(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】海洋生物付着抑制装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20230101AFI20240521BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240521BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20240521BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C02F1/50 510E
C02F1/461 Z
C02F1/50 520F
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550D
C02F1/50 550L
C02F1/50 560F
C02F1/50 560Z
C02F1/20 Z
F28G9/00 L
(21)【出願番号】P 2020155997
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 靖男
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156642(JP,A)
【文献】実開昭61-022595(JP,U)
【文献】特開2005-144212(JP,A)
【文献】特開平05-317842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70- 1/78
C02F 1/50
C02F 1/46- 1/48
F28G 1/00-15/10
A61L 2/00- 2/28
A61L 11/00-12/14
F28B 1/46- 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水口近傍に除じん装置を備え海水が流通する取水路と、海水を熱媒体とする熱交換器に前記取水路の海水を供給する海水供給装置と、前記熱交換器を出た海水が流通する放水路とを備える設備において、前記取水路、前記海水供給装置及び前記熱交換器に海洋生物が付着することを抑制する海洋生物付着抑制装置であって、
前記取水路を流通する海水に塩素系の薬剤を注入する
第1注入装置及び第2注入装置を備える薬剤注入装置
と、
前記熱交換器
の入口部の海水中の残留塩素濃度を測定する熱交換器入口部残留塩素濃度測定手段と、
前記薬剤の注入量を制御する薬剤注入装置制御手段と、
を備
え、
前記第1注入装置は、前記取水口の下流側でかつ前記除じん装置の上流側に前記薬剤を注入し、
前記第2注入装置は、前記除じん装置の下流側
に前記薬剤を注入することを特徴とする海洋生物付着抑制装置。
【請求項2】
前記第1注入装置は、前記取水路の横断面
の中央に前記薬剤を注入する注入口を有し、
前記第2注入装置は、前記取水路の壁面のうち海水に接する壁面に沿って前記薬剤を注入する注入口を有することを特徴とする請求項1に記載の海洋生物付着抑制装置。
【請求項3】
前記薬剤注入装置制御手段は、予め与えられた基準濃度に潮位、前記
放水路を流れる海水の流量、温度、性状のうちいずれか1以上のデータに基づく補正濃度を加算し設定濃度を算出し、前記熱交換器
の入口部の海水中の残留塩素濃度が設定濃度となるように薬剤の注入量を制御することを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載の海洋生物付着抑制装置。
【請求項4】
海水に空気を吹き込み、該海水中の残留塩素を除去する除去装置を備え、
前記除去装置は、前記熱交換器を出た海水に前記空気を吹き込むことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の海洋生物付着抑制装置。
【請求項5】
前記放水路の放水口の海水中の残留塩素濃度を測定する放水口残留塩素濃度測定手段と、
前記放水口の海水中の残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように前記除去装置の空気吹込み量を制御する除去装置制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項
4に記載の海洋生物付着抑制装置。
【請求項6】
前記薬剤注入装置制御手段は、前記
放水路の放水口の海水中の残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように前記薬剤の注入量を制御することを特徴とする請求項
4に記載の海洋生物付着抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取水路、海水を熱媒体とする熱交換器、海水を熱交換器に送る海水供給装置に海洋生物が付着することを抑制する海洋生物付着抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所では、機器の冷却に海水を使用しており、代表的な機器として復水器がある。復水器は、タービンからの排気蒸気を凝縮、復水させる熱交換器であり、海水は取水路を流通し循環水ポンプを介して復水器に供給される。復水器において排気蒸気を冷却した海水は、放水路を経由して海に放流される。このような海水が流通する取水路、熱交換器等には、フジツボ、イガイなど貝類を含む海洋生物が付着し易い。
【0003】
取水路、熱交換器等に貝類などの海洋生物が付着すると、これらが抵抗となり海水の流通が悪くなり、熱交換器の熱交換量も低下する。このため従来から取水路、熱交換器等に貝類などの海洋生物が付着することを抑制すべく、取水した海水に対して次亜塩素酸ナトリウム溶液、二酸化塩素などの薬剤の注入が行われている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
取水路、熱交換器等への海洋生物の付着抑制には、薬剤の注入量が多い方が好ましいが、放水口で残留塩素が環境保全協定値を超過しないようにする必要がある(例えば特許文献2参照)。このため薬剤の注入量も自ずと制限され、さらに海水中での残留塩素の減衰速度は、海水温度などによっても異なるため、薬剤の注入量は目標値よりも少なくなり易く、十分な効果が得られ難い。
【0005】
一方、放出される海水中の残留塩素を減少させる方法として、放出される海水にCO2マイクロバブルを注入する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。この方法を用いれば、従来の方法に比較して海水に対する薬剤の注入量を多くすることが可能となり、従来以上に海洋生物の付着抑制効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-84103号公報
【文献】特開2013-186111号公報
【文献】特開2011-104586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献以外にも取水路、熱交換器等を流通する海水に対して薬剤を注入し、これらに海洋生物が付着することを抑制する方法が提案されているが改善の余地がある。例えば、同じ薬剤の注入量であっても薬剤の注入要領で取水路、熱交換器等への海洋生物の付着量が異なる。このため薬剤の効率的な注入方法が求められている。また海水中での残留塩素の減衰速度は、海水温度などによっても異なるためこれらの点を考慮した海洋生物の付着抑制システムの構築が望まれる。
【0008】
本発明の目的は、取水路、海水を熱媒体とする熱交換器及び海水を熱交換器に送る海水供給装置に海洋生物が付着することを効果的に抑制することができる海洋生物付着抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、取水口近傍に除じん装置を備え海水が流通する取水路と、海水を熱媒体とする熱交換器に前記取水路の海水を供給する海水供給装置と、前記熱交換器を出た海水が流通する放水路とを備える設備において、前記取水路、前記海水供給装置及び前記熱交換器に海洋生物が付着することを抑制する海洋生物付着抑制装置であって、前記取水路を流通する海水に塩素系の薬剤を注入する第1注入装置及び第2注入装置を備える薬剤注入装置と、前記熱交換器の入口部の海水中の残留塩素濃度を測定する熱交換器入口部残留塩素濃度測定手段と、前記薬剤の注入量を制御する薬剤注入装置制御手段と、を備え、前記第1注入装置は、前記取水口の下流側でかつ前記除じん装置の上流側に前記薬剤を注入し、前記第2注入装置は、前記除じん装置の下流側に前記薬剤を注入することを特徴とする海洋生物付着抑制装置である。
【0010】
本発明の海洋生物付着抑制装置において、前記第1注入装置は、前記取水路の横断面の中央に前記薬剤を注入する注入口を有し、前記第2注入装置は、前記取水路の壁面のうち海水に接する壁面に沿って前記薬剤を注入する注入口を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の海洋生物付着抑制装置において、前記薬剤注入装置制御手段は、予め与えられた基準濃度に潮位、前記放水路を流れる海水の流量、温度、性状のうちいずれか1以上のデータに基づく補正濃度を加算し設定濃度を算出し、前記熱交換器の入口部の海水中の残留塩素濃度が設定濃度となるように薬剤の注入量を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の海洋生物付着抑制装置は、さらに海水に空気を吹き込み、該海水中の残留塩素を除去する除去装置を備え、前記除去装置は、前記熱交換器を出た海水に前記空気を吹き込むことを特徴とする。
【0014】
本発明の海洋生物付着抑制装置は、さらに前記放水路の放水口の海水中の残留塩素濃度を測定する放水口残留塩素濃度測定手段と、前記放水口の海水中の残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように前記除去装置の空気吹込み量を制御する除去装置制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の海洋生物付着抑制装置において、前記薬剤注入装置制御手段は、前記放水路の放水口の海水中の残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように前記薬剤の注入量を制御することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、取水路、海水を熱媒体とする熱交換器及び海水を熱交換器に送る海水供給装置に海洋生物が付着することを効果的に抑制することができる海洋生物付着抑制装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1の構成図である。
【
図2】
図1の海洋生物付着抑制装置1で使用する海水電解装置30の構成図である。
【
図3】
図1の海洋生物付着抑制装置1で使用する薬剤注入装置10の構造を説明するための図である。
【
図4】本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の構成図である。
【
図5】
図4の海洋生物付着抑制装置2で使用する除去装置72の構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1の構成図である。
図2は、海洋生物付着抑制装置1で使用する海水電解装置30の構成図、
図3は、海洋生物付着抑制装置1で使用する薬剤注入装置10の構造を説明するための図である。
【0019】
図1に示す本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1は、海水を取水し、この海水を冷却水とする熱交換器70に供給する海水取水設備100において、取水路50、冷却水供給装置60及び熱交換器70に海洋生物が付着することを抑制する装置であり、薬剤注入装置10、残留塩素測定器40及び制御装置45を備える。ここでは、海水取水設備100が発電所に設置され、熱交換器70が排気蒸気を冷却し復水にする復水器70であるとして説明する。
【0020】
取水路50は、海水が流通する横断面が矩形の流路であり、先端部は取水口55につながり、取水口55から海水を取り込む。取水口55にはカーテンウォール56が設置され、その下流にバースクリーン57及び除じん機58からなる除じん装置59が設置されている。取水路50の末端に冷却水供給装置60が設置され、当該装置を介して復水器70に海水が供給される。
【0021】
冷却水供給装置60は、取水路50を流通する海水を冷却水として復水器70に供給する装置であり、取水路50を流通する海水を送水する循環水ポンプ61と、循環水ポンプ61と復水器70とを結ぶ冷却水供給ライン62とで構成される。
【0022】
復水器70は、海水を冷却水(冷却媒体)として蒸気タービンから排出される排気蒸気を冷却し、復水とする隔壁式の熱交換器である。復水器70は、筐体(本体)内に冷却水である海水が流通する冷却管を有し、冷却水供給装置60を介して供給される海水は、冷却管につながる冷却水入口部から冷却管を経由し、冷却水出口部から排出される。
【0023】
復水器70の冷却水出口部には、排気蒸気を冷却した海水を放水路90に導く冷却水排出ライン80が接続する。排気蒸気を冷却した海水は、冷却水排出ライン80を経由して放水路90に入り放水口91から放出される。
【0024】
薬剤注入装置10は、取水路50を流通する海水に塩素系の薬剤を注入し、取水路50、冷却水供給装置60及び熱交換器70に海洋生物が付着することを抑制する装置である。薬剤注入装置10は、第1注入装置11、第2注入装置21を備え、これを介して海水に薬剤を注入する。ここで塩素系の薬剤は、次亜塩素酸ナトリウムであり、次亜塩素酸ナトリウムは海水電解装置30により生成される。
【0025】
海水電解装置30は、
図2に示すように取水路50を流通する海水の一部を汲み上げる電解ポンプ31と電解ポンプ31が汲み上げる海水に含まれる異物を除去するフィルター32、異物が除去された海水を貯槽する受槽33を備える。受槽33には海水を循環させるための循環ライン35が設けられており、循環ライン35の途中に循環ポンプ34及び電解装置36が設けられている。
【0026】
電解装置36には、電源供給装置37が接続し、電解ポンプ31を介して汲み上げられた海水は、循環ライン35を循環しながら電解装置36で電気分解され、次亜塩素酸ナトリウムを生成する。循環ライン35には、次亜塩素酸ナトリウムを含む海水を取水路50に供給する薬剤注入装置10が接続する。
【0027】
第1注入装置11は、
図3(A)に示すように循環ライン35につながる第1注入ライン12と、第1注入ライン12の途中に設けられた流量調節弁13と、第1注入ライン12の先端に設けられる注入管14とを含む。注入管14は、L字の短管であり、注入口15がバースクリーン57の上流側であって、取水路50の横断面の略中心に位置し、海水の流れ方向を向くように設置されている。注入管14は、取水路50の横断面の略中心に薬剤を注入できればよく、直管であってもよい。
【0028】
注入管14の注入口15の位置は、除じん装置59の上流側であればよいが、できるだけ取水口55に近い方が好ましい。バースクリーン57の上流側に薬剤を注入すれば、バースクリーン57、除じん機58に海洋生物が付着することを抑制することができる。さらに除じん装置59であるバースクリーン57、除じん機58などを通過する過程で海水の流れに乱れが生じ、薬剤が海水に混ざり易い。
【0029】
第2注入装置21は、
図3(B)に示すように循環ライン35につながる第2注入ライン22と、第2注入ライン22の途中に設けられた流量調節弁23と、第2注入ライン22の先端に設けられる注入管24とを含む。注入管24は、取水路50の左右の壁面51、52及び底面53に沿って薬剤を注入すべくコ字状のヘッダー25を有する。ヘッダー25は、取水路50の横断面を正面に見て、壁面51に沿う直管26、壁面52に沿う直管27、底面53に沿う直管28で構成され、各直管26、27、28には一定の間隔で複数の注入口29が設けられている。注入口29は、注入した薬剤の向きが海水の流れ方向と同じになるように設けられている。
【0030】
第2注入装置21は、取水路50の左右の壁面51、52、及び底面53に沿って薬剤を注入することで壁面51、52及び底面53に海洋生物が付着することを抑制する。このため各直管26、27、28は、可能な限り壁面51、52及び底面53に近い方が好ましく、壁面51、52及び底面53に接するように設けるのがよい。
【0031】
取水路、管路などの流路を流通する流体は、管壁面に近接する部分の流速は遅く、海水の流線は壁面に略平行であることが知られている。このため取水路50の壁面51、52及び底面53に近傍に薬剤を注入すれば、薬剤は壁面51、52及び底面53に沿って流れる。これにより取水路50の壁面51、52及び底面53に海洋生物が付着することを効果的に抑制することができる。
【0032】
取水路50の水位は、潮位に連動し変動する。本実施形態では、潮位により取水路50の水位が天井面54に達しないことがあることを考慮し、天井面54に沿うように薬剤を供給していないが、天井面54に沿うように薬剤を供給してもよい。また常時、満水となる取水路であれば、天井面54に沿うように薬剤を供給するのがよい。要すれば、取水路50の壁面のうち海水に接する部分に対し、これに沿うように薬剤を供給するのがよい。
【0033】
残留塩素測定器40は、冷却水供給ライン62の出口部近傍に設定され、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を測定する。本実施形態において塩素濃度測定器40が、熱交換器入口部残留塩素濃度測定手段に該当する。残留塩素測定器40は、海水中の残留塩素濃度を測定可能であれば手段等は特に限定されない。海水中の残留塩素濃度は、JIS K0102-33.2のジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法に準拠した方法で測定することができる。
【0034】
制御装置45は、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素が設定濃度になるように薬剤注入装置10を制御する。具体的には、第1注入装置11の薬剤調節弁13及び第2注入装置21の薬剤調節弁23の弁開度を制御し、海水に対する薬剤の注入量を制御する。第1注入装置11と第2注入装置21との薬剤の注入割合は、特に限定されるものではないが1:1を標準とする。
【0035】
復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素の設定濃度は、復水器70を冷却した海水に含まる残留塩素が、冷却水排出ライン80及び放水路90を流通する過程で減衰し、放水口91で環境保全協定値を満足する濃度に設定される。復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度は、放水口91において環境保全協定値を満足する限り高い方がよい。海水中の残留塩素濃度を高くすることで取水路50等への海洋生物の付着を効果的に抑制することができる。
【0036】
冷却水排出ライン80及び放水路90を流通する過程における海水中の残留塩素の減衰速度は、冷却水排出ライン80及び放水路90の長さ、海水流量、海水温度、海水性状等で異なる。ここで海水性状は、海水中のアンモニウム塩、亜硝酸塩、第一鉄イオン等の還元性物質や還元性有機物質、プランクトンなどの含有量、濁度をいう。このためこれらを考慮した上で復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を設定する必要がある。
【0037】
復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素の設定濃度は、以下のように決めてもよい。過去の実績等を元に放水口91において環境保全協定値を満足する、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度の基準濃度を設定する。予め復水器70を冷却した海水に含まる残留塩素の冷却水排出ライン80及び放水路90を流通する過程における、海水流量、海水温度、海水性状等と残留塩素の減衰速度の関係を取得し、これを補正濃度とする。先の基準濃度にこの補正濃度を加算し、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素の設定濃度を決める。海水流量は、潮位と密接に関係するので海水流量に代えて潮位データを用いてもよい。
【0038】
また放水路90の放水口91に残留塩素測定器を設置し、この残留塩素測定器のデータを制御装置45に送り、放水口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように薬剤注入量を制御してもよい。
【0039】
第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1は、放水口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足しつつも、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を高く設定することができるので取水路50、冷却水供給装置60及び復水器70への海洋生物の付着を効果的に抑制することができる。
【0040】
さらに第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1は、薬剤注入装置10が型式の異なる2種類の注入装置を備え、それぞれが目的を持って適切に設置されているので取水路50、冷却水供給装置60及び復水器70への海洋生物の付着を効果的に抑制することができる。特に第2注入装置21は、取水路50の壁面に沿って薬剤を注入するので取水路50の壁面への海洋生物の付着を効果的に抑制することができる。
【0041】
また第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1においては、冷却水排出ライン80及び放水路90を流通する海水流量、海水温度、海水性状等に基づき、あるいは放水口91の残留塩素濃度を測定し、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を決定することができるので、放水口91において残留塩素の環境保全協定値を満足することができる。
【0042】
図4は、本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の構成図である。
図5は、本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2で使用する、海水中の残留塩素を除去する除去装置72の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2は、大略的には本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1に海水中の残留塩素を除去する除去装置72を設置してなるものである。
【0044】
除去装置72は、海水に空気を吹き込み海水中の残留塩素を除去する装置であり、海水に空気を吹き込むスパージャ73を備え、空気供給装置78から圧送される空気を海水に吹き込む。スパージャ73と空気供給装置78とは空気供給管77で結ばれる。スパージャ73は、冷却水排出ライン80であって復水器70に近い位置に設けられ、海水に空気を吹き込むことで残留塩素を海水から放出する。
【0045】
スパージャ73は、冷却水排出ライン80の管形状に合わせた、いわゆるリングスパージャである。スパージャ73は、リング部74と、リング部74に掛け渡すように設けられた直管部75とを備え、それぞれに多数の空気噴出口76が設けられている。スパージャ73の形態・形状は、これに限定されるものではない。スパージャ73は、可能な限り多数の微細な空気を吹き込むことができるものが好ましい。例えばナノサイズ、ミクロンサイズの気泡を吹き込むことで残留塩素を効率的に除去することができる。
【0046】
空気供給装置78は、スパージャ73に空気を供給する装置であり、例えば空気圧縮機である。空気供給装置78は、スパージャ73に圧縮空気を供給できればよく、空気圧縮機に限定されるものではないが、空気に不純物を含むものは好ましくない。ここで不純物は、主に油などの液体、液体を含むミスト、固形分である。
【0047】
スパージャ73に供給される空気にオイルミストが含まれていると、このオイルミストは空気と一緒に海水に吹き込まれ、海水中に残ってしまう。このため空気圧縮機を用いて圧縮空気を製造し、これをスパージャ73に送る場合、無給油式の空気圧縮機を用いるのがよい。
【0048】
冷却水排水ライン80又は放水路90に、除去装置72を介して吹き込む空気の排出口、空気排出装置、あるいは空気の逃げ口がない場合は、別途、冷却水排水ライン80又は放水路90に空気排出弁、空気弁等を設け、吹き込んだ空気が放水口91から排出されないようにする。
【0049】
また本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2は、放水口91に放水路90から流出する海水中の残留塩素濃度を測定する残留塩素測定器95を備える。残留塩素測定器95は、放水口91において放水路90から流出する海水中の残留塩素濃度を測定し、制御装置45にデータを送信する。本実施形態において残留塩素測定器95が、放水口残留塩素濃度測定手段に該当する。
【0050】
放水口91に設置される残留塩素測定器95は、残留塩素測定器40と同様に海水中の残留塩素濃度を測定可能であれば手段等は特に限定されない。海水中の残留塩素濃度は、JIS K0102-33.2のジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法に準拠した方法で測定することができる。
【0051】
次に本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の運転方法を2パターン説明する。
【0052】
第1の運転方法は、制御装置45を介して復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を一定の濃度に保持する一方で、除去装置72の負荷を変動させるように制御する。除去装置72の負荷を変動させるとは、海水への空気吹き込み量、換言すればスパージャ73への空気供給量を変動させる。
【0053】
第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1において説明のとおり、冷却水排出ライン80及び放水路90を流通する過程における海水中の残留塩素の減衰速度は、冷却水排出ライン80及び放水路90の長さ、海水流量、海水温度、海水性状等で異なる。このため復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を高く設定し、除去装置72を稼働させることなく自然放流した場合、海水条件等によっては放水口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足しないケースが発生する。そこで本実施形態では、自然放流では減衰しない残留塩素分を除去装置72を動作させ除去する。
【0054】
具体的には、制御装置45は、放水口91に設置された残留塩素測定器95からのデータに基づき、放出口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するようにスパージャ73への空気供給量を変動させる。一方で、制御装置45は、放出口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足する範囲において、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を高い値に一定に保持するように薬剤を注入する。
【0055】
本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の第1の運転方法は、本発明の第1実施形態の海洋生物付着抑制装置1に比較して、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を高い値に保持することができるので、取水路50、冷却水供給装置60及び復水器70への海洋生物の付着をより効果的に抑制することができる。
【0056】
さらに本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の第1の運転方法は、自然放流では減衰しない残留塩素分を除去装置72により除去するので、海水条件によっては海水への空気吹込量が少量となる場合もある。これから分かるように第1の運転方法では、空気吹込量を常時最大値にする必要がないので空気供給装置78のランニングコストを抑えることができる。
【0057】
第2の運転方法は、制御装置45を介して復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を変動させる一方で、除去装置72の負荷を最大量で一定に制御する。具体的には、制御装置45は、放水口91に設置された残留塩素測定器95からのデータに基づき、放出口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足するように薬剤注入量を制御する。このとき制御装置45は、放出口91における残留塩素濃度が環境保全協定値を満足する範囲において、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度を可能な限り高い値に保持する。
【0058】
第2の運転方法は、本発明の第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2の第1の運転方法と比較して、復水器70の冷却水入口部における海水中の残留塩素濃度をより高い値に保持することができるので、より効果的に取水路50、冷却水供給装置60及び復水器70への海洋生物の付着を抑制することができる。またこの運転方法は、海水への空気吹き込み量を一定とするので除去装置72を特に制御する必要がなく、制御が簡便となる利点がある。
【0059】
以上、第1及び第2実施形態の海洋生物付着抑制装置1、2を用いて本発明に係る海洋生物付着抑制装置を説明したが、本発明に係る海洋生物付着抑制装置は前記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で変更することができる。
【0060】
第1及び第2実施形態の海洋生物付着抑制装置1、2において、塩素系の薬剤として次亜塩素酸ナトリウムを示したが、塩素系の薬剤は、取水路、熱交換器及び海水を熱交換器に送る海水供給装置に海洋生物が付着することを抑制することができるものであればよく、次亜塩素酸ナトリウムに限定されるものではない。海洋生物の付着を抑制する塩素系の薬剤としては、次亜塩素酸ナトリウム以外に二酸化塩素、塩素が挙げられる。
【0061】
また第1及び第2実施形態の海洋生物付着抑制装置1、2では、海水電解装置により次亜塩素酸ナトリウムを製造する例を示したが、次亜塩素酸ナトリウム製造方法は、海水電解装置に限定されるものではない。また次亜塩素酸ナトリウムを製造する海水電解装置も
図2に示す海水電解装置に限定されるものではない。
【0062】
第2実施形態の海洋生物付着抑制装置2では、制御装置45が薬剤の注入量を制御する薬剤注入装置制御手段、海水への空気吹き込み量を制御する除去装置制御手段として機能するが、薬剤注入装置制御手段と除去装置制御手段とを別々に設けてもよい。
【0063】
また除去装置72も上記実施形態に限定されるものではなく、海水に空気を吹き込み海水中の残留塩素を除去できるものであればよい。
【0064】
また前記実施形態では、海水を熱媒体とする熱交換器として排気蒸気を冷却し復水にする復水器70を示したが、海水を冷却媒体とする熱交換器は、復水器に限定されるものではない。また海水を熱媒体とする熱交換器には、海水を加熱媒体とするLNG気化器等があり、取水路を通じて海水を取り込み、海水供給装置を通じて海水を加熱媒体とする熱交換器に送水するような設備においても本発明を適用することができる。また取水路、放水路、設備等も発電所に限定されるものではない。
【0065】
図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0066】
1、2 海洋生物付着抑制装置
10 薬剤注入装置
11 第1注入装置
15 注入口
21 第2注入装置
24 注入管
29 注入口
30 海水電解装置
40 残留塩素測定器
45 制御装置
50 取水路
51 側壁(側面)
52 側壁(側面)
53 底面
54 天井面
55 取水口
57 バースクリーン
58 除じん機
59 除じん装置
60 冷却水供給装置
70 熱交換器,復水器
72 除去装置
90 放水路
91 放水口
95 残留塩素測定器
100 海水取水設備