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特許7491215エポキシ樹脂組成物、中間基材および繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、中間基材および繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240521BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240521BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240521BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240521BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L51/04
C08L53/00
C08K5/55
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020527131
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2020014989
(87)【国際公開番号】W WO2020217894
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019083826
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019083827
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小西 大典
(72)【発明者】
【氏名】山北 雄一
(72)【発明者】
【氏名】英 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
(72)【発明者】
【氏名】都築 正博
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109370496(CN,A)
【文献】特開平03-190920(JP,A)
【文献】特開昭52-024287(JP,A)
【文献】特表2011-515546(JP,A)
【文献】特開2019-059911(JP,A)
【文献】特開2007-031526(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181802(WO,A1)
【文献】特開2003-240127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08L 51/04
C08L 53/00
C08K 5/55
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件2を満たすエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂組成物を150℃で60分反応させて得られる樹脂硬化物の引張破断伸度が7%以上、20%以下であるエポキシ樹脂組成物。
条件2:次の成分[D]、[E]、[F]、[G]、および[I]を含み、下記条件[a]、[b]、[c]、および[d]を満たす
[D]:コアシェル型ゴム粒子
[E]:ホウ酸エステル化合物
[F]:硬化剤
[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
[I]:トリブロック共重合成分
[a]:全エポキシ樹脂100質量部に対し、成分[D]を9~18質量部含む
[b]:0.003≦(成分[E]の含有量/成分[D]の含有量)≦0.05
[c]:全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を40~70質量部含む
[d]:全エポキシ樹脂100質量部に対し2~10質量部のトリブロック共重合成分を含む
【請求項2】
条件2において、40℃、75%RHで14日間保存した後のガラス転移温度の変化が20℃以下である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
成分[H]:硬化促進剤を含む、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる中間基材。
【請求項5】
請求項に記載の中間基材を硬化させてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途、一般産業用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたトウプリプレグ、プリプレグ等の中間基材、および繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、高い耐熱性、接着性、および機械強度に優れるという特徴を生かし、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として汎用される。繊維強化複合材料の製造には、搬送や形状付与の容易さから、あらかじめマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた中間基材が多用される。中間基材の形態としてはシート状に強化繊維を配列させたプリプレグや、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸した、トウプリプレグ、ヤーンプリプレグなどの細幅の中間基材(以下、トウプリプレグ)などが挙げられる。
【0003】
自動車部材をはじめ、一般産業用途への中間基材の適用拡大に伴い、繊維強化複合材料の長期耐久性の向上が望まれている。その実現のためには、マトリックス樹脂(エポキシ樹脂)の変形能力と靱性値を高めることが必要となる。
【0004】
特許文献1には、コアシェル型ゴム粒子を多量に含むエポキシ樹脂組成物を用いることにより、該エポキシ樹脂組成物からなるトウプリプレグの表面品位と破壊靱性を向上させる技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ゴム成分を含有しエポキシ樹脂に不溶な微粒子と、1~2官能のエポキシ樹脂を併用することにより、エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性値を高めた、低粘度のエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、低粘度のエポキシ樹脂とコアシェル型ゴム粒子を併用し、樹脂硬化物の破壊靱性値を高めたトウプリプレグ向けのエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【0007】
特許文献4には、粒子状のアミン化合物とホウ酸エステル化合物を併用することにより、プリプレグの保管安定性を向上する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2017/099060号
【文献】特開平9-227693号公報
【文献】特開2011-157491号公報
【文献】特開平9-157498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、変形能力を高めるには、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度を下げる手法が知られている。また、靱性値を高めるためには、エポキシ樹脂に不溶な粒子を添加する技術が知られている。しかしながら、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度を下げる技術の適用では、エポキシ樹脂硬化物の弾性率と耐熱性が大きく低下するために繊維強化複合材料の機械強度と耐熱性が不足する。加えて、粒子を多量に添加する手法は、エポキシ樹脂組成物の粘度を高めるため、製造プロセスの観点から添加量に限界がある。そこで、機械強度と耐熱性を損なう事なく、変形能力と破壊靱性を両立する技術構築が望まれている。
【0010】
特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物は、コアシェル型ゴム粒子を多量に含むため、樹脂硬化物の機械特性が十分ではなかった。また、変形能力向上に関する言及はない。
【0011】
特許文献2および3に記載のエポキシ樹脂組成物は、比較的高い破壊靱性値を示すが、エポキシ樹脂組成物に1~2官能のエポキシ樹脂を多用しており、架橋が不十分なためか、引張伸度と耐熱性が低いものであった。
【0012】
特許文献4には、保存安定性に優れ、破壊靱性値が比較的高いエポキシ樹脂組成物が開示されているが、樹脂硬化物の伸度に関しては、示唆も言及もない。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、変形能力と破壊靱性を高いレベルで示し、かつ、耐熱性を維持した樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物、および、該エポキシ樹脂組成物と強化繊維からなる中間基材、ならびに該中間基材を硬化させてなる繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなるエポキシ樹脂組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記条件1または条件2を満たすエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂組成物を150℃で60分反応させて得られる樹脂硬化物の引張破断伸度が7%以上である。
条件1:次の成分[A]、[B]、および[C]を全て含む
[A]:式(I)で示される2官能の脂肪族エポキシ樹脂
【0015】
【化1】
【0016】
(式(I)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、nおよびmはそれぞれ独立に1~6の整数を表す。)
[B]:末端カルボキシ変性アクリルゴム
[C]:ジシアンジアミド
条件2:次の成分[D]、[E]、および[F]を含み、下記条件[a]と[b]を満たす
[D]:コアシェル型ゴム粒子
[E]:ホウ酸エステル化合物
[F]:硬化剤
[a]:全エポキシ樹脂100質量部に対し、成分[D]を9~18質量部含む
[b]:0.003≦(成分[E]の含有量/成分[D]の含有量)≦0.05
なお、本明細書において、本発明のエポキシ樹脂組成物のうち、上記条件1を満たすものを本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1、上記条件2を満たすものを本発明のエポキシ樹脂組成物の態様2という場合がある。
【0017】
本発明の中間基材は、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる。
【0018】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明の中間基材を硬化させてなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、変形能力と破壊靱性を高いレベルで示し、かつ、耐熱性を維持した樹脂硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、該エポキシ樹脂組成物を150℃で60分反応させて得られる樹脂硬化物の引張破断伸度が7%以上である。樹脂硬化物の引張破断伸度が7%よりも低い場合、該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の機械特性、特に、変形能力が低下するために、破壊強度および長期間の耐久性(疲労特性)が不十分なものとなる。引張破断伸度の上限は特に限定されないが、20%程度である。
【0021】
まず、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1について説明する。なお、本明細書において、本発明のエポキシ樹脂組成物の態様1および態様2を、単に本発明の態様1、態様2と称する場合がある。また、態様を特定せずに、単に「本発明」という場合は、態様1と態様2の全ての態様を表わす。
【0022】
本発明の態様1は、条件1を満たす。すなわち、成分[A]式(I)で示される2官能の脂肪族エポキシ樹脂、成分[B]末端カルボキシ変性アクリルゴム、成分[C]ジシアンジアミドを必須成分として含む。まず、これらの構成要素について説明する。
【0023】
(成分[A])
本発明における成分[A]は下記式(I)に示される2官能の脂肪族エポキシ樹脂である。
【0024】
【化2】
【0025】
式(I)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、nおよびmはそれぞれ独立に1~6の整数を表す。
【0026】
かかる成分[A]としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。
【0027】
前記エチレングリコールジグリシジルエーテルとしては、“デナコール”(登録商標)EX-850、EX-851、EX-821(以上、ナガセケムテックス(株)製)などを使用することができる。プロピレングリコールジグリシジルエーテルとしては、“デナコール”(登録商標)EX-911、EX-941、EX-920(以上、ナガセケムテックス(株)製)、“アデカグリシロール”(登録商標)ED-506(ADEKA(株)製)などを使用することができる。ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテルとしては、“デナコール”(登録商標)EX-212などを使用することができる。
【0028】
本発明の態様1は、全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]を3~20質量部含むことが好ましく、6~10質量部含むことがより好ましい。上記範囲を満たすことで、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性を損なうことなく、エポキシ樹脂組成物の粘度を効果的に低下させることができる。
【0029】
(成分[B])
本発明の態様1に含まれる成分[B]は、末端カルボキシ変性アクリルゴムである。成分[B]をエポキシ樹脂組成物に配合することにより、樹脂硬化物の引張破断伸度を低下させることなく、破壊靱性を高めることができる。
【0030】
かかる成分[B]としては、“Hypro”(登録商標)1300X31、1300X13、1300X13NA、1300X8(以上、CVC Thermoset Specialties社製)などを使用することができる。
【0031】
本発明の態様1は、前記成分[A]と成分[B]を同時に含む必要がある。成分[A]または成分[B]のみでは、引張破断伸度と樹脂靱性値を高いレベルで両立することはできないが、両者を同時に含むことにより、引張破断伸度と樹脂靱性値を高いレベルで両立することができる。その理由は定かではないが、例えば、成分[B]は末端に反応性のカルボキシ基を有しているため、硬化反応後に、柔軟な架橋構造を形成するためと推測することができる。
【0032】
ここで、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の引張破断伸度、引張弾性率、および引張強度は、ダンベル状に加工した樹脂硬化板を、JIS K7161(1994)に従って引張試験を実施することで評価する。
【0033】
また、本発明のエポキシ樹脂硬化物の樹脂靱性値は、ASTM D5045-99に記載のSENB試験から得たK1c値から評価する。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の耐熱性は、DSC測定(示差走査熱量測定)の昇温測定を実施して得られるヒートフローから算出されるガラス転移温度から評価する。ガラス転移温度は、JIS K7121(1987)に記載の方法で測定する。
【0035】
(成分[C])
本発明の成分[C]は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、化学式(HN)C=N-CNで表される化合物である。ジシアンジアミドは、それを硬化剤として得られるエポキシ樹脂硬化物に高い力学特性や耐熱性を与えることができる点で優れており、エポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7T、DICY15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0036】
本発明の態様1は、成分[H]:硬化促進剤を含むことが好ましい。成分[C]は、芳香族ウレア化合物などの硬化促進剤(成分[H])との併用で、成分[C]を単独で配合した場合と比較し、エポキシ樹脂組成物の硬化温度を下げることができる。かかる成分[H]としては、例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMU)、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア(PDMU)、2,4-トルエンビス(3,3-ジメチルウレア)(TBDMU)などが挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure”(登録商標)24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)、“Dyhard”(登録商標)UR505(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、AlzChem社製)などが挙げられる。
【0037】
ここで、本発明の態様1は、成分[H]として、TBDMUを用いることが好ましい。成分[C]とTBDMUを併用することで、耐熱性と引張破断伸度を同時に、より高めることができる。また、本発明の態様1は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、TBDMUを1.2~4.0質量部含むことが好ましく、さらに好ましくは2.5~3.5質量部含む。上記範囲を満たすエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる中間基材を用いることで、加熱硬化する際、エポキシ樹脂組成物のゲル化開始時間が短くなるため、成形過程において液だれや局所的な樹脂フローが抑制され、均質な繊維強化複合材料が得られる。
【0038】
ここで、本発明のエポキシ樹脂組成物のゲル化開始時間は、ASTM E2039に準じて、誘電測定から得られるエポキシ樹脂組成物の硬化度が20%に到達するまでの時間を指標として評価することができる。
【0039】
(成分[D])
本発明の態様1は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、成分[D]としてコアシェル型ゴム粒子を4~18質量部含むことが好ましい。特に好ましくは、成分[D]の含有量に対する成分[B]の含有量の質量比(成分[B]の含有量/成分[D]の含有量)が0.1~0.8の範囲内である。ここで、コアシェル型ゴム粒子とは、粒子状のコア成分の表面に、シェル成分を修飾した粒子であり、コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆した粒子である。前記コアおよびシェル成分の構成要素は特に限定されず、コアおよびシェル成分を有していればよい。
【0040】
上記範囲を満たすエポキシ樹脂組成物は、該エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性と引張破断伸度が著しく向上するため、繊維強化複合材料の破壊強度と疲労特性が特に優れたものとなる。前記効果は、成分[A]と[B]の組み合わせで発現できるレベルをさらに超えるものであり、成分[D]の存在下で見出された、特異的な破断伸度と破壊靱性の向上効果である。
【0041】
かかる成分[D]としては、“カネエース”(登録商標)MX-125、MX-150、MX-154、MX-257、MX-267、MX-416、MX-451、MX-EXP(HM5)(以上、カネカ(株)製)、“PARALOID”(登録商標)EXL-2655、EXL-2668(以上、Dow Chemical社製)などを用いることができる。
【0042】
(成分[G])
本発明の態様1は、全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を5~30質量部含むことが好ましい。前記範囲の成分[G]を含むことで、エポキシ樹脂組成物の粘度を高めること無く、樹脂硬化物の耐熱性を向上させることができるため、トウプリプレグ向けのエポキシ樹脂組成物として好適に使用することができる。
【0043】
かかる成分[G]としては、HP7200L、HP7200、HP7200H、HP7200HH、HP7200HHH(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0044】
続いて、本発明の態様2について説明する。本発明の態様2は、エポキシ樹脂を含んでなり、かつ、条件2を満たす。すなわち、成分[D]:コアシェル型ゴム粒子、成分[E]:ホウ酸エステル化合物、成分[F]:硬化剤を必須成分として含む。
【0045】
本発明の態様2は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、成分[D]を9~18質量部含む(条件[a])。かかる成分[D]が全エポキシ樹脂100質量部に対して9質量部よりも少ない場合、樹脂硬化物の破壊靱性値が不足するため、繊維強化複合材料の耐久性が不十分なものとなる。18質量部よりも多く含む場合、弾性率が大幅に低下するため、繊維強化複合材料の機械強度が不足する。また、エポキシ樹脂組成物の粘度が高まるため、製造プロセスの観点から低粘度のエポキシ樹脂組成が要求される、トウプリプレグに使用することが困難なものとなる。なお、成分[D]の市販品としては、前述の態様1の説明にて列記した、コアシェル型ゴム粒子を使用することができる。
【0046】
(成分[E])
本発明の態様2における成分[E]は、ホウ酸エステル化合物である。
【0047】
かかる成分[E]の具体例としては、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリブチルボレート、トリn-オクチルボレート、トリ(トリエチレングリコールメチルエーテル)ホウ酸エステル、トリシクロヘキシルボレート、トリメンチルボレートなどのアルキルホウ酸エステル、トリo-クレジルボレート、トリm-クレジルボレート、トリp-クレジルボレート、トリフェニルボレートなどの芳香族ホウ酸エステル、トリ(1,3-ブタンジオール)ビボレート、トリ(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)ビボレート、トリオクチレングリコールジボレートなどが挙げられる。
【0048】
また、ホウ酸エステルとして、分子内に環状構造を有する環状ホウ酸エステルを用いることもできる。環状ホウ酸エステルとしては、トリス-o-フェニレンビスボレート、ビス-o-フェニレンピロボレート、ビス-2,3-ジメチルエチレンフェニレンピロボレート、ビス-2,2-ジメチルトリメチレンピロボレートなどが挙げられる。
【0049】
かかるホウ酸エステルを含む製品としては、たとえば、“キュアダクト”(登録商標)L-01B(四国化成工業(株))、“キュアダクト”(登録商標)L-07N(四国化成工業(株))(ホウ酸エステル化合物を5質量%含む組成物)、“キュアダクト”(登録商標)L-07E(四国化成工業(株))(ホウ酸エステル化合物を5質量%含む組成物)などが挙げられる。
【0050】
本発明の態様2は、以下の条件[b]を満たす。
[b]:0.003≦(成分[D]の含有量/成分[E]の含有量)≦0.05。
【0051】
なお、本発明において、成分[D]の含有量/成分[E]の含有量は質量比である。
【0052】
成分[D]と[E]を上記範囲で同時に含むことにより、該エポキシ樹脂組成物からなるエポキシ樹脂硬化物の破壊靱性は著しく高いものとなり、かつ、高い変形能力を示す。前記効果は、成分[D]単独で発現できるレベルではなく、特定の配合比で[D]と[E]を含むことで発現する、特異的な破壊靱性の向上効果である。そのメカニズムは定かではないが、特定の量のホウ酸エステルを含む事により、エポキシ樹脂組成物を硬化してなる架橋構造と成分[D]の結合様態が、破壊靱性向上のために最適な状態になるためと推察している。
【0053】
(成分[F])
本発明の態様2の成分[F]は硬化剤である。硬化剤は、エポキシ樹脂と所定の温度で反応して、架橋構造を形成する成分であり、特に限定されない。
【0054】
成分[F]の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、脂肪族アミン、イミダゾール化合物、ジシアンジアミドなどのアミン系化合物、水素化メチルナジック酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。
【0055】
成分[F]としては、イミダゾール化合物を用いることが好ましく、エポキシ樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。かかるイミダゾール化合物の市販品としては、“キュアダクト”(登録商標)P-0505(四国化成工業(株)製)を用いることができる。
【0056】
また、成分[F]として特に好ましく用いられるのは、ジシアンジアミド(成分[C])であり、樹脂硬化物に高い力学特性や耐熱性を与える点で優れる。
【0057】
本発明の態様2は、態様1と同様に、成分[C]と成分[H]:硬化促進剤を含むことが好ましい。かかる成分[H]の市販品としては、前述の態様1の説明で列記した、硬化促進剤を使用することができる。また、成分[H]としては、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と引張破断伸度を、更に高めるために、TBDMUが好適に用いられる。
【0058】
本発明の態様2は、成分[F]としてイミダゾール化合物を用いた場合、もしくは、成分[H]を使用した場合、中間基材の保管安定性が特異的に向上する。上記安定性向上のメカニズムは定かではないが、成分[E]がルイス酸性を持つため、イミダゾール化合物、または、成分[H]から遊離したアミン化合物と成分[E]が相互作用し、室温下での反応性を低下させるためと推測している。
【0059】
中間基材の保存安定性は、該エポキシ樹脂組成物を一定条件下で保管した後の、ガラス転移温度の変化を指標として評価できる。本発明の態様2におけるエポキシ樹脂組成物の保存安定性は、40℃、75%RHで14日間保存した後のガラス転移温度の変化が20℃以下であると、該エポキシ樹脂組成物からなる中間基材が常温でも優れた保存安定性を示すため好ましい。
【0060】
本発明の態様2におけるエポキシ樹脂組成物の保存安定性は、示差走査熱量分析(DSC)にて、ガラス転移温度の変化を追跡することで評価できる。具体的には、エポキシ樹脂組成物を、恒温恒湿槽などで所定の期間保管し、保管前後のガラス転移温度の変化をDSCの昇温測定から測定し、判定することができる。
【0061】
本発明の態様2は、全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[A]を3~20質量部含むことが好ましく、さらに好ましくは、6~10質量部含む。上記範囲を満たすことで、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性を損なうことなく、エポキシ樹脂組成物の粘度を効果的に低下させることができるため、製造プロセスにおいて低粘度のエポキシ樹脂組成物が要求されるトウプリプレグへ適用する場合に、特に好ましく用いられる。
【0062】
また、本発明の態様2は、全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を5~30質量部含むことが好ましい。前記範囲の成分[G]を含むことで、エポキシ樹脂組成物の粘度を高めること無く、樹脂硬化物の耐熱性を向上させることができるため、トウプリプレグ向けのエポキシ樹脂組成物として好適に使用できる。
【0063】
本発明では、成分[I]として、成分[A]および[G]とは異なるエポキシ樹脂を用いても良い。
【0064】
かかるエポキシ樹脂としては、たとえば、アニリン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンジアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても、複数種を組み合わせてもよい。
【0065】
前記アニリン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0066】
前記ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、“スミエポキシ”(登録商標)ELM434、ELM434VL(以上、住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鉄住金化学(株)製)、“jER”(登録商標)604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト”(登録商標)MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0067】
前記ジアミノジフェニルスルホン型エポキシの市販品としては、TG3DAS(小西化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0068】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER”(登録商標)828、1001、1007(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0069】
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON”(登録商標)830、807(以上、DIC(株)製)、“jER”(登録商標)806、4007P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エポトート”(登録商標)YDF-2001(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0070】
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER”(登録商標)152、154、180S(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0071】
前記キシレンジアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD-X(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0072】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲で、消泡剤を添加してもよい。かかる消泡剤としては、非シリコンポリマー系消泡剤、シリコン系消泡剤などが挙げられる。
【0073】
前記非シリコンポリマー系消泡剤としては、“BYK”(登録商標)1788、1790、1791、A535(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)などを用いることができる。
【0074】
前記シリコン系消泡剤としては、“BYK”(登録商標)1798、1799(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)、DOWSIL SH200(ダウ・東レ(株)製)などを用いることができる。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練してもよいし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜてもよい。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、強化繊維と複合一体化してなる、中間基材として用いることができる。中間基材の形態としては、プリプレグ、スリットテープ、トウプリプレグなどが挙げられる。これら中間基材は、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させてなる。強化繊維をシート状に配列させてマトリックス樹脂を含浸させてなるプリプレグ、プリプレグを細幅に裁断してなるスリットテープ、1,000~70,000フィラメントからなる強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させてなるトウプリプレグなどが挙げられる。形態に応じて製造方法や、マトリックス樹脂として好適な粘度が異なる。
【0077】
前記プリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法であるため、加圧工程に適するように、エポキシ樹脂組成物の粘度を適切に高める必要がある。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を失わない範囲で、さらに熱可塑性樹脂を含有してもよい。熱可塑性樹脂を含有することにより、プリプレグとしての態様に適した粘度に調製しやすくなる。該エポキシ樹脂組成物は、室温下、すなわち25℃での取り扱い性が良好となる点から、25℃における粘度が8,000~30,000Pa・sの範囲にあることが好ましい。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、トリブロック共重合体などが挙げられる。
【0079】
本発明の態様2は、全エポキシ樹脂組成物100質量部に対し2~10質量部のトリブロック共重合体を含むことが好ましく、特に好ましくは4~8質量部含む。かかる範囲のトリブロック共重合体を含むことで、該エポキシ樹脂組成物からなるエポキシ樹脂硬化物の破壊靱性を高めつつ、プリプレグ作製に適した粘度のエポキシ樹脂組成物に調製することができる。
【0080】
かかるトリブロック共重合体としては、“Nanostrength”(登録商標)M22N、M52N、M65N(以上、アルケマ(株)製)などを用いることができる。
【0081】
また、態様2において、前記のトリブロック共重合体を含むエポキシ樹脂組成物は、全エポキシ樹脂100質量部のうち、成分[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を40~70質量部含むことが好ましく、特に好ましくは45~65質量部含む。かかる範囲の成分[G]を含むことで、該エポキシ樹脂組成物は耐熱性を高めつつ、25℃における粘度を効果的に高めることができる。そのため、該エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグは、室温下での取り扱い性に優れる。
【0082】
前述のトウプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができるが、たとえば、本発明のエポキシ樹脂組成物を、有機溶媒を用いずに強化繊維に常温から40℃程度の温度で浸漬させながら含浸させる方法、該エポキシ樹脂組成物を回転ロールや離型紙上に塗膜化し、次いで強化繊維の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールや圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法などで製造できる。
【0083】
本発明の中間基材は、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる。中間基材の形態は上述の各種形態をとることができ、特に限定されない。中間基材の形態をトウプリプレグとする場合、強化繊維に含浸させるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、0.5~100Pa・sであることが好ましい。粘度が前記範囲にある場合、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性が高いものとなりやすい。また、該エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、特に好ましくは3~30Pa・sである。粘度が前記範囲にあることで、強化繊維への含浸性がより向上するため、樹脂バスに特段の加熱機構の据え付けや、有機溶剤での希釈処理が不要となる。
【0084】
ここで、本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度は、たとえば、円すい-平板形回転粘度計(E型粘度計)によって測定することができる。エポキシ樹脂組成物を25℃に設定したE型粘度計に配置し、ある一定の回転数にて観測された粘度の平均値として評価可能である。
【0085】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが使用できる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる観点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0086】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明の中間基材を硬化させてなる。本発明の繊維強化複合材料は、例えば、上記方法にて調製したエポキシ樹脂組成物と強化繊維を複合一体化させた中間基材またはトウプリプレグを、加熱硬化することにより得ることができる。
【0087】
また、本発明の繊維強化複合材料は、トウプリプレグを、マンドレルやライナーなどに巻き付け、加熱硬化させて得ることもできる。ライナーを用いる繊維強化複合材料の製造においては、ライナーと、ライナーを被覆するエポキシ樹脂硬化物と強化繊維より構成される。本発明のエポキシ樹脂組成物は、変形能力と破壊靱性に優れる特徴を生かし、長期耐久性が要求される圧力容器など、一般産業用途に好適に用いられる。
【0088】
また、本発明の繊維強化複合材料は、プリプレグを積層成形し、熱および圧力を付与する方法、例えば、オートクレーブ成形法、プレス成形法、バッギング成形法、ラッピング成形法などを適宜使用して得ることもできる。得られた繊維強化複合材料は、変形能力と破壊靱性に優れる特徴を生かし、自動車、自転車、船舶および鉄道車両などの構造材に好ましく用いることができる。
【実施例
【0089】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、実施例1~32、及び35~36は、それぞれ参考例1~32、及び参考例33~34と読み替えるものとする。
【0090】
本実施例で用いる構成要素は以下の通りである。
【0091】
<使用した材料>
・成分[A]:2官能の脂肪族エポキシ樹脂
成分[A]-1 “デナコール”(登録商標)EX-212、
成分[A]-2 “デナコール”(登録商標)EX-911、
成分[A]-3 “デナコール”(登録商標)EX-920、
成分[A]-4 “デナコール”(登録商標)EX-821(以上、ナガセケムテックス(株)製)、
成分[A]-5 “アデカグリシロール”(登録商標)ED-506(ADEKA(株)製)。
【0092】
・成分[B]:末端カルボキシ変性アクリルゴム
成分[B]-1 “Hypro”(登録商標)1300X8、
成分[B]-2 “Hypro”(登録商標)1300X13(以上、CVC Thermoset Specialties社製)。
【0093】
・成分[C]:ジシアンジアミド
DICY7T(三菱ケミカル(株)製)。
【0094】
・成分[D]:コアシェル型ゴム粒子と成分[I]その他エポキシ樹脂の混合物
成分[D]-1 “カネエース”(登録商標)MX-125(ビスフェノールA型エポキシ樹脂75質量%、および、ブタジエン系コアシェル型ゴム粒子25質量%)、
成分[D]-2 “カネエース”(登録商標)MX-257(ビスフェノールA型エポキシ樹脂63質量%、および、ブタジエン系コアシェル型ゴム粒子37質量%)、
成分[D]-3 “カネエース”(登録商標)MX-267(ビスフェノールF型エポキシ樹脂63質量%、および、ブタジエン系コアシェル型ゴム粒子37質量%)(以上、カネカ(株)製)、
成分[D]-4 “カネエース”(登録商標)MX-EXP(HM5)(ビスフェノールA型エポキシ樹脂70質量%、および、コアシェル型ゴム粒子30質量%)(以上、カネカ(株)製)、
成分[D]-5 “PARALOID”(登録商標)EXL-2655(MBSコアシェル型ゴム粒子100質量%)(Dow Chemical社製)。
【0095】
・成分[E]:ホウ酸エステル化合物、成分[I]その他エポキシ樹脂、およびフェノールノボラック樹脂の混合物
成分[E]-1 “キュアダクト”(登録商標)L-07E(ホウ酸エステル化合物を5質量%、フェノールノボラック樹脂5質量%、および、ビスフェノールA型エポキシ樹脂90質量%)、
成分[E]-2 “キュアダクト”(登録商標)L-01B(ホウ酸エステル化合物を5質量%、フェノールノボラック樹脂5質量%、および、ビスフェノールA型エポキシ樹脂90質量%)(以上、四国化成工業(株)製)。
【0096】
・成分[F]:硬化剤
“キュアダクト”(登録商標)P-0505(四国化成工業(株)製)。
【0097】
・成分[G]:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
成分[G]-1 “EPICLON”(登録商標)HP7200L、
成分[G]-2 “EPICLON”(登録商標)HP7200、
成分[G]-3 “EPICLON”(登録商標)HP7200HHH(以上、DIC(株)製)。
【0098】
・成分[H]:硬化促進剤
成分[H]-1 DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、
成分[H]-2 “Omicure”(登録商標)24、
成分[H]-3 “Omicure”(登録商標)94(以上、ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)。
【0099】
・成分[I]:その他エポキシ樹脂
成分[I]-1 “jER”(登録商標)828、
成分[I]-2 “jER”(登録商標)1001、
成分[I]-3 “jER”(登録商標)806、
成分[I]-4 “jER”(登録商標)154(以上、三菱ケミカル(株)製)、
成分[I]-5 “EPICLON”(登録商標)830(DIC(株)製)、
成分[I]-6 “エポトート”(登録商標)YDF-2001(東都化成(株)製)、
成分[I]-7 TETRAD-X(三菱ガス化学(株)製)、
成分[I]-8 “アラルダイト”(登録商標)CY-184(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、
成分[I]-9 “デナコール”(登録商標)EX-201(ナガセケムテック(株)製)。
【0100】
・熱可塑性樹脂
YP-50(東都化成(株)製)、“スミカエクセル”PES5003P(住友化学(株)製)、 “ビニレック”(登録商標)K(JNC(株)製)、 “Nanostrength”(登録商標)M22N、M52N(以上、アルケマ(株)製)。
【0101】
・その他添加物
“BYK”(登録商標)1788、1790、A506(以上、ビックケミ-・ジャパン(株)製)、DOWSIL SH200(ダウ・東レ(株)製)、XER-91(JSR(株)製)。
【0102】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
ステンレスビーカーに、成分[D]コアシェル型ゴム粒子、成分[E]ホウ酸エステル化合物、成分[H]硬化促進剤、成分[C]ジシアンジアミド、および、成分[F]硬化剤以外の成分を所定量入れ、60~150℃まで昇温し、各成分が相溶するまで適宜混練した。60℃まで降温させた後、成分[E]および/または成分[D]を添加して10分間混練した後、次いで成分[F]または、成分[C]および成分[H]を添加し、60℃において30分間混練することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂組成は、表1~7に示した通りである。
【0103】
<エポキシ樹脂硬化物の引張特性の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られた未硬化のエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン”(登録商標)製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、150℃の温度で1時間硬化させ、厚さ2mmの樹脂硬化板を得た。得られた樹脂硬化板を、JIS K7161(1994)に従って、1BA型のダンベル状に加工した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、チャック間距離を58mmに設定し、試験速度1mm/分にて樹脂引張試験を実施し、引張弾性率、引張強度、および引張破断伸度を測定した。この際、サンプル数n=8で測定した値の平均値を採用した。
【0104】
<エポキシ樹脂組成物のゲル化開始時間の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られた未硬化のエポキシ樹脂組成物を、あらかじめ150℃に加熱したマイクロプレス上に2mL静置し、キュアモニターLT-451(Lambient Technologies社製)によってイオン粘度を測定した。エポキシ樹脂組成物のイオン粘度は硬化開始時に最低値をとり、硬化反応の進行に伴い増加後、完了とともに飽和する。本発明においてはASTM E2039規格に従い、150℃、1時間の条件下におけるイオン粘度の実測値からキュアインデックス(Cd)を算出し、Cdが20%に到達するまでの時間をゲル化開始時間として採用した。
【0105】
<エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性値の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られた未硬化のエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、6mm厚の“テフロン”(登録商標)製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で、150℃の温度で1時間硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化板を得た。得られた樹脂硬化板を、ASTM D5045-99に記載の試験片形状に加工を行った後、ASTM D5045-99に従ってSENB試験を実施した。この際、サンプル数n=16とし、その平均値をK1c値として採用した。
【0106】
<ガラス転移温度の測定>
前記<エポキシ樹脂硬化物の引張特性の評価方法>で得られた樹脂硬化板から、小片(5~10mg)を採取し、JIS K7121(1987)に従い、中間点ガラス転移温度を測定した。測定には示差走査熱量計DSC Q2000(ティー・エー・インスツルメント社製)を用い、窒素ガス雰囲気下において昇温速度20℃/分で測定した。この際、サンプル数n=2とし、その平均値をガラス転移温度とした。
【0107】
<25℃におけるエポキシ樹脂組成物の粘度測定>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られたエポキシ樹脂組成物の粘度を、JIS Z8803(2011)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(東機産業(株)製、TVE-22HT)を使用して、25℃で設定した状態で、回転速度5回転/分で測定した粘度の、5回の平均値を採用した。
【0108】
<エポキシ樹脂組成物の保存安定性の評価方法>
前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従って得られたエポキシ樹脂組成物を、アルミカップに3g秤量し、40℃、75%RHの環境下で14日間恒温恒湿槽内に静置した後のガラス転移温度をTa、初期のガラス転移温度Tbとした時に、ガラス転移温度の変化量をΔTg=Ta-Tbと定義し、ΔTgの値で保存安定性を判定した。ガラス転移温度は、保存後のエポキシ樹脂3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、-20℃から150℃まで5℃/分で昇温して測定した。得られた発熱カーブの変曲点の中点をガラス転移温度として取得した。
【0109】
(実施例1)
エポキシ樹脂として“デナコール”(登録商標)EX-911を2質量部、“jER”(登録商標)828を90質量部、“jER”(登録商標)1001を8質量部、末端カルボキシ変性アクリルゴムとして“Hypro”(登録商標)1300X8を15質量部、ジシアンジアミドとしてDICY7Tを7.3質量部、芳香族ウレア化合物としてDCMU99を2.5質量部用い、前記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0110】
このエポキシ樹脂組成物について、<エポキシ樹脂硬化物の引張特性の評価方法>に従い、引張特性を取得したところ、引張弾性率は2.9GPa、引張強度は65MPa、引張破断伸度は7.5%と高い変形能力を示した。また、前記<エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性値の評価方法>に従い、破壊靱性値を評価したところ2.0MPa・m0.5と優れた破壊靱性値を示した。耐熱性について、前記<ガラス転移温度の測定>に従って評価したところ、ガラス転位温度は136℃と良好であった。
【0111】
また、該エポキシ樹脂組成物の粘度を、前記<25℃におけるエポキシ樹脂組成物の粘度測定>に従って測定したところ28Pa・sであり、トウプリプレグの作製に際し、適切な粘度であった。
【0112】
該エポキシ樹脂組成物のキュアインデックス(Cd)が20%に到達する時間を、前記<エポキシ樹脂組成物のゲル化開始時間の評価方法>に従って測定したところ、4.1分であった。
【0113】
(実施例2~19)
樹脂組成をそれぞれ表1~表3に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物を作製した。
【0114】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、引張特性、破壊靱性値、および耐熱性を評価した結果、全ての水準で良好な物性が得られた。また、各実施例のエポキシ樹脂組成物について25℃における粘度を測定したところ、10~25Pa・sであり、適切な粘度を示した。各実施例のエポキシ樹脂組成物についてCdが20%に到達する時間を測定したところ、1.6~4.4分であり、繊維強化複合材料を加熱成形するにあたり、適切なゲル化開始時間を示した。
【0115】
(実施例20~28、31、32)
樹脂組成をそれぞれ表3および表4に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物を作製した。
【0116】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、引張特性、破壊靱性値、および耐熱性を評価した結果、全ての水準で良好な物性が得られた。また、各実施例のエポキシ樹脂組成物について25℃における粘度を測定したところ、12~20Pa・sであり、トウプリプレグの製造に好適な粘度を示した。前記<エポキシ樹脂組成物の保存安定性の評価方法>に従って、保存安定性を評価したところ、ΔTgは1~22℃の範囲であった。
【0117】
(実施例29、30、33~37)
樹脂組成をそれぞれ表4および表5に示したように変更し、熱可塑性樹脂を添加した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物を作製した。
【0118】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、引張特性、破壊靱性値、保存安定性、および耐熱性を評価した結果、全ての水準で良好な物性が得られた。また、各実施例のエポキシ樹脂組成物について25℃における粘度を測定したところ、8,800~12,000Pa・sであり、プリプレグの製造において好適な粘度を示した。
【0119】
(比較例1)
表6に示した樹脂組成物について、特許文献1(国際公開第2017/099060号)の実施例4に記載の方法でエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0120】
このエポキシ樹脂組成物について、前記<ガラス転移温度の測定>に従い、ガラス転移温度を測定したところ138℃であった。また、前記<25℃におけるエポキシ樹脂組成物の粘度測定>に従い粘度を測定したところ、29Pa・sであった。前記<エポキシ樹脂組成物のゲル化開始時間の評価方法>に従いCdが20%に到達する時間を測定したところ、6.7分と不十分なものであった。また、前記<エポキシ樹脂組成物の保存安定性の評価方法>に従って保存安定性を評価したところ、ΔTgが32℃と不十分なものであった。
【0121】
このエポキシ樹脂組成物について、前記<エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性値の評価方法>に従い、破壊靱性値を評価したところ、成分[A]および[B]を含まないため、破壊靱性値が1.7MPa・m0.5と低いものであった。
【0122】
前記<エポキシ樹脂硬化物の引張特性の評価方法>に従い、引張特性を取得したところ、引張破断伸度は8.0%であったが、成分[D]を多量に含む(全エポキシ樹脂100質量部に対して[D]を22.7質量部含む)ためか、引張弾性率が1.9GPaと著しく低いものであった。
【0123】
(比較例2)
表6に示した樹脂組成物について、特許文献2(特開平9-227693号公報)の実施例5に記載の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0124】
該エポキシ樹脂組成物は、成分[A]、成分[B]、および成分[D]を含まないため、引張破断伸度と破壊靱性値が不十分なものであった。また、25℃における粘度は72Pa・sであった。Cdが20%に到達するまでの時間は4.8分であった。また、ΔTgは27℃と不十分なものであった。
【0125】
(比較例3)
表6に示した樹脂組成物について、特許文献3(特開2011-157491号公報)の実施例1に記載の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0126】
該エポキシ樹脂組成物からなる樹脂硬化物は、引張特性、破壊靱性、および耐熱性が不十分なものであった。
【0127】
(比較例4)
表6に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0128】
成分[B]を15質量部含むため、破壊靱性は2.0MPa・m0.5と高いが、成分[A]を含まないために引張破断伸度が5.1%と不十分なものとなった。また、25℃における粘度が60Pa・sであった。
【0129】
(比較例5)
表6に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0130】
成分[A]を含むが、成分[B]は含まないため、引張破断伸度と破壊靱性が、著しく低いものであった。
【0131】
(比較例6)
表6に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0132】
成分[A]および[D]を含むが、成分[B]は含まないため、特に引張破断伸度が不十分なものとなった。
【0133】
(比較例7)
表6に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0134】
成分[A]および[D]を含む樹脂組成物だが、成分[B]を含まないかわりに熱可塑性樹脂としてYP-50を含む。該エポキシ樹脂組成物は、引張破断伸度が著しく低いものとなった。また、25℃の粘度は103Pa・sであり、トウプリプレグを作製するにあたり、不適な粘度であった。
【0135】
(比較例8)
表6に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、150℃においてCdが20%に到達するまでの時間、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0136】
成分[A]を含むが、[B]を含まない。また、成分[D]を含まないかわりに、熱可塑性樹脂としてYP-50および“スミカエクセル”PES5003Pを含有するが、該エポキシ樹脂組成物からなる硬化物の破壊靱性と引張破断伸度は著しく低いものであった。
【0137】
(比較例9)
表7に示した樹脂組成物について、特許文献2(特開平9-157498号公報)の実施例4に記載の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、保存安定性、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0138】
該エポキシ樹脂組成物は、全エポキシ樹脂100質量部に対して成分[D]を7質量部しか含まないためか、破壊靱性値が不十分なものであった。また、引張破断伸度も4.0%と、著しく低いものであった。
【0139】
ΔTgは5℃と、保存安定性は良好であったが、25℃における粘度は800Pa・sであり、トウプリプレグおよびプリプレグの製造において、不適な粘度であった。
【0140】
(比較例10)
表7に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、保存安定性、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0141】
成分[D]を10質量部含むが、成分[E]が0.01質量部(L-07Eは0.2質量部)と少ない。成分[E]の含有量/成分[D]の含有量の質量比が0.001であり、破壊靱性は1.6MPa・m0.5と不十分なものとなった。ΔTgは32℃と安定性は不十分なものであった。また、25℃における粘度は22Pa・sであった。
【0142】
(比較例11)
表7に示した樹脂組成物について、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を作製し、比較例1と同じ方法で、25℃における粘度、保存安定性、引張特性、破壊靱性、および耐熱性を評価した。
【0143】
成分[D]を10質量部、成分[E]を0.65質量部(L-07Eは13質量部)含む。成分[E]の含有量/成分[D]の含有量の質量比は0.065であり、破壊靱性値は1.5MPa・m0.5と低いものであった。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
【表3】
【0147】
【表4】
【0148】
【表5】
【0149】
【表6】
【0150】
【表7】
【0151】
なお、表中の各成分の単位は質量部である。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、変形能力と破壊靱性値を高いレベルで両立する硬化物を与えるため、該エポキシ樹脂組成物からなる繊維強化複合材料は、破壊強度と疲労特性に優れる。加えて、本発明のエポキシ樹脂組成物は、常温における粘度をトウプリプレグの製造に適した範囲、または、プリプレグの取り扱い性に好適な状態に調整できるため、繊維強化複合材料を製造するための中間基材として、好適に用いられる。