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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240521BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20240521BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/29 123
H01G4/30 512
H01G4/30 201K
H01G4/30 513
H01G4/30 201F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022578102
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044963
(87)【国際公開番号】W WO2022163140
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2021014488
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】星野 悠太
(72)【発明者】
【氏名】喜多代 裕樹
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-98372(JP,A)
【文献】国際公開第2011/13437(WO,A1)
【文献】特開2005-317748(JP,A)
【文献】特開2009-302129(JP,A)
【文献】特開2014-36056(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00 -21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26 -27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00 -38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H01G 4/00 - 4/10
H01G 4/14 - 4/22
H01G 4/224
H01G 4/255- 4/40
H01G 13/00 -17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu元素を含むセラミックの素体と、前記素体の表面の一部を覆う外部電極と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、
前記外部電極は、前記素体上に配置された下地電極層を有しており、
前記下地電極層は、導体を含む導体部と、ガラスを含むガラス部とを有しており、
前記Cu偏析物は、前記素体と前記ガラス部との界面において、前記素体と前記ガラス部とに接している、電子部品。
【請求項2】
前記Cu偏析物の形状が、前記Cu偏析物の一部が前記素体側に突出する楔状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記Cu偏析物の、前記素体と前記ガラス部との界面が延びる方向における長さをLa、これに直交する方向における長さをLbとしたときに、前記Cu偏析物の形状が、前記長さLbに対する前記長さLaの比[La/Lb]が3以下となる粒状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記Cu偏析物の直上に接する前記ガラス部の厚さは、0.5μm未満である、請求項2又は3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記Cu偏析物の、前記素体と前記ガラス部との界面が延びる方向における長さをLa、これに直交する方向における長さをLbとしたときに、前記Cu偏析物の形状が、前記長さLbに対する前記長さLaの比[La/Lb]が3を超える層状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
前記Cu偏析物の直上に接する前記ガラス部の厚さは、0.5μm以上である請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記素体と前記下地電極層の界面には、前記Cu偏析物が複数個存在している、請求項1~6のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項8】
1つの前記下地電極層には、前記ガラス部が複数存在しており、
複数の前記ガラス部のうちの1つと前記素体との界面には前記Cu偏析物が存在し、
残りの前記ガラス部のうちの少なくとも1つと前記素体との界面に、Cu元素を含むCu偏析物が存在している、請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
1つの前記ガラス部と前記素体との界面に、前記Cu偏析物が複数存在する、請求項7に記載の電子部品。
【請求項10】
前記下地電極層を構成する前記導体部は、導体としてAg元素を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結体からなる素体の表面に、ガラスを含む外部電極を形成した積層コイル部品が知られている。
【0003】
特許文献1には、フェライト焼結体からなる素体と、素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルと、素体の端面側に配置された外部電極とを備え、素体の表面がガラスを含む絶縁層で覆われた積層コイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-204565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された積層コイル部品においては、素体と外部電極との密着性が低く、密着性を向上させる余地があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、素体と外部電極との密着性が高い電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子部品の一実施形態は、Cu元素を含むセラミックの素体と、上記素体の表面の一部を覆う外部電極と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、上記外部電極は、上記素体上に配置された下地電極層を有しており、上記下地電極層は、導体を含む導体部と、ガラスを含むガラス部とを有しており、上記Cu偏析物は、上記素体と上記ガラス部との界面において、上記素体と上記ガラス部とに接している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、素体と外部電極との密着性が高い電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電子部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る電子部品の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。
図5図5は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態の一例を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態の別の一例を模式的に示す断面図である。
図7図7は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図8図8は、実施例2に係る電子部品の、素体とガラス部との界面のCuの元素マッピング画像である。
図9図9は、図8と同一視野におけるSiの元素マッピング画像である。
図10図10は、図8及び図9を重ね合わせた画像である。
図11図11は、実施例2に係る電子部品の、素体とガラス部との界面のCuの元素マッピング画像である。
図12図12は、図11と同一視野におけるSiの元素マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電子部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0011】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第二実施形態以降では、第一実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0012】
以下に示す図面は模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
【0013】
本発明の電子部品の一実施形態は、Cu元素を含むセラミックの素体と、上記素体の表面の一部を覆う外部電極と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、上記外部電極は、上記素体上に配置された下地電極層を有しており、上記下地電極層は、導体を含む導体部と、ガラスを含むガラス部とを有しており、上記Cu偏析物は、上記素体と上記ガラス部との界面において、上記素体と上記ガラス部とに接している。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る電子部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す電子部品1は、素体10と、素体10の表面の一部を覆う外部電極20とを備える。
素体10は、長さ方向Lに対向する第1端面10a及び第2端面10bと、長さ方向Lに直交する幅方向Wに対向する第1側面10c及び第2側面10dと、長さ方向L及び幅方向Wに直交する厚さ方向Tに対向する上面10e及び底面10fと、を有する略直方体形状である。
外部電極20は、第1端面10a及び第2端面10bをそれぞれ覆うように設けられている。第1端面10aを覆う外部電極20の一部は、素体10の第1側面10c、第2側面10d、上面10e、底面10fの一部に回り込んで形成されている。また、第2端面10bを覆う外部電極20の一部は、素体10の第1側面10c、第2側面10d、上面10e、底面10fの一部に回り込んで形成されている。
【0015】
図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図2に示すように、素体10は、内部に導体層40を有している。導体層40は、素体10の第1端面10a及び第2端面10bに露出しており、外部電極20と電気的に接続されている。また、導体層40は全体としてコイルを形成している。導体層40により形成されたコイルのコイル軸は、長さ方向Lに平行である。
外部電極20は、素体10上に配置された下地電極層21と、下地電極層21の表面に配置された被覆層27とを有している。
【0016】
図3は、本発明の実施形態に係る電子部品の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示す電子部品2は、素体11と、素体11の表面の一部を覆う外部電極20とを備える。素体11の形状は、巻線43が巻回された柱状の巻芯部60と、巻芯部60の長さ方向Lの両端部にそれぞれ接続された鍔部61を有するバーベル形状である。巻線43は素体11の巻芯部60に巻回されている。なお、図示していないが、巻線43の端部は外部電極20に接続されている。
【0017】
図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。
図4に示すように、素体11の内部に導体層は設けられていない。
外部電極20は、素体11上に配置された下地電極層21と、下地電極層21の表面に配置された被覆層27を有している。
【0018】
[素体]
本発明の電子部品の一実施形態において、素体は、Cu元素を含むセラミックである。
【0019】
Cu元素を含むセラミックとしては、例えば、フェライト、アルミナ、チタン酸バリウム、Zn系セラミック等の公知のセラミックにCu元素を含有させたもの等が挙げられる。
Cu元素を含むセラミックは、Mn、Co、SnO、Bi、SiO等の添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
素体におけるCu元素の含有量は、6mol%以上、10mol%以下であることが好ましい。
なお、素体におけるCu元素の含有量には、素体の表面に偏析するCu偏析物を構成するCu元素を考慮から除外するものとする。
素体におけるCu元素の含有量は、研磨により素体の表面から10μm以上素体の内側に入った断面を露出させ、φ1μm以上のスポット径で波長分散型蛍光X線(WD-XRF)測定することで、偏析の影響を排除した値として測定することができる。なお、測定箇所によるばらつきをさらに低減するために、5個程度のサンプルでWD-XRF測定を行ってもよい。
【0021】
素体におけるFe元素の含有量は、Fe換算で40mol%以上、49.5mol%以下であることが好ましい。
【0022】
素体におけるNi/Znモル比は特に限定されないが、1.8以上、2.8以下であることが好ましい。
【0023】
素体の形状は、特に限定されないが、例えば、立方体形状、直方体形状、バーベル形状、H形状、I形状、環状形状等が挙げられる。
素体の外形寸法については特に限定されないが、より小型であるほど、素体と外部電極との接触面積が小さくなるため、素体と外部電極の密着性を向上させにくくなるという問題が顕著となる。
例えば、素体の外形寸法は、長さ5.7mm以下×幅5.0mm以下×高さ5.0mm以下であることが好ましく、長さ1.6mm以下×幅0.8mm以下×高さ0.8mm以下であることが特に好ましい。
【0024】
素体は、内部に導体層を有していてもよい。
素体の内部に形成された導体層は、コイル、コンデンサ、抵抗、サーミスタ等の受動素子を形成していてもよい。受動素子は、素体の内部に複数形成されていてもよい。
素体内に形成された受動素子の向きは任意である。従って、素体内に形成されたコイルのコイル軸は、電子部品の実装面に対して水平であってもよいし、垂直であってもよい。また、素体内に形成されたコイルの数は1つであってもよく、複数であってもよい。
素体内にコイルが形成されている場合の本発明の電子部品の例としては、積層コイル部品が挙げられるが、導体層が形成する受動素子の種類によって、積層コンデンサ部品、積層抵抗部品、積層サーミスタ部品等であってもよい。
【0025】
素体は、内部に導体層を有していなくてもよい。
この場合、素体は、周囲に巻線を巻きつけて、巻線コアとして使用することもできる。
素体の周囲に巻線が巻きつけられている場合の本発明の電子部品の例としては、巻線コイル部品が挙げられる。素体の周囲に巻線を巻きつけることで構成されるコイルの数は、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0026】
[外部電極]
本発明の電子部品の一実施形態において、外部電極は、素体の表面の一部を覆っている。
【0027】
外部電極は、素体上に配置された下地電極層を有している。
下地電極層は、導体を含む導体部と、ガラスを含むガラス部とを有している。
下地電極層においては、導体部が導電性を確保する役割を果たし、ガラス部が素体との密着性を向上させる役割を果たしている。
【0028】
導体部は、導体として、Ni元素、Sn元素、Pd元素、Au元素、Ag元素、Pt元素、Bi元素、Zn元素及びCu元素からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。また、これらの金属元素を含む導電性粒子を含むことが好ましい。
導体部は、導体としてAg元素を含むことが好ましい。Ag元素は導電性が高い。また、導体としてAg元素を含む導体を含む下地電極層は形成が容易である。
【0029】
導電性粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1.0μm以上、15μm以下であることが好ましい。
【0030】
下地電極層に占める導体部の重量割合は、特に限定されないが、71重量%以上、98重量%以下であることが好ましい。
【0031】
ガラスとしては、B-Si系ガラス、Ba-B-Si系ガラス、B-Si-Zn系ガラス、B-Si-Zn-Ba系ガラス、B-Si-Zn-Ba-Ca-Al系ガラス等を使用することができる。これらの他にも、Na-Si系ガラス、K-Si系ガラス、Li-Si系ガラス等のアルカリ金属系ガラス、Mg-Si系ガラス、Ca-Si系ガラス、Ba-Si系ガラス、Sr-Si系ガラス等のアルカリ土類金属系ガラス、Ti-Si系ガラス、Zr-Si系ガラス、Al-Si系ガラス等を使用することもできる。
ガラスは、結晶性ガラスであってもよい。
【0032】
下地電極層に占めるガラスの重量割合は、特に限定されないが、2重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。
下地電極層に占めるガラスの重量割合が15重量%以下であると、下地電極層の抵抗値が大きくなりすぎない。また下地電極層に占めるガラスの重量割合が2重量%以上であると、下地電極層の緻密性を高くすることができ、めっき液及び湿気が下地電極層の内部へ侵入すること、及び、めっき液及び湿気が下地電極層を通じて素体内に侵入することを防止することができる。
【0033】
下地電極層の表面には、さらに、被覆層が設けられていてもよい。
【0034】
被覆層は、例えば、下地電極層の表面に設けられためっき層であることが好ましい。
めっき層は、Cu、Ni、Sn、Pd、Au、Ag、Pt、Bi及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。めっき層は、1層であってもよく、2層以上あってもよい。めっき層としては、下地電極層の上に設けられたNiめっき層とSnめっき層とを有する層であることがより好ましい。Niめっき層によって素体中への水の浸入を防ぎ、Snめっき層によって、電子部品の実装性を向上させることができる。
【0035】
外部電極の厚さは、10μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0036】
外部電極が下地電極層だけで構成されている場合、下地電極層の厚さが、外部電極の厚さとなる。
一方、外部電極が、下地電極層の表面に形成された被覆層をさらに有する場合、外部電極の厚さは、下地電極層の厚さと、被覆層の厚さの合計となる。
【0037】
下地電極層の厚さ、被覆層の厚さ、及び、外部電極の厚さは、外部電極を厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
【0038】
[Cu偏析物]
本発明の電子部品の一実施形態において、Cu元素を含むCu偏析物は、素体とガラス部との界面において、素体とガラス部とに接している。
【0039】
素体とガラス部との界面に、Cu偏析物が存在していることにより、素体とガラス部との密着性が高まる。
Cu偏析物は、素体上のどこに存在していてもよいが、素体のセラミックの粒界上に存在していたほうが好ましい。素体のセラミックの粒界は、素体の表面で凹形状となっているため、Cu偏析物が当該凹形状となる粒界上に存在することで、アンカー効果が発生し、Cu偏析物と素体の密着性がより向上する。
【0040】
Cu偏析物の組成は特に限定されないが、少なくともCu元素を含んでいればよく、例えば、Cu、CuO、CuO等が挙げられる。また、Cu偏析物は、ガラスを含んでいてもよい。
【0041】
素体とガラス部との界面には、複数個のCu偏析物が存在していてもよい。素体とガラス部との界面に複数個のCu偏析物が存在していると、素体とガラス部との密着性をより高めることができる。
【0042】
素体とガラス部との界面にCu偏析物が存在しているかどうかは、電子部品を切断した切断面において、素体とガラス部との界面を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析(SEM-EDX)で観察することにより確認することができる。
SEM-EDXにより得られた素体とガラス部との界面近傍の元素マッピング画像から、Cu元素の濃度分布を確認することによって、素体とガラス部との界面近傍に存在するCu偏析物の形状を特定することができる。
素体がフェライトの場合、素体はFe元素が主成分となり、Cu偏析物はCu元素が主成分となり、下地電極層のうちのガラス部はSi元素が主成分となる。従って、元素マッピング画像において、Fe元素、Cu元素及びSi元素の濃度を比較することにより、元素マッピング画像における素体、Cu偏析物及びガラス部を区別することができる。
また、素体がフェライト以外のセラミックの場合には、セラミックの主成分の元素と、Cu元素と、Si元素の濃度を比較することで、元素マッピング画像における素体、Cu偏析物及びガラス部を区別することができる。例えば、素体がアルミナの場合にはAl元素を、素体がコンデンサ用のチタン酸バリウムである場合にはTi元素又はBa元素を、素体がサーミスタ用のZn系セラミックである場合にはZn元素を、それぞれセラミックの主成分の元素とすればよい。
なお、外部電極の被覆層にCuめっきを用いている場合には、O元素の濃度分布を測定することで、Cu偏析物とCuめっき層とを区別することができる。
Cuめっき層はほとんど純Cuで構成されているためO元素がほとんど検出されないのに対して、Cu偏析物からはCuOやCuOに由来するO元素が検出される。
【0043】
上述したように、被覆層にCuめっきを用いる場合であっても、Cu偏析物とCuめっき層を区別することができる。しかしながら、同一視野内にCuめっき層とCu偏析物が存在すると、Cu偏析物のCu元素の濃度分布の感度が低下してしまう。そのため、Cu偏析物をSEM-EDXで観察する場合には、Cuめっき層を同一視野に含めないことが好ましい。
【0044】
Cu偏析物の形状は特に限定されないが、粒状、楔状、層状であってもよい。
Cu偏析物の形状は、アスペクト比の値、及び、Cu偏析物が素体側に突出しているかの判定により決定することができる。
Cu偏析物のアスペクト比は、素体とガラス部との界面が延びる方向におけるCu偏析物の長さをLa、これに直交する方向におけるCu偏析物の長さをLbとしたときに、長さLbに対する長さLaの比[La/Lb](以下、アスペクト比ともいう)で表される。なお、長さLbは、Cu偏析物の、素体に最も近い地点と、素体から最も遠い地点とを認定した上で、該地点を通り、かつ、素体とガラス部との界面が延びる方向に平行な線分をそれぞれ仮定した際の、2つの線分間の距離に相当する。
【0045】
Cu偏析物の形状が、素体側に突出する形状である場合、Cu偏析物のアスペクト比に関係なく、楔状とする。
Cu偏析物の形状が楔状でない場合、上記アスペクト比が3以下となる形状が、粒状であり、上記アスペクト比が3を超える形状が、層状である。
Cu偏析物の形状が楔形である場合、素体側に突出する部分を除くCu偏析物の形状は、粒状であってもよく、層状であってもよい。
なお、層状のCu偏析物は、素体とガラス部との界面の一部分のみに存在しており、素体とガラス部との界面全体を覆うものではない。
【0046】
図5は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態の一例を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、下地電極層21は、ガラスを含むガラス部23と、導体を含む導体部25を有している。なお、図5では説明のため、比較的、ガラス部23を大きく表しているが、ガラス部23と導体部25との相対的な大きさの関係はこの図面の構造に限られない。また、図5は下地電極層21を部分的に表現しており、導体部25が素体10側に接触している部分も存在し、下地電極層21全体としては導電性が確保される。
素体10とガラス部23の界面には、Cu偏析物30(31、32、33)が存在しており、素体10とガラス部23とに接している。Cu偏析物30が存在しない部分における下地電極層21の厚さ(素体10の直上に接する下地電極層21の厚さ)は、両矢印Tで表される長さである。なお、下地電極層21の厚さTは、場所ごとに異なっていてもよい。
図5では、1つのガラス部23と素体10との界面に、Cu偏析物が複数存在しているといえる。
【0047】
Cu偏析物31は、素体10側に突出する突出部31aを有している。従って、Cu偏析物31の形状は、アスペクト比とは無関係に、楔状であるといえる。
なお、Cu偏析物が素体側に突出しているかどうかは、素体の表面のうちCu偏析物が存在していない部分の素体表面の形状から、Cu偏析物が存在している部分にCu偏析物が存在しなかった場合の素体表面の形状を推定し、推定された素体表面よりも内側(素体側)にCu偏析物が位置している場合に、Cu偏析物が素体側に突出しているとみなす。
Cu偏析物は、素体側ではなくガラス部側(下地電極層側)に突出していてもよい。ただし、素体側ではなくガラス部側のみに突出したCu偏析物は、アスペクト比によって、粒状又は層状のいずれの形状に該当するか判断する。
【0048】
素体10とガラス部23との界面が延びる方向(以下、横方向ともいう)における、Cu偏析物32の長さは、両矢印Laで示される長さである。また、横方向に直交する方向(以下、縦方向ともいう)におけるCu偏析物32の長さは、両矢印Lbで示される長さである。Cu偏析物32のアスペクト比[La/Lb]は約1.4である。従って、Cu偏析物32の形状は、粒状である。
Cu偏析物32の厚さは、両矢印Lbで表される長さであり、Cu偏析物32の直上に接する下地電極層21の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
Cu偏析物32は、素体10側に突出していない形状である。図5では、Cu偏析物32の厚さLbとCu偏析物32の直上に接する下地電極層21の厚さTの合計が、下地電極層21の厚さTと一致する。
また、下地電極層21の厚さTは、Cu偏析物32の直上に接する下地電極層21の厚さTよりも厚い。下地電極層21の厚さTがCu偏析物32の直上に接する下地電極層21の厚さTよりも厚いと、Cu偏析物が存在する事により生じる下地電極層の表面の凹凸が小さくなり、下地電極層の表面の平滑性が向上する。
【0049】
Cu偏析物33は、横方向の長さがLa、縦方向の長さがLbであり、アスペクト比[La/Lb]は約1.9である。従って、Cu偏析物33の形状は、粒状である。
Cu偏析物33の厚さは、両矢印Lbで表される長さであり、Cu偏析物33の直上に接する下地電極層21の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
Cu偏析物33は、素体10側に突出していない形状である。図5では、Cu偏析物33の厚さLbとCu偏析物33の直上に接する下地電極層21の厚さTの合計が、下地電極層21の厚さTと一致する。
また、下地電極層21の厚さTは、Cu偏析物33の直上に接する下地電極層21の厚さTよりも厚い。
【0050】
図6は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態の別の一例を模式的に示す断面図である。
Cu偏析物34の横方向の長さは両矢印Laで示される長さであり、縦方向の長さは両矢印Lbで示される長さである。アスペクト比[La/Lb]は約10である。従って、Cu偏析物34の形状は、層状である。
なお、層状のCu偏析物は、素体とガラス部との界面の全体に広がっているものではなく、素体とガラス部との界面の一部分のみに広がって存在しているものである。
Cu偏析物34の厚さは、両矢印Lbで表される長さであり、Cu偏析物34の直上に接する下地電極層21の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
Cu偏析物34は、素体10側に突出していない形状である。図6では、Cu偏析物34の厚さLbとCu偏析物34の直上に接する下地電極層21の厚さTの合計が、下地電極層21の厚さTと一致する。
また、下地電極層21の厚さTは、Cu偏析物34の直上に接する下地電極層21の厚さTよりも厚い。
【0051】
Cu偏析物の形状は、Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さと関連がある。
Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さが0.5μm未満の場合、Cu偏析物の形状は、粒状または楔状となりやすい。
一方、Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さが0.5μm以上の場合、Cu偏析物の形状は、層状となりやすい。
なお、Cu偏析物の形状を特定するにあたっては、Cu偏析物がガラス部と混合している部分もCu偏析物の一部とみなす。従って、Cu偏析物がガラス部と混合している部分も含めて、1つのCu偏析物として形状を特定する。Cu偏析物がガラス部と混合している部分とガラス部との境界は、SEM-EDXによってSi元素及びCu元素の元素マッピングを行うことにより確認することができる。
【0052】
Cu偏析物の形状及びアスペクト比、並びに、Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さは、SEM-EDXにより測定することができる。
Cu偏析物の形状及びアスペクト比は、個々のCu偏析物ごとに決定される。
なお、Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さは、Cu偏析物及びガラス部が一視野中に収まるように撮影されたSEM-EDX画像より、個々のCu偏析物ごとの、Cu偏析物の上面の一点からその縦方向直上にあるガラス部の天面の一点までの長さの最小値とする。
例えば、図5に示すCu偏析物31の直上に接するガラス部23の厚さは、両矢印Tで示される長さである。また、図6に示すCu偏析物34の直上に接するガラス部23の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
また、Cu偏析物の直上に接する下地電極層の厚さは、Cu偏析物及び下地電極層が一視野中に収まるように撮影されたSEM-EDX画像より、個々のCu偏析物ごとの、Cu偏析物の上面の一点からその縦方向直上にある下地電極層の天面の一点までの長さの最小値とする。
Cu偏析物が存在しない部分における下地電極層の厚さは、3箇所で測定された、素体の表面から下地電極層の天面までの長さの平均値とする。上記の3箇所は、目視において、素体の表面から下地電極層の天面までの長さが最も長くなる地点、最も短くなる地点、及び、これらの中間の長さとなる地点を選択する。
【0053】
ここまで、Cu偏析物の直上にガラス部がある例について説明したが、その直上にガラス部ではなく導体部があるCu偏析物が存在してもよい。
すなわち、下地電極層に含まれるガラス部に覆われていないCu偏析物が存在してもよい。
また、Cu偏析物が複数存在する場合には、1つ以上のCu偏析物が素体とガラス部との界面に存在していればよく、他のCu偏析物が、素体と導体部との界面や、素体と被覆層との界面に存在していてもよい。したがって、素体と下地電極層の界面には、Cu偏析物が複数個存在していてもよい。
【0054】
図7は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体とガラス部との界面の状態のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図7に示す素体10の表面には、下地電極層21が設けられている。下地電極層21は、複数のガラス部23(23a、23b)と、導体部25を有している。
複数のガラス部23a、23bと素体10との界面には、それぞれ、Cu偏析物30a、30bが存在している。
また、素体10の表面には、ガラス部23によって覆われていない部分が存在し、この部分は導体部25により覆われている。Cu偏析物30cは、ガラス部23ではなく導体部25によって覆われている部分に存在する。従って、Cu偏析物30cの直上には、導体部25が存在している。
図7に示す状態は、1つの下地電極層にガラス部が複数存在しており、複数のガラス部のうちの1つと素体との界面にはCu偏析物が存在し、残りのガラス部のうちの少なくとも1つと素体との界面に、Cu元素を含むCu偏析物が存在している状態ともいえる。
【0055】
本発明の電子部品の一実施形態は、素体の表面の一部を覆うガラスを含む絶縁膜を有していてもよい。
絶縁膜を構成するガラスとしては、下地電極層を構成するガラスと同じものを好適に用いることができる。ただし、絶縁膜を構成するガラスと、下地電極層を構成するガラスは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
素体と絶縁膜との界面には、Cu偏析物が存在していてもよい。
【0057】
素体の表面のうち、下地電極層で覆われていない部分の表面にも、Cu偏析物が存在していてもよい。
【0058】
本実施形態の電子部品は、素体と外部電極との密着性に優れている。本実施形態の電子部品は積層コイル部品や巻線コイル部品に限られず、Cu元素を含むセラミックが素体として用いられるものであればよい。
【0059】
[電子部品の製造方法]
(第一実施形態)
本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態は、Cu元素を含むセラミック原料をシート状に成形したセラミックシートを準備するセラミックシート準備工程と、セラミックシートにビアホール及びコイルパターンとなる導体パターンを形成する導体パターン形成工程と、セラミックシートを積層した積層体を得る積層体準備工程と、積層体を焼成してセラミックの素体を得る焼成工程と、素体の表面に、導体を含む導体部とガラスを含むガラス部を有する下地電極層を形成する下地電極層形成工程とを含む。
【0060】
[セラミックシート準備工程]
セラミックシート準備工程では、Cu元素を含むセラミック原料をシート状に成形する。
セラミック原料としてフェライト原料を使用する場合、粉末状のフェライト原料は、例えば、Fe、ZnO、CuO、及び、NiOを所定の比率になるように秤量して湿式で混合した後、粉砕、乾燥及び仮焼成することによって得ることができる。
【0061】
続いて、セラミック原料と、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、等を混合した後、粉砕することにより、セラミックスラリーを作製する。次に、セラミックスラリーをドクターブレード法等で所定の厚みのシート状に成形した後、所定の形状に打ち抜くことにより、セラミックシートを作製する。
【0062】
セラミック原料中のCu元素の含有量は、6mol%以上、10mol%以下であることが好ましい。
セラミック原料中のCu元素の含有量が多いほど、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0063】
セラミックシートに含まれる有機バインダの含有量は、25重量%以上、35重量%以下であることが好ましい。
セラミックシートに含まれる有機バインダは炭素を含むため、焼成時に雰囲気中の酸素と結合して酸素濃度を低下させる。そのため、有機バインダの含有量が多いほど、焼成工程において酸素濃度が低くなりやすく、その結果、素体の表面にCu偏析物が生じやすくなる。
【0064】
セラミックシートの厚さは特に限定されないが、15μm以上、50μm以下であることが好ましい。
【0065】
[導体パターン形成工程]
導体パターン形成工程では、Agペースト等の導電性ペーストをスクリーン印刷法等で各セラミックシートに塗工することにより、導体パターンを形成する。ビア導体となる導体パターンを形成する際には、セラミックシートの所定の箇所にレーザー照射を行うことによりビアホールを予め形成しておき、そのビアホールに導電性ペーストを充填する。
【0066】
[積層体準備工程]
セラミックシートを積層したあと、温間等方圧プレス(WIP)処理等で圧着することにより、積層体を作製する。
セラミックシートの積層数は特に限定されないが、30層以上、100層以下であることが好ましい。
【0067】
[焼成工程]
焼成工程では、積層体を焼成して素体を得る。
焼成条件は、素体の表面に、素体中のCuに由来するCu偏析物が析出する条件とする。
素体の表面にCu偏析物が生じるかどうかは、セラミック原料の組成だけでなく、積層体に含まれる炭素量、焼成温度(最高温度)、昇温速度、焼成雰囲気、焼成炉の材質、等が影響する。これらの条件を適切に選択した場合に、素体の表面にCu偏析物が析出する。
すなわち、焼成条件が適当でないと、たとえセラミック原料の組成が同じであっても、素体の表面にCu偏析物が析出しない。
【0068】
焼成工程における焼成温度(最高温度)は、1000℃以上、1300℃以下であることが好ましい。
焼成工程における焼成温度(最高温度)が1000℃以上であると、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0069】
焼成工程における酸素濃度は、15体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。焼成雰囲気における酸素含有量が15体積%以下であると、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
焼成工程におけるバランスガスは、窒素又はアルゴンが好ましい。
【0070】
焼成工程における昇温速度は、10℃/min以下であることが好ましい。
焼成温度まで到達するまでの時間が短いほど、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0071】
焼成工程において積層体を焼成する焼成炉を構成する炉材は、アルミナとケイ素の混合物等の、密度の高い材料であることが好ましい。
焼成炉を構成する炉材が密度の高い材料で構成されていると、Cu偏析物が生じやすい。
【0072】
[下地電極層形成工程]
下地電極層形成工程では、焼成工程により得られた素体の表面に導体を含む導体部とガラスを含むガラス部を有する下地電極層を形成する。
【0073】
下地電極層は、導電性粒子及びガラスを含むペースト(以下、ガラスペーストという)を素体の表面に塗布し、焼成(焼き付け)することで形成することができる。
ガラスペーストには導電性粒子及びガラスの他に、樹脂及び分散媒が含まれていてもよい。
【0074】
導電性粒子としては、Ni元素、Sn元素、Pd元素、Au元素、Ag元素、Pt元素、Bi元素、Zn元素及びCu元素からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含む導電性粒子が挙げられる。
【0075】
導電性粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。
ガラスペーストを構成する導電性粒子の平均粒子径が大きいほど、焼結前のガラスペースト中の空隙が多くなり、焼き付けによって下地電極層の厚さが薄くなりやすい。そのため、粒状または楔状のCu偏析物が形成されやすい。
一方、ガラスペーストを構成する導電性粒子の平均粒子径が小さいほど、焼結前のガラスペースト中の空隙が少なくなり、焼き付けによって下地電極層の厚さが厚くなりやすい。そのため、層状のCu偏析物が形成されやすい。
【0076】
ガラスとしては、B-Si系ガラス、Ba-B-Si系ガラス、B-Si-Zn系ガラス、B-Si-Zn-Ba系ガラス、B-Si-Zn-Ba-Ca-Al系ガラス等を使用することができる。これらの他にも、Na-Si系ガラス、K-Si系ガラス、Li-Si系ガラス等のアルカリ金属系ガラス、Mg-Si系ガラス、Ca-Si系ガラス、Ba-Si系ガラス、Sr-Si系ガラス等のアルカリ土類金属系ガラス、Ti-Si系ガラス、Zr-Si系ガラス、Al-Si系ガラス等を使用することもできる。
ガラスは、結晶性ガラスであってもよい。
【0077】
ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径は特に限定されないが、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0078】
ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径が大きいほど、焼き付け時のガラスペーストの流動性が低く、下地電極層の厚さが厚くなりやすい。そのため、層状のCu偏析物が形成されやすい。
一方、ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径が小さいほど、焼き付け時のガラスペーストの流動性が高く、下地電極層の厚さが薄くなりやすい。そのため、粒状または楔状のCu偏析物が形成されやすい。
【0079】
ガラスペーストを焼成する際の温度(焼き付け温度)は、特に限定されないが、750℃以上、900℃以下であることが好ましい。
焼き付け温度が750℃以上、900℃以下であると、素体の表面にさらにCu偏析物が生じやすい。また、Cu偏析物と下地電極層のガラス部に含まれるガラスとが混合物を形成しやすくなり、素体と下地電極層との密着性を向上させることができる。
また、焼き付けは、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。
焼き付けを非酸化性雰囲気中、825℃以上で行うことにより、素体の表面におけるCuの偏析を促すことができる。そのため、素体と下地電極層との密着性をさらに向上させることができる。
【0080】
ガラスペーストに含まれる樹脂としては、ポリビニルブチラール系樹脂等が挙げられる。
ガラスペーストに含まれる樹脂の含有量は、20重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
ガラスペーストに含まれる樹脂の含有量が、上記範囲であると、素体の表面におけるCuの偏析を促すことができる。
【0081】
また、下地電極層の表面には、被覆層を形成することが好ましい。
被覆層は、めっき処理により形成されためっき層であることが好ましい。
めっき層は、Cu、Ni、Sn、Pd、Au、Ag、Pt、Bi及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。めっき層は、1層であってもよく、2層以上あってもよい。めっき層としては、下地電極層の上に設けられたNiめっき層とSnめっき層とを有する層であることがより好ましい。
めっき層の形成後に、さらに加熱を行ってもよい。
【0082】
素体を製造する方法は、上述したシート積層工法以外の方法であってもよい。
シート積層工法以外の方法としては、例えば、印刷積層方法(ビルドアップ法)が挙げられる。また、シート表面に配線やビアを形成する方法には、上述した方法のほかに、フォトリソグラフィを用いる方法を用いることもできる。
【0083】
以上の工程により、例えば、図1及び図2に示すような、素体の内部に導体層を有する電子部品を製造することができる。
【0084】
(第二実施形態)
本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態は、Cu元素を含むセラミック原料を成形してCu元素を含むセラミックの素体を準備する素体準備工程と、素体の表面に導体を含む導体部とガラスを含むガラス部を有する下地電極層形成工程と、素体の表面にコイルとなる巻線を巻きつけるコイル形成工程と、を含む。
【0085】
[素体準備工程]
素体準備工程において用いられるセラミック原料としては、本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態において用いられるセラミック原料と同様のものを好適に用いることができる。
【0086】
セラミック原料を所定の形状に成形する方法としては、従来公知の粉末の成形方法を用いることができる。このとき、セラミック原料には、必要に応じて、樹脂やバインダ等を添加してもよい。セラミック原料を成形して得られる成形体を焼成することで、素体となる。このとき、素体の表面にCu偏析物が生じる条件で成形体を焼成する。
上記方法で得られる素体は、内部に導体層を含まない素体である。
【0087】
[下地電極層形成工程]
本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態における下地電極層形成工程は、本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態における下地電極層形成工程と同様である。
【0088】
[コイル形成工程]
コイル形成工程では、素体の表面にコイルとなる巻線を巻きつけて、該コイルの両端を外部電極と接続する。コイルとなる巻線と外部電極との接続方法は特に限定されないが、例えば、熱圧着により接合する方法が挙げられる。
巻線の巻数(ターン数)及び巻線の直径は、電子部品に求められる特定に応じて適宜変更すればよい。
【0089】
以上の工程により、例えば、図3及び図4に示すような、素体の周囲にコイルとなる巻線が巻回された電子部品を製造することができる。
【実施例
【0090】
以下、本発明の電子部品の一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
[素体準備工程]
Fe量を一定とし、Ni/Znモル比が2.3となるように、かつ、Cu含有量が8mol%となるように調製したフェライト原料を、巻線部と鍔部とを有するバーベル形状に成形して成形体を得た。
【0092】
成形体を1100℃で1時間焼成することによりセラミックの素体を得た。
焼成時の雰囲気は、常圧、酸素分圧10体積%とした。
【0093】
[外部電極形成工程]
ガラスフリット(ホウケイ酸ガラス)とAg粒子を5:95(重量比)で混合した混合物と溶媒とを混合したガラスペーストを調製し、焼成工程で得られた素体の表面にガラスペーストを塗布し、650℃で40分間焼き付けを行い、下地電極層を形成し、下地電極層の表面にめっき処理を行い、被覆層としてNiめっき層を形成して、実施例1に係る電子部品を製造した。なお、焼き付けは高温とするほど、Cu偏析物の偏析量が生じやすいため、750℃以上が好ましく、850℃以上にすることにより、Cu偏析物の流動性自体も向上する。
【0094】
(実施例2、比較例1~3)
フェライト原料中のFe量及びNi/Znモル比を変えずに、Cu含有量を6mol%、4mol%、1mol%、0mol%に変更したほかは、実施例1と同様の手順で、実施例2及び比較例1~3に係る電子部品を製造した。各実施例及び比較例の素体の焼結密度は、実施例1と同程度であった。
【0095】
(比較例4)
フェライト原料の組成を変えずに、成形体の焼成温度(最高温度)を950℃以下に変更したほかは、実施例1と同様の手順で、比較例4に係る電子部品を製造した。比較例4の素体の焼結密度は、実施例1と同程度であった。
【0096】
[素体のCu含有量の測定]
前述したWD-XRFによって素体のCu含有量を測定したところ、いずれも、フェライト原料におけるCu含有量と同じであった。
【0097】
[SEM-EDXによる観察]
実施例2に係る電子部品について、素体とガラス部との界面近傍をSEM-EDXにより2箇所で観察し、Cuの元素マッピング及びSiの元素マッピングを行った。結果を図8図9図11及び図12に示す。
なお、実施例1及び比較例1~4に係る電子部品についても、素体とガラス部との界面近傍をSEM-EDXで観察したところ、実施例1に係る電子部品については、素体とガラス部との界面において、素体とガラスとに接しているCu偏析物が確認できたが、比較例1~4に係る電子部品については、いずれも、Cu偏析物を確認できなかった。
【0098】
図8は、実施例2に係る電子部品の、素体とガラス部との界面のCuの元素マッピング画像であり、図9は、図8と同一視野におけるSiの元素マッピング画像であり、図10は、図8及び図9を重ね合わせた画像である。
図8図9及び図10の結果より、実施例2に係る電子部品では、素体10とガラス部23との界面に、Cu濃度が高い領域(Cu偏析物31、32、33)が存在していることを確認した。図8図9及び図10の左側には楔形のCu偏析物31が存在し、図8図9及び図10の右側には粒状のCu偏析物が複数個(Cu偏析物32、33)存在していることを確認できた。図8図9及び図10に示す楔形のCu偏析物31の直上に接するガラス部23の厚さは0.4μmであった。図8図9及び図10に示す粒状のCu偏析物32、33のアスペクト比は約1.2-1.9であり、いずれも3以下の値であった。また、粒状のCu偏析物32の直上に接するガラス部23の厚さは、0.3μmであった。
【0099】
図11は、実施例2に係る電子部品の、素体とガラス部との界面のCuの元素マッピング画像であり、図12は、図11と同一視野におけるSiの元素マッピング画像である。図11及び図12におけるSEM-EDXを測定する位置は、図8及び図9におけるSEM-EDXを測定する位置とは異なる位置である。
図11の結果より、実施例2に係る電子部品では、素体10とガラス部23との界面に、Cu濃度が高い領域(Cu偏析物34)が存在していることを確認した。
図11中、Cu濃度が高いことを示す白い点について、素体10と下地電極層21との界面に沿って連続していない部分が存在する。図12に示すSEM-EDXのSi元素マッピングによると、この部分ではSi濃度が下地電極層21よりも低くなっており、Cu偏析物が下地電極層21を構成するガラスを含んでいる部分と考えられる。すなわち、図11及び図12に示す素体10と下地電極層21との界面では、Cu偏析物34が、素体10と下地電極層21との界面に沿って連続的に配置されており、Cu偏析物全体として層状であるといえる。この層状のCu偏析物34のアスペクト比は3を超えており、Cu偏析物34の直上に接するガラス部23の厚さは、5μm以上であった。
図8図9図10図11及び図12の結果より、同一の電子部品において、ガラス部と素体との界面に、形状が異なる複数のCu偏析物が存在していることを確認した。
【0100】
[剥がれ性の評価]
以下の方法により、素体と下地電極層との間の密着性を評価した。結果を表1に示す。
電子部品を研磨することによって、素体と下地電極層との界面を露出させ、SEM-EDXによって素体と下地電極層の界面を観察し、素体と下地電極層の剥がれの有無を確認した。同様の操作を合計5個のサンプルで行い、剥がれの発生率を剥がれ[%]として評価した。
【0101】
【表1】
【0102】
表1の結果より、本発明の電子部品は、素体と下地電極層の密着性が高いことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の実施形態に係る電子部品は、インダクタ、アンテナ、ノイズフィルタ、電波吸収体、コンデンサと組み合わせたLCフィルタ等の部品として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1、2 電子部品
10、11 素体
10a 素体の第1端面
10b 素体の第2端面
10c 素体の第1側面
10d 素体の第2側面
10e 素体の上面
10f 素体の底面
20 外部電極
21 下地電極層
23、23a、23b ガラス部
25 導体部
27 被覆層
30、30a、30b、30c、31、32、33、34 Cu偏析物
31a Cu偏析物が素体側に突出している突出部
40 導体層
43 巻線
60 巻芯部
61 鍔部
L 長さ方向
La、La、La Cu偏析物の横方向の長さ
Lb、Lb、Lb Cu偏析物の縦方向の長さ
T 厚さ方向
下地電極層の厚さ
、T Cu偏析物の直上に接するガラス部の厚さ
、T、T Cu偏析物の直上に接する下地電極層の厚さ
W 幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12