(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】切断品の製造方法、ワークの切断用治具、ワークの切断用押圧装置、及び切断品の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 33/06 20060101AFI20240521BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20240521BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03B33/06
B26F3/00 A
B28D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020159681
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 利尚
(72)【発明者】
【氏名】田村 健治
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴久
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-43348(JP,A)
【文献】特開2006-321695(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/00-33/14
B28D1/00-7/04
B26F1/00-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端及び第2端の両端を有する長尺状のワークを切断予定部で切断することで切断品を得る切断品の製造方法であって、
前記ワークの前記第1端側を支持部材により支持し、前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側の前記切断予定部がアンビルに接するように、前記ワークを位置決めする位置決め工程と、
前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側を前記アンビルに押し付けるように押圧する押圧工程と、を備え、
前記切断予定部は、前記ワークの周方向において前記アンビルとは反対側となる位置に形成されたスクライブ痕を有し、
前記切断予定部よりも前記第1端側となる第1の押圧対象部を第1押圧部材により押圧することで、前記ワークを前記アンビルに押圧するとともに撓ませる第1押圧工程と、
前記第1押圧部材により前記ワークを撓ませた状態で、前記切断予定部よりも前記第2端側となる第2の押圧対象部を第2押圧部材により押圧し、前記切断予定部で折り割ることで前記ワークを切断する第2押圧工程と、を備える、切断品の製造方法。
【請求項2】
前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材は、それぞれ前記ワークと接する接触部を有し、前記第2押圧工程では、前記位置決め工程における前記ワークの軸線に対して、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材の各接触部を結ぶ直線のなす角度が0.1°以上、5°以下の範囲内となるように、前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材を配置する、請求項1に記載の切断品の製造方法。
【請求項3】
前記ワークが管状又は柱状である、請求項1又は請求項2に記載の切断品の製造方法。
【請求項4】
前記ワークの横断面が円形状又は楕円形状である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切断品の製造方法。
【請求項5】
前記切断品の横断面の最大外径寸法に対する前記切断品の長さ寸法の比率が、5.0以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の切断品の製造方法。
【請求項6】
前記切断品の長さ寸法が、20mm以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の切断品の製造方法。
【請求項7】
前記ワークのヤング率が、60~100GPaである、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の切断品の製造方法。
【請求項8】
前記ワークの材料が、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はガラスセラミックスである、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の切断品の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の切断品の製造方法における前記押圧工程において前記ワークを押圧する用途に用いられるワークの切断用治具であって、
前
記第1押圧部材と、
前
記第2押圧部材と、
前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とを連結する連結部材と、を備える、ワークの切断用治具。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の切断品の製造方法における前記押圧工程において前記ワークを押圧する用途に用いられるワークの切断用押圧装置であって、
前記第1押圧部材と、
前記第2押圧部材と、
前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材を、前記ワークを押圧する方向に移動させるように駆動する駆動部と、を備える、ワークの切断用押圧装置。
【請求項11】
第1端及び第2端の両端を有する長尺状のワークを切断予定部で切断することで切断品を得る切断品の製造装置であって、
前記ワークの前記第1端側を支持する支持部材と前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側の前記切断予定部が接するように配置されるアンビルとを有し、前記ワークを位置決めする位置決め部と、
前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側を前記アンビルに押し付けるように押圧する第1押圧部材及び第2押圧部材を有する押圧装置と、を備え、
前記切断予定部は、前記ワークの周方向において前記アンビルとは反対側となる位置に形成されたスクライブ痕を有し、
前記第1押圧部材は、前記切断予定部よりも前記第1端側となる第1の押圧対象部を押圧することで、前記ワークを前記アンビルに押圧するとともに撓ませるように構成され、
前記第2押圧部材は、前記第1押圧部材により前記ワークを撓ませた状態で、前記切断予定部よりも前記第2端側となる第2の押圧対象部を押圧し、前記切断予定部で折り割ることで前記ワークを切断するように構成される、切断品の製造装置。
【請求項12】
前記押圧装置は、前記ワークを切断する切断用治具を備え、前記切断用治具は、前記第1押圧部材と、前記第2押圧部材と、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とを連結する連結部材と、を備える、請求項
11に記載の切断品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断品の製造方法、ワークの切断用治具、ワークの切断用押圧装置、及び切断品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、ワークの切断品の製造方法としては、切断予定部にスクライブ痕を有するワークを、スクライブ痕を起点に折り割ることで切断する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記切断品の製造方法において、ワークの切断品の切断面に欠け等の破損が発生する場合があり、このような切断品の破損を抑えるという観点で未だ改善の余地がある。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワークを切断することで得られる切断品の破損を抑えることで、切断品の良品率を高めることを可能にした切断品の製造方法、ワークの切断用治具、ワークの切断用押圧装置、及び切断品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する切断品の製造方法は、第1端及び第2端の両端を有する長尺状のワークを切断予定部で切断することで切断品を得る切断品の製造方法であって、前記ワークの前記第1端側を支持部材により支持し、前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側の前記切断予定部がアンビルに接するように、前記ワークを位置決めする位置決め工程と、前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側を前記アンビルに押し付けるように押圧する押圧工程と、を備え、前記切断予定部は、前記ワークの周方向において前記アンビルとは反対側となる位置に形成されたスクライブ痕を有し、前記切断予定部よりも前記第1端側となる第1の押圧対象部を第1押圧部材により押圧することで、前記ワークを前記アンビルに押圧するとともに撓ませる第1押圧工程と、前記第1押圧部材により前記ワークを撓ませた状態で、前記切断予定部よりも前記第2端側となる第2の押圧対象部を第2押圧部材により押圧し、前記切断予定部で折り割ることで前記ワークを切断する第2押圧工程と、を備える。なお、ここでいうスクライブ痕は、所定長さを有する線状のものの他、点状のものも含む。
【0006】
この方法によれば、第1押圧工程において、上記第1の押圧対象部を第1押圧部材により押圧することで、第1の押圧対象部周辺のワークを撓ませたときの反動により、ワークの第2端を、上記第1の押圧対象部周辺が撓んだ反対側に変位させることができる。第2押圧工程では、上記ワークを撓ませた状態で上記第2の押圧対象部を第2押圧部材により押圧することで、スクライブ痕にワークを切断させる力を容易に加えることができる。これにより、スクライブ痕を起点として、良質な切断面を得ることができ、切断品の破損を抑えることができる。
【0007】
上記切断品の製造方法において、前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材は、それぞれ前記ワークと接する接触部を有し、前記第2押圧工程では、前記位置決め工程における前記ワークの軸線に対して、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材の各接触部を結ぶ直線のなす角度が0.1°以上、5°以下の範囲内となるように、前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材を配置することが好ましい。
【0008】
上記角度が0.1°以上の場合、ワークの撓みをより大きくすることができるため、切断品の良品率をより高めることが可能となる。一方、上記角度が5°以下の場合、ワークの過剰な撓みを抑えることで、第2押圧部材により加えられる荷重の方向とワークの長さ方向とのなす角度が過剰な傾斜になることを抑えることができる。これにより、ワークを切断させる力をスクライブ痕に好適に加えることができるため、切断品の良品率をより高めることが可能となる。
【0009】
上記切断品の製造方法において、前記ワークは、管状又は柱状であることが好ましい。
上記切断品の製造方法において、前記ワークの横断面は、円形状又は楕円形状であることが好ましい。
【0010】
上記切断品の製造方法では、前記切断品の横断面の最大外径寸法に対する前記切断品の長さ寸法の比率が、5.0以下であってもよい。
上述した第1押圧工程及び第2押圧工程を備える切断品の製造方法では、上記比率Rが5.0以下の切断品の製造であっても、切断品の破損を抑えることができ、この結果、比較的高い良品率で切断品を製造することが可能となる。
【0011】
上記切断品の製造方法では、前記切断品の長さ寸法が、20mm以下であってもよい。上述した第1押圧工程及び第2押圧工程を備える切断品の製造方法では、長さ寸法が20mm以下の切断品の製造であっても、切断品の破損を抑えることができる結果、比較的高い良品率で製造することが可能となる。
【0012】
上記切断品の製造方法において、前記ワークのヤング率が、60~100GPaであることが好ましい。ワークのヤング率が60GPa以上の場合、第1押圧工程でのワークの過剰な柔軟性が抑えられるため、折り割りに好適となる。一方、ワークのヤング率が100GPa以下の場合、第1押圧工程でワークを容易に撓ませることができる。
【0013】
上記切断品の製造方法において、前記ワークの材料が、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はガラスセラミックスであることが好ましい。これらの材料のヤング率は、上記数値範囲を満たすことが可能であるため、ワークの折り割りに好適である。
【0014】
ワークの切断用治具は、長尺状のワークを折り割りによって切断する用途に用いられる治具であって、前記ワークの第1の押圧対象部を押圧する第1押圧部材と、前記ワークの長手方向において前記第1の押圧対象部と離間した第2の押圧対象部を押圧する第2押圧部材と、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とを連結する連結部材と、を備える。この構成によれば、上述した第1押圧工程及び第2押圧工程に好適に用いることができる。
【0015】
切断品の製造装置は、第1端及び第2端の両端を有する長尺状のワークを切断予定部で切断することで切断品を得る切断品の製造装置であって、前記ワークの前記第1端側を支持する支持部材と前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側の前記切断予定部が位置されるアンビルとを有し、前記ワークを位置決めする位置決め部と、前記支持部材から突出した前記ワークの第2端側を前記アンビルに押し付けるように押圧する第1押圧部材及び第2押圧部材を有する押圧装置と、を備え、前記切断予定部は、前記ワークの周方向において前記アンビルとは反対側となる位置に形成されたスクライブ痕を有し、前記第1押圧部材は、前記切断予定部よりも前記第1端側となる第1の押圧対象部を押圧することで、前記ワークを前記アンビルに押圧するとともに撓ませるように構成され、前記第2押圧部材は、前記第1押圧部材により前記ワークを撓ませた状態で、前記切断予定部よりも前記第2端側となる第2の押圧対象部を押圧し、前記切断予定部で折り割ることで前記ワークを切断するように構成される。
【0016】
上記切断品の製造装置において、前記押圧装置は、前記ワークを切断する切断用治具を備え、前記切断用治具は、前記第1押圧部材と、前記第2押圧部材と、前記第1押圧部材と前記第2押圧部材とを連結する連結部材と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ワークを切断することで得られる切断品の破損を抑えることで、切断品の良品率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態における切断品の製造装置を示す概略側面図である。
【
図2】切断品の製造装置の要部を示す概略側面図である。
【
図5】切断品の製造装置の要部を示す概略斜視図である。
【
図8】切断品の製造方法を説明するフロー図である。
【
図9】切断品の製造装置の変更例を示す概略側面図である。
【
図10】切断品の製造装置の変更例を示す概略側面図である。
【
図11】第1押圧工程を説明する概略側面図である。
【
図12】第2押圧工程を説明する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、切断品の製造方法、ワークの切断用治具、及び切断品の製造装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0020】
まず、切断品を得るためのワークについて説明する。
ワークの全体形状は、例えば、管状又は柱状である。ワークの横断面の形状は、例えば、円形状、楕円形状、多角形状等が挙げられる。ワークは、例えば、ガラス、ガラスセラミックス、セラミックス等の脆性材料から構成されている。ワークのヤング率は、好ましくは、60~100GPaであり、より好ましくは、65~95GPaであり、さらに好ましくは、68~90GPaであり、特に好ましくは、70~85GPaである。
【0021】
ワークの材料は、ガラス又はガラスセラミックスであることが好ましい。ガラスは、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、又は石英ガラスであることが好ましい。
【0022】
ガラスが、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、又は無アルカリガラスの場合、ガラス組成として、質量%で、SiO2:50~75%、Al2O3:5~25%、B2O3:0~15%、Li2O+Na2O+K2O:0~20%、MgO+CaO+SrO+BaO:0~20%を含有することが好ましい。
【0023】
ガラスセラミックの場合、ガラス組成として、質量%で、SiO2:60~80%、Al2O3:10~30%、Li2O+Na2O+K2O:1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO:5~20%を含有し、β石英固溶体又はβスポジュメンが結晶として析出している低熱膨張結晶化ガラスであることが好ましい。ここで、低熱膨張とは、30~300℃の温度範囲において、熱膨張係数の値が、-10×10-7~20×10-7/℃であることを指す。
【0024】
上述したガラス又はガラスセラミックスであれば、例えば、60~100GPaのヤング率を満たすことが可能となる。
以下では、ワークとして、円形状の横断面を有する管ガラスを一例として説明する。
【0025】
次に、切断品の製造装置について説明する。
図1に示すように、切断品の製造装置11は、第1端W1及び第2端W2の両端を有する長尺状のワークWを切断予定部W3で切断することで切断品を得る装置である。
【0026】
切断品の製造装置11は、ワークWを位置決めする位置決め部12を備えている。位置決め部12は、ワークWの第1端W1側を支持する支持部材12aを有している。支持部材12aにおいて、ワークWを支持する支持部は、平坦面であってもよいし、ワークWの長さ方向に沿うとともにワークWが挿入可能な溝を有していてもよい。支持部材12aで支持されたワークWは、ワークWの軸方向を図面のX軸方向で示される水平方向に沿って延びるように配置される。
【0027】
ワークWには、支持部材12aから突出した第2端W2側に切断予定部W3が設定されている。切断品の製造装置11における位置決め部12は、第2端W2側の切断予定部W3が接するように配置されるアンビル12bをさらに有している。アンビル12bは、ワークWを支持する支持部材12aと同じ方向からワークWの切断予定部W3を支持するように配置される。本実施形態の支持部材12a及びアンビル12bは、図面のZ軸方向に沿った上下方向のうち下方からワークWを支持するように配置されている。換言すると、ワークWの切断予定部W3は、アンビル12b上に配置される。アンビル12bは、ワークWを折り割る際の支点となる。なお、位置決め部12は、支持部材12aに支持されたワークWを支持部材12aに向けて押さえる押え部材12cを備えているが、この押え部材12cを省略してもよい。
【0028】
ワークWの切断予定部W3は、ワークWの周方向においてアンビル12bとは反対側となる位置に形成されたスクライブ線SLを有している。ワークWのスクライブ線SLは、ホイール等の工具、レーザー光等により形成することができる。
【0029】
切断品の製造装置11は、ワークWを押圧する押圧装置13をさらに備えている。押圧装置13は、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側をアンビル12bに押し付けるように押圧する第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを備えている。
【0030】
図2及び
図3に示すように、押圧装置13の第1押圧部材13aは、切断予定部W3よりも第1端W1側となるワークWの第1の押圧対象部W4を押圧することで、ワークWをアンビル12bに押圧するとともに撓ませるように構成されている。
【0031】
図3及び
図4に示すように、押圧装置13の第2押圧部材13bは、第1押圧部材13aによりワークWを撓ませた状態で、切断予定部W3よりも第2端W2側となる第2の押圧対象部W5を押圧する。これにより、スクライブ線SLに荷重を集中させて、切断予定部W3を折り割ることでワークWを切断するように構成されている。このように第2押圧部材13bの押圧により、切断予定部W3を折り割ることで切断品CPを得ることができる。
【0032】
図1及び
図5に示すように、本実施形態の押圧装置13は、切断用治具14を備えている。切断用治具14は、第1押圧部材13aと、第2押圧部材13bと、第1押圧部材13aと第2押圧部材13bとを連結する連結部材14aとを備えている。切断用治具14において、連結部材14aから第1押圧部材13aが突出する第1突出長さPL1は、連結部材14aから第2押圧部材13bが突出する第2突出長さPL2と等しい。切断用治具14は、ワークWに対して第1押圧部材13aの先端が第2押圧部材13bの先端よりも近くなるように傾斜して配置されている。
【0033】
押圧装置13は、切断用治具14を駆動する駆動部15をさらに備えている。駆動部15は、切断用治具14の連結部材14aに連結されている。駆動部15は、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bがワークWを押圧するように切断用治具14を移動させる。本実施形態の駆動部15は、図面のZ軸方向に沿った上下方向に切断用治具14を移動させる。駆動部15は、例えば、モータ、流体シリンダ等により構成することができる。
【0034】
切断品の製造装置11は、1本のワークWを順次切断するように構成してもよいし、
図5~
図7に示すように、複数本のワークWを同時に切断するように構成してもよい。複数本のワークWを同時に切断する切断品の製造装置11は、各ワークWの軸方向が互いに平行となるように配列された複数本のワークWを支持する支持部材12a及びアンビル12bを備えている。切断品の製造装置11の第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bは、複数のワークWの径方向に沿って延びる形状を有している。
【0035】
図6に示すように、押圧装置13の第1押圧部材13aは、複数本のワークWに同時に押圧することができるため、複数のワークWを同時に撓ませることができる。また、
図7に示すように、押圧装置13の第2押圧部材13bについても、複数本のワークWを同時に押圧することができるため、複数本のワークWを同時に切断することができる。
【0036】
次に、切断品CPの製造方法について主な作用とともに説明する。
図8に示すように、切断品CPの製造方法は、位置決め工程(ステップS1)と押圧工程(ステップS2)とを備えている。ステップS2の押圧工程は、第1押圧工程(ステップS2A)と、第2押圧工程(ステップS2B)とを備えている。
【0037】
ステップS1の位置決め工程では、
図1及び
図5に示すように、ワークWの第1端W1側を支持部材12aにより支持し、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側に設定される切断予定部W3がアンビル12bに接するように、ワークWを位置決めする。ワークWのスクライブ線SLは、アンビル12bを配置した後に形成してもよいし、例えば、ステップS1の位置決め工程の前工程で形成してもよい。
【0038】
ステップS2の押圧工程は、
図2~
図4、
図6及び
図7に示すように、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側をアンビル12bに押し付けるように押圧する。ステップS2Aの第1押圧工程では、ワークWの切断予定部W3よりも第1端W1側となる第1の押圧対象部W4を第1押圧部材13aにより押圧することで、ワークWをアンビル12bに押圧するとともに撓ませる。
【0039】
ステップS2Bの第2押圧工程では、第1押圧部材13aによりワークWを撓ませた状態で、切断予定部W3よりも第2端W2側となる第2の押圧対象部W5を第2押圧部材13bにより押圧し、切断予定部W3を折り割ることでワークWを切断する。
【0040】
この方法によれば、ステップS2Aの第1押圧工程において、上記第1の押圧対象部W4を第1押圧部材13aにより押圧することで、第1の押圧対象部W4周辺のワークWを撓ませたときの反動により、ワークWの第2端W2を、上記第1の押圧対象部W4周辺が撓んだ反対側に変位させることができる。ステップS2Bの第2押圧工程では、ワークWを撓ませた状態で上記第2の押圧対象部W5を第2押圧部材13bにより押圧することで、スクライブ線SLにワークWを切断させる力を容易に加えることができる。
【0041】
図2に示すように、第1の押圧対象部W4は、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側において、例えば、支持部材12a側の基端P1と切断予定部W3との間の中央となる位置に設定することができる。ステップS1の位置決め工程のワークWにおいて、基端P1から切断予定部W3までの第1の長さ寸法L1を100とした場合、基端P1から第1の押圧対象部W4までの距離は、好ましくは、30~70である。これにより、ステップS2Aの第1押圧工程において、ワークWを容易に撓ませることができる。
【0042】
第1の長さ寸法L1は、例えば、ワークWの切断予定部W3から第2端W2までの第2の長さ寸法L2と同じ長さ寸法に設定することができる。第2の長さ寸法L2は、切断品CPの長さ寸法に設定される。第2の長さ寸法L2を100とした場合、第1の長さ寸法L1は、好ましくは、70~130である。これにより、ステップS2Aの第1押圧工程において、ワークWを容易に撓ませることができる。
【0043】
第2の押圧対象部W5は、例えば、ワークWの切断予定部W3よりもワークWの第2端W2に近い位置に設定することができる。ステップS1の位置決め工程のワークWにおいて、第2の長さ寸法L2を100とした場合、切断予定部W3から第2の押圧対象部W5までの距離は、好ましくは、60~100であり、より好ましくは、70~99である。これにより、ステップS2Bの第2押圧工程において、スクライブ線SLにより大きなモーメントが加わることにより、ワークWを切断させる力を容易に加えることができる。
【0044】
ここで、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bは、それぞれワークWと接触する接触部を有している。第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bの各接触部は、例えば、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bの先端(下端)により構成されるが、先端以外の部分により構成されてもよい。ステップS2Bの第2押圧工程において、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bの各接触部の配置は、ステップS1の位置決め工程におけるワークWの軸線VL1を基準として設定することができる。ステップS2Bの第2押圧工程では、ワークWの軸線VL1に対して、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bの各接触部を結ぶ直線VL2のなす角度θが0.1°以上、5°以下の範囲内となるように、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを配置することが好ましい。この場合、切断品CPの良品率をより高めることが可能となる。
【0045】
本実施形態の切断品CPの製造方法は、切断品CPの切断面の最大外径寸法D1に対する切断品CPの長さ寸法(第2の長さ寸法L2)の比率R(R=L2/D1)が5.0以下の切断品CPの製造に好適に用いることができる。なお、切断品CPにおける比率Rは、例えば、2.0以上である。また、本実施形態の切断品CPの製造方法は、長さ寸法(第2の長さ寸法L2)が20mm以下の切断品CPの製造に好適に用いることができる。なお、切断品CPの長さ寸法は、例えば、2mm以上である。
【0046】
次に、製造例について説明する。以下の製造例1~28は、ワークの材質として、ヤング率が72GPaのホウケイ酸ガラス、ヤング率が68GPaのアルミノシリケートガラス、β石英固溶体を析出させたヤング率が94GPaのガラスセラミックスを用いて実施した。
【0047】
(製造例1)
製造例1では、上記切断品CPの製造方法により、長尺状の管ガラスを切断することにより、管ガラスの切断品CPを製造した。ステップS2Bの第2押圧工程では、上記角度θを“0.7°”に設定し、管ガラスを押圧した。管ガラスの切断品CPの上記比率Rは、“3.5”であった。管ガラスの切断品CPを100個製造し、切断面の破損の有無を確認することで良否判定を行い、良品率を算出した。良否判定は、光学顕微鏡(50倍)で切断面とその周辺を観察し、切断面に破損につながる欠けが認められないものを「良品」とし、切断面に破損につながる欠けが認められるものを「不良品」とした。良品率の結果を表1に示す。良品率が70%を超えると、歩留まりの観点から特に有利であると判断できる。なお、以下の表中の“材質”欄において、ホウケイ酸ガラスを「B-Si」で示し、アルミノシリケートガラスを「Al-Si」で示し、ガラスセラミックスを「G-C」で示す。
【0048】
(製造例2~12)
製造例2~6では、ステップS2Bの第2押圧工程における上記角度θ、及び管ガラスの切断品CPの上記比率Rを表1に示すように設定した以外は、製造例1と同様に管ガラスの切断品CPを製造し、良品率を算出した。良品率の結果を表1に示す。
【0049】
(製造例13,14)
製造例13,14では、押圧工程において、第1押圧部材13aによるワークの押圧を行わず、第2押圧部材13bの荷重のみでワークを押圧することで、切断品を製造し、製造例1と同様に良品率を算出した。良品率の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
(製造例15)
製造例15では、上記切断品CPの製造方法により、長尺状の柱状ガラスを切断することにより、柱状ガラスの切断品CPを製造した。ステップS2Bの第2押圧工程では、上記角度θを“0.7°”に設定し、柱状ガラスを押圧した。柱状ガラスの切断品CPの上記比率Rは、“3.2”である。得られた切断品CPについて、製造例1と同様に良否判定を行い、良品率を算出した。その結果を表2に示す。
【0051】
(製造例16~26)
製造例16~26では、ステップS2Bの第2押圧工程における上記角度θ、及び柱状ガラスの切断品CPの上記比率Rを表2に示すように設定した以外は、製造例15と同様に柱状ガラスの切断品CPを製造し、良品率を算出した。良品率の結果を表2に示す。
【0052】
(製造例27,28)
製造例27,28では、押圧工程において、第1押圧部材13aによるワークの押圧を行わず、第2押圧部材13bによる荷重のみでワークを押圧することで、切断品を製造し、製造例15と同様に良品率を算出した。良品率の結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
表1及び表2の製造例1~12及び製造例15~16の結果が示すように、ステップS2Aの第1押圧工程及びステップS2Bの第2押圧工程を行うことで、切断品CPの良品率を高めることができることが分かる。
【0054】
次に、実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)切断品CPの製造方法におけるステップS1の位置決め工程は、ワークWの第1端W1側を支持部材12aにより支持し、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側の切断予定部W3がアンビル12bに接するように、ワークWを位置決めする。ステップS2の押圧工程では、支持部材12aから突出したワークWの第2端W2側をアンビル12bに押し付けるように押圧する。ワークWの切断予定部W3は、ワークWの周方向においてアンビル12bとは反対側となる位置に形成されたスクライブ線SLを有している。
【0055】
ステップS2Aの第1押圧工程では、ワークWの切断予定部W3よりも第1端W1側となる第1の押圧対象部W4を第1押圧部材13aにより押圧することで、ワークWをアンビル12bに押圧するとともに撓ませる。ステップS2Bの第2押圧工程では、第1押圧部材13aによりワークWを撓ませた状態で、ワークWの切断予定部W3よりも第2端W2側となる第2の押圧対象部W5を第2押圧部材13bにより押圧し、ワークWの切断予定部W3を折り割ることでワークWを切断する。
【0056】
この方法によれば、ステップS2Aの第1押圧工程では、上記第1の押圧対象部W4を第1押圧部材13aにより押圧することで、第1の押圧対象部W4周辺のワークWを撓ませたときの反動により、ワークWの第2端W2を、上記第1の押圧対象部W4周辺が撓んだ反対側に変位させることができる。ステップS2Bの第2押圧工程では、上記ワークを撓ませた状態で上記第2の押圧対象部W5を第2押圧部材13bにより押圧することで、スクライブ線SLにワークWを切断させる力を容易に加えることができる。これにより、スクライブ線SLを起点として、良質な切断面を得ることができ、切断品CPの破損を抑えることができる。このように、ワークWを切断することで得られる切断品CPの破損を抑えることで、切断品CPの良品率を高めることが可能となる。
【0057】
(2)ステップS2Bの第2押圧工程では、上記角度θが0.1°以上、5°以下の範囲内となるように、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを配置することが好ましい。この角度θが0.1°以上の場合、ワークWの撓みをより大きくすることができるため、切断品CPの良品率をより高めることが可能となる。一方、上記角度θが5°以下の場合、ワークWの過剰な撓みを抑えることで、第2押圧部材13bにより加えられる荷重の方向とワークWの長さ方向とのなす角度が過剰な傾斜になることを抑えることができる。これにより、ワークWを切断させる力をスクライブ線SLに好適に加えることができるため、切断品CPの良品率をより高めることが可能となる。
【0058】
(3)ワークWを折り割ることでワークWを切断する場合、切断品CPの上記比率Rが比較的小さいと、モーメントの観点から、スクライブ線SLに力が加わり難く、スクライブ線SL以外の部分に過剰な負荷がかかるため、切断品CPが破損し易い。そこで、本実施形態の切断品CPの製造方法では、ステップS2Aの第1押圧工程及びステップS2Bの第2押圧工程を備えているため、上記比率Rが5.0以下の切断品CPであっても、切断品CPの破損を抑えることができ、その結果、比較的高い良品率で切断品CPを製造することが可能となる。
【0059】
(4)本実施形態の切断品CPの製造方法は、長さ寸法が20mm以下の切断品CPであっても、切断品CPの破損を抑えることができ、その結果、比較的高い良品率で製造することが可能となる。本実施形態で得られる切断品CPの管ガラスは、例えば、リードスイッチ、トランスポンダ等の電子部品用途に好適に用いることができる。
【0060】
(5)ワークのヤング率は、60~100GPaであることが好ましい。ワークWのヤング率が60GPa以上の場合、ステップS2Aの第1押圧工程でのワークWの過剰な柔軟性が抑えられるため、折り割りに好適となる。一方、ワークWのヤング率が100GPa以下の場合、ステップS2Aの第1押圧工程でワークWを容易に撓ませることができる。
【0061】
(6)ワークWの材料は、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はガラスセラミックスであることが好ましい。これらの材料のヤング率は、上記数値範囲を満たすことが可能であるため、ワークWの折り割りに好適である。
【0062】
(7)ワークWの切断用治具14は、長尺状のワークWを折り割りによって切断する用途に用いられる。切断用治具14は、ワークWの第1の押圧対象部W4を押圧する第1押圧部材13aと、ワークWの長手方向において第1の押圧対象部W4と離間した第2の押圧対象部W5を押圧する第2押圧部材13bと、第1押圧部材13aと第2押圧部材13bとを連結する連結部材14aとを備えている。
【0063】
この構成によれば、切断品CPの製造方法におけるステップS2の押圧工程に好適に用いることができる。
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0064】
・
図9に示すように、ワークWの切断用治具14において、第1押圧部材13aの第1突出長さPL1を第2押圧部材13bの第2突出長さPL2よりも長くなるように変更してもよい。但し、
図9における角度θの値は、前記のとおり、0.1°以上、5°以下の範囲内であることが好ましい。この切断用治具14を下降させることで、ステップS2Aの第1押圧工程及びステップS2Bの第2押圧工程を行うこともできる。
【0065】
・
図10に示すように、切断品の製造装置11における押圧装置13は、第1押圧部材13aと第2押圧部材13bとを独立して駆動するように構成することもできる。この押圧装置13は、第1押圧部材13aを駆動する第1駆動部15aと、第2押圧部材13bを駆動する第2駆動部15bとを備えている。切断品CPの製造方法におけるステップS2Aの第1押圧工程では、
図11に示すように、ワークWを押圧する方向に、第1駆動部15aによって第1押圧部材13aを移動させ、ワークWに荷重を加えることで、ワークWを撓ませた状態とする。次に、ステップS2Bの第2押圧工程では、
図12に示すように、ワークWを押圧する方向に、第2駆動部15bによって第2押圧部材13bを移動させ、ワークWに荷重を加え、スクライブ線SLにワークWを切断させる力をかけることで、ワークWを切断する。ステップS2Bの第2押圧工程は、第1押圧部材13aの移動を停止した状態で行ってもよいし、ワークWを押圧する方向に第1押圧部材13aを移動させながら行ってもよい。
【0066】
・上記ステップS1の位置決め工程では、ワークWの軸方向が水平方向に沿った横姿勢のワークWを支持部材12a及びアンビル12bにより支持しているが、ワークWの軸方向が上下方向に沿った縦姿勢のワークWを支持部材12a及びアンビル12bにより支持するように変更してもよい。すなわち、切断品CPの製造方法は、縦姿勢のワークWを切断するように変更することもできる。
【0067】
・上記ステップS2の押圧工程では、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを移動させているが、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを移動させずに、ワークW、支持部材12a、及びアンビル12bを移動させることで、押圧工程を行ってもよい。
【0068】
・上記実施形態の切断品CPの製造方法において、第1押圧部材13a及び第2押圧部材13bを駆動部15により駆動させずに、手動で押圧操作するように構成してもよい。
・切断品CPの製造方法において、上記切断用治具14を用いずに、例えば、連結部材14aを省略した切断用治具を用いてもよい。
【符号の説明】
【0069】
11…切断品の製造装置
12…位置決め部
12a…支持部材
12b…アンビル
12c…押え部材
13…押圧装置
13a…第1押圧部材
13b…第2押圧部材
14…切断用治具
14a…連結部材
CP…切断品
L1…第1の長さ寸法
L2…第2の長さ寸法
SL…スクライブ線
VL1…軸線
VL2…直線
W…ワーク
W1…第1端
W2…第2端
W3…切断予定部
W4…第1の押圧対象部
W5…第2の押圧対象部
θ…角度