(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】集電体、導電性層形成用ペースト、電極、及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240521BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20240521BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20240521BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01B1/20 A
H01G11/68
(21)【出願番号】P 2021509567
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013548
(87)【国際公開番号】W WO2020196710
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019060110
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】梅村 真利
(72)【発明者】
【氏名】山野井 明日香
(72)【発明者】
【氏名】向井 寛
(72)【発明者】
【氏名】鋤納 功治
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-220467(JP,A)
【文献】特開平09-180758(JP,A)
【文献】特表2006-526878(JP,A)
【文献】特開2003-157852(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046126(WO,A1)
【文献】特開2015-109214(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005301(WO,A1)
【文献】特開2018-106879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64-4/84
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00-4/62
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質層の下地となる導電性の層、及び導電性の基材を備える集電体であって、
上記導電性の層が、導電性の材料と、
非導電性の無機酸化物
(但し、蓄電素子の充放電に関与するイオンと電気化学的に反応するものを除く)と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する
非導電性の無機化合物
(但し、蓄電素子の充放電に関与するイオンと電気化学的に反応するものを除く)と、を含
み、
上記導電性の層の平均厚みが2μm超である、蓄電素子用の集電体。
【請求項2】
導電性の材料と、
非導電性の無機酸化物
(但し、蓄電素子の充放電に関与するイオンと電気化学的に反応するものを除く)と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する
非導電性の無機化合物
(但し、蓄電素子の充放電に関与するイオンと電気化学的に反応するものを除く)と、を含む、
蓄電素子用の導電性層形成用ペースト。
【請求項3】
上記無機化合物が、炭酸化合物、炭酸水素化合物又は水酸化物(但し、アルカリ金属の水酸化物は除く)のうち1種以上を含む請求項1に記載の集電体。
【請求項4】
請求項1、3のいずれか1項に記載の集電体の、上記導電性の層の上に活物質層を備える蓄電素子用の電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体、導電性層形成用ペースト、電極、及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などに多用されている。このような二次電池やキャパシタ等の蓄電素子には、通常予見されない使用などにより発熱等の異常が生じる場合がある。
【0003】
そのため、温度上昇に伴って電流が遮断される機能(以下、シャットダウン機能とも呼ぶ。)を有する電極や、このような電極を備える蓄電素子が開発されている。上記機能を有する電極としては、所定温度以上で体積膨張を起こす熱膨張粉末を含む活物質層を備える電極(特許文献1)、及び所定温度以上に加熱された場合に蒸発又は分解する有機バインダーを含むアンダーコート層を備える電極(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-31208号公報
【文献】国際公開第2012/005301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の上記機能にも改善の余地があり、多数の手段を開発し、使い分けることや併用することも有効である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、通常予見される使用形態又は使用状態ではない使用により、内部短絡が生じた時の蓄電素子の発熱を抑制できる集電体、この集電体を備える電極、この電極を備える蓄電素子、及び導電性層形成用ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、活物質層の下地となる導電性の層、及び導電性の基材を備える集電体であって、上記導電性の層が、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む、集電体である。
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む、導電性層形成用ペーストである。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、当該集電体を備える電極である。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明のさらに他の一態様は、当該電極を備える蓄電素子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内部短絡時の蓄電素子の発熱を抑制できる集電体、この集電体を備える電極、この電極を備える蓄電素子、及び導電性層形成用ペーストを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施例の作用メカニズムについて説明するための図である。
【
図2】
図2は、本実施例に用いた水酸化マグネシウムのTG-DTAグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様は、活物質層の下地となる導電性の層、及び導電性の基材を備える集電体であって、上記導電性の層が、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む、集電体である。
【0014】
当該集電体上に活物質層を形成した電極を備えた蓄電素子は、通常予見される使用形態、又は使用状態ではない使用により、内部短絡が発生した場合にも発熱が抑制される。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。
当該蓄電素子において、例えば内部短絡の発生により蓄電素子内部で発熱した際、導電性の層が含む、無機化合物が(100℃以上、800℃以下の温度で)熱分解する。この無機化合物の分解により、導電性の基材と、活物質層との密着性が下がるため、電気抵抗が上昇する。蓄電素子を内部短絡させた場合を模擬した釘刺し試験において、蓄電素子に刺された釘の最高到達温度は約800℃となることから、当該無機化合物の熱分解温度の上限を800℃とすることで、蓄電素子の内部短絡時に当該無機化合物が確実に熱分解し、導電性の基材と活物質層との間の電気抵抗を確実に上昇させることができる。ここで、導電性の層が無機酸化物をさらに含む場合は(
図1(B)、実施例に相当)、発熱により無機化合物が熱分解した後でも、無機酸化物が活物質層と導電性の基材の接触をより効果的に防ぐことができるため、導電性の層が無機酸化物を含まない場合(
図1(A)、比較例に相当)と比べてより電気抵抗を高めることが可能である。そのため、発熱により無機化合物が熱分解した後でも、蓄電素子内部で大電流が流れ、さらに発熱することを防ぐことができる。なお、
図1においては、導電性の材料と、バインダーは図示していない。
当該蓄電素子は、900mAh程度の小型の蓄電素子だけでなく、大型の蓄電素子でも、効果を奏する。
【0015】
活物質と、導電性の材料と、バインダーと、無機酸化物と、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む活物質層形成用ペーストを、導電性の基材の上に塗布して作製した(上記導電性の層を有しない)電極では、無機化合物が熱分解をしたとしても、活物質層と導電性の基材との接触状態に変化が少なく、電気抵抗を高める効果は充分には得られない。
また、同様に活物質層とセパレータの間に無機酸化物と、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む層を形成しても、電気抵抗を高める効果は得られない。
【0016】
(導電性の基材)
導電性の基材は、正極の場合、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストのバランスからアルミニウム、及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
負極の場合は、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0017】
(導電性の層)
導電性の層は、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む。
上記導電性の材料としては、導電性を有する限り、特に限定されない。導電性の材料としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然又は人造の黒鉛、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。導電性の材料の形状は、通常、粒子状である。
【0018】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。これらの中でも、良好なPTC機能が発現される観点から、加熱に伴って膨潤する樹脂が好ましく、具体的にはフッ素樹脂が好ましく、PVdFがより好ましい。
【0019】
100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の具体例としては、炭酸化合物、炭酸水素化合物、水酸化酸化物、水和物、及び水酸化物を挙げることができ、炭酸化合物、及び水酸化物が好ましく、熱分解により、非助燃性の水を放出することから、水酸化物がさらに好ましい。
【0020】
炭酸化合物としては、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、その他、炭酸アルミニウム、炭酸亜鉛、炭酸マンガン等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、炭酸マグネシウムがより好ましい。
【0021】
炭酸水素化合物としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩や、炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸水素塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属の炭酸水素塩が好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0022】
水酸化酸化物としては、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト等)や水酸化酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0023】
水和物としては、硫酸カルシウム二水和物、硫酸銅五水和物等が挙げられる。なお、本明細書においては、水和物からの脱水反応も、熱分解反応とする。
【0024】
水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、その他、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウムの水酸化物等が挙げられる。
【0025】
100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物は、上記の材料のうち、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
無機化合物が分解する温度の下限は、130℃が好ましく、160℃がより好ましい。これにより、電極作製後の乾燥工程において、無機化合物が分解する虞を低減できる。無機化合物が分解する温度の上限は、800℃が好ましく、700℃がより好ましく、600℃がよりさらに好ましい。無機化合物の形状は、通常時の導電性の層中において、粒子状である。無機化合物は、通常、絶縁性である。
【0027】
100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物は分解に伴い難燃性かつ非助燃性の気体を発生することが好ましい。難燃性かつ非助燃性の気体としては、二酸化炭素、水(水蒸気)、窒素等が挙げられ、これらの中でも、水が好ましい。
【0028】
100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の形状は特に限定されないが、棒状であることが好ましい。無機化合物が棒状である場合、アンカー効果が高まり、バインダーの溶融流出を十分に抑制することができる。また、棒状である場合、加熱に伴う分解が生じやすい。なお、「棒状」とは、短径に対する長径の比が2以上の粒子をいい、この比が5以上の粒子であることが好ましい。なお、この比の上限は例えば100であってよい。上記短径、及び長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で6つ以上の無機化合物の粒子が観察される1視野において、長径の大きい上位5つの粒子の平均値とする。棒状の無機化合物の短径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。この短径の上限としては、10μmが好ましく、4μmがより好ましい。
【0029】
上記無機酸化物の分解温度は、上記無機化合物の分解温度より高いことが好ましい。
上記無機酸化物は、600℃以下の温度では分解しないことが好ましい。より好ましくは800℃以下の温度では分解しないほうが良く、よりさらに好ましくは1000℃以下の温度では分解しないほうが良い。それにより、蓄電素子の内部で発熱し、無機化合物が分解した際でも、無機酸化物が、活物質層と、導電性の基材との間に残留し、活物質層と、導電性の基材との接触をより抑えることができ、電気抵抗を高めることができる。
【0030】
上記無機酸化物は、粒子状であることが好ましい。無機酸化物の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。平均粒子径の上限としては、5μmが好ましく、3μmがより好ましい。
【0031】
上記無機酸化物として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどがあげられる。これらを単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも取り扱いやすさから、シリカ、アルミナが好ましい。
【0032】
なお、上記無機酸化物、及び上記100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物として、充放電に関与するイオンと使用される電位範囲内で、電気化学的に反応する無機酸化物、及び無機化合物は除く。例えば、リチウムイオンが充放電に関与する後述の本実施例のような非水電解質電池において、(正極に使用され、作動電位範囲は、2.8から4.3V(vs.Li/Li+)である)LiXMeYOZ(0<X≦2、0<Y≦1、0<Z≦2、Meは遷移金属)で表される無機酸化物(例えば、LiCoO2や、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2など)は、リチウムイオンと電気化学的に反応するため、含まない。
【0033】
導電性の層における、導電性の材料の含有量の上限は、導電性の層100質量%に対して、30質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、20質量%がよりさらに好ましい。上記上限以下とすることで、無機化合物が熱分解した際、導電性の材料同士あるいは基材と活物質層の分断が生じやすくなり、電気抵抗をより高めることができる。また、導電性の材料の含有量の下限は、導電性の層100質量%に対して、3質量%が好ましく、4質量%がより好ましく、7質量%がさらに好ましく、10質量%がよりさらに好ましい。上記下限以上とすることで、導電性の層中に十分な量の導電性の材料を存在させることができ、通常時における良好な導電性を確保することができる。導電性の材料の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下であってよい。
【0034】
導電性の層における、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の含有量の上限は、導電性の層100質量%に対して、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましく、50質量%がよりさらに好ましい。上記上限以下とすることで、通常使用時に良好な導電性を付与することできる。また、導電性の層における100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の含有量の下限は、導電性の層100質量%に対して、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、25質量%がよりさらに好ましい。上記下限以上とすることで、熱の発生に伴い無機化合物が分解した際、充分なシャットダウン機能を与えることができる。無機化合物の含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下であってよい。
【0035】
導電性の層における、無機酸化物の含有量の上限は、導電性の層100質量%に対して、例えば、80質量%でもよく、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、40質量%がよりさらに好ましい。上記上限以下とすることで、通常使用時に良好な導電性を付与することできる。また、導電性の層における無機酸化物の含有量の下限は、導電性の層100質量%に対して、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、25質量%がよりさらに好ましい。上記下限以上とすることで、熱の発生に伴い無機化合物が分解した後でも、活物質層と導電性基材との接触をより確実に抑え、電気抵抗をより高めることができる。そのため、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の使用量を減らし、導電性の層の厚みを低減することができる。これにより、単位体積当たりの放電容量の低下を抑えることができる。
【0036】
導電性の層における、導電性の材料の質量に対する100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量比率の下限は、1.2倍が好ましく、2倍がより好ましく、3倍がよりさらに好ましい。導電性の材料の質量に対する100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量比率を上記下限以上とすることで、無機化合物が熱分解した際、導電性の材料同士あるいは基材と活物質層の分断が生じやすくなり、電気抵抗をより高めることができる。導電性の層における導電性の材料の質量に対する100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量比率の上限は、10倍が好ましく、8倍がより好ましく、6倍がよりさらに好ましい。導電性の材料に対する100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量比率を上記上限以下とすることで、導電性の層中に十分な量の導電性の材料を存在させることができ、通常時における良好な導電性を確保することができる。上記導電性の材料の質量に対する無機化合物の質量比率は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下であってよい。
【0037】
導電性の層における、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量に対する無機酸化物の質量比率の下限は、0.2倍が好ましく、0.25倍がより好ましく、0.3倍がよりさらに好ましい。100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量に対する無機酸化物の質量比率を上記下限以上とすることで、熱の発生に伴い無機化合物が分解した後でも、活物質層と導電性基材との接触をより確実に抑えることができる。一方、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量に対する無機酸化物の質量比率の上限は、4倍が好ましく、3.5倍がより好ましく、3倍がよりさらに好ましい。100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物の質量に対する無機酸化物の質量比率を上記上限以下とすることで、無機化合物が熱分解した際、導電性の材料同士あるいは基材と活物質層の分断が生じやすくなり、電気抵抗をより高めることができる。上記無機化合物の質量に対する無機酸化物の質量比率は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下であってよい。
【0038】
導電性の層における、バインダーの含有量の下限としては、導電性の層100質量%に対して、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、導電性の層100質量%に対して、30質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。導電性の層におけるバインダーの含有量を上記範囲とすることで、十分な結着性と、発熱時の導電性の材料又は層間の分断性とをバランス良く発現することができる。上記バインダーの含有量は、上記いずれかの下限以上かつ上記いずれかの上限以下であってよい。
【0039】
電極をプレスした後の、導電性の層の平均厚みとしては、特に限定されないが、下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましく、4μmがさらに好ましい。導電性の層の平均厚みを上記下限以上とすることで、シャットダウン機能をより高めることができる。一方、この平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。導電性の層の平均厚みを上記上限以下とすることで、充放電サイクル性能が低下する虞を低減することなどができる。すなわち、導電性の層の厚みは、1μmから10μmが好ましく、2μmから10μmがより好ましく、4μmから8μmがよりさらに好ましい。
上記導電性の層の厚みは、例えば電極の断面のSEM観察により確認することができる。
【0040】
上記導電性の層は、導電性の基材の片方の面の面積の50%以上を覆っていることが好ましく、70%以上を覆っていることがより好ましく、90%以上を覆っていることがよりさらに好ましい。また、100%を覆っていなくてもよい。
【0041】
上記導電性の層は導電性の基材の少なくとも片方の面を覆っていればよく、両方の面を覆っていてもよい。
【0042】
上記導電性の層は正極活物質層、負極活物質層どちらの下にあってもよいが、正極活物質層の下にあることで、より効果を発揮する。一般的に、正極活物質層と負極活物質層の導電性は、正極活物質層の方が低い。また、導電性の基材についても、一般的に、正極が備える基材の方が負極が備える基材よりも導電性が低い。このように一般的に導電性が相対的に低い正極に当該集電体を適用することによって、発熱時に導電性が下がる機能がより効果的に発現する。
【0043】
本発明の他の一つの態様は、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む、導電性層形成用ペーストである。上記の導電性層形成用ペーストを導電性の基材に塗布、乾燥することで、導電性の層、及び導電性の基材を備え、上記導電性の層が、導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む、集電体を作製することができる。
【0044】
本発明のさらに他の一つの態様は、上記集電体の、上記導電性の層の上に活物質層を備える蓄電素子用の電極である。
【0045】
本発明のさらに他の一つの態様は、上記の電極を備える蓄電素子である。
【0046】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電性の材料、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0047】
上記正極活物質としては、例えばLixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO2型結晶構造を有するLixCoO2,LixNiO2,LixMnO3,LixNiαCo(1-α)O2,LixNiαMnβCo(1-α-β)O2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn2O4,LixNiαMn(2-α)O4等)、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
正極活物質層に含有される導電性の材料、及びバインダーは、導電性の層と同様のものを挙げることができる。
【0049】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0050】
上記フィラーは、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0051】
(製造方法)
当該集電体および電極の製造方法は特に限定されるものではない。導電性の材料と、無機酸化物と、バインダーと、100℃以上、800℃以下で熱分解する無機化合物と、を含む導電性層形成用ペーストを作製し、導電性の基材に塗布、乾燥することで、当該集電体を得ることができる。その後、活物質を含む活物質層形成用ペーストをその上に塗布、乾燥することで、当該電極を得ることができる。
【0052】
<二次電池(非水電解質蓄電素子)>
本発明の一実施形態に係る二次電池(非水電解質蓄電素子)は、正極、負極、及び非水電解質を有する。上記正極、及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0053】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接、又は導電性の層を介して配される正極活物質層を有する。
【0054】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接、又は導電性の層を介して配される負極活物質層を有する。
【0055】
上記正極、又は上記負極の少なくともどちらか一方は、上記導電性の層を有する。
【0056】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0057】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電性の材料、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電性の材料、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0058】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵、及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素、又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0059】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0060】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。また、これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0061】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、非水電解質二次電池に通常用いられる公知の電解質が使用でき、非水溶媒に電解質塩が溶解されたものを用いることができる。
【0062】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートなどを挙げることができる。
【0063】
上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0064】
なお、非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0065】
(製造方法)
当該二次電池の製造方法は特に限定されるものではない。当該二次電池の製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極、及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極、及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0066】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0067】
また、上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)や、電解質が水を含む二次電池などが挙げられる。
【0068】
図3に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1(二次電池1)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図3に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、電池容器3内に、非水電解質が注入されている。なお、正極等の各要素の具体的構成等は、上述したとおりである。
【0069】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図4に示す。
図4において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[TG測定]
水酸化マグネシウム(神島化学工業製「マグシーズX-6」、平均粒子径0.9μm、BET比表面積7m
2/g)について、TG-DTA測定を行った。酸素流通下(100mL/min)、10℃/minで850℃まで昇温し、その際の質量減少率、及びDTAを記録した。得られたTG-DTAのグラフを
図2に示す。
図2から、水酸化マグネシウムは400℃近傍で質量が30%程度減少していることがわかる。水酸化マグネシウムの400℃近傍における質量減少は水酸化マグネシウムの熱分解によるものと考えられる。なお、Mg(OH)
2→MgO+H
2Oという反応を想定すると、計算上約30%の質量減少となる。
【0072】
[実施例1]
(正極の作製)
上記の水酸化マグネシウム、アルミナ、アセチレンブラック(AB)、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を38.5:38.5:8:15の質量比で秤量した。これらを、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混ぜ、導電性層形成用ペーストを調製した。この導電性層形成用ペーストを導電性の基材としてのアルミニウム箔(平均厚さ15μm)の表面に塗布、乾燥して集電体を得た。
【0073】
正極活物質としてのLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、AB、及びPVdFを質量比93:4:3の割合(固形分換算)で含有し、NMPを分散媒とする正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを、前記集電体の、導電性の層の表面に塗布、乾燥することで分散媒を除去し、ローラープレス機により加圧成形した。その後、減圧雰囲気下で乾燥することで、実施例1の正極を得た。加圧成形後の導電性の層の平均厚さは断面SEM像の観察により、片面あたり約4μmであることがわかった。なお、導電性の層及び正極活物質層は、アルミニウム箔の両面に設けた。また、正極には、導電性の層及び正極活物質層を積層していないタブを設けた。
【0074】
(負極の作製)
黒鉛と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、を98:1:1の組成(固形分比)で混練し、水を分散媒とする負極活物質層形成用ペーストを作製した。この負極活物質層形成用ペーストを、銅箔の両面に塗布、乾燥、プレスし、負極を得た。
【0075】
(非水電解質の作製)
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、を25:5:70の体積比で混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が1.0mol/dm3となるように溶解させ、非水電解質を得た。
【0076】
(蓄電素子の作製)
ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、扁平形状に巻回することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この容器(角形電槽缶)内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、蓄電素子(以下、「試験セル」とも呼ぶ。)を得た。
【0077】
[比較例1]
導電性の層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の蓄電素子を得た。
【0078】
[実施例2、及び比較例2から比較例4]
導電性の層における導電性の材料、及びその比率を表1のとおりとしたこと以外は実施例1と同様の手順で、実施例2、及び比較例2から比較例4に係る蓄電素子を作製した。ここで「-」はその材料を用いていないことを意味し、単位は質量%である。また、MgCO3、及びAl2O3は下記のものを用いた。
MgCO3:神島化学工業株式会社製「マグサーモ MS-S」、平均粒子径1.2μm、BET比表面積5.5m2/g
Al2O3:住友化学社製「AKP-3000」、平均粒子径0.7μm、BET比表面積11.7m2/g
【0079】
[評価]
(初期充放電)
上記手順で得られた実施例、及び比較例に係る、複数の試験セルについて、25℃の恒温槽中にて、下記の充放電をおこなった。
(1)充電工程
1/3Cの電流値で4.25Vまで定電流充電を行った。電圧が4.25Vに到達したとき、その電圧を維持し、充電の合計時間が5時間に到達したときを充電の終わりとし(いわゆる定電流定電圧充電)、10分間の休止を行った。
(2)放電工程
1/3Cの電流値で2.75Vまで定電流放電を行った。2.75Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行った。
上記の(1)、(2)の工程を1回行った後、充電電流及び放電電流を1Cに変更して、上記の工程を2回繰り返した。次に、充電電流を1/3C、放電電流を1Cに変更して、1回の充放電を行った。4回目に相当する、1C放電容量を、「初期容量」として記録した。初期容量はいずれも約900mAhであった。
ここで、セル電圧が4.25Vのときの正極電位はおおよそ4.3V(vs.Li/Li+)で、セル電圧が2.75Vのときの正極電位はおおよそ2.8V(vs.Li/Li+)であった。
【0080】
(60℃釘刺し試験)
上記初期充放電工程を経た各実施例、及び各比較例の試験セルについて、25℃にて、1/3Cの電流値で4.25Vまで定電流充電を行った。電圧が4.25Vに到達したとき、その電圧を維持し、充電の合計時間が5時間に到達したときを充電の終わりとした。
次に、釘刺し試験用の冶具にセットし、試験セルの最も大きい面の中央部に熱電対をとりつけ、60℃に設定した密閉性の箱に5時間放置した。その後、下記の条件で、試験セルの最も大きい面の中央部に対して、釘刺し試験を行った。なお、熱電対の取り付け位置と、釘の貫通点はおおよそ3mm離した。
釘の材質:SUS304
釘の内寸:Φ1mm
釘の先端角:30°
釘の押し出し速度:1mm/sec
【0081】
釘刺し試験の結果を表1に示す。ここで、「最高到達温度(℃)」は、釘刺し試験の結果、熱電対が示した、試験セル表面の最高到達温度を示す。
また、「導電性の層のプレス前厚み(μm)」は、導電性の層を形成後の集電体の厚みを、マイクロメーターを用いて9点測定した平均値から、導電性の基材の厚みを引いたものである。「導電性の層のプレス後厚み(μm)」は、上記の集電体上に活物質層を形成し、プレスした後の電極について、断面SEM観察にて導電性の層の3点の平均を求めたもので、いずれも、片面あたりの導電性の層の厚みである。
【0082】
【0083】
表1から分かるように、実施例1では試験セルの表面温度は90.7℃で、実施例2では試験セルの表面温度は117.2℃であった。一方で、Mg(OH)2、MgCO3、Al2O3を単独で用いた比較例2から比較例4、及び導電性の層を有していない比較例1では、いずれも試験セルの表面温度は200℃を超えた。
【0084】
導電性の層のプレス前厚みは、いずれも5から8μmであるが、効果に差が見られた。これは、Al2O3を添加した実施例1、及び実施例2では、無機化合物の分解後、Al2O3が活物質層と導電性の基材の接触を防ぎ、より効果的に電気抵抗を高めたため、試験セルの発熱を抑制できたと考えられる。
なお、比較例2から比較例4の構成でも、導電性の層のプレス前厚みを、例えば、15から20μmと、より厚くすることで、釘刺し試験の結果は改善すると考えられるが、単位体積当たりの放電容量が小さくなる。
【0085】
比較例1、実施例1、及び実施例2の試験セルについて、下記の要領で300回の充放電サイクル試験を行った。
【0086】
(充放電サイクル試験)
上記初期充放電後の、釘刺し試験に供していない試験セルについて、45℃の恒温槽中にて、(1’)、(2’)の工程を1回のサイクルとし、300回繰り返した。
(1’)充電工程
1Cの電流値で4.25Vまで定電流充電を行った。電圧が4.25Vに到達したとき、その電圧を維持し、充電の合計時間が3時間に到達したときを充電の終わりとし(いわゆる定電流定電圧充電)、10分間の休止を行った。
(2’)放電工程
1Cの電流値で3.45Vまで定電流放電を行った。3.45Vに到達したときを放電の終わりとし、10分間の休止を行った。
【0087】
(充放電サイクル試験後の容量確認試験)
上記300サイクル後の試験セルについて、25℃の恒温槽中にて、1Cの電流値で、2.75Vまで放電を行った後、「初期容量」を測定したときと同じ条件で、充放電を行った。得られた放電容量を「初期容量」で除算することで、「容量維持率(%)」を取得した。表2に得られた容量維持率をまとめた。
【0088】
【0089】
集電体と、活物質層の間に導電性の層を設けた実施例1及び実施例2の試験セルは、導電性の層を設けていない比較例1の試験セルと同等の充放電サイクル性能を保っていた。これは、無機化合物や無機酸化物は電気化学的安定性が高く、また、分解温度が非常に高いため、45℃の環境下では無機化合物の分解に由来する導電性の層と活物質層間の抵抗増加が起きなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池などに適用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 非水電解質二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置