(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】車両挙動予測装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240521BHJP
B60W 30/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/00
(21)【出願番号】P 2021146117
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】田中 信
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-060906(JP,A)
【文献】特開2020-160899(JP,A)
【文献】特開2017-111498(JP,A)
【文献】特開2009-003650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60W 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する自車線に隣接する道路領域から前記自車線内への対象車両の進入を予測する車両挙動予測装置であって、
前記道路領域に存在する前記対象車両を検出する対象車両検出部と、
前記対象車両と前記対象車両の前方に存在する障害物との間の距離である前方距離を取得する距離取得部と、
前記対象車両の旋回半径を推定する旋回半径推定部と、
取得された前記前方距離と推定された前記旋回半径とに基づいて、前記対象車両が前記障害物をかわして前記自車線内に進入可能か否かを予測する進入予測部と、
車両の種類ごとに最小旋回半径が対応付けられた旋回半径情報を記憶する記憶部
と、
を備え、
前記旋回半径推定部は、前記記憶部が記憶する前記旋回半径情報に基づいて前記対象車両の種類に対応する前記最小旋回半径を抽出し、抽出した前記最小旋回半径に基づいて前記対象車両の前記旋回半径を推定する
、車両挙動予測装置。
【請求項2】
前記進入予測部は、さらに、前記道路領域内における前記対象車両の横位置に基づいて、前記対象車両が前記自車線内に進入可能か否かを予測する、請求項
1に記載の車両挙動予測装置。
【請求項3】
前記進入予測部は、さらに、前記自車線の延在方向に対する前記対象車両の傾きに基づいて、前記対象車両が前記自車線内に進入可能か否かを予測する、請求項1
又は2に記載の車両挙動予測装置。
【請求項4】
前記進入予測部は、前記対象車両が前記障害物をかわして前記自車線内に進入できない場合、前記自車線内への前記対象車両のはみ出し量を予測する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の車両挙動予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両挙動予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、自車両の周囲の停車車両の発進を予測し、予測結果に基づいて車両を制御する装置が記載されている。この装置では、停車車両の運転者の有無、ブレーキランプの点灯状態、ハザードランプの点灯状態、ウインカーの点灯状態等に基づいて、停車車両の発進を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば、対象車両が縦列駐車の車列から出ようとしている場合がある。この場合、対象車両と当該対象車両の前方車両との間のスペースの大きさによっては、対象車両がそのまま車列から出られるときもあれば、切り返しをしないと車列から出られないときもある。このため、上記特許文献1のように、単にウインカー等のみに基づいて対象車両の進出を予測しようとしても、対象車両の前方のスペースによっては正しく予測できないことがある。
【0005】
このため、本開示は、自車両が走行する自車線に隣接する道路領域から自車線内への対象車両の進入を精度よく予測することができる車両挙動予測装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、自車両が走行する自車線に隣接する道路領域から自車線内への対象車両の進入を予測する車両挙動予測装置であって、道路領域に存在する対象車両を検出する対象車両検出部と、対象車両と対象車両の前方に存在する障害物との間の距離である前方距離を取得する距離取得部と、対象車両の旋回半径を推定する旋回半径推定部と、取得された前方距離と推定された旋回半径とに基づいて、対象車両が障害物をかわして自車線内に進入可能か否かを予測する進入予測部と、を備える。
【0007】
この車両挙動予測装置では、対象車両の前方の空きスペースの長さ(前方距離)と、対象車両の旋回半径とを用いて、対象車両が障害物をかわして自車線内に進入可能か否かの予測が行われる。つまり、車両挙動予測装置は、対象車両が操舵を行うことによって自車線内に物理的に進入可能な状態であるか否かに基づいて、進入可否の予測を行うことができる。これにより、車両挙動予測装置は、自車両が走行する自車線に隣接する道路領域から自車線内への対象車両の進入を精度よく予測することができる。
【0008】
上記の車両挙動予測装置において、旋回半径推定部は、対象車両のタイヤの転舵角に基づいて旋回半径を推定してもよい。この場合、進入予測部は、実際のタイヤの転舵角に基づいて、自車線内への対象車両の進入をより精度よく予測することができる。
【0009】
上記の車両挙動予測装置は、車両の種類ごとに最小旋回半径が対応付けられた旋回半径情報を記憶する記憶部を更に備え、旋回半径推定部は、記憶部が記憶する旋回半径情報に基づいて対象車両の種類に対応する最小旋回半径を抽出し、抽出した最小旋回半径に基づいて対象車両の旋回半径を推定してもよい。この場合、車両挙動予測装置は、対象車両の種類に応じて、自車線内への対象車両の進入をより精度よく予測することができる。
【0010】
上記の車両挙動予測装置において、進入予測部は、さらに、道路領域内における対象車両の横位置に基づいて、対象車両が自車線内に進入可能か否かを予測してもよい。例えば、前方距離が同じであっても、対象車両の横位置によっては自車線内に対象車両が進入できる場合と、前方の障害物に阻まれて対象車両が自車線内に進入できない場合とがある。このため、進入予測部は、対象車両の横位置をさらに用いて予測を行うことにより、自車線内への対象車両の進入をより精度よく予測することができる。
【0011】
上記の車両挙動予測装置において、進入予測部は、さらに、自車線の延在方向に対する対象車両の傾きに基づいて、対象車両が自車線内に進入可能か否かを予測してもよい。例えば、前方距離が同じであっても、対象車両の傾きによっては自車線内に対象車両が進入できる場合と、前方の障害物に阻まれて対象車両が自車線内に進入できない場合とがある。このため、進入予測部は、対象車両の傾きをさらに用いて予測を行うことにより、自車線内への対象車両の進入をより精度よく予測することができる。
【0012】
上記の車両挙動予測装置において、進入予測部は、対象車両が障害物をかわして自車線内に進入できない場合、自車線内への対象車両のはみ出し量を予測してもよい。このように、対象車両が自車線内に進入できない場合であっても車両挙動予測装置がはみ出し量を算出することにより、はみだし量を各種の制御に利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、自車両が走行する自車線に隣接する道路領域から自車線内への対象車両の進入を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る運転支援装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、運転支援が行われる場面を説明するための図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、自車線内への対象車両の進入有無を説明するための図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、自車線内への対象車両の進入有無を説明するための図である。
【
図5】
図5は、運転支援ECUで行われる対象車両の自車線内への進入に対する運転支援の処理の流れを示すフローチャートの前半部分である。
【
図6】
図6は、運転支援ECUで行われる対象車両の自車線内への進入に対する運転支援の処理の流れを示すフローチャートの後半部分である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示されるように、運転支援装置100は、自車両Vの運転支援を行う。本実施形態における運転支援装置100は、
図2に示されるように、自車両Vが走行する自車線Lに隣接する道路領域L1から自車線L内への対象車両Tの進入を予測し、予測結果に基づいて自車両Vの運転支援を行う。
【0017】
なお、
図2に示される例では、対象車両Tとして、対象車両T1~T3が道路領域L1上に並んでいる状態が示されている。この対象車両Tは、自車両Vが走行する自車線Lに隣接する道路領域L1に存在する車両とする。道路領域L1は、自車線Lに隣接する隣接車線であってもよく、駐車のためのスペース(走行車線に隣接した縦列駐車のためのスペース)であってもよい。
【0018】
対象車両Tは、道路領域L1に停車中の車両であってもよく、道路領域L1を走行する渋滞車列内の車両であってもよい。また、対象車両Tよりも、自車両Vの方が速度が速いとする。
【0019】
図1に示されるように、運転支援装置100は、外部センサ1、アクチュエータ2、記憶部3、及び運転支援ECU[Electronic Control Unit]4を含んでいる。
【0020】
外部センサ1は、自車両Vの外部環境を検出する検出機器である。外部センサ1は、カメラ、レーダセンサのうち少なくとも一つを含む。
【0021】
カメラは、自車両Vの外部環境を撮像する撮像機器である。カメラは、自車両Vのフロントガラスの裏側に設けられ、車両前方を撮像する。カメラは、自車両Vの外部環境に関する撮像情報を運転支援ECU4へ送信する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。
【0022】
レーダセンサは、電波(例えばミリ波)又は光を利用して自車両Vの周辺の物体を検出する検出機器である。レーダセンサには、例えば、ミリ波レーダ又はライダー[LIDAR:Light Detection and Ranging]が含まれる。レーダセンサは、電波又は光を自車両Vの周辺に送信し、物体で反射された電波又は光を受信することで物体を検出する。レーダセンサは、検出した物体情報を運転支援ECU4へ送信する。物体には、他車両の他、道路に設置されたガードレール及びポール等の固定物、看板等が含まれる。
【0023】
アクチュエータ2は、自車両Vの走行の制御に用いられる機器である。アクチュエータ2は、駆動アクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び操舵アクチュエータを少なくとも含む。駆動アクチュエータは、運転支援ECU4からの制御信号に応じてエンジンに対する空気の供給量(スロットル開度)を制御し、自車両Vの駆動力を制御する。なお、自車両Vがハイブリッド車である場合には、エンジンに対する空気の供給量の他に、動力源としてのモータに運転支援ECU4からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。自車両Vが電気自動車である場合には、動力源としてのモータに運転支援ECU4からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。これらの場合における動力源としてのモータは、アクチュエータ2を構成する。
【0024】
ブレーキアクチュエータは、運転支援ECU4からの制御信号に応じてブレーキシステムを制御し、自車両Vの車輪へ付与する制動力を制御する。ブレーキシステムとしては、例えば、液圧ブレーキシステムを用いることができる。操舵アクチュエータは、電動パワーステアリングシステムのうち操舵トルクを制御するアシストモータの駆動を、運転支援ECU4からの制御信号に応じて制御する。これにより、操舵アクチュエータは、自車両Vの操舵トルクを制御する。
【0025】
記憶部3は、車両の種類ごとに最小旋回半径が対応付けられた旋回半径情報を記憶する。車両の種類とは、大型車、中型車、及び小型車等の大きさの区別であってもよく、乗用車、バン、及びトラック等の車両形式の区別であってもよい。最小旋回半径は、車両の種類ごとに予め定められている。
【0026】
運転支援ECU4は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などを有する電子制御ユニットである。運転支援ECU4では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。運転支援ECU4は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0027】
運転支援ECU4は、機能的には、車両挙動予測部(車両挙動予測装置)10、及び運転支援部20を備えている。車両挙動予測部10は、自車線L内への対象車両Tの進入を予測する処理を実行する。運転支援部20は、車両挙動予測部10の予測結果に基づいて、自車両Vの運転支援処理を実行する。
【0028】
より詳細には、車両挙動予測部10は、対象車両検出部11、距離取得部12、旋回半径推定部13、及び進入予測部14を含んでいる。
【0029】
対象車両検出部11は、道路領域L1に存在する対象車両Tを検出する。対象車両検出部11は、例えば、外部センサ1の検出結果に基づいて、周知の技術を用いて道路領域L1に存在する車両を対象車両Tとして検出する。また、対象車両検出部11は、外部センサ1の検出結果に基づいて、周知の技術を用いて道路領域L1内における対象車両Tの横位置を検出する。道路領域L1内における対象車両Tの横位置とは、道路領域L1の延在方向に沿った方向に対して直交する方向(
図2において矢印Aで示される方向)の対象車両Tの位置である。
【0030】
さらに、対象車両検出部11は、外部センサ1の検出結果に基づいて、周知の技術を用いて自車線Lの延在方向に対する対象車両Tの傾き(対象車両Tの向き)を検出する。例えば、
図2に示される例において、対象車両T2が実線で示される状態においては、対象車両T2は自車線Lの延在方向に対して傾いていない。例えば、
図2に示される例において、対象車両T2が破線で示される状態においては、対象車両T2は自車線Lの延在方向Bに対して角度θ傾いている。本実施形態において対象車両検出部11は、対象車両T1~T3のそれぞれについて、横位置及び傾きを検出する。
【0031】
距離取得部12は、対象車両Tと対象車両Tの前方に存在する障害物との間の距離である前方距離を取得する。つまり、距離取得部12は、対象車両Tの前方の空きスペースの長さを取得する。ここでの障害物とは、対象車両Tの前方に存在する他車両の他、道路に設置されたガードレール及びポール等の固定物、看板等が含まれる。本実施形態において距離取得部12は、対象車両T1~T3のそれぞれについて、前方距離を取得する。
【0032】
図2に示される例において、例えば、対象車両T2の前方に存在する障害物は、対象車両T1となる。このため、距離取得部12は、例えば、対象車両T2の前方距離として、対象車両T2と対象車両T1との間の前方距離Cを取得する。前方距離は、例えば、自車線L(道路領域L1)の延在方向に沿った方向の長さとすることができる。なお、距離取得部12は、外部センサ1の検出結果に基づいて、周知の技術を用いて前方距離を取得することができる。
【0033】
旋回半径推定部13は、対象車両Tの旋回半径を推定する。ここでの旋回半径とは、道路領域L1に存在する対象車両Tが自車線Lに進入するための走行軌跡の半径である。旋回半径推定部13は、外部センサ1の検出結果に基づいて、対象車両Tの旋回半径を推定することができる。本実施形態において旋回半径推定部13は、対象車両T1~T3のそれぞれについて、旋回半径を推定する。
【0034】
具体的には、例えば、旋回半径推定部13は、外部センサ1の検出結果に基づいて、対象車両Tのタイヤの転舵角を検出する。ここでは、旋回半径推定部13は、例えば、操舵輪である前側のタイヤの転舵角を検出する。例えば、旋回半径推定部13は、タイヤの円形の歪み、又はホイール面の傾き等の検出結果に基づいて、タイヤの転舵角を検出してもよい。この場合、旋回半径推定部13は、例えば、外部センサ1であるカメラの撮像画像又はレーダセンサの検出結果に基づいて、タイヤの転舵角を検出することができる。
【0035】
そして、旋回半径推定部13は、検出したタイヤの転舵角に基づいて、対象車両Tの旋回半径を推定する。ここでは、タイヤの転舵角が大きいほど、旋回半径は小さくなる。
【0036】
また、旋回半径推定部13は、記憶部3に記憶された旋回半径情報に基づいて、旋回半径を推定することもできる。例えば、旋回半径推定部13は、外部センサ1の検出結果に基づいて対象車両Tのタイヤの転舵角を検出することができない場合に、旋回半径情報を用いて旋回半径を推定することができる。具体的には、旋回半径推定部13は、外部センサ1の検出結果に基づいて対象車両Tの種類を認識する。旋回半径推定部13は、記憶部3が記憶する旋回半径情報に基づいて、対象車両Tの種類に対応する最小旋回半径を抽出する。旋回半径推定部13は、抽出した最小旋回半径に基づいて対象車両Tの旋回半径を推定する。なお、例えば、旋回半径推定部13は、カメラ画像に基づくパターンマッチング等に基づいて、対象車両Tの種類を認識することができる。また、例えば、旋回半径推定部13は、抽出した最小旋回半径を対象車両Tの旋回半径として推定してもよい。
【0037】
進入予測部14は、対象車両Tが前方の障害物をかわして(障害物を避けて)自車線L内に進入可能であるか否か(進入する可能性があるか否か)を予測する。ここでは、進入予測部14は、現在の対象車両Tの状態において対象車両Tが自車線Lに向けて進入した場合に、前方の障害物に干渉することなく自車線L内に進入できるか否かを予測する。
図2に示される例において、前方の障害物とは、例えば、対象車両T2の前方の障害物は、対象車両T2の前方の対象車両T1となる。例えば、対象車両T3の前方の障害物は、対象車両T3の前方の対象車両T2となる。例えば、対象車両T1の前方の障害物は、図示しない他車両又は道路領域L1に設置された柵、看板、ポール等であってもよく、前方の所定距離以内に障害物が存在しない状態であってもよい。
【0038】
より詳細には、進入予測部14は、距離取得部12で取得された前方距離と、旋回半径推定部13で推定された旋回半径とに基づいて、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。ここでは、進入予測部14は、旋回半径に基づいて対象車両Tの走行軌跡を推定する。そして、進入予測部14は、前方の障害物までの前方距離に基づいて、推定した走行軌跡で走行する場合に障害物に干渉せずに対象車両Tが自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。
【0039】
また、進入予測部14は、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入できない場合、自車線L内への対象車両Tのはみ出し量を予測する。ここでは、進入予測部14は、対象車両Tが前方の障害物に干渉するまで最大限進行した場合における、対象車両Tの自車線L内へのはみ出し量を予測する。このはみ出し量は、自車線Lにおける幅方向の長さとすることができる。例えば、対象車両Tの左前端部が前方の障害物に干渉するために対象車両Tが障害物をかわすことができないが、対象車両Tの右前端部は自車線L内にはみ出すことがある。進入予測部14は、例えば、このような自車線L内への対象車両Tの右前端部のはみ出し量を予測する。
【0040】
具体的には、例えば、
図3(a)に示されるように、対象車両T2の前方距離Cが短い場合、つまり対象車両T2と対象車両T1との間の空間が狭い場合、推定された対象車両T2の走行軌跡Kが対象車両T1に干渉する。この場合、進入予測部14は、道路領域L1の車列から対象車両T2が抜け出すことができず、対象車両T2は自車線L内に進入できないと予測する。
【0041】
例えば、
図3(b)に示されるように、対象車両T2の前方距離Cが長い場合、つまり対象車両T2と対象車両T1との間の空間が広い場合、推定された対象車両T2の走行軌跡Kが対象車両T1に干渉しない。この場合、進入予測部14は、道路領域L1の車列から対象車両T2が抜け出すことができ、対象車両T2が自車線L内に進入可能であると予測する。
【0042】
なお、例えば、対象車両T2のタイヤの転舵角が小さい場合、タイヤの転舵角に基づいて推定される対象車両T2の旋回半径が大きくなる。このため、
図3(c)に示されるように前方距離Cが長い場合であっても、推定された走行軌跡Kが対象車両T1に干渉することがある。この場合、進入予測部14は、道路領域L1の車列から対象車両T2が抜け出すことができず、対象車両T2が自車線L内に進入できないと予測する。
【0043】
このように、進入予測部14は、前方距離と旋回半径とを用いることにより、対象車両Tのそれぞれについて、自車線L内への進入可能性を予測する。
【0044】
また、進入予測部14は、さらに、道路領域L1内における対象車両Tの横位置に基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能か否かを予測することができる。つまり、進入予測部14は、距離取得部12で取得された前方距離Cと、旋回半径推定部13で推定された旋回半径と、対象車両検出部11で検出された道路領域L1内における対象車両Tの横位置とに基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。
【0045】
具体的には、例えば、
図4(a)に示されるように、対象車両T2の前方距離Cが短い場合であっても、対象車両T2の横位置によっては、走行軌跡Kが対象車両T1に干渉せずに道路領域L1の車列から対象車両T2が抜け出すことができることがある。このため、進入予測部14は、前方距離C及び旋回半径に加え、対象車両T2の横位置も考慮して、対象車両T2が自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。
【0046】
また、進入予測部14は、さらに、自車線Lの延在方向に対する対象車両Tの傾きに基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能か否かを予測することができる。つまり、進入予測部14は、距離取得部12で取得された前方距離Cと、旋回半径推定部13で推定された旋回半径と、対象車両検出部11で検出された対象車両Tの傾きとに基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。
【0047】
具体的には、例えば、
図4(b)に示されるように、対象車両T2の前方距離Cが短い場合であっても、対象車両T2の傾きによっては、走行軌跡Kが対象車両T1に干渉せずに道路領域L1の車列から対象車両T2が抜け出すことができることがある。このため、進入予測部14は、前方距離C及び旋回半径に加え、対象車両T2の傾きも考慮して、対象車両T2が自車線L内に進入可能であるか否かを予測する。
【0048】
なお、進入予測部14は、前方距離と、旋回半径と、対象車両Tの横位置と、対象車両Tの傾きとに基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能であるか否かを予測することもできる。
【0049】
運転支援部20は、車両挙動予測部10の予測結果に基づいて、自車両Vの運転支援を行う。運転支援部20は、対象車両Tが自車線L内に進入可能であると予測された場合に、各種の運転支援を行うことができる。例えば、この運転支援は、HMI[Human Machine Interface]等を通じて行われる自車両Vの運転者に対する報知であってもよく、アクチュエータ2に指示を出すことによって自車両Vを減速又は停車させる制御であってもよく、アクチュエータ2に指示を出すことによって道路領域L1から離れる側に自車両Vの走行の横位置をオフセットさせる制御であってもよい。
【0050】
また、運転支援部20は、対象車両Tが自車線L内に進入できないと予測された場合であっても、自車線L内への対象車両Tのはみ出し量に基づいて、自車両Vの運転支援を行ってもよい。例えば、運転支援部20は、対象車両Tのはみ出し量が基準閾値よりも大きい場合、上述した運転者に対する報知、自車両Vの減速又は停車の制御、及び自車両Vの横位置をオフセットさせる制御を行ってもよい。
【0051】
つまり、運転支援部20は、対象車両Tが自車線L内に進入できないと予測された場合、対象車両Tの飛び出し(自車線L内への進入)に対する運転支援を行わない。但し、運転支援部20は、対象車両Tが自車線L内に進入できないと予測された場合であっても、対象車両Tのはみ出し量が基準閾値よりも大きい場合、対象車両Tのはみ出しに対する運転支援を行うことができる。
【0052】
次に、運転支援ECU4で行われる対象車両Tの自車線L内への進入に対する運転支援の処理の流れについて、
図5及び
図6を用いて説明する。なお、
図5及び
図6に示される処理は、自車両Vの走行が可能な状態となった場合に開始される。また、処理がエンドに至った場合、所定時間後に再びスタートから処理が開始される。つまり、運転支援ECU4は、道路領域L1に存在する対象車両Tが自車線L内に進入可能か否かを、所定時間毎に繰り返し予測している。
【0053】
図5に示されるように、対象車両検出部11は、道路領域L1に存在する対象車両Tを検出する処理を行う(S101)。対象車両Tが存在しない場合(S101:NO)、運転支援ECU4は、所定時間後に再びスタートから処理を開始する。対象車両Tが存在する場合(S101:YES)、距離取得部12は、対象車両Tと対象車両Tの前方に存在する障害物との間の距離である前方距離を取得する(S102)。また、対象車両検出部11は、対象車両Tの横位置、及び対象車両Tの傾きを検出する(S103)。
【0054】
旋回半径推定部13は、外部センサ1の検出結果に基づいて、対象車両Tのタイヤの転舵角を検出する処理を行う(104)。タイヤの転舵角が検出できた場合(S104:YES)、旋回半径推定部13は、タイヤの転舵角に基づいて、対象車両Tの旋回半径を推定する(S105)。一方、タイヤの転舵角が検出できない場合(S104:NO)、旋回半径推定部13は、対象車両Tの種類を特定する(S106)。そして、旋回半径推定部13は、特定した対象車両Tの種類と記憶部3が記憶する旋回半径情報とに基づいて、対象車両Tの旋回半径を推定する(S107)。
【0055】
S105又はS107において旋回半径が推定された後、進入予測部14は、旋回半径、対象車両Tの横位置及び傾きに基づいて、対象車両Tの走行軌跡を推定する(S108)。そして、進入予測部14は、前方の障害物までの前方距離に基づいて、推定した走行軌跡で走行する場合に障害物に干渉するか否かを予測する(S109)。障害物に干渉しない場合(S109:NO)、進入予測部14は、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入可能と予測する(S110)。そして、運転支援部20は、対象車両Tの自車線L内への飛び出しに対応する運転支援を行う(S111)。
【0056】
一方、障害物に干渉する場合(S109:YES)、進入予測部14は、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入できないと予測する(S112)。そして、進入予測部14は、自車線L内への対象車両Tのはみ出し量を予測する(S113)。運転支援部20は、予測された対象車両Tのはみ出し量が基準閾値よりも大きいか否かを判定する(S114)。はみ出し量が基準閾値よりも大きい場合(S114:YES)、運転支援部20は、対象車両Tのはみ出しに対する運転支援を行う(S115)。一方、はみだし量が基準閾値以下である場合(S114:NO)、運転支援部20は、運転支援を実行しない。そして、運転支援ECU4は、所定時間後に再びスタートから処理を開始する。
【0057】
以上のように、運転支援装置100の車両挙動予測部10では、対象車両Tの前方の空きスペースの長さ(前方距離)と、対象車両Tの旋回半径とを用いて、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入可能か否かの予測が行われる。つまり、車両挙動予測部10は、対象車両Tが操舵を行うことによって自車線L内に物理的に進入可能な状態であるか否かに基づいて、進入可否の予測を行うことができる。これにより、車両挙動予測部10は、自車両Vが走行する自車線Lに隣接する道路領域L1から自車線L内への対象車両Tの進入を精度よく予測することができる。
【0058】
そして、運転支援部20は、この車両挙動予測部10の予測結果に基づいて自車両Vの運転支援を行う。これにより、例えば対象車両Tが切り返しをしないと自車線L内に進入できない状態であるにも関わらず、対象車両Tの自車線L内への飛び出しに対する運転支援を運転支援部20が行うことを防止できる。従って、運転支援装置100は、不要な運転支援が行われることを防止でき、自車両Vの運転者がわずらわしさを感じることを抑制できる。
【0059】
車両挙動予測部10において旋回半径推定部13は、対象車両Tのタイヤの転舵角に基づいて旋回半径を推定することができる。この場合、進入予測部14は、実際のタイヤの転舵角に基づいて、自車線L内への対象車両Tの進入をより精度よく予測することができる。
【0060】
車両挙動予測部10において旋回半径推定部13は、記憶部3が記憶する旋回半径情報に基づいて、対象車両Tの種類に対応する最小旋回半径から対象車両Tの旋回半径を推定することができる。この場合、車両挙動予測部10は、対象車両Tの種類に応じて、自車線L内への対象車両Tの進入をより精度よく予測することができる。
【0061】
例えば、前後の車間距離が狭い縦列駐車の状態において、対象車両Tが車列から抜け出す場合がある。このような場合、対象車両Tは、できるだけ後退し、停車状態で操舵を行って(ハンドルを据え切りして)最小回転半径で車列から抜け出ることを試みることが多い。このような場合、対象車両Tの種類ごとの最小旋回半径を用いて旋回半径を推定することが特に有効となる。
【0062】
車両挙動予測部10において進入予測部14は、さらに、道路領域L1内における対象車両Tの横位置に基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能か否かを予測する。例えば、前方距離が同じであっても、対象車両Tの横位置によっては自車線L内に対象車両Tが進入できる場合と、前方の障害物に阻まれて対象車両Tが自車線L内に進入できない場合とがある。このため、進入予測部14は、対象車両Tの横位置をさらに用いて予測を行うことにより、自車線L内への対象車両Tの進入をより精度よく予測することができる。
【0063】
車両挙動予測部10において進入予測部14は、さらに、対象車両Tの傾きに基づいて、対象車両Tが自車線L内に進入可能か否かを予測する。例えば、前方距離が同じであっても、対象車両Tの傾きによっては自車線L内に対象車両Tが進入できる場合と、前方の障害物に阻まれて対象車両Tが自車線L内に進入できない場合とがある。このため、進入予測部14は、対象車両Tの傾きをさらに用いて予測を行うことにより、自車線L内への対象車両Tの進入をより精度よく予測することができる。
【0064】
車両挙動予測部10において進入予測部14は、対象車両Tが障害物をかわして自車線L内に進入できない場合、自車線L内への対象車両Tのはみ出し量を予測する。このように、対象車両Tが自車線L内に進入できない場合であっても車両挙動予測部10がはみ出し量を算出することにより、はみだし量を各種の制御に利用することができる。本実施形態おいて、運転支援部20は、対象車両Tの自車線L内へのはみ出し量に応じて自車両Vの運転支援を行う。これにより、運転支援装置100は、対象車両Tが自車線L内に進入できない場合であっても、自車線L内へのはみ出し量が大きい場合には、はみ出しに対応するための運転支援を行うことができる。
【0065】
このように、運転支援装置100は、対象車両Tが前方の障害物をかわして自車線L内に進入可能であるか否か、及び進入できない場合において自車線L内への対象車両Tの最大のはみ出し量を定量的に検出することができる。これにより、運転支援装置100は、必要以上に自車両Vの運転支援を行うことを抑制でき、自車両Vの運転者の煩わしさを低減しつつ、対象車両Tの挙動に対する効果的な運転支援を行うことができる。
【0066】
特に、前後の車間距離が狭い縦列駐車の状態において、対象車両Tが車列から抜け出す場合に、複数回の切り返しを行うことがある。このような状況であっても、運転支援装置100は、対象車両Tが車列から抜け出すことが可能か否かを精度よく予測することができるため、自車両Vの運転支援を適切に行うことができる。
【0067】
また、運転支援装置100は、渋滞している車列から対象車両Tが抜け出す場合にも、自車線L内への対象車両Tの進入の可能性を予測し、自車両Vの運転支援を行うことができる。この場合、運転支援装置100は、自車両Vの車速、及び/又は自車両Vの前方の車両の車速を考慮して、自車線L内への対象車両Tの進入の可能性を予測してもよい。
【0068】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、自車両Vは、自動車であることに限定されない。例えば、自車両Vは、自転車、自動二輪車、及び電動バイク等であってもよい。この場合、車両挙動予測部10における対象車両Tの挙動の予測結果は、自転車等の注意喚起システムに用いられてもよい。例えば自転車が路肩に停車している駐車車両を追い越す場合に、当該駐車車両が駐車車両の車列から抜けだすことができるか否かを報知することは特に有効である。また、車両挙動予測部10における対象車両Tの挙動の予測結果は、歩行者に対する注意喚起システムに適用されてもよい。この場合、例えば、歩行者が着用するメガネ等に搭載された外部センサの情報を用いて、上記と同様に対象車両Tの挙動を予測することができる。
【0069】
なお、例えば、坂道においては、路肩側に操舵輪が操舵された状態で車両が停車している場合がある。この場合、運転支援装置100は、走行軌跡の推定等を行うことなく、タイヤの角度だけで、駐車車両が自車線側に進入する可能性があるか否かを予測してもよい。
【符号の説明】
【0070】
3…記憶部、10…車両挙動予測部(車両挙動予測装置)、11…対象車両検出部、12…距離取得部、13…旋回半径推定部、14…進入予測部、L…自車線、L1…道路領域、T,T1,T3…対象車両、T2…対象車両(障害物)、V…自車両。