションを発生させる。これにより、裏面電極および炭化珪素基板20の一部を溶融させて除去する。
【0032】
フェムト秒レーザー加工は、例えば、パルス幅がナノ秒といったフェムト秒を超える場合に比べて、加工時に炭化珪素基板20で生じる熱量を低減することができると共に、最表面にナノメートルオーダーの凹凸形状を生じさせることができる。具体的には、炭化珪素基板20にフェムト秒レーザー加工を施すことにより、例えば
図5Gに示すように、SiCの最表面に1μm未満の凹凸形状が繰り返し生じた、いわばナノ周期構造となることが本発明者らにより確認された。これにより、レーザー光照射による半導体素子2への熱ダメージを低減でき、かつ側面2cにナノ凹凸部241を形成することでアンカー効果により封止材3との密着性を向上させることが可能となる。
【0033】
次いで、レーザー光の集束位置を順次変更しつつ、このフェムト秒レーザー加工を炭化珪素基板20の表面20aに到達するまで繰り返すことで、例えば
図5Hに示すように、全域がテーパー部24とされた側面2cを形成することができる。なお、フェムト秒レーザー加工により裏面2b側にデブリが生じた場合、必要に応じて、エッチング等の任意の方法による当該デブリの除去を行ってもよい。
【0034】
その後、例えば
図5Iに示すように、裏面2bの全域にダイシングテープDを貼り付ける。続けて、ダイシングテープDが貼り付けられたワークを反転し、支持基板100側からレーザー光を照射して、接着剤110と支持基板100との密着力を低下させる。
【0035】
そして、レーザー光照射後、支持基板100を剥離し、炭化珪素基板20に残った接着剤110を図示しないピーラー等の装置で剥離する。これにより、例えば
図5Jに示すように、炭化珪素基板20が半導体素子2の単位で複数に分割され、ダイシングテープDに貼り付けられた状態となる。その後、紫外線照射等の任意の方法により、半導体素子2とダイシングテープDとの密着力を低下させ、半導体素子2をピックアップする。
【0036】
最後に、封止材3の外形に沿ったキャビティを有する図示しない金型を用意し、ピックアップした半導体素子2を当該金型にセットし、エポキシ樹脂等の樹脂材料を投入して硬化させ、半導体素子2の側面2cを覆う封止材3を形成する。
【0037】
例えば、上記の製造工程により、本実施形態の半導体素子を製造することができるが、炭化珪素基板20に裏面電極を形成後、裏面側からフェムト秒レーザー加工により側面2cを形成する点以外については、他の公知の半導体製造プロセスを採用してもよい。
【0038】
なお、SiCの加工方法としては、ブレードにより物理的に切断するブレードダイシングやレーザー光を基板の内部で集束させ、内部に改質層を形成して内部から表層にクラックを生じさせることで分割する、いわゆるステルスダイシングなどが挙げられる。他にも、SiCの加工方法としては、フッ素系ガスによる化学的エッチングであるプラズマダイシングや超音波を用いた超音波ダイシングがある。
【0039】
しかしながら、ブレードダイシングの場合、SiCがSi(シリコン)に比べて硬いため、加工速度が低下すると共に、加工時のクラックが生じてしまう。特に、オン抵抗低減等の目的でSiCの薄肉化が進むほど、意図しないクラックが生じやすくなる。ステルスダイシングの場合、レーザー光が裏面電極によって反射し、SiCの内部で集束させることができないため、レーザー光照射後に裏面電極を形成しなければならない。また、基板の表面側からステルスダイシングを行うことも考えられるが、この場合、図示しないデバイス部にデブリが生じることが考えられ、半導体素子2の特性低下が懸念される。プラズマダイシングの場合、高精度の加工ができるものの、加工レートがSi等に比べて1/10以下となり、製造コストが増大する原因となり得る。また、ブレードダイシングや超音波ダイシングの場合、ダイシングに用いるブレードの幅に、加工により損傷する領域を加味した加工幅を確保する必要があり、加工幅が例えば50μmを超えてしまう。この場合、1枚のウェハから得られる半導体素子2の取り数が少なくなり、製造コストが増大する原因となり得る。
【0040】
これらに対して、フェムト秒レーザー加工は、裏面電極を形成後に裏面2b側からの電極ごとSiCを加工することが可能であって、確保すべき加工幅を小さくでき、炭化珪素基板20への熱ダメージを低減することで素子強度を確保できる。また、フェムト秒レーザー加工は、ナノ凹凸部241を備えるテーパー部24を形成できるため、半導体素子2と封止材3との密着性向上と、SiCの薄型化とを両立する方法として好ましい。なお、フェムト秒レーザー加工における加工幅は、限定するものではないが、例えば30μm以下となる。
【0041】
本実施形態によれば、半導体素子2の表面2aが外部に露出し、他の部材と接続可能とされつつ、側面2cが封止材3に覆われ、かつ側面2cのうち裏面2bの端部からの少なくとも一部がナノ凹凸部241を備えるテーパー部24である半導体装置1となる。そのため、半導体素子2の側面2cと封止材3との界面において表面2a側から剥離が生じたとしても、テーパー部24により剥離伸展が抑制され、信頼性が向上する。よって、半導体素子2が薄型化され、側面2cと封止材3との接触面積が減少しても、これらの界面剥離あるいは剥離の伸展が抑制されるため、薄型化と信頼性向上とが両立した半導体装置1となる。
【0042】
(第1実施形態の変形例)
半導体装置1は、例えば
図6に示すように、半導体素子2の表面2aおよび封止材3の一面3aを覆う再配線層4を備え、第1電極21あるいは第2電極22に再配線42、43が接続された構成であってもよい。
【0043】
具体的には、再配線層4は、例えば、
図6に示すように、絶縁層41と、第1電極21に接続される第1再配線42と、第2電極22に接続される第2再配線43とを備え、公知の再配線形成技術により形成され得る。再配線層4は、例えば、再配線42、43の一部が絶縁層41から露出しており、再配線42、43を通じて外部と電極21、22との電気的なやり取りが可能な構成となっている。第2再配線43は、例えば、第2電極22がゲート電極等の信号伝送用の電極である場合、半導体装置1の実装性を向上させる目的等により、半導体素子2の表面2aの外郭外側の領域まで延設され得る。この場合、半導体装置1は、半導体素子2の表面電極に接続される再配線の一部が表面2aの外郭外側にまで延設された、ファンアウトパッケージ構造となる。
【0044】
なお、再配線層4は、
図6に示す構成例に限定されるものではなく、絶縁層41の層数や再配線42、43の形状、寸法、配置等が半導体素子2の表面電極のパターン等に応じて適宜変更されてもよい。
【0045】
本変形例に係る半導体装置1は、例えば、上記第1実施形態の半導体装置1の封止材3を形成した後、公知の再配線形成技術により、半導体素子2の表面2a側に再配線層4を形成することにより製造され得る。
【0046】
本変形例によっても、半導体素子2の側面2cにナノ凹凸部241を有してなるテーパー部24を備え、側面2cが封止材3に覆われるため、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、再配線層4を有することにより、実装性が向上する効果も得られる。
【0047】
つまり、半導体装置1は、側面2cのうち少なくとも裏面2b側の端部から表面2aに向かう一部の領域がテーパー部24とされ、側面2cが封止材3に覆われる構成であればよく、半導体素子2の他の部位については適宜変更されても構わない。
【0048】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について、
図7、
図8を参照して説明する。
【0049】
図7では、
図2と同様に、封止材3の他面3b側から見たときに目視できない半導体素子2の表面2aの外郭および後述する貫通孔25の外郭の一部を破線で示すと共に、見やすくするため、第3電極23を省略している。
図8では、説明の便宜上、別断面における半導体素子2の側面2cの外郭を一点鎖線で示している。
【0050】
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図7に示すように、半導体素子2が表面2aと裏面2bとを繋ぐ貫通孔25を備え、貫通孔25が封止材3により充填されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0051】
半導体素子2は、本実施形態では、例えば、表面2aと裏面2bとを繋ぐと共に、側面2cに繋がる少なくとも1つ以上の貫通孔25を備える。
【0052】
例えば、貫通孔25は、
図7に示すように、裏面2bの外郭をなす辺の近傍に少なくとも1つ配置され、テーパー部24と同様にフェムト秒レーザー加工により形成される。貫通孔25は、複数設けられる場合、例えば、裏面2bの外郭をなす辺に沿って互いに離れて配置される。貫通孔25は、表面2aおよび裏面2bのほか、側面2cのうち当該貫通孔25が隣接する隣接側面、すなわち近傍に位置する側面の部分に連通する貫通溝となっている。言い換えると、貫通孔25は、表面2aと裏面2bとを繋ぐ穴に、側面2c側から凹んだ溝が連通した、いわばロックホールの形状とされている。貫通孔25は、例えば
図8に示すように、その内部が封止材3により充填されており、半導体素子2と封止材3との接触面積を向上させ、これらの密着性を向上する役割を果たす。貫通孔25は、封止材3との密着性をより向上させる観点から、テーパー部24と同様の方法で形成され、その最表面がナノメートルオーダーの凹凸形状を有するナノ周期構造を備えることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0053】
なお、貫通孔25は、少なくとも1つ形成されることで、半導体素子2と封止材3との密着性向上、ひいては半導体装置1の信頼性向上の効果が得られるため、その数については特に限定されない。また、貫通孔25は、半導体素子2の図示しないデバイス部や電極パターンに応じて、その形成部位やサイズ等が適宜変更されてもよく、複数形成される場合、すべて同じサイズ等であってもよいし、一部または全部が異なるサイズ等であってもよい。
【0054】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様のテーパー部24による封止材3との密着性向上に加えて、貫通孔25による封止材3との密着性向上の効果が得られる半導体装置1となる。
【0055】
(第2実施形態の変形例)
次に、第2実施形態の半導体装置1の変形例について、
図9、
図10を参照して説明する。
【0056】
図9は、封止材3の一面3a側から半導体装置1を見たときに目視できない半導体素子2の表面2aおよび裏面2bの外郭を破線で示すと共に、見やすくするため、電極21、22、23を省略している。
【0057】
半導体素子2は、本実施形態では、例えば
図9または
図10に示すように、裏面2bのうちその外郭から貫通孔25を含む一部の領域が封止材3により覆われている。貫通孔25は、例えば
図10で示すように、側面2cに連通しない形状、すなわち、表面2aおよび裏面2bのみに繋がる貫通穴とされ、その内側が封止材3により充填されている。
【0058】
本実施形態の半導体装置1は、例えば、貫通孔25を備える半導体素子2の裏面2bのうち貫通孔25よりも内側の領域を仮保護材で覆い、側面2cおよび貫通孔25を含む裏面2bの一部を覆う封止材3を形成した後、仮保護材を剥離することで得られる。仮保護材としては、例えば、紫外線照射や加熱等の任意の方法により粘着性が低下する公知のテープ等が用いられ得る。
【0059】
本変形例によっても、半導体素子2と封止材3との接触面積が増加し、これらの密着性が向上するため、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0060】
なお、貫通孔25の数、配置、サイズ等については、
図9、
図10に示す例に限定されず、半導体素子2の図示しないデバイス部や電極パターン等に応じて適宜変更され得る。また、上記では、裏面2bのうちその外郭から貫通孔25が形成された部位を含む一部の領域が封止材3に覆われた例を代表例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、半導体装置1は、裏面2bの全域が封止材3から露出すると共に、表面2aのうち外郭から貫通孔25を含む一部の領域が封止材3により覆われ、貫通孔25が封止材3で充填された構成であってもよい。
【0061】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0062】
例えば、上記各実施形態では、フェムト秒レーザー加工により裏面2bから表面2aに至るまでSiCを除去し、側面2cの全域がテーパー部24とされた側面2cを形成する例について説明したが、これに限定されない。
【0063】
具体的には、裏面2bから表面2aの途中までフェムト秒レーザー加工によりSiCを除去し、例えば、裏面2b側にダイシングテープ等を貼り付け、当該テープを介して炭化珪素基板20を延伸することで炭化珪素基板30を分割し、側面2cを形成してもよい。この場合、半導体素子2は、例えば
図11に示すように、裏面2bの端部から表面2aに向かう一部の領域がナノ凹凸部241を備えるテーパー部24とされ、側面2cの残部26が劈開面とされる。このような形状であっても、側面2cのうち表面2a側の劈開面から封止材3の界面剥離が生じたとしても、テーパー部24により剥離伸展が抑制されるため、半導体素子2と封止材3との密着性向上の効果が得られる。なお、側面2cのうち劈開面は、上記の形成方法に限定されるものではなく、公知のブレーキング装置等を用いて形成されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
2 半導体素子
2a 表面
2b 裏面
2c 側面
24 テーパー部
241 ナノ凹凸部
25 貫通孔
3 封止材