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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】適応等化装置、受信機及び適応等化方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20240521BHJP
   H04B 3/10 20060101ALI20240521BHJP
   H04L 27/01 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B3/10 A
H04L27/01
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023011545
(22)【出願日】2023-01-30
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高椋 智大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】大山 勝一
(72)【発明者】
【氏名】野内 裕之
(72)【発明者】
【氏名】仙北 智晴
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-121998(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217217(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/022268(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/042838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 3/10
H04L 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
適応等化回路と、
フレーム同期部を有する復号回路と、
疑似フレーム信号を生成する疑似フレーム信号生成回路とを備え、
最初に生成されるフレームは、前記疑似フレーム信号生成回路が生成する前記疑似フレーム信号であり、
前記疑似フレーム信号は、前記適応等化回路の動作開始のトリガとして用いられ、前記復号回路において信号処理を行う際の基準信号として用いられ、
前記適応等化回路は、
タップ係数が設定されたフィルタによって、各フレームの先頭に既知信号として同期パタン部が挿入され、前記フレームを構成する各サブフレームの先頭に既知信号としてパイロット信号が挿入された少なくとも2つの偏波のデータの偏波変動補償を行うデジタルフィルタと、
前記フレーム同期部が前記デジタルフィルタの出力信号からフレーム信号を生成する前において、前記データの振幅値と前記データの取りうるべき振幅値との差分が小さくなるように前記タップ係数をブラインド等化方式により求め、前記フレーム信号が生成された後において、前記フレーム信号をフィードバック受信し前記フレーム信号に基づいて前記データから前記既知信号を検出し、検出された前記既知信号と前記既知信号の真値との差分が小さくなるように前記タップ係数を参照信号比較等化方式により更新するタップ係数更新回路とを備えることを特徴とする適応等化装置
【請求項2】
前記フレーム信号が生成された後、前記疑似フレーム信号生成回路は前記フレーム信号をフィードバック受信し前記疑似フレーム信号を前記フレーム信号に修正し、前記タップ係数更新回路は、修正された前記疑似フレーム信号によって前記フレームの先頭位置を検出し、その先頭位置に基づいて前記既知信号を検出することを特徴とする請求項1に記載の適応等化装置。
【請求項3】
前記フレーム同期部の出力信号から、偏波入れ替え情報として、偏波が入れ替わっているか否かを検出する状態検出部を更に備え、
前記適応等化回路は、前記偏波入れ替え情報をフィードバック受信し、前記偏波入れ替え情報を基に前記タップ係数を調整することによって偏波入れ替えを補償することを特徴とする請求項1に記載の適応等化装置。
【請求項4】
前記フレーム同期部の出力信号から、偏波間スキュー情報として、偏波間のスキューを検出する状態検出部を更に備え、
前記適応等化回路は、前記偏波間スキュー情報をフィードバック受信し、前記偏波間スキュー情報を基に前記タップ係数を調整することによって偏波間スキューを補償することを特徴とする請求項1に記載の適応等化装置。
【請求項5】
前記適応等化回路と前記フレーム同期部との間にあり前記データのIQ軸とキャリア信号のIQ軸の位相同期を行うキャリア位相再生回路を更に備え、
前記キャリア位相再生回路は、前記フレーム信号が生成される前において、前記デジタルフィルタの出力信号をM乗倍することで位相をIQ平面上の一つの象限に重ね合わせた信号の位相と前記重ね合わせた信号が取るべき位相との差分が小さくなるように位相同期を行い、前記フレーム信号が生成された後において、前記フレーム信号をフィードバック受信し前記フレーム信号に基づいて前記データから前記既知信号を検出し、検出された前記既知信号の位相と前記既知信号の真値の位相との差分が小さくなるように位相同期を行うことを特徴とする請求項1に記載の適応等化装置。
【請求項6】
前記フレーム同期部の出力信号から各偏波のデータ毎にIQスワップ情報を検出する状態検出部を更に備え、
前記キャリア位相再生回路は、前記IQスワップ情報をフィードバック受信し、前記IQスワップ情報を基に参照する既知パタンの座標データを調整することによってIQスワップを補償することを特徴とする請求項5に記載の適応等化装置。
【請求項7】
受信した光信号を前記データに変換する受信光モジュールと、
前記データの波長分散による歪を補償する波長分散補償回路と、
前記波長分散補償回路の出力信号の偏波変動を補償する請求項2から6の何れか1項に記載の適応等化装置とを備えることを特徴とする受信機。
【請求項8】
タップ係数が設定されたデジタルフィルタが、各フレームの先頭に既知信号として同期パタン部が挿入され、前記フレームを構成する各サブフレームの先頭に既知信号としてパイロット信号が挿入された少なくとも2つの偏波のデータの偏波変動補償を行う工程と、
フレーム同期部が前記デジタルフィルタの出力信号からフレーム信号を生成する前において、タップ係数更新回路が前記データの振幅値と前記データの取りうるべき振幅値との差分が小さくなるように前記タップ係数をブラインド等化方式により求める工程と、
前記フレーム信号が生成された後において、前記タップ係数更新回路が前記フレーム信号をフィードバック受信し前記フレーム信号に基づいて前記データから前記既知信号を検出し、検出された前記既知信号と前記既知信号の真値との差分が小さくなるように前記タップ係数を参照信号比較等化方式により更新する工程とを備え
最初に生成される前記フレームは、疑似フレーム信号生成回路が生成する疑似フレーム信号であり、
前記疑似フレーム信号は、前記デジタルフィルタと前記タップ係数更新回路を有する適応等化回路の動作開始のトリガとして用いられ、前記フレーム同期部を有する復号回路において信号処理を行う際の基準信号として用いられることを特徴とする適応等化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ通信において光伝送路の特性を補償する適応等化回路、適応等化装置、受信機及び適応等化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信では、受信側において伝送信号の歪をデジタル信号処理により補償することで、数十Gbit/s以上の大容量伝送を実現している。デジタル信号処理では、主に、波長分散補償、周波数制御・位相調整、偏波多重分離及び偏波分散補償等の処理を行っている。
【0003】
偏波多重分離及び偏波分散補償の処理は、主に適応等化器によって行われる。適応等化器をデジタル信号処理によって実現する場合、一般的にデジタルフィルタが使用される。伝送信号の歪が相殺されるように計算されたタップ係数をそのデジタルフィルタに設定することで、伝送信号の歪を補償できる。
【0004】
受信光モジュール内では、送信側で合成されたX偏波信号(以後、X偏波と称する)とY偏波信号(以後、Y偏波と称する)を分離する。分離したX偏波にはY偏波の一部の信号が残り、分離したY偏波にはX偏波の一部の信号が残る。適応等化器のデジタルフィルタによってX偏波のデータとY偏波のデータとの分離をより完全に行う。但し、上述した偏波分散等は、偏波状態の変動に影響される。従って、デジタルフィルタのタップ係数は、偏波状態の変動に応じて逐次更新され、その変動に追従した補償が行われる。
【0005】
これらのデジタルフィルタのタップ係数更新には、一般的に、RLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等の逐次更新アルゴリズムが使用される。これは、送信側でトレーニング信号又はパイロット信号等の既知信号を光信号に挿入し、伝送されてきた既知信号とこの既知信号の真値(送信側で挿入した値)との誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求めるアルゴリズムである(以降、参照信号比較等化方式と称する)。
【0006】
上述の比較対象とする既知信号としては、フレーム同期用に設定した比較的長いトレーニング信号(TS)パタン(例えば、128、256、512シンボル等が、数万シンボルのデータ毎に挿入)や、位相同期用に設定した比較的短いパイロット信号(PS)(例えば、1~数シンボルが数十シンボル毎に挿入)が使用される。例えば、フレームの先頭を示すTSパタンを検出してこれを利用して初期のタップ係数を求める。それ以降は、そのTSパタンの位置から周期的に挿入されたPSを検出し、これを利用して逐次的なタップ係数を求める。
【0007】
しかし、TSパタンは比較的長いため、検出するための演算量が大きいこと、及びデータ量に対して僅かでも影響を与えるため、省略するか極力短くする方向で新たな通信システムの開発が行われている。
【0008】
このようなシステムに対応するため、逐次更新アルゴリズムとして、既知信号を使わないでタップ係数を求めるブラインド等化方式が適応等化器に使用されている。ブラインド等化方式には、定包絡線基準アルゴリズム(CMA: Constant Modulus Algorithm)や、CMAをQAM(Quadrature Amplitude Modulation)へ使用するために複数振幅のリングへ拡張したRDE(Radius directed equalization)がある(例えば、特許文献1,2参照)。これらでは、デジタルフィルタの出力と本来あるべき値(「あるべき値」は、定包絡線の場合、振幅の所望値として容易に推定できる)との誤差を最小化するようにタップ係数が更新される。タップ係数は、このアルゴリズムに従って制御され収束する。RDEでは、CMAに対して複数振幅の何れかを判定する機能が加えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-225078号公報
【文献】特開2020-17819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、TSパタンを極力短くした信号が使用され、RDEモード等のブラインド等化方式で動作する適応等化器が多くなってきている。しかし、従来のブラインド等化方式の適応等化器では、TSパタンやPS等の既知信号と比較を行ってタップ係数を更新する適応等化器と比べて、雑音耐力、偏波変動耐力、及びDGD(微分群遅延:Differential Group Delay)負荷に対する耐力等が劣化するという問題があった。DGD負荷とはX偏波信号とY偏波信号の遅延差である。
【0011】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的はTSパタンを有しない又は極力短くした信号が使用された場合でも耐力の劣化を抑えることができる適応等化回路、適応等化装置、受信機及び適応等化方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る適応等化装置は、適応等化回路と、フレーム同期部を有する復号回路と、疑似フレーム信号を生成する疑似フレーム信号生成回路とを備え、最初に生成されるフレームは、前記疑似フレーム信号生成回路が生成する前記疑似フレーム信号であり、前記疑似フレーム信号は、前記適応等化回路の動作開始のトリガ及び前記復号回路において信号処理を行う際の基準信号として用いられ、前記適応等化回路は、タップ係数が設定されたフィルタによって、各フレームの先頭に既知信号として同期パタン部が挿入され、前記フレームを構成する各サブフレームの先頭に既知信号としてパイロット信号が挿入された少なくとも2つの偏波のデータの偏波変動補償を行うデジタルフィルタと、前記フレーム同期部が前記デジタルフィルタの出力信号からフレーム信号を生成する前において、前記データの振幅値と前記データの取りうるべき振幅値との差分が小さくなるように前記タップ係数をブラインド等化方式により求め、前記フレーム信号が生成された後において、前記フレーム信号をフィードバック受信し前記フレーム信号に基づいて前記データから前記既知信号を検出し、検出された前記既知信号と前記既知信号の真値との差分が小さくなるように前記タップ係数を参照信号比較等化方式により更新するタップ係数更新回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示により、TSパタンを有しない又は極力短くした信号が使用された場合でも耐力の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る受信機を示す構成図である。
図2】光通信システムで使用する送信信号のデータフレームの構成を示す図である。
図3】実施の形態に係る適応等化装置を示す構成図である。
図4】受信信号とフレーム信号の関係を示す図である。
図5】デジタルフィルタを示す図である。
図6】復号回路を示す構成図である。
図7】XY偏波入れ替え動作を説明するための図である。
図8】XY偏波間スキューの補償動作を説明するための図である。
図9】IQスワップを説明するための図である。
図10】IQスワップを説明するための図である。
図11】実施の形態に係る適応等化装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施の形態に係る受信機を示す構成図である。受信機100は、受信光モジュール10、A/D変換器20、波長分散補償回路30及び適応等化装置40を備える。適応等化装置40は、適応等化回路1、周波数オフセット補償回路2、キャリア位相再生回路3、及び復号回路4を有する。
【0016】
図には示していないが、送信機において、送信データはX偏波用送信データとY偏波用送信データに分けられ、それらがそれぞれX偏波光信号とY偏波光信号を変調する。変調されたX偏波光信号とY偏波光信号は合成されて受信信号として光ファイバ200を介して受信機100に供給される。
【0017】
受信光モジュール10は、受信信号をX偏波光信号及びY偏波光信号に分離し、電気信号に変換する。A/D変換器20は、受信光モジュール10の出力信号をそれぞれX偏波データ及びY偏波データに変換する。波長分散補償回路30は、X偏波データ及びY偏波データに波長分散補償処理を行って、データの波長分散による歪を補償する。
【0018】
適応等化回路1は、波長分散補償回路30の出力信号を更に偏波分離し、それぞれ偏波分散補償処理を施して偏波変動を補償する。偏波分離や偏波分散の状況は、光ファイバ200の偏波変動によって逐次変化するため、偏波変動に追従するように、適応等化回路1内のデジタルフィルタのタップ係数が更新される。
【0019】
周波数オフセット補償回路2は、送信機と受信機100との間のキャリア信号の周波数誤差をX偏波データ及びY偏波データそれぞれについて補償する。キャリア位相再生回路3は、送信機と受信機100との間のキャリア信号の位相誤差をX偏波データ及びY偏波データそれぞれについて補償する。
【0020】
復号回路4は、キャリア位相再生回路3からのX偏波データ及びY偏波データのそれぞれについてフレーム同期を実施すると共に、X偏波データとY偏波データとを比較して偏波分離状態の適切性、IQ平面における受信位相関係等をチェックする。復号回路4は、誤り訂正処理を行った後、最終的には“0”、“1”のX偏波用復号データとY偏波用復号データを出力する。
【0021】
なお、受信機100の各回路間においてX偏波データ及びY偏波データが並列的に伝送される。ただし、実際には、各データを、IQ平面上の実数成分であるIデータと、虚数成分であるQデータに分けて処理が行われる。即ち、X偏波データは(X_I、X_Q)のセットで処理され、Y偏波データは(Y_I、Y_Q)のセットで処理される。なお、本明細書では、典型的な光通信の例として偏波データとしてX偏波及びY偏波の2つの偏波データの場合について説明するが、本実施の形態は必ずしも2つの偏波の場合に限定されず、3つ以上の偏波が可能な場合にも適用できる。
【0022】
図2は、光通信システムで使用する送信信号のデータフレームの構成を示す図である。本データフレームは、上述したX偏波用送信データ及びY偏波用送信データのそれぞれにおいて構成される。各データフレームは、同期パタン部とデータ部を含む。本光通信システムでは、同期パタン部は数シンボルから数十シンボル程度で構成される。
【0023】
OTN(Optical Transport Network)等の典型的な光通信システム伝送パケットでは、OTU(Optical-channel Transport unit:数万シンボル)フレームに1回又は数回の割合で、既知の数百シンボル(例えば、128シンボル、256シンボル、512シンボル等)のトレーニングシーケンス(TS)パタンが付加されている。このTSパタンは、適応等化回路1の前段の回路で検出され、OTUフレームの同期や適応等化回路1のタップ係数更新に使用される。適応等化回路1のタップ係数更新アルゴリズムは、既知信号との比較によってタップ係数を求めるRLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等の参照信号比較等化方式の逐次更新アルゴリズムが用いられる。RLS及びLMSでは、受信した既知信号(TS信号)と既知信号の真値との差分が最小化するようにタップ係数が更新される。
【0024】
一方、本光通信システムでは、上述したTSパタンのような長いパタンは使用されず、数十シンボル程度(例えば16シンボル)の短い同期パタンのみが付加される。同期パタンはタップ係数更新には用いられない。少なくとも受信信号を受信した当初は、TSパタンのような比較できる長い参照信号が無いため、適応等化回路1のタップ係数更新アルゴリズムは、受信信号の振幅とその所望値との誤差を最小化するようにタップ係数を求めるブラインド等化方式が使用される。ブラインド等化方式には、定包絡線基準アルゴリズム(CMA:Constant Modulus Algorithm)や、CMAをQAM(Quadrature Amplitude Modulation)へ使用するために複数振幅のリングへ拡張したRDE(Radius directed equalization)がある。
【0025】
また、データ部では、データとして、X偏波用送信データのフレームにはX偏波用送信データが、Y偏波用送信データのフレームにはY偏波用送信データが、それぞれ複数のサブフレームに分割されて設定される。各サブフレームは、例えば数十シンボルから数百シンボルに設定できる。更に各サブフレームの先頭には、1から数シンボルのパイロット信号(PS)が挿入された既知信号である。従って、PSは、一定のシンボル間隔(サブフレーム間隔)でデータに挿入される。PSは、通常全て同じ振幅に設定される。即ち、データの各フレームに複数の既知信号が所定の位置に挿入されている。なお、上述した典型的な光通信システムにおいてもPSは定期的にデータに挿入される。
【0026】
なお、典型的な光通信システムでは、TSパタンによって適応等化回路1のタップ係数の初期値が参照信号比較等化方式によって求められ、定期的に挿入されたPSによって適応等化回路1のタップ係数が参照信号比較等化方式によって逐次的に更新される。
【0027】
同期パタン部及びPSのそれぞれは、X偏波用送信データのフレームとY偏波用送信データのフレームとの間で異なってもよいし同じでもよい。ただ、同期パタン部は、X偏波とY偏波を区別するために、一般的には異なるパタンが設定される。また、PSもタップ係数が同一偏波側に収束すること(例えばY偏波側用のタップもX偏波側に誤収束するなど)を防ぐため一般的には異なるパタンが設定される。
【0028】
図3は、実施の形態に係る適応等化装置を示す構成図である。適応等化装置40は、疑似フレーム信号生成回路5、適応等化回路1、周波数オフセット補償回路2、キャリア位相再生回路3及び復号回路4を有する。波長分散補償回路30からのX偏波データ及びY偏波データは、疑似フレーム信号生成回路5に供給される。疑似フレーム信号生成回路5は、受信信号を受信した当初に仮のフレーム信号(疑似フレーム信号と称する)を生成する。適応等化回路1は、デジタルフィルタ6及びタップ係数更新回路7を有する。
【0029】
図4は、受信信号とフレーム信号の関係を示す図である。疑似フレーム信号生成回路5は、受信したX偏波データ及びY偏波データに対して、一つの疑似フレーム信号を任意に生成する。X偏波データとY偏波データは必ずしも同時に受信されない。X偏波データとY偏波データとの時間的差分は、XY偏波間スキューと称される。
【0030】
波長分散補償回路30から供給されたX偏波データ及びY偏波データは、疑似フレーム信号生成回路5では処理されず、疑似フレーム信号と共に、次段の適応等化回路1に供給される。適応等化回路1において適応等化処理が施されたX偏波データ及びY偏波データは、疑似フレーム信号と共に、周波数オフセット補償回路2及びキャリア位相再生回路3を経て復号回路4へ供給される。受信信号の受信当初は、適応等化回路1のタップ係数更新はブラインド等化方式で行われる。
【0031】
疑似フレーム信号生成回路5で最初に生成された疑似フレーム信号は、適応等化回路1の動作開始のトリガや、後段の復号回路4においてフレーム同期処理や種々の信号処理を行う際の基準信号として用いられる。復号回路4は、疑似フレーム信号を基準として各種処理を行う。復号回路4は、後述するが、X偏波データ及びY偏波データから真のフレーム信号を検出する。典型的には、X偏波データから検出されたフレーム信号が「真のフレーム信号」として使用される。X偏波データ及びY偏波データから検出されたフレーム信号の差分からXY偏波間スキューが求められる。このXY偏波間スキューが適応等化回路1にフィードバックされる。
【0032】
X偏波データに基づいて検出された真のフレーム信号は、疑似フレーム信号に対して、時間的な差分を有する。この時間的差分はシンボル量として表すことができる。この差分は、フレーム信号情報として復号回路4から疑似フレーム信号生成回路5へフィードバックされる。疑似フレーム信号生成回路5は、このフレーム信号情報を基に、疑似フレーム信号を真のフレーム信号へ修正する。なお、実際に修正は行われなくても、修正情報が各回路に伝達されることで実質な修正を行うことは可能である。
【0033】
真のフレーム信号に修正された疑似フレーム信号は、X偏波データ及びY偏波データと共に、適応等化回路1へ供給される。適応等化回路1は、まずXY偏波間スキューをデジタルフィルタ6のタップ係数で補償する。即ち、XY偏波間スキュー量が0になるようにデジタルフィルタ6のタップ係数を修正する。その後、復号回路4は、再び同期を取り、適応等化回路1から来る修正された疑似フレーム信号と復号回路4で検出した真のフレーム信号の位置がずれていないことを確認すると共にXY偏波間スキュー検出値も0であることを確認する。これによって真のフレーム信号から、既知信号としてPSを検出することができる。このPSを既知信号として、その後、参照信号比較等化方式のタップ係数更新モードに移行する。
【0034】
図5は、デジタルフィルタを示す図である。デジタルフィルタ6は、バタフライ型に構成されたFIR(Finite Impulse Response)フィルタFIR_A,FIR_B,FIR_C,FIR_Dを有する。FIR_Aは、X偏波データに対するフィルタである。FIR_Bは、Y偏波データからX偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_Cは、X偏波データからY偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_Dは、Y偏波データに対するフィルタである。各FIRフィルタはN個のタップを有する。ただし、FIRフィルタのタップ数は互いに異なっていてもよい。
【0035】
デジタルフィルタ6は、X偏波データに対するFIR_Aのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Bのフィルタリング結果との加算値をX偏波データの補償出力とし、X偏波データに対するFIR_Cのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Dのフィルタリング結果との加算値をY偏波データの補償出力とする。これらによって偏波分離がより確実化される。
【0036】
また、入出力データと各フィルタのタップ係数との関係を以下に示す。
Xout=Whh・Xin+Wvh・Yin
Yout=Whv・Xin+Wvv・Yin
ここで、XinはX偏波データの入力データである。YinはY偏波データの入力データである。XoutはX偏波データの出力データである。YoutはY偏波データの出力データである。WhhはフィルタFIR_Aの一連のタップ係数である。WvhはフィルタFIR_Bの一連のタップ係数である。WhvはフィルタFIR_Cの一連のタップ係数である。WvvはフィルタFIR_Dの一連のタップ係数である。
【0037】
タップ係数Whh、Wvh、Whv、Wvvはタップ係数更新回路7の逐次更新アルゴリズムによって求められる。逐次更新アルゴリズムは一般的に以下の式で示される。
Whh(n+1)=Whh(n)+μeX(n)Xout(n)・Xin(n)
Wvh(n+1)=Wvh(n)+μeX(n)Xout(n)・Yin(n)
Whv(n+1)=Whv(n)+μeY(n)Yout(n)・Xin(n)
Wvv(n+1)=Wvv(n)+μeY(n)Yout(n)・Yin(n)
ここで、nは、逐次更新アルゴリズムにおける更新順を示す値である。タップ係数Whh(n)は、更新順nの場合のFIR_Aのタップ係数群を示す。タップ係数Wvh(n)は、更新順nの場合のFIR_Bのタップ係数群を示す。タップ係数Whv(n)は、更新順nの場合のFIR_Cのタップ係数群を示す。タップ係数Wvv(n)は、更新順nの場合のFIR_Dのタップ係数群を示す。μは更新アルゴリズムのステップサイズを示す。eX(n)はX偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。eY(n)はY偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。所望値は、参照信号比較等化方式では参照信号であり、ブラインド等化方式では取りうるべき振幅値である。
【0038】
Xout(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Xin(n)は更新順nの場合のX偏波データにおけるフィルタ入力を示す。Yout(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Yin(n)は更新順nの場合のY偏波データにおけるフィルタ入力を示す。*は共役又は複素共役を示す。なお、データ及びタップ係数は複素数で表される。
【0039】
逐次更新アルゴリズムでは、上述の誤差が最小になるようにタップ係数の更新を繰り返し収束する。参照信号比較等化方式は、参照信号として振幅値だけでなく位相も比較するので、振幅値だけを比較するブラインド等化方式よりも高精度な等化補償を行うことができる。また、位相情報を用いないRDE等の逐次更新アルゴリズムを用いて複数振幅を取りうる変調方式のブラインド等化を行っていた場合においても、振幅の判定が不要となるCMAの方式に移行でき、結果的に判定誤りを防ぎ高精度な適応等化補償を行うことができる。なお、上記の式は逐次更新アルゴリズムを表す式の一例であり、逐次更新アルゴリズムを表す式は上記に限定されない。
【0040】
上記の逐次更新アルゴリズムによって、フィルタ出力と所望値との誤差が最小化するようにタップ係数の更新が更新順nで順次的に行われ、最終的にタップ係数が収束する。収束の条件は、更新順nの回数、又はフィルタ出力と所望値との誤差等で判定される。また、タップ係数更新回路7は、復号回路4で検出されたXY偏波入れ替え情報やXY偏波間スキュー情報に基づいて、それらによる信号の劣化を補償するようにタップ係数を決める。
【0041】
図3に戻り各回路の動作について説明する。図5に示すバタフライ型に構成されたFIRフィルタFIR_A,FIR_B,FIR_C,FIR_Dが、適応等化回路1に供給されたX偏波データ及びY偏波データに偏波分離処理と偏波分散補償処理を行う。この時、疑似フレーム信号生成回路5から供給された疑似フレーム信号は、適応等化処理が行われずタイミングのみ調整されて後段の回路に出力される。各FIRフィルタのタップ係数は、タップ係数更新回路7において逐次更新アルゴリズムによって求められる。
【0042】
本光通信システムでは、図2に示したように、データフレームの先頭にTSパタンが設定されていないため、TSパタンによるフレーム信号の検出ができない。従って、データフレームの先頭位置が不明となり、データ部に挿入されているPSも検出できない。この状況では、逐次更新アルゴリズムとして参照信号比較等化方式は使用できない。そこで、受信信号の受信当初、タップ係数更新回路7は、逐次更新アルゴリズムとしてCMAやRDE等のブラインド等化方式を用いてデジタルフィルタ6のタップ係数の更新を行う。ブラインド等化方式によるタップ係数更新アルゴリズムは、参照信号比較等化方式に比べて雑音耐性、偏波分離耐性及びDGD耐性等は多少劣るが、IQ平面上において信号点を検出できるレベルにまで補償できる。適応等化回路1で適応等化処理されたX偏波データ及びY偏波データに対して、周波数オフセット補償回路2が更に周波数オフセット補償を行う。キャリア位相再生回路3は、データのIQ軸とキャリア信号のIQ軸の位相同期を行う。なお、適応等化回路1は、疑似フレーム信号を使用して受信信号の受信初期を知ることができる。
【0043】
続いて、復号回路4はフレーム同期及び状態検出を行う。フレーム同期によりX偏波データ及びY偏波データから真のフレーム信号を検出することができる。真のフレーム信号が生成された後、疑似フレーム信号生成回路5は、真のフレーム信号の情報(実際には、疑似フレーム信号との時間的差分)をフィードバック受信し、疑似フレーム信号を真のフレーム信号に修正する。タップ係数更新回路7は、修正された疑似フレーム信号である真のフレーム信号によってフレームの先頭位置を検出し、その先頭位置に基づいてデータ部に定期的に挿入されたPSを検出する。状態検出ではIQスワップの情報を検出する。
【0044】
PSが検出された後、タップ係数更新回路7は、そのPSを参照信号として用いた参照信号比較方式のタップ係数更新アルゴリズムを実行する。PSはデータ部に定期的に挿入されているため、それらによってタップ係数も逐次更新される。この時、タップ係数更新アルゴリズムは、ブラインド等化方式から参照信号比較方式に切り替えられる。PSを用いた参照信号比較方式への切り替えによって、雑音耐性、偏波分離耐性及びDGD耐性等は改善される。これによって、TSパタンを有しない又は極力短くした信号を用いた光通信システムにおいても、雑音耐性、偏波分離耐性及びDGD耐性等を劣化させることなく、偏波分離処理や偏波分散補償処理等の適応等化処理を行うことができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態では、タップ係数更新アルゴリズムとして、PSの検出前はCMA(QPSK時)又はRDE(QAM時)によるブラインド等化方式が使用され、PS検出後はPS信号を参照信号とした参照信号比較方式に切り替えられる場合を示した。しかし、PS検出後は、参照信号比較方式に限定されず、PSを使用したCMAによるブラインド等化方式、又は、PSを使用したCMAによるブラインド等化方式とデータを使用したRDEによるブラインド等化方式の両者によるハイブリッド方式も使用できる。これらの場合も、データを使用したRDEによるブラインド等化方式だけの場合に比べて、雑音耐性、偏波分離耐性及びDGD耐性等を改善することができる。
【0046】
また、上記の実施の形態では、復号回路4で検出した真のフレーム信号の情報は、疑似フレーム信号生成回路5にフィードバックされ、疑似フレーム信号が真のフレーム信号に修正され、タップ係数更新回路7で使用された。しかし、真のフレーム信号の情報を直接にタップ係数更新回路7にフィードバックして疑似フレーム信号を修正して使用することも可能である。
【0047】
適応等化回路1において偏波分離処理及び偏波分散補償処理がなされたX偏波データ及びY偏波データは、次に周波数オフセット補償回路2に供給される。周波数オフセット補償回路2は、X偏波データ及びY偏波データのそれぞれに対して、送信機のキャリアと受信機100のキャリアとの周波数誤差(周波数オフセット)を補償する。これは、IQ平面上のデータに対して、周波数誤差に相当する位相回転と逆の位相回転を施すことで容易に補償できる。この周波数オフセット補償は、位相回転をデータの座標値に複素乗算したり、キャリア位相再生回路3を使用することで実行できる。
【0048】
次に、キャリア位相再生回路3は、X偏波データ及びY偏波データのそれぞれについて受信データの位相とキャリアの位相との同期を行う。具体的には、受信データのIQ平面のI軸とQ軸をキャリアのI軸とQ軸に同期する。これにより、キャリアのIQ平面における受信データの座標値(信号点)を検出することができる。なお、この同期化には、本来第1象限の座標が第2~4象限の座標として検出される等、90度ずつ4つの不確定性が生じる。
【0049】
一般的なキャリア位相再生の方法は特許文献2に開示されている。本文献は、既知パタンとその真値との位相差に基づいて位相同期を行う方法(既知パタン比較型)と、変調位相の数がMの場合に受信信号をM倍することで変調成分を除去して位相同期を行う方法(M乗型)を開示している。既知パタン比較型では、上記の不確定性を解消でき正確な位相同期を行うことができる。M乗型では、不確定性は残るが、既知パタンが未検出の状態で位相同期を行うことができる。
【0050】
本システムでは、受信信号の受信当初は、真のフレーム信号が生成されないため、既知パタンであるPSが検出できず、そのPSを基にした既知パタン比較型のキャリア位相再生はできない。従って、当初は、上述したM乗型の位相同期を行う。この場合、上述した象限の不確定性があっても、4つの象限を1つの象限に重ねるため、象限内における位相同期は可能である。
【0051】
復号回路4で真のフレーム信号が検出された後は、このフレーム信号を基に検出したPSを利用して既知パタン比較型の位相同期を行うことができる。しかし、送信側の変調器及び受信側の受信機100などの実装構成によっては、受信側で観測できる既知パタンにおいて、送信側で挿入した既知パタンに対して符号又はIQ座標の反転が起こりうる。そうなるとPSを利用した既知パタン比較型の位相同期においては問題がある。
【0052】
そこで、後述の復号回路4の状態検出部がIQスワップ情報を得る。IQスワップ情報は、符号やI座標とQ座標が入れ替わっているかを示す情報となる。例えば、送信PSデータとして、(I座標、Q座標)=(+1、+1)(第1象限)、(I座標、Q座標)=(-1、+1)(第2象限)、(I座標、Q座標)=(-1、-1)、(第3象限)、(I座標、Q座標)=(+1、-1)(第4象限)と反時計回りに遷移するPSを送った場合にキャリアのIQスワップが起きている(I軸の正負が逆転している場合)と、受信されると座標値は、(I座標、Q座標)=(+1、+1)(第1象限)、(I座標、Q座標)=(+1、-1)(第4象限)、(I座標、Q座標)=(-1、-1)、(第3象限)、(I座標、Q座標)=(-1、+1)(第2象限)となり、時計回りに遷移する。復号回路4では、真のフレーム位置を検出後、状態検出部が上記IQスワップの情報を得る。
【0053】
このIQスワップ情報を基に、受信側での参照信号の座標値を修正し、既知パタン比較型の位相同期を行う。即ち、キャリア位相再生回路3は、受信信号の受信当初はM乗型の位相同期を行い、真のフレーム信号が検出された後は状態検出からIQスワップ情報を得て、PSの参照座標をIQスワップ情報に基づいて変換をして既知パタン比較型の位相同期を行う。
【0054】
以上より、受信信号を受信した当初において、適応等化回路1はブラインド等化方式で動作し、キャリア位相再生回路3はM乗型位相同期方式で動作する。これにより復号回路4で真のフレーム信号を生成する。従って、フレーム同期を検出する機能を受信信号に設けることなくPSの位置を把握することができる。適応等化回路1は検出したPSを参照信号として精度の良い係数更新方式に移行し、キャリア位相再生回路3は検出したPSを既知信号として精度の良い既知パタン比較型の位相同期方式に移行できる。
【0055】
復号回路4は、X偏波データ及びY偏波データに対してフレーム同期、状態検出及びデータ復号を行う。図6は、復号回路を示す構成図である。復号回路4は、フレーム同期部4a、状態検出部4b、及びデータ復号部4cを有する。
【0056】
フレーム同期部4aは、受信信号の受信当初において、疑似フレーム信号生成回路5において生成された疑似フレーム信号を基に、X偏波データ及びY偏波データに対してフレーム同期を行う。即ち、X偏波データのフレームを示すフレーム信号、及びY偏波データのフレームを示すフレーム信号を生成する。これによって、真のフレーム信号が検出される。真のフレーム信号は、図4に示すように、原則的には、X偏波データを基に生成したフレーム信号である。ただし、X偏波データとY偏波データとの間にスキュー(遅延差)がある場合は、状態検出部4bは、XY偏波間スキュー情報として、その偏波間のスキューをフレーム同期部4aの出力信号から検出する。その遅延差は適応等化回路1にフィードバックされて補償される。補償後は、Y偏波データを基に生成したフレーム信号も真のフレーム信号に近づく。
【0057】
真のフレーム信号と疑似フレーム信号との時間的差分は、フレーム信号情報として疑似フレーム信号生成回路5にフィードバックされ、疑似フレーム信号がフレーム信号情報に基づいて補正され、真のフレーム信号が生成される。実質的には、疑似フレーム信号とフレーム信号情報とが伝送され各回路ではその両者から真のフレーム信号のタイミングが生成される。また、真のフレーム信号からデータ部の先頭位置が検出できるため、送信側でデータに一定のシンボルの間隔で挿入したPSを検出できる。PSは既知信号である。
【0058】
従って、フレーム信号情報が疑似フレーム信号生成回路5へフィードバックされた以降は、前述したように、適応等化回路1では、ブラインド等化方式のタップ係数更新アルゴリズムから、PSを参照信号として用いた参照信号比較方式のタップ係数更新アルゴリズムに切り替えられ、キャリア位相再生回路3では、M乗型の位相同期から、既知パタン比較型の位相同期に切り替えられる。
【0059】
状態検出部4bは、フレーム同期部4aの出力信号から、XY偏波入れ替え情報、XY偏波間スキュー情報を検出し、各偏波のデータ毎にIQスワップ情報を検出する。XY偏波入れ替え情報及びXY偏波間スキュー情報は、適応等化回路1のタップ係数更新回路7へフィードバックされる。IQスワップ情報は、キャリア位相再生回路3へフィードバックされる。これらの情報は、独立して検出及びフィードバックすることができる。必ずしも全てをフィードバックする必要はない。従って、検出する情報によって状態検出部4bを分離することもできる。例えば、XY偏波入れ替え情報及びXY偏波間スキュー情報を検出する第1の部分と、IQスワップ情報を検出する第2の部分に状態検出部4bを分離することができる。
【0060】
XY偏波入れ替え情報は、フレーム同期部4aにおけるフレーム同期の確立時に判定可能である。本来、X偏波データに挿入した同期パタンがY偏波データのレーンで検出されたり、Y偏波データに挿入した同期パタンがX偏波データのレーンで検出された場合に、XY偏波入れ替え情報として、XY偏波が入れ替わっていると判定できる。適応等化回路1は、このXY偏波入れ替え情報をフィードバック受信し、このXY偏波入れ替え情報を基にフィルタのタップ係数を調整することによってXY偏波データの偏波入れ替えを補償する。また、適応等化回路1でタップ係数の入れ替えを実施せずにX偏波側とY偏波側の適応等化入力データ又は出力データそのものを入れ替えることでXY偏波の入れ替えを実施してもよいし、データ復号部4cの出力で入れ替えてもよい。後者の場合は、キャリア位相再生回路3でのXY間の比較する参照信号を入れ替えて位相比較する必要がある。
【0061】
図7は、XY偏波入れ替え動作を説明するための図である。タップ係数を設定する適応等化回路1のデジタルフィルタ6の通常時の入出力の関係は下式で示される。
Xout=Whh・Xin+Wvh・Yin
Yout=Whv・Xin+Wvv・Yin
【0062】
復号回路4からのXY偏波入れ替え情報によってXY偏波データが入れ替わっていると判定された場合、タップ係数を入れ替えることで、通常時にXoutとして出力する信号と、Youtとして出力する信号とを容易に入れ替えることができる。タップ係数の入れ替えは、Whh→Whv、Wvh→Wvv、Whv→Whh、Wvv→Wvhとして行われる。入れ替え時の入出力の関係は下式で示される。
Xout=Whv・Xin+Wvv・Yin
Yout=Whh・Xin+Wvh・Yin
【0063】
ここで、入れ替え時のXoutは通常時のYoutと同じであり、入れ替え時のYoutは通常時のXoutと同じになる。即ち、タップ係数を入れ替えることで、XY偏波データを入れ替えることができる。
【0064】
なお、XY偏波入れ替えは、上述のように入力データ又は出力データそのものを入れ替えることでもできる。しかし、実装の都合上、タップ係数を入れ替える方が遥かに回路上の処理を簡易化できる。これによって、X偏波データ及びY偏波データに対して適応等化回路1の動作をより適正に行うことができる。
【0065】
XY偏波間スキュー情報は、上記フレーム同期におけるフレーム同期の確立時に測定可能である。XY偏波間スキューは、X偏波データから検出したフレーム信号と、Y偏波データから検出したフレーム信号とを比較して求めることができる。適応等化回路1は、XY偏波間スキュー情報をフィードバック受信し、XY偏波間スキュー情報を基にフィルタのタップ係数を調整することによって偏波間スキューを補償する。
【0066】
図8は、XY偏波間スキューの補償動作を説明するための図である。適応等化回路1においてXY偏波間スキューを補償する場合、図5におけるFIRフィルタのタップ係数を図8に示すタップ係数に変更する。図8では、FIR_Aのみが例として示されている。デジタルフィルタ6は、タップ係数の順番をシフトさせることによって出力を進ませたり遅らせたりすることができる。下記のタップ係数の変更は、タップ係数の順番をシフトさせることを意味する。
Whh(n)→Whh(i+Xskew*OverSampleRate)(n)
Wvh(n)→Wvh(i+Xskew*OverSampleRate)(n)
Whv(n)→Whv(i+Yskew*OverSampleRate)(n)
Wvv(n)→Wvv(i+Yskew*OverSampleRate)(n)
添え字iはタップ番号であり、N段のフィルタの場合、i=0~N-1である。nはタップ係数の更新順を示す。XskewはX偏波データのシフト量を示すパラメータである。YskewはY偏波データのシフト量を示すパラメータである。OverSampleRateはオーバーサンプリングレートである。Xskew*OverSampleRateは、X偏波データのオーバーサンプリングにおけるシフト量を示す。Yskew*OverSampleRateは、Y偏波データのオーバーサンプリングにおけるシフト量を示す。例えば、1シンボル当たり2サンプルの場合、1シンボルシフトすることは、タップを2だけずらすことを意味する。図8のFIR_Aの例では、2サンプルシフトする場合を示している。なお、タップ係数の数は有限なため、タップ係数をずらすと値が存在しないタップが発生するが、その場合はゼロ埋めをする。図8の例では、Whh(n)=0、WhhN+1(n)=0となる。XY偏波間スキュー情報から、各フィルタにおいてタップ係数の番号をずらしてXY偏波間スキューの補償を行う。
【0067】
上述したタップ係数への変更によって、適応等化回路1のタップ係数更新動作において、X偏波データとY偏波データとの間のスキューが補償されるため、X偏波データ及びY偏波データに対して適応等化回路1の動作をより適正に行うことができる。
【0068】
IQスワップ情報は、キャリア位相再生回路3におけるキャリア位相同期の不確定性を示す情報である。位相同期が正しく行われない場合、I軸とQ軸における符号反転や、I座標値とQ座標値の入れ替わりが発生する。一般的には期待値との照合によってIQスワップの有無を判定できる。
【0069】
図9及び図10は、IQスワップを説明するための図である。この図においてI軸、Q軸はキャリアの軸を示している。送信PSデータとして、(I座標、Q座標)=(+1、+1)(第1象限)、(I座標、Q座標)=(-1、+1)(第2象限)、(I座標、Q座標)=(-1、-1)(第3象限)、(I座標、Q座標)=(+1、-1)(第4象限)と反時計回りに遷移するPSを送る。図9は、IQスワップが起きていない場合のPSの象限の遷移を示しており、その向きは反時計回りである。
【0070】
図10は、IQスワップが起きている場合のPSの象限の遷移を示しており、その向きは時計回りである。即ち、キャリアのIQスワップが起きている場合(I軸の正負が逆転している場合)、受信されると座標値は、(I座標、Q座標)=(+1、+1)(第1象限)、(I座標、Q座標)=(+1、-1)(第4象限)、(I座標、Q座標)=(-1、-1)(第3象限)、(I座標、Q座標)=(-1、+1)(第2象限)となり、時計回りに遷移する。図10は、例えば、受信においてI軸の正負が反転した場合を示している。復号回路4では、真のフレーム位置を検出後、状態検出部4bが上記IQスワップの情報を得る。
【0071】
これらのIQスワップ情報は、キャリア位相再生回路3へフィードバックされ、キャリア位相再生動作において既知パタン比較型の位相同期方式時に既知パタンを用いて正常に同期させるために使用される。即ち、キャリア位相再生回路3は、これらのIQスワップ情報をフィードバック受信し、IQスワップ情報を基に参照する既知パタンの座標データを調整することによってIQスワップを補償する。具体的には、IQスワップ情報に基づいて、受信側での既知パタンの期待値をI軸又はQ軸上で符号を反転させるか、又は、I座標値とQ座標値との入れ替えを行う。
【0072】
データ復号部4cは、最終的に、X偏波データ及びY偏波データを復号し、X偏波用復号データ及びY偏波復号データをそれぞれ出力する。
【0073】
なお、図3の構成例では、疑似フレーム信号生成回路5は、適応等化回路1の前段に置かれている。ただし、何らかの方法で適応等化回路1がデータ部の先頭の位置やPSの位置を知ることができるならば、疑似フレーム信号生成回路5を適応等化回路1の後段に置くことも可能である。
【0074】
図11は、実施の形態に係る適応等化装置の動作を示すフローチャートである。上述した適応等化装置40の時系列的な動作を説明する。
【0075】
ステップS1:受信信号を受信した当初は、フレーム同期部4aがまだデジタルフィルタ6の出力信号から真のフレーム信号を生成していない。このため、適応等化回路1のタップ係数更新回路7は、CMAやRDEモードのようなブラインド等化方式のタップ係数更新アルゴリズムで動作し、データの振幅値とデータの取りうるべき振幅値との差分が小さくなるようにタップ係数を求める。適応等化回路1は、入力信号に対するフレーム同期機能を有しない。キャリア位相再生回路3は、M乗型モードによって動作し、変調されたデータ信号を一つの象限に重ね合わせ、当該象限においてキャリア信号の位相との差分を補償する。即ち、キャリア位相再生回路3は、デジタルフィルタ6の出力信号をM乗倍することで位相をIQ平面上の一つの象限に重ね合わせた信号の位相と重ね合わせた信号が取るべき位相との差分が小さくなるように位相同期を行う。疑似フレーム信号生成回路5は、疑似フレーム信号を生成し、適応等化回路1、周波数オフセット補償回路2、キャリア位相再生回路3、及び復号回路4へ順次供給する。
【0076】
ステップS2:復号回路4は、差動デコードによってフレーム同期を行う。これにより真のフレーム信号を検出する。同期パタンは16シンボル程度である。検出した真のフレーム信号と、疑似フレーム信号生成回路5で生成した疑似フレーム信号との差分を疑似フレーム信号生成回路5へ通知し疑似フレーム信号を修正する。
【0077】
ステップS3:復号回路4は、XY偏波入れ替え情報及びXY偏波間スキュー情報を検出して適応等化回路1へフィードバックし、IQスワップ情報を検出してキャリア位相再生回路3へフィードバックする。
【0078】
ステップS4:適応等化回路1は、真のフレーム信号を基に受信データからPSを検出し、タップ係数更新に使用する。タップ係数更新アルゴリズムを、RDEモード(ブラインド等化方式)からPS比較モード(参照信号比較等化方式)へ移行する。更に、復号回路4からのXY偏波入れ替え情報及びXY偏波間スキュー情報によってX偏波データ及びY偏波データの適正化を図り、より適切なタップ係数を算出する。即ち、フレーム信号が生成された後において、タップ係数更新回路7は、フレーム信号をフィードバック受信しフレーム信号に基づいてデータから既知信号を検出し、検出された既知信号と既知信号の真値との差分が小さくなるようにタップ係数を更新する。
【0079】
ステップS5:キャリア位相再生回路3は、真のフレーム信号を基に受信データからPSを検出し、PS比較による位相補償動作に使用する。これにより、位相同期方法を、M乗型モードの動作から、PS比較型モード(既知パタン比較型)の動作に移行する。即ち、キャリア位相再生回路3は、フレーム信号をフィードバック受信し、フレーム信号に基づいてデータから既知信号を検出し、検出された既知信号の位相と既知信号の真値の位相との差分が小さくなるように位相同期を行う。
【0080】
以上より、適応等化回路1は、入力信号に対してフレーム同期機能を設けることなく、後段の復号回路4においてフレーム信号を得ることでPSの位置を把握できる。それ以降は、PSを参照信号とした精度の高い係数更新方式に移行できる。また、キャリア位相再生回路3も、検出したPSを既知信号とした高精度な既知パタン比較型の位相同期方式に移行できる。
【符号の説明】
【0081】
1 適応等化回路、3 キャリア位相再生回路、4 復号回路、4a フレーム同期部、4b 状態検出部、5 疑似フレーム信号生成回路、6 デジタルフィルタ、7 タップ係数更新回路、10 受信光モジュール、30 波長分散補償回路、40 適応等化装置、100 受信機
【要約】
【課題】TSパタンを有しない又は極力短くした信号が使用された場合でも耐力の劣化を抑えることができる適応等化回路、適応等化装置、受信機及び適応等化方法を得る。
【解決手段】デジタルフィルタ6が、タップ係数が設定されたフィルタによって、各フレームに複数の既知信号が所定の位置に挿入された少なくとも2つの偏波のデータの偏波変動補償を行う。フレーム同期部4aがデジタルフィルタの出力信号からフレーム信号を生成する前において、タップ係数更新回路7は、データの振幅値とデータの取りうるべき振幅値との差分が小さくなるようにタップ係数を更新する。フレーム信号が生成された後において、タップ係数更新回路7は、フレーム信号をフィードバック受信しフレーム信号に基づいてデータから既知信号を検出し、検出された既知信号と既知信号の真値との差分が小さくなるようにタップ係数を更新する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11