(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】燃料電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0444 20160101AFI20240521BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240521BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240521BHJP
H01M 8/04664 20160101ALI20240521BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240521BHJP
【FI】
H01M8/0444
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/04664
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021064157
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅田 裕之
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220094(JP,A)
【文献】特開2020-181665(JP,A)
【文献】特開2012-038455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムの制御方法であって、
燃料電池セルの
所定の運転状態における所定の電流密度での発電電圧を測定する測定工程と、
前記燃料電池セルの
前記所定の運転状態における前記所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係から、前記測定工程で測定した前記発電電圧での電極触媒の被毒率を算出する第1算出工程と、
前記燃料電池セルの
前記所定の運転状態における前記所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係から、前記第1算出工程で算出した前記電極触媒の被毒率での過酸化水素の発生率を算出する第2算出工程と、を備えることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項2】
前記第2算出工程で算出した前記過酸化水素の発生率が規定値α以上である場合に、前記燃料電池セルの電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる電位変動運転を行う電位変動運転工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池では、発電時において、主反応(2H++2e-+(1/2)O2→H2O)の他に副反応(2H++O2+2e-→H2O2)が生じる。副反応で生成する過酸化水素(H2O2)が膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assemblies)に不純物として流入したFeと反応することで、ラジカルが生成する。ラジカルが電解質膜を攻撃することで電解質材料が破壊される。その結果、プロトン(H+)の伝導性の低下による性能の低下が起きることがある。さらに、電解質材料が過度に破壊される結果、電解質膜に穴が開き、水素がアノードからカソードに漏れ出し、燃費の低下が起きることもある。最も好ましくないケースでは、車両が走行停止に至ることもある。これらの問題を回避するために、種々の発明が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Ti(SO4)2を電解質材料に予め添加しておくことにより、過酸化水素を補足、錯体化し、燃料電池セルから取り除くという手段が記載されている。また、特許文献2には、電解質膜の縁部で表面を電極で被覆されていない部位をシール部材によって被覆し、シール部材の少なくとも電解質膜を被覆する部分には過酸化物分解触媒を添加するという手段が記載されている。
【0004】
特許文献1及び2等に記載された手段では、燃料電池セルで過酸化水素が発生した後に、過酸化水素を補足しセルから取り除くか、又は過酸化水素を分解することにより、過酸化水素を無害化している。しかしながら、これらの手段は、いずれも過酸化水素の発生後の対策を講じるものであり、過酸化水素の発生前に対策を講じるものではない。また、過酸化水素を無害化するために特殊な添加物をセルに用いる必要があるため、添加によるコスト面や性能面への背反の影響を十分に考慮する必要がある。さらに、過酸化水素が想定以上に発生した場合には、過酸化水素の発生量を外部から診断することができないので、燃料電池の稼働前に添加した添加物の量が過酸化水素を十分に無害化するために必要な量として適正な量であるか否かが不明瞭となる。
【0005】
これに対し、特許文献3では、燃料電池セルにおいて、1)過酸化水素の発生率は、電極触媒の被毒率が閾値γ未満である場合には軽微であること、及び2)燃料電池セルの電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる電位変動運転により電極触媒の被毒率を低減できることという、2つの知見を利用することにより、過酸化水素の発生自体を抑制する燃料電池システムの制御方法が記載されている。この方法では、サイクリックボルタンメトリーにより得られる還元波及び酸化波の曲線から電極触媒の被毒率を見積り、電極触媒の被毒率が閾値以上である場合には過酸化水素の発生率が規定値以上となり急激に高くなると推定する。そして、その場合に、燃料電池セルの電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる電位変動運転を行い、電極触媒の被毒率を低減することにより、電極触媒の過酸化水素の発生率を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-12375号
【文献】特開2008-218100号
【文献】特開2020-181665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された燃料電池システムの制御方法では、例えば、車両出荷時や車両点検時等に外部測定機を燃料電池セルに接続した上で、外部測定機を使用し、サイクリックボルタンメトリーでの測定により燃料電池セルの電極触媒の被毒率を診断する必要がある。このような被毒率の診断作業は、煩雑であり、特に車両出荷時には面倒な作業となる。このため、より簡便に過酸化水素の発生率を推定する方法が求められている。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より簡便に過酸化水素の発生率を推定できる燃料電池システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の燃料電池システムの制御方法は、燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池セルの所定の電流密度での発電電圧を測定する測定工程と、上記燃料電池セルの上記所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係から、上記測定工程で測定した上記発電電圧での電極触媒の被毒率を算出する第1算出工程と、上記燃料電池セルの電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係から、上記第1算出工程で算出した上記電極触媒の被毒率での過酸化水素の発生率を算出する第2算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の燃料電池システムによれば、より簡便に過酸化水素の発生率を推定できる。
【0011】
上記燃料電池システムにおいては、上記第2算出工程で算出した上記過酸化水素の発生率が規定値α以上である場合に、上記燃料電池セルの電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる電位変動運転を行う電位変動運転工程をさらに備えるものでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より簡便に過酸化水素の発生率を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法を実施する燃料電池システムを示す概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係る燃料電池セルの電極触媒の被毒率を説明するグラフである。
【
図3】一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法のフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係る燃料電池セルの所定の運転状態における所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係の例を示すグラフである。
【
図5】一実施形態に係る燃料電池セルの所定の運転状態における所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係の例を示すグラフである。
【
図6】一実施形態に係る電位変動運転における燃料電池セルの電位変動を示すグラフである。
【
図7】一実施形態に係る燃料電池セルの電位変動のサイクル回数及び電極触媒の被毒率の関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の燃料電池システムの制御方法に係る実施形態について説明する。
実施形態に係る燃料電池システムの制御方法は、燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池セルの所定の電流密度での発電電圧を測定する測定工程と、上記燃料電池セルの上記所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係から、上記測定工程で測定した上記発電電圧での電極触媒の被毒率を算出する第1算出工程と、上記燃料電池セルの電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係から、上記第1算出工程で算出した上記電極触媒の被毒率での過酸化水素の発生率を算出する第2算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
最初に、実施形態に係る燃料電池システムの制御方法の概略について、一実施形態を例示して説明する。
【0016】
(燃料電池システム)
一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法を説明する前に、当該制御方法を実施する燃料電池システムについて説明する。
図1は、一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法を実施する燃料電池システムを示す概略構成図である。
【0017】
図1に示すように、一実施形態に係る燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料電池コンバータ200と、二次電池300と、二次電池コンバータ400と、DC/ACインバータ500と、駆動モータ600と、制御部700とを備えている。
【0018】
燃料電池システム10は、燃料電池導線EW1と、二次電池導線EW2と、直流導線EW3とをさらに備えている。燃料電池導線EW1は、燃料電池100及び燃料電池コンバータ200を電気的に接続している。二次電池導線EW2は、二次電池300及び二次電池コンバータ400を電気的に接続している。直流導線EW3は、燃料電池コンバータ200及び二次電池コンバータ400をDC/ACインバータ500に対して並列に接続している。
【0019】
燃料電池100は、固体高分子形燃料電池であり、直流の電力を発電する。燃料電池100は、燃料電池セル110において外部から供給された水素ガス及び酸素ガスを電気化学反応で反応させることにより発電する。燃料電池100で発電した電力は、燃料電池導線EW1を介して、燃料電池コンバータ200及び二次電池コンバータ400やDC/ACインバータ500に入力される。なお、燃料電池システム10は、図示しないが、外部から燃料電池セル110に水素ガスを供給し、水素ガスの供給量を調整できるガス供給部と、外部から燃料電池セル110に酸素ガスを供給し、酸素ガスの供給量を調整できるガス供給部とをさらに備えている。
【0020】
燃料電池100は、発電の単位モジュールである同一の燃料電池セル110が複数積層されたスタック構造を有している。各燃料電池セル110は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜を有している。各燃料電池セル110は、例えば、電解質膜の一方側にアノード電極を、電解質膜の他方側にカソード電極を有している。アノード電極は、アノード側の電極反応が進行する反応場であり、電解質膜との接触面の近傍に電極反応を促進する触媒を含んでいる。カソード電極は、カソード側の電極反応が進行する反応場であり、アノード電極と同様に電解質膜との接触面の近傍に触媒を含んでいる。ここで、「電極触媒」とは、カソード電極の触媒を指す。
【0021】
燃料電池コンバータ200は、燃料電池100から入力される電圧を目標電圧まで昇圧して出力する昇圧型コンバータである。燃料電池コンバータ200は、直流導線EW3を介してDC/ACインバータ500と電気的に接続されている。
【0022】
二次電池300は、燃料電池100とともに燃料電池システム10の電力源として機能する。二次電池300は、燃料電池100で発電した電力を充電する。また、二次電池300は、充電した電力を駆動モータ600へ入力する。二次電池300は、リチウムイオン電池によって構成される。二次電池300は、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池など他の種類の電池であってもよい。
【0023】
二次電池コンバータ400は、昇降型のコンバータ装置であり、燃料電池コンバータ200と類似の構成を有している。二次電池コンバータ400は、二次電池導線EW2の電圧を調整し、二次電池300の充放電を制御する。二次電池コンバータ400は、燃料電池コンバータ200の出力電力が目標に対して不足する場合には、二次電池300に放電させる。一方、二次電池コンバータ400は、駆動モータ600で回生電力が発生する場合には、二次電池300に回生電力を充電させる。なお、二次電池コンバータ400は、燃料電池コンバータ200とは異なる構成を有していてもよい。
【0024】
DC/ACインバータ500は、燃料電池100及び二次電池300から直流導線EW3を介して直流で供給される電力を三相交流の電力に変換する。DC/ACインバータ500は、交流導線を介して駆動モータ600と電気的に接続し、三相交流電力を駆動モータ600に供給する。また、DC/ACインバータ500は、制御部700からの指示により、駆動モータ600で発生した回生電力を、直流電力に変換した上で、直流導線EW3を介して二次電池300に入力する。
【0025】
駆動モータ600は、燃料電池システム10の主動力源を構成している。駆動モータ600は、DC/ACインバータ500から供給される三相交流電力を回転動力に変換する電動機である。
【0026】
燃料電池システム10は、第1電圧測定部VM1と、電流測定部IMと、第2電圧測定部VM2とをさらに備えている。第1電圧測定部VM1及び電流測定部IMは、燃料電池導線EW1に設置されている。第2電圧測定部VM2は、直流導線EW3に設置されている。第1電圧測定部VM1は、燃料電池100の出力電圧を測定し、測定した出力電圧を信号で制御部700に入力する。電流測定部IMは、燃料電池100の出力電流を測定し、測定した出力電流を信号で制御部700に入力する。第2電圧測定部VM2は、燃料電池コンバータ200の出力電圧を測定し、測定した出力電圧を信号で制御部700に入力する。
【0027】
制御部700は、燃料電池システム10の各構成要素を制御する。制御部700は、燃料電池システム10の各構成要素を制御する機能部としての被毒対策処理部710を有している。後述する燃料電池システムの制御方法において、制御部700の被毒対策処理部710は、燃料電池100の出力電圧に基づいて、電極触媒の被毒率を算出する。被毒対策処理部710は、算出した電極触媒の被毒率に基づいて、過酸化水素の発生率を算出する。被毒対策処理部710は、算出した過酸化水素の発生率に基づいて、電位変動運転を行うかどうかを決めるための判定を行う。被毒対策処理部710は、その判定の結果次第で、燃料電池100の出力電圧及び出力電流に基づいて、電位変動運転を行う。
【0028】
(燃料電池セルの電極触媒の被毒率)
続いて、一実施形態に係る燃料電池セル110の電極触媒の被毒率について説明する。
図2は、一実施形態に係る燃料電池セルの電極触媒の被毒率を説明するグラフである。
【0029】
図2には、サイクリックボルタンメトリーでの測定により燃料電池セルの電位を掃引した状態の電流密度の変化が示されている。
図2において、La1及びLa2は、燃料電池セル110の電極触媒が有機物等の被毒原因物質により被毒している状態の電流密度を示す曲線であり、La1は、燃料電池セル110の電位を高電位から低電位に掃引すると生じる還元波を示し、La2は、燃料電池セル110の電位を低電位から高電位に掃引すると生じる酸化波を示す。一方、Lb1及びLb2は、燃料電池セル110の電極触媒が被毒していない状態の電流密度を示す曲線であり、Lb1は、燃料電池セル110の電位を高電位から低電位に掃引すると生じる還元波を示し、Lb2は、燃料電池セル110の電位を低電位から高電位に掃引すると生じる酸化波を示す。
【0030】
図2に示すように、Lb1では、燃料電池セル110の電位が0.9V付近となる時に電流密度が最大となる。電流密度が最大となる時の電位は、燃料電池セル110の電極触媒に対する発電に必要な酸素の吸着率が最大となる電位である。燃料電池セル110の電極触媒が有機物等の被毒原因物質により被毒している場合、電極触媒への酸素の吸着が阻害される。これにより、La1では、燃料電池セル110の電位が0.9Vとなる時の電流密度がLb1と比較して矢印Aに示すように減少することになる。燃料電池セル110の電極触媒の被毒率は、矢印Aに示す電流密度の減少量に基づいて見積もることができる。一方、La1及びLb1において、燃料電池セル110の電位が0.4V付近となる時に燃料電池セル110の電極触媒に対する酸素の吸着率は最小となる。
【0031】
なお、燃料電池セル110の電極触媒が被毒していない状態とは、燃料電池セル110の電極触媒が被毒している一状態(後述するように電極触媒の被毒率が70%となっている状態)から後述する電位変動運転を行った場合において、電位変動をサイクル回数が100回となるまで繰り返し、燃料電池セル110の電位が上記0.9V付近となる時の電流密度がサーチュレートとした時の状態を指す。
【0032】
以上のことから、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率については、PaをLa1における電位が0.9Vとなる時の電流密度とし、Pa0をLa1における電位が0.4Vとなる時の電流密度とし、PbをLb1における電位が0.9Vとなる時の電流密度とし、Pb0をLb1における電位が0.4Vとなる時の電流密度とした場合に、式(1)で規定される。
電極触媒の被毒率=(1-(Pa-Pa0)/(Pb-Pb0))×100 (1)
【0033】
Pa0及びPb0は、燃料電池セル110の電極触媒自体の特性で定まり、電極触媒の被毒の有無にかかわらず一定となる。また、Pbは、燃料電池セル110の電極触媒が被毒していない場合の電流密度であるため一定となる。一方、Paは、燃料電池セル110の電極触媒の被毒が進行するのに伴いPbに対して減少する。このため、PbからPb0を引いた差分(Pb-Pb0)は一定となるのに対して、PaからPa0を引いた差分(Pa-Pa0)は、燃料電池セル110の電極触媒の被毒が進行するのに伴い減少する。従って、式(1)で規定される電極触媒の被毒率は、燃料電池セル110の電極触媒が被毒していない状態では、0%となり、電極触媒の被毒が進行するのに伴い高くなる。
【0034】
なお、Pa及びPbとしては、電極触媒の被毒率を規定できる電流密度であれば特に限定されず、それぞれLa1及びLb1における電位が上記0.9V付近となる時の電流密度でよいので、電位が0.9V以外の値(例えば、0.85V)となる時の電流密度でもよい。同様に、Pa0及びPb0としては、電極触媒の被毒率を規定できる電流密度であれば特に限定されず、それぞれLa1及びLb1における電位が上記0.4V付近となる時の電流密度でよいので、電位が0.4V以外の値(例えば、0.3V)となる時の電流密度でもよい。
【0035】
(燃料電池システムの制御方法)
続いて、一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法について説明する。
図3は、一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法のフローチャートである。
【0036】
一実施形態に係る燃料電池システムの制御方法では、まず、
図3に示すように、インラインにより、燃料電池セル110の所定の運転状態における所定の電流密度(例えば、2.0A/cm
2)での発電電圧を測定する(測定工程S10)。
【0037】
具体的には、測定工程S10では、制御部700の被毒対策処理部710が、出力要求に応じて、燃料電池システム10を制御することで燃料電池セル110への水素ガス及び酸素ガスの供給量の調整などを行うことにより、電流測定部IMで測定される燃料電池100の出力電流の電流密度を上記所定の電流密度に掃引し、その時に第1電圧測定部VM1で測定される燃料電池100の出力電圧から燃料電池セル110の発電電圧を求める。この際、燃料電池セル110の発電電圧は、被毒対策処理部710が燃料電池100の出力電圧を燃料電池セル110の積層数で割ることで算出される。
【0038】
次に、
図3に示すように、燃料電池セル110の上記所定の運転状態における上記所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係から、測定工程S10で測定した上記発電電圧での電極触媒の被毒率を算出する(第1算出工程S20)。
【0039】
具体的には、制御部700の被毒対策処理部710が、燃料電池セル110の上記所定の運転状態における上記所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の関係を第1制御用情報として予め記憶している。第1算出工程S20では、被毒対策処理部710が、第1制御用情報から、測定工程S10で測定した上記発電電圧での電極触媒の被毒率を算出する。
【0040】
ここで、
図4は、一実施形態に係る燃料電池セルの所定の運転状態における所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係の例を示すグラフである。
図4には、燃料電池セル110の相対湿度165%RHの運転状態における電流密度0.2A/cm
2及び2.0A/cm
2での発電電圧及び電極触媒の被毒率の予め定められた関係が示されている。これらの発電電圧及び電極触媒の被毒率の関係は、非常に良い相関を有している。燃料電池セル110の所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の関係は、燃料電池セル110の材料及び相対湿度や温度並びに燃料電池システム10の構成等の条件で定まる運転状態に応じて変化する。このため、制御部700の被毒対策処理部710は、運転状態ごとの第1制御用情報(燃料電池セル110の所定の電流密度での発電電圧及び電極触媒の被毒率の関係)を予め記憶させておくことにより、運転状態に応じて、適宜、第1制御用情報を選択して用いることができる。
【0041】
次に、
図3に示すように、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率及び過酸化水素(H
2O
2)の発生率の予め定められた関係から、第1算出工程S20で算出した上記電極触媒の被毒率での過酸化水素の発生率を算出する(第2算出工程S30)。
【0042】
具体的には、制御部700の被毒対策処理部710が、燃料電池セル110の上記所定の運転状態における上記所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の関係を第2制御用情報として予め記憶している。第2算出工程S30では、被毒対策処理部710が、第2制御用情報から、第1算出工程S20で算出した上記電極触媒の被毒率での過酸化水素の発生率を算出する。
【0043】
なお、「過酸化水素の発生率」とは、発電で発生する水の発生量[mol]と過酸化水素の発生量[mol]の和で過酸化水素の発生量[mol]を割った商に100を掛けた値[%]を指す。
【0044】
ここで、
図5は、一実施形態に係る燃料電池セルの所定の運転状態における所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係の例を示すグラフである。
図5には、燃料電池セル110の相対湿度165%RHの運転状態における電流密度0.2A/cm
2での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の予め定められた関係が示されている。燃料電池セル110の所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の関係は、燃料電池セル110の運転状態に応じて変化する。このため、制御部700の被毒対策処理部710は、運転状態ごとの第2制御用情報(燃料電池セル110の所定の電流密度での電極触媒の被毒率及び過酸化水素の発生率の関係)を予め記憶させておくことにより、運転状態に応じて、適宜、第2制御用情報を選択して用いることができる。
【0045】
一実施形態によれば、例えば、車両出荷時や車両点検時等の検査において、以上のようにインライン測定可能な燃料電池セル110の発電電圧から燃料電池セル110の過酸化水素の発生率を推定できるので、より簡便に燃料電池セル110の過酸化水素の発生率を推定できる(効果1)。さらに、例えば、電流密度が0.2A/cm2~2.0A/cm2といった広い範囲において、燃料電池セル110の発電電圧及び電極触媒の被毒率の関係が非常に良い相関を有するため、広い範囲の電流密度において過酸化水素の発生率を推定可能であり、車両の検査工程の簡略化を実現できる(効果2)。
【0046】
一実施形態に係る制御方法では、次に、
図3に示すように、第2算出工程S30で算出した過酸化水素の発生率が予め定められた規定値α以上か否かを判定する(判定工程S40)。具体的には、制御部700の被毒対策処理部710が、規定値αを予め記憶している。被毒対策処理部710が、第2算出工程S30で算出した過酸化水素の発生率が規定値α以上か否かを判定する。
【0047】
ここで、燃料電池セル110の過酸化水素の発生率について予め定められた規定値αについて説明する。
図5に示す例のように、過酸化水素の発生率は、電極触媒の被毒率が閾値γ未満である場合には軽微である。一方、過酸化水素の発生率は、電極触媒の被毒率が閾値γ以上である場合には電極触媒の被毒率の増加に伴って急激に高くなる。規定値αは、電極触媒の被毒率が閾値γである場合の過酸化水素の発生率の値である。規定値αは、燃料電池セル110の電流密度及び運転状態に応じて変化する。このため、制御部700の被毒対策処理部710は、電流密度及び運転状態ごとの規定値αを予め記憶させておくことにより、燃料電池100の電流密度及び運転状態に応じて、適宜、規定値αを選択して用いることができる。
【0048】
次に、
図3に示すように、第2算出工程S30で算出した過酸化水素の発生率が規定値α以上である場合に、燃料電池セル110の電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる電位変動運転を行う(電位変動運転工程S50)。ここで、「燃料電池セルの電位」とは、燃料電池セルのアノード電極に対するカソード電極の電位を指す。
【0049】
具体的には、電位変動運転工程S50では、制御部700の被毒対策処理部710が、判定工程S40で過酸化水素の発生率が規定値α以上であると判定した場合に電位変動運転を行う。電位変動運転工程S50後には、被毒対策処理部710が、再び測定工程S10を実行する。一方、
図3に示すように、被毒対策処理部710は、判定工程S40で過酸化水素の発生率が規定値α以上でないと判定した場合に燃料電池システムの制御を終了する。
【0050】
以下、一実施形態に係る電位変動運転について説明する。
図6は、一実施形態に係る電位変動運転における燃料電池セルの電位変動を示すグラフである。
【0051】
電位変動運転では、燃料電池セル110の電位を高電位及び低電位の間で繰り返し変動させる。具体的には、制御部700の被毒対策処理部710が、燃料電池システム10を制御することで燃料電池セル110への水素ガス及び酸素ガスの供給量の調整などを行うことにより、
図6に示すように燃料電池セル110の電位が高電位(例えば、0.9V)及び低電位(例えば、0.1V)の間で繰り返し変動するように、電流測定部IM及び第1電圧測定部VM1でそれぞれ測定される燃料電池100の出力電流及び出力電圧を変動させる。これにより、燃料電池セル110の電位が高電位となる時には、電極触媒に付着した有機物等の被毒原因物質が酸化除去され、燃料電池セル110の電位が低電位となる時には、電極触媒への被毒原因物質の付着力が低減するとともに、燃料電池セル110で出力される電流が増大することで燃料電池セル110の内部で生成される水分量が増大する結果、生成水により被毒原因物質を洗い流す作用が向上する。よって、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率を低減できる。この結果、燃料電池セル110の過酸化水素の発生率を低減できる。これにより、電解質膜の破損を抑制できる。
【0052】
燃料電池セル110の電位変動の高電位としては、有機物等の被毒原因物質の除去作用が得られれば特に限定されないが、例えば、0.8V以上1.0V以下の範囲内が好ましい。高電位がこの範囲の下限以上であることにより、電極触媒の被毒率を効果的に低減できるからである。高電位がこの範囲の上限以下であることにより、電極触媒の劣化を抑制できるからである。燃料電池セル110の電位を繰り返し変動させる時の低電位としては、有機物等の被毒原因物質の除去作用が得られれば特に限定されないが、例えば、0.1V以上0.2V以下の範囲内が好ましい。低電位がこの範囲の下限以上であることにより、生成される水分量が過剰となることを抑制できるからである。高電位がこの範囲の上限以下であることにより、生成水により被毒原因物質を洗い流す作用を効果的に向上できるからである。
【0053】
ここで、
図7は、一実施形態に係る燃料電池セルの電位変動のサイクル回数及び電極触媒の被毒率の関係の例を示すグラフである。
図7には、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率が70%である初期状態からの燃料電池セル110の電位変動のサイクル回数に対する電極触媒の被毒率の関係が示されている。
【0054】
図7に示すように、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率は、電位変動のサイクル回数に反比例するように減少する。そして、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率は、電位変動のサイクル回数を100回とした場合に0%に減少する。また、
図7に示す関係から、燃料電池セル110の電極触媒の被毒率を37%から閾値γ未満である20%まで減少させるためには、燃料電池セル110の電位変動のサイクル回数を20回とする必要があることがわかる。
【0055】
燃料電池セル110の電位を繰り返し変動させる電位変動の1サイクルの時間としては、有機物等の被毒原因物質の除去作用が得られれば特に限定されないが、例えば、3秒以上10秒以下の範囲が好ましい。電位変動の1サイクルの時間がこの範囲内であることにより、被毒原因物質の除去作用が効果的となるからである。
【0056】
以上、本発明の燃料電池システムの制御方法に係る実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0057】
10 燃料電池システム
100 燃料電池
110 燃料電池セル
200 燃料電池コンバータ
300 二次電池
400 二次電池コンバータ
500 DC/ACインバータ
600 駆動モータ
700 制御部
710 被毒対策処理部
EW1 燃料電池導線
EW2 二次電池導線
EW3 直流導線
VM1 第1電圧測定部
VM2 第2電圧測定部
IM 電流測定部