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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】異種金属の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 344
B23K20/12 340
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020158207
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052051
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】596091956
【氏名又は名称】冨士端子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亨
(72)【発明者】
【氏名】京田 猛
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲司
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-018312(JP,A)
【文献】特開2009-202212(JP,A)
【文献】特開2013-237104(JP,A)
【文献】特開2003-039183(JP,A)
【文献】特開2003-225779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入し、
その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための裏側押圧工具を存在させ、
上記裏側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる
ことを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
上記第1の金属部材に対して上記表側から挿入した上記回転工具を、その先端が上記裏側に到達するように挿入する
請求項1記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記裏側押圧工具は、上記回転工具の先端との干渉を防止するための干渉防止空間が設けられている
請求項2記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記裏側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記裏側との隙間が小さくなる裏側斜面が設けられている
請求項1~3のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための裏側堤状部が設けられている
請求項1~4のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項6】
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させ、
上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる
請求項1~5のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項7】
上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている
請求項6記載の異種金属の接合方法。
【請求項8】
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている
請求項6または7記載の異種金属の接合方法。
【請求項9】
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている
請求項6~8のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項10】
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入し、
その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させ、
上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる
ことを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項11】
上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている
請求項10記載の異種金属の接合方法。
【請求項12】
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている
請求項10または11記載の異種金属の接合方法。
【請求項13】
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている
請求項10~12のいずれか一項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項14】
上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする
請求項1~13のいずれか一項に記載の記載の異種金属の接合方法。
【請求項15】
上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも融点が低い金属とする
請求項1~13のいずれか一項に記載の記載の異種金属の接合方法。
【請求項16】
裏側押圧工具の干渉防止空間もしくは裏側斜面もしくは表側押圧工具の表側斜面の少なくともいずれかの一つ以上に、第1の金属部材と同種金属の金属部材をあらかじめ配置しておく
請求項1~15のいずれか一項記載の異種金属の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに種類が異なる2つの金属部材を摩擦攪拌接合により接合する異種金属の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合は、部材の接合技術のひとつである。円筒状の回転工具を用い、上記回転工具を回転させながら、部材同士の接合部に押し付けて挿入することによって接合する。上記回転工具を貫入させる際に発生する摩擦熱で部材を軟化させ、上記回転工具の回転力で接合部の周辺を塑性流動させることにより、複数の部材を一体化する。
【0003】
このような摩擦攪拌接合は、たとえばアーク溶接と比較すると、部材の溶融を伴わないため、接合部の熱影響を抑制でき、騒音や粉塵の発生が少ないという利点がある。また、電子ビーム溶接と比較すると、接合環境に真空を必要としないため、装置の小型化が図れるという利点がある。
【0004】
例えば、2枚のアルミニウム板の端面を突き合わせて接合する場合、接合線の真上から回転工具を挿入し、上記接合線に沿って回転工具を移動させることで、2枚の板材を接合することが行われる。
【0005】
このような摩擦攪拌接合に関する先行技術文献として、出願人は下記の特許文献1および2を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-136544号公報
【文献】特許第4599608号公報
【0007】
上記特許文献1は、アルミニウム合金製の板材を摩擦接合法で接合する技術に関するものであり、下記の記載がある。
[0014]
以下本発明を図1図3により説明する。図1において、板10,20はそれぞれ突き合わせられている第1の部材、第2の部材である。板10,20の材質は、アルミ合金である。板10,20の裏面は架台(図示せず)に載っている。
[0015]
この状態で、まず、突き合わせ部の上面に、上方から、肉盛り材30を接触させた状態で押し付けながら回転させ、更に回転させながら、突き合わせ部に沿って相対的に移動させる。肉盛り材30は丸棒であり、その材質は板10,20と同様なアルミ合金材である。これによって、肉盛り材30の移動に伴って突き合わせ部の上面に肉盛りビード35が接合される。
[0023]
次に、図4図6に示すように、肉盛りビード35に対してその上方から回転工具50の中心ピン51を挿入し、部材10,20を摩擦攪拌接合する。摩擦攪拌接合時、回転工具50の中心ピン51の上部に設けられている大径部の底面53は肉盛りビード35に接触する。
[0025]
次に、必要により(上面が機器の外面になるような場合、又は表面が平滑な面が必要な場合)、摩擦攪拌接合ビード55の部材10,20の表面から出ている部分を切削によって除く。
【0008】
上記特許文献2は、摩擦攪拌加工用裏当て治具に関するものであり、下記の記載がある。
[0023]
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の摩擦攪拌加工方法として摩擦攪拌接合方法の一例を説明するための斜視図である。図1において、10は裏当て治具であって、この裏当て治具10としては、セメント成形体が用いられる。
[0028]
上述の裏当て治具10を用いて、本発明の摩擦攪拌加工方法として、摩擦攪拌接合(FSW)を行う方法を説明する。
図1において、先ず、裏当て治具10の上の所望の位置に、表面平滑な薄層体20を配置する。表面平滑な薄層体20としては、スチール箔、アルミニウム箔、チタン箔、銅箔などの金属箔、金属や金属酸化物などのセラミック溶射膜が好適に使用されるが、これ等に限定されない。これ等の表面平滑な薄層体20の厚みは、裏当て治具10の表面に沿いやすくするために0.05~1mm程度が好ましい。なお、上記金属箔は、金属リボンあるいは金属シートと呼ばれることもある。
[0031]
その後、板状の被接合材31と32の接合線33の一端に、高速回転する接合用回転工具40(径の大きいショルダ部42とその先端にプローブ41を有する硬い工具鋼からなるツール40)のプローブ41を高速回転させながら強い力で押し当て挿入し、ショルダ部42による圧力を付加し摩擦熱を発生させながらツール40を接合線33に沿って他端に移動させ、摩擦熱によりツール近傍を可塑化して固相状態で接合する。尚ツールは被接合材の接合部の近傍の表面の略法線方向から挿入されかつ略法線方向を保った状態で移動される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1は、同種の金属(アルミ合金同士)を接合する技術に関するものである。2枚の金属板を突き合せた境界と回転工具の回転軸を一致させ、突き合せた2枚の金属板材の双方に塑性流動を生じさせて接合する方法を開示する。
【0010】
ところが、上記特許文献1の技術によって異種金属を接合しようとすると、接合部分では、2種類の金属が互いに相手側に流動し、不均一に混在した領域となる。異種金属が混在した領域では、混在した異種金属が介在物として作用するおそれがある。また、このような領域は、激しい塑性流動で金属が飛散等することによるボイドが生じやすい。したがって、接合部全体にわたって接合強度の低下を引き起こす可能性がある。しかも、超音波によるボイドの非破壊検査をしようとしても、混在する異種金属がノイズとなってしまい、まともな検査結果が得られない。このような介在物やボイドが存在すると、接合部の経時劣化が助長されるおそれがあり、長期的な信頼性が求められる接合技術においては致命的な課題である。
【0011】
加えて、異種金属では、硬度が一致しないことが多く、塑性流動時の粘性も異なっている。このため、硬度や粘性が異なる金属同士の境界に回転工具を挿入して移動させると、移動方向に直交した方向に力が生じ、回転工具に多大な負荷がかかってしまう。また、塑性流動時の粘性が高い方の金属が、回転工具に付着するといった問題も生じる。
【0012】
また、上記特許文献1のように、2枚の金属板を摩擦攪拌接合する場合、基盤上に設置した各金属板を冶具で固定して行う。このとき、金属板の底面まで回転工具を深く挿入すると、その先端が基盤の表面近くまで達し、その結果、金属板が基盤に接合されてしまうという問題がある。このため、回転工具は基盤の表面から僅かに離れたところまでしか挿入できない。そうすると、両金属板の基盤付近では塑性流動が不充分となり、突合せ境界の接合が不十分な未接合領域が生じてしまう。このような未接合領域は、その厚さ分だけ切削すれば除去できるが、後加工に余分な工程が必要で、材料ロスも大きい。上記特許文献2の裏当て治具10は、このような未接合領域の発生を防止できない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
互いに種類が異なる2つの金属部材を、摩擦攪拌接合法によって良好に接合できる異種金属の接合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の異種金属の接合方法は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入し、
その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための裏側押圧工具を存在させ、
上記裏側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
【0015】
請求項2記載の異種金属の接合方法は、請求項1記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記第1の金属部材に対して上記表側から挿入した上記回転工具を、その先端が上記裏側に到達するように挿入する。
【0016】
請求項3記載の異種金属の接合方法は、請求項2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記裏側押圧工具は、上記回転工具の先端との干渉を防止するための干渉防止空間が設けられている。
【0017】
請求項4記載の異種金属の接合方法は、請求項1~3のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記裏側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記裏側との隙間が小さくなる裏側斜面が設けられている。
【0018】
請求項5記載の異種金属の接合方法は、請求項1~4のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための裏側堤状部が設けられている。
【0019】
請求項6記載の異種金属の接合方法は、請求項1~5のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させ、
上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
【0020】
請求項7記載の異種金属の接合方法は、請求項6記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている。
【0021】
請求項8記載の異種金属の接合方法は、請求項6または7記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている。
【0022】
請求項9記載の異種金属の接合方法は、請求項6~8のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている。
【0023】
請求項10記載の異種金属の接合方法は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置し、
軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入し、
その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する異種金属の接合方法であって、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させ、
上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
【0024】
請求項11記載の異種金属の接合方法は、請求項10記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている。
【0025】
請求項12記載の異種金属の接合方法は、請求項10または11記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている。
【0026】
請求項13記載の異種金属の接合方法は、請求項10~12のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている。
【0027】
請求項14記載の異種金属の接合方法は、請求項1~13のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする。
【0028】
請求項15記載の異種金属の接合方法は、請求項1~13のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも融点が低い金属とする。
【0029】
請求項16記載の異種金属の接合方法は、請求項1~15のいずれか一項に記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
裏側押圧工具の干渉防止空間もしくは裏側斜面もしくは表側押圧工具の表側斜面の少なくともいずれかの一つ以上に第1の金属部材と同種金属の金属部材をあらかじめ配置しておく。
【発明の効果】
【0030】
請求項1記載の異種金属の接合方法は、第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する。まず、互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置する。ついで、軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入する。つぎに、その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記異種金属を接合する。
また、本発明は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための裏側押圧工具を存在させる。そして、上記裏側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
上記第1の金属部材に対して上記回転工具を挿入することにより、上記第1の金属部材だけに塑性流動が生じ、第2の金属部材では塑性流動がほとんど起こらない。このとき、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面させた上記裏側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。これにより、激しい塑性流動で金属が飛散等したとしても、上記摩擦攪拌で流動する金属が裏側押圧工具が押さえるため、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。したがって、超音波による非破壊検査が適用でき、接合部の信頼性が確保できる。
また、両金属部材の裏側近傍まで回転工具を深く挿入したとしても、上記摩擦攪拌で流動する金属が裏側押圧工具が押さえるため、従来問題となった未接合領域がほとんど生じない。したがって、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
また、回転工具を第1の金属部材の側にだけ挿入することにより、従来問題であった回転工具にかかる垂直方向の力を大きく緩和し、工具の劣化を防止できる。さらに、塑性流動時の粘性が小さい金属だけに回転工具を挿入できるため、回転工具への金属の付着も抑制される。したがって、回転工具に付着した金属を除去する、回転工具を交換する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
本発明の異種金属の接合方法によれば、互いに種類が異なる2つの金属部材を、摩擦攪拌接合法によって良好に接合することができる。
【0031】
請求項2記載の異種金属の接合方法は、上記第1の金属部材に対して上記表側から挿入した上記回転工具を、その先端が上記裏側に到達するように挿入する。
上記裏側に到達した上記回転工具の先端によって流動する金属を、裏側押圧工具が押さえるため、従来問題となった未接合領域がほとんど生じない。したがって、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
【0032】
請求項3記載の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具は、上記回転工具の先端との干渉を防止するための干渉防止空間が設けられている。
上記裏側に到達した上記回転工具の先端が上記裏側押圧工具に干渉するのが防止され、上記回転工具や上記裏側押圧工具の損傷を防止できる。
【0033】
請求項4記載の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記裏側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記裏側との隙間が小さくなる裏側斜面が設けられている。
上記裏側押圧工具が、上記回転工具の移動に同期して上記境界に沿って移動するときに、上記裏側に到達した上記回転工具の先端によって流動する金属が、上記裏側斜面により、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に向かって押し戻される。このため、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。また、従来問題となった未接合領域がほとんど生じず、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
【0034】
請求項5記載の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の裏側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための裏側堤状部が設けられている。
上記裏側に到達した上記回転工具の先端によって流動する金属を上記裏側堤状部が堰き止めることにより、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0035】
請求項6記載の異種金属の接合方法は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させる。そして、上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
上記摩擦攪拌で流動する金属が表側押圧工具が押さえるため、ボイドの発生を大幅に減少させることができる。
【0036】
請求項7記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている。
上記回転工具の周囲の領域に生じる金属の流動を上記表側押圧工具で押えることにより、ボイドの発生を大幅に減少させることができる。
【0037】
請求項8記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている。
上記表側押圧工具が、上記回転工具の移動に同期して上記境界に沿って移動するときに、上記回転工具の挿入で流動する金属が、上記表側斜面により、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に向かって押し戻される。このため、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0038】
請求項9記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている。
上記回転工具の挿入で流動する金属を上記表側堤状部が堰き止めることにより、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0039】
請求項10記載の異種金属の接合方法は、第1の金属部材と上記第2の金属部材を摩擦攪拌によって接合する。まず、互いに種類が異なる第1の金属部材と第2の金属部材を、実質的に隙間ができないように隣接して配置する。ついで、軸回転する回転工具を、上記回転工具の外周縁が上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の境界と略一致するよう、上記第1の金属部材に対してその表側から挿入する。つぎに、その状態で上記回転工具を上記境界に沿って移動させることにより、上記異種金属を接合する。
本発明は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具を存在させる。そして、上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。
上記第1の金属部材に対して上記回転工具を挿入することにより、上記第1の金属部材だけに塑性流動が生じ、第2の金属部材では塑性流動がほとんど起こらない。このとき、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面させた上記表側押圧工具を、上記回転工具の移動に同期させて上記境界に沿って移動させる。これにより、激しい塑性流動で金属が飛散等したとしても、上記摩擦攪拌で流動する金属が表側押圧工具が押さえるため、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。したがって、超音波による非破壊検査が適用でき、接合部の信頼性が確保できる。
また、回転工具を第1の金属部材の側にだけ挿入することにより、従来問題であった回転工具にかかる垂直方向の力を大きく緩和し、工具の劣化を防止できる。さらに、塑性流動時の粘性が小さい金属だけに回転工具を挿入できるため、回転工具への金属の付着も抑制される。したがって、回転工具に付着した金属を除去する、回転工具を交換する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
本発明の異種金属の接合方法によれば、互いに種類が異なる2つの金属部材を、摩擦攪拌接合法によって良好に接合することができる。
【0040】
請求項11記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記回転工具を貫通挿入させる貫通部が設けられている。
上記回転工具の周囲の領域に生じる金属の流動を上記表側押圧工具で押えることにより、ボイドの発生を大幅に減少させることができる。
【0041】
請求項12記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面して上記境界を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面が設けられている。
上記表側押圧工具が、上記回転工具の移動に同期して上記境界に沿って移動するときに、上記回転工具の挿入で流動する金属が、上記表側斜面により、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に向かって押し戻される。このため、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0042】
請求項13記載の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材の表側に対面する上記境界の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部が設けられている。
上記回転工具の挿入で流動する金属を上記表側堤状部が堰き止めることにより、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0043】
請求項14記載の異種金属の接合方法は、上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも硬度が低い金属とする。
塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材だけに回転工具を挿入するため、回転工具への金属の付着が抑制され、回転工具のメンテナンスの頻度を減らすことができる。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済むため、動力の節減に有利である。
【0044】
請求項15記載の異種金属の接合方法は、上記回転工具を挿入する上記第1の金属部材を、上記第2の金属部材よりも融点が低い金属とする。
仮に、回転工具を挿入する第1の金属部材のほうが融点が高ければ、第1の金属部材が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具を挿入する第1の金属部材を、第2の金属部材よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できる。
【0045】
請求項16記載の異種金属の接合方法は、裏側押圧工具の干渉防止空間もしくは裏側斜面もしくは表側押圧工具の表側斜面の少なくともいずれかの一つ以上に、第1の金属部材と同種金属の金属部材をあらかじめ配置しておく。
上記構成により、上記の各箇所が空間になっている場合に比べ、第1の金属部材がそこに充填される必要が無いので、減肉を避けることができる。
【0046】
ここで、本発明において、「表側」「裏側」は、単に、相対立する位置関係を示すものであり、地上空間における「上側」「下側」に対応するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の異種金属の接合方法の実施形態を説明する図である。
図2】回転工具と表側押圧工具および裏側押圧工具の位置関係を説明する図である。
図3】裏側押圧工具を説明する図である。
図4】表側押圧工具を説明する図である。
図5】上記実施形態の異種金属の接合方法を実施する状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0049】
図1および図2は、本発明の異種金属の接合方法の実施形態を説明する図である。
図1(A)は分解斜視図、図1(B)は下から見た状態である。
図2(A)は上から見た図、図2(B)は工具の進行方向に見た断面図、図2(C)は工具の進行方向と直交する方向に見た断面図である。
【0050】
〔概要〕
本実施形態の異種金属の接合方法は、互いに異種金属である第1の金属部材10と第2の金属部材20を摩擦攪拌接合によって接合するときに、回転工具30と裏側押圧工具40と表側押圧工具50を使用する。上記回転工具30は、上記第1の金属部材10側に挿入して移動させる。上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面させて上記回転工具30に同期して移動させる。上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面させて上記回転工具30に同期して移動させる。
【0051】
上記上記回転工具30の移動により、第1の金属部材10に塑性流動が生じ、第1の金属部材10と第2の金属部材20が摩擦攪拌によって接合される。上記裏側押圧工具40により、上記摩擦攪拌で流動する裏側の金属を押さえ、上記表側押圧工具50により、上記摩擦攪拌で流動する表側の金属を押さえる。これにより、互いに種類が異なる第1の金属部材10と第2の金属部材20を摩擦攪拌接合によって良好に接合する。
【0052】
〔基本工程〕
本実施形態の異種金属の接合方法は、第1の金属部材10と第2の金属部材20を摩擦攪拌接合によって接合する。第1の金属部材10と第2の金属部材20は、互いに種類が異なる異種金属である。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20は、純金属でもよいし合金でもよい。図示した例は、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20は、それぞれおなじ厚みに設定された長方形の板材である。
【0053】
まず、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20を、実質的に隙間ができないように隣接して配置する。図示した例では、それぞれ長方形の板材である第1の金属部材10と第2の金属部材20を、互いの長辺を突き合せるように配置する。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20と突き合せたところに境界3が形成される。
【0054】
ついで、軸回転する回転工具30を、上記回転工具30の外周縁が上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の境界3と略一致するよう、上記第1の金属部材10に対してその表側から挿入する。このとき、上記回転工具30は、上記第1の金属部材10の厚みを貫通して先端が裏面側に達する程度に挿入するのが好ましい。
【0055】
つぎに、その状態で上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させる。このとき、上記境界3に沿って第1の金属部材10に塑性流動が生じ、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20の上記境界3が、摩擦攪拌によって接合される。
【0056】
〔押圧動作〕
上述した基本工程に加え、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側において、上記裏側押圧工具40により上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえ、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側において、上記表側押圧工具50により上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえる。上記裏側押圧工具40および上記表側押圧工具50については後述する。
【0057】
〔金属部材の材質〕
上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも硬度が低い金属とするのが好ましい。このようにすることにより、塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材10だけに回転工具30を挿入するため、回転工具30への金属の付着が抑制される。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済む。
【0058】
上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とするのが好ましい。このようにすることにより、接合不良や欠陥の発生を防止できる。仮に、回転工具30を挿入する第1の金属部材10のほうが融点が高ければ、第1の金属部材10が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材20が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できるのである。
【0059】
たとえば、上記第1の金属部材10としてアルミニウム系の材料を使用し、上記第2の金属部材20として銅系の材料を使用することができる。もちろん、本発明を、上記の組み合わせに限定する趣旨ではない。
【0060】
〔回転工具30〕
上記回転工具30は、大略円柱状であり、上記第1の金属部材10にその表面側から挿入される。上記回転工具30は、上記第1の金属部材10の厚みを貫通して先端が裏面側に達する程度の長さに設定される。上記回転工具30が上記第1の金属部材10に挿入されて移動することにより、上記第1の金属部材10に塑性流動が生じる。上記第1の金属部材10と第2の金属部材20の境界3の近傍で、上記第1の金属部材10に塑性流動を生じさせ、上記第1の金属部材10と第2の金属部材20が接合される。
【0061】
上記回転工具30の外周には、逆ねじ部を形成することができる。上記回転工具30は、右ねじのねじ込み方向に回転させながら軸方向に沿って下降させて上記第1の金属部材10に向かって侵入させる。このとき、上記逆ねじ部33が設けられることにより、回転工具30を金属に侵入させるときに攪拌作用が生じ、塑性流動を促進することができる。
【0062】
上記回転工具30を上記第1の金属部材10にその表側から挿入するときに、回転する回転工具30の外周縁を上記境界3に略一致させる。上記外周縁は、第1の金属部材10に侵入させる回転工具30を回転させたときに、最も外側に形成される工具の回転軌跡である。
【0063】
ここで、回転工具30の外周縁を境界3に略一致させるとは、具体的には、回転工具30の外周縁が上記境界3から0.1mm程度離れた状態から、回転工具30の外周縁が上記境界3を超えて第2の金属部材20側に入り込む状態までの各状態である。これらの状態であれば、良好な接合を得ることができる。
【0064】
上記回転工具30を上記第1の金属部材10にその表側から挿入した状態で、上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させる。移動方向は、上記境界3に沿うとともに、第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せて面一となった上面に対して平行な方向である。
【0065】
〔裏側押圧工具40〕
図3は、裏側押圧工具40を説明する図である。(A)は平面図、(B)は横から見た図、(C)は底面図、(D)は移動方向から見た図、(E)は横から見た断面図である。
【0066】
上記裏側押圧工具40は、大略ブロック状であり、図示しない移動テーブル上に設置されている。
【0067】
上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面させて存在させ、上記回転工具30の移動に同期させて上記境界3に沿って移動させる。これにより、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側において、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえ、接合後の表面を平らにする。
【0068】
上記裏側押圧工具40は、上記回転工具30の先端との干渉を防止するための干渉防止空間41が設けられている。上記干渉防止空間41は、この例では、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面する面に形成された凹部である。
【0069】
このようにすることにより、上記第1の金属部材10に対して上記回転工具30を上記表側から挿入して先端を上記裏側に到達させたときに、上記回転工具30の先端と上記裏側押圧工具40との干渉が防止される。
【0070】
上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面して上記境界3を跨ぐ領域に、裏側斜面42が設けられている。上記裏側斜面42は、上記裏側押圧工具40の移動方向の後方に向かって徐々に上記裏側との隙間が小さくなるように設けられている。これにより、上記裏側押圧工具40を、上記回転工具30に同期させて移動させたときに塑性流動する金属を、上記裏側斜面42が徐々に押さえるようになっている。
【0071】
上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面する上記境界3の両側に、裏側堤状部43が設けられている。上記裏側堤状部43は、上記裏側押圧工具40を、上記回転工具30に同期させて移動させたときに上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止める。
【0072】
上記裏側堤状部43と上記裏側斜面42とのあいだの段差は、上記裏側押圧工具40の移動方向の前方が大きく、後方に向かって徐々に小さくなり、最終的には面一になる。
【0073】
〔表側押圧工具50〕
図4は、表側押圧工具50を説明する図である。(A)は平面図、(B)は横から見た図、(C)は底面図、(D)は移動方向から見た図、(E)は横から見た断面図である。
【0074】
上記表側押圧工具50は、大略ブロック状であり、図示しない移動テーブル上に設置されている。
【0075】
上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面させて存在させ、上記回転工具30の移動に同期させて上記境界3に沿って移動させる。これにより、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側において、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえ、接合後の表面を平らにする。
【0076】
上記表側押圧工具50は、上記回転工具30を貫通挿入させる貫通部51が設けられている。上記貫通部51は、この例では、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面する面に開口する貫通穴である。
【0077】
このようにすることにより、上記回転工具30の周辺で塑性流動する金属を有効に押さえることができる。
【0078】
上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面して上記境界3を跨ぐ領域に、表側斜面52が設けられている。上記表側斜面52は、上記表側押圧工具50の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなるように設けられている。これにより、上記表側押圧工具50を、上記回転工具30に同期させて移動させたときに塑性流動する金属を、上記表側斜面52が徐々に押さえるようになっている。
【0079】
上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面する上記境界3の両側に、表側堤状部53が設けられている。上記表側堤状部53は、上記表側押圧工具50を、上記回転工具30に同期させて移動させたときに上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止める。
【0080】
上記表側堤状部53と上記表側斜面52とのあいだの段差は、上記表側押圧工具50の移動方向の前方が大きく、後方に向かって徐々に小さくなり、最終的には面一になる。
【0081】
〔実施状態〕
図5は、上記実施形態の異種金属の接合方法を実施する状態を説明する図である。
【0082】
上記回転工具30を、たとえば1000~2000rpm程度で回転させる。上記回転工具30は、上記第1の金属部材10の厚みを貫通して先端が上記干渉防止空間41
に達するまで挿入される。この状態で、上記回転工具30、裏側押圧部材40および表側押圧部材50を、上記境界3に沿って移動させる。矢印で示す移動方向は、第1の金属部材10と第2の金属部材20を突き合せて面一となった表側面および裏側面に対して平行である。たとえば第1の金属部材10と第2の金属部材20の厚みが10mmであれば、移動速度は毎分150~250mm程度である。
【0083】
〔実施形態の効果〕
上記実施形態の異種金属の接合方法は、第1の金属部材10と上記第2の金属部材20を摩擦攪拌によって接合する。まず、互いに種類が異なる第1の金属部材10と第2の金属部材20を、実質的に隙間ができないように隣接して配置する。ついで、軸回転する回転工具30を、上記回転工具30の外周縁が上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の境界3と略一致するよう、上記第1の金属部材10に対してその表側から挿入する。つぎに、その状態で上記回転工具30を上記境界3に沿って移動させることにより、上記異種金属を接合する。
また、本実施形態は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための裏側押圧工具40を存在させる。そして、上記裏側押圧工具40を、上記回転工具30の移動に同期させて上記境界3に沿って移動させる。
上記第1の金属部材10に対して上記回転工具30を挿入することにより、上記第1の金属部材10だけに塑性流動が生じ、第2の金属部材20では塑性流動がほとんど起こらない。このとき、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面させた上記裏側押圧工具40を、上記回転工具30の移動に同期させて上記境界3に沿って移動させる。これにより、激しい塑性流動で金属が飛散等したとしても、上記摩擦攪拌で流動する金属が裏側押圧工具40が押さえるため、結果的にボイドの発生を大幅に減少させることができる。したがって、2種類の金属の混在やボイド等の欠陥が少ない極めて良好な接合状態を得ることができる。したがって、超音波による非破壊検査が適用でき、接合部の信頼性が確保できる。
また、両金属部材の裏側近傍まで回転工具30を深く挿入したとしても、上記摩擦攪拌で流動する金属が裏側押圧工具40が押さえるため、従来問題となった未接合領域がほとんど生じない。したがって、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
また、回転工具30を第1の金属部材10の側にだけ挿入することにより、従来問題であった回転工具30にかかる垂直方向の力を大きく緩和し、工具の劣化を防止できる。さらに、塑性流動時の粘性が小さい金属だけに回転工具30を挿入できるため、回転工具30への金属の付着も抑制される。したがって、回転工具30に付着した金属を除去する、回転工具30を交換する等のメンテナンスの頻度を減らすことができる。
本実施形態の異種金属の接合方法によれば、互いに種類が異なる2つの金属部材を、摩擦攪拌接合法によって良好に接合することができる。
【0084】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記第1の金属部材10に対して上記表側から挿入した上記回転工具30を、その先端が上記裏側に到達するように挿入する。
上記裏側に到達した上記回転工具30の先端によって流動する金属を、裏側押圧工具40が押さえるため、従来問題となった未接合領域がほとんど生じない。したがって、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
【0085】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具40は、上記回転工具30の先端との干渉を防止するための干渉防止空間41が設けられている。
上記裏側に到達した上記回転工具30の先端が上記裏側押圧工具40に干渉するのが防止され、上記回転工具30や上記裏側押圧工具40の損傷を防止できる。
【0086】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面して上記境界3を跨ぐ領域に、上記裏側押圧工具40の移動方向の後方に向かって徐々に上記裏側との隙間が小さくなる裏側斜面42が設けられている。
上記裏側押圧工具40が、上記回転工具30の移動に同期して上記境界3に沿って移動するときに、上記裏側に到達した上記回転工具30の先端によって流動する金属が、上記裏側斜面42により、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に向かって押し戻される。このため、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。また、従来問題となった未接合領域がほとんど生じず、切削による後加工が不要となり、材料ロスも少ない。
【0087】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記裏側押圧工具40は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の裏側に対面する上記境界3の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための裏側堤状部43が設けられている。
上記裏側に到達した上記回転工具30の先端によって流動する金属を上記裏側堤状部43が堰き止めることにより、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0088】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面させて、上記摩擦攪拌で流動する金属を押さえるための表側押圧工具50を存在させる。そして、上記表側押圧工具50を、上記回転工具30の移動に同期させて上記境界3に沿って移動させる。
上記摩擦攪拌で流動する金属が表側押圧工具50が押さえるため、ボイドの発生を大幅に減少させることができる。
【0089】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具50は、上記回転工具30を貫通挿入させる貫通部51が設けられている。
上記回転工具30の周囲の領域に生じる金属の流動を上記表側押圧工具50で押えることにより、ボイドの発生を大幅に減少させることができる。
【0090】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面して上記境界3を跨ぐ領域に、上記表側押圧工具50の移動方向の後方に向かって徐々に上記表側との隙間が小さくなる表側斜面53が設けられている。
上記表側押圧工具50が、上記回転工具30の移動に同期して上記境界3に沿って移動するときに、上記回転工具30の挿入で流動する金属が、上記表側斜面53により、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に向かって押し戻される。このため、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0091】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記表側押圧工具50は、上記第1の金属部材10と上記第2の金属部材20の表側に対面する上記境界3の両側に、上記摩擦攪拌で流動する金属を堰き止めるための表側堤状部53が設けられている。
上記回転工具30の挿入で流動する金属を上記表側堤状部53が堰き止めることにより、金属の飛散を防止してボイドの発生を大幅に減少させる。
【0092】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30を挿入する上記第1の金属部材10を、上記第2の金属部材20よりも硬度が低い金属とする。
塑性流動時の粘性が小さい第1の金属部材10だけに回転工具30を挿入するため、回転工具30への金属の付着が抑制され、回転工具30のメンテナンスの頻度を減らすことができる。また、塑性流動を生じさせるために必要なエネルギーが小さくて済むため、動力の節減に有利である。
【0093】
本実施形態の異種金属の接合方法は、上記回転工具30を挿入する上記第1の金属部材10を、上記第2の金属部材20よりも融点が低い金属とする。
仮に、回転工具30を挿入する第1の金属部材10のほうが融点が高ければ、第1の金属部材10が塑性流動するまで高温になったころに相手材である第2の金属部材20が溶融しはじめ、接合不良や欠陥が生じるおそれがある。上記回転工具30を挿入する第1の金属部材10を、第2の金属部材20よりも融点が低い金属とすることにより、上記のような不都合の発生を防止できる。
【0094】
〔変形例〕
上記実施形態の異種金属の接合方法において、上記裏側押圧工具40の干渉防止空間41もしくは裏側斜面42もしくは表側押圧工具50の表側斜面52の少なくともいずれかの一つ以上に、第1の金属部材10と同種金属の金属部材をあらかじめ配置しておくことができる。
このようにすることにより、上記の各箇所が空間になっている場合に比べ、第1の金属部材10がそこに充填される必要が無いので、減肉を避けることができる。
【0095】
〔その他の変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【符号の説明】
【0096】
3:境界
10:第1の金属部材
20:第2の金属部材
30:回転工具
40:裏側押圧工具
41:干渉防止空間
42:裏側斜面
43:裏側堤状部
50:表側押圧工具
51:貫通部
52:表側斜面
53:表側堤状部
図1
図2
図3
図4
図5