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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】張出ユニット及びユニット建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/348 20060101AFI20240521BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
E04B1/348 N
E04B1/348 H
E04B1/00 501A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019210014
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021080766
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔太
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-200175(JP,A)
【文献】特開平05-214772(JP,A)
【文献】特開2017-066624(JP,A)
【文献】特開昭64-043635(JP,A)
【文献】特開平11-022020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/348
E04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階建てのユニット建物の上階部分を構成する建物ユニットに連結され、前記上階部分から張り出す張出部を構成すると共に、四隅に立設された4本の柱を備える矩形箱状の張出ユニットであって、
前記建物ユニットに連結されるとともに長辺側の構面を構成する一方の桁面に配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とがピン接合により接合され、
前記一方の桁面の両側に配置されるとともに短辺側の構面を構成する一対の妻面において、該一対の妻面にそれぞれ配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とが剛接合により接合され、
前記張出ユニットは、前記一方の桁面が前記建物ユニットの長辺側の構面を構成する桁面に向かい合って配置されるとともに、前記一方の桁面の天井部及び床部の仕口面が、向かい合って配置された前記建物ユニットの天井部及び床部の仕口面に複数の連結部を介して連結されており、
前記複数の連結部において、前記張出ユニットの前記一方の桁面は前記建物ユニットの前記桁面に対して前記張出ユニットの桁方向の軸周りに回転可能に構成されており、
前記ユニット建物の外周に面した他方の桁面において、該他方の桁面に配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とが剛接合により接合されている、
張出ユニット。
【請求項2】
前記梁は、縦断面視で縦方向に延びるウエブ部と、ウエブ部の上端部及び下端部の少なくとも一方から直角に折れ曲がり横方向に延びるフランジ部とを含んで構成されており、
前記ピン接合は、前記梁の前記ウエブ部を前記柱に溶接することにより構成され、
前記剛接合は、前記梁の前記ウエブ部及びフランジ部を前記柱に溶接することにより構成されている、
請求項1に記載の張出ユニット。
【請求項3】
複数階建てとされた建物本体を備えるユニット建物であって、
前記建物本体の上階部分を構成し、四隅に立設された4本の柱を備える矩形箱状に形成された建物ユニットと、
請求項1又は請求項2に記載の張出ユニットと、を備える、
ユニット建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張出ユニット及びユニット建物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユニット建物の上階部分に設けられ、張出部を構成する張出ユニットが開示されている。この張出ユニットは、建物本体の建物ユニットに連結される一方の桁面(構面)において、柱と梁の端部同士が剛接合の方法で接合されている。また、一方の桁面と対向して配置され、建物の外側に面する他方の桁面の柱と梁の端部同士がピン接合の方法で接合されている。これにより、張出ユニットと建物ユニットとの連結部分となる一方の桁面の剛性を高め、建物ユニット側の柱及び梁の断面を大きくすることなく建物本体の耐久性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-261259号公報
【0004】
しかしながら、上記先行技術では、建物ユニットと張出ユニットとの連結部分で張出ユニットの桁面の剛性が高まる分、建物全体の剛心が連結部分に近づく方へ移動され建物の偏心が高まることが考えられる。このため、偏心に起因する建物の捩れを抑制する手段を設けることが望ましい。
【0005】
また、上記張出ユニットは、建物の外周側に面して配置された桁面の柱及び梁がピン接合の方法で接合されているため、妻面の先端側では、鉛直荷重に対する剛性が低下する。このため、張出ユニットの天井部及び床部が負担する応力負荷が高くなり、張出部分の寸法や仕様に制約を与える虞がある。その結果、建物の張出部における設計の自由度を低下させる虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、建物の捩れを抑制すると共に、張出部の設計の自由度を高めることができる張出ユニット及び建物を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る張出ユニットは、複数階建てのユニット建物の上階部分を構成する建物ユニットに連結され、前記上階部分から張り出す張出部を構成すると共に、四隅に立設された4本の柱を備える矩形箱状の張出ユニットであって、前記建物ユニットに連結される一方の桁面に配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とがピン接合により接合され、前記一方の桁面の両側に配置された一対の妻面において、該一対の妻面にそれぞれ配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とが剛接合により接合されている。
【0008】
第1の態様に係る張出ユニットは、ユニット建物の上階部分を構成する建物ユニットに連結されており、上階部分から張出した張出部を構成している。この張出ユニットは、矩形箱状に形成され、四隅に4本の柱が立設されている。そして、建物ユニットに連結される一方の桁面では、2本の柱とこの柱同士を連結する梁とがピン接合により接合されている。これにより、建物ユニットに連結される一方の桁面を剛接合する場合と比較してユニット建物の偏心を抑制することができ、地震時等における建物の捩れを抑制することができる。
【0009】
さらに、この張出ユニットの一対の妻面は、妻面に配置された2本の柱とこの柱同士を連結する梁とが剛接合により接合されている。これにより、妻面の剛性が高まり、張出ユニットの天井部及び床部に与える負荷が低減される。その結果、張出部の設計の自由度を高めることができる。
【0010】
なお、ピン接合とは、いわゆる「設計上のピン接合」を意味し、厳密には、接合部位に付与されたモーメントの一部はピン接合部において吸収される。
【0011】
第2の態様に係る張出ユニットは、第1の態様に記載の構成において、前記梁は、縦断面視で縦方向に延びるウエブ部と、ウエブ部の上端部及び下端部の少なくとも一方から直角に折れ曲がり横方向に延びるフランジ部とを含んで構成されており、前記ピン接合は、前記梁の前記ウエブ部を前記柱に溶接することにより構成され、前記剛接合は、前記梁の前記ウエブ部及びフランジ部を前記柱に溶接することにより構成されている。
【0012】
第2の態様に係る張出ユニットでは、梁の端部を2通りの構成で溶接することにより、柱と梁のピン接合構造と剛接合構造が形成されている。具体的には、ピン接合は、梁のウエブ部のみを柱に溶接することにより形成されている。他方、剛接合は、梁のウエブ部及びフランジ部を溶接することにより形成されている。このように、柱と梁のピン接合又は剛接合を形成するにあたり別部材を要しないので、ブラケット等を介して接合部を構成する場合と比較して部材の点数を抑えることができる。
【0013】
第3の態様に係る張出ユニットは、第1の態様又は第2の態様に記載の構成において、前記ユニット建物の外周に面した他方の桁面において、該他方の桁面に配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とがピン接合により接合されている。
【0014】
第3の態様に係る張出ユニットでは、対向して配置された一対の桁面、すなわち、建物ユニットに接合される一方の桁面とユニット建物の外周に面した他方の桁面において、2本の柱とこの柱同士を連結する梁とがそれぞれピン接合により接合されている。これにより、ユニット建物の偏心を一層抑制することができ、地震時等における建物の捩れを抑制することができる。
【0015】
第4の態様に係る張出ユニットは、第1の態様又は第2の態様に記載の構成において、前記ユニット建物の外周に面した他方の桁面において、該他方の桁面に配置された2本の柱と、該2本の柱を連結する梁とが剛接合により接合されている。
【0016】
第4の態様に係る張出ユニットでは、ユニット建物の外周に面した他方の桁面において、2本の柱とこの柱同士を連結する梁とが剛接合により接合されている。これにより、ユニット建物の外周側に面した他方の桁面の鉛直荷重に対する剛性を高めることができる。その結果、外壁や屋根部の先端荷重に対する張出ユニットの先端側(他方の桁面)の耐力が増すため、張出ユニットの張出量や仕様について、設計の自由度を高めることができる。
【0017】
第5の態様に係る張出ユニットは、第1の態様~第4の態様の何れか1態様に記載の構成において、前記一方の桁面は、向かい合って配置された前記建物ユニットの桁面に対して、連結部を介して回転可能に連結されている。
【0018】
第5の態様に係る張出ユニットでは、張出ユニットと建物ユニットの桁面が連結部を介して回転可能に連結されている。これにより、建物ユニットの構面(桁面)に張出ユニットの自重による鉛直荷重のみを伝達し、モーメントを伝達しない構成とされている。このため、建物ユニットの構面の剛性が確保され、ユニット建物の応力負担の低減に寄与する。その結果、張出ユニットが接合されたユニット建物の耐久性を向上させることができる。
【0019】
第6の態様に係るユニット建物は、複数階建てとされた建物本体と、前記建物本体の上階部分を構成し、四隅に立設された4本の柱を備える矩形箱状に形成された建物ユニットと、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の張出ユニットと、を備え、前記張出ユニットは、一方の桁面の天井部及び床部の仕口面が向かい合って配置された前記建物ユニットの桁面における天井部及び床部の仕口面に連結されることにより前記建物ユニットに接合されている。
【0020】
第6の態様に係るユニット建物では、建物ユニットと張出ユニットの双方が四隅に立設された4本の柱を備える矩形箱状に形成されている。また、張出ユニット及び建物ユニットは、桁面の天井部及び床部の仕口面が互いに向かい合って配置されている。そして、上記仕口面において、建物ユニットと張出ユニットとが連結されている。つまり、上記ユニット建物では、建物ユニットと張出ユニットが、仕口面の仕様や全体の構造において共通している。これにより、両者の部材を共通化することができ、生産性に優れる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、第1の態様に係る張出ユニットによれば、建物の捩れを抑制すると共に、張出部の設計の自由度を高めることができるという優れた効果を有する。
【0022】
第2の態様に係る張出ユニットによれば、部材の点数を抑えることができるという優れた効果を有する。
【0023】
第3の態様に係る張出ユニットによれば、ユニット建物の偏心を一層抑制することができ、地震時等における建物の捩れを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0024】
第4の態様に係る張出ユニットによれば、張出ユニットの張出量や仕様について、設計の自由度を高めることができるという優れた効果を有する。
【0025】
第5の態様に係る張出ユニットによれば、張出ユニットが接合されたユニット建物の耐久性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0026】
第6の態様に係るユニット建物によれば、建物ユニットと張出ユニットの部材を共通化することができ、生産性に優れるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係るユニット建物の斜視図である。
図2図1に示す領域Pの拡大斜視図である。
図3図1に示すユニット建物の上階部分を部分的に示す側面図である。
図4図3の4-4線に沿って切断した状態を示す拡大断面図である。
図5図1に示す張出ユニットの妻面に作用する曲げモーメントを示す模式図である。
図6】比較例としての張出ユニットの妻面に作用する曲げモーメントを示す図5に対応する模式図である。
図7】第2実施形態に係るユニット建物の斜視図である。
図8図7に示す張出ユニットのユニット建物の外周に面した桁面の応力状態を示す模式図である。
図9】比較例としての張出ユニットのユニット建物の外周に面した桁面の応力状態を示す図8に対応する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1実施形態〕
以下、図1図6を用いて、第1実施形態に係る張出ユニット18と、この張出ユニット18を備えるユニット建物(以下、「建物10」と称する)10について説明する。
【0029】
図1に示されるように、建物10は、図示しない基礎の上に建物本体12の下階部分(1階部分)12Aを構成する建物ユニット14が組み付けられ、建物ユニット14の上方側に建物本体12の上階部分(2階部分)12Bを構成する建物ユニット16が組み付けられている。そして、建物ユニット16の桁面に張出ユニット18が連結されている。
【0030】
なお、本実施形態の建物10は、説明を分かりやすくするために下階部分12A及び上階部分12Bに単一の建物ユニット14、16が組み付けられているが、建物ユニットの個数は適宜変更可能とされている。
【0031】
建物ユニット14、16は、四隅に立設する4本の柱20を備える矩形箱状に形成されている。4本の柱20は、桁面及び妻面に沿って隣り合って配置された2本の柱20の上端部同士、及び下端部同士が梁22によってそれぞれ連結されている。各々の柱20は、鉄製の角柱によって構成されている。また、各々の梁22は、鉄製のチャンネル鋼によって構成されている。なお、図1では、説明の便宜上、建物ユニット14の柱20及び梁22を省略して図示している。
【0032】
張出ユニット18は、後述する連結部44を介して、上階部分12Bを構成する建物ユニット16の桁面(長辺側の構面)に接合されている。この張出ユニット18は、建物ユニット14、16と同様に、四隅に立設する4本の柱24を備える矩形箱状に形成されている。また、4本の柱24は、桁面及び妻面に沿って隣り合って配置された2本の柱24の上端部同士、及び下端部同士が梁26によってそれぞれ連結されている。そして、各々の柱24は、鉄製の角柱によって構成されている。また、各々の梁26は、鉄製のチャンネル鋼とされている。なお、より具体的に説明すると、梁26は、ウエブ部26Aと、上フランジ部26Bと、下フランジ部26Cと、を備えている(図2参照)。ウエブ部26Aは、梁26の縦断面視で縦方向(建物高さ方向)に延在している。また、上フランジ部26Bは、ウエブ部26Aの上端から直角に折れ曲がり、横方向(水平方向)に延在している。また、下フランジ部26Cは、ウエブ部26Aの上端から直角に折れ曲がり、横方向(水平方向)に延在して上フランジ部26Bと対向して配置されている。
【0033】
上記構成から分かるように、建物ユニット14、16と張出ユニット18は、鉄製の角柱及びチャンネル鋼を主要部材とする点で共通している。また、桁面同士で接合された建物ユニット16と張出ユニット18は、柱20、24及び長辺側の梁22、26の延在方向の寸法がそれぞれ一致している。これにより、建物ユニット16と張出ユニット18は、天井部及び床部の仕口面28が、同一の高さ位置でそれぞれ向かい合うように配置されている。なお、以下において、柱24の上端部に設けられた天井部の仕口面を仕口面28Cと称し、柱24の下端部に設けられた床部の仕口面を仕口面28Fと称する。また、仕口面28C、28Fを区別しない場合には、単に仕口面28と称する(図3参照)。
【0034】
ところで、張出ユニット18の長辺側の構面を構成する一対の桁面30は、これらを構成する2本の柱24と2本の梁26の端部同士が、ピン接合部40によってそれぞれ接合されている。一方、張出ユニット18の短辺側の構面を構成する一対の妻面32は、これらを構成する2本の柱24と2本の梁26の端部同士が、剛接合部42によってそれぞれ接合されている。なお、図1図3では、ピン接合部40を破線で囲まれた領域として示し、剛接合部42を網掛け部分の領域で示している。
【0035】
以下、図2を用いて本発明の要部であるピン接合部40及び剛接合部42の詳細な構成を説明する。なお、以降の説明において、張出ユニットの一対の桁面30の内、建物ユニット16の桁面に接合される桁面を桁面30Aとし、建物本体12の外周面に面して配置される桁面を桁面30Bと称する。
【0036】
この図に示されるように、ピン接合部40及び剛接合部42は、チャンネル鋼で構成された梁26の端部を2通りの態様で溶接することにより形成されている。
【0037】
具体的には、ピン接合部40は、梁26のウエブ部26Aのみを柱24の仕口面28に溶接することにより形成されている。
【0038】
一方、剛接合部42は、梁26のウエブ部26A、上フランジ部26B、下フランジ部26Cを全て柱24の仕口面28に溶接することにより形成されている。
【0039】
次に、図3及び図4を用いて建物ユニット16と張出ユニット18の接合構造を説明する。なお、図3には、建物ユニット16と張出ユニット18の連結部44が側面から図示されている。また、図4には、該連結部44の平断面が図示されている。
【0040】
これらの図に示されるように、建物ユニット16と張出ユニット18は、対向する桁面が複数の連結部44を介して回転可能に連結されている。より具体的に説明すると、複数の連結部44は、張出ユニット18の桁面30Aに配置された2本の柱24の仕口面28C、28Fと、桁面30Aと向かい合って配置された建物ユニット16の桁面の2本の柱20の仕口面28C、28Fとをそれぞれ連結している。つまり、建物ユニット16と張出ユニット18は、合計4か所で連結されている。
【0041】
図4に示されるように、各連結部44は、建物ユニット16側の仕口面28及び張出ユニット18側の仕口面28のそれぞれに固定された一対の連結ブラケット46と、一対の連結ブラケット46を回転可能に連結するピン部材56と、を備えている。
【0042】
各連結ブラケット46は、断面L字状に形成された一対のL字部材48で構成されている。L字部材48は、L字の一方側の辺を構成する回転部48Aと、L字の他方側の辺を構成する固定部48Bと、を有している。一対のL字部材48は、互いの回転部48Aを重ね合わせ、固定部48Bが張出ユニット18の桁方向に沿って互いに離間する方向に延在する姿勢で配置されている。各固定部48Bは、対応する仕口面28に高力ボルト等の締結部材50を用いてそれぞれ固定されている。なお、この仕口面28は、内側面に金属製の補強板52が溶接されることにより補強されている。
【0043】
上記構成により、建物ユニット16及び張出ユニット18の仕口面28に連結ブラケット46が固定された状態では、対向して配置された連結ブラケット46の各回転部48Aが桁方向に重なる位置に配置されている。また、この状態では、各回転部48Aの中央に形成された貫通孔54が同軸的に配置されている。そして、貫通孔54の内部に、桁方向を軸方向とするピン部材56が貫通配置されている。これにより、張出ユニット18は、一対の連結ブラケット46を用いて建物ユニット16に回転可能に連結されている。
【0044】
以上説明した本実施形態の特筆すべき点は、先ず、張出ユニット18において、建物ユニット16と接合する桁面30Aの柱24及び梁26の端部同士をピン接合部40で接合し、建物10の偏心を抑制した点にある。すなわち、桁面30Aの柱24及び梁26の端部同士をピン接合部40で接合した場合、例えば、柱24及び梁26の端部同士を剛接合する構成と比較して、建物ユニット16に連結される桁面30Aの剛性が必要以上に高められることが抑制される。
【0045】
ところで、張出ユニット18の桁面30Aの剛性が必要以上に高められると、建物10の剛心が張出ユニット18側に偏ることが想定される。このような場合、桁面30Aの剛性が高まる分、建物10の偏心率が大きくなる。
【0046】
上記実施形態では、上記構成により桁面30Aの剛性が不必要に高められることを抑制し、建物10の偏心を抑制するように構成されている。これにより、地震時等における建物10の捩れを抑制することができる。
【0047】
さらに特筆すべき点は、張出ユニット18の妻面32の柱24及び梁26の端部同士を剛接合部42で接合することにより、鉛直荷重に対する妻面32の剛性を高める点にある。この点について、図5及び図6の模式図を用いて説明する。図5は、本実施形態の張出ユニット18の妻面32を模式的に示す側面図である。一方、図6は、比較例としての張出ユニット100を示す図5に対応する側面図である。
【0048】
図6に示す比較例では、妻面120に2本の柱140が配置されており、2本の柱140の上端部間及び下端部間が梁150によってそれぞれ連結されている。また、比較例では、建物ユニット16に接合される桁面130Aの柱140と梁150の端部同士が剛接合部42で接合されており、建物10の外周側に面して配置される桁面130Bの柱140と梁150の端部同士がピン接合部40で接合されている。
【0049】
図6に示すように、上記構成の張出ユニット100の先端部に鉛直荷重F1が入力された場合、桁面130Aの柱140に作用する曲げモーメントM100は、延在方向(建物上下方向)の中間部140Nを中立軸として作用する。そして、中間部140Nから柱140の上端部及び下端部へ向かうにつれ、曲げモーメントM100が徐々に大きくなっている。このため、柱140では、延在方向の上端部及び下端部で応力が最大となる。一方、妻面120上部及び下部を構成する梁150に作用する曲げモーメントM200は、梁150の先端部から基端部に向かうにつれて徐々に大きくなる。このため、梁150では、桁面130Aと接合される基端部において応力が最大となる。このように、比較例の張出ユニット100では、桁面130A側に応力が集中する。
【0050】
一方、図5に示される本実施形態の張出ユニット18では、妻面32の柱24と梁26の端部同士を剛接合部42で接合することにより、妻面32に配置された2本の柱24の双方に曲げモーメントM1が作用する。曲げモーメントM1は、比較例と同様に柱24の延在方向の中間部24Nを中立軸として作用し、中間部24Nから柱24の上端部及び下端部に向かって徐々に大きくなっている。但し、2本の柱24の双方に曲げモーメントM1が作用するため、双方の柱24に応力を分散させることができる。一方、妻面32の上部及び下部を構成する梁26に作用する曲げモーメントM2は、延在方向(妻方向)の中間部26Nを中立軸として作用する。そして、中間部26Nから先端部及び基端部に向かって徐々に大きくなる。これにより、梁26では、延在方向の両端部で応力が最大となる。すなわち、梁26の応力が延在方向の両端部に分散されている。このように、本実施形態では、妻面32に鉛直荷重F1が入力された場合に、桁面30A側に応力が集中することを避け、応力を分散させることにより妻面の剛性を向上させるように構成されている。
【0051】
(作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0052】
上述したように、本実施形態では、建物本体12の上階部分12Bを構成する建物ユニット16に張出ユニット18が連結されており、上階部分12Bから張出した張出部を構成している。この張出ユニット18は、矩形箱状に形成され、四隅に4本の柱24が立設されている。そして、建物ユニット16に接合される一方の桁面30Aでは、2本の柱24とこの柱24同士を連結する梁26とがピン接合部40により接合されている。これにより、建物ユニット16に連結される一方の桁面30Aの柱と梁を剛接合する場合と比較して、建物10の偏心を抑制することができ、地震や強風による建物10の捩れを抑制することができる。
【0053】
さらに、この張出ユニット18の一対の妻面32は、妻面32に配置された2本の柱24とこの柱24同士を連結する梁26とが剛接合部42により接合されている。これにより、妻面32の剛性が高まり、張出ユニット18の天井部及び床部に与える負荷が低減される。その結果、建物10の張出部の設計の自由度を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、梁26の端部を2通りの構成で溶接することにより、柱24と梁26のピン接合構造と剛接合構造が形成されている。具体的には、ピン接合部40は、梁26のウエブ部26Aのみを柱に溶接することにより形成されている。他方、剛接合部42は、梁26のウエブ部26A及び上フランジ部26B、並びに下フランジ部26Cを溶接することにより形成されている。このように、柱24と梁26のピン接合部40又は剛接合部42を形成するにあたり別部材を要しないので、ブラケット等を介して接合部を形成する構成と比較して部材の点数を抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態では、対向して配置された一対の桁面30A、30B、すなわち、建物ユニット16に接合される一方の桁面30Aと建物10の外周に面した他方の桁面30Bにおいて、2本の柱24とこの柱24同士を連結する梁26とがそれぞれピン接合部40により接合されている。これにより、建物10の偏心を一層抑制することができ、地震時等における建物10の捩れを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、張出ユニット18の桁面30Aと建物ユニット16の桁面が連結部44を介して回転可能に連結されている。これにより、建物ユニット16の構面(桁面)に張出ユニット18の自重による鉛直荷重のみを伝達し、モーメントを伝達しない構成とされている。このため、建物ユニット16の構面の剛性が確保され、建物10の応力負担の低減に寄与する。その結果、建物10の耐久性を向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、建物ユニット16と張出ユニット18の双方が四隅に立設された4本の柱20、24をそれぞれ備える矩形箱状に形成されている。また、張出ユニット18及び建物ユニット16は、互いの桁面における天井部の仕口面28C及び床部の仕口面28Fが向かい合って配置されている。そして、上記仕口面28C、28Fにおいて、建物ユニット16と張出ユニット18とが連結されている。つまり、本実施形態の建物10では、建物ユニット16と張出ユニット18が、仕口面28の仕様や全体の構造において共通している。これにより、両者の部材を共通化することができ、生産性に優れる。
【0058】
〔第2実施形態〕
以下、図7図9を用いて、第2実施形態に係る張出ユニット60について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0059】
図7に示されるように、この第2実施形態に係る張出ユニット60では、建物10の外周側に面した桁面30Bにおいて、桁面30Bに配置された2本の柱24とこれらの柱24を連結する梁26の端部同士が剛接合部42の方法で接合されている点に特徴がある。なお、これ以外の構成は第1実施形態と同様とされている。
【0060】
本実施形態において特筆すべき点は、桁面30Bを構成する柱24と梁26の端部同士を剛接合部42で接合したことにより、桁面30Bの剛性を確保して鉛直荷重に対する張出ユニット60の耐力を向上させたところにある。
【0061】
上記効果について、図8及び図9の模式図を用いて説明する。図8は、本実施形態の張出ユニット60の桁面30Bを模式的に示す側面図である。一方、図9は、比較例としての張出ユニット200を示す図8に対応する側面図である。
【0062】
図9に示す比較例では、建物の外周面に面する桁面210Bに配置された2本の柱220とこれらの柱220を連結する梁230の端部同士がピン接合部40により接合されている。この図に示されるように、桁面210Bに鉛直荷重F2が入力されると、桁面210Bの上部及び下部を構成する梁230に曲げモーメントM300が作用する。この場合、梁230は両端ピン梁となるため、曲げモーメントM300を表す曲線は梁230の両端部に掛け渡される円弧状をなしており、梁230の両端部から中間部230Nへ向かって徐々に大きくなっている。これにより、梁230の中間部230Nにおいて応力が最大となる。
【0063】
一方、図8に示される本実施形態の張出ユニット60では、桁面30Bの柱24と梁26の端部同士を剛接合部42によって接合することにより、桁面30Bの上部及び下部を構成する梁26に曲げモーメントM3が作用する。この場合、梁26は両端固定梁となるため、梁26の両端部より内側に2箇所の中立軸26Nがそれぞれ存在する。そして、図8に示す中立軸26Nから梁26の両端部及び中間部に向かって徐々に曲げモーメントM3が大きくなる。さらに、桁面30Bの2本の柱24にも曲げモーメントM4が作用する。この曲げモーメントM4は、各柱24の延在方向の中間部24Nを中立軸として作用し、中間部24Nから柱24の上端部及び下端部に向かって徐々に大きくなっている。このようにして、鉛直荷重F2に起因する桁面30Bの応力を柱24及び梁26に分散させる構成となっている。その結果、鉛直荷重F2による梁26の撓み量を低減させることができ、桁面30Bの鉛直荷重に対する剛性を確保することができる。
【0064】
(作用・効果)
上記構成の建物10及び張出ユニット60は、基本的には第1実施形態に係る張出ユニットの構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0065】
また、本実施形態の張出ユニット60では、建物10の外周に面した他方の桁面30Bにおいて、2本の柱24とこの柱24同士を連結する梁26とが剛接合部42により接合されている。このため、建物10の外周側に面した他方の桁面30Bの鉛直荷重に対する剛性を高めることができる。これにより、張出ユニット60の図示しない外壁や、屋根部の先端荷重に対する張出ユニット60の桁面30Bの耐力が増し、天井部や床部の撓み量を低減させることができる。その結果、張出ユニット60の張出量や仕様について、設計の自由度を高めることができる。
【0066】
[補足説明]
上記各実施形態では、ピン接合部40及び剛接合部42を溶接の方法のみで形成する構成としたが、本発明はこれに限らない。ガセットを介して柱の仕口面に梁のウエブ部やフランジ部を固定することによりピン接合部及び剛接合部を形成してもよい。
【0067】
また、上記各実施形態では梁26がチャンネル鋼で構成されたが、本発明はこれに限らない。例えば、張出ユニットの梁をL形鋼やH形鋼で構成してもよい。すなわち、縦断面視で縦方向に延在するウエブ部と、ウエブ部の上端及び下端の少なくとも一方から横方向に延在するフランジ部を備えていればよい。
【符号の説明】
【0068】
10 建物(ユニット建物)
12 建物本体
12B 上階部分
14 建物ユニット
18 張出ユニット
20 柱
26 梁
26A ウエブ部
26B 上フランジ部(フランジ部)
26C 下フランジ部(フランジ部)
28C 天井部の仕口面(仕口面)
28F 床部の仕口面(仕口面)
30A 桁面(一方の桁面)
30B 桁面(他方の桁面)
32 妻面
40 ピン接合部(ピン接合)
42 剛接合部(剛接合)
44 連結部
60 張出ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9