(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】エンジンのシリンダヘッド構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20240521BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F02F1/42 F
F02F1/24 H
F02F1/24 J
F02F1/42 K
(21)【出願番号】P 2020208618
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中原 康志
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-103069(JP,A)
【文献】特開2010-084603(JP,A)
【文献】特開2015-227636(JP,A)
【文献】特開2004-270652(JP,A)
【文献】特開2011-052588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0010890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列方向に並んだ複数の気筒を有する多気筒エンジンのシリンダヘッド構造であって、
前記シリンダヘッドは、前記複数の気筒それぞれに対応して設けられかつ、燃焼室の一部を形成する複数の天井部と、前記シリンダヘッドの内部に形成されたウォータジャケットと、を有し、
前記複数の天井部のそれぞれには、前記列方向に並んだプライマリポートとセカンダリポートとを含む吸気ポートが接続されると共に、気筒内の圧力変動を計測する筒内圧センサが前記気筒内を臨むように取り付けられ、
前記シリンダヘッドには、前記ウォータジャケットの成形用中子に設けられた巾木に対応する空洞部にプラグが取り付けられ、前記プラグは、前記複数の気筒における、特定の気筒間に相当する位置に配設され、
前記プラグに隣接する気筒の前記天井部に取り付けられる前記筒内圧センサは、前記列方向に対して、前記気筒の中心軸を挟んで前記プラグとは逆側の位置に取り付けられ、
前記複数の天井部それぞれに接続される前記プライマリポートと前記セカンダリポートとは、当該天井部に取り付けられた前記筒内圧センサの位置に応じて、前記列方向に位置が入れ替わっている
エンジンのシリンダヘッド構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのシリンダヘッド構造において、
前記シリンダヘッドは、前記シリンダヘッドの内部に形成されたオイルジャケットを有し、
前記巾木は、前記気筒の中心軸の方向に重なり合う、前記ウォータジャケットの成形用中子と前記オイルジャケットの成形用中子との相対位置を定める巾木であり、
前記プラグは、前記シリンダヘッドにおいて、前記列方向に、複数、配設されている
エンジンのシリンダヘッド構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンのシリンダヘッド構造において、
前記天井部における、前記気筒の中心部には、前記気筒内の混合気に点火する点火プラグが取り付けられている
エンジンのシリンダヘッド構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンのシリンダヘッド構造において、
前記天井部における、前記プライマリポートと前記セカンダリポートとの間には、前記気筒内へ燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている
エンジンのシリンダヘッド構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンのシリンダヘッド構造において、
前記筒内圧センサに対して近い吸気ポートはセカンダリポートであり、前記筒内圧センサに対して遠い吸気ポートはプライマリポートであり、
前記気筒内には、前記プライマリポートから流入した吸気が、前記気筒のライナを半周して前記筒内圧センサに到達する向きのスワール流が形成される
エンジンのシリンダヘッド構造。
【請求項6】
請求項1~4いずれか1項に記載のエンジンのシリンダヘッド構造において、
前記筒内圧センサに対して近い吸気ポートはプライマリポートであり、前記筒内圧センサに対して遠い吸気ポートはセカンダリポートであり、
前記気筒内には、前記プライマリポートから流入した吸気が、前記気筒のライナを一周して前記筒内圧センサに戻る向きのスワール流が形成される
エンジンのシリンダヘッド構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、エンジンのシリンダヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多気筒エンジンの吸気ポート構造が記載されている。吸気ポートは、プライマリポートとセカンダリポートとを有している。プライマリポート及びセカンダリポートは、複数の気筒のそれぞれに接続されている。各気筒において、プライマリポートとセカンダリポートとは、気筒列の方向に並んでいる。つまり、プライマリポートは、気筒の中心軸よりも気筒列方向の一側に位置し、セカンダリポートは、気筒の中心軸よりも気筒列方向の他側に位置する。特許文献1の多気筒エンジンにおいて、プライマリポートとセカンダリポートとの並びは、複数の気筒について同じである。
【0003】
プライマリポートとセカンダリポートとは形状が異なり、それによって、各気筒内には所定の吸気流動が形成される。例えば、プライマリポートから流入した吸気が、気筒のライナに沿って、排気ポートの方へ流れた後に、プライマリポートに戻る向きのスワール流が、各気筒内に形成される。
【0004】
特許文献2には、別の構成の多気筒エンジンが記載されている。この多気筒エンジンは、プライマリポートとセカンダリポートとのうちの、セカンダリポートにのみ、スワールコントロール弁が配設されている。スワールコントロール弁が閉弁すると、セカンダリポートを通じた吸気の流量が相対的に減る。スワールコントロール弁が閉弁すると、プライマリポートから流入した吸気が、気筒のライナを一周してプライマリポートに戻る向きの、強いスワール流が、各気筒内に形成される。
【0005】
特許文献2に記載された多気筒エンジンにはまた、各気筒に筒内圧センサが取り付けられている。筒内圧センサは、気筒内の圧力変化を計測する。筒内圧センサの計測結果に基づいて、各気筒における燃焼状態が把握される。特許文献2に記載された多気筒エンジンにおいて、筒内圧センサは、各気筒の中心軸に沿う方向に配設されて、シリンダヘッドに取り付けられている。複数の気筒間における計測ずれを避けるために、筒内圧センサの取り付け位置は、複数の気筒において一定にする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/158951号
【文献】特許第6558404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多気筒エンジンのシリンダヘッドの製造時に必要となる、ウォータジャケットの成形用中子の巾木が、複数の気筒における特定の気筒間に配置される場合がある。製造後のシリンダヘッドにおいて、巾木が配置されていた位置は空洞部になる。当該空洞部には、例えばプラグが取り付けられる。プラグは空洞部を塞ぎ、ウォータジャケットの一部を形成する。
【0008】
ここで、筒内圧センサとプラグとの干渉を避けるため、筒内圧センサの取付位置は、列方向に対して、気筒の中心軸を挟んでプラグとは逆側の位置にしなければならない。ところが、筒内圧センサとプラグとの干渉を避けようとすれば、筒内圧センサの取り付け位置が、複数の気筒間において一定にならなくなる。筒内圧センサの取り付け位置が、複数の気筒間において異なると、複数の気筒間において、筒内圧センサの計測ずれが生じる恐れがある。
【0009】
ここに開示する技術は、多気筒エンジンにおいて、複数の気筒それぞれに取り付けられた筒内圧センサの、気筒間における計測ずれを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに開示する技術は、各気筒に対する筒内圧センサの取り付け位置を、当該気筒における吸気流動の向きに対して所定の位置となるように定め、吸気流動の向きと筒内圧センサの取り付け位置との関係を、複数の気筒間において同じにした。
【0011】
具体的に、ここに開示する技術は、列方向に並んだ複数の気筒を有する多気筒エンジンのシリンダヘッド構造に係る。
【0012】
前記シリンダヘッドは、前記複数の気筒それぞれに対応して設けられかつ、燃焼室の一部を形成する複数の天井部と、前記シリンダヘッドの内部に形成されたウォータジャケットと、を有し、
前記複数の天井部のそれぞれには、前記列方向に並んだプライマリポートとセカンダリポートとを含む吸気ポートが接続されると共に、気筒内の圧力変動を計測する筒内圧センサが前記気筒内を臨むように取り付けられ、
前記シリンダヘッドには、前記ウォータジャケットの成形用中子に設けられた巾木に対応する空洞部にプラグが取り付けられ、前記プラグは、前記複数の気筒における、特定の気筒間に相当する位置に配設され、
前記プラグに隣接する気筒の前記天井部に取り付けられる前記筒内圧センサは、前記列方向に対して、前記気筒の中心軸を挟んで前記プラグとは逆側の位置に取り付けられ、
前記複数の天井部それぞれに接続される前記プライマリポートと前記セカンダリポートとは、当該天井部に取り付けられた前記筒内圧センサの位置に応じて、前記列方向に位置が入れ替わっている。
【0013】
この構成によると、シリンダヘッドの内部には、ウォータジャケットが形成されていると共に、複数の気筒それぞれに対して筒内圧センサが取り付けられている。
【0014】
シリンダヘッドの内部にはまた、シリンダヘッドの製造時に用いられる、ウォータジャケットの成形用中子の巾木に対応する空洞部が形成されている。シリンダヘッドには、空洞部を塞ぐプラグが取り付けられている。プラグは、複数の気筒における特定の気筒間に相当する位置に配設される。
【0015】
筒内圧センサは、プラグとの干渉を避けてシリンダヘッドに取り付けられている。具体的に、プラグに隣接する気筒の天井部に取り付けられる筒内圧センサは、列方向に対して、気筒の中心軸を挟んでプラグとは逆側の位置に取り付けられる。このため、筒内圧センサの取り付け位置は、複数の気筒間で一定にならない。
【0016】
各気筒に対して、プライマリポートとセカンダリポートとが接続されている。プライマリポートとセカンダリポートとは、列方向に並んでいる。プライマリポートから気筒内へ流入する吸気と、セカンダリポートから気筒内へ流入する吸気とによって、気筒内の流動状態が定まる。
【0017】
そして、前記の構成のシリンダヘッド構造では、複数の天井部それぞれに接続されるプライマリポートとセカンダリポートは、当該天井部に取り付けられた筒内圧センサの位置に応じて、列方向にその位置が入れ替わっている。つまり、筒内圧センサの取り付け位置を基準にして、プライマリポートとセカンダリポートとの天井部に対する接続位置が定まる。筒内圧センサの取り付け位置を基準にした、プライマリポート及びセカンダリポートの相対位置は、複数の気筒間で一定である。その結果、気筒内に形成される吸気流動の向と筒内圧センサの位置との関係は、複数の気筒間において一定になる。前記の構成の多気筒エンジンにおいて、複数の気筒それぞれに取り付けられた筒内圧センサの、気筒間における計測ずれを抑制される。
【0018】
前記シリンダヘッドは、前記シリンダヘッドの内部に形成されたオイルジャケットを有し、
前記巾木は、前記気筒の中心軸の方向に重なり合う、前記ウォータジャケットの成形用中子と前記オイルジャケットの成形用中子との相対位置を定める巾木であり、
前記プラグは、前記シリンダヘッドにおいて、前記列方向に、複数、配設されている、としてもよい。
【0019】
前記の構成によると、巾木に対応する位置に設けられるプラグが、シリンダヘッドにおいて、列方向に複数、配設される。このため、シリンダヘッドの製造時には、巾木も、列方向に複数、配設される。巾木は、気筒の中心軸の方向に重なりあった二つの中子の相対位置を定める巾木であり、巾木が列方向に複数、設けられることにより、シリンダヘッドの鋳造時に、ウォータジャケットの成形用中子及びオイルジャケットの成形用中子が、安定的に金型内に配置される。前述した構成は、シリンダヘッドの品質向上に有利になる。
【0020】
そして、鋳造後のシリンダヘッドにおいて、列方向に複数、配設されたプラグに対応して、各プラグと干渉しないように筒内圧センサが配設される。筒内圧センサの取り付け位置は、複数の気筒間で変化し、それに伴い、プライマリポートとセカンダリポートとの並びも、複数の気筒間で変化する。
【0021】
前記天井部における、前記気筒の中心部には、前記気筒内の混合気に点火する点火プラグが取り付けられている、としてもよい。
【0022】
こうすることで、点火プラグと筒内圧センサとは、干渉を避けて、各気筒に対して取り付けられる。また、点火プラグを気筒の中心部に設けることにより、気筒内の中心部から外周部へ火炎を伝播させることができるから、多気筒エンジンの燃費の向上にも有利になる。
【0023】
前記天井部における、前記プライマリポートと前記セカンダリポートとの間には、前記気筒内へ燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている、としてもよい。
【0024】
こうすることで、インジェクタと筒内圧センサとは、干渉を避けて、各気筒に対して取り付けられる。また、インジェクタから気筒内へ噴射された燃料は、プライマリポート及びセカンダリポートから気筒内へ流入した吸気によって気筒内へ拡散される。多気筒エンジンの燃費の向上、及び、排出ガス性能の向上にも有利になる。
【0025】
前記筒内圧センサに対して近い吸気ポートはセカンダリポートであり、前記筒内圧センサに対して遠い吸気ポートはプライマリポートであり、
前記気筒内には、前記プライマリポートから流入した吸気が、前記気筒のライナを半周して前記筒内圧センサに到達する向きのスワール流が形成される、としてもよい。
【0026】
こうすることで、スワール流に乗って広がる火炎が、ライナを半周して成長した後に、筒内圧センサの付近に到達する。筒内圧センサは、気筒内の燃焼状態を精度良く計測できる。
【0027】
前記筒内圧センサに対して近い吸気ポートはプライマリポートであり、前記筒内圧センサに対して遠い吸気ポートはセカンダリポートであり、
前記気筒内には、前記プライマリポートから流入した吸気が、前記気筒のライナを一周して前記筒内圧センサに戻る向きのスワール流が形成される、としてもよい。
【0028】
こうすることで、スワール流に乗って広がる火炎が、ライナを一周して成長した後に、筒内圧センサの付近に到達する。筒内圧センサは、気筒内の燃焼状態を精度良く計測できる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、前記のエンジンのシリンダヘッド構造によると、複数の気筒それぞれに取り付けられた筒内圧センサの、気筒間における計測ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、シリンダヘッド構造を例示する図である。
【
図2】
図2は、シリンダヘッドの断面を例示する斜視図である。
【
図3】
図3は、ウォータジャケットの成形用中子とオイルジャケットの成形用中子とを側方から見た図である。
【
図4】
図4は、ウォータジャケットの成形用中子とオイルジャケットの成形用中子とを例示する分解斜視図である。
【
図5】
図5は、変形例に係るシリンダヘッド構造を例示する
図1対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、エンジンのシリンダヘッド構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するシリンダヘッド構造は例示である。
図1及び
図2は、シリンダヘッド構造を例示する図である。
図2は、エンジンの気筒の中心軸を通る、シリンダヘッド1の縦断面を示す斜視図である。
図1には、(1)シリンダヘッド1の前記の縦断面を示す
図101、(2)シリンダヘッド1が有する天井部11及び吸気ポート2の形状を示す平面
図102、及び、(3)シリンダヘッド1の横断面
図103(
図2のI-I参照)を含んでいる。
【0032】
エンジンは、複数の気筒を有する多気筒エンジンである。より詳細に、エンジンは、6個の気筒を有する6気筒エンジンである。6個の気筒は、図示を省略するクランク軸の方向に一列に並んでいる。直列の6気筒エンジンであるこのエンジンは、クランク軸の方向の長さが比較的長い。エンジンは、図示は省略するが、エンジンルーム内に、いわゆる縦置きに配置される。尚、
図2における紙面左手前はフロント側であり、紙面右奥側はリア側である。
【0033】
以下において、クランク軸の方向をX方向と呼び、X方向に直交する方向をY方向及びZ方向と呼ぶ(
図1参照)。X方向は、気筒列の方向に対応し、Y方向は、エンジンの吸気側と排気側とを結ぶ方向に対応し、Z方向は、気筒の中心軸の方向に対応する。また、X方向に並んだ6個の気筒について、フロント側からリア側に向かって、第1気筒、第2気筒、第3気筒、第4気筒、第5気筒及び第6気筒と呼ぶ場合がある。
【0034】
シリンダヘッド1は、図示省略のシリンダブロックの上に載置される。シリンダブロックには、6個の気筒が形成されている。シリンダヘッド1は、各気筒に対応する天井部11を有している。天井部11は、各気筒の一端部を塞ぐ。天井部11は、気筒及び気筒に内挿されたピストン(図示省略)と共に、燃焼室を形成する。天井部11は、
図1の横断面
図103に例示するように、Y方向について斜めに傾斜した、いわゆるペントルーフ形状を有している。各天井部11において、傾斜した面同士が合わさる稜線は、各気筒の中心部において、X方向に延びている。
【0035】
シリンダヘッド1はまた、複数の吸気ポート2、及び、図示を省略する複数の排気ポートを有している。吸気ポート2及び排気ポートは、複数の気筒それぞれに接続されている。吸気ポート2は、シリンダヘッド1において、気筒の中心軸を挟んだY方向の一側(つまり、
図1の平面
図102における下側)に設けられ、斜めに傾斜した天井面に接続されている。排気ポートは、シリンダヘッド1において、気筒の中心軸を挟んだY方向の他側(つまり、
図1の平面
図102における上側)に設けられ、斜めに傾斜した天井面に接続されている。エンジンは、吸気及び排気がY方向の一方向に流れるクロスフロー式である。
【0036】
一つの気筒に接続される吸気ポート2は、プライマリポート21及びセカンダリポート22を含んでいる。プライマリポート21及びセカンダリポート22は、X方向に並んでいる。プライマリポート21及びセカンダリポート22から気筒内に流入した吸気により、気筒内の所定の流動が形成されるように、プライマリポート21及びセカンダリポート22は、互いに形状が異なっている。
【0037】
また、図示は省略するが、セカンダリポート22に接続される吸気通路には、スワールコントロール弁が配設されている。プライマリポート21に接続される吸気通路には、スワールコントロール弁が配設されていない。スワールコントロール弁が閉じると、セカンダリポート22から気筒内に流入する吸気が制限され、プライマリポート21から気筒内に流入する吸気が相対的に増える。その結果、気筒内には、所定方向、具体的には、プライマリポート21から流入した吸気が気筒のライナに沿って排気ポートの方へ流れた後に、プライマリポート21に戻ってくる向きに旋回するスワール流が発生する。スワールコントロール弁の開度が調整されることにより、気筒内に形成されるスワール流の強さが調整される。尚、スワールコントロール弁は、省略される場合がある。スワールコントロール弁を有しないエンジンにおいても気筒内に、所定の向きのスワール流が発生するように、プライマリポート21及びセカンダリポート22を設けることができる。
【0038】
尚、複数の気筒間におけるプライマリポート21及びセカンダリポート22の配置については、後で詳述する。
【0039】
シリンダヘッド1には、点火プラグ31が取り付けられている。点火プラグ31は、気筒の混合気に強制点火をする。点火プラグ31は、複数の天井部11のそれぞれに取り付けられている。より詳細に、点火プラグ31は、Z方向に沿うように配設されている。天井部11には、
図1の平面
図102又は
図2に示すように、点火プラグ31が取り付けられる第1取付部51が設けられている。第1取付部51は、天井部11における中心部に設けられている。点火プラグ31の電極部は、気筒の中心部において気筒内に臨んでいる。点火プラグ31を気筒の中心部に設けることにより、気筒内の中心部から外周部へ火炎を伝播させることができるから、多気筒エンジンの燃費の向上に有利になる。
【0040】
シリンダヘッド1には、インジェクタ32が取り付けられている。インジェクタ32は、気筒内に燃料を噴射する。インジェクタ32は、プライマリポート21とセカンダリポート22との間に配設されている。より詳細に、インジェクタ32は、Z方向に対し傾いて配設されている。
図1の平面
図102に示すように、天井部11における、プライマリポート21とセカンダリポート22との間の位置には、インジェクタ32が取り付けられる第2取付部52が設けられている。インジェクタ32の噴射孔は、気筒の吸気側において気筒内に臨んでいる。インジェクタ32から気筒内へ噴射された燃料は、プライマリポート21及びセカンダリポート22から気筒内へ流入した吸気によって気筒内へ拡散される。このことは、多気筒エンジンの燃費の向上、及び、排出ガス性能の向上に有利である。
【0041】
尚、
図1及び
図2に示す点火プラグ31及びインジェクタ32の配設構造は一例である。例えば点火プラグ31の配設位置と、インジェクタ32の配設位置とを入れ替えてもよい。また、点火プラグ31及びインジェクタ32の両方を、天井部11における中心部に取り付けてもよい。
【0042】
シリンダヘッド1には、筒内圧センサ33が取り付けられている。筒内圧センサ33は、気筒内の圧力変化を計測する。気筒内の燃焼状態が、筒内圧センサ33の計測信号に基づいて把握できる。より詳細に、筒内圧センサ33は、Z方向に沿うように配設されている。
図1の平面
図102及び
図2に示すように、天井部11における稜線上には、筒内圧センサ33のセンシング部が取り付けられる第3取付部53が設けられている。筒内圧センサ33のセンシング部は、稜線上において、気筒内に臨んでいる。筒内圧センサ33は、複数の天井部11のそれぞれについて、気筒の中心部を挟んだX方向の一側又は他側に配設されている。筒内圧センサ33の配設位置に関しては、後で詳述する。
【0043】
シリンダヘッド1の内部には、ウォータジャケット12及びオイルジャケット13が形成されている。冷却水は、ウォータジャケット12内を流れる。潤滑油は、オイルジャケット13内を流れる。
【0044】
ウォータジャケット12は、シリンダヘッド1内において、天井部11の上側に設けられている。ウォータジャケット12は、X方向に延びている。オイルジャケット13は、ウォータジャケット12の上側に設けられている。オイルジャケット13も、X方向に延びている。
【0045】
シリンダヘッド1は、鋳造により製造される。ウォータジャケット12及びオイルジャケット13は、中子によって形成される。
図3及び
図4は、ウォータジャケットの成形用中子である第1中子41と、オイルジャケットの成形用中子である第2中子42とを例示している。第1中子41及び第2中子42は共に、X方向に延びる所定の形状を有している。
図3に例示するように、シリンダヘッド1の鋳造時に、第2中子42は、第1中子41に載置される。第1中子41は、複数の巾木43を有している。各巾木43は、第1中子41の本体44から、上向きに突出して形成されている。複数の巾木43は、第2中子を支持すると共に、
図4に矢印で示すように、第1中子41と第2中子42との相対位置を規制する。
【0046】
複数の巾木43は、X方向に延びる第1中子41において、X方向に均等又は略均等に配置されている。具体的に、第1中子41は3つの巾木43を有している。3つの巾木43はそれぞれ、鋳造後のシリンダヘッド1における、第1気筒と第2気筒との間に相当する位置、第3気筒と第4気筒との間に相当する位置、及び、第5気筒と第6気筒との間に相当する位置に位置する。例えば第1気筒のフロント側、又は、第6気筒のリア側に、中子を配置することができない。複数の巾木43を、X方向に均等又は略均等に配置することによって、第2中子42は安定的に第1中子41に支持されると共に、第1中子41と第2中子との間の位置精度も向上する。前述したように、エンジンは、直列6気筒エンジンであって、シリンダヘッド1は、X方向に長い。複数の巾木43を、X方向に均等又は略均等に配置することは、X方向に長いシリンダヘッド1において、ウォータジャケット12及びオイルジャケット13の形成精度を高める。シリンダヘッド1の製造品質が向上する。
【0047】
図2に示すように、鋳造後のシリンダヘッド1において、巾木43に対応する箇所は空洞部15を構成する。空洞部15は、ウォータジャケット12とオイルジャケット13とを連通させる。
図1の縦断面
図101に例示するように、空洞部15にはブラインドプラグ16が取り付けられる。ブラインドプラグ16は、空洞部15を塞ぐ。ブラインドプラグ16は、ウォータジャケット12の一部を形成すると共に、オイルジャケット13の一部を形成する。ブラインドプラグ16は、3つの巾木43のそれぞれに対応するため、シリンダヘッド1において、第1気筒と第2気筒との間に相当する位置、第3気筒と第4気筒との間に相当する位置、及び、第5気筒と第6気筒との間に相当する位置のそれぞれに配置されている。
【0048】
前述した筒内圧センサ33は、ブラインドプラグ16との干渉を避けるように配設されている。具体的に、ブラインドプラグ16に隣接する第1気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるフロント側に、筒内圧センサ33は配置されている。ブラインドプラグ16に隣接する第2気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるリア側に、筒内圧センサ33は配置されている。
【0049】
同様に、第3気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるフロント側に、筒内圧センサ33は配置され、第4気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるリア側に、筒内圧センサ33は配置されている。
【0050】
同様に、第5気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるフロント側に、筒内圧センサ33は配置され、第6気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるリア側に、筒内圧センサ33は配置されている。
【0051】
従って、第1、第3、及び、第5気筒においては、筒内圧センサ33はフロント側に配置され、第2、第4、及び、第6気筒においては、筒内圧センサ33はリア側に配置されている。
【0052】
前述したように、各気筒における流動状態、例えばスワール流の旋回方向は、プライマリポート21とセカンダリポート22との並びによって定まる。仮に、複数の気筒の全てについて、プライマリポート21とセカンダリポート22との、X方向の並びが同じであって、複数の気筒の全てについて、スワール流の旋回方向が同じであるとすれば、複数の気筒の間で筒内圧センサ33の位置が相違しているため、筒内圧センサ33の位置とスワール流の旋回方向との関係が、複数の気筒の間で相違することになる。筒内圧センサ33の計測条件が複数の気筒の間で一致しないため、複数の気筒の間で、筒内圧センサ33の計測ずれが生じる可能性がある。
【0053】
そこで、このエンジンのシリンダヘッド構造では、複数の気筒について、プライマリポートとセカンダリポートとの位置を、筒内圧センサ33の位置に応じて、X方向に入れ替えている。
【0054】
具体的に、第1気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第2気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。第3気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第4気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。第5気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第6気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。
【0055】
従って、全ての気筒について、筒内圧センサ33に対して近い吸気ポート2はセカンダリポート22であり、筒内圧センサ33に対して遠い吸気ポート2はプライマリポート21である。
図1に矢印で示すように、各気筒内には、プライマリポート21から流入した吸気が、気筒のライナを半周して筒内圧センサ33に到達する向きのスワール流が形成される。
【0056】
筒内圧センサ33の位置とスワール流の旋回方向との関係が、複数の気筒の間で一致し、それによって、筒内圧センサ33の計測条件が複数の気筒の間で一致するため、複数の気筒の間での、筒内圧センサ33の計測ずれが抑制される。
【0057】
また、スワール流に乗って広がる火炎が、ライナを半周して成長した後に、筒内圧センサ33の付近に到達する。各筒内圧センサ33は、各気筒内の燃焼状態を精度良く計測できる。
【0058】
尚、図示は省略するが、変形例として、各気筒において、プライマリポート21とセカンダリポート22との並びを入れ替えてもよい。つまり、第1気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置し、第2気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置し、第3気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置し、第4気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置し、第5気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置し、第6気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置してもよい。
【0059】
この変形例においても、筒内圧センサ33の位置とスワール流の旋回方向との関係が、複数の気筒の間で一致し、それによって、筒内圧センサ33の計測条件が複数の気筒の間で一致するため、複数の気筒の間での、筒内圧センサ33の計測ずれが抑制される。
【0060】
また、この変形例では、スワール流に乗って広がる火炎が、ライナを一周して成長した後に、筒内圧センサ33の付近に到達する。各筒内圧センサ33は、各気筒内の燃焼状態を精度良く計測できる。
【0061】
図5は、シリンダヘッド構造の、別の変形例を示している。この変形例は、第1中子41の巾木43の位置が相違する。それにより、シリンダヘッド10におけるブラインドプラグ16の位置が、
図1の構成例とは相違する。
【0062】
より詳細に、
図5の縦断面
図501及び平面
図502に示すように、シリンダヘッド10において、ブラインドプラグ16は、第2気筒と第3気筒との間、及び、第4気筒と第5気筒との間に配設されている。図示は省略するが、ウォータジャケットの成形用中子である第1中子41は、2つの巾木43を有している。
【0063】
図5のシリンダヘッド10において、ブラインドプラグ16に隣接する第2気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるフロント側に、筒内圧センサ33は配置され、第3気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるリア側に、筒内圧センサ33は配置されている。同様に、ブラインドプラグ16に隣接する第4気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるフロント側に、筒内圧センサ33は配置され、第5気筒については、X方向に対して、気筒の中心軸を挟んでブラインドプラグ16とは逆側であるリア側に、筒内圧センサ33は配置されている。尚、ブラインドプラグ16に隣接しない第1気筒については、ブラインドプラグ16と干渉しないため、フロント側及びリア側のいずれにも配置可能である。図例では、筒内圧センサ33は、フロント側に配置されている。また、第6気筒も、ブラインドプラグ16に隣接しない気筒であるため、筒内圧センサ33は、フロント側及びリア側のいずれにも配置可能である。図例では、筒内圧センサは、リア側に配置されている。
【0064】
そして、このエンジンのシリンダヘッド構造でも、複数の気筒について、プライマリポートとセカンダリポートとの位置を、筒内圧センサ33の位置に応じて、X方向に入れ替えている。
【0065】
具体的に、第1気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第2気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第3気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。第4気筒については、プライマリポート21をリア側に、セカンダリポート22をフロント側に配置している。第5気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。第6気筒については、プライマリポート21をフロント側に、セカンダリポート22をリア側に配置している。
【0066】
従って、全ての気筒について、筒内圧センサ33に対して近い吸気ポート2はセカンダリポート22であり、筒内圧センサ33に対して遠い吸気ポート2はプライマリポート21である。筒内圧センサ33の計測条件が複数の気筒の間で一致するため、複数の気筒の間での、筒内圧センサ33の計測ずれが抑制される。
【0067】
尚、
図5のシリンダヘッド10において、各気筒におけるプライマリポート21とセカンダリポート22との並びを、図例とは反転させてもよい。
【0068】
さらに、第1中子41が二つの巾木43を有する場合、その二つの巾木43の位置は、様々なバリエーションが考えられる。例えば、図示は省略するが、二つの巾木43は、第1気筒と第2気筒との間に対応する位置、及び、第5気筒と第6気筒との間に対応する位置に設けてもよい。また、二つの巾木43は、第1気筒と第2気筒との間に対応する位置、及び、第3気筒と第4気筒との間に対応する位置に設けてもよい。また、二つの巾木43は、第2気筒と第3気筒との間に対応する位置、及び、第5気筒と第6気筒との間に対応する位置に設けてもよい。
【0069】
いずれの配置例においても、筒内圧センサ33は、ブラインドプラグ16と干渉しないように、各気筒について、X方向のフロント側又はリア側に取り付けられ、プライマリポート21及びセカンダリポート22は、筒内圧センサ33の取り付け位置に応じて、X方向について入れ替わっている。
【0070】
尚、ここに開示する技術は、直列6気筒エンジンのシリンダヘッドに適用することに限らず、例えば直列4気筒エンジンを含む、直列の多気筒エンジンのシリンダヘッドに適用することが可能である。ここに開示する技術は、複数の気筒が並んだエンジンのシリンダヘッドについて、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 シリンダヘッド
10 シリンダヘッド
11 天井部
12 ウォータジャケット
13 オイルジャケット
16 ブラインドプラグ
2 吸気ポート
21 プライマリポート
22 セカンダリポート
31 点火プラグ
32 インジェクタ
33 筒内圧センサ
41 第1中子(ウォータジャケットの成形用中子)
42 第2中子(オイルジャケットの成形用中子)
43 巾木