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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】気密容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/26 20060101AFI20240521BHJP
   H01S 1/06 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H03L7/26
H01S1/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020122905
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019207
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 一嘉
(72)【発明者】
【氏名】岸本 俊輔
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053304(JP,A)
【文献】特開2013-143498(JP,A)
【文献】特表2017-534559(JP,A)
【文献】特開2020-113616(JP,A)
【文献】特開2019-047307(JP,A)
【文献】特開2013-143497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/26
H01S 1/06
G04F 1/00- 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、前記第1の主面及び前記第2の主面間を貫通している貫通孔が設けられており、かつ前記第1の主面及び前記第2の主面に接続されている内側面及び外側面を有する、セル本体と、
前記セル本体の前記第1の主面上に設けられており、前記貫通孔の一方側を塞いでいる第1の蓋部材と、
前記セル本体の前記第2の主面上に設けられており、前記貫通孔の他方側を塞いでいる第2の蓋部材と、
を備え、
前記外側面が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含む、気密容器。
【請求項2】
前記内側面が火造り面である、請求項1に記載の気密容器。
【請求項3】
前記セル本体の前記内側面が、互いに対向し合う第1の内側面及び第2の内側面を含み、前記外側面が、互いに対向し合う第1の外側面及び第2の外側面を含み、
前記第1の外側面が入光面であり、前記第2の外側面が出光面であり、
前記第1の外側面、前記第1の内側面、前記第2の外側面及び前記第2の内側面における、少なくとも光を透過させる部分が略平行である、請求項1又は2に記載の気密容器。
【請求項4】
前記セル本体の前記内側面が、互いに対向し合う第1の内側面及び第2の内側面を含み、前記外側面が、互いに対向し合う第1の外側面及び第2の外側面を含み、
前記第1の外側面が入光面であり、前記第2の外側面が出光面であり、
前記第1の外側面、前記第1の内側面、前記第2の外側面及び前記第2の内側面における、少なくとも光を透過させる部分がいずれも平面状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項5】
前記セル本体がガラスにより構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項6】
前記第1の蓋部材及び前記第2の蓋部材が、ガラスにより構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項7】
前記貫通孔内に、アルカリ金属が封入されている、原子セルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の気密容器を製造する方法であって、
リドロー成形により、プリフォームから前記セル本体を形成する工程と、
前記セル本体の前記第1の主面上に前記第1の蓋部材を接合する工程と、
前記セル本体の前記第2の主面上に前記第2の蓋部材を接合する工程と、
を備える、気密容器の製造方法。
【請求項9】
前記プリフォームに孔部を形成した後に、リドロー成形により前記セル本体を形成する工程を行う、請求項8に記載の気密容器の製造方法。
【請求項10】
前記セル本体と、前記第1の蓋部材及び前記第2の蓋部材とを、加熱圧着により接合する、請求項8又は9に記載の気密容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子時計は、セシウム(Cs)やルビジウム(Rb)等のアルカリ金属原子におけるエネルギー遷移に基づいて発振する原子発振器を備えており、この原子発振器は、長期的に高精度な発振特性が得られる発振器として知られている。原子発振器の動作原理は、いくつかの方式に区別されるが、量子干渉効果(CPT:Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器は、水晶発振器と比較して3桁程度高い周波数安定性を有することが知られている。
【0003】
このような原子発振器では、原子セル内にガス状のアルカリ金属が封入されて用いられる。また、原子発振器として必要な性能を確保するため、原子セル内には、さらに窒素(N)やネオン(Ne)、アルゴン(Ar)などのバッファガスが封入されて用いられている。
【0004】
下記の特許文献1には、原子セルの一例が開示されている。この原子セルは、貫通孔を有する胴体部と、貫通孔の開口を塞ぐ1対の窓部とを有する。胴体部及び1対の窓部により囲まれた内部空間内に、ガス状のアルカリ金属が封入されている。1対の窓部のうち一方が、励起光が入射する入射側窓部である。他方が、励起光が出射する出射側窓部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-185911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胴体部及び窓部の接合には、例えば、オプティカルコンタクトによる接合が考えられる。しかしながら、オプティカルコンタクトは胴体部及び窓部の表面の状態に依存するため、安定的に接合することが困難であり、原子セルの内部に存在するバッファガスがセル外部に漏洩する、いわゆるセル抜けが生じることがある。接着剤を用いた接合も考えられるが、高い遮蔽性を維持することは困難であり、大気中のヘリウム(He)が原子セルの内部に侵入するおそれがある。そのため、時間経過による周波数変動が生じ易いという問題がある。
【0007】
そこで、胴体部及び窓部の接合には、加熱圧着、すなわち溶着により接合することが考えられる。しかしながら、溶着は、屈伏点~軟化点の温度域において行う必要があり、窓部の表面に加圧による痕跡が残りがちである。なお、溶着以外の接合においても、窓部と胴体部とに加える圧力により、窓部の表面に接合の痕跡が残るおそれがある。そのため、光透過性が損なわれるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過性を損なうことがない、気密容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る気密容器は、対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、第1の主面及び第2の主面間を貫通している貫通孔が設けられており、かつ第1の主面及び第2の主面に接続されている内側面及び外側面を有する、セル本体と、セル本体の第1の主面上に設けられており、貫通孔の一方側を塞いでいる第1の蓋部材と、セル本体の第2の主面上に設けられており、貫通孔の他方側を塞いでいる第2の蓋部材とを備え、外側面が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含むことを特徴としている。また、内側面が火造り面であることが好ましい。
【0010】
セル本体の内側面が、互いに対向し合う第1の内側面及び第2の内側面を含み、外側面が、互いに対向し合う第1の外側面及び第2の外側面を含み、第1の外側面が入光面であり、第2の外側面が出光面であり、第1の外側面、第1の内側面、第2の外側面及び第2の内側面における、少なくとも光を透過させる部分が略平行であることが好ましい。
【0011】
セル本体の内側面が、互いに対向し合う第1の内側面及び第2の内側面を含み、外側面が、互いに対向し合う第1の外側面及び第2の外側面を含み、第1の外側面が入光面であり、第2の外側面が出光面であり、第1の外側面、第1の内側面、第2の外側面及び第2の内側面における、少なくとも光を透過させる部分がいずれも平面状であることが好ましい。
【0012】
セル本体がガラスにより構成されていることが好ましい。
【0013】
第1の蓋部材及び第2の蓋部材が、ガラスにより構成されていることが好ましい。
【0014】
貫通孔内に、アルカリ金属が封入されている、原子セルであることが好ましい。
【0015】
本発明の気密容器の製造方法は、上記気密容器を製造する方法であって、リドロー成形により、プリフォームからセル本体を形成する工程と、セル本体の第1の主面上に第1の蓋部材を接合する工程と、セル本体の第2の主面上に第2の蓋部材を接合する工程とを備えることを特徴としている。
【0016】
プリフォームに孔部を形成した後に、リドロー成形によりセル本体を形成する工程を行うことが好ましい。
【0017】
セル本体と、第1の蓋部材及び第2の蓋部材とを、加熱圧着により接合することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過性を損なうことがない、気密容器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る原子セルを示す斜視図である。
図2図1中のI-I線に沿う断面図である。
図3図1中のII-II線に沿う断面図である。
図4】原子セルの第1の貫通孔内にアルカリ金属を封入する方法の例を説明するための正面断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係る原子セルの斜視図である。
図6】本発明の気密容器の製造方法における、プリフォームを用意する工程の一例を説明するための斜視図である。
図7】本発明の気密容器の製造方法における、中間体を得る工程の一例を説明するための斜視図である。
図8】本発明の気密容器の製造方法における、セル本体を得る工程の一例を説明するための正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0021】
(原子セル)
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る原子セルを示す斜視図である。図2は、図1中のI-I線に沿う断面図である。図3は、図1中のII-II線に沿う断面図である。
【0022】
図1に示すように、原子セル1は、セル本体2と、第1の蓋部材3と第2の蓋部材4とを備える。原子セル1は、本発明の気密容器である。もっとも、本発明の気密容器は原子セルには限定されず、例えば波長変換部材等の、気密性が求められる部材に適用することができる。
【0023】
図2に示すように、セル本体2は、第1の主面5及び第2の主面6並びに外側面7及び内側面8を有する。第1の主面5及び第2の主面6は対向し合っている。外側面7及び内側面8は、第1の主面5及び第2の主面6に接続されている。
【0024】
セル本体2には、第1の貫通孔13と、第2の貫通孔14と、連通部15とが設けられている。第1の貫通孔13は、本発明における貫通孔である。第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14は、第1の主面5及び第2の主面6間を貫通している。連通部15は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を連通させている部分である。本実施形態では、連通部15は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を接続している溝部である。連通部15は、第1の主面5側に開口している。もっとも、連通部15の配置は上記に限定されない。
【0025】
図1及び図3に示すように、平面視において、第1の貫通孔13は、矩形の形状を有し、第2の貫通孔14は円形の形状を有する。なお、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の平面視における形状は上記に限定されない。第1の貫通孔13の平面視における形状は、例えば、略矩形状の形状であってもよく、四角形以外の多角形状の形状であってもよい。第2の貫通孔14の平面視における形状も、多角形状等であってもよい。
【0026】
第2の貫通孔14の容積は、第1の貫通孔13の容積よりも小さい。具体的には、第2の貫通孔14における第1の主面5に開口している部分の面積は、第1の貫通孔13における第1の主面5に開口している部分の面積よりも小さい。同様に、第2の貫通孔14における第2の主面6に開口している部分の面積は、第1の貫通孔13における第2の主面6に開口している部分の面積よりも小さい。なお、第2の貫通孔14及び連通部15は必ずしも設けられていなくともよい。
【0027】
図1に示すように、セル本体2の外側面7は、第1の外側面7a、第2の外側面7b、第3の外側面7c及び第4の外側面7dを含む。第1の外側面7a及び第2の外側面7bは対向し合っている。第3の外側面7c及び第4の外側面7dは対向し合っており、かつ第1の外側面7a及び第2の外側面7bに接続されている。第1の外側面7a及び第2の外側面7bは平面状の形状を有する。他方、第3の外側面7c及び第4の外側面7dは曲面状の形状を有する。セル本体2の平面視における外形の形状は、略楕円形である。もっとも、セル本体2の平面視における外形の形状は上記に限定されず、例えば、矩形等であってもよい。本明細書において平面視とは、図1における上方から見る方向をいう。
【0028】
内側面8は、第1の貫通孔13を囲んでいる面である。第1の主面5において第1の貫通孔13が開口している部分は、第1の主面5及び内側面8が接続されている部分である。内側面8は、第1の内側面8a、第2の内側面8b、第3の内側面8c及び第4の内側面8dを含む。第1の内側面8a及び第2の内側面8bは対向し合っている。第3の内側面8c及び第4の内側面8dは対向し合っており、かつ第1の内側面8a及び第2の内側面8bに接続されている。第1の内側面8a、第2の内側面8b、第3の内側面8c及び第4の内側面8dは平面状の形状を有する。上記連通部15は、第4の内側面8dの一部において開口している。
【0029】
第1の主面5上に、上記第1の蓋部材3が接合されている。第1の蓋部材3は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の一方側、並びに連通部15を塞いでいる。第2の主面6上に、上記第2の蓋部材4が接合されている。第2の蓋部材4は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の他方側を塞いでいる。本実施形態において、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4と、セル本体2との平面視における形状は同じであり、略楕円形である。もっとも、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の形状は、第1の貫通孔13、第2の貫通孔14及び連通部15を塞ぐことができる形状であればよい。第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の形状は、例えば、円板状又は矩形板状等であってもよい。
【0030】
原子セル1は、アルカリ金属やバッファガスが封入される容器であり、原子セル1の第1の貫通孔13内にガス状のアルカリ金属やバッファガスが封入されて用いられる。原子セル1は、原子発振器に用いられる。図1に示すように、光源から出射された光Aが原子セル1に入射し、第1の貫通孔13を通る。そして、原子セル1から光Bが出射する。具体的には、本実施形態では、第1の外側面7aが入光面であり、第2の外側面7bが出光面である。第1の外側面7aから入射した光Aは、第1の貫通孔13内のアルカリ金属に照射される。そして、光Bが第2の側面7bから出射する。原子セル1から出射した光Bは、光検出器に入射する。これにより、信号が取得される。なお、アルカリ金属としては、セシウム(Cs)やルビジウム(Rb)を用いることができる。バッファガスとしては、窒素(N)やネオン(Ne)、アルゴン(Ar)を用いることができる。
【0031】
本実施形態の特徴は、セル本体2の外側面7が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含むことにある。本明細書において、火造り面とは、リドロー成形等の加熱成形によって形成された平滑な面をいう。具体的には、本明細書において、火造り面の算術平均粗さ(Ra)は1nm以下である。原子セル1においては、入光面及び出光面が火造り面であり、平滑であるため、入光面及び出光面において光の散乱が生じ難く、光透過性を高めることができる。加えて、入光面及び出光面がセル本体2の外側面7に含まれるため、加熱圧着等により加えられる圧力により、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の表面に接合の痕跡が残ったとしても、原子セル1の光透過性は影響され難い。従って、本実施形態においては、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過性を損なうことがない。なお、本明細書における算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013に基づく。
【0032】
気密性を高められることにより、大気中のHeが原子セル1の内部に侵入し難い。さらに、原子セル1の内部に封入されているバッファガスのセル抜けが生じ難い。それによって、原子発振器における発振周波数の経時変化を生じ難くすることができる。
【0033】
原子セル1においては、外側面7だけでなく、内側面8も火造り面である。よって、第1の貫通孔13に光が入射するとき、及び第1の貫通孔13から光が出射するときにおいても、光の散乱が生じ難い。よって、光透過性をより一層高めることができる。
【0034】
第1の外側面7a、第1の内側面8a、第2の外側面7b及び第2の内側面8bにおける、少なくとも光を透過させる部分が略平行であることが好ましい。それによって、セル本体2における光が入射する部分の厚みを均一にすることができ、かつ光が出射する部分における厚みを均一にすることができる。さらに、第1の外側面7a、第1の内側面8a、第2の外側面7b及び第2の内側面8bにおける、少なくとも光を透過させる部分がいずれも平面状であることが好ましい。それによって、光が原子セル1を通過する距離を均一にすることができる。従って、原子セル1を通過する光の信号を、光検出器よって安定的に取得することができる。なお、本発明でいう略平行とは、対向する側面が含まれる平面同士のなす角度が0.5度以下、より好ましくは0.2度以下であることをいう。
【0035】
なお、原子発振器の製品によって、光源と原子セル1との位置関係にばらつきが生じる場合には、原子セル1における光を透過させる部分にもばらつきが生じることとなる。ここで、本実施形態の原子セル1においては、第1の外側面7a、第1の内側面8a、第2の外側面7b及び第2の内側面8bの全体が、略平行であり、かつ平面状である。それによって、上記のようなばらつきが生じる場合においても、製品毎において、光が原子セル1を通過する距離を均一にすることができる。従って、原子セル1を通過する光の信号を、光検出器よって、より確実に、安定的に取得することができる。
【0036】
本実施形態では、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同じガラスにより構成されている。なお、セル本体2の材料は上記に限定されず、外側面7を火造り面とすることができ、かつ光透過性を有する材料であればよい。第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の材料は上記に限定されず、例えば、金属、水晶又はシリコン等により構成されていてもよい。もっとも、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、ガラスにより構成されていることが好ましい。それによって、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の熱膨張係数を互いに近づけることができ、接合の安定性を高めることができる。
【0037】
セル本体2に用いられるガラスとしては、特に限定されず、例えば、無鉛ガラス、有鉛ガラス、又はビスマス系ガラス等を用いることができる。
【0038】
無鉛ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO 50%~60%、Al 10%~16%、B 0%~8%、MgO 0%~5%、CaO 16%~30%、RO(Rは、Li、Na及びKから選択される少なくとも1種を表す)0%~2%、及びP 0%~3%を含有する、アルミノ珪酸塩系ガラスを用いることができる。
【0039】
有鉛ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO 10%~45%、PbO 40%~75%、及びKO 0.5%~10%を含有する、鉛系ガラスを用いることができる。
【0040】
ビスマス系ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、Bi 5%~80%、B 5%~35%、ZnO 0%~20%、SiO 0%~20%、及びSrO 0%~30%を含有する、ガラスを用いることができる。
【0041】
セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同系統のガラス組成を有することが好ましい。セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同じガラス組成を有することがさらに好ましい。それによって、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の熱膨張係数を互いに近づけることができ、接合の安定性を高めることができる。よって、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。なお、本明細書において「同系統のガラス組成」のガラスとは、ガラス組成として含有される上位3成分が互いに一致することを指す。また、本発明において、「同じガラス組成」のガラスとは、互いにガラス組成として含有される各成分が一致し、一方のガラスの組成に対して他方のガラスの各成分の含有量の差が+5%~-5%の範囲内であるものを含む。
【0042】
図4は、原子セルの第1の貫通孔内にアルカリ金属を封入する方法の例を説明するための正面断面図である。セル本体2における第2の貫通孔14は、アルカリ金属Mが封入されたアンプル19等を配置するために設けられている。第2の貫通孔14内に配置されたアンプル19に、原子セル1の外側からレーザー光Lを照射することにより、アンプル19を割り、ガス状のアルカリ金属が第2の貫通孔14内に放出される。なお、アンプル19内に固体状のアルカリ金属Mが封入されている場合には、加熱によりアルカリ金属Mをガス化させてもよい。ガス状のアルカリ金属は、連通部15を通り、第1の貫通孔13内にも拡散する。もっとも、アルカリ金属を原子セル1内に封入する方法は上記に限定されない。例えば、アルカリ金属を原子セル1内に直接的に配置した後に、加熱によりアルカリ金属をガス化させてもよい。あるいは、アルカリ金属をガス状の状態において、原子セル1内に直接封入してもよい。
【0043】
(変形例)
図5は、第1の実施形態の変形例に係る原子セルの斜視図である。本変形例においては、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14が直接的に連通している。よって、本変形例では、連通部は設けられていない。第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14は、第4の内側面8dにおいて、第1の主面5から第2の主面6に至るまで連続的に開口しており、かつ第1の主面5から第2の主面6に至るまで連続的に連通している。
【0044】
以下、気密容器としての原子セル1の製造方法の一例について説明する。
【0045】
(製造方法)
図6は、気密容器の製造方法における、プリフォームを用意する工程の一例を説明するための斜視図である。図7は、気密容器の製造方法における、中間体を得る工程の一例を説明するための斜視図である。図8は、気密容器の製造方法における、セル本体を得る工程の一例を説明するための正面断面図である。
【0046】
気密容器としての原子セル1の製造方法においては、セル本体2をリドロー成形により形成する。具体的には、図6に示すように、リドロー成形に用いるプリフォーム22を、切削加工等によって用意する。平面視において、プリフォーム22の少なくとも一部の外形の形状と、得ようとするセル本体2の外形の形状とは、相似の関係を有する。
【0047】
次に、プリフォーム22に、第1の孔部23及び第2の孔部24を設ける。平面視において、第1の孔部23の形状と、得ようとするセル本体2の第1の貫通孔13の形状とは、相似の関係を有する。同様に、平面視において、第2の孔部24の形状と、得ようとするセル本体2の第2の貫通孔14の形状とは、相似の関係を有する。第1の孔部23及び第2の孔部24は、例えば、ドリルや超音波加工等により形成することができる。第1の孔部23及び第2の孔部24は、貫通孔であってもよく、あるいは、貫通孔ではなくともよい。なお、プリフォーム22には、第1の孔部23及び第2の孔部24を必ずしも設けなくともよい。
【0048】
次に、図7に示すように、プリフォーム22を加熱し、引き延ばす。次に、プリフォーム22における引き延ばされた部分を切断することにより、中間体25を得る。図7中のD-D線は、プリフォーム22が切断されていることを示す。上記切断は、例えば、ダイシングソーやガラスカッターにより行うことができる。中間体25は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を有する。中間体25の第1の貫通孔13は、プリフォーム22における第1の孔部23から形成される。中間体25の第2の貫通孔14は、プリフォーム22における第2の孔部24から形成される。
【0049】
さらに、中間体25は、外側面7及び内側面8を有する。中間体25は、リドロー成形により形成されていることによって、外側面7は火造り面とされている。さらに、プリフォーム22に第1の孔部23が形成された状態においてリドロー成形を行うことによって、内側面8をも火造り面とすることができる。図7に示す工程を繰り返すことにより、1個のプリフォーム22から複数の中間体25を得る。
【0050】
なお、プリフォーム22に第1の孔部23及び第2の孔部24を設けない場合には、それぞれの中間体25に第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を設けてもよい。もっとも、プリフォーム22に第1の孔部23及び第2の孔部24を設けることが好ましい。それによって、上記のように、内側面8を火造り面とすることができる。加えて、各中間体25に第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を設ける工程を削減できる。よって、生産性を高めることができる。
【0051】
次に、図8に示すように、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を連通させるように、連通部15を設ける。連通部15は、例えば、ドリルや超音波加工等により形成することができる。本実施形態においては、第1の主面5における第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の間の部分に、溝を設けることによって、連通部15を形成する。これにより、セル本体2を得る。
【0052】
一方で、図1に示した第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を用意する。次に、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3とを接合する。このとき、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の一方側、並びに連通部15を、第1の蓋部材3により塞ぐ。さらに、セル本体2の第2の主面6と第2の蓋部材4とを接合する。このとき、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の他方側を、第2の蓋部材4により塞ぐ。以上により、図1に示す原子セル1を得る。
【0053】
なお、アルカリ金属を原子セル1に封入する際には、セル本体2と双方の蓋部材とを接合する前に、アルカリ金属が封入されたアンプル等をセル本体2内に配置すればよい。具体的には、例えば、セル本体2の第2の主面6と第2の蓋部材4とを接合する。次に、セル本体2の第2の貫通孔14内にアンプル等を配置する。その後、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3とを接合する。なお、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3との接合に際しては、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14内にバッファガスを導入し、このバッファガス雰囲気において接合を行う。本発明においては、原子セル1内におけるアルカリ金属はガス化前の固体等の状態であってもよいし、ガス状の状態であってもよいし、アンプルに封入された状態であってもよい。原子セル1の使用時に、第1の貫通孔13内にガス状のアルカリ金属が封入されていればよい。
【0054】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、加熱圧着により行うことが好ましい。この場合には、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の表面において、加圧の痕跡が残る場合もある。これに対して、本実施形態においては、入光面及び出光面はセル本体2の外側面7に含まれるため、光透過性が損なわれ難い。よって、上記接合に加熱圧着を用いる場合に、本発明は好適である。しかも、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。
【0055】
加熱圧着においては、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を構成するガラス材料の屈伏点以上、軟化点以下の温度域まで、第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2を加熱し、荷重を印加することが好ましい。荷重を加える際には、セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を挟持する。加熱圧着における圧力は、1kPa以上とすることが好ましく、10kPa以上とすることがより好ましい。それによって、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。しかも、本実施形態においては、原子セル1における光透過性は損なわれ難い。なお、加熱圧着における圧力は、0.5MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以下であることがより好ましい。
【0056】
加熱圧着により上記接合を行う場合には、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6、並びに第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の接合面を研磨する必要はない。よって、生産性を高めることができる。もっとも、上記各接合面を、接合前に研磨してもよい。この場合、接合面の算術平均粗さ(Ra)は、0.3nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることがさらに好ましい。なお、上記接合は、加熱圧着以外の方法により行ってもよい。
【0057】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、オプティカルコンタクトにより行ってもよい。この場合には、接合前に、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6、並びに第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の接合面を研磨する。第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2の接合面の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.6nm以下であることがより好ましく、0.4nm以下であることがさらに好ましい。加熱温度としては、第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2を構成するガラスのガラス転移温度以下とすることが好ましく、400℃以下とすることがより好ましく、300℃以下とすることがさらに好ましい。また、オプティカルコンタクトにおける加圧の圧力としては、10MPa以上とすることが好ましく、100MPa以上とすることがより好ましい。それによって、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。しかも、上記のように、原子セル1における光透過性は損なわれ難い。なお、オプティカルコンタクトにおける圧力は、300MPa以下であることが好ましく、200MPa以下であることがより好ましい。
【0058】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、陽極接合により行ってもよい。陽極接合は、例えば、300℃以上、350℃以下の温度で行うことができる。陽極接合は、例えば、大気圧雰囲気下で行うことができる。陽極接合は、例えば、250V以上、300V以下の電圧で行うことができる。この場合、ガラス組成中のアルカリ含有量により電圧を増加させてもよい。また、陽極接合は、例えば、0.1MPa以上、0.3MPa以下の加圧下で行うことができる。この場合、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の厚みに応じて圧力を大きくしてもよい。
【0059】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、レーザーシールにより行ってもよい。レーザーシールは、ガラスフリットを用いて行うことが好ましい。ガラスフリットとしては、例えば、ビスマス系ガラスを用いることができる。ビスマス系ガラスのガラス組成は、例えば、モル%で、Bi 39%、B 23.7%、ZnO 14.1%、Al 2.7%、CuO 20%、Fe 0.6%とすることができる。
【0060】
レーザーシールによる接合の一例では、まず、ガラスフリットと、必要に応じてビークル及び溶剤とを含むペーストを用意する。次に、このペーストをセル本体2の第1の主面5及び第2の主面6上に塗布及びグレーズ(加熱処理)し、額縁状の封着材料層を形成する。次に、封着材料層を形成したセル本体2の第1の主面5及び第2の主面6上に、それぞれ、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を載置する。これにより、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との間に封着材料層を配置することができる。なお、額縁状の封着材料層は、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4側に形成してもよい。あるいは、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との両方に封着材料を塗布してもよい。次に、レーザー光を、第1の蓋部材3を通して照射し、一方の封着材料層を加熱溶融する。同様に、レーザー光を、第2の蓋部材4を通して照射し、他方の封着材料層を加熱溶融する。これらにより、封着材料層を軟化変形させることにより、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4とを気密封着して接合することができる。なお、レーザー光としては、例えば、波長808nm、3W~20Wの半導体レーザーを用いることができる。
【0061】
また、セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、樹脂接着剤や無機接着剤等の接着剤を用いて行ってもよい。
【0062】
本発明の気密容器を原子セルとして用いる場合、例えば、波長の異なる2種類の光による量子干渉効果を利用してアルカリ金属を共鳴遷移させる原子発振器に用いることができる。もっとも、光及びマイクロ波による二重共鳴現象を利用してアルカリ金属を共鳴遷移させる原子発振器に用いてもよく、特に限定されない。なお、本発明の気密容器は原子セルには限定されず、例えば波長変換部材等の、気密性が求められる部材に適用することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1…原子セル
2…セル本体
3…第1の蓋部材
4…第2の蓋部材
5…第1の主面
6…第2の主面
7…外側面
7a~7d…第1~第4の外側面
8…内側面
8a~8d…第1~第4の内側面
13…第1の貫通孔
14…第2の貫通孔
15…連通部
19…アンプル
22…プリフォーム
23…第1の孔部
24…第2の孔部
25…中間体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8