(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法及び多孔質シリコン材料
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240521BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20240521BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240521BHJP
H01M 4/38 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01G11/46
H01G11/86
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2021063540
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-214054(JP,A)
【文献】特開2005-116390(JP,A)
【文献】特表2017-533533(JP,A)
【文献】国際公開第2017/031006(WO,A1)
【文献】特表2019-513111(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0089755(US,A1)
【文献】国際公開第2020/194794(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0220170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/02
H01G 11/46
H01G 11/86
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnとSiとを含む溶融金属を10
3K/s以上の降温速度で急冷凝固させ前駆体を得る前駆体生成工程と、
前記前駆体に含まれるSnを除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と
、を含
み、
前記前駆体生成工程では、SEM観察によって得られるSiの平均粒径が150nm以下である前記前駆体を得る、多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体生成工程では、Snを35at%以上90at%以下の範囲で含む前記前駆体を得る、請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体生成工程では、前記溶融金属を10
4K/s以上の降温速度で急冷凝固させる、請求項1
又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔化工程では、酸溶液によって前記Snを除去する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
空孔率が70体積%以上90体積%以下であり、
5nm以上1000nm以下の範囲の細孔径分布を有し、
Snを
0.01at%以上1at%以下の範囲で含
み、
平均細孔径が150nm以下の範囲であり、
SEM観察によって得られるSiの平均粒径が150nm以下である、多孔質シリコン材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法及び多孔質シリコン材料を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機ナノ多孔体材料は、触媒、フィルターや各種電極材料など様々な機能性材料への応用が検討されている。中でもナノポーラスシリコンは、太陽電池の電極や二次電池用負極として検討されている。シリコンは、現在、リチウム二次電池に使用されている黒鉛負極と比べて10倍以上の理論容量を持つため、二次電池の高容量化を期待できる。しかし、リチウムの挿入脱離に伴い体積が3倍以上変化するため、サイクル特性の改善が課題である。ここで、多孔質シリコン材料は、シリコン中に細孔を有しており、Li挿入に伴う体積変化を細孔が緩和することにより、サイクル特性を改善するものが提案されている(例えば、非特許文献1など参照)。また、細孔サイズをコントロールして、数nm程度の規則的な細孔を導入することによって、フォトルミネッセンスを示すようになることから、太陽電池、フォトダイオードや固体レーザーなど様々な光エレクトロニクス材料としての応用も検討されている(例えば、非特許文献2,3など参照)。多孔質シリコン材料の製造方法としては、例えば、Siと他元素Aとの2元系合金を第3元素Bの溶湯に浸漬することによって、SiとAB合金に分離させ、その後他元素Aを選択除去し、多孔質シリコン多孔体材料を生産する方法が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。また、多孔質シリコン材料の製造方法としては、Al-Si合金溶湯を100K/sで急冷凝固したあと、酸処理によりAlを除去することにより多孔質シリコン材料を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/141230号
【文献】米国特許公開第2012/0129049号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nano Letter vol.14 (2014) 4505-4510
【文献】表面技術 vol.65 (2014) 12-17
【文献】分光研究 vol.6 (1994) 385-394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質シリコン材料を、例えば発光材料として用いる場合、不純物の存在は、発光効率低下の原因になりうるので、細孔径サイズや、そのサイズ分布に加えて組成制御も重要である。また、負極材料として用いる場合にも、不純物の存在は容量低下などの原因になる。上述した、特許文献1の製造方法では、酸処理後も1~20at%のA元素が残存する問題があった。Al-Si合金の急冷処理により多孔質シリコン材料を作製する場合、AlがSiに固溶し、多孔体中でのAl元素の含有量が多くなることがあった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、不要成分をより含まない新規な多孔質シリコン材料の製造方法及び多孔質シリコン材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Siに固溶しにくい元素を用いて、急冷、除去を行うと、不要な成分をより含まない多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本明細書で開示する多孔質シリコン材料の製造方法は、
SnとSiとを含む溶融金属を103K/s以上の降温速度で急冷凝固させ前駆体を得る前駆体生成工程と、
前記前駆体に含まれるSnを除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【0009】
本明細書で開示する多孔質シリコン材料は、
空孔率が70体積%以上90体積%以下であり、
5nm以上1000nm以下の範囲の細孔径分布を有し、
Snを1at%以下の範囲で含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、不要成分をより含まない新規な多孔質シリコン材料の製造方法及び多孔質シリコン材料を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、SnはSiにほとんど固溶しないことから、急速冷却した場合においても、SnとSiとの2相に分離するため、不純物含有量を減らすことができるものと推察される。このように、SnSi合金をベースとして、ナノサイズの細孔を有する多孔質シリコン材料を、1at%よりも低いSn含有量で、簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】前駆体の反射電子像のSEM画像及びSi粒子径と粒子数の関係図。
【
図2】実験例4~6の多孔質シリコン材料の二次電子像のSEM画像。
【
図3】実験例4~6の多孔質シリコン材料の細孔分布。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン粒子の製造方法は、前駆体生成工程と、多孔化工程とを含む。前駆体生成工程では、SnとSiとを含む溶融金属を103K/s以上の降温速度で急冷凝固させ前駆体を得る処理を行う。多孔化工程では、前駆体に含まれるSnを除去して多孔質シリコン粒子を得る処理を行う。
【0013】
(前駆体生成工程)
前駆体生成工程では、SnとSiとを含む原料を用いる。例えば、AxSi1-x合金において、元素AがSiに固溶しにくい場合であっても、1000K/s以上での急冷処理は非平衡プロセスであるため、Si元素中に僅かに元素Aが固溶することがある。特に、ナノ構造を微細化するために冷却速度を高めると固容量が増えて、多孔体中での元素Aの含有量が多くなる。共晶組織から純粋な多孔質シリコン材料を作製するためには、Siと固溶しにくい元素を選択する必要がある。ここでは、この元素Aとして、Siに固溶しにくいSnを用いる。SnとSiとの配合量は、例えば、Snを35at%以上90at%以下の範囲で含む原料を用いることが好ましく、50at%以上がより好ましく、60at%以上が更に好ましい。また、多孔性を高めるには、Snの配合量は、より多い方が好ましく、70at%以上や80at%以上としてもよい。また、Siの骨格構造の強度の観点からは、Sn量は少ない方が好ましく、85at%以下や75at%以下、65at%以下としてもよい。なお、残部は、Si及び不可避的不純物としてもよい。Snをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。
【0014】
この前駆体生成工程では、SnとSiとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上の添加元素を含む原料としてもよい。このうち、添加元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。添加元素は、SnやSiの配合量よりも少ないものとしてもよく、例えば、シリコン合金の全体に対して。10at%以下の範囲が好ましく、5at%以下の範囲としてもよい。
【0015】
この前駆体生成工程では、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で急冷するものとしてもよい。なお、溶融したシリコン合金を粒子化するものとしてもよい。ロール急冷法では、加熱溶融した溶湯に、不活性ガスを供給して高速回転する冷却ロールへ噴射することでリボン状の前駆体を得ることができる。冷却速度は、ノズル径d(mm)、ロール回転数R(rpm)ノズルとロールとの距離g(mm)を調節することによって、制御することができる。急冷速度は、より降温速度が大きい方が好ましく、103K/s以上とし、104K/s以上が好ましく、105K/s以上がより好ましく、106K/s以上が更に好ましい。この降温速度は、例えば、108K/s以下としてもよい。また、この工程で、シリコン合金を粒子化する場合は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。このとき、前駆体粒子は、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲とすることが好ましい。
【0016】
前駆体生成工程では、例えば、SEM観察によって得られるSiの平均粒径が150nm以下である前駆体を得ることがこのましい。Si粒子は、100nmを超える粗大粒子が存在してもよいが、100nm以下の微細粒子が多いことがより好ましい。この前駆体に含まれるSi粒子は、平均粒径が120nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、90nm以下であることが更に好ましい。この平均粒径は、降温速度の限界から、例えば、10nm以上であるものとしてもよい。この平均粒径は、SEM観察による反射電子像において、画像処理ソフトにより二値化し、Si粒子と認識される領域の大きさと数を計測し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。
【0017】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製した前駆体からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、Snや不純物などが挙げられる。この工程では、酸溶液によってSnなどを選択的に除去することが好ましい。用いる酸は、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、このうち、硝酸が好ましい。この酸溶液は、水溶液とすることが好ましい。酸の濃度は、Snを溶解除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上6mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、20℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の前駆体を酸溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0018】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、Snや酸素などは、残存しても構わないが、多孔質シリコン材料には不要成分であるため、より少ない方がより好ましい。この工程では、空孔率が70体積%以上90体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この多孔質シリコン材料の空孔率は、74体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、82体積%以上としてもよい。また、多孔質シリコン材料の空孔率は、88体積%以下が好ましく、86体積%以下としてもよい。この空孔率は、平均値とし、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0019】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものである。この多孔質シリコン材料は、空孔率が70体積%以上90体積%以下であり、5nm以上1000nm以下の範囲の細孔径分布を有し、Snを1at%以下の範囲で含むものである。多孔質シリコン材料は、空孔を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含むものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、空孔率が74体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、82体積%以上としてもよい。また、多孔質シリコン材料は、その空孔率が88体積%以下が好ましく、86体積%以下としてもよい。また、多孔質シリコン材料は、100nm以下の微細細孔と、100nmを超える粗大細孔とを有するものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、平均細孔径が150nm以下でることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、100nm以下としてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、その平均細孔径が10nm以上としてもよいし、20nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよい。平均細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0020】
この多孔質シリコン材料は、Snを1at%以下の範囲で含むものであるが、Snの含有量はより少ないことが好ましく、0.5at%以下が好ましく、0.2at%以下としてもよい。このSnの含有量は、例えば、0.01at%以上としてもよいし、0.05at%以上としてもよい。また、多孔質シリコン材料は、10質量%以下の範囲で添加元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。なお、Si以外の元素は、より少ないことが好ましい。なお、多孔質シリコン材料は、SnやSiのほか、不可避的不純物を含むものとしてもよい。
【0021】
多孔質シリコン材料は、平板状の形状としてもよいし、粒子状の形状としてもよい。この多孔質シリコン材料は、粒子状であるときは、平均粒径が0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子は、平均粒径が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。
【0022】
この多孔質シリコン材料は、蓄電デバイス用電極の活物質として利用することができる。また、この多孔質シリコン材料は、その多孔性を利用して、フォトルミネッセンスを示す光エレクトロニクス材料などに応用可能である。
【0023】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の多孔質シリコン材料を蓄電デバイス用電極に用いた際には、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などの蓄電デバイスに利用することができる。蓄電デバイス用電極において、多孔質シリコン材料の平均空孔率は、5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の空孔が減少したものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、その空孔率を5体積%以上50体積%以下の範囲で作製したものに比して、50体積%以上95体積%で作製したのち圧縮してこの範囲としたものの方が、空隙の形状などによって、より良好な充放電特性を示す。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン粒子の平均空孔率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、10体積%以上や、20体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の平均空孔率は、例えば、40体積%以下や30体積%以下としてもよい。
【0024】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状の電極合材にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合した電極合材を集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン粒子の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。電極合材の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0026】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒ
ドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、Li
CF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSi
F6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、
LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3S
O2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0027】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0028】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0029】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0030】
以上詳述したように、本開示では、不要成分をより含まない新規な多孔質シリコン材料の製造方法及び多孔質シリコン材料を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、互いに固溶しない2元系A-B状態図(共晶系)において、液相線が極小となる組成(共晶組成)物の融液を冷却凝固させるとA相とB相とが繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。このとき、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、1000K/s以上の冷却速度では、ナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から例えば酸処理などにより元素Aのみを選択除去することができれば、共晶組織の特徴を残した元素Bからなる材料を得ることが期待できる。急冷凝固試料の微細構造は、共晶組成付近で元素Aと元素Bとの仕込み組成を調整することで変化し、元素Bが連結構造を形成した状態になり、多孔体を作製できるものと推察される。合金中の元素AをSnとすると、1000K/sの高い冷却速度でも、SnはSiにほとんど固溶しないので、不純物含有量を減らすことができる。また、例えば、元素AをAlとする、Al-Si系から作製した多孔質シリコン中のAl元素に比して、例えば、Snの方が容量低下しにくく、例え残存してもAlよりもSnの方が有利であるものと推察される。このように、SnSi合金をベースとして、ナノサイズの細孔を有する多孔質シリコン材料を、1at%よりも低いSn含有量で、簡便に作製することができる。
【0031】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0032】
以下には、本開示の多孔質シリコン材料を具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例4~6が本開示の実施例であり、実験例1~3が参考例である。
【0033】
(多孔質シリコン材料の作製)
SiおよびSnの原料を所望の割合になる様に秤量し、Ar雰囲気中でアーク溶融させて、前駆体となる合金SnSi合金を作製した。SnSi合金を石英製のノズルにセットして、Ar雰囲気中で加熱融解させた。融液の入ったノズルに、Arガスを供給して高速回転する銅ロールに融液を噴射することで、リボン状の急冷凝固試料を作製した(単ロール法)。更に、急冷リボンを3~6mol%の硝酸水溶液に室温で、2時間浸漬しSnを除去した後、蒸留水で洗浄して、多孔質シリコン材料を得た。比較のため、SiおよびAlを所望の割合になる様に秤量し、Ar雰囲気中で溶融させてAlSi合金を作製した。AlSi合金を同様に急冷凝固してリボン状試料を作製し、3~6mol%の硝酸水溶液に室温で2時間浸漬して、シリコン多孔体試料を作製した。
【0034】
(実験例1~3)
単ロール法では、ロールの回転数r(1000~3000rpm)、ノズル先端の穴のサイズd(0.4~1.0mm)、ノズルとロールの間の距離g(0.3~10mm)などのパラメータを制御することで、冷却速度を制御した。回転数rは大きいほど、サイズdと距離gは小さいほど、冷却速度を大きくすることができる。まず、参考例として、AxSi1-x合金において、A=Al、x=0.83とする過共晶組成のAl0.83Si0.17に対して、上記パラメータを変化させることで、三水準の冷却速度で処理した試料を作製した(実験例1~3)。処理条件(1)は、最も急冷速度が速く、r=3000rpm、d=0.4mm、g=0.3mmとした。処理条件(2)は、中間の急冷速度であり、r=2000rpm、d=0.7mm、g=1.7mmとした。処理条件(3)は、最も急冷速度が低く、r=1000rpm、d=1.0mm、g=10mmとした。一般に、冷却速度は作製されたリボンの厚さに反比例することが知られており、リボンの厚みは冷却速度を判断する指標となる。(1)~(3)の条件で急冷処理したリボンの厚みをノギスで測定したところ、それぞれ30~40μm、70~90μm、150~200μmであり、それぞれ降温速度(冷却速度)は、1~3×106K/s、3~5×105K/s、及び6~10×104K/s程度に見積もられた。なお、冷却速度は、膜厚との比例関係と、主相であるSnに近い熱伝導度を有する複数の金属の冷却温度、箔厚の関係から推定した。
【0035】
(実験例4~6)
AxSi1-x合金において、A=Sn、x=0.815とする組成のSn0.815Si0.185を上記処理条件(1)で冷却したものを実験例4とした。また、AxSi1-x合金において、A=Sn、x=0.735とする組成のSn0.735Si0.265を上記処理条件(1)で冷却したものを実験例5とした。また、AxSi1-x合金において、A=Sn、x=0.645とする組成のSn0.645Si0.355を上記処理条件(1)で冷却したものを実験例6とした。
【0036】
(多孔質シリコン材料の物性評価)
まず、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)によって、酸処理前後の試料の微細構造を観察し、粒径や細孔の大きさ、形状、元素分析を行った。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を評価して、電子顕微鏡像と比較した。また、細孔径分布のグラフから、平均細孔径と、空孔率を評価した。
【0037】
(結果と考察)
図1は、酸処理前の実験例4~6の前駆体(急冷リボン)の反射電子像の電子顕微鏡写真と、Si粒子径と粒子数の関係図である。この
図1の黒い部分はSi粒子であり、酸処理後には細孔を隔てる隔壁部分になる。画像処理ソフトImage Jを用いて、この黒い部分の粒子サイズを測定して、粒子の分布を検討した。
図1(a)~(f)に示すように、SnSi系急冷リボンは、100nmよりも小さなナノ粒子と、100nm以上の粗大Si粒子とを含んでいた。ナノ粒子の分布範囲はSi含有量に依存せず、ほぼ一定だった。一方、粗大Si粒子の分布範囲は、Siの含有量が多い組成ほど広がることがわかり、Si含有量が多い組成では、平均粒子径が増大した。Si含有量が26at%以下の組成では、平均粒子径が100nmよりも小さかった。
【0038】
図2は、実験例4~6の多孔質シリコン材料の二次電子像のSEM画像である。
図2に示すように、実験例4~6では、10~50nm程度のナノ細孔部分と、100nmを超える粗大な細孔部分が混在しているのが確認された。
図3は、実験例4~6の水銀ポロシメータにより得られた細孔径分布である。実験例4~6において、細孔径分布は、100nmを超える粗大細孔部分と、それよりも小さなナノ細孔部分に分かれており、概ね電子顕微鏡での観察結果と一致した。細孔径分布の結果から、各試料の平均細孔径と空孔率を評価した。
【0039】
表1に、実験例1~6の組成、急冷条件、AxSi1-x合金における元素Aの残存量(at%)、平均細孔径(nm)及び空孔率(体積%)をまとめた。実験例1のAl0.83Si0.17では処理速度が高く薄い試料では、ナノサイズの平均細孔径を得られたが、Al残存量が多かった。処理条件(3)で処理した実験例3では、酸処理後のAlの残存量が1at%程度であったが、ナノ細孔を得られず、Al元素の除去と細孔径の抑制を両立できなかった。一方、SnSi系では、急冷処理速度の高い処理条件(1)で処理した場合でも、酸処理後のSnの残存量は1at%よりも小さく、ナノ細孔を有することが分かった。
【0040】
このように、熔融したSnSi合金を急冷して得られた前駆体から、Snを除去するものとすれば、不要な成分をより低減しつつ、ナノサイズの細孔を有する多孔質シリコン材料を容易に得ることができることがわかった。また、このように、不要成分を低減した多孔質シリコン材料は、例えば、二次電池の活物質や、フォトルミネッセンスを示す光エレクトロニクス材料などに応用可能であることが期待された。
【0041】
【0042】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示は、多孔質材料の技術分野に利用可能である。