(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】含フッ素弾性共重合体組成物、フッ素ゴム及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/21 20060101AFI20240521BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240521BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C08J3/21 CEW
C08J3/24 Z
C08L27/18
(21)【出願番号】P 2021512178
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2020015053
(87)【国際公開番号】W WO2020204082
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019071313
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】安田 智子
(72)【発明者】
【氏名】河合 剛
(72)【発明者】
【氏名】目黒 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】米田 利一
(72)【発明者】
【氏名】シメオン フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】巨勢 丈裕
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246930(JP,A)
【文献】特開2002-293831(JP,A)
【文献】特開2013-057089(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119202(WO,A1)
【文献】特開平10-279635(JP,A)
【文献】特表2011-504531(JP,A)
【文献】特開2000-230096(JP,A)
【文献】特開2003-026811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28、 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件1及び条件2の少なくとも一方を満たし、
含フッ素弾性共重合体水分散液とフッ素樹脂水分散液を混合して、含フッ素弾性共重合体100質量部に対してフッ素樹脂を0.5~20質量部含む水分散液混合物を得た後に、該水分散液混合物を凝集
し、
前記フッ素樹脂水分散液に含まれる前記フッ素樹脂の体積基準累積50%径が200~400nmである、含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
条件1:前記含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値と前記フッ素樹脂水分散液のpH値との差の絶対値が2.0以下。
条件2:前記含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値と前記フッ素樹脂水分散液のpH値がいずれも7.0以上。
【請求項2】
前記含フッ素弾性共重合体がテトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する共重合体である、請求項1に記載の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項1又は2に記載の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記含フッ素弾性共重合体水分散液に含まれる含フッ素弾性共重合体の体積基準累積50%径が30~200nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
前記水分散液混合物に凝析剤を添加して前記凝集を行う、請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
【請求項6】
前記水分散液混合物を凍結して前記凝集を行う、請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
含フッ素弾性共重合体とフッ素樹脂を含み、前記フッ素樹脂が前記含フッ素弾性共重合体100質量部に対して0.5~
5質量部含まれ、前記フッ素樹脂は前記含フッ素弾性共重合体中に分散しており、前記フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmであ
り、
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項8】
前記含フッ素弾性共重合体がテトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する共重合体である、請求項
7に記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれかに記載の製造方法で得られた含フッ素弾性共重合体組成物に、架橋剤を添加して架橋する、フッ素ゴムの製造方法。
【請求項10】
請求項
7又は8に記載の含フッ素弾性共重合体組成物を架橋してなるフッ素ゴム。
【請求項11】
前記フッ素樹脂の割合が、前記含フッ素弾性共重合体に由来する成分100質量部に対して0.5~
5質量部であり、前記フッ素樹脂は前記フッ素ゴム中に分散しており、前記フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmである、請求項
10に記載のフッ素ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素弾性共重合体とフッ素樹脂を含む含フッ素弾性共重合体組成物、フッ素ゴム組成物及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素弾性共重合体を架橋させた架橋ゴム(いわゆる、フッ素ゴム)は、耐熱性、耐薬品性、耐油性及び耐候性等に優れる点から、シール材(例えば、Oリング、パッキン、オイルシール、ガスケット)及びクッション材として、車両、船舶、航空機、一般機械、建築等の分野で広く使用されている。
このような架橋ゴムの製造方法として、特許文献1には、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びプロピレンに基づく単位を有する含フッ素弾性共重合体、有機過酸化物(架橋剤)ならびに架橋助剤等を含む組成物を架橋して、架橋ゴムを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような架橋ゴムは、必要な硬度を得るためにカーボンブラック等を添加することが一般的に行われている。しかし、例えばシール材を半導体製造装置に用いる場合には、添加剤が半導体製品に影響を与える恐れがある。
本発明は、カーボンブラック等の添加剤を必須としなくても、シール材等に使用できる硬度を有するフッ素ゴム、該フッ素ゴムを容易に得られる含フッ素弾性共重合体組成物、及びこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、含フッ素弾性共重合体水分散液とフッ素樹脂水分散液を混合してから凝集することにより、高い硬度を有するフッ素ゴムを得られる、含フッ素弾性共重合体組成物を容易に得られることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]下記条件1及び条件2の少なくとも一方を満たし、
含フッ素弾性共重合体水分散液とフッ素樹脂水分散液を混合して、含フッ素弾性共重合体100質量部に対してフッ素樹脂を0.5~20質量部含む水分散液混合物を得た後に、該水分散液混合物を凝集する、含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
条件1:前記含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値と前記フッ素樹脂水分散液のpH値との差の絶対値が2.0以下。
条件2:前記含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値と前記フッ素樹脂水分散液のpH値がいずれも7.0以上。
[2]前記含フッ素弾性共重合体がテトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する共重合体である、[1]の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[3]前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、[1]又は[2]の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[4]前記含フッ素弾性共重合体水分散液に含まれる含フッ素弾性共重合体の体積基準累積50%径が30~200nmである、[1]~[3]のいずれかの含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[5]前記フッ素樹脂水分散液に含まれるフッ素樹脂の体積基準累積50%径が200~400nmである、[1]~[3]のいずれかの含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[6]前記水分散液混合物に凝析剤を添加して前記凝集を行う、[1]~[5]のいずれかの含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[7]前記水分散液混合物を凍結して前記凝集を行う、[1]~[5]のいずれかの含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法。
[8]含フッ素弾性共重合体とフッ素樹脂を含み、前記フッ素樹脂が前記含フッ素弾性共重合体100質量部に対して0.5~20質量部含まれ、前記フッ素樹脂は前記含フッ素弾性共重合体中に分散しており、前記フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmである、含フッ素弾性共重合体組成物。
[9]前記含フッ素弾性共重合体がテトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位とを有する共重合体である、[8]の含フッ素弾性共重合体組成物。
[10]前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、[8]又は[9]の含フッ素弾性共重合体組成物。
[11][1]~[7]のいずれかの製造方法で得られた含フッ素弾性共重合体組成物に、架橋剤を添加して架橋する、フッ素ゴムの製造方法。
[12][8]~[10]のいずれかの含フッ素弾性共重合体組成物を架橋してなるフッ素ゴム。
[13]前記フッ素樹脂の割合が、前記含フッ素弾性共重合体に由来する成分100質量部に対して0.5~20質量部であり、前記フッ素樹脂は前記フッ素ゴム中に分散しており、前記フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmである、[12]のフッ素ゴム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カーボンブラック等の添加剤を必須としなくても硬度に優れたフッ素ゴム及び該フッ素ゴムを容易に得られる含フッ素弾性共重合体組成物とその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に由来する原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」は、以下、単に「単位」ともいう。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「ゴム」とは、JIS K 6200(2008)により定義される性質を示すゴムを意味し、「樹脂」とは区別される。
「体積基準累積50%径」は、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。以下、D50とも記す。
【0009】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法において、含フッ素弾性共重合体水分散液に含まれる含フッ素弾性共重合体としては、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す。)に基づく単位及びプロピレンに基づく単位を有する共重合体、TFE単位及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す。)に基づく単位を有する共重合体、又はヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとも記す。)に基づく単位及びフッ化ビニリデン(以下、VdFとも記す。)に基づく単位を有する共重合体が好ましい。
【0010】
本発明の含フッ素弾性共重合体は、樹脂とは異なり融点を観測できない共重合体である。より正確には、熱分解温度が融点よりも低い温度であるため、融点が見つけられない共重合体である。
また、本発明の含フッ素弾性共重合体は架橋しうる共重合体である。より正確には、架橋点を有する共重合体であり、架橋剤等を添加してから架橋するとゴムが得られる。
また、本発明の含フッ素弾性共重合体は、貯蔵弾性率G’が10~800kPaが好ましく、150~600kPaがより好ましく、200~500kPaがさらに好ましい。
【0011】
各共重合体は、一般的なラジカル重合法によって得られる。ラジカル重合法として、例えば、ヨウ素単体又はヨウ素化合物存在下にラジカル重合するヨウ素移動重合法などのリビングラジカル重合法が挙げられる。
【0012】
TFE単位及びプロピレン単位(以下、P単位とも記す。)を有する共重合体及びその製造方法として、国際公開第2009/119202号、及び国際公開第2017/057512号に記載の共重合体等が例示される。
HFP単位及びVdF単位を有する共重合体及びその製造方法として、特開平06-306180号公報に記載の共重合体等が例示される。
TFE単位及びPAVE単位を有する共重合体及びその製造方法として、米国特許第4035565号明細書、及び国際公開第2010/082633号に記載の共重合体等が例示される。
【0013】
含フッ素弾性共重合体水分散液としては、上記文献に記載された製造方法で得られた共重合体を水性媒体に分散して用いてもよく、得られた水分散液をそのまま、又は適宜希釈等して用いてもよい。中でも、得られた水分散液をそのまま、又は適宜希釈等して用いるのが好ましい。
【0014】
好ましい共重合体として、以下の共重合体が例示できる。
TFE単位とP単位を有し、全単位に対して、TFE単位とP単位の合計が65~100モル%である共重合体(以下、TFE-P系共重合体という)。HFP単位とVdF単位を有し、全単位に対して、HFP単位とVdF単位の合計が50~100モル%である共重合体(以下、HFP-VdF系共重合体という)。TFE単位とPAVE単位を有し、全単位に対してTFE単位とPAVE単位の合計が50~100モル%である共重合体(以下、TFE-PAVE系共重合体という)。中でも、TFE-P系共重合体が好ましい。
【0015】
TFE-P系共重合体としては共重合体の全単位に対して、TFE単位とP単位の合計が65~100モル%であり、TFE単位/P単位のモル比が30/70~70/30である共重合体が好ましい。TFE単位/P単位のモル比は、45/55~65/35が好ましく、50/50~60/40がより好ましい。TFE-P系共重合体は、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
【0016】
TFE単位及びP単位以外の単位としては、下式(1)で表される単量体1に基づく単位(以下、単位1という。)が好ましい。
CR1R2=CR3-R4-CR5=CR6R7 ・・・(1)
(式(1)中、R1、R2、R3、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はメチル基であり、R4は、炭素原子数1~10のパーフルオロアルキレン基又は前記パーフルオロアルキレン基の両末端、片末端もしくは炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する基である。)
【0017】
単量体1としては、CF2=CFO(CF2)3OCF=CF2、CF2=CFO(CF2)4OCF=CF2、CH2=CH(CF2)6CH=CH2が例示できる。
全単位に対する単位1の割合は0.05~1.5モル%が好ましく、0.1~0.8モル%がより好ましく、0.15~0.6モル%がさらに好ましい。
共重合体がTFE単位、P単位及び単位1を含む場合、共重合体の全単位に対するTFE単位、P単位及び単位1の合計は98~100モル%が好ましい。また、TFE単位/P単位のモル比は30/70~70/30が好ましく、45/55~65/35がより好ましく、50/50~60/40が更に好ましい。
【0018】
TFE単位、P単位及び単位1以外の他の単位としては、下記の単量体に基づく単位が例示できる。
フッ素化オレフィン:モノフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、ジクロロジフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロシクロブテン、ペンタフルオロブチレン、ヘプタフルオロペンテン、ノナフルオロヘキセン、ウンデカフルオロヘプテン
炭化水素オレフィン:エチレン、1-ブテン、イソブチレン、ペンテン
アルキルビニルエーテル:メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル
ビニルエステル:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル
上記以外の単量体:塩化ビニル、塩化ビニリデン、トリフルオロスチレン
全単位に対して、他の単位は、2.0モル%以下が好ましく、1.0モル%以下がより好ましく、0.5モル%以下が特に好ましい。
【0019】
TFE-P系共重合体はヨウ素原子を含むことが好ましい。共重合体の全質量に対して、ヨウ素原子は0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~1.5質量%がより好ましく、0.1~1.0質量%がさらに好ましい。この範囲であると、TFE-P系共重合体のゴム物性を維持しつつ、架橋が容易になるため好ましい。
【0020】
共重合体へのヨウ素原子の導入方法は、上記他の単量体としてヨウ素原子を有する単量体を用いる方法やヨウ素原子を有する連鎖移動剤を重合に用いる方法が挙げられる。共重合体の主鎖末端にヨウ素原子を導入することができ、架橋部位をコントロールしやすいことから、連鎖移動剤を用いる方法が好ましい。
【0021】
連鎖移動剤としては、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,5-ジヨードパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサンが挙げられ、中でも1,4-ジヨードパーフルオロブタンが好ましい。
【0022】
TFE-P系共重合体の市販品として、「アフラス100S」、「アフラス100H」、「アフラス150P」、「アフラス150C」、「アフラス150CS」、「アフラス300S」、「アフラス400E」、「アフラス600S」(以上、AGC社製)等が例示される。
【0023】
HFP-VdF系共重合体としては共重合体の全単位に対して、HFP単位とVdF単位の合計が50~100モル%であり、VdF単位/HFP単位のモル比が60/40~95/5である共重合体が好ましい。VdF単位とHFP単位のモル比は、70/30~90/10が好ましく、75/25~85/15がより好ましい。HFP-VdF系共重合体は、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
【0024】
HFP単位及びVdF単位以外の単位としては、TFE単位が好ましい。共重合体がHFP単位、VdF単位及びTFE単位を含む場合、共重合体の全単位に対するHFP単位、VdF単位及びTFE単位の合計は98~100モル%が好ましい。また、VdF単位/TFE単位/HFP単位のモル比は、50/5/45~65/30/5が好ましく、50/15/35~65/20/15がより好ましい。
【0025】
HFP単位、TFE単位及びVdF単位以外の他の単位としては、下記の他の単量体に基づく単位が例示できる。
他の単量体:クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、エチレン、エチリデンノルボルネン、クロトン酸ビニル
全単位に対して、他の単位は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0026】
HFP-VdF系共重合体の市販品として、「ダイエルG-801」、「ダイエルG-901」、「ダイエルG-902」、「ダイエルG-912」、「ダイエルG-952」、「ダイエルG-9074」、「ダイエルG-9062」(以上、ダイキン工業社製)、「バイトンGF-600S」(ケマーズ社製)、「テクノフロンP959」、「テクノフロンP459」、「テクノフロンP757」、「テクノフロンP457」(以上、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)等が例示される。
【0027】
TFE-PAVE系共重合体としてはTFE単位とPAVE単位の合計が50~100モル%であり、TFE単位/PAVE単位のモル比が20/80~80/20である共重合体が好ましい。TFE単位/PAVE単位のモル比は、50/50~80/20が好ましく、60/40~75/25がより好ましい。TFE-PAVE系共重合体は、ヨウ素原子を0.01~5.0質量%含んでもよい。
PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(メトキシエチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシエチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)が例示できる。
TFE単位及びPAVE単位以外の他の単位としては、前記TFE-P系共重合体系や、前記HFP-VdF系共重合体で挙げた他の単量体に基づく単位、及びHFP、VdFが例示できる。
全単位に対して、他の単位は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0028】
TFE-PAVE系共重合体はヨウ素原子を含むことが好ましい。共重合体の全質量に対して、ヨウ素原子は0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~1.5質量%がより好ましく、0.1~0.5質量%がさらに好ましい。この範囲であると、TFE-PAVE系共重合体のゴム物性を維持しつつ、架橋が容易になるため好ましい。
共重合体へのヨウ素原子の導入方法及び好ましい連鎖移動剤は、上記TFE-P系共重合体と同様である。
【0029】
以上で説明したTFE-PAVE系共重合体の市販品として、バイトンGLT、バイトンGFLT(以上、ケマーズ社製)等が例示される。
【0030】
含フッ素弾性共重合体水分散液100質量部に対して、含フッ素弾性共重合体が10~40質量部含まれるのが好ましく、15~35質量部含まれるのがより好ましい。この範囲であると、含フッ素弾性共重合体が水分散液に均一に分散しやすいとともに、フッ素樹脂水分散液とも混合しやすく、凝集も容易である。
【0031】
含フッ素弾性共重合体水分散液に含まれる含フッ素弾性共重合体のD50は、30~200nmが好ましく、50~150nmがより好ましい。この範囲であると、沈殿しにくく、含フッ素弾性共重合体が水分散液に均一に分散しやすいとともに、フッ素樹脂水分散液との混合も容易である。
【0032】
含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値は、2.0~14.0が好ましく、7.0~14.0がより好ましく、9.0~14.0がさらに好ましく、11.0~13.0が特に好ましい。含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値がこの範囲であると、フッ素樹脂水分散液のpH値との差の絶対値を2.0以下にさせやすい。
また、含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値がこの範囲であると、フッ素ゴムの架橋性を向上させやすい。架橋性が向上すると、引張強度向上や圧縮永久歪の低下等、フッ素ゴムの各種物性が向上する。フッ素弾性共重合体水分散液のpH値が2.0~9.0の場合は、5質量%以下の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを好適範囲まで上げることが好ましい。pH値が13.0~14.0の場合は、5質量%以下のリン酸二水素ナトリウム水溶液を用いてpHを好適範囲まで下げることができる。
【0033】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法において、フッ素樹脂水分散液に含まれるフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「TFE系ポリマー」とも記す。)が好ましい。
【0034】
TFE系ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFEとPAVEとのコポリマー(PFA)、TFEとHFPとのコポリマー(FEP)、TFEとエチレンとのコポリマー(ETFE)、又はTFEとフッ化ビニリデンとのコポリマーが好ましく、PTFEが特に好ましい。
なお、PTFEには、TFEのホモポリマーに加えて、極微量(例えば、コポリマーの全単位に対して0.5モル%以下。)のコモノマー(PAVE、HFP、FAE等。)とTFEとのコポリマーである、所謂、変性PTFEも包含される。また、PFAは、TFEとPAVE以外のモノマーに基づく単位とを含んでいてもよい。上述した他のコポリマーにおいても同様である。
【0035】
TFE系ポリマーは、水中でフルオロオレフィンを乳化重合して得られるポリマーであるのが好ましい。フッ素樹脂水分散液としては、水中でフルオロオレフィンを乳化重合して得られるポリマーが粒子として水に分散した水分散液をそのまま使用してもよく、水からパウダーを回収した後で、水系媒体に分散させて使用してもよい。
TFE系ポリマーは、表面処理(放射線処理、電子線処理、コロナ処理、プラズマ処理等。)により改質されていてもよい。かかる表面処理の方法としては、国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載される方法が挙げられる。
TFE系ポリマーはその分散液を市販品として広く入手できる。
TFE系ポリマーの融点は、280℃以上が好ましく、300~380℃がより好ましく、310~360℃がさらに好ましく、320~340℃が特に好ましい。
【0036】
フッ素樹脂水分散液100質量部に対して、フッ素樹脂が1~70質量部含まれるのが好ましく、5~65質量部含まれるのがより好ましい。この範囲であると、フッ素樹脂が水分散液に均一に分散しやすいとともに、含フッ素弾性共重合体水分散液とも混合しやすく、凝集も容易である。
【0037】
フッ素樹脂水分散液に含まれるフッ素樹脂のD50は、200~400nmが好ましく、220~350nmがより好ましい。この範囲であると、沈殿しにくく、フッ素樹脂が水分散液に均一に分散しやすいとともに、含フッ素弾性共重合体水分散液とも混合も容易である。
【0038】
フッ素樹脂水分散液のpH値は、7.0~14.0が好ましく、9.0~12.0がより好ましい。フッ素樹脂水分散液のpH値がこの範囲であると、含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値との差の絶対値を2.0以下にさせやすい。また、含フッ素弾性共重合体水分散液と混合したときに、フッ素樹脂が局所的に凝集しにくくなり、フッ素ゴムの収縮変形を防ぎ、フッ素ゴムの成形安定性を向上させられると考えられる。
フッ素樹脂水分散液のpH値が2.0~7.0の場合は、30質量%以下のアンモニア水溶液を用いてpHを好適範囲まで上げることが好ましい。pH値が12.0~14.0の場合は、5質量%以下のリン酸二水素ナトリウム水溶液を用いてpHを好適範囲まで下げることができる。
【0039】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法において、含フッ素弾性共重合体水分散液のpH値とフッ素樹脂水分散液のpH値の差の絶対値は2.0以下であり、1.5以下がより好ましい。絶対値がこの範囲であると、含フッ素弾性共重合体とフッ素樹脂が分離しにくく、均一に分散して、凝集しやすい。また、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである場合には含フッ素弾性共重合体組成物がフィブリル化しやすくなるが、pHを調整することによりフィブリル化をしにくくできる。pHの調整は、各種pH調整剤を添加する等の方法により行える。また、pHの調整により、組成物に受酸剤を添加しなくても架橋させることが容易である。
また、含フッ素弾性共重合体水分散液とフッ素樹脂水分散液の両方のpH値が7.0以上であることでも、各水分散液が安定しフッ素樹脂が局所的な凝集をしにくくなるとともに、含フッ素弾性共重合体組成物が架橋しやすくなり、架橋性に優れたフッ素ゴムが得られる。
【0040】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法は、含フッ素弾性共重合体水分散液とフッ素樹脂水分散液を混合した後、フッ素樹脂の含有量を含フッ素弾性共重合体100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは1~10質量部含む水分散液混合物とするものである。フッ素樹脂の含有量がこの範囲であると、フッ素樹脂のフィブリル化等を生じさせにくいとともに、含フッ素弾性共重合体組成物を架橋したときの硬度を高めやすい。また、機械強度及び圧縮永久歪にも優れる。
【0041】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法において、凝集方法としては、水分散液混合物に凝析剤を添加する方法や凍結する方法が挙げられる。
【0042】
凝集方法として凝析剤を添加する場合、公知の凝析剤が使用できる。公知の凝析剤としては、アルミニウム塩、カルシウム塩、又はマグネシウム塩が挙げられ、具体的には、硫酸アルミニウム及び一般式M’Al(SO4)2・12H2O〔式中、M’はリチウム以外の一価カチオンである。〕のミョウバン、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。また、一価カチオンである塩化カリウムや塩化ナトリウムも使用できる。また、有機系凝析剤として、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムも使用できる。また、無機酸凝析剤として、硝酸も使用できる。
【0043】
凝集方法として凍結をする場合、水分散液混合物の凝固点より3℃以上低い温度にするのが好ましい。例えば、-8℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。凝集時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凝固点以下に冷却をして凍結する場合、凝析剤を使用しなくても凝集できるため、半導体用途等、金属の含有量を低減したい用途に含フッ素弾性共重合体組成物を用いる場合に好適である。
【0044】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物は、含フッ素弾性共重合体100質量部に対してフッ素樹脂を0.5~20質量部、好ましくは1~10質量部含むことが好ましい。フッ素樹脂の含有量がこの範囲であると、フッ素樹脂のフィブリル化等を生じさせにくいとともに、含フッ素弾性共重合体組成物を架橋したときの硬度を高めやすい。また、機械特性及び圧縮永久歪に優れる。
【0045】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物は、フッ素樹脂が含フッ素弾性共重合体中に分散しており、フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmである。平均分散粒子径は、50~150nmが好ましい。この範囲であると、フッ素樹脂が含フッ素弾性共重合体に均一に分散しやすい。なお、含フッ素弾性共重合体組成物におけるフッ素樹脂の平均分散粒子径は、架橋後のフッ素ゴム中のフッ素樹脂の平均分散粒子径と同等である。
【0046】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物に含まれる含フッ素弾性共重合体及びフッ素樹脂としては、上記本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造方法で記載したものが挙げられ、好適な態様も同様である。
中でも、含フッ素弾性共重合体としてはTFE-P系共重合体が好ましく、フッ素樹脂としてはPTFEが好ましい。これらの含フッ素弾性共重合体及びフッ素樹脂を用いることにより、含フッ素弾性共重合体を架橋して得られるフッ素ゴムの耐熱性、耐油性等を維持しつつ、カーボンブラック等の添加剤を必須としなくても硬度を高めることができる。
【0047】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の洗浄液は、水またはアルカリ水溶液が好ましい。アルカリ水溶液のpH値は、10.0~14.0が好ましく、12.0~14.0が最も好ましい。
洗浄液のpH値がこの範囲であると、後述するフッ素ゴムの引張強度及び硬度を高めるとともに、圧縮永久歪が改良されるため好ましい。
【0048】
含フッ素弾性共重合体組成物には、カーボンブラック、シリカ、D50が1μm以上の樹脂フィラーなどの添加剤を添加して硬度や圧縮永久歪を調整することもできる。添加量は含フッ素弾性共重合体に対して1~30質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。樹脂フィラーの種類としては、TFE系ポリマーとして挙げたPTFE、PFA、FEP、ETFEが好ましく、PTFE、PFA、FEPが最も好ましい。樹脂フィラーのD50は1~50μmが好ましく、1~20μmがより好ましい。樹脂フィラーのD50がこの範囲であると、フッ素樹脂水分散液由来のフッ素樹脂と、樹脂フィラー由来の樹脂がバイモーダル分散し、後述するフッ素ゴムの耐クラック性が向上すると考えられる。
【0049】
含フッ素弾性共重合体組成物には、添加剤を添加することもできる。ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(BTPPC)、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)などの受酸剤を添加することで、圧縮永久歪が改良できる。なかでもBTPPCが最も好ましい。
【0050】
フッ素ゴムは、上記含フッ素弾性共重合体組成物を架橋して得られる。
含フッ素弾性共重合体組成物(すなわち、含フッ素弾性共重合体組成物中の含フッ素弾性共重合体)の架橋方法としては、含フッ素弾性共重合体組成物を加熱によって架橋する方法が好ましい。
加熱による架橋方法の具体例としては、加熱プレス架橋、スチーム架橋、熱風架橋が挙げられる。これらの方法から、含フッ素弾性共重合体組成物の形状や用途を考慮して適宜選択すればよい。
加熱条件は、100~400℃で1秒~24時間が好ましい。
【0051】
含フッ素弾性共重合体組成物を加熱して1次架橋してなるフッ素ゴムを、さらに加熱して2次架橋してもよい。2次架橋を行うことにより、フッ素ゴムの機械特性、圧縮永久歪、その他の特性を安定化又は向上できる。
2次架橋を行う際の加熱条件は、100~300℃で30分間~48時間が好ましい。
【0052】
含フッ素弾性共重合体組成物を加熱によって架橋する以外の架橋方法としては、含フッ素弾性共重合体組成物に放射線を照射して架橋する方法が挙げられる。照射する放射線の具体例としては、電子線、紫外線が挙げられる。
【0053】
フッ素ゴムに含まれるフッ素樹脂の割合は、フッ素ゴムの含フッ素弾性共重合体に由来する成分100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。この範囲であると、フッ素ゴムの硬度が高く、機械特性及び圧縮永久歪に優れる。
【0054】
フッ素ゴムに含まれるフッ素樹脂は、フッ素ゴム中に分散しており、フッ素樹脂の平均分散粒子径が30~200nmが好ましく、50~150nmがより好ましい。この範囲であると、フッ素樹脂がフッ素ゴム中に均一に分散しやすい。
【0055】
本発明の成形品は耐熱性、機械的強度、後加工性、耐プラズマ性、ガスバリヤー性に優れている。また、微分散しているフッ素樹脂微粒子はマトリックスのエラストマーから脱落しにくいため、たとえば半導体製造装置のシール用部品として使用してもパーティクルを発生するおそれが少ない。本発明のフッ素ゴム成形体の具体的な用途としては、半導体製造装置、及び、石油化学等の各種プラントにおけるパッキン、シール材等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~4が実施例、例5~8が比較例である。
【0057】
[フッ素樹脂水分散液に含まれるフッ素樹脂のD50]
レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所社製 LA-920(製品名))を使用してD50を測定した。
【0058】
[含フッ素弾性共重合体水分散液に含まれる含フッ素弾性共重合体のD50]
レーザーゼータ電位計(大塚電子社製 FPAR-1000(製品名))を使用して、動的光散乱法によりD50を測定した。
【0059】
[フッ素ゴムに含まれるフッ素樹脂の平均分散粒子径]
フッ素ゴムをクライオミクロトームによって薄片化し、得られた試料をウエハ上に採取し、コートを施し、日立ハイテクノロジーズ社製SU8230を用いてSEM観察を行い平均分散粒子径を測定した。なお、表2において、成形が困難でありSEM観察できなかった場合は×と記載した。
【0060】
[貯蔵弾性率G’の測定]
Alpha Technologies社製RPA2000を用いて、ASTM D5289及びD6204に従い、温度100℃、振幅0.5度、振動数50回/分で貯蔵弾性率を測定した。
【0061】
[フィブリル化の確認]
含フッ素弾性共重合体組成物に架橋剤等を添加したものをオープンロールで混練し、得られた組成物(以下、架橋性含フッ素弾性共重合体組成物、とも記す)を目視で確認し、透明だった場合に○、部分的に白色化し、筋状のものが見えた場合に×、と判断した。
【0062】
[引張り物性の測定]
前記架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を160℃で20分間の熱プレス(1次架橋)した後、200℃のオーブン内で4時間の2次架橋を行い、厚さ1mmの架橋ゴムシートを得た。得られた架橋ゴムシートを4号ダンベルで打ち抜き、測定試料を作製し、25℃でJIS K6251に準じて、引張り物性(引張強度、伸び)を測定した。
【0063】
[硬度の測定]
JIS K6253に準じて、Shore A硬度を測定した。
【0064】
[圧縮永久歪の測定]
前記架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を160℃で20分間の熱プレス(1次架橋)した後、200℃のオーブン内で4時間の2次架橋を行い、P-26のOリングを得た。この成形体を測定試料として、JIS K6262に準じて、200℃で70時間での圧縮永久歪試験を行い、圧縮永久歪を測定した。
【0065】
[変形歪み]
物性測定用の1mm厚みのシートを作製し、二次加硫した後に、シートが板状のまま平面性を保った場合を○、二次加硫した後に、シートが波打ち、平面上ではなくなった場合を×と評価した。
【0066】
〔製造例1:PTFE水分散液の調製〕
邪魔板、撹拌機を備えた、100Lのステンレス製オートクレーブに、F(CF2)2OCF2CF2OCF2COONH4(以下、EEAとも記す)の36g、パラフィンワックス(融点55℃)の555g、脱イオン水の61.3リットルを仕込んだ。オートクレーブ内部を窒素置換後、減圧にしたのちTFEを導入し、撹拌しながら62℃まで昇温した。さらに内圧が1.765MPa[gauge]になるまでTFEを圧入し、ジコハク酸ペルオキシド(濃度80質量%、残りは水分)の26.3gを約70℃の温水の1リットルに溶解して注入した。
約3分後にオートクレーブ内圧が1.716MPa[gauge]まで降下したため、内圧を1.765MPa[gauge]に保つようにTFEを圧入し重合を進行させた。重合途中にEEAを温水に溶解してEEAとして合計53gを2回に分けて注入した。オートクレーブ温度を徐々に72℃まで上げ、TFEの圧入量が22kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ中のTFEを大気放出した。重合時間は105分間であった。冷却後、上部に固化したパラフィンワックスを除去し、PTFE水性乳化液が得られた。PTFE水性乳化液中のPTFE濃度は約25.0質量%であり、EEA濃度はPTFE質量に対して0.40質量%であった。水性乳化液中のPTFE粒子のD50は0.26μmであった。PTFEの平均分子量は76万であり、PTFEの標準比重は2.21であった。
得られたPTFE水性乳化液の10kgを用い、PTFE質量に対して2.7質量%の非イオン系界面活性剤(Newcol(登録商標)1308FA)及びイオン交換水を溶解させ、PTFE濃度が24.2質量%であるPTFE低濃度水分散液を得た。
次いで5Lビーカーに、得られたPTFE低濃度水性乳化液の5kgと強塩基型陰イオン交換樹脂(ピュロライト社製、PUROLITE(登録商標)A300)の200gを入れ、室温で12時間撹拌した。さらに、この水分散液をメッシュサイズ100のナイロン製メッシュで濾別後、電気泳動法により濃縮し、上澄みを除去し、PTFE粒子の含有量が65質量%であり、非イオン系界面活性剤の含有量がPTFE粒子の100質量部に対して2.0質量部である濃縮液(PTFE水分散液)を得た。
得られた濃縮液を用い、非イオン系界面活性剤の含有量がPTFE質量に対して2.8質量%となるように非イオン系界面活性剤(Newcol(登録商標)1308FA)及びイオン交換水を溶解させた。PTFE濃度が60.5質量%となるようにイオン交換水を加え、PTFE水分散液を得た。
得られたPTFE水分散液のpH値をpH試験紙で確認したところ、10.0であった。
【0067】
〔製造例2:含フッ素弾性共重合体水分散液の調製〕
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス鋼製の耐圧反応器の内部を脱気した後、該反応器に、イオン交換水の1600g、リン酸水素二ナトリウム12水和物の13g、水酸化ナトリウムの1g、ラウリル硫酸ナトリウムの9g、t-ブタノールの96g、パーフルオロ-3,7-ジオキサ-ノナジエン-1,8の9g、1,4-ジアイオドパーフルオロブタンの7g、過硫酸アンモニウムの6gを加えた。さらに、イオン交換水の100gにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・2水和物(以下、EDTAと記す。)の0.4g、及び硫酸第一鉄7水和物の0.3gを溶解させた水溶液を、反応器に加えた。このときの反応器内の水性媒体のpH値は8.6であった。
ついで、25℃で、TFE/P=88/12(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器の内圧が2.47MPa[gauge]になるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、水酸化ナトリウムでpH値を13.0に調整したロンガリットの2.3質量%水溶液(以下、ロンガリット2.3質量%水溶液と記す。)を反応器に加え、重合反応を開始させた。以降、ロンガリット2.3質量%水溶液を、高圧ポンプを用いて連続的に反応器に加えた。
重合の進行に伴い、反応器内の圧力が低下するので、反応器の内圧が2.46MPa[gauge]に降下した時点で、TFE/P=56/44(モル比)の単量体混合ガスを自圧で圧入し、反応器の内圧を2.48MPa[gauge]まで昇圧させた。これを繰り返し、反応器の内圧を2.46~2.48MPa[gauge]に保持し、重合反応を続けた。TFE/Pのモノマー混合ガスの圧入量の総量が800gとなった時点で、ロンガリット2.3質量%水溶液の添加を停止し、TFE/Pのモノマー混合ガスの圧入量の総量が900gとなった時点で、反応器の内温を10℃まで冷却し、常圧にして重合反応を停止し、含フッ素弾性共重合体の水分散液を得た。ロンガリット2.3質量%水溶液の添加量は61gであった。重合時間は7時間であった。ラテックス中の固形分は33質量%であり、含フッ素弾性共重合体粒子のD50は0.06μmであった。含フッ素弾性共重合体の共重合組成は、TFE単位/P単位=56/44(モル比)であり、ガラス転移温度は-3℃であった。ラテックスのpH値をpH試験紙で確認したところ、6.0であった。
【0068】
〔例1〕
製造例2で得た含フッ素弾性共重合体水分散液に2質量%の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH値を9.0に調整した。この調整液に、製造例1で得たPTFE水分散液を、含フッ素弾性共重合体/PTFE=100/2.5(固形分質量比)となるように混合し、水分散液混合物を得た。この水分散液混合物を-22℃の冷凍庫にて15時間静置し、凍結凝集し、水洗し、乾燥し、含フッ素弾性共重合体にフッ素樹脂微粒子が微分散した含フッ素弾性共重合体組成物を得た。この含フッ素弾性共重合体組成物の貯蔵弾性率G’は、348kPaであった。
得られた含フッ素弾性共重合体組成物102.5質量部に架橋剤としてジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(表2ではP-14と記す)1質量部及び架橋促進剤としてトリアリルイソシアヌレート(表2ではTAICと記す)3質量部を混合し、オープンロールにより混練して架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を得た。この組成物を目視確認し、フィブリル化が起きていないと判断した。架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を160℃で20分間プレス架橋したのち200℃で4時間オーブン架橋を行ない、架橋物であるフッ素ゴムを得た。このフッ素ゴムについて、変形歪みがなく、平面状態であることを確認し、常態物性を測定した。また、同様の架橋条件でO-リング(P-26)を製造し圧縮永久歪みを測定した。
【0069】
〔例2〕
含フッ素弾性共重合体/PTFEを表1に示す値に変更した以外は例1と同様にして含フッ素弾性共重合体組成物を得た。さらに、表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物及びフッ素ゴムを得た。
【0070】
〔例3〕
含フッ素弾性共重合体組成物を化学凝集により得た以外は例1と同様にして含フッ素弾性共重合体組成物を得た。さらに、表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物及びフッ素ゴムを得た。化学凝集は、水分散液混合物と同質量となるようにKClの25%水溶液(凝析剤)を調製し、KClの25%水溶液に水分散液混合物を滴下して凝集させ、水洗し、乾燥し、含フッ素弾性共重合体にフッ素樹脂微粒子が微分散した含フッ素弾性共重合体組成物を得た。
【0071】
〔例4〕
製造例2で得た含フッ素弾性共重合体水分散液に2質量%の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH値を11.0に調整した以外は例1と同様にして含フッ素弾性共重合体組成物を得た。さらに、表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物及びフッ素ゴムを得た。
【0072】
〔例5〕
含フッ素弾性共重合体/PTFEを表1に示す値に変更した以外は例1と同様にして含フッ素弾性共重合体組成物を得た。なお、表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を得ようとしたが、オープンロールによる混練で、フィブリル化が激しく、成形が困難であったため、常態物性を取得することはできなかった。
【0073】
〔例6〕
含フッ素弾性共重合体にPTFEを添加せず、さらに、化学凝集としてCaCl2の2%水溶液(凝析剤)を用いた以外は、例3と同様にして、含フッ素弾性共重合体を化学凝集した。表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物及びフッ素ゴムを得た。
【0074】
〔例7〕
例6で得た含フッ素弾性共重合体に、PTFE(AGC社製Fluon PTFE L169J)を、オープンロールでの混練の際に添加し、架橋性含フッ素弾性共重合体組成物及びフッ素ゴムを得た。PTFEの量は表1に記載したとおりである。
【0075】
〔例8〕
製造例2で得た含フッ素弾性共重合体水分散液のpHの調整を行わなかった以外は、例1と同様にして含フッ素弾性共重合体組成物を得た。なお、表2に示す値に変更した以外は、例1と同様に架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を得ようとしたが、オープンロールによる混練で、フィブリル化が激しく、成形が困難であったため、常態物性を取得することはできなかった。
【0076】
【0077】
【0078】
〔例9〕
例1の含フッ素弾性共重合体組成物を得る凍結凝集後の工程で、水洗の代わりにアルカリ水溶液として1質量%のNaOH水溶液(pH=14.0)を用いて洗浄し、その後洗浄液の水がpH10.0になるまで水洗し、含フッ素弾性共重合体組成物を得た。洗浄液を変更した以外は、例1と同様にしてフッ素ゴムを得た。
【0079】
〔例10〕
例9のアルカリ水溶液を1質量%のKOH水溶液(pH=14.0)に変更した以外は、例9と同様にしてフッ素ゴムを得た。
【0080】
〔例11〕
例9で得た含フッ素弾性共重合体組成物を用いて架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を得る際、添加剤としてBTPPCを0.2質量部添加した以外は例9と同様にしてフッ素ゴムを得た。
【0081】
〔例12〕
添加するBTPPCの量を0.7質量部に変更した以外は例11と同様にしてフッ素ゴムを得た。
【0082】
〔例13〕
添加剤の種類を2E4MZに変更した以外は例11と同様にしてフッ素ゴムを得た。
【0083】
〔例14〕
例12で得た含フッ素弾性共重合体組成物を用いて架橋性含フッ素弾性共重合体組成物を得る際、さらに樹脂フィラー(PTFE)を3質量部添加した以外は例12と同様にしてフッ素ゴムを得た。
得られたフッ素ゴムについて、圧縮永久歪試験後の試験片を観察したところ、試験片にクラックは見られなかった。
【0084】
〔例15〕
樹脂フィラー(PTFE)を樹脂フィラー(PFA)に変更した以外は例14と同様にしてフッ素ゴムを得た。
得られたフッ素ゴムについて、圧縮永久歪試験後の試験片を観察したところ、試験片にクラックは見られなかった。
【0085】
例11~15で用いた試薬、樹脂フィラーは以下のとおりである。
[BTPPC]
富士フイルム和光純薬社製ベンジルトリフェニルホスホニウム クロリド
[2E4MZ]
四国化成社製2-エチル-4-メチルイミダゾール
[樹脂フィラー(PTFE)]
AGC社製Fluon PTFE L173J(D50:7.0μm)
[樹脂フィラー(PFA)]
組成が、TFE単位/5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物単位/CF3CF2CF2OCF=CF2単位=98.0/0.1/1.9(モル%)であるPFA系ポリマー(溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:1.8μm、D90:5.2μm)
【0086】
例9~15の結果を表3に示す。なお、例1は表2で記載したものを参考として一部再掲している。また、例14及び例15のフッ素樹脂の平均分散粒子径は、樹脂フィラーではなく製造例1のPTFE水性分散液由来のPTFEの値である。
【0087】
【0088】
なお、2019年4月3日に出願された日本特許出願2019-071313号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。