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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】同期装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 23/06 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
F16D23/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020140343
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035789
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 智章
(72)【発明者】
【氏名】佐口 幸司
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌久
(72)【発明者】
【氏名】北村 健二
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-164145(JP,A)
【文献】特開2020-037980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体的に取付けられた円板部と、前記円板部の外周部から前記回転軸の軸方向に突出するとともに、外周面に外周スプラインが形成された外径部と、前記外径部の外周面から径方向の内方に窪む複数のキー溝とを有するハブと、
外周面に外周スプラインが形成され前記回転軸に相対回転自在に取付けられたギヤと、
前記ハブと前記ギヤの間に設けられ、前記ギヤに摩擦接触するコーン面が形成されたシンクロナイザリングと、
前記ハブの外周スプラインと前記ギヤの外周スプラインとに嵌合可能な内周スプラインを有し、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられたスリーブと、
前記スリーブを径方向の外方に押圧するように前記キー溝に収容され、前記スリーブと共に前記回転軸の軸方向に移動することにより、前記シンクロナイザリングを前記ギヤ側に押圧するシフティングキーとを備えた同期装置であって、
前記外径部の内周面に、前記外径部の内周面から径方向の内方に突出し、かつ、前記回転軸の軸方向に延びる複数の突部が形成されており、
前記突部は、前記キー溝の周縁の前記外径部の内周面に形成されており、
前記キー溝は、前記外径部の円周方向で前記突部の間に位置していることを特徴とする同期装置。
【請求項2】
回転軸に一体的に取付けられた円板部と、前記円板部の外周部から前記回転軸の軸方向に突出するとともに、外周面に外周スプラインが形成された外径部と、前記外径部の外周面から径方向の内方に窪む複数のキー溝とを有するハブと、
外周面に外周スプラインが形成され前記回転軸に相対回転自在に取付けられたギヤと、
前記ハブと前記ギヤの間に設けられ、前記ギヤに摩擦接触するコーン面が形成されたシンクロナイザリングと、
前記ハブの外周スプラインと前記ギヤの外周スプラインとに嵌合可能な内周スプラインを有し、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられたスリーブと、
前記スリーブを径方向の外方に押圧するように前記キー溝に収容され、前記スリーブと共に前記回転軸の軸方向に移動することにより、前記シンクロナイザリングを前記ギヤ側に押圧するシフティングキーとを備えた同期装置であって、
前記外径部の内周面に、前記外径部の内周面から径方向の内方に突出し、かつ、前記回転軸の軸方向に延びる複数の突部が形成されており、
前記シンクロナイザリングの外周面は、前記ハブの径方向で前記外径部に対向しており、
前記シンクロナイザリングの外周面に、前記突部が収容される溝部が形成されていることを特徴とする同期装置。
【請求項3】
回転軸に一体的に取付けられた円板部と、前記円板部の外周部から前記回転軸の軸方向に突出するとともに、外周面に外周スプラインが形成された外径部と、前記外径部の外周面から径方向の内方に窪む複数のキー溝とを有するハブと、
外周面に外周スプラインが形成され前記回転軸に相対回転自在に取付けられたギヤと、
前記ハブと前記ギヤの間に設けられ、前記ギヤに摩擦接触するコーン面が形成されたシンクロナイザリングと、
前記ハブの外周スプラインと前記ギヤの外周スプラインとに嵌合可能な内周スプラインを有し、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられたスリーブと、
前記スリーブを径方向の外方に押圧するように前記キー溝に収容され、前記スリーブと共に前記回転軸の軸方向に移動することにより、前記シンクロナイザリングを前記ギヤ側に押圧するシフティングキーとを備えた同期装置であって、
前記外径部の内周面に、前記外径部の内周面から径方向の内方に突出し、かつ、前記回転軸の軸方向に延びる複数の突部が形成されており、
前記円板部に潤滑油が流動する油溝が形成されており、
前記油溝は、前記円板部の内周部から外周部に向かって延びており、
前記油溝の外周部は、前記外径部の円周方向で前記キー溝と異なる位置に位置していることを特徴とする同期装置。
【請求項4】
前記シンクロナイザリングの外周面は、前記ハブの径方向で前記外径部に対向しており、
前記シンクロナイザリングの外周面に、前記突部が収容される溝部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の同期装置。
【請求項5】
前記円板部に潤滑油が流動する油溝が形成されており、
前記油溝は、前記円板部の内周部から外周部に向かって延びており、
前記油溝の外周部は、前記外径部の円周方向で前記キー溝と異なる位置に位置していることを特徴とする請求項1に記載の同期装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機に設けられた同期装置は、回転軸と一体的に回転するように取付けられたハブと、回転軸上に相対回転可能に設けられたギヤとを有し、これらハブとギヤの間にシンクロリングが設けられている。
【0003】
変速時に同期装置は、ハブの外周スプラインにその内周スプラインが嵌合されるスリーブを回転軸の軸方向に移動させることにより、シンクロリングを押圧してシンクロコーンのテーパ部に摩擦接触させる。
【0004】
これにより、ギヤとハブの回転を同期させて、スリーブの内周スプラインをシンクロコーンの外周スプラインに嵌合させることができ、回転軸とギヤとが一体で回転するように接続させることができる。
【0005】
また、ハブの外径部に形成されたキー溝(切り欠き)にはシンクロキーが収装されており、変速時にスリーブがギヤ側に移動すると、この移動に伴ってシンクロキーも移動させられる。シンクロキーは、キー溝に沿って回転軸の軸方向に移動することになり、シンクロリングをシンクロコーンのテーパ部に押し付ける。
【0006】
同期装置においては、シンクロリングとシンクロコーンのテーパ部を潤滑する必要がある。従来、シンクロリングとシンクロコーンのテーパ部の潤滑を行うようにした同期装置としては、特許文献1に記載されるものが知られている。
【0007】
特許文献1に記載される同期装置は、回転軸の軸方向に形成された油溝に供給された潤滑油を、回転軸の回転による遠心力によってハブに沿って径方向の外方に移動させることにより、潤滑油をシンクロリングとシンクロコーンのテーパ部に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5004780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の同期装置は、シンクロリングとシンクロコーンのテーパ部に対して、潤滑油の流れる方向の下流側にシンクロコーンの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部が位置している。
【0010】
シンクロコーンの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部の上流側において、シンクロリングがハブの外径部の内側に入り込んでいるので、シンクロリングの外径面とハブの外径部の内面との隙間は比較的小さい。また、ハブの外径部にはシンクロキーが収装されるキー溝が形成されている。
【0011】
このため、潤滑油は、シンクロコーンの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に向って流れずに、その殆どがキー溝に流れてしまう。つまり、潤滑油は、シンクロコーンの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に到達せずに、その殆どがキー溝から同期装置の外部に流れ出てしまう。
【0012】
したがって、潤滑油を、シンクロコーンの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に導くことが困難となる
【0013】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、ハブの円板部に沿って外径部に流れる潤滑油がキー溝から漏出されることを抑制して、潤滑油を外径部の軸方向の外方に流すことができ、潤滑油をギヤの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に導くことができる同期装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、回転軸に一体的に取付けられた円板部と、前記円板部の外周部から前記回転軸の軸方向に突出するとともに、外周面に外周スプラインが形成された外径部と、前記外径部の外周面から径方向の内方に窪む複数のキー溝とを有するハブと、外周面に外周スプラインが形成され前記回転軸に相対回転自在に取付けられたギヤと、前記ハブと前記ギヤの間に設けられ、前記ギヤに摩擦接触するコーン面が形成されたシンクロナイザリングと、前記ハブの外周スプラインと前記ギヤの外周スプラインとに嵌合可能な内周スプラインを有し、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられたスリーブと、前記スリーブを径方向の外方に押圧するように前記キー溝に収容され、前記スリーブと共に前記回転軸の軸方向に移動することにより、前記シンクロナイザリングを前記ギヤ側に押圧するシフティングキーとを備えた同期装置であって、前記外径部の内周面に、前記外径部の内周面から径方向の内方に突出し、かつ、前記回転軸の軸方向に延びる複数の突部が形成されており、前記突部は、前記キー溝の周縁の前記外径部の内周面に形成されており、前記キー溝は、前記外径部の円周方向で前記突部の間に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように上記の本発明によれば、ハブの円板部に沿って外径部に流れる潤滑油がキー溝から漏出されることを抑制して、潤滑油を外径部の軸方向の外方に流すことができ、潤滑油をギヤの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施例に係る同期装置を備えた変速機の入力軸の軸心を含む縦断面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る同期装置を後左斜め上方から見た図であり、シンクロナイザリングを不図示として最高変速段にシフトされた状態の同期装置を示している。
図3図3は、図1のIII-III方向矢視で示されるハブ、シフティングキー、スリーブを軸方向から見た図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る同期装置のシフティングキーが取付けられた状態のハブを左斜め後方から見た図である。
図5図5は、本発明の一実施例に係る同期装置のシンクロナイザリングとシフティングキーを前左斜め上方から見た図である。
図6図6は、図1のVI-VI方向矢視断面図である。
図7図7は、本発明の一実施例に係る同期装置を備えた変速機が最高変速段にシフトされた状態の入力軸の軸心を含む縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態に係る同期装置は、回転軸に一体的に取付けられた円板部と、円板部の外周部から回転軸の軸方向に突出するとともに、外周面に外周スプラインが形成された外径部と、外径部の外周面から径方向の内方に窪む複数のキー溝とを有するハブと、外周面に外周スプラインが形成され回転軸に相対回転自在に取付けられたギヤと、ハブとギヤの間に設けられ、ギヤに摩擦接触するコーン面が形成されたシンクロナイザリングと、ハブの外周スプラインとギヤの外周スプラインとに嵌合可能な内周スプラインを有し、回転軸の軸方向に移動自在に設けられたスリーブと、スリーブを径方向の外方に押圧するようにキー溝に収容され、スリーブと共に回転軸の軸方向に移動することにより、シンクロナイザリングをギヤ側に押圧するシフティングキーとを備えた同期装置であって、外径部の内周面に、外径部の内周面から径方向の内方に突出し、かつ、回転軸の軸方向に延びる複数の突部が形成されている。
【0018】
これにより、本発明の一実施の形態に係る同期装置は、ハブの円板部に沿って外径部に流れる潤滑油がキー溝から漏出されることを抑制して、潤滑油を外径部の軸方向の外方に流すことができ、潤滑油をギヤの外周スプラインとスリーブの内周スプラインの嵌合部に導くことができる。
【実施例
【0019】
以下、本発明の一実施例に係る同期装置について、図面を用いて説明する。
図1から図7は、本発明の一実施例に係る同期装置を示す図である。図1から図7において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の変速機を基準とし、車両の前後方向を前後方向、車両の左右方向(車両の幅方向)を左右方向、車両の上下方向(車両の高さ方向)を上下方向とする。なお、説明に用いる実施例は、入力軸が車両の前後方向に沿った変速機だが入力軸が左右方向に沿った変速機でもよく、その場合は前後方向を左右方向に読み替える。
【0020】
まず、構成を説明する。
図1において、車両には変速機1が搭載されており、変速機1は、入力軸2と出力軸3とを備えている。本実施例の入力軸2は、回転軸を構成する。
【0021】
入力軸2は、車両の前後方向に延びており、入力軸2には図示しないエンジンの動力が図示しないクラッチを介して伝達される。
【0022】
出力軸3は、入力軸2と同一軸線上で入力軸2と前後方向に並んで設置されており、軸受21を介して変速機1の図示しない変速機ケースに回転自在に支持されている。入力軸2の後端部は、出力軸3の前端部に挿入されており、ニードルローラベアリング4を介して出力軸3の前端部に回転自在に支持されている。詳細には、入力軸2の後端は、軸方向でファイナルドリブンギヤ7と同じ位置となる程度に出力軸3の前端部に挿入されている。
【0023】
出力軸3は、いずれも図示しないプロペラシャフトを介してディファレンシャル装置に連結されている。ディファレンシャル装置は、いずれも図示しない左右のドライブシャフトを介して左右の駆動輪に連結されている。
【0024】
入力軸2には各変速段を構成する複数の入力ギヤが設けられている。入力軸2の後部には所定の変速段を構成する入力ギヤ5がニードルベアリング6を介して相対回転自在に設けられている。
【0025】
出力軸3の前端部にはファイナルドリブンギヤ7が設けられており、ファイナルドリブンギヤ7は、出力軸3と一体で回転する。詳細には、ファイナルドリブンギヤ7は出力軸3に一体に形成されている。
【0026】
変速機1は、図示しないカウンタ軸を備えており、カウンタ軸には、入力ギヤ5を含んだ複数の入力ギヤに噛み合う図示しない複数のカウンタギヤと、ファイナルドリブンギヤ7に噛み合う図示しないファイナルドライブギヤが設けられている。
【0027】
互いに噛み合う入力ギヤとカウンタギヤによって各変速段が構成されており、入力ギヤ5には入力ギヤ5と噛み合って所定の変速段(例えば、最高変速段から1段低い変速段)を構成するカウンタギヤが噛み合っている。本実施例の入力ギヤ5およびファイナルドリブンギヤ7は、ギヤを構成する。
【0028】
エンジンの動力は、入力軸2から入力ギヤおよびカウンタギヤを介してカウンタ軸に伝達される。カウンタ軸の回転は、ファイナルドライブギヤおよびファイナルドリブンギヤ7を介して出力軸3に伝達される。
【0029】
これにより、入力軸2から入力ギヤおよびカウンタギヤを介してカウンタ軸に伝達されるエンジンの動力は、ファイナルドライブギヤからファイナルドリブンギヤ7を介して出力軸3に伝達され、出力軸3からプロペラシャフト、ディファレンシャル装置および左右のドライブシャフトを介して左右の駆動輪に伝達される。
【0030】
入力ギヤ5にはドグ8が設けられている。詳細には、同期装置20側となる入力ギヤ5の外周面には外周スプライン5aが形成されており、ドグ8の内周面には内周スプライン8aが形成されている。そして、内周スプライン8aに外周スプライン5aが係合するとともに圧入されている。
【0031】
これにより、ドグ8は入力ギヤ5と一体化され一体で回転する。ドグ8の外周面の入力ギヤ5側には、外周スプライン8bが形成されている。ドグ8の外周面の同期装置20側は、コーン面8cとなっている。
【0032】
なお、本実施例では、ドグ8が別体で製造されて入力ギヤ5に取付けられているが、ドグ8の外周形状(外周スプライン8b、コーン面8c)を入力ギヤ5に一体に形成してもよい。
【0033】
本実施例のドグ8および入力ギヤ5は、本発明のギヤを構成し、ドグ9およびファイナルドリブンギヤ7は、本発明のギヤを構成する。
【0034】
ファイナルドリブンギヤ7には最高変速段の時に使用されるドグ9が設けられている。詳細には、同期装置20側となるファイナルドリブンギヤ7の外周面には外周スプライン7aが形成されており、ドグ9の内周面には内周スプライン9aが形成されている。そして、内周スプライン9aに外周スプライン7aが係合するとともに圧入されている。
【0035】
これにより、ドグ9はファイナルドリブンギヤ7と一体化され一体で回転する。ドグ9の外周面のファイナルドリブンギヤ7側には、外周スプライン9bが形成されている。ドグ9の外周面の同期装置20側は、コーン面9cとなっている。
【0036】
なお、本実施例では、ドグ9が別体で製造されてファイナルドリブンギヤ7に取付けられているが、ドグ9の外周形状(外周スプライン9b、コーン面9c)をファイナルドリブンギヤ7に一体に形成してもよい。
【0037】
入力軸2にはハブ10が取付けられており、ハブ10は、入力軸2の軸方向で入力ギヤ5とファイナルドリブンギヤ7の間に設けられている。
【0038】
図2から図4に示すように、ハブ10は、円板部11と外径部12とを備えている。円板部11は、入力軸2への取付部となる内径部11aから径方向の外方に延びる円板状に形成されている。
【0039】
円板部11の内径部11aには、入力軸2が挿入配置される貫通孔が形成され、この貫通孔の内周面に内周スプライン11sが形成されている。本実施例の内径部11aは、円板部の内周部を構成する。
【0040】
図1に示すように、入力軸2には外周スプライン2sが形成されており、内周スプライン11sが形成された内径部11aの孔に入力軸2が挿入されて、その外周スプライン2sが内周スプライン11sにスプライン嵌合されている。
【0041】
また、ハブ10は、入力軸2に形成されたサークリップ溝に取付けられるサークリップ41によって、軸方向に位置決めされて入力軸2に取付けられている。これにより、ハブ10は入力軸2と一体で回転する。
【0042】
ハブ10の外径部12は、円板部11の外周部11bから入力軸2の軸方向の前側(一方側)と後側(他方側)に円筒状に延出している。外径部12の外周面12a(図3図4参照)には、軸方向に沿って延びる外周スプライン12sが形成されている。
【0043】
入力軸2にはサークリップ41、42が嵌合されている。サークリップ41は、ハブ10の軸方向の後端面に当接しており、ハブ10の軸方向の前端面に当接する入力軸2に形成された段部(異なる径の間に生じる軸に垂直な面)とともにハブ10の内径部11aを挟み込んでいる。サークリップ42は、入力ギヤ5の軸方向の前端面に当接しており、ハブ10の軸方向の前端面とともに入力ギヤ5を挟み込んでいる。
【0044】
サークリップ41、42は、入力ギヤ5およびハブ10を入力軸2の軸方向に移動不能とし、入力ギヤ5およびハブ10を入力軸2に対して軸方向に位置決めして取付けている。
【0045】
図3図4に示すように、外径部12には3つのキー溝11Aが形成されており、キー溝11Aは、外径部12の外周面12aから径方向の内方に窪むように切り欠かれている。キー溝11Aは、外径部12の円周方向に等間隔(120°の間隔)で形成されている。
【0046】
つまり、外径部12は、キー溝11Aによって3つに分断されるように切欠かれ、さらに、円板部11の外周部11bもキー溝11Aによって外周縁(外径部12との接続箇所)から径方向の内方に窪むように切欠かれている。
【0047】
図3に示すように、ハブ10を取り囲むように円環状のスリーブ13が配置されている。図1に示すように、ハブ10の径方向の外方にはスリーブ13が設けられており、スリーブ13の内周面には入力軸2の軸方向に沿って内周スプライン13sが形成されている。この内周スプライン13sは、ハブ10の外径部12の外周スプライン12sに嵌合されている。
【0048】
これにより、スリーブ13は、回転方向においてはハブ10と一体で回転し、かつ、入力軸2の軸方向に移動自在となっている。
【0049】
スリーブ13は、入力軸2の軸方向でドグ8、9の外周スプライン8b、9bの位置まで移動可能となっている。そして、スリーブ13の内周スプライン13sは、それぞれドグ8、9の外周スプライン8b、9bに嵌合可能となっている。
【0050】
スリーブ13の外周面には嵌合溝13Aが形成されており、嵌合溝13Aには図示しないシフトフォークが嵌合されている。シフトフォークは、スリーブ13に対応した変速段を構成する図示しないシフタ軸および図示しないシフトヨークを介して図示しないシフトアンドセレクト軸によって操作され、変速時にスリーブ13を入力軸2の軸方向に移動させる。
【0051】
ドグ8とハブ10の外径部12の間にはシンクロナイザリング14が配置されており、ドグ9とハブ10の外径部12の間にはシンクロナイザリング15が配置されている。つまり、シンクロナイザリング14、15は、入力軸2の軸方向でハブ10を挟んで対向して設けられている。
【0052】
シンクロナイザリング15の外周面には、後述する押圧部15B(図5参照)が径方向に突出するように3つ形成されており、この押圧部15Bが外径部12に形成された3つのキー溝11Aに入り込むことで、ハブ10に対してシンクロナイザリング15の周方向の位置決めがなされている。
【0053】
シンクロナイザリング14、15の外周面にはそれぞれ外周スプライン14a、15aが形成されており、外周スプライン14a、15aは、スリーブ13の内周スプライン13sに嵌合可能となっている。
【0054】
ドグ8、9のハブ10側の外周面にはそれぞれコーン面8c、9cが形成されている。シンクロナイザリング14、15の内周面(内径面)にはそれぞれコーン面14b、15bが形成されている。シンクロナイザリング14、15にはコーン面8c、9cが挿入されており、コーン面14b、15bはドグ8、9のコーン面8c、9cに接触している。
【0055】
ドグ8のコーン面8cとシンクロナイザリング14のコーン面14bは、テーパコーン部16を構成し、ドグ9のコーン面9cとシンクロナイザリング15のコーン面15bは、テーパコーン部17を構成している。
【0056】
本実施例のドグ8、9、ハブ10、スリーブ13およびシンクロナイザリング14、15は、同期装置20を構成する。
【0057】
同期装置20においては、スリーブ13が図1に示す中立位置から前側のシフト位置に向けて入力軸2の軸線方向にシフト(移動)されると、シンクロナイザリング14がドグ8に押し付けられてドグ8とシンクロナイザリング14のテーパコーン部16で摩擦力が発生する。
【0058】
これにより、入力ギヤ5の回転をスリーブ13の回転に同期させることができ、スリーブ13の内周スプライン13sをドグ8の外周スプライン8bに嵌合させることができる。つまり、入力ギヤ5を、スリーブ13とハブ10を介して入力軸2に連結することができる。
【0059】
このため、入力軸2の動力を入力ギヤ5から入力ギヤ5に噛み合うカウンタギヤを介してカウンタ軸に伝達した後、カウンタ軸のファイナルドライブギヤからファイナルドリブンギヤ7を介して出力軸3に伝達し、エンジンの動力(回転速度)を所定の変速段で変速して出力することができる。
【0060】
図2図3に示すように、キー溝11Aにはシフティングキー18が配置されている。図3から図5に示すように、シフティングキー18は、球状部18aを含んだ移動体18Aと、移動体18Aを支持する支持部18Bとを備えている。
【0061】
図1に示すように、スリーブ13の内周面には凹部13aが形成されており、中立となるスリーブ13の位置では凹部13aには球状部18aが嵌り込んで係合している。詳細には、凹部13aは、内周スプライン13sのスプライン歯の長さ方向の中央部に形成された窪みであって、凹部13aの断面形状と凹部13aに嵌合する球状部18aの断面形状は、同じ曲率に形成されている。
【0062】
シフティングキー18は、支持部18Bが円板部11の円周方向でキー溝11Aに接触することにより、円板部11に対して円周方向に位置決めされているとともに、キー溝11Aに沿って入力軸2の軸方向に移動可能なようにキー溝11A内に設置されている。
【0063】
移動体18Aは、支持部18Bに対してハブ10の径方向に弾性変形自在に設けられており、スリーブ13を径方向の外方に押圧している。つまり、移動体18Aは、支持部18Bから径方向の突出高さを変更可能に弾性変形できる状態でスリーブ13の凹部13aに嵌まり込んでいる。
【0064】
スリーブ13が中立位置にある場合には、移動体18Aが凹部13aに嵌り込むことによって、シフティングキー18が中立位置に位置決めされて保持される。
【0065】
スリーブ13が入力軸2の軸方向の前側に移動すると、移動体18Aと凹部13aの係合によって、シフティングキー18がスリーブ13と共にキー溝11Aに沿って前側に移動し、シフティングキー18がシンクロナイザリング14を入力ギヤ5側に押圧する。
【0066】
同様に、スリーブ13が入力軸2の軸方向の後側に移動すると、シフティングキー18がスリーブ13と共にキー溝11Aに沿って後側に移動し、シフティングキー18がシンクロナイザリング15をファイナルドリブンギヤ7側に押圧する。
【0067】
すなわち、シフティングキー18は、スリーブ13と共に入力軸2の軸方向に移動することにより、シンクロナイザリング14、15を入力軸2の軸方向に押圧する。
【0068】
シンクロナイザリング15は、キー溝11A内に配置されシフティングキー18と入力軸2の軸方向に対向する個所に押圧部15B(図5参照)が設けられている。押圧部15Bは、シンクロナイザリング15の外周部15cよりも径方向の外方に突出している。
【0069】
詳細には、押圧部15Bは、径方向の外方に突出してキー溝11A内に入り込み、キー溝11Aと当接することで、スリーブ13に対するシンクロナイザリング15の周方向の位置決めがなされる。
【0070】
図1に示すように、シフティングキー18は、ハブ10の径方向で押圧部15Bと同じ高さ位置に設けられており、シフティングキー18がスリーブ13と一体の動きでキー溝11Aに沿って後側に移動すると、シフティングキー18が押圧部15Bを押圧可能となっている。
【0071】
シンクロナイザリング14側にもシンクロナイザリング15と同一形状の押圧部が形成されているが、説明を省略する。
【0072】
同期装置20においては、スリーブ13が図1に示す中立位置から後側のシフト位置に向けて入力軸2の軸線方向にシフト(移動)されると(図7参照)、シンクロナイザリング15がドグ9に押し付けられてドグ9とシンクロナイザリング15のテーパコーン部17で摩擦力が発生する。
【0073】
これにより、入力軸2の回転を出力軸3に同期させることができ、スリーブ13の内周スプライン13sをドグ9の外周スプライン9bに嵌合させることができる。つまり、入力軸2を、スリーブ13とハブ10およびドグ9を介して出力軸3に連結することができる。
【0074】
このため、入力軸2の動力をハブ10からスリーブ13とドグ9を介して出力軸3に伝達し、エンジンの動力(回転速度)を最高変速段に変速できる。すなわち、最高変速段では入力軸2と出力軸3が直結され、エンジンの動力が入力軸2から出力軸3に直接、伝達される。
【0075】
図3に示すように、外径部12の内周面12bには6つの突部31が設けられている。突部31は、外径部12の内周面12bから径方向の内方に突出しており、入力軸2の軸方向に延びている(図2参照)。
【0076】
本実施例の突部31は、円板部11に対して後側(出力軸3側)に位置する外径部12の内周面12bに設けられている。詳細には、突部31の前端は円板部11に接続されており、突部31の後端は外径部12の後端縁12rにまで達している。
【0077】
さらに、突部31は、外径部12の内周面12bの中で、キー溝11Aの周縁部に形成されており、キー溝11Aは、外径部12の円周方向で突部31の間に位置している。
【0078】
換言すれば、図3に示すように、突部31は、キー溝11Aにて分断されている3つの外径部12の円周方向の一端部12cの内周面12bと他端部12dの内周面12bとにそれぞれ設けられている。
【0079】
具体的には、キー溝11Aを除いた外径部12は、円周方向で第1の外径部12A、第2の外径部12Bおよび第3の外径部12Cの3つに分割されている。
【0080】
第1の外径部12A、第2の外径部12Bおよび第3の外径部12Cにおいて、突部31は、第1の外径部12A、第2の外径部12Bおよび第3の外径部12Cのそれぞれの円周方向の一端部12cと円周方向の他端部12dに設けられている。
【0081】
このため、第1の外径部12A、第2の外径部12Bおよび第3の外径部12Cにおいて、流れてきて内周面12bに達した潤滑油は、突部31によってキー溝11Aに流れることが抑制され、突部31によってガイドされて外径部12の後端縁12rに流れる。
【0082】
図1に示すように、シンクロナイザリング15は、ハブ10の外径部12に囲まれた空間に入り込むように配置され、シンクロナイザリング15の外周部15cは、ハブ10の径方向で外径部12に対向している。図5図6に示すように、シンクロナイザリング15の外周部15cには溝部15Aが形成されている。
【0083】
溝部15Aは、シンクロナイザリング15の押圧部15Bの両側(円周方向の両側)に配置されている。ハブ10との関係では、溝部15Aは円周方向でキー溝11Aの近傍となるシンクロナイザリング15に形成されており、図6に示すように、ハブ10の径方向で突部31に対向している。溝部15Aは、シンクロナイザリング15の外周部15cにて外周面に対して内方に窪んで形成されており、溝部15Aには突部31が入り込んでいる。
【0084】
突部31を設けることにより、キー溝11Aから潤滑油が流れ出ることを抑制して、外径部12の内周面12bとシンクロナイザリング15の外周部15cとの間に潤滑油が流れるように、外径部12の内周面12bとシンクロナイザリング15の外周部15cと一対の突部31とによって潤滑油が流れるオイル通路32が形成される(図6参照)。
【0085】
すなわち、外径部12の内周面12bとシンクロナイザリング15の外周部15cと一対の突部31とによって囲まれる空間は、潤滑油が流れる空間を構成している。
【0086】
更に、図6に示すように、溝部15Aの円周方向の幅は、突部31の円周方向の幅よりも大きく形成されている。これにより、溝部15Aも潤滑油が流れる空間として利用でき、より多くの潤滑油を外径部12の後端縁12rへ流すことができる。
【0087】
また、溝幅の関係で、スリーブ13の内周スプライン13sは、シンクロナイザリング15の外周スプライン15aに円滑に嵌合できる。詳細には、シンクロナイザリング15はその押圧部15Bがキー溝11Aに嵌まり込むことでハブ10に対して周方向の位置決めがなされているが、この押圧部15Bとキー溝11Aの関係で規制される円周方向の許容回転角度よりも大きな許容回転角度となるように、突部31の円周方向の幅に対する溝部15Aの円周方向の幅が決められている。
【0088】
つまり、突部31と溝部15Aの円周方向の隙間は、押圧部15Bとキー溝11Aの円周方向の隙間よりも大きくなるように設定されている。
【0089】
図2図3に示すように、円板部11には潤滑油が流動する油溝11Bが形成されている。詳細には、油溝11Bは内径部11aの後面の窪みであって、油溝11Bは、円板部11の内径部11aから外周部11bに向かって延びており、外周部11b側の端縁部が外側に向けて開口している。そして、油溝11Bの外周部11b側端縁部(開口)がハブ10の円周方向でキー溝11Aと異なる位置に位置している。
【0090】
すなわち、油溝11Bの外周部11b側端縁部は、ハブ10の円周方向位置でキー溝11Aとずれている。そのため、油溝11Bの外周部11b側の端縁部から排出される潤滑油は、キー溝11Aが位置する方向と異なる方向に流れる。
【0091】
図1に示すように、入力軸2と出力軸3の内部にはそれぞれオイル通路2a、3aが形成されており、オイル通路2a、3aは、それぞれ入力軸2と出力軸3の軸方向に延びている。
【0092】
オイル通路2aの後端部とオイル通路3aの前端部は連通しており、オイル通路2a、3aには潤滑油が流通される。入力軸2にはオイル通路2aから放射状に延びる排出孔2b、2cが形成されている。
【0093】
排出孔2bは、オイル通路2aから入力軸2の外周部に向かって放射状に開口しており、入力軸2の回転による遠心力によって潤滑油をニードルベアリング6に供給する。排出孔2cは、オイル通路2aから入力軸2の外周部に向かって放射状に開口しており、入力軸2の回転による遠心力によって潤滑油をニードルローラベアリング4に供給する。また、ニードルローラベアリング4には、オイル通路2aの後端部とオイル通路3aの前端部との連通箇所(入力軸2と出力軸3の接続箇所)からも潤滑油が供給される。
【0094】
次に、作用を説明する。
同期装置20は、その周辺にシフトフォークやシフタ軸等が設置されているので、外部から潤滑油が供給され難い。このため、同期装置20には入力軸2に形成されたオイル通路2aから潤滑油が供給される。
【0095】
オイル通路2aに供給される潤滑油は、排出孔2cからニードルローラベアリング4が設置される空間に流れ込むことによって、ニードルローラベアリング4が潤滑油によって潤滑される。
【0096】
ファイナルドリブンギヤ7とハブ10の間の空間は狭いため、ニードルローラベアリング4を潤滑した潤滑油は、ファイナルドリブンギヤ7とハブ10の間の空間に流れ込んだ後、入力軸2の回転による遠心力によってハブ10の円板部11に沿って外方に流れる。
【0097】
ハブ10の円板部11に沿って径方向の外方に向かって流れる潤滑油は、スリーブ13とファイナルドリブンギヤ7の間の軸方向の隙間を通して同期装置20の外側に流出した後、図示しない変速ケース内の下部空間に戻される。
【0098】
そして、ニードルローラベアリング4を潤滑した潤滑油がハブ10の円板部11に沿って径方向の外方に流れる過程で、ドグ9とシンクロナイザリング15のテーパコーン部17の間に流れ込み、ドグ9とシンクロナイザリング15のテーパコーン部17が潤滑される。
【0099】
また、潤滑油はキー溝11A等からハブ10の外径部12の外周スプライン12sとスリーブ13の内周スプライン13sとの間に流れ込み、ハブ10の外径部12の外周スプライン12sとスリーブ13の内周スプライン13sが潤滑される。
【0100】
ここで、車両が最高変速段で走行するときに、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bが摩耗することがある。その理由は、潤滑不足によるフレッチング摩耗であることが考えられる。
【0101】
すなわち、最高変速段では、入力軸2と出力軸3が直結されるので、エンジンの動力(回転速度)が減速されずにそのまま出力軸3に伝達される。
【0102】
このため、最高変速段においては、エンジンの動力が入力軸2およびカウンタ軸を介して出力軸3に伝達される他の変速段のような動力伝達経路と比較して、ギヤの噛み合い箇所が少なくなりバックラッシュ等の逃げが少なくなるため、内周スプライン13sと外周スプライン9bの噛み合い箇所がエンジンの振動を直接的に受けてしまう。
【0103】
また、高速道路等での長時間の巡行走行では、最高変速段が長時間使用されることからスリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bは、長時間噛み合い続けることになる。
【0104】
図7に示すように、最高変速段ではスリーブ13がファイナルドリブンギヤ7側に移動しているシフト状態にあるため、スリーブ13の軸方向の後端縁はファイナルドリブンギヤ7の軸方向の前面に接近した状態にある。また、この時、スリーブ13の軸方向の前端縁は、ハブ10の軸方向の中央付近に位置していて、軸方向で円板部11の位置となっている。
【0105】
このため、図7に示すように、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bは、スリーブ13によって覆われ、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの噛み合い箇所に外部から潤滑油を供給し難い。
【0106】
このようなことから、入力軸2からスリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bに潤滑油を供給する必要がある。そして、入力軸2のオイル通路2aからの潤滑油の供給が重要になる。
【0107】
なお、最高変速段以外の変速段で走行する場合には、変速が比較的頻繁に行われることから、最高変速段での走行時に比べてスリーブの内周スプラインとドグの外周スプラインが噛み合ってスリーブに覆われる時間が短いので、スリーブとドグの噛み合い箇所は最高変速段での走行時ほど厳しい潤滑条件となることはない。
【0108】
ここで、入力軸2のオイル通路2aからの潤滑油の供給が重要になるが、外径部12に突部31が設けられていない場合には、ハブ10の円板部11に沿って径方向の外方に流れる潤滑油は、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの噛み合い箇所に到達する前に、キー溝11Aからハブ10の径方向の外方に流れてスリーブ13の外部に流出してしまう。
【0109】
すなわち、ハブ10の外径部12の内周面12bにはシンクロナイザリング15の外周部15cが入り込んでいるので、外径部12の内周面12bとシンクロナイザリング15の外周部15cの間の隙間は微小な隙間となっており、比較的潤滑油が流れにくい構造となっている。さらに、スリーブ13の軸方向の前端縁が軸方向で円板部11の位置となって、キー溝11Aが外方に露出して大きな開口が出現した状態となっている。
【0110】
このため、潤滑油の粘性も相俟ってハブ10の円板部11に沿って外径部12に向って流れる潤滑油は、キー溝11Aからハブ10の径方向の外方(スリーブ13の外)に漏れてしまい、外径部12の入力軸2の後端縁12rへは流れ難い。
【0111】
つまり、最高変速段では、図7に示すように、スリーブ13がファイナルドリブンギヤ7側に移動しているので、径方向でキー溝11Aがスリーブ13に遮られることがなく、キー溝11Aが解放された状態、すなわち、キー溝11Aがスリーブ13の径方向外方に露出される状態となる。
【0112】
これにより、ハブ10の外径部12に流れる潤滑油は、キー溝11Aからハブ10の径方向の外方に容易に流れてしまう。このため、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの噛み合い部の潤滑がより一層困難となる。
【0113】
本実施例の同期装置20は、入力軸2に一体回転自在に取付けられた円板部11と、円板部11の外周部11bから入力軸2の軸方向に突出するとともに、外周面12aに外周スプライン12sが形成された外径部12と、外径部12の外周面12aから径方向の内方に窪む複数のキー溝11Aとを有するハブ10を備えている。
【0114】
ハブ10の外径部12の内周面12bには、内周面12bから径方向の内方に突出し、かつ、入力軸2の軸方向に延びる複数の突部31が形成されている。
【0115】
これにより、図7に示すように、ハブ10の円板部11の径方向に沿って外径部12に向かう潤滑油O1を受け止め、突部31によってキー溝11Aへの潤滑油の流れを抑制して外径部12の後端縁12rに流すことができる。
【0116】
すなわち、外径部12の内周面12bとシンクロナイザリング15の外周部15cと一対の突部31とによって囲まれるオイル通路32を通して潤滑油O1を外径部12の後端縁12rからスリーブ13の内面に流すことができる。
【0117】
また、これにより、潤滑油O1がキー溝11Aからハブ10の外方に排出されることを抑制できる。
【0118】
このため、オイル通路32を通して外径部12の後端縁12rから排出された潤滑油を、潤滑油O2で示すようにハブ10の外径部12とシンクロナイザリング15の軸方向の隙間を通してスリーブ13の内周スプライン13sに流すことができ、ドグ9の外周スプライン9b(内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bとの噛み合い箇所)に導くことができる。
【0119】
この結果、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの嵌合部(スリーブ13の内周スプライン歯とドグ9の外周スプライン歯との噛み合い部)を潤滑でき、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの潤滑性能を向上できる。
【0120】
また、ハブ10の外径部12とシンクロナイザリング15の軸方向の隙間からハブ10の外方に排出されるオイルによってハブ10の外周スプライン12sとスリーブ13の内周スプライン13sの嵌合部を潤滑できる。
【0121】
また、本実施例の同期装置20によれば、突部31は、キー溝11Aの周縁の外径部12の内周面12bに形成されており、キー溝11Aは、外径部12の円周方向で突部31の間に位置している。
【0122】
これにより、ハブ10の円板部11に沿って径方向に流れ外径部12に達した潤滑油O1を突部31によって軸方向に流し円周方向の流れを遮ることにより、潤滑油O1がキー溝11Aから排出されることをより効果的に抑制できる。
【0123】
このため、突部31によってより多くの潤滑油O1を外径部12の後端縁12rに流すことができ、そして、スリーブ13の内径に流れ込んだ潤滑油O1がさらに外径部12と逆の端縁側(ドグ9側)に流れるので、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの嵌合部をより効果的に潤滑できる。
【0124】
この結果、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの潤滑性能をより効果的に向上できる。
【0125】
また、本実施例の同期装置20によれば、シンクロナイザリング15の外周部15cは、ハブ10の径方向で外径部12に対向しており、シンクロナイザリング15の外周部15cに、突部31が収容される溝部15Aが形成されている。
【0126】
これにより、外径部12の内周面12bからの突部31の突出高さ(ハブ10の径方向の高さ)を高くでき、突部31によってより多くの潤滑油O1を外径部12の後端縁12rに流すことができ、突部31を潤滑用に効果的に利用できる。
【0127】
また、溝部15Aを、潤滑油O1が流れるオイル通路として利用でき、溝部15Aの深さ分だけより多くの潤滑油O1を外径部12の後端縁12rに流すことができる。この結果、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの潤滑性能をより効果的に向上できる。
【0128】
なお、本実施例の同期装置20は、突部31が溝部15Aに収容されているが、突部31の全体が溝部15Aに収容されてもよく、突部31の一部(径方向の内方側)が溝部15Aに収容されてもよい。
【0129】
また、本実施例の同期装置20によれば、ハブ10の円板部11に潤滑油が流動する油路となる油溝11Bが形成されている。油溝11Bは、ハブ10の円板部11の内径部11aから外周部11bに向かって延びており、油溝11Bの外周部11b側の端部は、ハブ10の円周方向でキー溝11Aと異なる位置に位置している。
【0130】
これにより、排出孔2cから排出された潤滑油O3を油溝11Bに沿ってハブ10の円板部11の内径部11aから外周部11bに向かって案内しつつ、油溝11Bから外径部12に向けて潤滑油O3を流すことができ、潤滑油O3がキー溝11Aに指向することを抑制できる。つまり、油溝11Bから供給される潤滑油は、キー溝11Aの形成されていない突部31の間に流れる。
【0131】
このため、突部31によってより多くの潤滑油O1を外径部12の後端縁12rに流すことができ、スリーブ13の内周スプライン13sとドグ9の外周スプライン9bの潤滑性能をより効果的に向上できる。なお、入力軸2には、排出孔2cから吐出された潤滑油が油溝11Bに導入され易いように排出孔2cが位置決めされている。
【0132】
このように本実施例の同期装置20は、ハブ10の径方向に沿って外径部12に流れる潤滑油がキー溝11Aから漏出されることを抑制でき、潤滑油を外径部12の軸方向の外方(後端縁12r)に流すことができる。
【0133】
本実施例の突部31は、円板部11に対して後側に位置する外径部12の内周面12bに設けられているが、これに加えて、円板部11に対して前側に位置する外径部12の内周面12bにも突部31を設けてもよい。
【0134】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0135】
2...入力軸(回転軸)、5...入力ギヤ(ギヤ)、7...ファイナルドリブンギヤ(ギヤ)、8,9...ドグ(ギヤ)、8b,9b...外周スプライン、10...ハブ、11...円板部、11A...キー溝、11a...内径部(円板部の内周部)、11B...油溝、11b...外周部(円板部の外周部)、12...外径部、12a...外周面(外径部の外周面)、12b...内周面(外径部の内周面)、12s...外周スプライン(外径部の外周スプライン)、13...スリーブ、13s...内周スプライン(スリーブの内周スプライン)、14,15...シンクロナイザリング、15A...溝部(シンクロナイザリングの溝部)、14b,15b...コーン面、15c...外周部(シンクロナイザリングの外周部)、18...シフティングキー、20...同期装置、31...突部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7