(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ラダーフレームの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02F 7/00 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
F02F7/00 301F
F02F7/00 F
F02F7/00 J
(21)【出願番号】P 2021132635
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】工藤 洋介
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-45766(JP,A)
【文献】特開平7-119730(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/094323(JP,A1)
【文献】特開2018-155355(JP,A)
【文献】特開平9-112535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0306883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F16C 9/02- 9/04
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの下端部に取り付けられたとき、そのシリンダブロックの下端部との間にクランクシャフトを挟むための半円弧状の内周面を有するキャップ部を備え、前記内周面と前記クランクシャフトとの間に、前記内周面における周方向の中央から端に向かうほど、前記クランクシャフトの径方向についての前記内周面と前記クランクシャフトとの距離が長くなる楔空間を形成するラダーフレームの製造方法であって、
アルミニウム合金製のラダーフレームの試験体を前記シリンダブロックの下端部に取り付ける際の取り付け前後での前記試験体のキャップ部における内周面の前記端の変位量を測定する第1工程と、
前記ラダーフレームをアルミニウム合金によって形成する際、前記ラダーフレームを前記シリンダブロックの下端部に取り付けたときの前記楔空間の大きさが規定値となるように、前記第1工程によって測定された前記変位量に基づき前記ラダーフレームの剛性を調整する第2工程と、
を行うラダーフレームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダーフレームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関として、クランクシャフトを回転可能に支持するためのラダーフレームを、シリンダブロックの下端部にボルト締結によって取り付けたものが知られている。ラダーフレームは、半円弧状の内周面を有するキャップ部を備えている。キャップ部は、シリンダブロックの下端部との間にクランクシャフトを挟むためのものである。
【0003】
ラダーフレームでは、キャップ部を鉄製とし、キャップ部以外をアルミニウム合金製としている。キャップ部は、特許文献1に示されるような半円弧状の軸受けを備えている。この軸受けの内周面、すなわちキャップ部における半円弧状の内周面とクランクシャフトとの間には、潤滑用の油膜を形成するための楔空間が存在している。
【0004】
キャップ部の上記内周面は、その内周面における周方向の中央から端に向かうほど、クランクシャフトの径方向についての上記内周面とクランクシャフトとの距離が長くなるように形成されている。これにより、上記内周面とクランクシャフトとの間に楔空間が形成される。そして、クランクシャフトの回転時には、内燃機関によって駆動されるオイルポンプから吐出されて同機関を通過するように循環する潤滑油が、上記楔空間に引き込まれる。これにより、上記内周面とクランクシャフトとの間に油膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、キャップ部もアルミニウム合金で形成したラダーフレームを採用した場合、ラダーフレームをシリンダブロックの下端部に取り付けたとき、キャップ部が潰れやすくなる。このため、キャップ部が鉄製の場合と比較して、キャップ部の内周面とクランクシャフトとの間に存在する上記楔空間が大きく広がる。その結果、クランクシャフトの回転時に、上記楔空間に引き込まれた潤滑油の同楔空間からの漏れ量が多くなる。
【0007】
このような状況のもとで、上記油膜を適正に形成するためには、オイルポンプからの潤滑油の吐出量を多くすることにより、クランクシャフトの回転時に上記楔空間に引き込まれる潤滑油の量を多くしなければならなくなる。しかし、この場合には、オイルポンプを駆動する内燃機関の燃費が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するラダーフレームの製造方法は、次のようなラダーフレームに適用される。このラダーフレームは、シリンダブロックの下端部に取り付けられたとき、そのシリンダブロックの下端部との間にクランクシャフトを挟むための半円弧状の内周面を有するキャップ部を備える。この内周面とクランクシャフトとの間には、上記内周面における周方向の中央から端に向かうほど、クランクシャフトの径方向についての上記内周面と上記クランクシャフトとの距離が長くなる楔空間が形成される。上記ラダーフレームの製造方法では、次のような第1工程と第2工程とが行われる。第1工程では、アルミニウム合金製のラダーフレームの試験体をシリンダブロックの下端部に取り付ける際の取り付け前後での上記試験体のキャップ部における内周面の上記端の変位量を測定する。第2工程では、ラダーフレームをアルミニウム合金によって形成する際、ラダーフレームをシリンダブロックの下端部に取り付けたときの上記楔空間の大きさが規定値となるように、第1工程によって測定された上記変位量に基づきラダーフレームの剛性を調整する。
【0009】
上記方法によれば、アルミニウム合金によってラダーフレームを形成する際の同ラダーフレームの剛性の調整により、ラダーフレームをシリンダブロックの下端部に取り付けたときの上記楔空間の大きさが規定値になる。従って、クランクシャフトの回転時に楔空間からの潤滑油の漏れ量の増大を抑制することが可能な上記規定値を採用することにより、上記楔空間からの潤滑油の漏れ量が多くなることを抑制できる。このため、そうした漏れ量が多くなったときにキャップ部の内周面とクランクシャフトとの間の油膜が適正に形成されるよう、内燃機関によって駆動されるオイルポンプからのオイルの吐出量を多くする必要がなくなる。これにより、オイルポンプを駆動する内燃機関の燃費が悪化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】上記内燃機関におけるクランクシャフト周りの構造を示す断面図である。
【
図3】第1工程における試験体の取り付け前の状態を示す略図である。
【
図4】上記試験体の取り付け後の状態を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ラダーフレームの製造方法の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1に示す内燃機関10は、シリンダブロック11とクランクシャフト12とラダーフレーム13とクランクケース14とを備えている。
【0012】
ラダーフレーム13は、シリンダブロック11の下端部に対し、ボルト締結によって取り付けることが可能となっている。ラダーフレーム13は、半円弧状の内周面を有するキャップ部13aを備えている。キャップ部13aは、半円弧状の軸受け13bを備えている。ラダーフレーム13は、キャップ部13aを含め、アルミニウム合金によって形成されている。
【0013】
シリンダブロック11の下端部におけるキャップ部13aに対応する箇所には、半円弧状の内周面を有する保持部11aが形成されている。保持部11aは、半円弧状の軸受け11bを備えている。シリンダブロック11は、保持部11aを含め、アルミニウム合金によって形成されている。
【0014】
ラダーフレーム13は、シリンダブロック11の下端部に取り付けられたとき、保持部11aにおける軸受け11bの内周面とキャップ部13aにおける軸受け13bとの間に、クランクシャフト12を挟み込む。これにより、クランクシャフト12が保持部11aとキャップ部13aとの間で回転可能に支持される。ラダーフレーム13の下端部にはクランクケース14が取り付けられている。クランクケース14の内部には潤滑油が溜まっている。
【0015】
内燃機関10の駆動に伴ってクランクシャフト12が回転すると、その回転はオイルポンプ15に伝達される。オイルポンプ15は、内燃機関10で駆動されることにより、クランクケース14内に溜まった潤滑油を吸い上げた後、その潤滑油を吐出する。オイルポンプ15から吐出された潤滑油は、内燃機関10を通過するように循環することにより、内燃機関10の各所を潤滑する。
【0016】
次に、保持部11a及びキャップ部13aによるクランクシャフト12の支持構造について詳しく説明する。
図2に示すように、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面とクランクシャフト12との間には、潤滑用の油膜を形成するための楔空間16が存在している。クランクシャフト12の径方向についての上記内周面とクランクシャフト12との距離は、その内周面における周方向の中央から端に向かうほど長くされている。これにより、上記内周面とクランクシャフト12との間に楔空間16が形成される。
【0017】
また、保持部11aにおける軸受け11bの内周面とクランクシャフト12との間にも、潤滑用の油膜を形成するための楔空間17が存在している。クランクシャフト12の径方向についての上記内周面とクランクシャフト12との距離は、その内周面における周方向の中央から端に向かうほど長くされている。これにより、上記内周面とクランクシャフト12との間に楔空間17が形成される。
【0018】
上述した楔空間16,17の形状は、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部にボルト締結したとき、キャップ部13a及び保持部11aが変形する(潰れる)ことによって定められる。クランクシャフト12の回転時には、内燃機関10を循環する潤滑油が上記楔空間16,17に引き込まれる。これにより、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面とクランクシャフト12との間、及び、保持部11aにおける軸受け11bの内周面とクランクシャフト12との間に、油膜が形成される。
【0019】
ラダーフレーム13をキャップ部13aも含めてアルミニウム合金で形成した場合、キャップ部13aを鉄製とした場合と比較して、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付けたとき、キャップ部13aが潰れやすくなる。このため、アルミニウム合金製のキャップ部13aでは、鉄製の場合と比較して、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面とクランクシャフト12との間に存在する上記楔空間16が大きく広がり易い。そして、上記楔空間16が大きく広がると、クランクシャフト12の回転時に、上記楔空間16に引き込まれた潤滑油の同楔空間16からの漏れ量が多くなる。
【0020】
このような状況で、保持部11aにおける軸受け11bの内周面とクランクシャフト12との間の油膜を適正に形成するためには、オイルポンプ15からの潤滑油の吐出量を多くすることが考えられる。この場合、クランクシャフト12の回転に伴って楔空間16に引き込まれる潤滑油の量が多くなるため、楔空間16からの潤滑油の漏れ量が多くても上記油膜が適正に形成される。ただし、オイルポンプ15からの潤滑油の吐出量を多くしなければならない分、オイルポンプ15を駆動する内燃機関10の燃費が悪化する。
【0021】
次に、ラダーフレーム13の製造方法について説明する。
ラダーフレーム13は、以下のような第1工程と第2工程とを順に行うことによって製造される。
【0022】
[第1工程]
図3及び
図4に示すように、この工程では、アルミニウム合金製のラダーフレームの試験体18をシリンダブロック11の下端部に取り付ける際の取り付け前後での上記試験体18のキャップ部13aにおける内周面の端の変位量Xを測定する。上記試験体18の材質及び形状は、ラダーフレーム13と同じにされている。
図3は上記試験体18をシリンダブロック11に取り付ける前のキャップ部13a及びその周辺を示し、
図4は上記試験体18をシリンダブロック11に取り付けた後のキャップ部13a及びその周辺を示している。
【0023】
図3に示すように、シリンダブロック11に対する試験体18の取り付け前には、試験体18におけるキャップ部13aにおける軸受け13bの内周面が略真円の円弧状となっている。そして、
図4に示すように、シリンダブロック11に対し試験体18がボルト締結によって取り付けられた後には、ボルトの軸力が試験体18に作用することによってキャップ部13aが変形する(潰れる)。
【0024】
これにより、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面の端、すなわち同内周面における周方向の端が、クランクシャフト12の径方向(
図3及び
図4の左右方向)に変位する。このときの上記内周面の端の変位量を、試験体18のシリンダブロック11に対する取り付け前後における上記変位量Xとして、実測によって測定する。なお、変位量Xの測定は、CAE(computer-aided engineering)を用いた推測によって行うことも可能である。
【0025】
[第2工程]
この工程では、ラダーフレーム13をアルミニウム合金によって形成する際、第1工程によって測定された上記変位量Xに基づきラダーフレーム13の剛性を次のように調整する。すなわち、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付けたときの上記楔空間16の大きさが規定値となるように、上記変位量Xに基づきラダーフレーム13の剛性を調整する。
【0026】
上記規定値としては、クランクシャフト12の回転時、上記楔空間16に潤滑油を引き込むことが可能な大きさ、且つ、その引き込まれた潤滑油の楔空間16からの漏れ量の増大を抑制することが可能な大きさが採用される。また、ラダーフレーム13における剛性の調整は、ラダーフレーム13の肉厚を調整することによって実現したり、ラダーフレーム13の高さ(
図1における上下方向の長さ)を調整することによって実現したりすることが可能である。
【0027】
ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付ける前、すなわちキャップ部13aの変形が生じる前には、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面が略真円の円弧状となって楔空間16は存在していない。こうした条件のもとで、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付けたとき、楔空間16の大きさが上記規定値となるようにラダーフレーム13の剛性が調整される。
【0028】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)アルミニウム合金によってラダーフレーム13を形成する際の同ラダーフレーム13の剛性の調整により、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付けたときの楔空間16の大きさを上述した規定値とすることができる。これにより、クランクシャフト12の回転時、潤滑油が引き込まれる楔空間16からの同潤滑油の漏れ量が多くなることを抑制できる。このため、そうした漏れ量が多くなったときにキャップ部13aの内周面とクランクシャフト12との間の油膜が適正に形成されるよう、内燃機関10によって駆動されるオイルポンプ15からのオイルの吐出量を多くする必要がなくなる。これにより、オイルポンプ15を駆動する内燃機関10の燃費が悪化することを抑制できる。
【0029】
(2)シリンダブロック11に対するラダーフレーム13の取り付けがボルト締結によって行われる。従って、そのボルト締結の際のボルトの軸力を調整することにより、ラダーフレーム13の変形(潰れ)を微調整することができる。その結果、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面とクランクシャフト12との間に存在する楔空間16の大きさを微調整することができる。
【0030】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付ける前、すなわちキャップ部13aの変形が生じる前、キャップ部13aにおける軸受け13bの内周面とクランクシャフト12との間に小さい楔空間16が存在するようにしてもよい。この場合、ラダーフレーム13をシリンダブロック11の下端部に取り付けたとき、上記楔空間16の大きさが規定値まで大きくなるようにされる。
【符号の説明】
【0031】
10…内燃機関
11…シリンダブロック
11a…保持部
11b…軸受け
12…クランクシャフト
13…ラダーフレーム
13a…キャップ部
13b…軸受け
14…クランクケース
15…オイルポンプ
16,17…楔空間
18…試験体