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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B23C5/10 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020119394
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022016103
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】毛利 俊
(72)【発明者】
【氏名】坂口 光太郎
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152611(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068064(WO,A1)
【文献】特開2013-202771(JP,A)
【文献】特開2018-158443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B24B 3/00- 3/60
B24B21/00-39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体の先端部外周に、このエンドミル本体の先端逃げ面に開口して上記軸線方向の後端側に延びる切屑排出溝が形成されるとともに、この切屑排出溝の先端部には、上記切屑排出溝の底面を上記エンドミル本体の内周側に切り欠くように凹溝状の第1のギャッシュが形成され、この第1のギャッシュのエンドミル回転方向を向く第1の壁面の先端外周側の辺稜部には、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球面状をなす底刃が形成されたボールエンドミルであって、
上記第1のギャッシュは、上記第1の壁面と、上記エンドミル本体の先端外周側を向く底面と、この底面と上記第1の壁面との間に延びる溝底部とを備えているとともに、
上記第1のギャッシュの少なくとも上記第1の壁面には、上記底刃と間隔をあけて、上記第1の壁面をさらに切り欠くように凹溝状の第2のギャッシュが形成されており、
上記第2のギャッシュの上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径は、上記第1のギャッシュの上記溝底部の上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径よりも大きいことを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
上記第2のギャッシュは、上記第1のギャッシュの上記第1の壁面から上記溝底部を越えて上記底面に渡って形成されており、
上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部を通り上記第1の壁面に直交する直線に沿って該第1の壁面に対向する方向から見て、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心から上記交差部を通る直線が上記底刃の中心から先端側に延びる上記軸線に対してなす角度が、40°~85°の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
【請求項3】
上記第2のギャッシュの上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径が、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.2×Rの範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボールエンドミル。
【請求項4】
上記第1のギャッシュの上記溝底部の上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径が、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.005×R~0.15×Rの範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のボールエンドミル。
【請求項5】
上記エンドミル本体の先端外周側における上記第1の壁面と上記第2のギャッシュとの交差稜線と上記底刃との間の上記第1の壁面はチャンファー面とされており、
上記エンドミル本体の先端部の側面図において、上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の線を引いた場合に、上記半径方向の線が上記チャンファー面と交わる2点間の距離を、上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅とするとき、上記幅は、上記軸線方向の先端側が後端側よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のボールエンドミル。
【請求項6】
上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅は、上記中心よりも上記軸線方向の先端側の領域において、上記チャンファー面の上記軸線方向の先端側において最も幅広とされて、後端側に向かうに従い漸次幅狭となり、続く後端側では幅狭のまま一定の大きさとされていることを特徴とする請求項5に記載のボールエンドミル。
【請求項7】
上記軸線方向の後端側において一定とされた上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅が、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.25×Rの範囲内とされていることを特徴とする請求項6に記載のボールエンドミル。
【請求項8】
上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部を通り上記第1の壁面に直交する直線に沿って該第1の壁面に対向する方向から見て、上記エンドミル本体の先端側における上記第1の壁面と上記第2のギャッシュとの交差稜線は上記軸線方向の先端側に凸となる凸曲線状をなしており、
上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心から上記エンドミル本体の先端側における上記交差稜線がなす凸曲線に接する接線が上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心から先端側に延びる上記軸線に対してなす角度が、35°~75°の範囲内とされていることを特徴とする請求項5から請求項7のうちいずれか一項に記載のボールエンドミル。
【請求項9】
上記第1のギャッシュと上記第2のギャッシュとは、上記軸線方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に向かって捩れるように形成されており、
上記第2のギャッシュの上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径となる円弧の上記軸線からの距離が最短となる溝底位置を上記軸線方向に繋げた第2のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角が、
上記第1のギャッシュの上記溝底部の上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径となる円弧の上記軸線からの距離が最短となる溝底位置を上記軸線方向に繋げた第1のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載のボールエンドミル。
【請求項10】
上記第2のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角と、上記第1のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角との差が、2°~15°の範囲内とされていることを特徴とする請求項9に記載のボールエンドミル。
【請求項11】
上記第1のギャッシュ捩れ線を上記軸線に対する捩れ角のまま上記軸線方向の後端側に延長したときの上記第2のギャッシュに交差して上記軸線に直交する断面における上記軸線と上記第1のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線に対して、
同じ断面における上記軸線と上記第2のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線が、上記軸線を中心としてエンドミル回転方向にずれていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のボールエンドミル。
【請求項12】
上記断面における上記軸線と上記第1のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線と、上記軸線と上記第2のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線との交差角が5°~30°の範囲内とされていることを特徴とする請求項11に記載のボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体の先端部外周に、このエンドミル本体の先端逃げ面に開口して軸線方向後端側に延びる切屑排出溝が形成されるとともに、この切屑排出溝の先端部には、切屑排出溝の底面をエンドミル本体の内周側に切り欠くように凹溝状のギャッシュが形成され、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面の先端外周側の辺稜部に、軸線回りの回転軌跡が軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球面状をなす底刃が形成されたボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなボールエンドミルとして、例えば特許文献1には、単体の工具素材からなるボール刃(底刃)をもつボールエンドミルにおいて、その刃形をエンドミル回転軸(軸線)を含む平面内で、ボール刃部のボール中心からエンドミル回転軸に対して45゜に位置する切れ刃(上記底刃)を結ぶ線分に垂直な方向に投影したとき、この位置におけるすくい角が5゜以上であって、かつエンドミルの刃底(ギャッシュ)丸みの半径(R)が、エンドミル直径(D)に対してR=(0.15~0.3)×Dの関係にあるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-042410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載されたボールエンドミルのように、ボール刃部のボール中心からエンドミル回転軸に対して45゜に位置する底刃の刃底丸みの半径(R)をエンドミル直径(D)に対してR=(0.15~0.3)×Dとしてチップポケットを大きくするとともに、すくい角を5°以上として切削性をよくしたものでは、底刃の刃物角が小さくなって強度の低下を招き、底刃にチッピングや欠損等が生じてしまうおそれがある。
【0005】
また、ギャッシュがそのままの刃底丸みの半径と底刃のすくい角とでエンドミル本体の先端逃げ面において軸線が通るエンドミル回転中心近にまで延びていると、周速が0に近いために大きな切削負荷が作用するエンドミル回転中心近傍においても、底刃の強度が低下してチッピングや欠損等が生じ易くなる。
【0006】
その一方で、すくい角を小さくするとともにチップポケットも小さくして底刃の刃物角を大きくした場合には、特にエンドミル本体を高速回転させて切削加工を行う場合や大きな切り込み量で切削加工を行う場合には、切屑排出性が損なわれて切屑詰まりを生じてしまい、切削抵抗の増大を招いてしまう。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、良好な切屑排出性を確保して切屑詰まりによる切削抵抗の増大を抑えつつ、底刃の強度低下は防いで底刃にチッピングや欠損等が生じることのない、エンドミル寿命の長いボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体の先端部外周に、このエンドミル本体の先端逃げ面に開口して軸線方向後端側に延びる切屑排出溝が形成されるとともに、この切屑排出溝の先端部には、上記切屑排出溝の底面を上記エンドミル本体の内周側に切り欠くように凹溝状の第1のギャッシュが形成され、この第1のギャッシュのエンドミル回転方向を向く第1の壁面の先端外周側の辺稜部には、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球面状をなす底刃が形成されたボールエンドミルであって、上記第1のギャッシュは、上記第1の壁面と、上記エンドミル本体の先端外周側を向く底面と、この底面と上記第1の壁面との間に延びる溝底部とを備えているとともに、上記第1のギャッシュの少なくとも上記第1の壁面には、上記底刃と間隔をあけて、上記第1の壁面をさらに切り欠くように凹溝状の第2のギャッシュが形成されており、上記第2のギャッシュの上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径は、上記第1のギャッシュの上記溝底部の上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
このように構成されたボールエンドミルにおいては、切屑排出溝の先端部に形成された凹溝状の第1のギャッシュの少なくともエンドミル回転方向を向く第1の壁面に、この第1の壁面をさらに切り欠くように凹溝状の第2のギャッシュが形成されており、この第2のギャッシュは、第1のギャッシュのエンドミル回転方向を向く第1の壁面の先端外周側の辺稜部に形成された底刃と間隔をあけている。
【0010】
従って、底刃の刃物角は、エンドミル回転中心近傍やエンドミル本体の外周側でも、第1のギャッシュの第1の壁面によって大きく確保することができるとともに、チップポケットの大きさも、この第1のギャッシュの少なくとも第1の壁面を切り欠くように形成された第2のギャッシュによって大きく確保することができる。このため、底刃の刃物角が小さくなることによって底刃の強度低下が生じてチッピングや欠損等が生じるのは防ぎつつ、切屑排出性の向上を図って切屑詰まりによる切削抵抗の増大を抑えることが可能となる。
【0011】
しかも、この第2のギャッシュの軸線に直交する断面における最小の曲率半径、すなわち刃底丸みの半径は、この第1のギャッシュの溝底部の軸線に直交する断面における最小の曲率半径よりも大きいので、第2のギャッシュを形成したことによって底刃に応力が集中するのを防ぐことができ、底刃の剛性を確保することができるとともにエンドミル寿命を延長することが可能となる。
【0012】
ここで、上記第2のギャッシュが、上記第1のギャッシュの上記第1の壁面から上記溝底部を越えて上記底面に渡って形成されている場合には、上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部を通り上記第1の壁面に直交する直線に沿って該第1の壁面に対向する方向から見て、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心から上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部を通る直線が上記底刃の中心から先端側に延びる上記軸線に対してなす角度は、40°~85°の範囲内とされていることが望ましい。
【0013】
このような場合に、上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部は、第1、第2のギャッシュの軸線方向の先端側の境界部の1つとなるが、底刃の中心からこの交差部を通る直線が底刃の中心から先端側に延びる軸線に対してなす角度が40°よりも小さいと、第2のギャッシュがエンドミル回転中心近傍に近付きすぎて底刃にチッピングや欠損等が生じ易くなるおそれがある。
【0014】
逆に、底刃の中心からこの交差部を通る直線が底刃の中心から先端側に延びる軸線に対してなす角度が85°よりも大きいと、底刃のすくい面の大部分が第1のギャッシュの第1の壁面によって占められることになり、切屑排出性の向上を図ることが困難となるおそれがある。
【0015】
なお、第2のギャッシュの軸線に直交する断面における最小の曲率半径は、底刃の軸線回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して、0.03×R~0.2×Rの範囲内とされていることが望ましい。第2のギャッシュの上記最小の曲率半径が上記範囲よりも小さいと、第2のギャッシュが小さくなって切屑排出性の向上を図ることが困難となるおそれがあり、上記範囲よりも大きいと、第1のギャッシュが大きく切り欠かれすぎて底刃の強度を確保することができなくなるおそれがある。
【0016】
また、第1のギャッシュの溝底部の軸線に直交する断面における最小の曲率半径は、底刃の軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記半径Rに対して、0.005×R~0.15×Rの範囲内とされていることが望ましい。この第1のギャッシュの溝底部の上記最小半径が上記範囲よりも小さいと、この溝底部に切屑が引っ掛かって詰まりを生じるおそれがあり、上記範囲よりも大きいと、第2のギャッシュよりも軸線方向の先端側における底刃の強度が損なわれるおそれがある。
【0017】
さらに、上記エンドミル本体の先端外周側における上記第1の壁面と上記第2のギャッシュとの交差稜線と上記底刃との間の上記第1の壁面はチャンファー面とされるが、このチャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅は、上記軸線方向の先端側が後端側よりも大きいことが望ましい。これにより、大きな切削負荷が作用する軸線方向の先端側では底刃の強度を維持しつつ、軸線回りの回転半径が大きくなるために切屑が多量に生成される底刃の軸線方向の後端側では、この底刃によって生成される切屑の切屑離れを向上させることができる。
【0018】
さらにまた、この場合には、上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅を、上記軸線方向の後端側では一定とすることにより、この後端側で必要以上に底刃の強度が損なわれるのは防ぐことができる。
【0019】
なお、この場合に、上記軸線方向の後端側において一定とされた上記チャンファー面の上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の上記中心に対する半径方向の幅は、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.25×Rの範囲内とされていることが望ましい。この幅が0.03×Rを下回るほど小さいと底刃の強度が損なわれるおそれがあり、0.25×Rを上回るほど大きいと切削抵抗の増大を招くおそれがある。
【0020】
さらに、上記溝底部と上記第2のギャッシュとの交差部を通り上記第1の壁面に直交する直線に沿って該第1の壁面に対向する方向から見て、上記エンドミル本体の先端側における上記第1の壁面と上記第2のギャッシュとの交差稜線が上記軸線方向の先端側に凸となる凸曲線状をなしている場合には、上記底刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす半球面の上記中心から上記エンドミル本体の先端側における上記交差稜線がなす凸曲線に接する接線が上記底刃の中心から先端側に延びる上記軸線に対してなす角度が、35°~75°の範囲内とされていることが望ましい。
【0021】
この場合の上記接線は、底刃の中心よりも先端側の軸線からのチャンファー面の先端までの底刃の中心周りの位置を示すものとなり、この接線がなす角度が35°を下回ると、チャンファー面が上記エンドミル回転中心に近くなりすぎて底刃の切れ味が低下するおそれがある。また、この接線がなす角度が75°を上回ると、チャンファー面が軸線方向の後端側から形成されることになり、先端側において切屑離れを向上させることができなくなるおそれがある。
【0022】
一方、上記第1のギャッシュと上記第2のギャッシュとが、上記軸線方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に向かって捩れるように形成されている場合には、上記第2のギャッシュの上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径となる円弧の上記軸線からの距離が最短となる溝底位置を上記軸線方向に繋げた第2のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角が、上記第1のギャッシュの上記溝底部の上記軸線に直交する断面における最小の曲率半径となる円弧の上記軸線からの距離が最短となる溝底位置を上記軸線方向に繋げた第1のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角よりも大きいことが望ましい。
【0023】
これにより、第2のギャッシュは第1のギャッシュよりも大きな捩れ角で軸線方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に向かって捩れるように形成されることになるので、軸線方向の後端側において、第2のギャッシュを第1のギャッシュの第1の壁面に対してより深く形成することができる。このため、切屑排出性の一層の向上を図ることができるとともに、底刃から第2のギャッシュへの落差を大きくして切屑分断性も向上させることができる。
【0024】
なお、上記第2のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角と、上記第1のギャッシュ捩れ線の上記軸線に対する捩れ角との差は、2°~15°の範囲内とされていることが望ましい。この捩れ角の差が2°を下回ると、第2のギャッシュを第1のギャッシュの第1の壁面に対してより深く形成することができずに切屑排出性や切屑分断性を十分に向上させることができなくなるおそれがあり、15°を上回ると後端側で第2のギャッシュが深くなりすぎて底刃やエンドミル本体の強度が低下するおそれがある。
【0025】
一方、上記第1のギャッシュ捩れ線を上記軸線に対する捩れ角のまま上記軸線方向の後端側に延長したときの上記第2のギャッシュに交差して上記軸線に直交する断面における上記軸線と上記第1のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線に対して、同じ断面における上記軸線と上記第2のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線は、上記軸線を中心としてエンドミル回転方向にずれていることが望ましい。
【0026】
このように軸線に直交する同一の断面における軸線と第1のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線に対して、軸線と第2のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線を、軸線を中心としてエンドミル回転方向にずらして、第1、第2のギャッシュの溝底位置に位相差を設けることにより、特に大きな切り込み量で切削加工を行う場合に、軸線方向の後端側の底刃によって生成された厚みの大きい切屑が湾曲する第2のギャッシュの溝底位置を底刃から遠ざけることができる。
【0027】
このため、第2のギャッシュによって形成される大きなチップポケットに厚みの大きい切屑を導いて溝底部分により湾曲させて効率的に分断することができる。従って、このように構成することにより、第2のギャッシュによって形成されるチップポケットを有効に利用することができ、切り込み量が大きい場合でも、切屑の安定した処理を図ることができる。
【0028】
なお、この場合において、上記断面における上記軸線と上記第1のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線と、上記軸線と上記第2のギャッシュの溝底位置とを結ぶ直線との交差角は10°~30°の範囲内とされるのが望ましい。この交差角が10°を下回ると、第2のギャッシュの溝底位置を底刃から十分に遠ざけることができずにチップポケットの有効利用を図ることができなくなるおそれがあり、30°を上回ると、逆に第2のギャッシュの溝底位置が底刃から遠ざかりすぎて切削抵抗の増大を招くおそれがある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、第2のギャッシュを底刃から間隔をあけて形成することにより、大きな切り込み量で切削加工を行う場合でも切屑排出性の向上を図ることができて切屑詰まりによる切削抵抗の増大を抑えることができるとともに、底刃の刃物角を確保して底刃の強度低下を防ぎ、チッピングや欠損等が生じるのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態を示すエンドミル本体の先端部の斜視図である。
図2図1に示す実施形態を軸線方向の先端側から見た正面図である。
図3図2における矢線X方向視の側面図である。
図4図3におけるエンドミル本体の先端部の拡大側面図である。
図5図4におけるVV断面図である。
図6図4におけるWW断面図である。
図7図4におけるXX断面図である。
図8図4におけるYY断面図である。
図9図4におけるZZ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1図9は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に形成されており、このエンドミル本体1の後端部(図1において右上側部分。図3においては右側部分。)は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端部(図1において左下側部分。図3においては左側部分。)は切刃部3とされている。
【0032】
このようなボールエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されてエンドミル本体1が軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、軸線Oに垂直な方向や、軸線O方向と軸線Oに垂直な方向とに斜めに送り出されたりすることにより、切刃部3に形成された切刃によって被削材に溝加工や肩削り加工を行う。
【0033】
切刃部3の外周には、切刃部3の先端面である先端逃げ面4に開口して、軸線O回りにエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れつつ、軸線O方向の後端側に延びる切屑排出溝5が形成されている。本実施形態では、4条の切屑排出溝5が、周方向に間隔をあけて形成されており、これらの切屑排出溝5は、シャンク部2の先端部で外周側に切れ上がっている。
【0034】
これらの切屑排出溝5のエンドミル回転方向Tを向く壁面の外周側辺稜部には、この壁面をすくい面とする上記切刃のうちの外周刃6が形成されている。本実施形態における外周刃6は、軸線O回りの回転軌跡が軸線Oを中心とした円筒状をなすように形成されるとともに、切屑排出溝5と同じく軸線O方向の後端側に向かうに従い軸線O回りにエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れている。
【0035】
一方、切屑排出溝5の先端部には、それぞれの切屑排出溝5のエンドミル回転方向Tを向く壁面とエンドミル回転方向Tとは反対側を向く壁面とをエンドミル本体1の内周側に向けて切り欠くようにして、凹溝状の第1のギャッシュ7が形成されている。この第1のギャッシュ7は、エンドミル回転方向Tを向く第1の壁面7aと、エンドミル本体1の外周側を向く底面7bと、これら第1の壁面7aと底面7bとの間に延びる溝底部7cと、本実施形態ではエンドミル回転方向Tとは反対側とを向く第2の壁面7dとを備えて、エンドミル本体1の外周側に向かうに従い第1、第2の壁面7a、7d間の幅が漸次幅広となるように形成されている。
【0036】
さらに、この第1のギャッシュ7の第1の壁面7aとエンドミル本体1の上記先端逃げ面4とが交差する第1の壁面7aの先端外周側の辺稜部には、軸線O回りの回転軌跡が軸線O上に中心Pを有して先端側に凸となる半球面状をなす底刃8が形成されている。これらの底刃8の外周端は、切屑排出溝5の外周側辺稜部に形成された上記外周刃6の先端にそれぞれ滑らかに連なっている。
【0037】
ここで、本実施形態では図2に示すように、4条形成されることになる底刃8のうち、周方向に1つおきの底刃(図2において上下方向に延びる底刃)8は、先端逃げ面4において軸線Oが通るエンドミル回転中心Cの近傍まで延びる長底刃8aとされるとともに、残りの周方向に1つおきの底刃(図2において左右方向に延びる底刃)8は、先端逃げ面4において外周端から長底刃8aよりもエンドミル回転中心Cと間隔をあけた位置に延びる短底刃8bとされている。
【0038】
なお、本実施形態では、この第1のギャッシュ7は、軸線Oに直交する断面において図6に示すように、第1、第2の壁面7a、7dと底面7bとが略直線状に延びるように形成されるとともに、溝底部7cは第1の壁面7aと底面7bとに接する曲率半径が極小さな凹円弧等の凹曲線状に形成されている。この溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1は、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.005×R~0.15×Rの範囲内とされている。
【0039】
さらに、第1のギャッシュ7の少なくとも第1の壁面7aには、この底刃8と間隔をあけて、第1の壁面7aをさらに切り欠くように凹溝状の第2のギャッシュ9が形成されている。本実施形態においては、この第2のギャッシュ9は、軸線Oに直交する断面において第1のギャッシュ7の第1の壁面7aから、この第1の壁面7aと底面7bとの間に延びる第1のギャッシュ7の溝底部7cを越えて底面7bに渡って延び、さらに第2の壁面7dに達してエンドミル回転方向Tに隣接する先端逃げ面4に連なるように形成されている。
【0040】
ここで、第2のギャッシュ9のエンドミル本体1の外周側を向く底面9aは、軸線Oに直交する断面において図6~9に示すように、その全体が凹曲線状をなすように形成されている。この第2のギャッシュ9の底面9aが軸線Oに直交する断面においてなす凹曲線は、この底面9aが軸線Oを中心として底面9aに内接する円との略接点の位置で最小の曲率半径R2となるようにされており、この最小の曲率半径R2は、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して、0.03×R~0.2×Rの範囲内とされている。
【0041】
そして、この第2のギャッシュ9の軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R2は、上記第1のギャッシュ7の溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1よりも大きい。
【0042】
また、軸線Oに直交する断面において凹曲線状をなす第2のギャッシュ9が、第1のギャッシュ7の第1の壁面7aから溝底部7cを越えて底面7bに渡って形成されて、上記断面において直線状をなす第1の壁面7aと底面7bと交差することにより、図3および図4に示すように第1の壁面7aに対向する方向から見て、エンドミル本体1の先端側の第1の壁面7aと第2のギャッシュ9との交差稜線L1および底面7bと第2のギャッシュ9との交差稜線は軸線O方向の先端側に凸となる凸曲線状の山型をなすとともに、溝底部7cと第2のギャッシュ9との交差部Qは、第1の壁面7aおよび底面7bとの交差稜線L1がなす山型の間に挟まれた谷型に形成される。
【0043】
ここで、本実施形態では、溝底部7cと第2のギャッシュ9との上記交差部Qを通り第1の壁面7aに直交する直線に沿って第1の壁面7aに対向する方向から見て、底刃8の中心Pからエンドミル本体1の先端側における第1の壁面7aと第2のギャッシュ9との交差稜線L1がなす凸曲線に接する接線M1が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ1は35°~75°の範囲内とされている。また、同じく第1の壁面7aに対向する方向から見て、底刃8の中心Pから溝底部7cと第2のギャッシュ9との交差部Qを通る直線M2が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ2は、40°~85°の範囲内とされている。
【0044】
一方、第1のギャッシュ7の第1の壁面7aと第2のギャッシュ9との山型をなす交差稜線L1の軸線O方向の先端側の突端からエンドミル本体1の外周側を後端側に延びる交差稜線と、第2のギャッシュ9が間隔をあけた底刃8との間に残される第1の壁面7a部分は、第2のギャッシュ9と先端逃げ面4とをそのままエンドミル回転方向Tに延長して交差させた場合の底刃8とされる稜線部分を面取りしたようなチャンファー面7eとされている。従って、上記接線M1よりも軸線O方向の後端側の部分が、このチャンファー面7eとされる。
【0045】
このチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hは、軸線O方向の先端側が後端側よりも大きくされており、本実施形態では上記接線M1上において最も幅広とされて、後端側に向かうに従い漸次幅狭となり、軸線O方向の後端側では幅狭のまま一定の大きさとされている。
【0046】
ここで、エンドミル本体1の外周側の第1の壁面7aと第2のギャッシュ9との交差稜線は、底刃8側に凸となる凸曲線をなしており、チャンファー面7eの幅Hは、軸線O方向の先端側では後端側に向かうに従い幅狭となる割合が小さくなってゆき、軸線O方向の後端側において上述のように一定幅となる。こうして一定とされた底刃8の後端側におけるチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hは、本実施形態では、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.25×Rの範囲内とされている。
【0047】
さらに、本実施形態では、第1、第2のギャッシュ7、9は、切屑排出溝5の捩れに合わせて軸線O方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向かって捩れるように形成されている。従って、軸線Oに直交する断面において略直線状をなす第1のギャッシュ7の第1、第2の壁面7a、7dおよび底面7bは、軸線O方向には捩れ面状に形成される。
【0048】
また、本実施形態では、図6に示すように第1のギャッシュ7の溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1となる円弧の軸線Oからの距離が最短となる溝底位置7fを図3に示すように軸線O方向に繋げた第1のギャッシュ捩れ線N1の軸線Oに対する捩れ角αよりも、図9に示すように第2のギャッシュ9の軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R2となる円弧の軸線Oからの距離が最短となる溝底位置9bを図3に示すように軸線O方向に繋げた第2のギャッシュ捩れ線N2の軸線Oに対する捩れ角βが大きくなるように形成されている。
【0049】
ここで、本実施形態では、第2のギャッシュ捩れ線N2の軸線Oに対する捩れ角βと、第1のギャッシュ捩れ線N1の軸線Oに対する捩れ角αとの差β-αは、2°~15°の範囲内とされている。
【0050】
さらにまた、本実施形態においては、上記第1のギャッシュ捩れ線N1を軸線Oに対する捩れ角αのまま軸線O方向の後端側に延長したときの図9に示すような第2のギャッシュ9に交差して軸線Oに直交する断面における軸線Oと上記第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線F1に対して、同じ断面における軸線Oと第2のギャッシュ9の上記溝底位置9bとを結ぶ直線F2は、軸線Oを中心としてエンドミル回転方向Tにずれている。
【0051】
ここで、本実施形態では、図9に示すように、これらの直線F1、F2の位相差である上記断面における軸線Oと第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線F1と、軸線Oと上記第2のギャッシュ9の溝底位置9bとを結ぶ直線F2との交差角γは5°~30°の範囲内とされている。
【0052】
このように構成されたボールエンドミルにおいては、切屑排出溝5の先端部に形成された凹溝状の第1のギャッシュ7の少なくともエンドミル回転方向Tを向く第1の壁面7aに、この第1の壁面7aの先端外周側の辺稜部に形成された底刃8と間隔をあけて、当該第1のギャッシュ7の第1の壁面7aをさらに切り欠くようにして凹溝状の第2のギャッシュ9が形成されている。
【0053】
従って、切屑を収容するチップポケットの大きさは、この第1のギャッシュ7の第1の壁面7aを切り欠くように形成された第2のギャッシュ9によって大きく確保することができる。その一方で、底刃8の刃物角は、エンドミル回転中心C近傍やエンドミル本体1の外周側でも、第1のギャッシュ7の第1の壁面7aによって大きく確保することができる。このため、底刃8の刃物角が小さくなることによって底刃8の強度低下が生じるのは防ぎつつ、切屑排出性の向上を図って切屑詰まりによる切削抵抗の増大を抑えることが可能となる。
【0054】
しかも、本実施形態では、この第2のギャッシュ9が、第1のギャッシュ7の上記エンドミル回転方向Tを向く第1の壁面7aとエンドミル本体1の外周側を向く底面7bとの間の溝底部7cを越えて該底面7bにまで延び、さらにエンドミル回転方向Tとは反対側を向く第2の壁面7dにも至っている。従って、この第2のギャッシュ9によるチップポケットの容量をさらに大きく確保することができるので、良好な切屑排出性を得ることができる。
【0055】
さらに、この第2のギャッシュ9の軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R2は、第1のギャッシュ7の最小半径である溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1よりも大きい。このため、第2のギャッシュ9を形成したことによって底刃8に応力が集中するのは防ぐことができるので、底刃8の剛性を確保することができるとともにエンドミル寿命を延長することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では上述のように、第2のギャッシュ9が、第1のギャッシュ7の第1の壁面7aから溝底部7cを越えてエンドミル本体1の外周側を向く底面7bに渡って形成されている場合に、底刃8の中心Pから溝底部7cと第2のギャッシュ9との交差部Qを通る直線M2が上記底刃8の中心Pから先端側に延びる上記軸線Oに対してなす角度θ2は、40°~85°の範囲内とされている。このため、一層良好な切屑排出性を確保しつつ、底刃8のチッピングや欠損等を確実に防止することができる。
【0057】
すなわち、底刃8の中心Cから上記交差部Qを通る直線M2が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ2が40°よりも小さいと、第2のギャッシュ9がエンドミル回転中心C近傍に近付きすぎて底刃8にチッピングや欠損等が生じ易くなるおそれがある。
【0058】
一方、逆に、底刃8の中心Pからこの交差部Qを通る直線M2が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ2が85°よりも大きいと、底刃8のすくい面の大部分が第1のギャッシュ7の第1の壁面7aによって占められることになり、切屑排出性の向上を図ることが困難となるおそれがある。
【0059】
また、本実施形態では、第2のギャッシュ9の軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R2が、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.2×Rの範囲内とされており、これによっても一層良好な切屑排出性を確保することが可能となるとともに、底刃8のチッピングや欠損等を確実に防止することができる。
【0060】
すなわち、この第2のギャッシュ9の最小の曲率半径R2が上記範囲よりも小さいと、第2のギャッシュ9が小さくなって切屑排出性の向上を図ることが困難となるおそれがある。一方、逆に、この第2のギャッシュ9の最小の曲率半径R2が上記範囲よりも大きいと、第1のギャッシュ7が大きく切り欠かれすぎていまい、底刃8の強度を確保することができなくなるおそれがある。
【0061】
さらに、本実施形態では、第1のギャッシュ7の溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1は、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の上記半径Rに対して0.005×R~0.15×Rの範囲内とされているので、やはり良好な切屑排出性を確保することができるとともに、底刃8のチッピングや欠損等を確実に防止することも可能となる。
【0062】
すなわち、この第1のギャッシュ7の溝底部7cの最小半径R1が上記範囲よりも小さいと、この溝底部7cに切屑が引っ掛かって詰まりを生じるおそれがある。一方、逆に、第1のギャッシュ7の溝底部7cの最小半径R1が上記範囲よりも大きいと、第2のギャッシュ9よりも軸線O方向の先端側における底刃8の強度が損なわれてチッピングや欠損等が生じるおそれがある。
【0063】
さらにまた、エンドミル本体1の先端外周側における第1のギャッシュ7の第1の壁面7aと第2のギャッシュ9の底面9aとの交差稜線と底刃8との間に残される第1の壁面7aは、上述のように第2のギャッシュ9と先端逃げ面4とをそのままエンドミル回転方向Tに延長して交差させた場合の底刃8とされる稜線部分を面取りしたようなチャンファー面7eとされるが、本実施形態では、このチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hは、軸線O方向の先端側が後端側よりも大きい。
【0064】
従って、本実施形態によれば、これによって大きな切削負荷が作用する軸線O方向の先端側では底刃8の強度を維持することができるとともに、軸線O回りの回転半径が大きくなるために切屑が多量に生成される底刃8の後端側では、良好な切屑離れ促すことが可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、このようにチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hが、軸線O方向の先端側が後端側よりも大きい場合において、この軸線O方向の後端側ではチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hが一定とされている。このため、この軸線O方向の後端側で底刃8の強度が必要以上に損なわれるのを防止することができる。
【0066】
さらに、本実施形態では、この底刃8の後端側におけるチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hが、底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径Rに対して0.03×R~0.25×Rの範囲内とされているので、底刃8の強度を維持しつつ、切削抵抗が増大するのは避けることができる。
【0067】
すなわち、この底刃8の後端側におけるチャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅Hが0.03×Rを下回るほど小さいと、チャンファー面7eが小さくなりすぎて底刃8の強度が損なわれるおそれがある。一方、逆に、この幅Hが0.25×Rを上回るほど大きいとチャンファー面7eが大きくなりすぎて切削抵抗の増大を招くおそれがある。
【0068】
さらにまた、本実施形態では、溝底部7cと第2のギャッシュ9との交差部Qを通り第1の壁面7aに直交する直線に沿って第1のギャッシュ7の第1の壁面7aに対向する方向から見て、エンドミル本体1の先端側における第1の壁面7aと第2のギャッシュ9の底面9aとの先端側に凸となる凸曲線状をなす交差稜線L1に接する接線M1が、底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対して、35°~75°の範囲内の角度θ1で交差するようにされており、これによって底刃8の切れ味を保ちつつ、良好な切屑離れを図ることが可能となる。
【0069】
すなわち、この接線M1が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ1が35°を下回ると、チャンファー面7eがエンドミル回転中心C近くまで延びてしまって底刃8の切れ味が低下するおそれがある。一方、逆に、この接線M1が底刃8の中心Pから先端側に延びる軸線Oに対してなす角度θ1が75°を上回ると、チャンファー面7eが軸線O方向の後端側から形成され過ぎることになり、先端側において切屑離れを向上させることができなくなるおそれがある。
【0070】
一方、本実施形態では、第1、第2のギャッシュ7、9が、切屑排出溝5と同様に軸線O方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向かって捩れるように形成されている。このため、切削加工時のエンドミル本体1の回転に伴い、底刃8によって生成された切屑は、後端側の切屑排出溝5に送り込まれて排出されるので、良好な切屑排出性を得ることができる。
【0071】
そして、この場合に、さらに本実施形態では、第2のギャッシュ9の軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R2となる円弧の軸線Oからの距離が最短となる溝底位置9bを軸線O方向に繋げた第2のギャッシュ捩れ線N2の軸線Oに対する捩れ角βが、第1のギャッシュ7の溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径R1となる円弧の軸線Oからの距離が最短となる溝底位置7fを軸線O方向に繋げた第1のギャッシュ捩れ線N1の軸線Oに対する捩れ角αよりも大きくなるように、異なる捩れ角に形成されている。
【0072】
このため、第2のギャッシュ9は、第1のギャッシュ7の捩れ角αよりも軸線Oに対して大きな捩れ角βで捩れながら、軸線O方向の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向かうように形成されるので、この軸線O方向の後端側において、第2のギャッシュ9を第1のギャッシュ7の第1の壁面7aに対してより深くなるように形成することができる。
【0073】
従って、本実施形態によれば、この第2のギャッシュ9によるチップポケットの容量をさらに大きくして切屑排出性の一層の向上を図ることができるとともに、底刃8から第2のギャッシュ9の底面9aへの落差を大きくして切屑分断性も向上させることが可能となる。
【0074】
しかも、本実施形態では、この第2のギャッシュ捩れ線N2の軸線Oに対する捩れ角βと、第1のギャッシュ捩れ線N1の軸線Oに対する捩れ角αとの差β-αが、2°~15°の範囲内とされているので、切屑排出性や切屑分断性を一層確実に向上しつつ、底刃8やエンドミル本体1の強度の低下は防ぐことができる。
【0075】
すなわち、この捩れ角β、αの差β-αが2°を下回るほど小さいと、第2のギャッシュ9を第1のギャッシュ7の第1の壁面7aに対して深く形成することができずに、切屑排出性や切屑分断性を十分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、この捩れ角β、αの差β-αが15°を上回るほど大きいと、軸線O方向の後端側で第2のギャッシュ9が深く彫り込まれすぎて底刃8やエンドミル本体1の切刃部3の強度が低下するおそれがある。
【0076】
一方、本実施形態では、上記第1のギャッシュ捩れ線N1を軸線Oに対する捩れ角αのまま軸線O方向の後端側に延長したときの第2のギャッシュ9に交差して軸線Oに直交する断面における軸線Oと第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線F1に対して、同じ断面における軸線Oと第2のギャッシュ9の溝底位置9bとを結ぶ直線F2は、軸線Oを中心としてエンドミル回転方向Tにずれている。
【0077】
このため、本実施形態によれば、このように軸線Oと第2のギャッシュ9の溝底位置9bとを結ぶ直線F2を、軸線Oを中心として軸線Oと第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線F1からエンドミル回転方向Tにずらし、すなわち第1、第2のギャッシュ7、9の溝底位置7f、9bの間に位相差を設けることにより、特に大きな切り込み量で切削加工を行う場合において、軸線O方向の後端側の底刃8によって生成された厚みの大きい切屑が湾曲する第2のギャッシュ9の溝底位置9bを底刃8から遠ざけることが可能となる。
【0078】
従って、第2のギャッシュ9によって形成される大きなチップポケットに、大きな切り込みによって生成される厚みの大きい厚みの大きい切屑を導いて溝底位置9bの部分により湾曲させることにより、効率的に分断することができる。このため、本実施形態では、第2のギャッシュ9によって形成されるチップポケットを有効に利用することができ、上述のように切り込み量が大きい場合でも、厚みの大きい切屑の安定した処理を促すことが可能となる。
【0079】
なお、この場合において、本実施形態では、上記断面における軸線Oと第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線F1と、軸線Oと第2のギャッシュ9の溝底位置9bとを結ぶ直線F2との交差角γが、5°~30°の範囲内とされている。このため、確実に上述のような第2のギャッシュ9によるチップポケットの有効利用を図りながらも、切屑詰まり等により必要以上に切削抵抗が増大するのは防ぐことができる。
【0080】
すなわち、この交差角γが5°を下回ると、第2のギャッシュ9の溝底位置9bを底刃8から十分に遠ざけることができずに、第2のギャッシュ9によるチップポケットの有効利用を図ることができなくなるおそれがある。一方、逆に、この交差角γが30°を上回ると、第2のギャッシュ9の溝底位置9bが底刃8から遠ざかりすぎ、切屑が長く第2のギャッシュ9の底面9aを擦過することになって切屑詰まり等を生じ、切削抵抗の増大を招くおそれがある。
【符号の説明】
【0081】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 先端逃げ面
5 切屑排出溝
6 外周刃
7 第1のギャッシュ
7a 第1のギャッシュ7の第1の壁面
7b 第1のギャッシュ7の底面
7c 第1のギャッシュ7の溝底部
7d 第1のギャッシュ7の第2の壁面
7e チャンファー面
7f 第1のギャッシュ7の溝底位置
8 底刃
8a 長底刃
8b 短底刃
9 第2のギャッシュ
9a 第2のギャッシュ9の底面
9b 第2のギャッシュ9の溝底位置
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
C エンドミル回転中心
P 底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の中心
Q 第1のギャッシュ7の溝底部7cと第2のギャッシュ9との交差部
R 底刃8の軸線O回りの回転軌跡がなす半球の半径
R1 第1のギャッシュ7の溝底部7cの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径
R2 第2のギャッシュ9の底面9aの軸線Oに直交する断面における最小の曲率半径
H チャンファー面7eの底刃8の中心Pに対する半径方向の幅
L1 エンドミル本体1の先端側の第1の壁面7aおよび底面7bと第2のギャッシュ9との交差稜線
M1 底刃8の中心Pから第1の壁面7aと第2のギャッシュ9との交差稜線L1がなす凸曲線に接する接線
θ1 接線M1が底刃8の中心Pよりも先端側の軸線Oに対してなす角度
M2 底刃8の中心Pから溝底部7Cと第2のギャッシュ9との交差部Qを通る直線
θ2 直線M2が底刃8の中心Pよりも先端側の軸線Oに対してなす角度
N1 第1のギャッシュ捩れ線
N2 第2のギャッシュ捩れ線
α 第1のギャッシュ捩れ線N1の軸線Oに対する捩れ角
β 第2のギャッシュ捩れ線N2の軸線Oに対する捩れ角
F1 第2のギャッシュ9に交差して軸線Oに直交する断面における軸線Oと第1のギャッシュ7の溝底位置7fとを結ぶ直線
F2 直線F1と同じ断面における軸線Oと第2のギャッシュ9の溝底位置9bとを結ぶ直線
γ 直線F1、F2の交差角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9