(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】菌又はウイルスの不活化方法
(51)【国際特許分類】
H05B 47/155 20200101AFI20240521BHJP
H05B 47/16 20200101ALI20240521BHJP
H05B 47/11 20200101ALI20240521BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H05B47/155
H05B47/16
H05B47/11
A61L2/10
(21)【出願番号】P 2021023089
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508612(JP,A)
【文献】特表2009-512457(JP,A)
【文献】特開2009-261289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 47/155
H05B 47/16
H05B 47/11
A61L 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が設置された対象空間内に存在する菌又はウイルスの不活化方法であって、
紫外光源から前記対象空間内に対して190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線を照射する工程(a)を有し、
前記工程(a)は、前記植物に対して太陽光又は照明光源からの可視光が照射されている時間帯に実行されることを特徴とする、菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項2】
前記対象空間に対する太陽光又は前記照明光源からの可視光の照射量が時間に応じて変化することで、前記対象空間内の照度が100lx以上を示す明環境時間帯と、前記対象空間内の照度が100lx未満を示す暗環境時間帯とが存在し、
前記明環境時間帯から前記暗環境時間帯に移行した後、前記暗環境時間帯内のいずれかの時点で前記照明光源を点灯する工程(b)を有し、
前記工程(a)が、前記工程(b)の後に実行されることを特徴とする、請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項3】
前記工程(b)は、前記明環境時間帯及び前記暗環境時間帯の少なくとも一方に関する時間帯情報に基づいて、現在時刻が前記暗環境時間帯に属することを確認した後、前記照明光源を点灯する工程であることを特徴とする、請求項2に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項4】
前記照明光源は、前記時間帯情報が記録された記憶部、及び現在時刻を検知する時計部を備えており、
前記工程(b)は、前記記憶部から読み出された前記時間帯情報に基づき、前記時計部で検知された現在時刻が前記暗環境時間帯に属することを確認した後、前記照明光源を点灯する工程であることを特徴とする、請求項3に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項5】
前記工程(a)は、予め定められた紫外線照射時間帯に前記対象空間内に対して前記紫外線を照射する工程を含み、
前記紫外線照射時間帯の少なくとも一部が前記暗環境時間帯に属する場合に、前記紫外線照射時間帯の経過後、前記紫外光源を実質的に消灯する工程(c)と、
前記工程(c)の後、点灯中の前記照明光源を実質的に消灯する工程(d)とを有することを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項6】
前記照明光源は、前記対象空間の全体に対して可視光を照射する第一照明光源と、前記植物に向かって局所的に可視光を照射する第二照明光源とを有し、
前記第二照明光源は、前記第一照明光源が消灯中であっても点灯可能な構成であり、
前記工程(a)は、少なくとも前記第二照明光源が点灯中に実行されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の、菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項7】
前記照明光源は、前記対象空間の全体に対して可視光を照射する第一照明光源と、前記植物に向かって局所的に可視光を照射する第二照明光源とを有し、
前記第二照明光源は、前記第一照明光源が消灯中であっても点灯可能な構成であり、
前記工程(b)は、前記暗環境時間帯内のいずれかの時点で前記第二照明光源を点灯する工程であることを特徴とする、請求項2~5のいずれか1項に記載の、菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項8】
前記第一照明光源が点灯状態から消灯状態に遷移した時点において、前記第二照明光源が消灯中である場合には、前記第二照明光源を点灯する工程(e)を有し、
前記工程(a)が、前記工程(e)の後に実行されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の、菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項9】
前記対象空間内の照度を検知する工程(f)を有し、
前記工程(a)は、前記工程(f)で検知された前記照度が100lx以上の基準値以上である場合に、前記紫外光源を点灯する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項10】
前記工程(a)は、前記工程(f)で検知された前記照度が前記基準値未満である場合、前記照明光源を点灯又は増光して前記基準値以上の前記照度を実現した後、前記紫外光源を点灯する工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項11】
前記工程(f)は、照度計によって前記対象空間内の照度を検知する工程であり、
前記工程(a)は、前記照明光源に搭載された第一制御部が、前記照度計から送られた前記照度に関する情報に基づいて前記照明光源の光出力を制御する工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項12】
前記工程(f)で検知された前記照度が前記基準値未満である場合に、点灯中の前記紫外光源を実質的に消灯する工程(g)を含むことを特徴とする、請求項
11に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項13】
前記工程(f)は、照度計によって前記対象空間内の照度を検知する工程であり、
前記工程(g)は、前記紫外光源に搭載された第二制御部が、前記照度計から送られた前記照度に関する情報に基づいて前記紫外光源の光出力を制御する工程を含むことを特徴とする、請求項12に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項14】
前記工程(a)は、前記照明光源からの可視光が照射されている時間帯に前記紫外線を照射する工程であり、
前記紫外光源と前記照明光源は同一の筐体に収容されており、
前記第一制御部と前記第二制御部とが、前記筐体内に収容されて共通の制御部を構成することを特徴とする、請求項13に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項15】
前記工程(a)は、前記照明光源からの前記可視光が照射されている時間帯に前記紫外線を照射する工程であり、
前記照度計から送られた前記照度が前記基準値以上である場合において、
前記工程(a)は、前記第二制御部が前記紫外光源を増光する制御を行うと共に、前記第一制御部が前記照明光源を増光する制御を行う工程を含むことを特徴とする、請求項13又は14に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【請求項16】
前記工程(f)で検知された前記照度が前記基準値未満である場合に、点灯中の前記紫外光源を実質的に消灯する工程(g)を含むことを特徴とする、請求項9又は10に記載の菌又はウイルスの不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウイルスの不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間中又は物体表面に存在する菌(細菌や真菌等)やウイルスは、人や人以外の動物に対して感染症を引き起こすことがあり、感染症の拡大によって生活が脅かされることが懸念される。特に職場、学校、医療施設、役所等、頻繁に人が集まる施設においては、感染症が蔓延しやすいことから、菌やウイルスを不活化させる有効な手段が必要とされている。
【0003】
従来、菌やウイルス(以下、「菌等」と総称することがある。)の不活化を行う方法として、紫外線を照射する方法が知られている。DNAは波長260nm付近に最も高い吸収特性を示す。そして、低圧水銀ランプは、波長254nm付近に高い発光スペクトルを示す。このため、低圧水銀ランプを用いて殺菌を行う技術が広く利用されている。
【0004】
しかし、このような波長帯の紫外線を人体に照射すると、人体に影響を及ぼすリスクがあることが知られている。皮膚は、表面に近い部分から表皮、真皮、その深部の皮下組織の3つの部分に分けられ、表皮は、更に表面に近い部分から順に、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分けられる。波長254nmの紫外線が人体に照射されると、角質層を透過して、顆粒層や有棘層、場合によっては基底層に達し、これらの層内に存在する細胞のDNAに吸収される。この結果、皮膚がんのリスクが発生する。よって、このような波長帯の紫外線は、人が存在し得る場所で積極的に利用することは難しい。
【0005】
下記特許文献1には、波長240nm以上の紫外線(UVC光)は人体に対して有害であること、及び、波長240nm未満の紫外線は波長240nm以上の紫外線と比べて人体への影響度が抑制されることが記載されている。また、具体的に、波長207nm及び222nmの照射実験の結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6025756号公報
【文献】特開2009-261289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、人体への影響が少ないとされる波長240nm未満の紫外線を用いて、室内等の空間に対して菌やウイルスの不活化を行う場合に生じ得る課題について鋭意検討を重ねた。その結果、空間内に植物が存在する場合に、同波長帯の紫外線が空間内に照射されることで、植物が枯れる可能性があるという問題を新たに見出した。
【0008】
菌やウイルスの不活化を行う対象となる空間には、植物(例えば観葉植物等)が設置されている場合が想定される。一例を挙げれば、職場の会議室や執務室、医療施設の待合室には、観葉植物が置かれている場合が少なくない。このような空間内に対して、菌やウイルスの不活化を行うべく、波長240nm未満の紫外線を照射すると、当該空間内に設置された植物にも紫外線が照射される。このとき、不活化処理に伴う人体への影響は抑制されるものの、植物が枯れてしまうおそれがある。このような事情が存在すると、ユーザ側に対して紫外線を用いた不活化処理を導入する動機が薄れてしまい、感染症の拡大を抑制する効果が得られず、社会的にも好ましくない。
【0009】
一方で、植物を枯れさせないようにする方法として、所定時間内の照射線量を低下させることが考えられるが、かかる方法を採用すると、そもそも空間内の菌やウイルスを不活化する効果が十分には得られないおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、対象空間内に植物が設置されている場合において、波長240nm未満の紫外線を用い、植物の劣化の進行を抑制しながらも空間内の菌やウイルスの不活化を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、植物が設置された対象空間内に存在する菌又はウイルスの不活化方法であって、
紫外光源から前記対象空間内に対して190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線を照射する工程(a)を有し、
前記工程(a)は、前記植物に対して太陽光又は照明光源からの可視光が照射されている時間帯に実行されることを特徴とする。
【0012】
本明細書において、「不活化」とは、菌やウイルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウイルス」を「菌等」と総称することがある。
【0013】
対象空間内に存在する菌等の不活化に際し、190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線を用いることで、人体への影響が抑制される。そして、対象空間内に存在する植物に対して太陽光又は照明光源からの可視光が照射されている時間帯に、前記波長帯の紫外線を照射することで、植物に対する劣化の進行も抑制される。この理由については、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0014】
ところで、従来、植物の病害を紫外線によって防ぐ技術が知られている(上記、特許文献2参照)。この技術は、一般的にUVB帯と称される、波長280nm~320nmの紫外線を用いて植物から病気を防ぐという現象を利用したものである。より詳細には、UVB光が植物に照射されると、植物の遺伝子に作用して病害に対する防御性の高い遺伝性が発現し、この結果、植物から病害を防ぐことができるというものである。なお、特許文献2では、波長280~340nmの紫外線が利用される旨の記載があるが、実質的にはUVB帯の波長が用いられているところ、上記の原理が利用されていると考えられる。
【0015】
特許文献2には、植物に対して病害を防ぐ目的で植物に向けてUVB光を照射した場合に植物が葉焼けすること、及び太陽光の照度が高い場合には植物に向けてUVB光を照射して葉焼けが防止できることが記載されている。
【0016】
植物の病害を防ぐ目的で紫外線を照射する場合、波長240nm未満の紫外線は利用されない。その理由としては、以下の2つが考えられる。第一の理由としては、UVB光が照射されると植物が葉焼けする以上、UVB光よりも短波長で光エネルギーの高い波長240nm未満の紫外線を植物に向けて照射すると、病害を防止するという目的を達する以前に葉焼けが生じることが予想される点である。第二の理由としては、そもそも波長240nm未満の紫外線を植物に照射した場合に、病害に対する防御性の高い遺伝子が発現するかどうかが不明である点である。
【0017】
本発明は、植物の病害を防ぐ目的で植物に向けてUVB帯の紫外線を照射するという内容とは異なり、空間内に存在する菌等を不活化する目的で紫外線を照射するという内容である。つまり、空間内の広い範囲に向けて紫外線が照射されることが予定されているため、仮に空間内に植物が存在していたとしても、この植物に対して照射される紫外線の照度は、病害対策として植物に向けてUVB帯の紫外線を照射する場合と比べて低いものである。このため、空間内に存在する菌等を不活化する目的で波長240nm未満の紫外線を空間内に照射した場合に、仮にこの空間内に植物が設置されていたとしても、植物が枯れるということは全く予想されなかった事実であり、本発明者が鋭意研究の結果、新たに見出したものである。
【0018】
しかも、空間内に存在する菌等を波長240nm未満の紫外線を用いて不活化することを検討した場合、そのような対象空間としては、人が集まりやすい場所として、例えば自動車、電車、映画館といった場所も想定される。そして、これらの場所は一般的には植物が存在しない。つまり、波長240nm未満の紫外線を用いて空間内に存在する菌等を不活化するという行為を行った場合に、植物が枯れるという現象が生じるという課題自体が、本発明者の鋭意研究の結果、新たに見出されたものである。
【0019】
そして、本発明者の鋭意研究によれば、可視光が照射されている時間帯に、190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線を対象空間内に照射することで、対象空間内に植物がある場合であっても、植物の枯れを防ぐことができるという効果が新たに見出された。つまり、本発明によれば、対象空間内に植物が存在する場合であっても、植物の枯れを防ぎつつ、対象空間内に存在する菌等の不活化を行うことができるという優れた効果を示す。このため、本発明によれば、事務所等に植物を設置している事業者に対しても、190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線を用いて菌やウイルスの不活化を行いやすくなり、感染症の拡大を防止する効果が得られるという意味で、社会的に優れた効果が期待できる。
【0020】
そして、本発明の方法で利用される紫外線は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外線本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外線光源とは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【0021】
前記対象空間に対する太陽光又は前記照明光源からの可視光の照射量が時間に応じて変化することで、前記対象空間内の照度が100lx以上を示す明環境時間帯と、前記対象空間内の照度が100lx未満を示す暗環境時間帯とが存在し、
前記明環境時間帯から前記暗環境時間帯に移行した後、前記暗環境時間帯内のいずれかの時点で前記照明光源を点灯する工程(b)を有し、
前記工程(a)が、前記工程(b)の後に実行されるものとしても構わない。
【0022】
例えば、対象空間が会議室、執務室、待合室、廊下等である場合、昼間の時間には、太陽光や建物内に設置された照明光源からの可視光が対象空間内に入射することで、対象空間内の照度が高いことが考えられる。一方、夜間の時間には、太陽光が入射せず、また執務時間外という理由で照明光源が消灯されている可能性があり、対象空間の照度が低いことが考えられる。このように、同じ対象空間であっても、相対的に照度の高い時間帯(明環境時間帯)と、相対的に照度の低い時間帯(暗環境時間帯)とが存在する場合がある。
【0023】
なお、上の説明では、明環境時間帯が昼間であり、暗環境時間帯が夜間である場合を例に挙げたが、この限りではない。例えば、対象空間が完全に屋外からの太陽光が遮蔽されている環境である場合には、設置されている照明光源が点灯している時間帯が「明環境時間帯」であり、消灯している時間帯が「暗環境時間帯」となる。
【0024】
暗環境時間帯において、対象空間内に存在する菌等の不活化を行うべく、紫外線を照射した場合には、上述した理由により植物の劣化を促進するおそれがある。しかし、上記方法によれば、暗環境時間帯内のいずれかの時点で照明光源が点灯した後、紫外線が照射されるため、少なくとも紫外線が照射されている時間帯においては、対象空間内の照度が高められている。この結果、植物に対する劣化の進行が抑制される。
【0025】
具体的な例を挙げて説明する。対象空間が事業体の会議室、執務室、待合室、建物の廊下等である場合、夜間の時間帯においては、執務時間外であることを理由に照明光源が消灯される場合が多い。また、この時間帯は太陽光も入射しない。よって、この時間帯は、「暗環境時間帯」に対応する。そして、この夜間の時間帯において、一時的に照明光源が点灯した後、紫外光源から紫外線が対象空間内に照射される。
【0026】
別の具体的な例を挙げて説明する。対象空間が、太陽光が届かない建物内の会議室である場合、昼間の時間帯であっても、会議が行われていない時間帯は照明光源が消灯されている。この時間帯は「暗環境時間帯」に対応する。一方、会議が行われている時間帯は、通常照明光源が点灯されている。JIS Z 9110:2010「照明基準総則」によれば、基本的な照明要件として、普通の視作業の場合が500lxとされているから、会議が行われている時間帯は対象空間内の照度が100lx以上であり、「明環境時間帯」に対応する。
【0027】
会議室において会議が終了した後、照明光源が消灯されることで、「明環境時間帯」から「暗環境時間帯」に移行する。その後、再び会議が開始されるまでの間は、暗環境時間帯が維持されるが、この暗環境時間帯内において、一時的に照明光源が点灯した後、紫外光源から紫外線が対象空間内に照射される。
【0028】
前記工程(b)は、前記明環境時間帯及び前記暗環境時間帯の少なくとも一方に関する時間帯情報に基づいて、現在時刻が前記暗環境時間帯に属することを確認した後、前記照明光源を点灯する工程であるものとしても構わない。
【0029】
例えば、暗環境時間帯が夜間である場合において、暗環境時間帯に関する時間帯情報として日の入時刻から日の出時刻までの時間帯としたり、対象空間を管轄する企業等の事業体の営業外時間帯とすることができる。
【0030】
より具体的には、前記照明光源は、前記時間帯情報が記録された記憶部、及び現在時刻を検知する時計部を備えており、
前記工程(b)は、前記記憶部から読み出された前記時間帯情報に基づき、前記時計部で検知された現在時刻が前記暗環境時間帯に属することを確認した後、前記照明光源を点灯する工程であるものとしても構わない。
【0031】
前記工程(a)は、予め定められた紫外線照射時間帯に前記対象空間内に対して前記紫外線を照射する工程を含み、
前記紫外線照射時間帯の少なくとも一部が前記暗環境時間帯に属する場合に、前記紫外線照射時間帯の経過後、前記紫外光源を実質的に消灯する工程(c)と、
前記工程(c)の後、点灯中の前記照明光源を実質的に消灯する工程(d)とを有するものとしても構わない。
【0032】
一例として、暗環境時間帯(ここでは便宜上、夜間とする。)内において、不活化のために紫外線を照射する時間帯(紫外線照射時間帯)を予め定めておく(例えば、午前0時~午前2時)。この例では、紫外線照射時間帯の全てが暗環境時間帯に属するため、紫外線照射時間帯の開始時刻よりも前に、照明光源が点灯した後、紫外光源から対象空間内に紫外線が照射される。そして、紫外線照射時間帯が終了すると、紫外光源からの紫外線の照射は終了されるが、引き続き夜間の時間帯であることから、照明光源が消灯される。
【0033】
なお、ここでいう「紫外光源を実質的に消灯する」とは、紫外光源を完全に消灯する場合は勿論、紫外光源の出力を最大出力の0.1%未満に減光する場合を含む。また、「照明光源を実質的に消灯する」とは、照明光源を完全に消灯する場合は勿論、対象空間内の照度が100lx未満の範囲内で低輝度状態で点灯している場合を含む。
【0034】
前記照明光源は、前記対象空間の全体に対して可視光を照射する第一照明光源と、前記植物に向かって局所的に可視光を照射する第二照明光源とを有し、
前記第二照明光源は、前記第一照明光源が消灯中であっても点灯可能な構成であり、
前記工程(a)は、少なくとも前記第二照明光源が点灯中に実行されるものとしても構わない。
【0035】
この方法によれば、例えば夜間において不活化処理を行う際、植物に向かって局所的に可視光を照射する第二照明光源を点灯させながら紫外線を照射することで、植物に対する劣化の進行が抑制できる。つまり、対象空間の全体に対して可視光を照射する第一照明光源を必ずしも点灯させる必要がないため、対象空間の外側に対する漏れ光が抑制でき、警備員等に対して、対象空間が電気の消し忘れ状態であると誤認識させるリスクを防止できる。
【0036】
前記第一照明光源が点灯状態から消灯状態に遷移した時点において、前記第二照明光源が消灯中である場合には、前記第二照明光源を点灯する工程(e)を有し、
前記工程(a)が、前記工程(e)の後に実行されるものとしても構わない。
【0037】
また、菌又はウイルスの不活化方法は、前記対象空間内の照度を検知する工程(f)を有し、
前記工程(a)は、前記工程(f)で検知された前記照度が、100lx以上の基準値以上である場合に前記紫外光源を点灯する工程であるものとしても構わない。
【0038】
「発明を実施するための形態」で後述するように、100lx以上の可視光照度が実現されている環境下であれば、対象空間内に植物が存在していても、紫外線が照射されることによる植物の劣化を抑制する効果が高い。なお、この効果は、照度が1000lx以上の基準値以上である場合には、より顕著に現れる。
【0039】
前記工程(a)は、前記工程(f)で検知された前記照度が前記基準値未満である場合、前記照明光源を点灯又は増光して前記基準値以上の前記照度を実現した後、前記紫外光源を点灯する工程を含むものとしても構わない。
【0040】
上記方法によれば、可視光の照度が基準値より低い時間帯、すなわち極めて暗い時間帯に、対象空間に対する不活化処理を行いたい場合においても、植物の劣化の進行を防ぎつつ不活化処理が行える。
【0041】
前記工程(f)は、照度計によって前記対象空間内の照度を検知する工程であり、
前記工程(a)は、前記照明光源に搭載された第一制御部が、前記照度計から送られた前記照度に関する情報に基づいて前記照明光源の光出力を制御する工程を含むものとしても構わない。
【0042】
上記方法によれば、例えば、対象空間が会議室、執務室、待合室等であって、執務時間外になったことで設置された照明光源が消灯された後(一般的に夜間)であっても、不活化処理のために紫外光源を点灯する際には、自動的に照明光源が点灯されるため、植物の劣化の進行を抑制できる。特に、人間が出入りしない時間帯において対象空間内に紫外線を照射して不活化処理を行うことで、光線過敏症を患っている人がいる等の事情により、人体に対して紫外線の照射を極力避けたい事情がある場合においても、不活化処理を行うことができる。ただし、上記の方法の場合には、紫外光源を常時点灯させておくと、照明光源も常時点灯することになる。このため、夜間等、人間の不在時に照明光源を常時点灯させたくない場合には、紫外光源を間欠的に点灯するように制御するのが好適である。この場合には、紫外光源が点灯するタイミングで照明光源を点灯させることができる。
【0043】
菌又はウイルスの不活化方法は、前記工程(f)で検知された前記照度が前記基準値未満である場合に、点灯中の前記紫外光源を実質的に消灯する工程(g)を含むものとしても構わない。
【0044】
対象空間に対する不活化処理のために紫外線が照射されている時間帯において、カーテンが閉じられた、室内の照明(照明光源)が消灯された等の理由により、対象空間内の照度が基準値未満になることが想定される。この場合、本方法のように点灯中の紫外光源を実質的に消灯することで、植物に対する劣化が抑制される。
【0045】
前記工程(f)は、照度計によって前記対象空間内の照度を検知する工程であり、
前記工程(g)は、前記紫外光源に搭載された第二制御部が、前記照度計から送られた前記照度に関する情報に基づいて前記紫外光源の光出力を制御する工程を含むものとしても構わない。
【0046】
上記方法によれば、対象空間内の照度が基準値よりも低くなった場合には、紫外光源が自動的に実質的な消灯状態へと移行するため、植物の劣化の進行を防止できる。
【0047】
前記工程(a)は、前記照明光源からの前記可視光が照射されている時間帯に前記紫外線を照射する工程であり、
前記紫外光源と前記照明光源は同一の筐体に収容されており、
前記第一制御部と前記第二制御部とが、前記筐体内に収容されて共通の制御部を構成するものとしても構わない。
【0048】
上記構成によれば、単一の筐体で構成された装置によって、植物の劣化を抑制しながら対象空間内の不活化処理を行うことが可能となる。この装置は、照明機能付きの不活化装置、又は不活化処理機能付きの照明装置である。
【0049】
前記工程(a)は、前記照明光源からの前記可視光が照射されている時間帯に前記紫外線を照射する工程であり、
前記照度計から送られた前記照度が前記基準値以上である場合において、
前記工程(a)は、前記第二制御部が前記紫外光源を増光する制御を行うと共に、前記第一制御部が前記照明光源を増光する制御を行う工程を含むものとしても構わない。
【0050】
上記方法によれば、不活化効果を高めるべく紫外光源の出力が高められる場合には、照明光源の可視光の出力も高められるため、不活化効果を高めつつも対象空間内に存在する植物の劣化の進行を抑制できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、植物の劣化の進行を抑制しながらも空間内の菌やウイルスの不活化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明に係る不活化方法が実施される場面の一例を模式的に示す図面である。
【
図2】紫外光源の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】本発明に係る不活化方法が実施される場面の別の一例を模式的に示す図面である。
【
図4】第一照明光源の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図5】本発明に係る不活化方法が実施される場面の別の一例を模式的に示す図面である。
【
図6】紫外光源の構成の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図7】本発明に係る不活化方法が実施される場面の別の一例を模式的に示す図面である。
【
図8】第一照明光源の構成の別の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図9】本発明に係る不活化方法が実施される場面の別の一例を模式的に示す図面である。
【
図10】照明光源と紫外光源を含む不活化装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図11】本発明に係る不活化方法が実施される場面の別の一例を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明に係る菌又はウイルスの不活化方法の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下では、「菌又はウイルスの不活化方法」を単に「不活化方法」と略記することがある。
【0054】
図1は、本発明に係る不活化方法が実施される場面の一例を模式的に示す図面である。
図1に示す例では、会議室等の部屋50内に対して、より詳細には、部屋50内に設置された机51、椅子52、壁紙53及び部屋50の空間内に対して、菌等の不活化を行う場面が図示されている。つまり、
図1に示す例では、部屋50が「対象空間」に対応する。
【0055】
部屋50には、紫外光源1が設置されている。紫外光源1は、190nm~235nmの範囲内に属する波長域に光強度を示す紫外線L1を出射可能な構成である。一例として、紫外光源1は、KrCl、KrBr、ArF等の発光ガスが封入されたエキシマランプで構成される。なお、紫外光源1は、上記波長の紫外線L1を発する構成であればよく、LEDやLD等の固体光源であっても構わないし、管壁に蛍光体が塗布された発光管内に発光ガスが封入されてなる誘電体バリア放電ランプであっても構わない。なお、紫外光源1から出射される紫外線L1は、波長240nm以上の波長域に対しては実質的に光強度を示さないものとして構わない。ここでいう「実質的に光強度を示さない」とは、190nm~235nmの波長域内の最大強度に対して、光強度が5%未満であることを意味し、3%未満であるのがより好適である。
【0056】
部屋50には、部屋50の全体を照明するために、可視光L2aを照射可能な照明光源2aが設置されている。この照明光源2aは「第一照明光源」に対応し、以下では適宜「第一照明光源2a」と称される。第一照明光源2aは、例えば部屋50の天井に取り付けられた蛍光灯や白色LEDである。
【0057】
図1に示すように、部屋50内には観賞用等の目的で植物40が設置されている場合がある。本実施形態では、この植物40に向かって局所的に可視光L2bを照射可能な照明光源2bが設置されている。この照明光源2bは「第二照明光源」に対応し、以下では適宜「第二照明光源2b」と称される。なお、第一照明光源2aと第二照明光源2bは、ともに可視光を照射する光源であり、これらを区別しない場合には単に「照明光源2」と総称することがある。この場合、第一照明光源2aから出射される可視光L2aと、第二照明光源2bから出射される可視光L2bとを、「可視光L2」と総称することがある。
【0058】
本実施形態では、対象空間(部屋50)の全体に対して可視光L2aが照射されている時間帯、又は、可視光L2aは照射されていない時間帯であって且つ第二照明光源2bから植物40に対して局所的に可視光L2bが照射されている時間帯に、紫外光源1から不活化目的の紫外線L1が照射される。
【0059】
例えば、
図2に示すように、紫外光源1は、紫外線L1を発するランプ15と、ランプ15に対して点灯に必要な電力を供給する点灯回路13と、ランプ15にして供給する電流又は電圧を調整するための制御部12とを備える。そして、
図2に示す例では、紫外光源1は、照明光源(2a,2b)の点灯/不点灯を検知する検知部14を備える。
【0060】
制御部12がランプ15を点灯させる制御を行う際、検知部14において照明光源(2a,2b)が点灯中であることが確認される。検知部14は、例えば、照明光源(2a,2b)に対する通電状態を検知することで、照明光源(2a,2b)が点灯中であるか否かを検知する。他の例として、照明光源(2a,2b)から点灯中であることを示す信号が検知部14に対して送信されることで、検知部14が照明光源(2a,2b)であることを検知するものとしても構わない。
【0061】
JIS Z 9110:2010「照明基準総則」によれば、基本的な照明要件として、普通の視作業の場合が500lxとされている。このため、通常、第一照明光源2aが点灯中の時間帯においては、部屋50は100lx以上の照度が実現されている。この時間帯は「明環境時間帯」に対応する。
【0062】
他方、第一照明光源2aが消灯中の時間帯においては、部屋50が外部から太陽光が入射されない場所に存在していたり、そもそも夜間であれば、部屋50の照度は100lx未満である蓋然性が高い。この時間帯は「暗環境時間帯」に対応する。
【0063】
本実施形態では、暗環境時間帯であっても、第二照明光源2bを点灯したり、一時的に第一照明光源2aを点灯することで、植物40に対して可視光(L2a,L2b)を照射しておき、植物40に対して可視光の照射が確認された状態で不活化のための紫外線L1を部屋50に照射する。このような方法を採用することで、植物40に対して紫外線L1が照射されても、植物40の劣化の進行が抑制できる。この理由について、実験結果を参照して説明する。
【0064】
部屋50を模擬した会議室内に、観葉植物として代表的なポット栽培型の白緑系アイビーを設置し、以下の照明モード#1~#3の下で、紫外光源1から会議室内に紫外線L1を照射したときの植物の状態を検証した。各照明モード#1~#3を表1に示し、結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
いずれのモードにおいても、紫外光源1としては、ピーク波長222nmの紫外線L1を発するKrClエキシマランプが採用された。本願出願日の時点においては、人体に対して1日(8時間)あたりの紫外線照射量に関して、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)等によって、波長ごとの許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。この基準によれば、波長222nmの紫外線に対しては、8時間で22mJという照射線量がTLVで定められているため、この照度を模擬する観点から、24時間で66mJの照射線量で紫外光源1から室内に対して紫外線L1を照射し続けた。
【0068】
モード#1は、午前7時~午後7時(昼間時間帯)の12時間にわたって、会議室内に設置された室内蛍光灯を点灯し、午後7時~午前7時(夜間時間帯)の12時間には、この室内蛍光灯を消灯する照明モードである。つまり、モード#1の場合、夜間時間帯においては、ほぼ真っ暗な環境下で紫外線L1が室内に照射された。室内蛍光灯としては、一般照明用の蛍光ランプ(JIS C 7601:2010に準用)が採用された。この室内蛍光灯は、第一照明光源2aを模擬したものである。
【0069】
モード#2は、24時間にわたって、会議室内に設置された室内蛍光灯を点灯する照明モードである。つまり、モード#2の場合、昼夜を問わず、室内蛍光灯が点灯されることで実現された明るい環境下で、紫外線L1が室内に照射された。なお、モード#2の夜間の会議室内の照度は100lx(ルクス)となるように設定された。
【0070】
モード#3は、24時間にわたって、会議室内に設置された室内蛍光灯を点灯すると共に、午後7時~午前7時(夜間時間帯)の12時間には、追加的にデスクライトを点灯して観葉植物に向かってデスクライトからの可視光を照射する照明モードである。つまり、モード#3の場合、昼夜を問わず、室内蛍光灯が点灯されることで実現された明るい環境下で紫外線L1が室内に照射されると共に、夜間においてはモード#2よりも観葉植物の近傍が明るくされていた。モード#3において、夜間の会議室内の慣用植物の近傍における照度は1000lx(ルクス)となるように設定された。なお、デスクライトとしては、420~800nmの波長範囲に光出力を示す、白色LED素子が内蔵された照明装置が利用された。このデスクライトは、第二照明光源2bを模擬したものである。
【0071】
各モード#1~#3について、それぞれ7日目、14日目、21日目、28日目、35日目における観葉植物の状態を確認した。
【0072】
表2に示すように、モード#1の場合、7日目には観葉植物の1割程度が日焼け状態となり、21日目には枯れ始めていた。更に、28日目においては、手で葉を触るとボロボロと崩れ落ちる状況であり、完全に枯れていた。
【0073】
モード#2の場合、7日目には観葉植物の0.5割程度が日焼け状態となったが、28日目においても、1割程度の日焼けで留まっていた。35日目には1.5割程度の日焼けが確認されたものの、枯れ始める状態には達していなかった。なお、モード#3の場合には、35日目においても日焼けが確認されず、観葉植物は実験開始前とほぼ同様の状態が維持されていた。
【0074】
なお、紫外光源1の輝度を高めて、24時間で100mJの照射線量で照射した点以外は同一の条件で実験を行ったところ、同じ現象が確認される経過日数が全体的に早まった以外は、表2と同様の結果が確認された。
【0075】
この実験結果から、可視光(L2a,L2b)が照射されていない時間帯に波長222nmの紫外線L1が植物に対して照射されると植物の劣化を進行させる作用が生じ、紫外線L1の照射時に植物に対して可視光(L2a,L2b)を照射させると植物の劣化の進行を抑制できるという結論に達する。この理由について、本発明者は以下のように推察している。
【0076】
まず、222nmを含む波長190nm~235nmの紫外線は、殺菌目的で一般的に利用されている波長254nmの紫外線とは異なり、人体に照射されてもほとんど影響を生じない。この理由としては、「背景技術」の項で上述したように、波長254nmの紫外線の場合には表皮の表面側に存在する角質層を透過してその下層内に存在する細胞のDNAに吸収されるが、波長190nm~235nmの紫外線は角質層をほとんど透過しないためである。
【0077】
ところで、観葉植物を初めとする植物についても、一般的に表皮細胞を有すると共に、表皮の外側には、埃や菌等の侵入を防ぐ目的で表皮を覆うクチクラ層やワックス層が存在している。このため、本発明者は、実験を行う前の段階では、波長190nm~235nmの紫外線を植物に対して照射しても、人体と同様の理由により、植物のクチクラ層等で吸収されるに留まり、植物の細胞核にまでは紫外線が到達せず、植物自体には大きな影響がないと考えていた。しかしながら、実際には、表2に示すようにモード#1の場合には観葉植物が枯れることが確認された。
【0078】
植物(特に葉の部分)には、クロロフィルP700と呼ばれる物質が含まれている。このクロロフィルP700は、光エネルギーが与えられるとP700*に励起された後、酸化によって電子(e-)が他へと伝達される。ここで、光合成が進行する環境下では、電子(e-)がNAPD+(ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸)に渡され、NADPHが生成される。他方、光合成の進行が阻害される環境下では、P700*が酸化する過程で生じた電子が酸素に与えられる結果、活性酸素が生成される。この活性酸素が植物に対して作用することで、植物が枯死したものと推察される。このことは、夜間に可視光が照射されていたモード#2やモード#3では、モード#1と比べて植物の劣化が抑制できていることとも整合するものである。
【0079】
以上により、上述したように、紫外光源1から不活化用の紫外線L1を部屋50内に照射する際に、事前に照明光源(2a,2b)の点灯状態を検知しておくことで、植物40の劣化の進行を抑制しながら、部屋50内の不活化を行えることが分かる。
【0080】
ところで、第一照明光源2aが点灯中の時間帯(明環境時間帯)の場合には、追加的に第二照明光源2bを点灯しなくても植物40に対して可視光が照射される。つまり、この時間帯に紫外線L1を照射することで、植物40に対する劣化の進行が抑制できる。
【0081】
かかる観点から、
図3に示すように、部屋50内に第一照明光源2aが設けられる一方で、第二照明光源2bは設けられていないものとしても構わない。この場合において、第一照明光源2aは、紫外線L1の照射処理が終了後に自動的に消灯するものとしても構わない。
【0082】
第一照明光源2aは、例えば
図4に示すように、白色の可視光L2aを発するLED素子25と、LED素子25に対して点灯に必要な電力を供給する点灯回路23と、LED素子25に対して供給する電流又は電圧を調整するための制御部22とを備える。また、第一照明光源2aは、記憶部26と時計部27と検知部28を備える。
【0083】
例えば部屋50が企業等の事業体によって管轄されている執務室等である場合、部屋50内の照度が相対的に高い時間帯(明環境時間帯)や、相対的に低い時間帯(暗環境時間帯)についての情報が、予め認識できる場合がある。典型的には、執務時間外である夜間や深夜の時間帯が暗環境時間帯に対応し、それ以外の時間帯が明環境時間帯に対応する。
【0084】
記憶部26は、前記明環境時間帯及び前記暗環境時間帯の少なくとも一方に関する時間帯情報が記録された記憶媒体で構成される。時計部27は、現在時刻を検知する機能を有しており、例えば現在時刻をサーバ(不図示)等から受信するインタフェースや、時計回路で構成される。
【0085】
検知部28は、紫外光源1が点灯中であるか否かを検知する。検知部28は、例えば、紫外光源1に対する通電状態を検知したり、紫外光源1から点灯中であることを示す信号を検知することで、紫外光源1の点灯状態を検知する。
【0086】
照明光源2aが点灯している時間帯において、紫外光源1から紫外線L1が部屋50内に照射されて、不活化処理が行われたとする。この不活化処理が完了すると、紫外光源1は消灯される。検知部28は、紫外光源1が不点灯になったことを検知すると、その旨の信号を制御部22に対して送信する。なお、紫外光源1は不活化処理に際して、周期的又は間欠的に点灯することがあり得るため、検知部28は、紫外光源1が所定時間以上(例えば20分以上)連続的に不点灯になったことを検知した場合に、その旨の信号を制御部22に対して送信するものとしても構わない。
【0087】
制御部22は、検知部28から紫外光源1が不点灯である通知を受けると、記憶部26から時間帯情報を読み出すと共に、時計部27で検知された現在時刻が、明環境時間帯か暗環境時間帯かを認識する。そして、現在時刻が暗環境時間帯である場合には、点灯回路23を制御してLED素子25を消灯する。これにより、不活化処理が行われない暗環境時間帯において、第一照明光源2aが点灯し続ける事態が解消する。この制御部22は「第一制御部」に対応する。
【0088】
なお、予め定められた時間帯(紫外線照射時間帯)に紫外光源1から紫外線L1が照射される態様である場合には、紫外線照射時間帯に関する情報が記憶部26に記録されていても構わない。この場合、紫外線照射時間帯の開始時刻から所定時間前(例えば5分前)の時刻から、紫外線照射時間帯の終了時刻から所定時間後(例えば5分後)の時刻までの間にわたっては、制御部22がLED素子25を連続的に点灯させるものとしても構わない。
【0089】
そして、紫外線照射時間帯の終了時刻が暗環境時間帯に属する場合には、終了時刻から所定時間(上記の例であれば5分)の経過後に、制御部22がLED素子25を自動的に消灯するものとしても構わない。
【0090】
なお、
図4に示す例では、第一照明光源2aがLED素子25を備える場合について説明したが、制御部22によって点灯制御が可能な態様であれば、蛍光灯等の他の光源であっても構わない。
【0091】
以上のように、紫外光源1から不活化用の紫外線L1を部屋50内に照射する際に、照明光源2(2a,2b)から植物40に対して可視光L2(L2a,L2b)を照射しておくことで、植物40の劣化の進行を抑制しながら、部屋50内の不活化を行えることが分かる。
【0092】
別の態様として、
図5に示すように、部屋50に設けられた照度計5によって部屋50内の照度を計測し、この計測結果に基づいて、紫外光源1からの紫外線L1の線量を調整するものとしても構わない。
【0093】
図6は、紫外光源1の構成の別の一例を模式的に示すブロック図である。
図6に示す紫外光源1は、照度計5からの照度情報d5を受信する受信部11と、紫外線L1を発するランプ15と、ランプ15に対して点灯に必要な電力を供給する点灯回路13と、ランプ15にして供給する電流又は電圧を調整するための制御部12とを備える。制御部12は、点灯回路13に対して制御信号を送信する制御手段であり、例えばCPU等のプロセッサと、情報を記憶するためのメモリを含んで構成される。制御部12は、受信部11において受信した照度情報d5が入力される。
図6において、制御部12は、「第二制御部」に対応する。
【0094】
制御部12は、照度情報d5に基づいて、照度計5が計測した照度が基準値未満である場合には、ランプ15を実質的に消灯するように点灯回路13に対して指示信号を出力する。なお、この場合、制御部12は、基準値に関する情報をメモリ内に保持しているものとして構わない。かかる構成によれば、植物40に対して照射される可視光L2の照度が低い場合には、紫外線L1の照射が実質的に停止されるため、植物40の劣化の進行を抑止できる。
【0095】
上述した実験の結果を参酌すれば、一例として基準値を100lxと設定することができる。この場合、植物40に対して照射される可視光L2の照度が100lx未満である場合には、紫外線L1の照射が停止されるものとしても構わない。なお、この基準値の値を高めるほど、植物40に対する劣化の進行を抑制する効果が高められる。ただし、この制御方法の場合、基準値の値をあまりに高くし過ぎると、そもそも紫外光源1がほとんど点灯せず不活化効果が実現しないおそれがある。
【0096】
JIS Z 9110:2010「照明基準総則」によれば、基本的な照明要件として、普通の視作業の場合が500lx、精密な視作業の場合が1000lx、超精密な視作業の場合が2000lxになるように推奨されている。このため、設定される基準値の上限としては、2000lx以下とするのが好ましく、典型的には1000lx以下とするのがより好ましい。
【0097】
上記の観点に立てば、部屋50には必ずしも照明光源2は不要である。例えば、
図7に示すように、カーテン58を開くことで太陽光57を部屋50内に照射可能な構成である場合には、この太陽光57の存在によって照度が基準値以上である場合に紫外光源1から紫外線L1を照射することで、植物40の劣化が抑制できる。一方、カーテン58が閉じられている等の理由により、照度計5で検知された部屋50の照度が、基準値未満を示す場合には、制御部12によって紫外光源1が実質的に消灯されるものとして構わない。
【0098】
また、
図5に示す態様において、照度計5で検知された照度結果に基づいて、照明光源2(2a,2b)の出力が制御されるものとしても構わない。
図8は、第一照明光源2aの構成の別の一例を模式的に示す図面であり、照度計5からの照度情報d5を受信する受信部21と、可視光L2aを発するLED素子25と、LED素子25に対して点灯に必要な電力を供給する点灯回路23と、LED素子25に対して供給する電流又は電圧を調整するための制御部22とを備える。制御部22は、受信部21において受信した照度情報d5が入力される。
【0099】
制御部22は、照度情報d5に基づいて、照度計5が計測した照度が基準値未満である場合には、LED素子25を点灯させる又は輝度を高めるように、点灯回路23に対して指示信号を出力することができる。この場合、制御部22は、基準値に関する情報をメモリ内に保持しているものとして構わない。かかる構成によれば、植物40に対して照射される可視光の照度が低い場合には、第一照明光源2aからの可視光L2aの照度が増加されるため、紫外線L1の照射による植物40の劣化の進行を抑止できる。
【0100】
なお、照度計5が部屋50に設置されている場合においても、
図3を参照して上述したのと同様に、第二照明光源2bが設置されていないものとしても構わない。
【0101】
また、上の説明では、照度計5が計測した照度に基づいて、第一照明光源2aの出力が制御される場合について説明した。しかし、部屋50に第二照明光源2bが設置されている場合には、照度計5が計測した照度に基づいて、第二照明光源2bの出力が制御されるものとしても構わない。
【0102】
更に、制御部22は、紫外光源1と照明光源2(2a,2b)の双方を制御するものとしても構わない。例えば、紫外光源1の制御部12(
図6参照)と、第一照明光源2aの制御部22(
図8参照)とが、共に照度計5の照度情報d5に基づいて、それぞれ各光源(1,2a)の光出力制御を行うものとしても構わない。第一照明光源2aに代えて又は第一照明光源2aと共に、第二照明光源2bに対して同様の制御が行われてもよい。
【0103】
また、
図9に示すように、紫外光源1と照明光源2とが共通の筐体に収容されてなる不活化装置3によって、部屋50内の不活化と可視光照明を行っても構わない。この場合、
図10に示すように、紫外線L1を発するランプ15の光出力の制御と、可視光L2を発するLED素子25の光出力の制御とを、共通の制御部12で制御するものとしても構わない。
【0104】
なお、不活化効果を高める際には、制御部22が、紫外光源1と照明光源2の双方を制御して、双方の光出力を高めるものとしても構わない。紫外線L1の強度が高まることで、部屋50の不活化効果を高めることができるが、この場合、植物40に対する劣化の速度が速まるおそれがある。これに対し、紫外線L1の強度に加えて可視光L2の強度についても高めることで、植物40に対する劣化の進行を抑制しながら、不活化効果を高めることができる。
【0105】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0106】
〈1〉上記実施形態では、可視光L2として白色光が想定されていた。しかし、上述した検証の結果に鑑みれば、少なくとも植物40に対して光合成の作用を奏することが期待される可視光であればよいと考えられる。すなわち、可視光L2としては、青色領域の成分(波長430~500nmの範囲内に属する)と赤色領域の成分(波長590~700nmの範囲内に属する)を少なくとも含む光であればよい。
【0107】
〈2〉上記実施形態では、不活化処理が行われる対象の空間として、
図1等に模式的に示したような会議室等の建物内の部屋50を例示した。しかし、対象の空間は、部屋50には限られず、人が出入りすることが予定されたあらゆる空間に対して本発明の適用が可能である。例えば、
図11に示すように、人7の通行が想定される建物の廊下60を不活化の対象空間としても構わない。
図11では、廊下60の天井に対して、紫外光源1と照明光源2とが設置されており、それぞれの光源から紫外線L1と可視光L2とが照射されている例が図示されている。この場合においても、廊下60に設置された植物40の劣化の進行を抑制しながら、廊下60内の不活化処理が行える。
【0108】
なお、不活化の対象空間としては、上述したように照明光源2が設置されておらず、太陽からの可視光L2の照射が可能な空間であっても構わない。このような空間の例として、ビニルハウス等が挙げられる。
【0109】
〈3〉上述した例では、紫外光源1が部屋50の天井に取り付けられている場合について説明したが、紫外光源1は部屋50の壁に取り付けられていても構わないし、机51等の上に設置されていても構わない。本発明において、紫外光源1の設置態様は限定されない。
【0110】
〈4〉紫外光源1及び照明光源2(2a,2b)は、それぞれ手動によって点灯制御がされても構わない。すなわち、暗環境時間帯内において、照明光源2(2a,2b)を手動で点灯した後、紫外光源1を手動で点灯するものとしても構わない。その後、紫外光源1を手動で消灯した後、照明光源2(2a,2b)を手動で消灯しても構わない。上述したように、紫外光源1は、人体への影響が抑制されている波長240nm未満の紫外線L1を発する構成であるため、仮に紫外線L1が照射中の部屋50内に、紫外光源1や照明光源2を消灯するために人7が入室しても、人7の人体に対する影響は生じない。
【0111】
なお、紫外光源1に対して、リモコン等で点灯/消灯制御が行える場合には、そもそも紫外線L1が照射中の部屋50内に人7が入室することなく、紫外光源1を手動で消灯することができる。
【0112】
〈5〉
図7の態様において、部屋50に照度計5が設置されていないものとしても構わない。この場合、例えば、昼間の時間帯に人7がカーテン58を開いた後、紫外光源1を手動で点灯することで、植物40に対する劣化の進行が抑制される。紫外光源1を消灯した後は、再びカーテン58を閉じるものとしても構わない。
【符号の説明】
【0113】
1 :紫外光源
2 :照明光源
2a :第一照明光源
2b :第二照明光源
3 :不活化装置
5 :照度計
7 :人
11 :受信部
12 :制御部
13 :点灯回路
14 :検知部
15 :ランプ
21 :受信部
22 :制御部
23 :点灯回路
25 :LED素子
26 :記憶部
27 :時計部
28 :検知部
40 :植物
50 :部屋
51 :机
52 :椅子
53 :壁紙
57 :太陽光
58 :カーテン
60 :廊下
L1 :紫外線
L2(L2a,L2b) :可視光