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特許7491377ガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品
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  • 特許-ガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/093 20060101AFI20240521BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20240521BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20240521BHJP
   C04B 35/16 20060101ALI20240521BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C03C3/093
C03C3/066
C03C10/02
C04B35/16
H05K1/03 610D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022531782
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022433
(87)【国際公開番号】W WO2021256408
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020104657
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020104658
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020192650
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020192651
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 太一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 安隆
(72)【発明者】
【氏名】浦川 淳
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-201746(JP,A)
【文献】特開平7-237933(JP,A)
【文献】特開2009-274902(JP,A)
【文献】米国特許第4312951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、B、Al及びZnを含み、
SiOの含有量が、15重量%以上、65重量%以下であり、
の含有量が、11重量%以上、30重量%以下であり、
に対するSiOの重量比(SiO/B)が、1.21以上であり、
ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.64以下であり、
アルカリ土類金属を含まないことを特徴とする、積層セラミック電子部品用のガラス。
【請求項2】
SiOの含有量が、55重量%以上、65重量%以下である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
の含有量が、18.8重量%以上、30重量%以下である、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
副成分として、Liを含まない、請求項1~3のいずれかに記載のガラス。
【請求項5】
さらに、副成分として、Liを含み、
LiOの含有量が、0.05重量%以上、1重量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のガラス。
【請求項6】
さらに、副成分として、アルカリ金属、及び他の金属からなる群から選択された少なくとも1種の金属を含み、
前記アルカリ金属は、Na及びKのうち少なくとも1つを含み、
前記他の金属は、Ti、Zr及びSnのうち少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれかに記載のガラス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスを45重量%以上、100重量%以下含むことを特徴とする、積層セラミック電子部品用のガラスセラミックス。
【請求項8】
さらに骨材を含む請求項7に記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
前記骨材は、SiO、TiO、ZnO、ZrO、Al及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項8に記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスを65重量%以上、100重量%以下含む、請求項7~9のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備える、ことを特徴とする積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック多層配線基板用のセラミック材料として、低温焼成が可能なガラスセラミック材料が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、RO-Al-B-SiO(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaO、ZnOからなる群の中の1種または2種以上)の基本組成を有し、ROとAlがいずれも1~25mol%の範囲内にあり、SiO/Bのmol%比が1.3以下である低温焼成基板用ガラス組成物、及び、該低温焼成基板用ガラス組成物に骨材を含有するガラスセラミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-26529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のガラスセラミックスは、3GHzにおいて20×10-4以下という優れた誘電損失を達成することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の低温焼成基板用ガラス組成物は、SiO/Bのmol%比が1.3以下であり、B(ホウ素)の含有率が高い。このような高ホウ素組成のガラス組成物は、ホウ素含有量が安定しないという問題がある。具体的には、混合粉砕時にホウ素が溶媒に溶出したり、焼成時にホウ素が揮発するといった問題が生じる。ホウ素含有量が溶出や揮発によって減少してしまうと、焼成時のガラスの粘度が低下して焼結不足の原因となる。また、ホウ素が溶出や揮発したガラスは化学的に不安定で耐湿性や耐めっき液性が低く、品質低下を招く恐れがある。
【0007】
従って、ホウ素含有率が低く、かつ、誘電損失が低いガラス材料が求められていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ホウ素含有率が低く、誘電損失が低いガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラスは、Si、B、Al及びZnを含み、SiOの含有量が、15重量%以上、65重量%以下であり、Bの含有量が、11重量%以上、30重量%以下であり、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が、1.21以上であり、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.64以下である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明のガラスセラミックスは、本発明のガラスを45重量%以上、100重量%以下含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の積層セラミック電子部品は、本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホウ素含有率が低く、誘電率及び誘電損失が低いガラスと、上記ガラスを含有するガラスセラミックスと、上記ガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備える積層セラミック電子部品と、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の積層セラミック電子部品の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1中の積層セラミック電子部品の製造過程で作製される積層グリーンシート(未焼成状態)を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品について説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0015】
[ガラス]
本発明のガラスは、Si、B、Al及びZnを含み、SiOの含有量が、15重量%以上、65重量%以下であり、Bの含有量が、11重量%以上、30重量%以下であり、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が、1.21以上であり、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.64以下である、ことを特徴とする。
【0016】
ガラス中のBは、ガラス粘度の低下に寄与する。そのため、ガラスセラミックスの焼結体が緻密なものとなる。
本発明のガラスは、Bの含有量が11重量%以上、30重量%以下であって、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が、1.21以上であるから、ガラス全体に占めるBの割合が少ない。また、従って、ガラスからのホウ素の溶出や揮発が生じにくく、焼結不足や耐めっき液性の低下といった問題を生じにくい。本発明のガラスは、Bの含有量が、15重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のガラスは、SiOの含有量が15重量%以上、65重量%以下であり、20重量%以上、60重量%以下であることが好ましい。
SiOの含有量が15重量%以上、65重量%以下であると、本発明のガラスを含むガラスセラミックスが焼結されたときに、誘電率の低下に寄与する。その結果、電気信号の高周波化に伴う浮遊容量等が抑制される。
SiOの含有量が65重量%を超えると、1000℃以下で焼結させることが難しくなったり、ZnAlの結晶が析出しにくくなるといった問題が生じるが、SiOの含有量が65重量%以下であるため、上記の問題が生じない。
一方、SiOの含有量が15重量%未満であると、粘度が低下しすぎてガラス化が困難となる。
【0018】
に対するSiOの重量比(SiO/B)は、1.21以上である。Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が上記範囲であると、ガラスからのホウ素の溶出や揮発が生じにくい。
に対するSiOの重量比(SiO/B)は、5.91以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。
に対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21未満であると、SiOに対してBが多すぎて、ホウ素の溶出や揮発が起こりやすくなる。
【0019】
ガラス中のAlは、ガラスの化学的安定性の向上に寄与する。
ガラス中のZnは、Alと共にZnAlを形成する。
本発明のガラスは、Al及びZnを含む。ガラスがAl及びZnを含むと、低損失化に寄与するZnAlの結晶がガラス中に析出する。
ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.64以下であると、ガラス中の上記ZnAlの含有量が好ましい範囲となる。
ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が0.75未満になると、ZnOが多くなりすぎて、誘電損失の逆数であるQ値が低下してしまう。一方、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が1.64を超えると、Alが多くなりすぎてガラスの粘度が増加してしまい、緻密な焼結体を得ることができなくなる。
ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.63以下であってもよい。
【0020】
本発明のガラスは、副成分を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のガラスは、副成分としてLiを含んでいてもよい。LiOの含有量は0.05重量%以上、1重量%以下であることが好ましい。
ガラス中のLiOは、ガラス粘性の低下に寄与する。LiOがガラス中に含まれると焼結性が向上する。
LiOが所定量含まれていると、例えば、本発明のガラスを含むガラスセラミックスが、骨材を40重量%以上含む場合においても、良好な焼結性、低い誘電損失が得られる。
【0022】
本発明のガラスは、Liを含む副成分の他に副成分を含んでいてもよい。
他の副成分としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び他の金属からなる群から選択された少なくとも1種の金属が好ましい。
【0023】
アルカリ金属としては、Na及びKのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0024】
アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr及びBaのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0025】
他の金属としては、Ti、Zr及びSnのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0026】
上記副成分の含有量の合計は、ガラス全体の重量の0.05重量%以上、5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上、5重量%以下であることがより好ましい。副成分の含有量の合計とは、Liを含む副成分及び他の副成分の含有量の合計を意味する。副成分が所定量含まれていると、ガラスの結晶化が促進され、誘電損失の低下に寄与する。
【0027】
[ガラスセラミックス]
本発明のガラスセラミックスは、本発明のガラスを45重量%以上、100重量%以下含むことを特徴とする。
本発明のガラスセラミックスは本発明のガラスを45重量%以上含有するため、低誘電率かつ低誘電損失を実現可能である。また、本発明のガラスセラミックスは本発明のガラスを45重量%以上含有するため、ホウ素の溶出や揮発による焼結不足や耐めっき液性の低下といった問題を生じにくい。
また、本発明のガラスセラミックスは、本発明のガラスを50重量%以上、100重量%以下含むことが好ましい。
【0028】
本発明のガラスセラミックスは、低温同時焼成セラミックス(LTCC)材料である。本明細書中、「低温同時焼成セラミックス材料」は、1000℃以下の焼成温度で焼結可能なガラスセラミック材料を意味する。
【0029】
本発明のガラスセラミックスは、さらに骨材を含んでいてもよい。
骨材としては、SiO、TiO、ZnO、ZrO、Al及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種の化合物等が挙げられる。
【0030】
本発明のガラスセラミックスが骨材を含む場合、ガラスの含有量は、45重量%以上、100重量%未満であることが好ましく、50重量%以上、100重量%未満であることがより好ましい。
【0031】
骨材としてのSiOは、クォーツ及び/又はアモルファスシリカが好ましい。
【0032】
クォーツは、ガラスセラミックスが焼結されたときに、熱膨張係数を大きくすることに寄与する。ガラスの熱膨張係数が約6ppm/Kであるのに対して、クォーツの熱膨張係数は約15ppm/Kであるため、ガラスセラミックスがクォーツを含有することによって、焼結されたときに高熱膨張係数が得られる。そのため、焼結後の冷却過程において圧縮応力が発生し、機械強度(例えば、抗折強度)が高まる。また、実装基板(例えば、樹脂基板)への実装時の信頼性が高まる。
【0033】
骨材としてのAl及びZrOは、ガラスセラミックスが焼結されたときのクリストバライト結晶の析出を防止することができる。クリストバライト結晶はSiO結晶の一種であるが、約280℃で相転移するため、ガラスセラミックスの焼結過程でクリストバライト結晶が析出すると、高温環境下で体積が大きく変化し、信頼性が低下する。このような観点からも、ガラスセラミックスは、クリストバライト結晶を含有しないことが好ましい。ここで、「クリストバライト結晶を含有しない」とは、クリストバライト結晶の含有量が検出限界以下であることを意味する。クリストバライト結晶の析出有無は、X線回折(XRD)等の結晶構造解析によって確認される。
また、骨材としてのAl及びZrOは、ガラスセラミックスが焼結されたときに、低誘電損失、高熱膨張係数、及び、高機械強度にも寄与する。
【0034】
骨材としてのTiOは、比誘電率の温度係数(TCC)が負に大きいため、ガラスセラミックスのTCCを調整することができる。
【0035】
骨材としてのZnOは、焼結性を向上させることができる。また、ガラス中のZnOの揮発成分を補うことができる。
【0036】
骨材としてのBaOは、焼結助剤の効果を示す。
BaOは、BaCO、BaZrO、Si-B-Ba-O系ガラス等の、Ba及びOを含む化合物として添加されていてもよい。
【0037】
なお、ガラスセラミックスにおいては、透過型電子顕微鏡(TEM)で電子回折パターンを分析することによって、ガラス及び骨材を判別することができる。
【0038】
また、骨材の含有量は、骨材を構成する酸素以外の元素を酸化物に換算した際の重量をガラスセラミックス全体の重量で割ることによって求められる。従って、骨材としてBaZrOが添加されている場合、BaOとZrOの両方が骨材として含まれていることになる。
【0039】
[積層セラミック電子部品]
本発明の積層セラミック電子部品は、本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備えることを特徴とする。
【0040】
本発明の積層セラミック電子部品としては、例えば、本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備える積層体や、該積層体を用いた積層セラミック基板と、該積層セラミック基板に搭載されたチップ部品と、を備える電子部品等が挙げられる。
本発明の積層セラミック電子部品は、本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備えるため、低誘電率かつ低誘電損失である。
【0041】
本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備える積層体は、例えば、通信用セラミック多層基板や、積層誘電体フィルタに用いることができる。
【0042】
ガラスセラミック層の熱膨張係数は6ppm/K以上であることが好ましい。
ガラスセラミック層の比誘電率は5.5以下であることが好ましい。
ガラスセラミック層のQ値は1000以上であることが好ましい。
ガラスセラミック層の比誘電率の温度特性(TCC)は、-60ppm/K以上、+60ppm/K以下であることが好ましい。
【0043】
図1は、本発明の積層セラミック電子部品の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、電子部品2は、ガラスセラミック層3が複数(図1では、5層)積層されてなる積層体1と、積層体1に搭載されたチップ部品13、14を備える。積層体1は積層セラミック基板でもある。
【0044】
ガラスセラミック層3は、本発明のガラスセラミックスの焼結体である。したがって、ガラスセラミック層3が複数積層されてなる積層体1、及び、積層体1を用いた積層セラミック基板と、該積層セラミック基板(積層体1)に搭載されたチップ部品13、14を備える電子部品2は、いずれも、本発明の積層セラミック電子部品である。複数のガラスセラミック層3の組成は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであることが好ましい。
【0045】
積層体1は、導体層を更に有していてもよい。導体層は、例えば、コンデンサ、インダクタ等の受動素子を構成したり、素子間の電気的接続を担う接続配線を構成したりする。このような導体層には、図1に示すような、導体層9、10、11、及び、ビアホール導体層12が含まれる。
【0046】
導体層9、10、11、及び、ビアホール導体層12は、Ag又はCuを主成分として含有することが好ましい。このような低抵抗の金属を用いることによって、電気信号の高周波化に伴う信号伝播遅延の発生が防止される。また、ガラスセラミック層3の構成材料としては、本発明のガラスセラミックス、すなわち、低温同時焼成セラミックス材料が用いられているため、Ag及びCuとの同時焼成が可能である。
【0047】
導体層9は、積層体1の内部に配置されている。具体的には、導体層9は、ガラスセラミック層3同士の界面に配置されている。
【0048】
導体層10は、積層体1の一方の主面上に配置されている。
【0049】
導体層11は、積層体1の他方の主面上に配置されている。
【0050】
ビアホール導体層12は、ガラスセラミック層3を貫通するように配置されており、別々の階層の導体層9同士を電気的に接続したり、導体層9、10を電気的に接続したり、導体層9、11を電気的に接続したりする役割を担っている。
【0051】
積層体1は、例えば、以下のように製造される。
【0052】
(A)ガラスの調製
SiOの含有量が、15重量%以上、65重量%以下となり、Bの含有量が、11重量%以上、30重量%以下となり、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21以上、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が、0.75以上、1.64以下となるように、SiO、B、Al及びZnO並びに必要に応じて添加される副成分を混合することで、本発明のガラスを調製する。上記ガラスにおける、SiOの含有量は、好ましくは、20重量%以上、60重量%以下である。上記ガラスにおける、Bの含有量は、好ましくは、15重量%以上、30重量%以下である。
【0053】
(B)ガラスセラミックスの調製
本発明のガラスを必要に応じて骨材と混合することで本発明のガラスセラミックスを調製する。
本発明のガラスを45重量%以上、100重量%以下含むようにガラスセラミックスを調製する。
【0054】
(C)グリーンシートの作製
本発明のガラスセラミックスを、バインダ、可塑剤、等と混合し、セラミックスラリーを調製する。そして、セラミックスラリーを基材フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に成形した後、乾燥させることによって、グリーンシートを作製する。
【0055】
(D)積層グリーンシートの作製
グリーンシートを積層することによって、積層グリーンシート(未焼成状態)を作製する。図2は、図1中の積層セラミック電子部品の製造過程で作製される積層グリーンシート(未焼成状態)を示す断面模式図である。図2に示すように、積層グリーンシート21は、グリーンシート22が複数(図2では、5枚)積層されてなる。グリーンシート22は、焼成後にガラスセラミック層3となるものである。積層グリーンシート21には、導体層9、10、11、及び、ビアホール導体層12を含む導体層を形成してもよい。導体層は、Ag又はCuを含む導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷法、フォトリソグラフィ法、等によって形成可能である。
【0056】
(E)積層グリーンシートの焼成
積層グリーンシート21を焼成する。その結果、図1に示すような積層体1が得られる。
【0057】
積層グリーンシート21の焼成温度は、グリーンシート22を構成する本発明のガラスセラミックスが焼結可能な温度であれば特に限定されず、例えば、1000℃以下であってもよい。
【0058】
積層グリーンシート21の焼成雰囲気は、特に限定されないが、導体層9、10、11、及び、ビアホール導体層12として、Ag等の酸化しにくい材料を用いる場合には空気雰囲気が好ましく、Cu等の酸化しやすい材料を用いる場合には窒素雰囲気等の低酸素雰囲気が好ましい。また、積層グリーンシート21の焼成雰囲気は、還元雰囲気であってもよい。
【0059】
なお、積層グリーンシート21は、拘束用グリーンシートで挟まれた状態で焼成されてもよい。拘束用グリーンシートは、グリーンシート22を構成する本発明のガラスセラミックスの焼結温度では実質的に焼結しない無機材料(例えば、Al)を主成分として含有するものである。そのため、拘束用グリーンシートは、積層グリーンシート21の焼成時に収縮せず、積層グリーンシート21に対して主面方向での収縮を抑制するように作用する。その結果、得られる積層体1(特に、導体層9、10、11、及び、ビアホール導体層12)の寸法精度が高まる。
【0060】
積層体1には、導体層10と電気的に接続された状態で、チップ部品13、14が搭載されていてもよい。これにより、積層体1を有する電子部品2が構成される。
【0061】
チップ部品13、14としては、例えば、LCフィルタ、コンデンサ、インダクタ、等が挙げられる。
【0062】
電子部品2は、導体層11を介して電気的に接続されるように、実装基板(例えば、マザーボード)に実装されていてもよい。
【実施例
【0063】
以下、本発明のガラス、ガラスセラミックス及び積層セラミック電子部品をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(A)ガラスの調製
表1に示すような組成のガラスG1~G41(いずれも粉末状)を、下記の方法で作製した。まず、ガラス原料粉末を混合してからPt-Rh製のルツボに入れ、空気雰囲気中、1650℃で6時間以上溶融させた。その後、得られた溶融物を急冷させることで、カレットを作製した。そして、カレットを粗粉砕した後、有機溶剤及びPSZボール(直径:5mm)とともに容器に入れ、ボールミルで混合した。ボールミルで混合する際、粉砕時間を調節することによって、中心粒径1.5μmのガラス粉末を得た。ここで、「中心粒径」は、レーザー回折・散乱法によって測定された中心粒径D50を意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
ガラスG26~G29、G31、G32及びG41は本発明のガラスではない。
ガラスG26は、B含有量が30重量%を超えている。
ガラスG27は、B含有量が11重量%未満である。
ガラスG28は、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が0.75未満である。
ガラスG29は、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が1.64を超えている。
ガラスG31は、SiO含有量が15重量%以上、65重量%以下の範囲内であり、B含有量が11重量%以上、30重量%以下であるが、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21未満である。
ガラスG32は、SiO含有量が15重量%以上、65重量%以下の範囲内であり、B含有量が11重量%以上、30重量%以下であるが、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21未満である。
ガラスG41は、SiO含有量が65重量%を超えている。
【0067】
(B)ガラスセラミックスの調製
次に、表2に示すような組成で、本発明のガラスに必要に応じて骨材を添加した後エタノール中に入れてボールミルで混合し、ガラスセラミックスを調製した。なお骨材のうち、SiOはクォーツである。
【0068】
(C)グリーンシートの作製
ガラスセラミックスと、エタノールに溶解したポリビニルブチラールのバインダ液と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP)液と、を混合し、セラミックスラリーを調製した。そして、セラミックスラリーを、ドクターブレードを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に成形した後、40℃で乾燥させることによって、厚み25μmのグリーンシートS1~S33、S35~S47を作製した。
なお、ガラスG31については、セラミックスラリーがゲル化していたのでグリーンシートの作製以後の工程を行わなかった。
【0069】
(D)積層グリーンシートの作製
続いて、グリーンシートS1~S33、S35~S47の各々について、グリーンシートを78mm×58mmの長方形に切断して30枚積層した後、金型に入れてプレス機で圧着した後、平面視寸法が50mm角となるように側面を切断して、積層グリーンシートを作製した。
【0070】
(E)積層グリーンシートの焼成
積層グリーンシートを還元雰囲気中、980℃で60分間焼成した。得られた被焼成体は、ガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を複数備える積層体L1~L33、L35~L47である。
【0071】
[比誘電率及び誘電損失の測定]
得られた各積層体L1~L33、L35~L47について、厚みを測定するとともに、摂動法によって6GHz条件下での比誘電率及び誘電損失を測定した。そして、誘電損失の測定値の逆数としてQ値を求めた。結果を表2に示す。
なお、比誘電率は5.5以下を良好と判断し、Q値は1000以上を良好と判断する。なお、表2の備考に記載の通り、積層体L6、L29、L30、L32、L35、L47は焼結不足であった。
【0072】
測定装置及び測定条件は以下の通り。
ネットワークアナライザ:キーサイト製 8757D
信号発生器:キーサイト製 シンセサイズドスウィーパ 83751
共振器:自作治具(共振周波数:6GHz)
なお、測定に先だって、ネットワークアナライザと信号発生器を接続してケーブルロスの測定を行った。また、共振器は標準基板(石英製、誘電率:3.73、Q値:4545@6GHz、厚み:0.636mm)を用いて校正した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2の結果より、本発明のガラスセラミックスの焼結体であるガラスセラミック層を備える積層体は、B含有量が30重量%以下のガラスを使用しているにも関わらず、比誘電率が低く、Q値が高い(誘電損失が低い)ことがわかる。また、ホウ素の溶出や揮発に伴う問題も生じなかった。
積層体L6は、ガラスG4の含有量が45重量%未満であったため、焼結不良を起こしたと考えられる。
積層体L29は、B含有量が30重量%を超えるガラスG26を用いているため、作製工程においてホウ素の溶出や揮発等が生じたと考えられる。
積層体L30は、B含有量が11重量%未満のガラスG27を用いているため、ガラスの粘度が充分に低下せず、焼結不良を起こしたと考えられる。
積層体L32は、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が1.64を超えるガラスG29を用いているため、Alが多くなりすぎてガラスの粘度が増加し、緻密な焼結体を得ることができなくなったと考えられる。
積層体L47は、SiO含有量が65重量%を超えるガラスG41を用いているため、980℃では充分に焼結が進行しなかったと考えられる。
ガラスG31は、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21未満であるため、980℃の加熱でセラミックスラリーがゲル化してしまい、積層体の作製ができなかった。
積層体L35は、Bに対するSiOの重量比(SiO/B)が1.21未満であるガラスG32を用いているため、作製工程においてホウ素の溶出や揮発等が生じたと考えられる。
【0075】
積層体L31は焼結不足及びセラミックスラリーのゲル化を生じていないが、Q値が1000を下回っており、誘電損失が大きい。積層体L31では、ZnOに対するAlの重量比(Al/ZnO)が0.75未満であるガラスG28を用いているため、Q値が低下したと考えられる。
積層体L41は焼結不足及びセラミックスラリーのゲル化を生じていないが、Q値が1000を下回っており、誘電損失が大きい。積層体L41ではガラスG36の含有量が45重量%未満であったため、Q値が低下したと考えられる。
【符号の説明】
【0076】
1 積層体
2 電子部品
3 ガラスセラミック層
9、10、11 導体層
12 ビアホール導体層
13、14 チップ部品
21 積層グリーンシート
22 グリーンシート
図1
図2