(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電磁波信号の位相制御に使用される液晶組成物および素子
(51)【国際特許分類】
C09K 19/12 20060101AFI20240521BHJP
C09K 19/02 20060101ALI20240521BHJP
C09K 19/34 20060101ALI20240521BHJP
C09K 19/30 20060101ALI20240521BHJP
C09K 19/16 20060101ALI20240521BHJP
C09K 19/18 20060101ALI20240521BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20240521BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C09K19/12
C09K19/02
C09K19/34
C09K19/30
C09K19/16
C09K19/18
C09K19/54 B
G02F1/13 500
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2020176832
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡部 英二
(72)【発明者】
【氏名】森 崇徳
(72)【発明者】
【氏名】片野 裕子
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/052972(WO,A1)
【文献】特開2020-94175(JP,A)
【文献】特開2001-254080(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106701105(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K
G02F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される液晶組成物。
式(1)~(3)において、
R
1、R
21、R
22、R
31およびR
32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
環A
1は、
、
、または
であり;
Z
11、Z
21、Z
23、およびZ
31は、単結合、-CH=CH-、または-C≡C-であり;Z
12、Z
13、Z
32およびZ
33は、単結合、-C≡C-、または-C≡C-C≡C-であるが、Z
12およびZ
13のうちの少なくとも1つは単結合ではなく;Z
22は-C≡C-または-C≡C-C≡C-であり、;
L
11、L
12、L
13、L
14、L
15、およびL
16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチルまたはシクロプロピルであり;L
21、L
22、L
23、L
31、L
32、L
33、L
34、L
35、およびL
36は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルであり;
Y
11およびY
12は、水素、フッ素、または塩素であり;
n
1は、0、1、または2である。
【請求項2】
式(1-
2)から式(1-8)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1に記載の液晶組成物。
式(1-
2)から式(1-8)において、
R
1は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
Z
11は、単結合、-CH=CH-、または-C≡C-であり;
L
11、L
12、L
13、L
14、L
15、およびL
16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチル、またはシクロプロピルであり;
Y
11およびY
12は、水素、フッ素、または塩素である。
【請求項3】
液晶組成物の重量に基づいて、式(1)で表される化合物の割合が10重量%から50重量%の範囲である、請求項1または2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
式(2-1)から式(2-5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(2-1)から式(2-5)において、
R
21およびR
22は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
L
21、L
22、およびL
23は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルである。
【請求項5】
液晶組成物の重量に基づいて、式(2)で表される化合物の割合が25重量%から70重量%の範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項6】
式(3-1)から式(3-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(3-1)から式(3-4)において、
R
31およびR
32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
L
31、L
32、L
33、L
34、L
35、およびL
36は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルである。
【請求項7】
液晶組成物の重量に基づいて、式(3)で表される化合物の割合が10重量%から50重量%の範囲である、請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項8】
波長589nmにおける25℃の屈折率異方性が0.20~0.80の範囲である、請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項9】
1GHzから10THzのいずれかの周波数における25℃の誘電率異方性が0.40~2.0の範囲である、請求項1から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項10】
光学活性化合物を含む請求項1から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項11】
重合性化合物を含む請求項1から10のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数1GHz~10THzの電磁波信号の位相制御に使用される素子およびこの素子に使用される液晶組成物に関する。この液晶組成物はネマチック相、および正の誘電率異方性を有する。
【背景技術】
【0002】
周波数1GHz~10THzの電磁波信号の位相制御に使用される素子としては、ミリ波帯またはマイクロ波帯アンテナ、および赤外線レーザー素子等が挙げられる。これらの素子は種々の方式が検討されているが、機械的な可動部が無いため故障が少ないと考えられる液晶組成物を用いた方式が注目されている。
【0003】
誘電率異方性を有する液晶組成物は、配向分極の緩和が行われる周波数(緩和周波数)より低い周波数(数100kHzから数100MHz程度以下)では、液晶組成物の配向方向に対し垂直方向および水平方向の誘電率が異なる。
緩和周波数より高い周波数においても、値は小さくなるが、液晶組成物の配向方向に対し垂直方向および水平方向の誘電率の差が見られ、マイクロ波~テラヘルツ波(~約10THz)の範囲で、ほぼ一定である(非特許文献1)。
【0004】
液晶組成物は、外部からのバイアス電界に応じて分子の配向が変化し、誘電率が変化する。この性質を利用すれば、例えば、高周波伝送線路の伝送特性を外部から電気的に制御できるマイクロ波デバイスの実現が可能になる。このようなデバイスは、導波管にネマチック液晶組成物を充填した電圧制御ミリ波帯可変移相器や、マイクロストリップ線路の誘電体基板としてネマチック液晶組成物を用いたマイクロ波・ミリ波帯の広帯域可変移相器などが報告されている(特許文献1および2)。
【0005】
このような電磁波信号の位相制御に使用される素子は、使用できる温度範囲が広い、高利得かつ低損失であるなどの特性を有する事が望ましい。したがって、液晶組成物の特性は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、低い粘度、位相制御に使用される周波数領域での大きな誘電率異方性、位相制御に使用される周波数領域での小さなtanδなどが求められる。
【0006】
従来の当該素子に使用される液晶組成物は、下記の特許文献3から5に開示されている。
【0007】
なお、液晶組成物は誘電体であるため分極を生じる。分極が生じるメカニズムは大きく3つに分けられる。電子分極、イオン分極、および配向分極である。配向分極は液晶分子の配向に伴う分極であるため、誘電緩和の損失の影響が無視できないが、高周波になるにつれて(例えば1MHz以上)目立った損失がなくなる。その結果、高周波領域では損失による誘電率の変化がない、電子分極及びイオン分極のみが関与することになる。なお、損失のない誘電体においては誘電率が屈折率に比例する(ε=n2)ため、上記の高周波領域で測定された誘電率および屈折率はほぼ変化がないといえる(非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2017/201515号
【文献】米国公開2018/0239213号明細書
【文献】特開2004-285085号公報
【文献】特開2011-74074号公報
【文献】特開2016-37607号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】EKISHO、23巻(1号)、(2019年)、51~55項
【文献】固体物性-格子振動・誘電体(裳華房 社 作道恒太郎 著)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、周波数1GHz~10THzの電磁波信号の位相制御用の素子に使用される材料として、上記に示した要求特性が良好で、かつ特性バランスに優れた液晶組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する液晶化合物を含む液晶組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、以下などの構成を有する。
項1. 式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される液晶組成物。
式(1)~(3)において、
R
1、R
21、R
22、R
31およびR
32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
環A
1は、
、
、または
であり;
Z
11、Z
21、Z
23、およびZ
31は、単結合、-CH=CH-、または-C≡C-であり;Z
12、Z
13、Z
32およびZ
33は、単結合、-C≡C-、または-C≡C-C≡C-であるが、Z
12およびZ
13のうちの少なくとも1つは単結合ではなく;Z
22は-C≡C-または-C≡C-C≡C-であり、;
L
11、L
12、L
13、L
14、L
15、およびL
16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチルまたはシクロプロピルであり;L
21、L
22、L
23、L
31、L
32、L
33、L
34、L
35、およびL
36は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルであり;
Y
11およびY
12は、水素、フッ素、または塩素であり;
n
1は、0、1、または2である。
【0013】
項2. 式(1-
2)から式(1-8)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1に記載の液晶組成物。
式(1-
2)から式(1-8)において、
R
1は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
Z
11は、単結合、-CH=CH-、または-C≡C-であり;
L
11、L
12、L
13、L
14、L
15、およびL
16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチル、またはシクロプロピルであり;
Y
11およびY
12は、水素、フッ素、または塩素である。
【0014】
項3. 液晶組成物の重量に基づいて、式(1)で表される化合物の割合が10重量%から50重量%の範囲である、項1または2に記載の液晶組成物。
【0015】
項4. 式(2-1)から式(2-5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(2-1)から式(2-5)において、
R
21およびR
22は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
L
21、L
22、およびL
23は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルである。
【0016】
項5. 液晶組成物の重量に基づいて、式(2)で表される化合物の割合が25重量%から70重量%の範囲である、項1から4のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0017】
項6. 式(3-1)から式(3-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
式(3-1)から式(3-4)において、
R
31およびR
32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH
2-は、-O-で置き換えられていてもよく;
L
31、L
32、L
33、L
34、L
35、およびL
36は、水素、フッ素、塩素、メチル、またはエチルである。
【0018】
項7. 液晶組成物の重量に基づいて、式(3)で表される化合物の割合が10重量%から50重量%の範囲である、項1から6のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0019】
項8. 波長589nmにおける25℃の屈折率異方性が0.20~0.80の範囲である、項1から7のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0020】
項9. 1GHzから10THzのいずれかの周波数における25℃の誘電率異方性が0.40~2.0の範囲である、項1から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0021】
項10. 光学活性化合物を含む項1から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0022】
項11. 重合性化合物を含む項1から10のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0023】
項12. 項1から11のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される素子。
【発明の効果】
【0024】
本発明の組成物は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、低い粘度、位相制御に使用される周波数領域での大きな誘電率異方性、位相制御に使用される周波数領域での小さなtanδを有する。
つまり、本発明の液晶組成物は、広い温度範囲でネマチック相を保持しながら位相制御に使用される周波数領域で大きな誘電率異方性および小さなtanδを持ち、安定性を有する。
本発明の液晶組成物を使用した素子は、広い温度範囲で電磁波信号を位相制御することができる優れた特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。「液晶組成物」および「液晶素子」の用語をそれぞれ「組成物」および「素子」と略すことがある。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相のような液晶相を有する化合物および液晶相を有しないが、ネマチック相の温度範囲、粘度、誘電率異方性のような特性を調節する目的で組成物に混合される化合物の総称である。この化合物は、例えば1,4-シクロヘキシレンや1,4-フェニレンのような六員環を有し、その分子(液晶分子)は棒状(rod like)である。「重合性化合物」は、組成物中に重合体を生成させる目的で添加する化合物である。アルケニルを有する液晶性化合物は、その意味では重合性化合物に分類されない。
【0026】
液晶組成物は、複数の液晶性化合物を混合することによって調製される。液晶性化合物の割合(含有量)は、この液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。この液晶組成物に、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、磁性化合物のような添加物が必要に応じて添加される。添加物の割合(添加量)は、液晶性化合物の割合と同様に、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。重量百万分率(ppm)が用いられることもある。重合開始剤および重合禁止剤の割合は、例外的に重合性化合物の重量に基づいて表される。
【0027】
「ネマチック相の上限温度」を「上限温度」と略すことがある。「ネマチック相の下限温度」を「下限温度」と略すことがある。「誘電率異方性を上げる」の表現は、誘電率異方性が正である組成物のときは、その値が正に増加することを意味し、誘電率異方性が負である組成物のときは、その値が負に増加することを意味する。
【0028】
式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1)」と略すことがある。「化合物(1)」は、式(1)で表される1つの化合物または2つ以上の化合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「置き換えられてもよい」に関する「少なくとも1つの」は、位置だけでなく、その個数についても制限なく選択してよいことを意味する。
【0029】
上記の化合物(1z)を例にして説明する。式(1z)において、六角形で囲んだαおよびβの記号はそれぞれ環αおよび環βに対応し、六員環、縮合環のような環を表す。添え字‘x’が2のとき、2つの環αが存在する。2つの環αが表す2つの基は、同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、添え字‘x’が2より大きいとき、任意の2つの環αに適用される。このルールは、結合基Zのような、他の記号にも適用される。環βの一辺を横切る斜線は、環β上の任意の水素が置換基(-Sp-P)で置き換えられてもよいことを表す。添え字‘y’は置き換えられた置換基の数を示す。添え字‘y’が0のとき、そのような置き換えはない。添え字‘y’が2以上のとき、環β上には複数の置換基(-Sp-P)が存在する。この場合にも、「同一であってもよく、または異なってもよい」のルールが適用される。なお、このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。
【0030】
式(1z)において、例えば、「RaおよびRbは、アルキル、アルコキシ、またはアルケニルである」のような表現は、RaおよびRbが独立して、アルキル、アルコキシ、およびアルケニルの群から選択されることを意味する。ここで、Raによって表される基とRbによって表される基が同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。このルールは、複数のRaを1つの化合物に用いた場合にも適用される。
【0031】
式(1z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1z)」と略すことがある。「化合物(1z)」は、式(1z)で表される1つの化合物、2つの化合物の混合物、または3つ以上の化合物の混合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「式(1z)および式(2z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物」の表現は、化合物(1z)および化合物(2z)の群から選択された少なくとも1つの化合物を意味する。
【0032】
「少なくとも1つの‘A’」の表現は、‘A’の数は任意であることを意味する。「少なくとも1つの‘A’は、‘B’で置き換えられてもよい」の表現は、‘A’の数が1つのとき、‘A’の位置は任意であり、‘A’の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できる。「少なくとも1つの-CH2-は-O-で置き換えられてもよい」の表現が使われることがある。この場合、-CH2-CH2-CH2-は、隣接しない-CH2-が-O-で置き換えられることによって-O-CH2-O-に変換されてもよい。しかしながら、隣接した-CH2-が-O-で置き換えられることはない。この置き換えでは-O-O-CH2-(ペルオキシド)が生成するからである。
【0033】
液晶性化合物のアルキルは、直鎖状または分岐状であり、特にことわりがない限り環状アルキルを含まない。直鎖状アルキルは、分岐状アルキルよりも好ましい。これらのことは、アルコキシ、アルケニルのような末端基についても同様である。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。化学式において、フッ素は左向き(L)であってもよいし、右向き(R)であってもよい。このルールは、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイルのような、非対称な環の二価基にも適用される。なお、好ましいテトラヒドロピラン-2,5-ジイルは、上限温度を上げるために右向き(R)である。
カルボニルオキシのような結合基も同様に、-COO-であってもよいし、-OCO-であってもよい。
【0034】
成分化合物の化学式において、末端基R1の記号を複数の化合物に用いた。これらの化合物において、任意の2つのR1が表わす2つの基は同一であってもよく、または異なってもよい。例えば、化合物(1-2)のR1がメチルであり、化合物(1-3)のR1がエチルであるケースがある。化合物(1-2)のR1がエチルであり、化合物(1-3)のR1がプロピルであるケースもある。このルールは、R21、R22、R31、R32などの記号にも適用される。
【0035】
本発明は、次の項も含む。(a)光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、磁性化合物のような添加物から選択された少なくとも1つをさらに含有する上記の組成物。(b)上記の組成物を含有する素子。(c)上記の組成物を含有し、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される素子。(d)重合性化合物をさらに含有する上記の組成物、およびこの組成物を含有する素子。(e)ネマチック相を有する組成物として、上記の組成物の使用。(f)上記の組成物に光学活性化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用。
【0036】
本発明の組成物を次の順で説明する。第一に、組成物における成分化合物の構成を説明する。第二に、成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物に及ぼす主要な効果を説明する。第三に、組成物における成分の組み合わせ、成分の好ましい割合およびその根拠を説明する。第四に、成分化合物の好ましい形態を説明する。第五に、好ましい成分化合物を示す。第六に、組成物に添加してもよい添加物を説明する。第七に、成分化合物の合成法を説明する。最後に、組成物の用途を説明する。
【0037】
第一に、組成物における成分化合物の構成を説明する。本発明の組成物は、組成物Aと組成物Bに分類される。組成物Aは、化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)から選択された液晶性化合物の他に、その他の液晶性化合物、添加物などをさらに含有してもよい。「その他の液晶性化合物」は、化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)とは異なる液晶性化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。
【0038】
組成物Bは、実質的に、化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)から選択された液晶性化合物のみからなる。「実質的に」は、組成物が添加物を含有してもよいが、その他の液晶性化合物を含有しないことを意味する。組成物Bは組成物Aに比較して成分の数が少ない。コストを下げるという観点から、組成物Bは組成物Aよりも好ましい。その他の液晶性化合物を混合することによって特性をさらに調整できるという観点から、組成物Aは組成物Bよりも好ましい。
【0039】
第二に、成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を本発明の効果に基づいて表1にまとめる。表1の記号において、Lは大きいまたは高い、Mは中程度の、Sは小さいまたは低い、を意味する。記号L、M、Sは、成分化合物のあいだの定性的な比較に基づいた分類であり、0(ゼロ)は、値がほぼゼロであるか、またはゼロに近いことを意味する。
【0040】
【0041】
成分化合物を組成物に混合したとき、成分化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果は次のとおりである。
化合物(1)は、主に液晶組成物の屈折率異方性を上げる、誘電率異方性を上げる効果がある。上限温度および粘度は、化合物(1)に含まれる環数、式(1)におけるn1の数により調整が可能である。すなわち、n1が0の時、上限温度は下がるが粘度は下がり、n2が2の時、粘度は上がるが、上限温度は上がる。
化合物(2)は、主に液晶組成物の屈折率異方性を上げ、ネマチック相の温度範囲を拡げる効果がある。化合物(2)は、液晶組成物の下限温度および粘度を下げる能力が高い。
化合物(3)は、主に液晶組成物の屈折率異方性を上げ、ネマチック相の温度範囲を拡げる効果がある。化合物(3)は、液晶組成物の上限温度を上げる能力が高い。
【0042】
第三に、組成物における成分の組み合わせ、成分化合物の好ましい割合およびその根拠を説明する。組成物における成分の組み合わせは、化合物(1)+化合物(2)+化合物(3)である。
【0043】
液晶組成物の重量に基づいて、化合物(1)の好ましい割合は、誘電率異方性を上げため、そして屈折率異方性を上げるために約10重量%以上であり、ネマチック相の温度範囲を拡げるため、また粘度を下げるために約50重量%以下である。さらに好ましい割合は約10重量%から約45重量%の範囲である。特に好ましい割合は約10重量%から約40重量%の範囲である。
【0044】
液晶組成物の重量に基づいて、化合物(2)の好ましい割合は、屈折率異方性を上げながら、ネマチック相の温度範囲を拡げるために約25重量%以上であり、誘電率異方性を上げるために約70重量%以下である。さらに好ましい割合は約30重量%から約65重量%の範囲である。特に好ましい割合は約35重量%から約60重量%の範囲である。
【0045】
液晶組成物の重量に基づいて、化合物(3)の好ましい割合は、屈折率異方性を上げながら、ネマチック相の温度範囲を拡げるために約10重量%以上であり、誘電率異方性を上げるために約50重量%以下である。さらに好ましい割合は約15重量%から約40重量%の範囲である。特に好ましい割合は約15重量%から約35重量%の範囲である。
【0046】
第四に、成分化合物の好ましい形態を説明する。R1、R21、R22、R31、およびR32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH2-は、-O-で置き換えられていてもよく、好ましいR1、R21、R22、R31、またはR32は、紫外線または熱に対する安定性を上げるために、炭素数1から6のアルキルである。
【0047】
好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。
【0048】
好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
【0049】
好ましいアルケニルは、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルである。さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるために、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである。これらのアルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。これらのアルケニルにおいては、分岐よりも直鎖のアルケニルが好ましい。
【0050】
好ましいアルコキシアルキルは、-CH2OCH3、-CH2OC2H5、-CH2OC3H7、-(CH2)2-OCH3、-(CH2)2-OC2H5、-(CH2)2-OC3H7、-(CH2)3-OCH3、-(CH2)4-OCH3、または-(CH2)5-OCH3である。
【0051】
n1は、0、1、または2である。好ましいn1は、粘度を下げるために0であり、上限温度を上げるため、誘電率異方性を上げるため、および屈折率異方性を上げるために1または2である。
【0052】
Z11、Z21、Z23、およびZ31は、単結合、-CH=CH-または-C≡C-である。好ましいZ11、Z21、Z23、またはZ31は、粘度を下げるために単結合であり、屈折率異方性を上げるために-C≡C-である。Z12、Z13、Z32、およびZ33は、単結合、-C≡C-または-C≡C-C≡C-であるが、屈折率異方性を上げるためにZ12およびZ13のうちの少なくとも1つは単結合ではない。好ましいZ12、Z13、Z32、またはZ33は、粘度を下げるために単結合であり、屈折率異方性を上げるために-C≡C-または-C≡C-C≡C-である。Z22は、-C≡C-または-C≡C-C≡C-である。好ましいZ22は、屈折率異方性を上げるために-C≡C-C≡C-である。
【0053】
環A
1は、
、
、または
である。好ましい環A
1は、屈折率異方性を上げるために、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレンである。
【0054】
L11、L12、L13、L14、L15、およびL16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチルまたはシクロプロピルである。好ましいL11、L12、L13、L14、L15、またはL16は、相溶性を上げるために、フッ素、エチルまたはシクロプロピルである。L21、L22、L23、L31、L32、L33、L34、L35およびL36は、水素、フッ素、塩素、メチルまたはエチルである。好ましいL21、L22、L23、L31、L32、L33、L34、L35またはL36は、相溶性を上げるために、フッ素またはエチルである。L13およびL15、L14およびL16、L21およびL22、またはL33およびL35は、誘電率異方性が負となり、液晶組成物全体の誘電率異方性を小さくしてしまうため、同時にフッ素等でない方が好ましい。
【0055】
Y11およびY12は、水素、フッ素、または塩素である。好ましいY11またはY12は、誘電率異方性を上げるためにフッ素である。
【0056】
第五に、好ましい成分化合物を示す。好ましい化合物(1)は、化合物(1-2)から化合物(1-8)である。
【0057】
【0058】
これらの式において、R1は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH2-は、-O-で置き換えられていてもよく;Z11は、単結合、-CH=CH-または-C≡C-であり;L11、L12、L13、L14、L15、およびL16は、水素、フッ素、塩素、メチル、エチルまたはシクロプロピルであり;Y11およびY12は、水素、フッ素または塩素である。化合物(1)の少なくとも1つが、化合物(1-2)、化合物(1-3)、化合物(1-5)または化合物(1-7)であることが好ましい。
【0059】
好ましい化合物(2)は、化合物(2-1)から化合物(2-5)である。
【0060】
【0061】
これらの式において、R21およびR22は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH2-は、-O-で置き換えられていてもよく;L21、L22、およびL23は、水素、フッ素、塩素、メチルまたはエチルである。化合物(2)の少なくとも1つが、化合物(2-1)、化合物(2-2)または化合物(2-4)であることが好ましい。化合物(2)の少なくとも2つが、化合物(2-1)または化合物(2-2)のうちの1つと、化合物(2-4)の組み合わせであることが好ましい。
【0062】
好ましい化合物(3)は、化合物(3-1)から化合物(3-4)である。
【0063】
【0064】
これらの式において、R31およびR32は、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであり、該アルキルまたは該アルケニル中の少なくとも1つの-CH2-は、-O-で置き換えられていてもよく;L31、L32、L33、L34、L35、およびL36は、水素、フッ素、塩素、メチルまたはエチルである。化合物(3)の少なくとも1つが、化合物(3-1)、化合物(3-2)、または化合物(3-3)であることが好ましい。
【0065】
第六に、組成物に添加してもよい添加物を説明する。このような添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。以下において、これらの添加物の混合割合は、特に断らない場合は、液晶組成物の重量に基づく割合(重量)である。
【0066】
液晶のらせん構造を誘起してねじれ角を与える目的で光学活性化合物が組成物に添加される。このような化合物の例は、化合物(5-1)から化合物(5-6)である。光学活性化合物の好ましい割合は約5重量%以下である。さらに好ましい割合は約0.01重量%から約2重量%の範囲である。
【0067】
【0068】
大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するために、または素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するために、酸化防止剤が組成物に添加される。酸化防止剤の好ましい例は、tが1から9の整数である化合物(6)などである。
【0069】
化合物(6)において、好ましいtは、1、3、5、7、または9である。さらに好ましいtは7である。tが7である化合物(6)は、揮発性が小さいので、素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するのに有効である。酸化防止剤の好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないように約600ppm以下である。さらに好ましい割合は、約100ppmから約300ppmの範囲である。
【0070】
紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。立体障害のあるアミンのような光安定剤もまた好ましい。これらの吸収剤や安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないために約10000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0071】
紫外線および熱に対する安定剤の好ましい例は、化合物(7)で示すアミノ-トラン化合物などである(米国登録特許第6495066号)。
式(7)において、R
mおよびR
nは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニルまたは炭素数2から12のアルケニルオキシであり;X
aは、-NO
2、-C≡N、-N=C=S、フッ素、または-OCF
3であり;Y
aおよびY
bは、水素またはフッ素である。これらの安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために1~20重量%の範囲であり、好ましくは5~10重量%の範囲である。
【0072】
消光剤は、液晶性化合物が吸収した光エネルギーを受容し、熱エネルギーに変換することにより、液晶性化合物の分解を防止する化合物である。これらの消光剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、下限温度を下げるために約20000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0073】
GH(guest host)モードの素子に適合させるために、アゾ系色素、アントラキノン系色素などのような二色性色素(dichroic dye)が組成物に添加される。色素の好ましい割合は、約0.01重量%から約10重量%の範囲である。泡立ちを防ぐために、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどの消泡剤が組成物に添加される。消泡剤の好ましい割合は、その効果を得るために約1ppm以上であり、表示不良を防ぐために約1000ppm以下である。さらに好ましい割合は、約1ppmから約500ppmの範囲である。
【0074】
高分子安定化された素子に適合させるために重合性化合物が組成物に添加される。重合性化合物の好ましい例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。さらに好ましい例は、アクリレートまたはメタクリレートの誘導体である。重合性化合物の好ましい割合は、その効果を得るために、約0.05重量%以上であり、駆動温度の上昇を防ぐために約20重量%以下である。さらに好ましい割合は、約0.1重量%から約10重量%の範囲である。重合性化合物は紫外線照射により重合する。光重合開始剤などの開始剤の存在下で重合させてもよい。重合のための適切な条件、開始剤の適切なタイプ、および適切な量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。例えば光重合開始剤であるIrgacure651(登録商標;BASF)、Irgacure184(登録商標;BASF)、またはDarocure1173(登録商標;BASF)がラジカル重合に対して適切である。光重合開始剤の好ましい割合は、重合性化合物の重量100重量部に基づいて約0.1重量部から約5重量部の範囲である。さらに好ましい割合は、約1重量部から約3重量部の範囲である。
【0075】
重合性化合物を保管するとき、重合を防止するために重合禁止剤を添加してもよい。重合性化合物は、通常は重合禁止剤を除去しないまま組成物に添加される。重合禁止剤の例は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンのようなヒドロキノン誘導体、4-tert-ブチルカテコール、4-メトキシフェノ-ル、フェノチアジンなどである。
【0076】
極性化合物は、極性をもつ有機化合物である。ここでは、イオン結合を有する化合物は含まれない。酸素、硫黄、および窒素のような原子は、より電気的に陰性であり、部分的な負電荷をもつ傾向にある。炭素および水素は中性であるか、または部分的な正電荷をもつ傾向がある。極性は、化合物中の別種の原子間で部分電荷が均等に分布しないことから生じる。例えば、極性化合物は、-OH、-COOH、-SH、-NH2、>NH、>N-のような部分構造の少なくとも1つを有する。
【0077】
第七に、成分化合物の合成法を説明する。これらの化合物はオーガニック・シンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載された方法によって合成できる。組成物は、このようにして得た化合物から公知の方法によって調製される。例えば、成分化合物を混合し、そして加熱によって互いに溶解させる。
【0078】
最後に、組成物の用途を説明する。本発明の組成物は主として、約-10℃以下の下限温度、約70℃以上の上限温度、そして約0.20から約0.80の範囲の屈折率異方性を有する。成分化合物の割合を制御することによって、またはその他の液晶性化合物を混合することによって、約0.30から約0.60の範囲の屈折率異方性を有する組成物、さらには約0.40から約0.55の範囲の屈折率異方性を有する組成物を調製してもよい。この組成物は、ネマチック相を有する組成物としての使用、光学活性化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
【0079】
この組成物は、周波数1GHz~10THzの電磁波信号の位相制御に使用される素子への使用が可能である。応用例として例えば、ミリ波帯可変移相器、ライダー(LiDAR;Light Detection and Ranging)素子等が挙げられる。
【0080】
組成物の誘電率異方性は、素子の駆動電圧を低減するために大きい方が望ましい。誘電率異方性は好ましくは1~50の範囲であり、さらに好ましくは1~30の範囲である。
【実施例】
【0081】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。本発明は、実施例の組成物の少なくとも2つを混合した混合物をも含む。組成物の特性は、下記に記載した方法により測定した。
【0082】
測定方法:特性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association;以下JEITAという)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED-2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0083】
ネマチック相の上限温度(NI;℃):
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。
【0084】
ネマチック相の下限温度(TC;℃):
ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、TCを<-20℃と記載した。
【0085】
粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):
測定には東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いた。
【0086】
粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s):測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995)に記載された方法に従った。ツイスト角が0°であり、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5μmであるTN素子に試料を入れた。この素子に16Vから19.5Vの範囲で0.5V毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM. Imaiらの論文中の40頁記載の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算で必要な誘電率異方性の値は、この回転粘度を測定した素子を用い、下に記載した方法で求めた。
【0087】
屈折率異方性(Δn;25℃で測定):
測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。屈折率異方性の値は、Δn=n∥-n⊥、の式から計算した。
【0088】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):
2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(10V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥、の式から計算した。
【0089】
しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が0.45/Δn(μm)であり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に印加する電圧(32Hz、矩形波)は0Vから10Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が90%になったときの電圧で表した。
【0090】
比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm):
電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
【0091】
28GHzでの誘電率異方性(室温で測定):
28GHzでの誘電率異方性(Δε@28GHz)は、Applied Optics,Vol.44,No.7,p1150(2005)に開示された方法により、窓材を取り付けたVバンドの可変短絡導波管に液晶を充填し、0.3Tの静磁場内に3分保持した。導波管に28GHzのマイクロ波を入力し、入射波に対する反射波の振幅比を測定した。静磁場の向きと短絡器の管長を変えて測定し、屈折率(ne,no)および損失パラメーター(αe,αo)を決定した。
複素誘電率の算出には、前項で算出した屈折率、損失パラメータと以下の関係式を用いた。
ε’=n2-κ2
ε”=2nκ
α=2ωc/κ
ここでcは真空の光速度である。neからε’∥を、noからε’⊥を算出し、誘電率異方性(Δε@28GHz)は、ε’∥-ε’⊥から計算した。
【0092】
28GHzでのtanδ(室温で測定):
28GHzでのtanδは、複素誘電率(ε’,ε”)を用い、tanδ=ε”/ε’として計算した。tanδにも異方性が発現するため、値の大きい方を記載した。
【0093】
実施例における化合物は、表2の定義に基づいて記号により表した。記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)である。最後に、組成物の特性値をまとめた。
【0094】
【0095】
[比較例1] 液晶組成物C1
2-BTB-O1 (2-1) 6.8%
3-BTB-O1 (2-1) 6.8%
4-BTB-O1 (2-1) 6.8%
4-BTB-O2 (2-1) 6.8%
5-BTB-O1 (2-1) 6.8%
2-BB(F)B-5 (3-1) 6%
3-BB(F)B-5 (3-1) 2%
3-BB(F)TB-4 (3-2) 24%
3-H2BTB-4 (-) 6%
3-HB(F)TB-4 (-) 9%
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (-) 9%
3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F (-) 10%
NI=104.0℃;Tc<-30℃;Δn=0.280;Δε=4.2.
液晶組成物C1の28GHzでの誘電率異方性およびtanδは以下の通りであった。
Δε@28GHz =0.65
tanδ@28GHz =0.014
【0096】
[実施例1] 液晶組成物1
4-BTB(F)-NCS (1-2) 10%
5-BTB(F)-NCS (1-2) 10%
2-BTB-O1 (2-1) 2.4%
3-BTB-O1 (2-1) 2.4%
4-BTB-O1 (2-1) 2.4%
4-BTB-O2 (2-1) 2.4%
5-BTB-O1 (2-1) 2.4%
3-BTTB-4 (2-4) 5%
3-BTTB-5 (2-4) 5%
3-BTTB-O1 (2-4) 10%
5-BTTB-O1 (2-4) 10%
3-BB(F)TB-4 (3-2) 20%
2-BTB(F)TB-5 (3-3) 8%
3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F (-) 10%
NI=125.3℃;Tc<-20℃;Δn=0.379;Δε=5.0.
液晶組成物1の28GHzでの誘電率異方性およびtanδは以下の通りであった。
Δε@28GHz =0.87
tanδ@28GHz =0.015
【0097】
[実施例2] 液晶組成物2
5-B(Et)TB(F,F)-NCS (1-2) 13%
2-BTB-O1 (2-1) 3.8%
3-BTB-O1 (2-1) 3.8%
4-BTB-O1 (2-1) 3.8%
4-BTB-O2 (2-1) 3.8%
5-BTB-O1 (2-1) 3.8%
3-BTTB-4 (2-4) 5%
3-BTTB-5 (2-4) 5%
3-BTTB-O1 (2-4) 10%
5-BTTB-O1 (2-4) 10%
3-BB(F)TB-4 (3-2) 16%
2-BTB(F)TB-5 (3-3) 8%
5-BTB(F)TB-2 (3-3) 4%
3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F (-) 10%
NI=122.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.383;Δε=5.0.
液晶組成物2の28GHzでの誘電率異方性およびtanδは以下の通りであった。
Δε@28GHz =0.89
tanδ@28GHz =0.014
【0098】
[実施例3] 液晶組成物3
4-BTB(F)-NCS (1-2) 10%
5-BTB(F)-NCS (1-2) 10%
5-BBTB(F)-NCS (1-5) 10%
2-BTB-O1 (2-1) 3.2%
3-BTB-O1 (2-1) 3.2%
4-BTB-O1 (2-1) 3.2%
4-BTB-O2 (2-1) 3.2%
5-BTB-O1 (2-1) 3.2%
3-BTTB-4 (2-4) 5%
3-BTTB-5 (2-4) 5%
3-BTTB-O1 (2-4) 10%
5-BTTB-O1 (2-4) 10%
3-BB(F)TB-4 (3-2) 16%
2-BTB(F)TB-5 (3-3) 8%
NI=127.5℃;Tc<-20℃;Δn=0.416;Δε=4.2.
液晶組成物3の28GHzでの誘電率異方性およびtanδは以下の通りであった。
Δε@28GHz =0.96
tanδ@28GHz =0.016
【0099】
[実施例4] 液晶組成物4
5-BTB(F)-NCS (1-2) 10%
5-BTTB(F)-NCS (1-3) 10%
2-BTB-O1 (2-1) 4.6%
3-BTB-O1 (2-1) 4.6%
4-BTB-O1 (2-1) 4.6%
4-BTB-O2 (2-1) 4.6%
5-BTB-O1 (2-1) 4.6%
3-BTTB-4 (2-4) 5%
3-BTTB-5 (2-4) 5%
3-BTTB-O1 (2-4) 10%
5-BTTB-O1 (2-4) 10%
3-BB(F)TB-4 (3-2) 14%
2-BTB(F)TB-5 (3-3) 8%
5-BTTB(F,F)-C (-) 5%
NI=119.5℃;Tc<-20℃;Δn=0.403;Δε=4.3.
液晶組成物4の28GHzでの誘電率異方性およびtanδは以下の通りであった。
Δε@28GHz =0.93
tanδ@28GHz =0.016
【0100】
比較例と比べると、28GHzでのtanδは同程度に小さく、Δεが非常に大きい液晶組成物を調製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の液晶組成物は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、低い粘度、位相制御に使用される周波数領域での大きな誘電率異方性、位相制御に使用される周波数領域での小さなtanδを有する。この組成物を含有する素子は、広い温度範囲で、周波数1GHz~10THzの電磁波信号の位相制御に使用することができる。