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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】燃料液滴微小化装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 35/10 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
F02M35/10 311Z
F02M35/10 101E
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019153256
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021032155
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】517110553
【氏名又は名称】斎藤 文修
(73)【特許権者】
【識別番号】519007743
【氏名又は名称】池田 時広
(74)【代理人】
【識別番号】100097629
【弁理士】
【氏名又は名称】竹村 壽
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 文修
(72)【発明者】
【氏名】池田 時広
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-039385(JP,U)
【文献】特開2002-174160(JP,A)
【文献】特開昭57-035126(JP,A)
【文献】特開昭54-124118(JP,A)
【文献】特開2008-133786(JP,A)
【文献】特開昭61-104156(JP,A)
【文献】特開平05-321778(JP,A)
【文献】特開2004-301099(JP,A)
【文献】特開昭55-096356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給される燃料液滴を細分化する燃料液滴微小化装置であって、燃料噴射装置から噴出された前記燃料液滴と空気との混合気を前記内燃機関に供給する吸気管内にあって、前記燃料液滴微小化装置が前記吸気管内に前記燃料液滴を噴出する噴出口と前記混合気が前記内燃機関に送出される前記吸気管の端部との間の位置に設置され、前記燃料液滴微小化装置は一本若しくは複数本の線状体、又は、メッシュ状体の金属あるいは半導体からなる粉砕飛散体を有し、前記燃料液滴が前記粉砕飛散体に衝突し、細分化されて前記内燃機関に供給されることを特徴とし、前記粉砕飛散体の電位が前記吸気管の電位より高く設定されていることを特徴とする燃料液滴微小化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関などに用いられる気化器もしくは燃料噴射装置から噴射された燃料液滴を微小化する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の熱効率を向上させるためには、空気の量をできるだけ多く燃焼室に送り込むことが必要である。そのため、燃料の占める体積割合が小さくなるように、燃料は液体の状態で燃焼室に送り込まれる。現行の気化器(キャブレタ)あるいは間接噴射式噴射器(インジェクタ)を用いた内燃機関では、噴出した燃料は吸気管あるいは燃焼室で気体分子や器壁と衝突して粉砕され、微小な液滴となるように設計されている。燃焼室中の混合気に含まれる気化した燃料と燃料液滴は、点火によって生じる燃焼波の伝播によって温度が発火点に達すると燃焼する(非特許文献1)。
【0003】
径の小さな液滴では、単位体積当たりの表面積(比表面積)が大きいので外部から効率よく熱を受け取ることができ、酸素分子との接触面積が大きく化学反応を起こしやすいので燃焼波の進行速度が速くなり、燃焼室における燃焼効率が高くなると考えられる。しかし、回転数が高くなると燃料の微小液滴化と気化の時間が短くなり、燃焼しないで排出される燃料の量が増加して期待されるほどのパワーとトルクが得られない。さらに気化器や間接式燃料噴射装置から噴射される燃料液滴のサイズの分布は広がりを持っており、噴射ごとに液滴のサイズに揺らぎが存在するので出力と回転には揺らぎが生じる。燃料液滴の大きさについては、まだまだ研究・改良の余地があるように思われる。
【0004】
発明者等は、噴射装置から噴射される際に送液管や噴射管との摩擦によって、燃料液体が帯電(流動帯電)することを発見した(特願2019-1495号参照)。帯電した燃料液体では、電荷と誘電分極した分子の間に働くクーロン引力のために、帯電していない状態に比べて凝集力が大きくなる(非特許文献2)。このため帯電した燃料は衝突によって粉砕され難く、またシリンダ中でも気化し難いと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Advanced engine technology, Heintz Heisler, 2009, Butterworth-Heinemann
【文献】J. N. イスラエルアチェビリ、分子間力と表面力第2版 1996年 朝倉書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の高い熱効率と大きなパワー・トルクを実現するためには、噴射装置から噴射される燃料液滴を速やかに微細化し、シリンダ中で容易に気化できるようにして燃焼効率を高くする必要がある。
本発明は、流動帯電の影響を抑えて燃料液体を効率よく微小な液滴とし、出力の増加と安定化を実現する燃料液滴の微小化装置を提供する。燃料の燃焼割合が大きくなると燃費が向上するとともに、排気ガス中の炭化水素系成分が減少するので大気汚染と温室ガス効果の抑制も期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の燃料液滴微小化装置の一態様は、内燃機関に供給される燃料液滴を細分化する燃料液滴微小化装置であって、燃料噴射装置から噴出された前記燃料液滴と空気との混合気を前記内燃機関に供給する吸気管内にあって、前記燃料液滴微小化装置が前記吸気管内に前記燃料液滴を噴出する噴出口と前記混合気が前記内燃機関に送出される前記吸気管の端部との間の位置に設置され、前記燃料液滴微小化装置は一本若しくは複数本の線状体、又は、メッシュ状体の金属あるいは半導体からなる粉砕飛散体を有し、前記燃料液滴が前記粉砕飛散体に衝突し、細分化されて前記内燃機関に供給されることを特徴とし、前記粉砕飛散体の電位が前記吸気管の電位より高く設定されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、線状、リボン状もしくはメッシュ状シートなどの粉砕飛散体との衝突による衝撃で噴射された燃料液体を粉砕して細分化することが出来る。また、噴射された燃料液体を導体もしくは半導体と衝突させることによって、帯電した燃料液体中の電子を導体又は半導体に通して漏逸させることができる。また、導体又は半導体と、燃料噴射装置を搭載する車体フレーム、エンジン、気化器もしくは燃料噴射装置とを導通させることによって、衝突によって帯電しても電位の降下が大きくならないようにすることが出来る。
【0009】
燃料液滴が粉砕飛散体である導体又は半導体と衝突すると帯電した電子の一部は導体を通して逸漏するので、電子と誘電分極した燃料分子との間に働くクーロン引力は小さくなる。その結果、液滴の凝集力が減少し、気体分子との衝突による液滴の粉砕・微細化が容易になる。
【0010】
帯電した液滴が衝突すると、絶縁した導体では電子が蓄積して負に帯電する。この結果、負に帯電した燃料液滴と導体との間にクーロン斥力が働き、液滴と導体の衝突確率が小さくなると考えられる。導体を外部の導体、例えば車台やフレームと導通させて電気容量を大きくすることによってクーロン斥力の発生を抑制することができる。
燃料液体を微小液滴にすると、単位体積あるいは単位質量当たりの面積(比表面積)が大きくなるので、燃焼効率が高くなる。微小化された液体燃料が爆発的に燃焼することはよく知られている。固体の場合でも、粉砕された粒子が空気中に広がった状態で点火されると爆発が起きることは、炭坑や穀物製粉工場における粉塵爆発として知られている。
【0011】
内燃機関の出力の安定性は、その性能の重要な要素であり、特に自動車のように内燃機関に掛かる負荷が変動する場合には、走行の安定性さらに快適さを決定する。燃料噴射装置から噴射される個々の液滴の量(直径)は分布の広がりを持っており、その広がりの中で噴射ごとの液滴の量の分布は揺らいでいると考えられる。燃料液滴を本発明の燃料液滴微小化装置で粉砕すると、液滴の数が増加して液滴一個当たりの量が減少するので分布が変化する(図1参照)。すなわち、噴射された液滴の分布(破線で示す)は、粉砕後の液滴の分布(実線で示す)へと変化する。噴射ごとの個々の液滴量の揺らぎの幅は、分布の半値全幅(FWHM)程度に納まると考えてよいであろう。したがって液滴を微小化するほど、液滴の量の揺らぎの幅が小さくなる。燃焼波の進行は個々の液滴の量の分布に依存するので、分布の揺らぎが小さいほど燃焼速度は一定となり、揺らぎの小さな安定した出力が得られると考えられる。図1は、この燃料液滴微小化装置によって燃料液滴の直径の揺らぎの幅が小さくなることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る液滴直径の分布の変化を示す特性図。
図2】実施例に係る燃料液滴微小化装置の断面図及びタングステン線を固定する固定枠の平面図。
図3】金属線(タングステン線)固定枠の電位変化を示す特性図。
図4】エンジン音の周期を決めるための特性図。
図5】エンジン音波形(中回転域)を示す特性図。
図6】エンジン音波形(高回転域)を示す特性図。
図7】燃焼行程の周波数スペクトル(中回転域)を示す特性図。
図8】燃焼行程の周波数スペクトル(高回転域)を示す特性図。
図9】実施例に係る燃料液滴微小化装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
燃料の燃焼効率を高くして燃焼割合を大きくするには、燃焼室に十分な酸素と燃料を短時間の間に送り込む必要がある。燃料と空気を燃焼室に送り込む吸気管中に、前記気化器もしくは前記燃料噴射装置の噴出口から噴出された燃料を衝突させて液滴を微小化する粉砕飛散体を設置すると、吸気管のコンダクタンスが低下する。燃料液滴と粉砕飛散体の高い衝突確率の実現と吸気管の大きなコンダクタンスの実現はトレードオフの関係にある。本発明では、粉砕飛散体の形状と位置を工夫することによってこの問題を解決する。
粉砕飛散体としては、材料として金属、半導体、ポリマー、セラミックス、ガラスなどが用いられ、線、メッシュ状シート、リボンなどの形状を有している。ポリマーの表面を金属で被覆した形状のものも用いることができる。
液滴を衝突させる粉砕飛散体として、線状、リボン状あるいはメッシュおよび型抜きあるいはレーザー加工などによるメッシュ状シートを用いると吸気管のコンダクタンスの低下を小さくできる。衝突相手の材料には、電荷が蓄積しないように電気伝導率の大きな物質が望ましい。また、熱伝導率の高い物質が望ましい。燃料液体が衝突して燃料の一部が気化すると、潜熱が奪われて金属線などの温度が低下し、吸着した燃料液滴の脱離が遅れる可能性がある。また、風速数十メートルの中で液滴が衝突しても破断して断片が燃焼室に入ることのないように、十分な強度を持つ材料と形状を選択する必要がある。
【0014】
先に述べた本発明者らの特許出願(特願2019-1495号)には、噴射口の静電容量を大きくして流動帯電による電位上昇を小さくすることを特徴とする微小液滴噴射装置が開示されているが、この噴射装置には、本発明で用いられる線状、リボン状あるいはメッシュおよび型抜きあるいはレーザー加工などによるメッシュ状シートなどの粉砕飛散体が用いられていない。この出願(特願2019-1495号)の実施例では、1回の吸気行程の間に3.5 mm3~6.9 mm3の燃料が平均16個の液滴に分割されて放出される。この液滴を球形とすると、直径は1.8 mm~2.4 mmとなる。したがって金属線の間隔は2mm程度、メッシュの目の粗さは13 mesh/inch程度で効果が期待できる。コンダクタンスの低下を小さくするために、吸気管の断面のすべて覆うのではなく噴射口の前方下流部の一部の断面を覆うようにしてもよい。コンダクタンスの低下が問題になる場合には、吸気管の径を大きくして短時間で十分な量の空気を燃焼室に供給する方法も可能である。
以下、実施例を参照して発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0015】
図2(a)は、導体として用いる金属線(タングステン線)を固定する銅製固定枠、図2(b)は、固定枠を取り付けた燃料液滴微小化装置の第1の例、図9は、一方が接地され他方が固定枠に接続された電源(乾電池)を有する燃料液滴微小化装置の第2の例である。図2(a)に示す銅製固定枠(銅リング)には、直径0.4 mmのタングステン線を5本2.4 mm間隔ですだれ状に張り、この固定枠を吸気管中、噴射管(噴射口)の4 cm下流に設置して燃料液滴微小化装置とする。銅リングの直径は、吸気管と等しい33 mm、幅は2 mmである。タングステン線を同じ直径のSUS16線と比較すると、引張り強度は3700 N/mm2と6倍以上、電気抵抗は4.9×10-8 Ωmと1/4以下、熱伝導率は177/ W/mTと10倍以上である。
【0016】
次の4つの状態に対し、エンジン音を測定した。
(1) 燃料液滴微小化装置なしで、気化器とエンジンを絶縁した状態
(2) 燃料液滴微小化装置なしで、気化器とエンジンを接地した状態
(3) 燃料液滴微小化装置を設置し、これを気化器とエンジンとともに接地した状態
(4) 燃料液滴微小化装置を設置し、接地した気化器とエンジンよりも電位を9 V上げた状態
【0017】
燃料液滴微小化装置の電位測定はエンジン音の測定と同時に、気化器とエンジンをそれぞれ絶縁した状態で行った。オシロスコープのメモリーサイズの制約から、サンプリングレートを小さくしなければならないので、同時測定の場合には周波数分解能が低くなる。同時測定のデータは、電位変化の周期とエンジン音の周期の一致を確認するとともに、電位変化から吸気行程の開始を示す時刻を見積り、その時の波形から吸気行程のおよその開始時刻を見積もるために利用した。周波数スペクトルの解析は、エンジン音を単独で測定したデータに対し行った。測定に使用したオシロスコープは PicoScope 6 5444B, Pico Technologyで、コンデンサマイクロフォン(EMM-6, Dayton Audio)を使用した。電位測定はパッシヴプローブ(TA045, Pico Technology)を燃料液滴微小化装置に接続して行った。
【0018】
燃料液滴の微小化装置の絶縁状態における接地電位の測定の結果を図3に示す。図3は、縦軸が電圧(Voltage(V))であり、横軸が経過時間(Time(ms))である。電位が周期的に降下する様子が明らかである。電位降下の周期は、同時に測定したエンジン音の周期19.98 msと等しい。周期から求めたエンジンの回転数は6000 rpmである。電位の降下は、負に帯電した燃料液滴が衝突し、電子がタングステン線に移動したためと考えられる。電位降下の時間の幅は、ほぼ吸気行程の時間幅である。
【0019】
音の解析では、最初に時間の関数としての音圧(マイクロフォンによって電圧に変換されている)の波形の特徴的な5つのピークの時間から周期を求めた。図4は、(3) 燃料液滴微小化装置を搭載して気化器とエンジンとともに接地した状態の波形を示している。吸気行程の開始時刻と周期を仮定してフィッティングした小区間も一緒に図に示している。図4は、縦軸が電圧(Voltage(mV))であり、横軸が経過時間(Time(ms))である。図の周期は8.19 ms (14700 rpm)である。時間の関数としての音圧のデータ(波形スペクトル)とともに、波形スペクトルをフーリエ変換することによって周波数の関数としてのパワー(周波数スペクトル)を求め、測定結果を比較・検討した。エンジン音のパワーの源泉は燃料の燃焼によって放出されるエネルギーなので、パワーの大きさと燃焼エネルギーには正の相関がある。したがってパワーが大きい場合には、燃焼量が多く大きな燃焼エネルギーが放出さたと考えてよい。吸気・圧縮・燃焼・排気の各行程の周波数スペクトルは次のように求める。まず、4行程(サイクル)の4周期分について、各行程の時間幅は等しいものとして各1周期分を4分割して16の小区間を作る。4分割の順にa、b、c、dとして4周期まで1~4の添え字番号を付すと、吸気行程はa、a2、3、、圧縮行程はb、b2、3、の4小区間と指定される。燃焼行程、排気行程も同様に指定する。図4には4周期分の各小区間を波形の上の階段状に並べた横棒で示してある。周波数スペクトルは各行程の4小区間(吸気行程ではa、a2、3、)を連続した区間とし、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程に対してフィッティングを同時に行った。4周期分の4小区間を連続としてフィッティングしたのは、分析区間長を長くして周波数分解能を高めるためである。特徴的な波形ピークの間隔から周期は求まるが、吸気行程の開始時刻は不明である。そこで時刻を順次ずらしてフィッティングし、次の2条件を満たす結果を求める周波数スペクトルとした。
(1) 吸気弁と排気弁が閉じ、新たなエネルギーの発生がないので、圧縮行程のパワーが最小となる。
(2) 成分周波数の変化があるとすれば、各行程の変わり目で起きる。
【0020】
測定波形を示す図5及び図6は、縦軸が電圧(Voltage(mV))であり、横軸が経過時間(Time(ms))である。図には、確定した吸気行程の開始時刻と周期を用いてフィッティングした小区間も示してある。図5は回転数6000 rpm~9000 rpmの(1)~(4)の4つの場合の波形である。(1)(図5(a))は、燃料液滴微小化装置の無い、気化器とエンジンをそれぞれ絶縁した場合で、周期は18.9ms(6300rpm)である。この状態の波形の振幅は、(2)(図5(b))のように、エンジンと気化器(キャブレタ)を導通すると著しく大きくなる(周期 17.9(6700rpm))。さらに、図5(c)(周期 14.64ms(8200rpm))の燃料液滴微小化装置を設置し、これを気化器とエンジンと導通した(3)の場合、さらに、図5(d)(周期 13.31ms(9000rpm))の燃料液滴微小化装置の電位を9 V高くした(4)の場合と振幅はさらに大きくなる。振幅の増加は音のエネルギーの増加を示している。
【0021】
図6は、回転数およそ14000 rpmの(1)~(4)の4つの場合の波形である。図6(a)は、(1)燃料液滴微小化装置の無い、気化器とエンジンを絶縁した場合であり、周期は8.18ms(14700rpm)である。図6(b)は、(2)燃料液滴微小化装置の無い、エンジンと気化器(キャブレタ)を導通した場合である(周期 8.32(14400rpm))。さらに、図6(c)は、(3)燃料液滴微小化装置を設置し、これを気化器とエンジンと導通した場合である(周期 8.16ms(14700rpm))。図6(d)は、(4)燃料液滴微小化装置を設置し、装置の電位を気化器とエンジンとエンジンよりも9V高くした場合である(周期 8.18ms(14700rpm))。図6(a)から図6(d)へと振幅が大きくなる傾向は図5と同様で、増加の程度はさらに顕著である。さらに、状態(1)では一部にしか認められない各小区間の特徴的な波形が(図6(a))、状態(2)~(4)では明瞭に認められる(図6(b)、(c)、(d))。各小区間を特徴づける波形の出現は、燃焼が周期的・規則的に起きていること、つまり燃焼が安定化したことを示すと考えられる。燃焼の安定化は出力の安定性、したがって走行の快適さをもたらすものである。測定はエンジンに特に負荷をかけない状態で行った。自動車の走行中は、エンジンに加わる負荷は絶えず変動する。出力の変動に負荷の変動が加わると出力の揺らぎはさらに増幅され、走行の安定性・快適さが阻害されると考えられる。
【0022】
波形スペクトルの振幅が大きくなることから音のエネルギーの増加を知ることができる。音のエネルギーの増加が燃焼行程における発生エネルギーの増加によるものであることを直接に示すために、燃焼行程の周波数スペクトルを求めて比較する。フィッティングで求めた燃焼行程の周波数スペクトルを図7に示す。横軸は周波数(Frequency(Hz)で縦軸はパワー(Power)である。図7(a)は、(1)燃料液滴微小化装置の無い、気化器とエンジンを絶縁した場合である(周期18.9ms(6300rpm))。図7(b)は、(2)燃料液滴微小化装置の無い、エンジンと気化器(キャブレタ)を導通した場合である(周期 17.9(6700rpm))。図7(c)は、(3)燃料液滴微小化装置を設置し、これを気化器とエンジンと導通した場合であり、周期は14.46ms(8200rpm)である。さらに、図7(d)は、(4)燃料液滴微小化装置を設置し、装置の電位を気化器とエンジンよりも9 V高くした場合である(周期 13.31ms(9000rpm))。図7(a)から図7(c)へと、周波数300Hzほどのパワーが3倍以上増加する。図7(d)では周波数300Hzのパワーはわずかに減少するが、周波数600Hzほどのパワーが周波数300Hzのパワーよりも大きくなっている。これらのパワーの増加は燃焼行程において発生するエネルギーの増加、つまり燃料の燃焼割合の増加を示すものである。
【0023】
図8は、エンジンのさらに高い回転域の燃焼行程の周波数スペクトルである。
図8(a)は、(1)燃料液滴微小化装置の無い、気化器とエンジンを絶縁した場合であり、周期は8.18ms(14700rpm)である。図8(b)は、(2)燃料液滴微小化装置の無い、エンジンと気化器(キャブレタ)を導通した場合である(周期8.32(14400rpm))。図8(c)は、(3)燃料液滴微小化装置を設置し、これを気化器とエンジンと導通した場合である(周期8.16ms(14700rpm))。さらに図8(d)は、(4)燃料液滴微小化装置を設置し、装置の電位を気化器とエンジンよりも9 V高くした場合である(周期 8.18ms(14700rpm))。周波数900Hzほどのパワーが、図8(a)から順に増加し、図8(d)では4倍にまでなっている。エンジンの高い回転域においても、燃焼行程においてもエネルギーの発生の増加は明らかである。
【0024】
求められたパワーは4小区間の短時間の時間平均であり、時間によって変動する可能性がある。そこで時間幅をなるべく広く取って比較する ことを考えて、測定データ(200ms)の3区間(回転数6000 rpm~ 9000 rpmの データ 、一部重なりを含む)ないし4区間(回転数 14000 rpmのデータ)について周波数スペクトルを求めた 。いずれにおいても、状態(1)から状態 (4)へとパワーが増加する。本発明によって、噴出した燃料液滴が粉砕・細 化され、燃焼行程における燃焼割合が増加して大きな出力が得られること、さらに出力が 安定し、走行の快適さを実現できることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9