(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】一酸化炭素の生成方法、前駆体の製造方法およびケミカルルーピングシステム用材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20240521BHJP
【FI】
C01B32/40
(21)【出願番号】P 2020018155
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康司
(72)【発明者】
【氏名】関根 泰
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528884(JP,A)
【文献】特開平07-136462(JP,A)
【文献】特開2015-016467(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163968(WO,A1)
【文献】特開2019-051493(JP,A)
【文献】特表2018-529504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01D 53/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
11族元素に含まれる第1元素と、8-10,12-13族元素に含まれる第2元素とを含む第1材料
(但し、銅と亜鉛とを含む第1材料を除く)に二酸化炭素を供給し、一酸化炭素を生成する生成工程と、
前記生成工程において酸化された前記第2元素と前記第1元素とを含む第2材料に水素を供給し、前記酸化された第2元素を還元する還元工程と、を有し、
前記生成工程と前記還元工程とを複数回繰り返すことを特徴とする一酸化炭素の生成方法。
【請求項2】
前記第1材料は、酸化インジウムと銅とを含み、前記第2材料は、酸化インジウムと銅とを含むことを特徴とする請求項1に記載の一酸化炭素の生成方法。
【請求項3】
前記第2材料に含まれる酸化インジウムはIn
2O
3であることを特徴とする請求項2に記載の一酸化炭素の生成方法。
【請求項4】
前記酸化インジウムの平均粒子径は、90nm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の一酸化炭素の生成方法。
【請求項5】
前記第1材料は、鉄と銅とを含み、前記第2材料は、酸化鉄と銅とを含むことを特徴とする請求項1に記載の一酸化炭素の生成方法。
【請求項6】
前記第2材料に含まれる酸化鉄はFe
3O
4であることを特徴とする請求項5に記載の一酸化炭素の生成方法。
【請求項7】
一酸化炭素を繰り返し生成するケミカルルーピングシステム用材料の前駆体の製造方法であって、
11族元素に含まれる第1元素の硝酸塩と8-10,12-13族元素に含まれる第2元素の硝酸塩とクエン酸とを含む水溶液を100℃未満で熱処理する第1熱処理工程と、
前記水溶液を100℃以上で熱処理し、有機物を除去して中間体を得る第2熱処理工程と、
前記中間体を焼成し、前記第1元素と前記第2元素とを含む複合酸化物からなる前駆体を生成する焼成工程と、
を有する前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記第1元素が銅であり、前記第2元素がインジウムであることを特徴とする請求項7に記載の前駆体の製造方法。
【請求項9】
前記第1元素が銅であり、前記第2元素が鉄であることを特徴とする請求項7に記載の前駆体の製造方法。
【請求項10】
一酸化炭素を繰り返し生成するケミカルルーピングシステム用材料であって、
銅と酸化インジウムとを含み、
前記酸化インジウムの平均粒子径は、90nm以下であることを特徴とするケミカルルーピングシステム用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気ガスに含まれる二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成するケミカルルーピング型反応装置が考案されている。この反応装置は、金属酸化物触媒を用いて二酸化炭素を一酸化炭素に還元する第1の反応を行う第1の反応器と、水素を水に酸化することで金属酸化物触媒を還元する第2の反応を行う第2の反応器と、前述の金属酸化物触媒を2つの反応器間で循環させる触媒循環経路と、を有している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のケミカルルーピング型反応に用いられる材料においても、一酸化炭素を生成することは可能であるが、一酸化炭素の生成量や耐久性といった実用上の観点からは更なる改善の余地があった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を効率的に生成する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の一酸化炭素の生成方法は、11族元素に含まれる第1元素と、8-10,12-13族元素に含まれる第2元素とを含む第1材料に二酸化炭素を供給し、一酸化炭素を生成する生成工程と、生成工程において酸化された第2元素と第1元素とを含む第2材料に水素を供給し、酸化された第2元素を還元する還元工程と、を有する。生成工程と還元工程とを複数回繰り返す。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を効率的に生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係るケミカルルーピングシステムを説明するための各工程を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
はじめに、本発明の態様を列挙する。本発明のある態様の一酸化炭素の生成方法は、11族元素に含まれる第1元素と、8-10,12-13族元素に含まれる第2元素とを含む第1材料に二酸化炭素を供給し、一酸化炭素を生成する生成工程と、生成工程において酸化された第2元素と第1元素とを含む第2材料に水素を供給し、酸化された第2元素を還元する還元工程と、を有する。生成工程と還元工程とを複数回繰り返す。
【0010】
この態様によると、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を効率的に生成することができる。なお、8族元素は、Fe,Ru,Osであり、9族元素は、Co,Rh,Irであり、10族元素は、Ni,Pd,Ptであり、11族元素は、Cu,Ag,Auであり、12族元素は、Zn,Cd,Hgであり、13族元素は、B,Al,Ga,In,Tlである。
【0011】
第1材料は、酸化インジウムと銅とを含み、第2材料は、酸化インジウムと銅とを含んでもよい。第2材料に含まれる酸化インジウムはIn2O3であってもよい。
【0012】
酸化インジウムの平均粒子径は、90nm以下であってもよい。
【0013】
第1材料は、鉄と銅とを含み、第2材料は、酸化鉄と銅とを含んでもよい。第2材料に含まれる酸化鉄はFe3O4であってもよい。
【0014】
本発明の別の態様は、前駆体の製造方法である。この方法は、一酸化炭素を繰り返し生成するケミカルルーピングシステム用材料の前駆体の製造方法であって、11族元素に含まれる第1元素の硝酸塩と8-10,12-13族元素に含まれる第2元素の硝酸塩とクエン酸とを含む水溶液を100℃未満で熱処理する第1熱処理工程と、水溶液を100℃以上で熱処理し、有機物を除去して中間体を得る第2熱処理工程と、中間体を焼成し、第1元素と第2元素とを含む複合酸化物からなる前駆体を生成する焼成工程と、を有する。
【0015】
この態様によると、一酸化炭素を効率的に生成するためのケミカルルーピングシステム用材料に好適な前駆体を製造できる。
【0016】
第1元素が銅であり、第2元素がインジウムであってもよい。または、第1元素が銅であり、第2元素が鉄であってもよい。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、ケミカルルーピングシステム用材料である。このケミカルルーピングシステム用材料は、一酸化炭素を繰り返し生成するケミカルルーピングシステム用材料であって、銅と酸化インジウムとを含む。酸化インジウムの平均粒子径は、90nm以下である。
【0018】
この態様によると、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を効率的に生成することができる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【0020】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、同一の部材であっても、各図面間で縮尺等が若干相違する場合もあり得る。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0021】
(ケミカルルーピングシステム)
はじめに、本実施の形態に係るケミカルルーピングシステムの概略について説明する。本実施の形態では、二酸化炭素から一酸化炭素
を生成する。図1は、本実施の形態に係るケミカルルーピングシステムを説明するための各工程を模式的に示した図である。
図1に示すように、はじめにケミカルルーピングシステム用材料の前駆体を製造する。この前駆体は、酸素キャリアとして機能する複合酸化物であり、後の還元処理によりケミカルルーピングシステム用材料となり得るものである。
【0022】
前駆体は還元処理により一酸化炭素の生成に寄与する材料や形態に変化する。その後、パージ処理1を経て、二酸化炭素から一酸化炭素を生成する工程を行う。この工程においては、一酸化炭素の生成量を測定し、ケミカルルーピングシステム用材料の性能評価を行う。その後、パージ処理2を経て再度還元処理へ戻る。そして、還元処理からパージ処理2までの工程を繰り返した場合に、ケミカルルーピングシステム用材料の性能がどの程度変化するかを測定し、材料性能を評価する。
【0023】
[実施例1]
(酸素キャリアの調製)
11族元素に含まれる銅の硝酸塩Cu(NO3)2・3H2O(関東化学製)5.53g、13族元素に含まれるインジウムの硝酸塩In(NO3)2・nH2O(関東化学製)8.13g、クエン酸一水和物(和光純薬製)29.01g、エチレングリコール(和光純薬製)8.57gを純水300mLに溶解し、ウオーターバスにて、85℃、18時間熱処理を実施した。熱処理後、ホットスターラー上で300℃程度に加熱し、有機物を除去した。その後、焼成炉において、空気中で、5℃/minの昇温速度にて室温から400℃まで昇温し2時間保持した。引き続き10℃/minの昇温速度にて850℃まで昇温し10時間保持し、銅インジウム系酸素キャリアCu2In2O5(キャリア1)5.0gを得た。
【0024】
(還元処理)
次に、反応管にキャリア1を0.5g充填し、大気圧下で、10容量%H2/Arガスを200Ncc/分の流量で流通させた。そして、反応管を室温から1時間かけて500℃まで昇温し、500℃で30分間還元処理を実施した。この際の最初の還元処理では、下記式(1-1)の還元反応が生じる。
式(1-1) Cu2In2O5+3H2 → 2Cu/InO+3H2O
また、後述する一酸化炭素生成試験後の試料については下記式(1-2)の還元反応が生じる。
式(1-2) In2O3+2H2 → In2O+2H2O
なお、還元処理後のサンプルの粒子径はXRDを用いて、シェラーの式から算出した。
【0025】
(パージ処理1)
還元処理実施後、500℃に保ちながら、アルゴンを200Ncc/分で10分間流通させ、系内をパージした。
【0026】
(一酸化炭素生成試験)
系内をパージした後、40容量%CO2/Arガスを200Ncc/分の流量で10分間流通させた。反応生成物の分析は、出口に質量分析装置を接続し、質量数28を一酸化炭素として、生成した一酸化炭素を定量した。この工程では、以下の下記式(1-3)の反応が生じる。
式(1-3) In2O+2CO2 → In2O3+2CO
【0027】
(パージ処理2)
一酸化炭素生成試験後、500℃に保ちながら、アルゴンを200Ncc/分で10分間流通させ、系内をパージした。
【0028】
(サイクル試験)
還元処理~パージ処理2を4回繰り返すことによって、一酸化炭素生成のサイクル試験を実施した。
【0029】
[実施例2]
11族元素に含まれる銅の硝酸塩Cu(NO3)2・3H2O(関東化学製)5.05g、8族元素に含まれる鉄の硝酸塩Fe(NO3)3・9H2O(関東化学製)17.06g、クエン酸一水和物(和光純薬製)39.73g、エチレングリコール(和光純薬製)11.73gを用いた以外は実施例1と同様の処理を実施し、銅鉄系酸素キャリアCuFe2O4(キャリア2)5.0gを得た。還元処理以降は実施例1と同様に実施した。
【0030】
なお、実施例2に関する反応は以下の通りである。最初の還元処理では、下記式(2-1)の還元反応が生じる。
式(2-1) CuFe2O4+4H2 → Cu/2Fe+4H2O
また、一酸化炭素生成試験後の試料については下記式(2-2)の還元反応が生じる。
式(2-2) Fe3O4+4H2 → 3Fe+4H2O
また、一酸化炭素生成試験においは下記式(2-3)の反応が生じる。
式(2-3) 3Fe+4CO2 → Fe3O4+4CO
【0031】
[実施例3]
還元処理、パージ処理および一酸化炭素生成試験の温度を450℃、サイクル数を1回とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0032】
[実施例4]
還元処理、パージ処理および一酸化炭素生成試験の温度を400℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0033】
[実施例5]
還元処理、パージ処理および一酸化炭素生成試験の温度を350℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0034】
[実施例6]
実施例1の一酸化炭素生成試験において、30容量%CO2/Arガスを用い、サイクル数を1回とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0035】
[実施例7]
実施例6の一酸化炭素生成試験において、20容量%CO2/Arガスを用いた以外は実施例6と同様に実施した。
【0036】
[実施例8]
実施例6の一酸化炭素生成試験において、10容量%CO2/Arガスを用いた以外は実施例6と同様に実施した。
【0037】
[実施例9]
実施例6の一酸化炭素生成試験において、5容量%CO2/Arガスを用いた以外は実施例6と同様に実施した。
【0038】
[比較例1]
インジウムの硝酸塩In(NO3)3・nH2O(関東化学製)12.80gとクエン酸一水和物(和光純薬製)22.82g、エチレングリコール(和光純薬製)6.74gを用いた以外は実施例1と同様の処理を実施し、In2O35.0gを得た。したがって、In2O3は複合酸化物ではなく、インジウムの酸化物である。
【0039】
[比較例2]
比較例1で作成したIn2O31.90g、に20mLの純水を加え、エバポレータを用いて、減圧下で2時間撹拌した。その後Cu(NO3)2・9H2O(関東化学製)0.38gを加え、常圧下、2時間攪拌した。その後、焼成炉において、空気中で、昇温速度5℃/minにて室温から500℃に昇温した後5時間保持し、5wt%Cu/In2O32.0gを得た。
【0040】
[比較例3]
酸素キャリアに市販のFe3O4(和光純薬製)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0041】
[評価結果]
実施例1に係る還元後の酸化インジウムの粒径と、比較例2に係る酸化インジウムの粒径とを表1に示す
【表1】
【0042】
表1に示すように、銅インジウム系酸素キャリアを経て製造した酸化インジウムの粒径は、一般的な方法で製造した酸化インジウムと比較して非常に微細となっている。
【0043】
次に、サイクル数によるCO生成量の変化を表2に示す。
【表2】
【0044】
表2に示すように、実施例1や実施例2に係る酸化インジウムや鉄酸化物の場合、CO生成量が多く少なくともサイクル数が4回まではCO生成量に低下は見られない。一方、比較例1乃至3に係る酸化インジウムや鉄酸化物の場合、サイクル数の増加に伴うCO生成量の低下はほとんどみられなかったが、CO生成量そのものが大きくない。
【0045】
次に、還元処理の際の温度によってその後のCO生成量がどのように異なるか表3に示す。
【表3】
【0046】
表3に示すように実施例1,3,4,5と、温度の低下に伴い、CO生成量は小さくなるが、350℃までCOが生成することがわかった。
【0047】
次に、CO
2濃度の違いによるCO生成量の違いを表4に示す。
【表4】
【0048】
表4に示すように、CO2濃度が5~40vol%の範囲で変化しても、CO生成量はほとんど変化しない。
【0049】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。