(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】成形体、および、成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/34 20060101AFI20240521BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B29C70/34
B29C70/54
(21)【出願番号】P 2024519896
(86)(22)【出願日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2023046351
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023018077
(32)【優先日】2023-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬佑
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035705(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/031860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/34
B29C 70/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と強化繊維を含むプリプレグの成形体であって、
前記強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、該強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み、
前記領域Bが成形体の表面積の10%以上である、成形体。
【請求項2】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記樹脂は、融点が150℃以上330℃以下であるか、ガラス転移温度が100℃以上の少なくとも一方を満たす、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記成形体が金属膜Cを含み、前記金属膜Cの一部が成形体の表面に存在している、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項5】
前記成形体が着色樹脂膜Dを含み、前記着色樹脂膜Dの一部が成形体の表面に存在している、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項6】
前記プリプレグ中の強化繊維の割合が40~80体積%である、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項7】
前記樹脂の屈折率と前記強化繊維の波長589nmにおける屈折率の差が0.05以上である、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項8】
前記強化繊維Aの領域Bにおける断面積a1と断面積a2の差が5μm
2以上である、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項9】
前記プリプレグを構成する強化繊維が、テーラードファイバープレースメント加工材、および/または、織物を含む、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項10】
前記領域Bが成形体の表面積の20~80%である、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項11】
樹脂と強化繊維を含むプリプレグを2プライ以上重ねて加熱加圧した加熱加圧体を切削加工することを含む、成形体の製造方法であって、
前記切削加工を、前記強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、該強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み前記領域Bが成形体の表面積の10%以上となる様に行う、成形体の製造方法。
【請求項12】
前記切削加工を、5軸加工機を用いて行う、請求項11に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前記切削加工を行う際の切削角度θが、基準面に対し、3~40°である、請求項11または12に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
前記切削加工を行う際の切削温度が、50~100℃である、請求項11
または12に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
前記成形体が請求項1
または2に記載の成形体である、請求項11
または12に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、および、成形体の製造方法に関する。特に、樹脂と強化繊維を含むプリプレグの成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂と強化繊維を含む成形体は、樹脂成形体を強化したものとして開発されてきた。例えば、特許文献1には、一方向に配向された連続繊維と熱可塑性樹脂組成物Bとからなる連続繊維強化熱可塑性樹脂シートを射出成形金型内で三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂組成物Aと一体化して複合成形体を製造する方法であって、前記連続繊維強化熱可塑性樹脂シートが切り込みを有していることを特徴とする複合成形体の製造方法が開示されている。
一方、近年、このような樹脂と強化繊維を含む成形体にも、外観の意匠性を求められることが多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂と強化繊維の成形体に模様を付与する場合、強化繊維の織目や組目、ランダム撒きといった、配置を外観に残す方法が主流であった。特に、西陣織などで複雑、緻密な外観を発現するものはあるが、いずれも模様が連続している。しかしながら、成形体に希少性等を付与する為、強化繊維でさらなる意匠性を施した成形体が求められる。また、意匠性を付与しても、表面に多数の強化繊維が突出するなど、表面が粗いと希少性が劣ってしまう。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、樹脂と強化繊維を含む成形体であって、意匠性に優れ、かつ、表面が滑らかな成形体、および、成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>樹脂と強化繊維を含むプリプレグの成形体であって、
前記強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、前記強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み、
前記領域Bが成形体の表面積の10%以上である、成形体。
<2>前記樹脂が、熱可塑性樹脂を含む、<1>に記載の成形体。
<3>前記樹脂は、融点が150℃以上330℃以下であるか、ガラス転移温度が100℃以上の少なくとも一方を満たす、<1>または<2>に記載の成形体。
<4>前記成形体が金属膜Cを含み、前記金属膜Cの一部が成形体の表面に存在している、<1>~<3>のいずれか1つに記載の成形体。
<5>前記成形体が着色樹脂膜Dを含み、前記着色樹脂膜Dの一部が成形体の表面に存在している、<1>~<4>のいずれか1つに記載の成形体。
<6>前記プリプレグ中の強化繊維の割合が40~80体積%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の成形体。
<7>前記樹脂の屈折率と前記強化繊維の波長589nmにおける屈折率の差が0.05以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の成形体。
<8>前記強化繊維Aの領域Bにおける断面積a1と断面積a2の差が5μm2以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の成形体。
<9>前記プリプレグを構成する強化繊維が、テーラードファイバープレースメント加工材、および/または、織物を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の成形体。
<10>前記領域Bが成形体の表面積の20~80%である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の成形体。
<11>樹脂と強化繊維を含むプリプレグを2プライ以上重ねて加熱加圧した加熱加圧体を切削加工することを含む、成形体の製造方法であって、
前記切削加工を、前記強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、前記強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み前記領域Bが成形体の表面積の10%以上となる様に行う、成形体の製造方法。
<12>前記切削加工を、5軸加工機を用いて行う、<11>に記載の成形体の製造方法。
<13>前記切削加工を行う際の切削角度θが、基準面に対し、3~40°である、<11>または<12>に記載の成形体の製造方法。
<14>前記切削加工を行う際の切削最高温度が、50~100℃である、<11>~<13>のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
<15>前記成形体が<1>~<10>のいずれか1つに記載の成形体である、<11>~<14>のいずれか1つに記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、樹脂と強化繊維を含む成形体であって、意匠性に優れ、かつ、表面が滑らかな成形体、および、成形体の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は本実施形態の成形体の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は本実施形態における断面が成形体の表面に存在している強化繊維A、成形体表面における断面積a1、および、強化繊維Aの平均断面積a2を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は成形体の模様の他の一例の模式図である。
【
図5】
図5は本実施形態における切削角度を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1で成形された成形体の写真である。
【
図7】
図7は、実施例2で成形された成形体の写真である。
【
図8】
図8は、実施例3で成形された成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1~4は概略図または模式図であり、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0009】
本実施形態の成形体は、樹脂と強化繊維を含むプリプレグの成形体であって、前記強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、前記強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み、前記領域Bが成形体の表面積の10%以上であることを特徴とする。このような構成の成形体は、意匠性に優れ、かつ、表面が滑らかである。
【0010】
最初に、
図1~4を参酌して、本実施形態の成形体の製造方法を説明しつつ、成形体の構成について説明する。本実施形態の成形体の製造方法および成形体が
図1~4に拘泥されるものではないことは言うまでもない。
図1は、本実施形態の成形体の製造方法の一例を示す概略図である。
図1(a)において、1は樹脂と強化繊維を含むプリプレグであり、2は他の膜である。
図1(a)において、複数枚のプリプレグ1は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。プリプレグの積層枚数は、所望の成形体のサイズ等によって定められるが、2プライ以上であることが好ましく、25プライ以上であることがより好ましく、また、100プライ以下であることが好ましく、75プライ以下であることがより好ましい。さらに、本実施形態においては、
図1(a)に示すようにプリプレグ1の間に他の膜2を含んでいてもよい。他の膜2は、金属膜Cや着色樹脂層Dであり、得られる成形体にさらに意匠性を付与するものである。他の膜2の枚数は、模様によって適宜定められるが1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。また、他の膜2は、1種のみを用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0011】
次に、
図1(a)で示した材料(1、2)を加熱加圧して、加熱加圧体3を成形する(b)。加熱加圧体は、通常は、直方体状の形状(ブロック状)である。加熱加圧体を成形する際の加熱温度は、樹脂のガラス転移温度+(40~200)℃、または、樹脂の融点+(10~100)℃であることが好ましい。加熱加圧体を成形する際の圧力は、0.1~10MPaであることが好ましい。
加熱加圧体3は、ボイドが極力含まれないように成形することが好ましい。
【0012】
本実施形態においては、加熱加圧体3を切削加工する(
図1(c))ことを含む。加熱加圧体の切削加工は、切削加工機4を回転させながら切削することが好ましい。特に、加熱加圧体3を切削加工する際に、切削角度を調整することにより、切削面の表面で、強化繊維の断面が種々の形状に切削され、美しい模様を呈する。切削加工は、5軸加工機を用いて行うことが好ましい。5軸加工機は、直線軸XYZの3軸に2軸の回転傾斜軸を追加した加工機である。5軸加工機はテーブル型・主軸型・混合型の3つに大きく分類される。なお、
図1(c)に示す5は、切削加工する際の基準面である。切削加工時の基準面は、例えば、テーブル型の5軸加工機で切削した場合、テーブル面であり、主軸型の5軸加工機で切削した場合は、主軸を含む面のうち、得られる成形体の面積が最も広い面とする。混合型の場合は、テーブル面とする。また、上記加工機以外の加工機を用いる場合は、得られる成形体を水平面に置いたときに、最も安定する状態において、前記水平面を基準面とする。
【0013】
本実施形態においては、切削加工を、強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの成形体表面における断面積a1と、強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み前記領域Bが成形体の表面積の10%以上となる様に行う。ここで、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維A、成形体表面における強化繊維Aの断面積a1、強化繊維Aの平均断面積a2について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態の成形体(切削加工された成形体)の一部を示す拡大概略図であって、6は成形体を、Aはその断面が成形体の表面に存在している強化繊維を示している。すなわち、成形体6に含まれるものの、断面が成形体の表面に存在していない強化繊維は、強化繊維Aには該当しない。
上記加熱加圧体を、切削加工をすると、成形体の表面に強化繊維Aの断面が現れる。この切削断面の断面積a1は、角度を持って切削されると、強化繊維Aを繊維長方向に垂直な方向に切断した断面の断面積a2(通常は、強化繊維Aの平均断面積)よりも断面積が大きくなる(a1>a2)。このように強化繊維Aの断面を切削加工することによって、強化繊維Aの断面a1によって、様々な形状の模様を成形体6の表面に付与することができる。このような模様は、射出成形体などの金型成形体では付与できない模様であり、成形体6に希少性という付加価値を付与することが可能になる。
ここで、角度を持って切削とは、切削加工の際に基準面に対し、通常、90°以外の角度で切削されることを意味する。
また、切削加工後に極めて細かい研磨剤を用いて切削表面を磨くと、強化繊維Aが折れずに、かつ、強化繊維Aの断面積a1を大きくできる。研磨剤の粒径としては、D50が0.1μm~2μmのものが例示される。
【0014】
再び
図1に戻り、本実施形態においては、上述の通り、プリプレグ1の間に他の膜2を含んでいてもよい(
図1(a))。他の膜2を含むことにより、
図1(d)に示す切削加工後の成形体6の表面にも、他の膜2に由来する模様も付与することができる。結果として、さらに意匠性に優れた成形体が得られる。
【0015】
本実施形態においては、上述のとおり、成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、前記強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み、領域Bが成形体の表面積の10%以上であることが好ましい。
ここで、領域Bは、以下の方法により決定される。より具体的には、後述する実施例の記載に従って決定される。
まず、成形体6の表面について、成形体の表面積10000μm
2毎に、表面に認められる強化繊維Aの断面積を測定する。このとき、成形体の表面積10000μm
2毎に100本の強化繊維Aの断面積を測定する。測定した強化繊維Aの断面積a1のうち、50%以上が強化繊維Aの平均断面積a2よりも大きい領域を領域Bと認定する。
図1(d)における成形体6においては、切削加工機(図示せず)の基準面5の上に置かれた成形体6のうち、ドーム状となっている部分が領域Bに該当する。領域Bは、通常、角度を持って、切削加工された部分である。
【0016】
領域Bは、成形体の表面積の20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、また、80%であることがより好ましい。これは、成形体は、通常、何らかの他部材と接合ないし結合して用いるものであるから、領域Bは、視認可能な部分のみに設けることが経済的であるためである。また、領域Bの割合を一定以上とすることにより、意匠性をより高めることができる。
また、領域Bにおいては、強化繊維Aの断面のすべての断面積が、強化繊維Aの平均断面積a2よりも大きいことが理想であるが、強化繊維Aの平均断面積a2よりも小さい断面を有する部分があってもよい。本実施形態において、領域Bにおけるa1>a2となる強化繊維Aの割合は、領域Bにおける強化繊維Aの断面の60%以上であることが好ましく、70%以上であることが好ましく、すべての強化繊維Aの断面がa1>a2となる(100%以下である)ことが好ましい。
【0017】
成形体の表面に存在している強化繊維Aの成形体表面における断面積a1は、領域Bに含まれる断面積a1の平均値で、51μm2以上であることが好ましく、55μm2以上であることがより好ましく、60μm2以上であることがさらに好ましく、また、200μm2以下であることが好ましく、100μm2以下であることがより好ましく、70μm2以下であってもよい。
一方、前記強化繊維Aの平均断面積a2は、20μm2以上であることが好ましく、30μm2以上であることがより好ましく、40μm2以上であることがさらに好ましく、また、100μm2以下であることが好ましく、60μm2以下であることがより好ましい。
さらに、領域Bにおける強化繊維Aの断面積a1(平均値)と断面積a2の差が5μm2以上であることが好ましく、7μm2以上であることがより好ましく、10μm2以上であることがより好ましく、また、200μm2以下であることが好ましく、150μm2以下であることがより好ましく、用途等に応じて、100μm2以下、80μm2以下、50μm2以下、20μm2以下であってもよい。
【0018】
図3に本実施形態の成形体の模様の1例の模式図を示す。
図3は、成形体の切削面を基準面に対し、垂直な方向から見た図である。
図3において、6は成形体であり、同心状に広がっている円は、Aは強化繊維A由来の断面2aであり、2は他の膜2由来の断面である。
図3に示すように、切削角度を適宜調整することにより、強化繊維A由来の断面2aと樹脂由来の部分と、他の膜2由来の部分によって、複雑な模様を表現することができる。
図4は本実施形態の成形体の模様の他の例の模式図を示す。
図4は、成形体の切削面を基準面に対し、垂直な方向から見た図である。
図4においては、強化繊維A由来の断面によって、成形体6の2つの同心状の円が描かれている。
【0019】
本実施形態の成形体のサイズは用途に応じて適宜設定することができるが、成形体の体積が、0.1cm3以上であることが好ましく、1cm3以上であることがより好ましく、また、10cm3以下であることが好ましく、5cm3以下であることがより好ましい。
また、本実施形態の成形体の最薄肉部の厚みは、0.05cm以上であることが好ましく、0.1cm以上であることがより好ましく、また、10cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましく、1cm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
次に、切削工程の詳細について説明する。
切削工程は、
図1(c)に示す通り、加熱加圧体3を切削加工する工程であるが、この時の切削角度の平均値は、上記基準面に対し、3°以上であることが好ましく、4°以上であることがより好ましく、6°以上であることがさらに好ましく、8°以上であることが一層好ましく、10°以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形体の表面の模様をより細かく形成することが可能になる。また、上記基準面に対し、切削角度の平均値は、40°以下であることが好ましく、38°以下であることがより好ましく、36°以下であることがさらに好ましく、34°以下であることが一層好ましく、32°以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形体の表面の模様をより鮮やかに形成することが可能になる。
なお、切削角度の平均値は後述する実施例の記載に従って求めることができる。
【0021】
切削温度は、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましく、65℃以上であることが一層好ましく、70℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、切削効率を損なうことなく表面精度を向上させることが可能になる。また、前記切削温度は、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、93℃以下であることがさらに好ましく、91℃以下であることが一層好ましく、88℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、切削時の樹脂の工具への絡みつきをより効果的に抑制できる傾向にある。
ここでの切削温度は、切削加工機の切削部(実際の刃物等の部分)の温度が定常状態になった後の温度を意味する。従って、切削加工機の初期の昇温時および終期の降温時の温度は除く趣旨である。
切削加工は、10~45℃、相対湿度5~50%以下の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0022】
次に、本実施形態で用いるプリプレグおよび加熱加圧体の詳細について説明する。本実施形態で用いるプリプレグは、樹脂と強化繊維を含むプリプレグである限り、公知のプリプレグを用いることができる。
【0023】
本実施形態におけるプリプレグは、樹脂を含む。
樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、両者の混合物であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。本実施形態におけるプリプレグの樹脂の態様の一例は、熱可塑性樹脂を含む態様であり、樹脂の90質量%以上が熱可塑性樹脂である態様である。樹脂の態様の他の一例は、樹脂が熱硬化性樹脂を含む態様であり、樹脂の90質量%以上が熱硬化性樹脂である態様である。
熱可塑性樹脂(さらには、結晶性熱可塑性樹脂)を用いることにより、より高い温度で切削加工が可能になる傾向にある。また、熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化時間が必要で、成形サイクルが長くなる傾向にある。
【0024】
樹脂は、融点が150℃以上330℃以下であるか、ガラス転移温度が100℃以上の少なくとも一方を満たすことが好ましい。融点および/またはガラス転移温度を前記下限値以上とすることにより、切削加工がより容易になる傾向にある。特に、激しく切削加工する場合、摩擦熱が生じやすいため、ガラス転移温度が低いと樹脂が柔らかくなり、切削加工性が劣る場合がある。
また、前記融点および/またはガラス転移温度を前記上限値以下とすることにより、加熱加圧体の成形体の成形性がより容易になる傾向にある。
樹脂(通常は熱可塑性樹脂)の融点は、150℃以上であることが好ましく、180以上であることがより好ましく、また、360℃以下であることが好ましく、345℃以下であることがより好ましく、330℃以下であることがさらに好ましく、310℃以下であることが一層好ましく、290℃以下であることがより一層好ましく、270℃以下であることがさらに一層好ましく、250℃以下であることが特に一層好ましい。特に、融点を有する樹脂(結晶性熱可塑性樹脂)を用いることにより、より高い加工温度で切削加工が可能になる。
樹脂のガラス転移温度は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、また、210℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることがさらに好ましく、185℃以下であることが一層好ましい。
【0025】
樹脂の融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。測定は、示差走査熱量計を用い、樹脂を示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて、昇温速度10℃/分で、結晶性樹脂は融点+40℃まで昇温、非晶性樹脂はガラス転移温度+100℃まで昇温し、ガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)を求める。
示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いる。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、特に定めるものではなく、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;スチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂;等が好ましく例示され、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、および、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0027】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66が挙げられ、ポリアミド66が好ましい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂を含むことが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%が芳香環を含む構成単位であることをいう。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形体の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0028】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することが好ましい。以下、このようなポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは85モル%以上、より一層好ましくは90モル%以上、さらに一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0029】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0030】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0031】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0032】
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の0~100モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~0モル%がメタキシリレンジアミンに由来することが好ましく、0~70モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~30モル%がメタキシリレンジアミンに由来することがより好ましく、0~50モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~50モル%がメタキシリレンジアミンに由来することがさらに好ましく、0~20モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~80モル%がメタキシリレンジアミンに由来することが一層好ましい。
また、本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸および/またはアジピン酸(好ましくはアジピン酸)に由来するものが好ましい。
なお、上記いずれの実施形態においても、ジアミン由来の構成単位の合計が100モル%を超えることは無く、ジカルボン酸由来の構成単位の合計も100モル%を超えることはない。
【0033】
なお、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0034】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリル二レート樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂が例示され、エポキシ樹脂が好ましい。
【0035】
本実施形態で用いるプリプレグには、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で樹脂添加剤を含んでいてもよい。具体的には、樹脂添加剤としては、カップリング剤、反応性希釈剤、溶剤、溶剤以外の反応性希釈剤、硬化促進剤、湿潤剤、粘着付与剤、消泡剤、艶消剤、防錆剤、滑剤、着色剤、酸素捕捉剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤が例示される。これらの合計量は、樹脂の10質量%以下、さらには5質量%以下、特には、3質量%以下であることが好ましい。これらの樹脂添加剤は、通常、樹脂に混合した後、樹脂と共に強化繊維に含浸させることが好ましい。
【0036】
本実施形態で用いるプリプレグは、強化繊維を含む。強化繊維は連続強化繊維であることが好ましい。
強化繊維の形状としては、シート、テープ等と称される平板状強化繊維が挙げられる。本実施形態で用いうる平板状強化繊維の例としては、一方向材(UD材)、織物、編物、不織布、テーラードファイバープレースメント加工材(TFP材、テーラードファイバープレースメント加工された材料を意味する)等が挙げられ、TFP材、および/または、織物を含むことが好ましい。
織物としては、綾織、平織り、すだれ織、朱子織が例示される。
本実施形態で用いる平板状強化繊維においては、1インチ×1インチの面積当たりに存在する強化繊維の本数が1×108本以上であることが好ましく、1×109本以上であることがより好ましく、また、2×1010本以下であることが好ましく、1.7×1010本以下であることがより好ましい。強化繊維の数を多くすることにより、成形体の表面における強化繊維の割合が高くなり、より複雑で、美しい模様を形成することが可能になる。
【0037】
また、上記TFP材、および/または、織物等の平板状強化繊維を製造するに際し、混繊糸を用いてもよい。
混繊糸とは、例えば、連続熱可塑性樹脂繊維と、連続強化繊維とを含み、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維の分散度が70%以上である糸が例示される。このような混繊糸を用いることにより、規則性のある模様をより発現しやすくすることができる。
混繊糸に用いる連続熱可塑性樹脂繊維は、上述のプリプレグに用いられる熱可塑性樹脂を繊維状にしたものが例示され、好ましい樹脂の範囲も同様である。混繊糸に用いる連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維は、表面処理剤および/または集束剤を用いてテープ状にすることが好ましい。混繊糸の詳細は、特開2015-98669号公報、および、国際公開第2020/050156号の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。また、混繊糸の分散度は、国際公開第2020/050156号の段落0073の記載に従って測定される。
【0038】
強化繊維の平均繊維長には特に制限はないが、成形加工性の観点から、好ましくは1cm以上であり、より好ましくは3cm以上であり、また、好ましくは1m以下である。
【0039】
強化繊維の材質としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ボロン繊維、バサルト繊維、セラミック繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維が挙げられる。これらの中でも、高強度を得る観点からは無機繊維が好ましく、軽量でかつ高強度、高弾性率であることからガラス繊維、炭素繊維およびバサルト繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、炭素繊維がさらに好ましい。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。また、リグニンやセルロースなど、植物由来原料の炭素繊維も用いることができる。
【0040】
本実施形態に用いる強化繊維は、処理剤で処理されたものでもよい。処理剤としては、表面処理剤または集束剤が例示される。
上記表面処理剤としては、シランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤としては、ビニル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0041】
上記集束剤としては、例えば、ウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤、アクリル系集束剤、ポリエステル系集束剤、ビニルエステル系集束剤、ポリオレフィン系集束剤、ポリエーテル系集束剤、およびカルボン酸系集束剤等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせた集束剤としては、例えば、ウレタン/エポキシ系集束剤、ウレタン/アクリル系集束剤、ウレタン/カルボン酸系集束剤等が挙げられる。
【0042】
上記の中でも、樹脂との界面接着性を向上させる観点から、強化繊維はウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤およびウレタン/エポキシ系集束剤からなる群から選ばれる1種以上により処理されたものであることが好ましく、エポキシ系集束剤により処理されたものであることがより好ましい。
【0043】
強化繊維として市販品を用いることもできる。強化繊維の市販品としては、例えば東レ(株)製のトレカ糸「T300」、「T300B」、「T400HB」、「T700SC」、「T800SC」、「T800HB」、「T830HB」、「T1000GB」、「T100GC」、「M35JB」、「M40JB」、「M46JB」、「M50JB」、「M55J」、「M55JB」、「M60JB」、「M30SC」、「Z600」の各シリーズ、トレカクロス「CO6142」「CO6151B」、「CO6343」、「CO6343B」、「CO6347B」、「CO6644B」、「CK6244C」、「CK6273C」、「CK6261C」、「UT70」シリーズ、「UM46」シリーズ、「BT70」シリーズ等が挙げられる。
【0044】
本実施形態で用いるプリプレグにおける強化繊維の割合は、40体積%以上であることが好ましく、42体積%以上であることがより好ましく、43体積%以上であることがさらに好ましく、44体積%以上であることが一層好ましく、45体積%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、優れた機械物性と切削時に好ましい温度の維持を両立しやすくなる傾向にある。また、本実施形態で用いるプリプレグにおける強化繊維の割合は、80体積%以下であることが好ましく、78体積%以下であることがより好ましく、76体積%以下であることがさらに好ましく、74体積%以下であることが一層好ましく、72体積%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、よりボイドの少ない成形体が得られ、切削時の強化繊維の脱落をより効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態で用いるプリプレグは、強化繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0045】
本実施形態で用いるプリプレグにおける樹脂と強化繊維の合計量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0046】
本実施形態においては、樹脂の屈折率と強化繊維の波長589nmにおける屈折率の差が0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.07以上であることがさらに好ましく、0.08以上であることが一層好ましく、0.1以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、より鮮やかで美しい模様を発現することが可能になる。また、前記屈折率の差は、例えば、1以下であり、さらには、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下であってもよい。
上記屈折率の差は、樹脂が非晶性樹脂であるときに、特に効果的である。
上記屈折率は、JISK7142:2014に従って測定される。
【0047】
プリプレグの製造は公知の方法に従って行うことができる。例えば、樹脂と必要に応じ添加される樹脂添加剤の混合物を、強化繊維(通常は、強化繊維基材)に含浸させ、樹脂を固化ないし半硬化させることによって製造することができる。
プリプレグには、ボイドが極力含まれない様にすることが好ましい。ボイドが含まれないようにすることにより、より外観に優れた成形体が得られる。
【0048】
本実施形態における加熱加圧体は、上記プリプレグを2プライ以上重ねて加熱加圧した成形体である。本実施形態の成形体は、通常、このような加熱加圧体を切削加工することによって成形される。
加熱加圧体の厚みは、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましく、8mm以上であることが一層好ましく、9mm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、切削温度が安定しやすい傾向にある。また、加熱加圧体の厚みは、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることがさらに好ましく、18mm以下であることが一層好ましく、16mm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、外観に優れる模様をより表現しやすくできる。
本実施形態においては、加熱加圧体の厚みは、すべての部分において同じ厚さであってもよいし、一部に厚い部分や薄い部分があってもよい。本実施形態においては、加熱加圧体の内、切削加工される部分の体積が最も多い部分の加熱加圧体の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0049】
本実施形態の成形体は、他の膜を含み、前記他の膜の一部が成形体の表面に存在していてもよい。他の膜としては、金属膜Cおよび/または着色樹脂層Dが例示される。このような他の膜を設けることにより、成形体の意匠性をより高めることができる。他の膜は、上述のとおり、プリプレグの間に挟んで加熱加圧体を成形し、切削加工することにより、表面に意匠性を付与することができる。
金属膜Cの一例は、金箔である。
着色樹脂膜Dは、染料および/または顔料と樹脂を混ぜ合わせて膜状に成形したものであってもよいし、樹脂膜に染料および/または顔料を用いて着色させたものであってもよい。着色樹脂膜Dのガラス転移温度は、プリプレグに含まれる樹脂のガラス転移温度±20℃であることが好ましい。
着色樹脂膜Dに用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが例示され、ポリエステル樹脂が好ましい。
他の膜の厚さは、特に定めるものではないが、10μm以上であることが好ましく、また、10μm以下であることが好ましい。
他の膜は、設ける場合、プリプレグ2プライに対し1枚以下であることが好ましく、プリプレグ3枚に対し、1枚以下であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の成形体は、意匠性に優れることから、さらには、軽量かつ強度に優れた樹脂の成形体とすることができることから、各種装飾品、自動車内装、航空機内装、携帯電気電子機器、ウエラブル電気電子機器、アクセサリー、時計、メガネ、靴、鞄、ケース、ヘルメット、キッチン用品、家具などに用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0052】
原料
熱可塑性樹脂1:メタキシリレンジアミンとアジピン酸から合成されたポリアミド樹脂(MXD6)、三菱ガス化学社製、品番:6001、融点:237℃、ガラス転移温度:85℃、波長589nmにおける屈折率:1.58
熱可塑性樹脂2:ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、品番:S-3000FN、ガラス転移温度:146℃、波長589nmにおける屈折率:1.59
熱可塑性樹脂3:熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、国際公開第2016/147996号の段落0128の実施例1記載に従って熱可塑性ポリイミド樹脂を合成した。得られた樹脂の物性は次の通りだった。融点:323℃、ガラス転移温度:185℃、波長589nmにおける屈折率:1.52
熱可塑性樹脂4:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、Victrex社製、品番:150G、融点:343℃、波長589nmにおける屈折率:1.53
熱硬化性樹脂1:エポキシ樹脂、日東電工社製、品番:NT-8500P、ガラス転移温度:130℃、波長589nmにおける屈折率:1.56
【0053】
強化繊維1(CF1、TFPのトウ製造用):炭素繊維、東洋レーヨン社製、品番:T700SC-12000、波長589nmにおける屈折率:2.01
強化繊維2(CF2、綾織):炭素繊維、東洋レーヨン社製、品番:CO6347B 3K、波長589nmにおける屈折率:2.01
強化繊維3(CF3、すだれ織):炭素繊維、三菱ケミカル社製、品番:TRK979PQRW、波長589nmにおける屈折率:2.01
【0054】
着色樹脂膜1:ポリエステルフィルム粘着テープ、寺岡製作所社製、品番:No.631S #25 赤
【0055】
強化繊維の平均断面積a2は、強化繊維の断面の箇所100か所について、断面積を測定し、その上位10%の値と下位10%の値を除いたものの平均値とした。単位は、μm2で示した。
【0056】
実施例1
<基材プリプレグの製造(強化繊維基材(TFP))>
上記熱可塑性樹脂1と強化繊維1を用い、特開2015-98669号公報の段落0089と段落0090の記載に従って、Vfが46%になるように混繊糸を作製した。
また、熱可塑性樹脂1を溶融押出し、50μm厚のフィルムを作製した。フィルム上に、Tailored Fiber Placement装置(TISM社製)を用いて、上記で得られた混繊糸を一方向に整列させて配置することでプリプレグを得た。配置の際の止め糸に、特開2015-98669号公報の段落0089に記載の方法で得た熱可塑性樹脂1のマルチフィラメントを用いた。
【0057】
<加熱加圧体の成形体の製造>
上記で得られたプリプレグを0°/90°と交互に、目的の厚みになる枚数積層し、金型内で熱プレス成形して切削前の加熱加圧体を製造した。プレス条件は、熱可塑性樹脂1は最高温度260℃、プレス圧力3.0MPa、熱可塑性樹脂2は最高温度280℃、プレス圧力3.0MPa、熱可塑性樹脂3は345℃、プレス圧力3.0MPa、熱可塑性樹脂4は380℃、プレス圧力3.0MPa、熱硬化性樹脂1は130℃、圧力0.1MPaで成形とした。ここで0°とは経糸の方向を意味する。
【0058】
<切削加工の方法>
上記で得られた加熱加圧体について、切削加工機として、5軸加工機(日立精工社製、品番:2MF-V)を用い、表1または表2に示す、切削角度、切削温度で、切削加工を行った。切削加工機の使用雰囲気は、23℃で、相対湿度30%であった。切削面積の合計は2500mm2であり、5軸加工機の回転速度は645rpmとした。
切削角度θは、5軸加工機を表1に示す通り設定した。
【0059】
切削角度θの定義を説明するための概略図を
図5に示す。
図5(a)は基準面5(テーブル面)を下方向としたときに、加熱加圧体3を真横から見た図である。
図5(b)は、基準面5を下方向としたときに、
図5(a)から90°向きを加熱加圧体3を変えて見た図である。
図5(c)は加熱加圧体3を真上から見た図(基準面と対向する方向から見た図)である。
図5において、加熱加圧体3のうち、斜線部が切削される部分であり、その他の余の部分が成形体6として残る部分である。
図5(a)~(c)における点p
1、p
2、p
3をもとに、θ
1、θ
2を算出し、平均値を切削角度θとした。
【0060】
<領域Bの割合の測定>
得られた切削後の成形体の表面について、表面に認められる強化繊維の断面積を測定した。測定に際しては、成形体の表面積10000μm2毎に100本の強化繊維の断面積を測定した。
前記測定した強化繊維の断面積a1のうち、50%以上が強化繊維の平均断面積a2よりも大きい領域を領域Bと認定した。領域Bにおける断面積a1の平均値を算出した。
また、成形体の表面積に対する領域Bの面積の割合を算出した(単位:%)。
【0061】
<意匠性>
得られた成形体の切削面について、目視により意匠性を評価した。評価は、模様の鮮明性と精巧さを総合的に評価することとし、実施例8をB(標準)とし、実施例8よりも鮮明・精巧なものをA、実施例8よりは不鮮明・不精巧なものをCとして評価した。また、模様が無いのはDとした。評価に際し、専門家10人が行い、多数決で判断した。
【0062】
<加工性>
上記切削加工の際の加工のしやすさについて評価した。
A:良い
B:上記AおよびC以外(加工はできるが、エンドミルに樹脂が絡みやすい等)
C:加工ができない
【0063】
<成形サイクル>
切削加工に要した時間を測定した。切削加工に要した時間が短いほど、成形サイクルに優れている。
A:1時間未満
B:1時間以上3時間未満
C:3時間以上
【0064】
実施例2
表1に示す熱可塑性樹脂を用い、融点+30℃にて、押出成形機を用いて表1に示すフィルムを得た。これを強化繊維2と積層し、5ply毎に1枚の着色樹脂膜1を挟み、熱プレス成形することでプリプレグを得た。他は、実施例1と同様に行った。
【0065】
実施例3
表1に示す熱可塑性樹脂を用い、融点+30℃にて、押出成形機を用いて表1に示すフィルムを得た。これを強化繊維3と積層し、5ply毎に1枚の着色樹脂膜1を挟み、熱プレス成形することでプリプレグを得た。他は、実施例1と同様に行った。
【0066】
実施例4
実施例1において、表1に示す条件を変更した以外は同様に行った。
【0067】
実施例5
実施例1において、表1に示す条件を変更した以外は同様に行った。
【0068】
実施例6
実施例1において、表2に示す条件を変更した以外は同様に行った。
【0069】
実施例7
熱硬化性樹脂1を、強化繊維2に適量ハンドレイアップ法で40℃で含浸させることで、プリプレグを得た。得られたプリプレグを用い、かつ、表2に示す条件を変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0070】
実施例8
実施例1において、表2に示す条件を変更した以外は同様に行った。
【0071】
実施例9
実施例1において、表2に示す条件を変更した以外は同様に行った。
【0072】
比較例1
実施例1において、得られる成形体を直接成形できる金型を作製した。プリプレグを金型の寸法に合わせて切り出して配置し、260℃、プレス圧力3.0MPaで成形した。切削加工を施すことなく、目的形状の成形体を得た。
領域Bにおける断面積a1の平均値は、加熱加圧体の両端の強化繊維Aの割合となる。
【0073】
結果を下記表1および表2に示す。実施例1~3については、切削加工後の写真を
図6~8にそれぞれ示す。
【0074】
【0075】
【0076】
上記結果から明らかなとおり、本発明では、樹脂と強化繊維を含む成形体であって、意匠性に優れ、かつ、表面が滑らかな成形体が得られた。さらに加工性にも優れていた。さらに、成形サイクルにも優れていた。
【符号の説明】
【0077】
1 プリプレグ
2 その他の膜
3 加熱加圧体
4 切削加工機
5 基準面
6 成形体
【要約】
成形体、および、成形体の製造方法の提供。樹脂と強化繊維を含むプリプレグの成形体であって、強化繊維のうち、その断面が成形体の表面に存在している強化繊維Aの、成形体表面における断面積a1と、強化繊維Aの平均断面積a2を比較したとき、a1>a2となる強化繊維Aが50%以上を占める領域Bを含み、領域Bが成形体の表面積の10%以上である、成形体。