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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】サーモクロミック樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/10 20060101AFI20240521BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240521BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240521BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240521BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C08L33/10
C08L27/16
C08L67/04
C08K3/36
C08K3/40
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021145262
(22)【出願日】2021-09-07
(65)【公開番号】P2023038497
(43)【公開日】2023-03-17
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】深谷 慶美
(72)【発明者】
【氏名】釘本 恒
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031606(JP,A)
【文献】特開平06-192525(JP,A)
【文献】特開昭61-190546(JP,A)
【文献】特開昭63-115796(JP,A)
【文献】特開2001-031774(JP,A)
【文献】特開平02-102043(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067997(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃における屈折率が1.44~1.54であるポリメタクリル酸アルキルエステル85~15質量%と60℃における屈折率が1.37~1.47であるポリフッ化ビニリデン15~85質量%とからなるポリマーブレンドと、
前記ポリマーブレンド100質量部に対して、5~120質量部の60℃における屈折率が1.41~1.51であるポリカプロラクトンと、
を含有することを特徴とするサーモクロミック樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部の前記ポリカプロラクトンからなる島相とを備える海島構造が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のサーモクロミック樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーを前記ポリマーブレンド100質量部に対して1~100質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のサーモクロミック樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモクロミック樹脂組成物に関し、より詳しくは、高温において透明性が向上するサーモクロミック樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温度変化に応じて色や透明性が変化するサーモクロミック材料が注目されている。例えば、特開2001-354952号公報(特許文献1)には、水又は有機溶媒に染料、無機顔料及び/又は有機顔料を溶解又は分散させた溶液又は分散液を、高分子水溶液及び/又はハイドロゲル水溶液に添加した後、これを濃縮することによって得られるサーモクロミック材料が開示されている。しかしながら、このサーモクロミック材料は、媒質として水を含んでいるため、高温(例えば、80℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現するサーモクロミック材料として使用することは困難であった。
【0003】
また、従来のサーモクロミック材料(例えば、特開2019-031606号公報(特許文献2))は、高温での相分離現象を利用しているため、高温において透明性が低下するものが一般的であり、高温において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現するサーモクロミック材料は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-354952号公報
【文献】特開2019-031606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとポリカプロラクトンとを特定の割合で配合することによって、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現する樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとポリカプロラクトンとを特定の割合で含有する前記樹脂組成物に、特定の二酸化ケイ素純度を有するガラス系フィラーを特定の割合で配合することによって、前記サーモクロミック効果を維持したまま、耐傷付性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、60℃における屈折率が1.44~1.54であるポリメタクリル酸アルキルエステル85~15質量%と60℃における屈折率が1.37~1.47であるポリフッ化ビニリデン15~85質量%とからなるポリマーブレンドと、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、5~120質量部の60℃における屈折率が1.41~1.51であるポリカプロラクトンと、を含有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明のサーモクロミック樹脂組成物においては、前記ポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部の前記ポリカプロラクトンからなる島相とを備える海島構造が形成されていることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、さらに、二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーを前記ポリマーブレンド100質量部に対して1~100質量部含有するものであることが好ましい。
【0011】
なお、本発明のサーモクロミック樹脂組成物が高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを特定の割合で含有するポリマーブレンドと、このポリマーブレンドに対して特定量のポリカプロラクトンとを含有するものであり、好ましくは、前記ポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部の前記ポリカプロラクトンからなる島相とを備える海島構造を有するものである。ポリカプロラクトンは、60℃未満の温度下では、結晶相を有するため、樹脂組成物は不透明となる。一方、60℃以上の温度下では、ポリカプロラクトンは溶融し、特に70℃以上の温度下では、ポリカプロラクトンの結晶が融解する。本発明のサーモクロミック樹脂組成物においては、融解したポリカプロラクトンの屈折率と、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを特定の割合で含有するポリマーブレンドの屈折率が一致するため、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上する、すなわち、サーモクロミック効果を発現すると推察される。
【0012】
また、二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーを含有する本発明のサーモクロミック樹脂組成物において、前記サーモクロミック効果が維持される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーは、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)下では、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを特定の割合で含有するポリマーブレンドと、このポリマーブレンドに対して特定量のポリカプロラクトンとを含有するサーモクロミック樹脂組成物と同程度の屈折率を有するため、前記サーモクロミック効果が維持されると推察される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現する樹脂組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた平板の凍結断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例5で得られた平板の凍結断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例6で得られた平板の凍結断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例7で得られた平板の凍結断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例8で得られた平板の凍結断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、アクリルポリマー85~15質量%とポリフッ化ビニリデン15~85質量%とからなるポリマーブレンドと、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、5~120質量部のポリカプロラクトンとを含有するものである。
【0017】
(アクリルポリマー)
本発明に用いられるアクリルポリマーとしては、アクリルモノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。アクリルモノマーの共重合体におけるアクリルモノマー単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなアクリルポリマーの中でも、耐熱性及び透明性に優れているという観点から、アクリルモノマーの単独重合体が好ましい。
【0018】
前記アクリルモノマーとしては、例えば、メタクリル酸アルキルエステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アクリル酸アルキルエステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸、アクリル酸が挙げられる。これらのアクリルモノマーの中でも、耐熱性及び成形加工性に優れているという観点から、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0019】
また、アクリルモノマーの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、α-メチルスチレン等)が挙げられる。
【0020】
本発明に用いられるアクリルポリマーとして具体的には、ポリメタクリル酸アルキルエステル(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等)、ポリアクリル酸アルキルエステル(例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等)、アクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等)、メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、メタクリル酸メチル・アクリル酸エチル共重合体等)、エチレン・メタクリル酸アルキルエステル(例えば、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等)、エチレン・アクリル酸アルキルエステル(例えば、エチレン・アクリル酸エチル共重合体等)、スチレン・メタクリル酸アルキルエステル(例えば、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等)、スチレン・アクリル酸アルキルエステル(例えば、スチレン・アクリル酸エチル共重合体等)が挙げられる。これらのアクリルポリマーの中でも、耐熱性及びポリフッ化ビニリデンとの相溶性に優れているという観点から、ポリメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0021】
また、本発明に用いられるアクリルポリマーにおいては、60℃における屈折率が1.44~1.54であることが好ましく、1.47~1.51であることがより好ましい。前記アクリルポリマーの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、ポリカプロラクトンとの屈折率差が大きくなり、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)時の透明性が低下する傾向にある。
【0022】
(ポリフッ化ビニリデン)
本発明に用いられるポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンの単独重合体及び共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなポリフッ化ビニリデンの中でも、前記アクリルポリマー(特に、ポリメタクリル酸メチル)との相溶性に優れているという観点から、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましい。
【0023】
フッ化ビニリデンの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、フルオロオレフィン(例えば、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、芳香族ビニル(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-フルオロスチレン、α-フルオロスチレン等)が挙げられる。
【0024】
また、本発明に用いられるポリフッ化ビニリデンにおいては、60℃における屈折率が1.37~1.47であることが好ましく、1.40~1.44であることがより好ましい。前記ポリフッ化ビニリデンの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、ポリカプロラクトンとの屈折率差が大きくなり、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)時の樹脂組成物の透明性が低下する傾向にある。
【0025】
(ポリカプロラクトン)
本発明に用いられるポリカプロラクトンは、ε-カプロラクトンの開環重合体である。このようなε-カプロラクトンの開環重合体は、ε-カプロラクトンの単独重合体であっても、ε-カプロラクトンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。ε-カプロラクトンの共重合体におけるε-カプロラクトン単位の割合としては、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が特に好ましい。このようなポリカプロラクトンの中でも、優れた耐熱性及び低温(例えば、80℃未満、好ましくは60℃未満)時の樹脂組成物の不透明性の観点から、ε-カプロラクトンの単独開環重合体が好ましい。
【0026】
ε-カプロラクトンの共重合体における他の共重合モノマーとしては、例えば、グリコール酸、乳酸が挙げられる。
【0027】
また、本発明に用いられるポリカプロラクトンにおいては、60℃における屈折率が1.41~1.51であることが好ましく、1.44~1.48であることがより好ましい。前記ポリカプロラクトンの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、アクリルポリマーとポリフッ化ビニリデンとを所定の割合で含有するポリマーブレンドとの屈折率差が大きくなり、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)時の樹脂組成物の透明性が低下する傾向にある。
【0028】
〔サーモクロミック樹脂組成物〕
本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、前記アクリルポリマー85~15質量%と前記ポリフッ化ビニリデン15~85質量%とからなるポリマーブレンドと、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、5~120質量部の前記ポリカプロラクトンとを含有するものである。このようなサーモクロミック樹脂組成物は、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上する、すなわち、サーモクロミック効果を発現する。
【0029】
前記ポリマーブレンドにおいて、前記アクリルポリマーの含有量は85~15質量%であることが必要である。前記アクリルポリマーの含有量が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、サーモクロミック効果が発現せず、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)においても透明性が向上しない。また、サーモクロミック効果が十分に発現し、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が十分に向上するという観点から、前記アクリルポリマーの含有量としては、80~25質量%が好ましく、75~50質量%がより好ましい。
【0030】
また、前記ポリマーブレンドにおいて、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量は15~85質量%であることが必要である。前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、サーモクロミック効果が発現せず、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)においても透明性が向上しない。また、サーモクロミック効果が十分に発現し、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が十分に向上するという観点から、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量としては、20~75質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。
【0031】
本発明のサーモクロミック樹脂組成物において、前記ポリカプロラクトンの含有量は前記ポリマーブレンド100質量部に対して5~120質量部であることが必要である。前記ポリカプロラクトンの含有量が前記下限未満になると、サーモクロミック効果が発現せず、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)においても透明性が向上しない。他方、前記ポリカプロラクトンの含有量が前記上限を超えると、60℃以上における樹脂組成物の機械的性質が低下する。さらに、サーモクロミック効果が十分に発現し、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が十分に向上するという観点から、前記ポリカプロラクトンの含有量の下限としては、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、60℃以上における機械的性質が良好な樹脂組成物が得られるという観点から、前記ポリカプロラクトンの含有量の上限としては、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましい。
【0032】
また、本発明のサーモクロミック樹脂組成物においては、前記ポリマーブレンドからなる海相と少なくとも一部の前記ポリカプロラクトンからなる島相とを備える海島構造が形成されていることが好ましい。このような海島構造が形成されていることによって、低温(例えば、80℃未満、好ましくは60℃未満)では、島相の前記ポリカプロラクトンが結晶化して樹脂組成物が不透明となり、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)では、前記ポリカプロラクトンが融解して島相の屈折率が海相の前記ポリマーブレンドと同程度の屈折率となるため、透明性が向上し、サーモクロミック効果が発現する。
【0033】
前記海島構造において、前記島相の大きさとしては、島相の最大長さ(島相が円形の場合には直径)が50nm~500μmであることが好ましく、70nm~300μmであることがより好ましく、100nm~100μmであることが特に好ましい。島相の大きさが前記下限未満になると、サーモクロミック効果が十分に発現せず、低温(例えば、80℃未満、好ましくは60℃未満)において透明性が低下しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。
【0034】
(ガラス系フィラー)
本発明のサーモクロミック樹脂組成物には、二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーが含まれていることが好ましい。二酸化ケイ素純度が90%以上のガラス系フィラーは、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において、前記ポリマーブレンドや前記ポリカプロラクトンと同程度の屈折率を有するため、このようなガラス系フィラーを含有するサーモクロミック樹脂組成物においては、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上し、前記サーモクロミック効果を維持したまま、耐傷付性を向上させることができる。また、前記サーモクロミック効果が十分に維持され、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が十分に向上するという観点から、ガラス系フィラーの二酸化ケイ素純度としては、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。一方、二酸化ケイ素純度が前記下限未満のガラス系フィラーは、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において、前記ポリマーブレンドや前記ポリカプロラクトンと大きく異なる屈折率を有するため、サーモクロミック樹脂組成物における前記サーモクロミック効果が維持されず、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上しにくい。
【0035】
本発明に用いられるガラス系フィラーにおいては、60℃における屈折率が1.40~1.50であることが好ましく、1.44~1.48であることがより好ましい。前記ガラス系フィラーの屈折率が前記下限未満、或いは、前記上限を超えると、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)時の樹脂組成物の透明性が低下する傾向にある。
【0036】
また、本発明に用いられるガラス系フィラーの大きさ及び形状としては、直径が100nm~2mm(好ましくは200nm~1.5mm、より好ましくは500nm~1mm)の球状や、繊維径が100nm~200μm(好ましくは200nm~100μm、より好ましくは500nm~50μm)であり、繊維長が100μm~50mm(好ましくは200μm~30mm、より好ましくは300μm~10mm)の繊維状が好ましい。ガラス系フィラーの大きさが前記下限未満になると、取り扱いが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0037】
本発明のサーモクロミック樹脂組成物において、このようなガラス系フィラーの含有量としては、前記ポリマーブレンド100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい。ガラス系フィラーの含有量が前記下限未満になると、耐傷付性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形加工性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明のサーモクロミック樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はなく、溶融混練等の公知の混練方法を採用することができる。例えば、前記アクリルポリマーと前記ポリフッ化ビニリデンと前記ポリカプロラクトンと、必要に応じて前記ガラス系フィラーとをドライブレンドした後、得られた混合物を溶融混練することによって製造することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ポリメタクリル酸メチル(PMMA、株式会社クラレ製「パラペットGグレード」、屈折率:1.492(23℃)、1.489(60℃))65質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、アルドリッチ社製、カタログ番号:427144、屈折率:1.42(23℃))35質量部と、ポリカプロラクトン(PCL、アルドリッチ社製、カタログ番号:440744、屈折率:1.46(50℃))10質量部とをドライブレンドした後、得られた混合物を卓上型小型混練機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製マイクロコンパウンダー「Haake Minilab」)に投入し、220℃で5分間溶融混練して樹脂組成物を調製した。
【0041】
得られた樹脂組成物を、卓上プレス機を用いて温度220℃、圧力6MPaで30秒間プレス成形し、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0042】
(実施例2~8)
PMMA、PVDF及びPCLの配合量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0043】
(比較例1)
PMMA100質量部とPCL10質量部とをドライブレンドし、PVDFを配合しなかった以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0044】
(比較例2)
PMMA65質量部とPVDF35質量部とをドライブレンドし、PCLを配合しなかった以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0045】
(比較例3~4)
PMMA、PVDF及びPCLの配合量を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0046】
(実施例9)
PMMA65質量部とPVDF35質量部とPCL10質量部と球状シリカ(株式会社アドマテックス製「SO-C6」、二酸化ケイ素純度:99%以上、粒径:1.8~2.3μm、屈折率:1.46(23℃))25質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0047】
(比較例5)
PMMA65質量部とPVDF35質量部とPCL20質量部とガラス繊維(日東紡績株式会社製チョップドグラスファイバー「CS3J-256LS」、二酸化ケイ素純度:53%、繊維径:11μm、カット長:3mm、屈折率:1.55(23℃))20質量部とをドライブレンドした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、50mm×50mm×0.5mmの平板を作製した。
【0048】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
実施例で得られた各平板の端部から観察用試料を切出し、凍結破断により観察面を作製した。この観察面に白金コートを施した後、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」)を用い、加速電圧15kVで2次電子像を観察した。図1図5はそれぞれ実施例1、5~8で得られた各平板の凍結破断面のSEM像である。
【0049】
図1図5に示したように、実施例1、5~8で得られた各平板においては、PMMAとPVDFとのポリマーブレンドからなる海相とPCL(実施例8については一部のPCL)からなる島相とを備える海島構造が形成されていることが確認された。また、各平板における島相の大きさ(最大長さ)は、実施例1で0.8μm、実施例5で2μm、実施例6で3μm、実施例7で10μm、実施例8で20μmであった。
【0050】
<透明性>
自作した温調機をヘイズメーター(スガ試験機株式会社製「HGM-3DP」)内に設置し、実施例及び比較例で得られた各平板(50mm×50mm×0.5mm)のヘイズ値を25~100℃の温度下で測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0051】
<表面硬度>
実施例及び比較例で得られた各平板(50mm×50mm×0.5mm)の表面硬度を、鉛筆硬度試験器(オールグッド株式会社製「054」、試験用鉛筆:鉛筆硬度試験用三菱uni鉛筆)を用いて測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示したように、PMMAとPVDFとPCLとを所定の割合で含有する樹脂組成物(実施例1~8)においては、温度が60℃未満の場合には、ヘイズ値が高く、不透明であったが、70℃以上になると、ヘイズ値が小さくなり、透明性が向上する、すなわち、サーモクロミック効果が発現することが確認された。
【0054】
特に、PMMA75~50質量%とPVDF25~50質量%とからなるポリマーブレンドを含有する樹脂組成物(実施例1~2)においては、PMMA50~15質量%とPVDF50~85質量%とからなるポリマーブレンドを含有する樹脂組成物(実施例3~4)に比べて、高温で透明性がより向上することがわかった。
【0055】
また、ポリマーブレンド100質量部に対してPCLを5~80質量部含有する樹脂組成物(実施例1、5~7)においては、PCLを100質量部含有する樹脂組成物(実施例8)に比べて、高温で透明性がより向上することがわかった。これは、実施例1、5~7で得られた樹脂組成物においては、比較的小さいPCLからなる島相が形成しているのに対して、実施例8で得られた樹脂組成物においては、PCLからなる島相が粗大化し、連続相に近い構造が形成しているためと考えられる。
【0056】
一方、PVDF又はPCLを含有しない樹脂組成物(比較例1、2)においては、高温での透明性の向上がほとんど見られず、サーモクロミック効果が発現しないことがわかった。この結果から、サーモクロミック効果を発現させるためには、PMMAとPVDFとPCLの3成分が必要であることがわかった。
【0057】
また、PMMAとPVDFとPCLとを含有する樹脂組成物であっても、PMMAが85質量%を超える樹脂組成物(比較例3)やPVDFが85質量%を超える樹脂組成物(比較例4)においては、高温での透明性の向上がほとんど見られず、サーモクロミック効果が発現しないことがわかった。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示したように、PMMAとPVDFとPCLとを所定の割合で含有する樹脂組成物(実施例1)に比べて、二酸化ケイ素純度が90%以上の球状シリカを所定の割合で更に含有する樹脂組成物(実施例9)においては、ヘイズ値を維持しながら、表面硬度が向上することがわかった。この結果から、PMMAとPVDFとPCLとを所定の割合で含有する樹脂組成物に、二酸化ケイ素純度が99%以上の球状シリカを所定の割合で配合することによって、サーモクロミック効果を維持したまま、耐傷付性を向上させることが可能であることが確認された。
【0060】
一方、PMMAとPVDFとPCLとを所定の割合で含有する樹脂組成物に、二酸化ケイ素純度が53%のガラス繊維を配合した樹脂組成物(比較例5)は、高温での透明性の向上がほとんど見られず、サーモクロミック効果が発現しないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、高温(例えば、80℃以上、好ましくは60℃以上)において透明性が向上するサーモクロミック効果を発現する樹脂組成物を得ることが可能となる。したがって、本発明のサーモクロミック樹脂組成物は、低温では不透明であり、高温では透明となることから、温度を視覚的に認識可能な食器等の用途において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5