(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】コーン型絶縁スペーサの解析方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H02B 13/045 20060101AFI20240521BHJP
H02G 5/06 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H02B13/045 C
H02G5/06 351
(21)【出願番号】P 2021030492
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健次
(72)【発明者】
【氏名】加藤 克巳
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335390(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111891(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 13/045
H02G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの解析方法であって、
インパルス電圧印加時のガス中絶縁強度に対する電界強度の割合(k
g)、インパルス電圧印加時のコーン型絶縁スペーサ沿面における絶縁強度に対する電界強度の割合(k
i)、交流電圧印加時の中心導体とコーン型絶縁スペーサとの界面における絶縁強度に対する電界強度の割合(k
s)から選択される2以上のパラメータに基づいて逆求解計算を行い、前記n層の絶縁樹脂層の各々について比誘電率を得る工程を含む解析方法。
【請求項2】
前記比誘電率を得る工程が、
(a)初期条件を与える工程と、
(b)前記初期条件に基づき、電界解析を行う工程と、
(c)工程(b)で得られた電界強度に基づき、k
g、k
i、k
sから選択される2以上のパラメータを計算する工程と、
(d)工程(c)で計算した最大のパラメータを最小化する観点から、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う工程と
を含む、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記初期条件が、初期比誘電率、印加電圧、スペーサ形状を含む、請求項2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記工程(b)から(d)を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し行いn層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の最終結果を得る、請求項2または3に記載の解析方法。
【請求項5】
前記比誘電率の最終結果に基づき、電界強度分布の最終結果を得る工程をさらに含む、請求項4に記載の解析方法。
【請求項6】
中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の解析方法により、前記n層の絶縁樹脂層の各々について比誘電率を得る工程と、
前記工程により得られた比誘電率を与える材料を、前記n層の絶縁樹脂層の各々について選定する工程と、
前記n層の絶縁樹脂層を積層し、コーン型絶縁スペーサを形成する工程と
を含む製造方法。
【請求項7】
前記選定する工程が、前記比誘電率から、熱硬化性樹脂主剤と、無機充填材とを含む材料の組成を算出する工程を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記算出する工程が、前記比誘電率から、熱硬化性樹脂主剤と、比誘電率の異なる2種以上の無機充填材とを含む材料の組成を算出する工程を含む請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置に使用されるコーン型絶縁スペーサの解析方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉装置は、金属製の密封容器の中に高圧導体が配置された構造を備えている。このようなガス絶縁開閉装置において、高圧導体を密封容器の所定の位置に固定するための絶縁スペーサと呼ばれる固体絶縁物が用いられている。従来、一般的に用いられるコーン型の絶縁スペーサにおいては、中央部に高圧導体が設けられ、高圧導体を支持するように絶縁スペーサが設けられる。絶縁スペーサの周囲には金属フランジが取り付けられ、金属フランジにより、密封容器の連結フランジに挟まれて、密封容器に固定される。ガス絶縁開閉装置に用いられる絶縁スペーサには、これ以外にも種々の形状、構造のものがあり、円盤状のもの、軸対称の凹凸を設けたもの、あるいは3本の高圧導体が貫通するものなども知られている。
【0003】
近年、より経済性が要求されるようになり、ガス絶縁開閉装置のコンパクト化が望まれている。従来の絶縁スペーサにおいては、SF6を主成分とする絶縁ガスと固体絶縁物の誘電率の違いを要因とするガス空間における電界集中や、導電性異物の管理などがコンパクト化の妨げとなっている。そこで、コンパクト化をはかるため、コーン型絶縁スペーサの誘電率を径方向に変化させることにより、その表面の沿面方向成分の電界を低減する検討がされている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ガス絶縁開閉装置(GIS)などの高電圧機器のコンパクト化を目的とした、誘電率傾斜機能材料(ε-FGM)の適用において、本発明者らは実器を想定した絶縁スペーサモデルに逆求解計算技術を適用することを開示している(例えば、非特許文献1を参照)。比特許文献1においては、スペーサ周囲の最大電界を低減することができる比誘電率を、計算により得たことを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】電気学会B 部門大会, 333 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
誘電率を傾斜させ電界強度を低減する場合、高圧導体とSF6ガス界面の他に、絶縁スペーサの沿面とSF6ガスとの界面、高圧導体と絶縁スペーサを構成する樹脂との界面など、考慮すべき電界強度は数種類もある。そのため、特許文献1のようなスペーサにおいて、どのように誘電率を傾斜させるべきか、不明であった。
【0008】
また、非特許文献1の技術は電界強度の部分的な最適化にすぎず、当該部分的な最適化が、ガス絶縁開閉装置の絶縁性能の向上に真に寄与するかが不明であった。実用化に向けて、さらなる検討が必要である。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、異なる誘電率をもつ複数の層から構成され、誘電率に傾斜をもたせた絶縁スペーサであって、かつ十分な絶縁破壊耐性を備えた信頼性の高い絶縁スペーサを提供するための、各層の誘電率分布を自動で求めることができる絶縁スペーサの解析方法、並びにこれを用いた絶縁スペーサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定のパラメータを解析計算に導入することに想到し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は一実施形態によれば、中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、当該中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの解析方法であって、
インパルス電圧印加時のガス中絶縁強度に対する電界強度の割合(kg)、インパルス電圧印加時のコーン型絶縁スペーサ沿面における絶縁強度に対する電界強度の割合(ki)、交流電圧印加時の中心導体とコーン型絶縁スペーサとの界面における絶縁強度に対する電界強度の割合(ks)から選択される2以上のパラメータに基づいて逆求解計算を行い、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率を得る工程を含む解析方法に関する。
【0012】
前記解析方法において、前記比誘電率を得る工程が、
(a)初期条件を与える工程と、
(b)前記初期条件に基づき、電界解析を行う工程と、
(c)工程(b)で得られた電界強度に基づき、kg、ki、ksから選択される2以上のパラメータを計算する工程と、
(d)工程(c)で計算した最大のパラメータを最小化する観点から、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う工程と
を含むことが好ましい。
【0013】
前記解析方法において、前記初期条件が、初期比誘電率、印加電圧、スペーサ形状を含むことが好ましい。
【0014】
前記解析方法において、前記工程(b)から(d)を1サイクルとして、当該サイクルを繰り返し行い、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の最終結果を得ることが好ましい。
【0015】
前記解析方法において、前記比誘電率の最終結果に基づき、電界強度分布の最終結果を得る工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
本発明は別の実施形態によれば、中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの製造方法であって、
前述のいずれか1項に記載の解析方法により、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率を得る工程と、
前記工程により得られた比誘電率を与える材料を、前記n層の絶縁樹脂層の各々について選定する工程と、
前記n層の絶縁樹脂層を積層し、コーン型絶縁スペーサを形成する工程と
を含む製造方法に関する。
【0017】
前記製造方法において、前記選定する工程が、前記比誘電率から、熱硬化性樹脂主剤と、無機充填材とを含む材料の組成を算出する工程を含むことが好ましい。
【0018】
前記製造方法において、前記算出する工程が、前記比誘電率から、熱硬化性樹脂主剤と、比誘電率の異なる2種以上の無機充填材とを含む材料の組成を算出する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、数か所の電界分布のバランスを考慮しながら、従来人間の経験と試行錯誤により設定されていた誘電率分布を自動で求めることが短時間で可能となるとともに、所望の誘電率傾斜をもち、絶縁破壊耐性を備えたコーン型絶縁スペーサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る解析方法が適用され、本発明に係る製造方法により製造されるコーン型絶縁スペーサを説明する概念的な断面図である。
【
図2】
図2は、第1態様に係る3パラメータを用いた解析方法の流れを説明する図である。
【
図3】
図3は、第1態様に係る3パラメータを用いた解析方法を適用する、コーン型絶縁スペーサ、中心導体、SF
6ガスから構成される絶縁系を模式的に示す図である。
【
図4】
図4(a)は、スペーサの誘電率分布を逆求解する手順において、絶縁スペーサ表面の電位分布を概念的に説明する図であり、(b)は直列キャパシタンスモデルを概念的に説明する図である。
【
図5】
図5は、第2態様に係る2パラメータを用いた解析方法の流れを説明する図である。
【
図6】
図6は、第2態様に係る2パラメータを用いた解析方法を適用する、コーン型絶縁スペーサ、中心導体、SF
6ガスから構成される絶縁系を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、所定の比誘電率を与える材料を選定する方法の一例を説明するグラフであって、高誘電率フィラー含有樹脂の体積%に対する、比誘電率の値をプロットしたグラフである。
【
図8】
図8(a)は、誘電率一様分布に基づく計算により得られる電界強度分布(INIT)、(b)は、第1態様及び第2態様に係る解析方法により得られる電界強度分布(INS-INV)の例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1態様に係る3パラメータを用いた解析結果の一例であって、パラメータを相対化した値であるk
gr、k
sr、k
irの繰り返し計算による変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、第2態様に係る2パラメータを用いた解析結果の一例であって、パラメータを相対化した値であるk
gr、k
srの繰り返し計算による変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0022】
本発明は、コーン型絶縁スペーサの解析方法、及び当該解析方法に基づくコーン型絶縁スペーサの設計、製造方法に関する。本発明により解析対象となり、かつ設計、製造対象となるコーン型絶縁スペーサについて説明する。
図1は、コーン型絶縁スペーサを説明する概念的な断面図である。
図1を参照すると、コーン型絶縁スペーサは、中心導体1と、n層の絶縁樹脂層(L
1、L
2、L
3・・・L
i・・・、L
n-1、L
n)から構成される固体部2と、周縁部の金属フランジ3とから主として構成される。固体部2は、2つのシース4a、4bにより金属フランジ3が挟まれて固定される。
【0023】
固体部2は、中心導体1を支持して当該中心導体1の周囲に設けられる。そして、中心導体1の軸A方向に沿った一方の面が凸面Cであり、他方の面が凹面Rに形成される。n層の絶縁樹脂層(L1、L2、・・・Li・・・、Ln-1、Ln)は、凸面Cから前記凹面Rに向けて積層され、各層の複数の界面は略平行に形成されていることが好ましい。
【0024】
本発明において解析、設計、製造対象となるコーン型絶縁スペーサにおいて、積層される複数の絶縁樹脂層の数nは、2以上の整数である。nは、好ましくは3以上であり、さらに好ましくは6以上である。nの上限は解析の理論上は特には限定されない。製造上の観点からは、nは例えば、10~40であってよく、30~40とすることが好ましい。
【0025】
n層の絶縁樹脂層の厚さは、解析、設計上は、すべて同一であることが好ましいが、異なる厚さに設定して解析することもできる。n層の絶縁樹脂層は、それぞれの層Li(iは1からnから選択される整数である)が、本発明の解析方法にて得られた、所定の電界強度分布を与える比誘電率εiを備える。所定の比誘電率をもつ絶縁樹脂層は、熱硬化性樹脂と、1種以上の無機充填剤とを含む絶縁樹脂組成物を硬化させた絶縁樹脂硬化物であってよい。絶縁樹脂硬化物の組成及びその選定方法は、絶縁スペーサの製造方法とともに説明する。
【0026】
上記の構成を備えるコーン型絶縁スペーサは、円筒状の密封容器の連結フランジに挟まれて固定され、ガス絶縁開閉装置の部材として使用される。
【0027】
[第1実施形態:コーン型絶縁スペーサの解析方法]
本発明は、第1実施形態によれば、コーン型絶縁スペーサの解析方法に関する。より詳細には、中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、当該中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの解析方法であって、
インパルス電圧印加時のガス中絶縁強度に対する電界強度の割合(kg)、インパルス電圧印加時のコーン型絶縁スペーサ沿面における絶縁強度に対する電界強度の割合(ki)、交流電圧印加時の中心導体とコーン型絶縁スペーサとの界面における絶縁強度に対する電界強度の割合(ks)から選択される2以上のパラメータに基づいて逆求解計算を行い、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率を得る工程を含む解析方法に関する。
【0028】
本実施形態における解析方法とは、コーン型絶縁スペーサを構成するn層の絶縁樹脂層の各々について比誘電率を得る方法、並びにn層の絶縁樹脂層が当該比誘電率を持つ場合のコーン型絶縁スペーサ近傍の電界強度分布を得る方法を含む。また、これらに基づき、最大電界、絶縁性能、比誘電率の最大値を得ることも、本発明の解析方法に含まれる。以下、コーン型絶縁スペーサを省略して、単に絶縁スペーサと指称する場合がある。
【0029】
(1)3パラメータを用いた解析方法
図2は、第1実施形態の第1態様による3パラメータを用いた解析方法の流れを示す図であり、
図3は、解析方法が適用される絶縁系を概念的に示す図である。
【0030】
第1態様による3パラメータを用いた解析方法は、以下の工程を備える。
(a)初期条件を与える工程
(b)前記初期条件に基づき、電界解析を行う工程
(c)工程(b)で得られた電界強度に基づき、パラメータkg、ki、ksを計算する工程
(d)工程(c)で計算した最大のパラメータを最小化する観点から、n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う工程
【0031】
工程(a)では、計算に必要な初期条件を与える。初期条件としては、絶縁スペーサの形状に関する条件、絶縁樹脂層の積層数(固体部の分割数)n、印加電圧、初期比誘電率εinitがある。絶縁スペーサの形状に関する条件は、解析対象とする絶縁スペーサ製品の仕様によって決定することができる。例えば、中心導体の内外径比、絶縁スペーサの傾斜角度等から絶縁スペーサの具体的な寸法と形状を特定することができる。nは、絶縁スペーサの製造上の許容度から適宜決定することができる。印加電圧は、絶縁スペーサが適用されるガス絶縁開閉装置の仕様等によって決定され得る値である。初期比誘電率εinitは、n層からなる絶縁樹脂層の全てに同一の値を与えることができる。この値は、絶縁スペーサの各層を構成する樹脂硬化物の材料特性等により、適宜決定することができる。
【0032】
工程(b)では、初期比誘電率εinitに基づき、電界解析を行う。電界解析は、一例として有限要素法(FEM:finite element method)を用いて行うことができるが、解析方法は特定の方法には限定されない。FEMを用いた電界解析は、例えば、市販のシミュレーションソフトウェアを用いて実施することができる。その他にも、差分法、表面電荷法などの方法を用いて電界解析を行うことができる。工程(b)により、絶縁スペーサ近傍の電界強度分布が得ることができる。
【0033】
工程(c)では、工程(b)により得られた電界強度分布から、パラメータk
g、k
i、k
sの計算を行う。
図3の絶縁系を参照すると、ガス中インパルス電圧印加時の絶縁特性、インパルス電圧印加時の絶縁スペーサ沿面の絶縁特性、および交流電圧印加時の中心導体/絶縁スペーサ界面長時間絶縁特性の3つを主な支配因子と考えられる。誘電率分布を変化させた場合、一方の特性が向上し、他方が低下するといった、相反する結果につながることも考えられる。このため、3つの絶縁特性のバランスを保ちつつ、3者の絶縁特性の最大化を行うことが必要になる。
【0034】
本工程では、以下のようにパラメータkg、ki、ksを定義する。
ガス中:kg=Eg(imp)/Egt(imp)
絶縁スペーサ沿面:ki=Ei(imp)/Egt(imp)
中心導体/絶縁スペーサ界面:ks=Es(ac)/Est(ac)
ここで、Eg(imp)は、インパルス電圧印加時のガス中電界強度、Egt(imp)は、インパルス電圧印加時のガス中絶縁強度、Ei(imp)は、インパルス電圧印加時の絶縁スペーサ沿面電界強度、Es(ac)は、交流電圧印加時の中心導体/絶縁スペーサ界面電界強度、Est(ac)は、交流電圧印加時の絶縁スペーサ(固体部)中長時間絶縁強度である。Eg(imp)、Ei(imp)、及びEs(ac)は、工程(b)の電界解析結果から得ることができる。一方、Egt(imp)は、参考文献1(電学論B, Vol.93-B, No.11, pp.551-558 (1973))の557頁右欄、(1)の上の近似式から得ることができる。Est(ac)は、参考文献2(電学論B, Vol.117-B, No.2, pp.210-215 (1997))の214頁左欄、上から2行目の数値範囲から得ることができる。
【0035】
この式から、パラメータkg、ki、ksは、それぞれの媒質における絶縁強度に対する電界強度の割合に相当することが理解できる。次工程(d)の誘電率分布の逆求解計算では、この3つの値のバランスを保ちながら、パラメータkg、ki、ksの最小化を目指す。
【0036】
工程(d)では、3つのパラメータのうち、最大であったものを最小化する観点から、n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う。具体的な誘電率逆求解の計算手順を、
図3を用いて説明する。まず、ガス空間の絶縁性能向上のためには、
図3に示すように、高電圧電極である中心導体面から出発する電気力線を、対向する絶縁物である絶縁スペーサ表面まで計算する。到達した点の電位をV
sgとすると、SF
6ガス中の中心導体面における電界E
gを低減させるためには、V
sgを高め、中心導体と絶縁スペーサ表面の電位差V
ap-V
sgを低減させればよい。このことから、絶縁スペーサ表面の電位V
sgをコントロールすることで、ガス中電界E
gを変化させることができる。絶縁スペーサ表面の電位分布は、絶縁スペーサの誘電率分布に依存することから、非特許文献1に記載の手順でスペーサの誘電率分布を逆求解することができる。
【0037】
より具体的には、以下のように計算する。
図4(a)に示すように、絶縁スペーサ内部を小領域に分割し、それぞれの誘電率をε
iとする。また、スペーサ表面における異領域境界での電位をV
iとする。ここで、各領域は厚さの薄い平板状になることから、平行平板コンデンサで置き換えることができる。すなわち、等価的に
図4(b)に示すような直列キャパシタンスで表すことができる。電界強度分布を所望の分布に近づけるために、誘電率を変化させ各キャパシタンスにどのように電圧分担をさせればよいかを考えれば、望ましい誘電率分布を逆求解できる。
すなわち、
図4(b)より、電位差V
diとして以下の式(1)が導かれる。
【数1】
また、i番目の層の誘電率をε
iからε
i’に変更した場合、電位差は、以下の式(2)に変わる。
【数2】
分母の値はほとんど変化しないため、以下の式(3)が成り立つ。
【数3】
このことから、以下の式(4)が成り立つ。
【数4】
ここで、V
tdiは、比誘電率変更後に達成すべき電位差V
diの目標値であり、コントロールすべきV
sgの値によって決まる。
【0038】
絶縁スペーサ沿面における電界E
i、中心導体/絶縁スペーサ界面における電界E
sを低減する方法も上記と同様である。すなわち、
図3における電位V
si、V
ssをコントロールすることで、絶縁スペーサ沿面における電界E
iと中心導体/絶縁スペーサ界面の電界E
sを変化させることができる。より具体的には、電界E
iを低減させるためには、絶縁スペーサ沿面とEnclosureとの電位差V
si-0(ガス絶縁開閉装置のEnclosureは接地されて使用されるため、電位は0)を低減させ、電界E
sを低減させるためには、中心導体と絶縁スペーサ沿面との電位差V
ap-V
ssを低減させればよい。
【0039】
計算上は、ガス中、絶縁スペーサ沿面、中心導体/絶縁スペーサ界面のうち、より大きな値を有する空間の電界分布を考慮に入れる。すなわち、
図3のV
sg、V
si、V
ssのいずれを考慮して計算するかを決定する。パラメータk
g、k
i、k
sについて言及すると、3つのパラメータk
g、k
i、k
sのうち、最大となるものを最小化する観点から計算する。工程(d)により、n層の絶縁樹脂層の各々について、個別に比誘電率を得ることができる。すなわち、ε
1、ε
2、・・・、ε
i、・・・ε
(n-1)、ε
nといったn個の比誘電率を得ることができる。
【0040】
上記工程(b)、(c)、(d)を1サイクルとして、第1サイクルの計算が終了したら、工程(d)で得られたn層の比誘電率を用いて、第2サイクルの工程(b)電界解析を行う。同様に、第2サイクルの工程(c)、(d)を行う。工程(b)から(d)のサイクルを繰り返し実行し、計算が収束したら、計算を終了する。工程(b)から(d)の繰り返し計算により、パラメータkg、ki、ksのうち最大のものが、低下から上昇に転じた時点を、収束と判断する。
【0041】
計算が終了した時点で、絶縁スペーサを構成するn層の絶縁樹脂層の各々について比誘電率の最終値(Final result of ε distribution)が得られる。また、これらの比誘電率の最終値に基づいて、工程(b)の電界解析を行うことにより、電界強度分布の最終値(Final results)が得られる。また、比誘電率の最終値、電界強度分布の最終値から、最大電界、絶縁性能、比誘電率の最大値を得ることができる。絶縁性能は、収束時の1/kg、1/ki、1/ksを求め、その最小値をとる方法で算出することができる。
【0042】
(2)2パラメータを用いた解析方法
第1実施形態によるコーン型絶縁スペーサの解析方法は、2つのパラメータでも実施することができる。
図5は、第1実施形態の第2態様による2パラメータを用いた解析方法の流れを示す図であり、
図6は、解析方法が適用される絶縁系を概念的に示す図である。
【0043】
2パラメータを用いた解析方法は、以下の工程を備える。
(a)初期条件を与える工程
(b)前記初期条件に基づき、電界解析を行う工程
(c)工程(b)で得られた電界強度に基づき、kg、ki、ksから選択される2つのパラメータを計算する工程
(d)工程(c)で計算した大きい方のパラメータを最小化する観点から、n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う工程
【0044】
工程(a)及び(b)は、3パラメータを用いた解析方法と同様に実施することができる。
【0045】
工程(c)では、工程(b)で得られた電界強度に基づき、k
g、k
i、k
sから選択される2つのパラメータを計算する。パラメータの定義は、第1態様と同じであり、各パラメータの計算方法も第1態様と同じである。
図5、6では、2つのパラメータとして、k
gとk
sを解析に用いる場合を例示して説明するが、選択する2つのパラメータの組み合わせはk
gとk
iであってもよく、k
sとk
iであってもよい。本態様では、
図3を参照して説明した3つの主な絶縁性能の支配因子のうち、2つの因子に焦点を当てた計算結果を得ることができる。
【0046】
工程(d)では、工程(c)で計算した2つのパラメータのうち、より数値が大きい方を最小化する観点から、n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率の逆求解計算を行う。
図6を参照すると、
図3と同様に電界E
g、E
sを考え、これらを低減する目的で、第1態様と同様に比誘電率の逆求解計算を行うことができる。
【0047】
次に、
図5を参照すると、本態様においても工程(b)、(c)、(d)を計算の1サイクルとして、第1サイクルの計算が終了したら、工程(d)で得られたn層の比誘電率を用いて、第2サイクルの工程(b)電界解析を行う。同様に、第2サイクルの工程(c)、(d)を行う。工程(b)から(d)のサイクルを繰り返し実行し、計算が収束したら、計算を終了する。工程(b)から(d)の繰り返し計算により、パラメータk
g、k
sのうち大きいものが、低下から上昇に転じた時点を、収束と判断する。
【0048】
これにより、第1態様と同様に、n層の比誘電率の最終値を得ることができ、比誘電率の最終値に基づいて、工程(b)の電界解析を行うことにより、電界強度分布の最終値を得ることができる。
【0049】
本態様によれば、例えば、3つのパラメータのうち1つが明らかに支配因子になりえないことが事前に判断できる場合は、最初から残り2つのパラメータを用いて計算することができ、早く計算することができるという利点がある。
【0050】
[第2実施形態:コーン型絶縁スペーサの製造方法]
本発明は、第1実施形態によれば、中心導体を支持して当該中心導体の周囲に設けられ、中心導体の軸方向に沿ってn層の絶縁樹脂層を含むコーン型絶縁スペーサの製造方法であって、以下の工程を含む。
(A)第1実施形態によるコーン型絶縁スペーサの解析方法により、前記n層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率を得る工程
(B)前記工程により得られた比誘電率を与える材料を、前記n層の絶縁樹脂層の各々について選定する工程
(C)n層の絶縁樹脂層を積層し、コーン型絶縁スペーサを形成する工程
【0051】
工程(A)はn層の絶縁樹脂層の各々について、比誘電率を得る工程であり、第1実施形態において詳述したとおりに解析を行う。第1態様による3パラメータを用いた解析方法であっても、第2態様による3パラメータを用いた解析方法であってもよい。工程(A)により、n層の絶縁樹脂層を設計する指針の一つである、各層の比誘電率を得ることができる。
【0052】
工程(B)は、工程(A)により得られた比誘電率を与える材料を、n層の絶縁樹脂層の各々について選定する工程である。絶縁樹脂層の材料は、比誘電率の他、所定の絶縁性、耐熱性、強度等を備えることが好ましい。そのため、材料としては、熱硬化性樹脂と、無機充填材とを含む熱硬化性樹脂組成物を用いることができる。無機充填材は、好ましくは、比誘電率及び/または平均粒子径の異なる2種以上の無機充填材を用いることができ、これらの比率を変化させることにより、工程(A)で得られた所定の比誘電率を与えるn層の絶縁樹脂層の材料を選定することができる。なお、工程(A)の解析方法により得られる比誘電率は、n層すべてが異なる値ではない場合もあり、比誘電率の値が同じと計算された層には、同じ材料を用いることができる。また、隣り合う絶縁樹脂層の比誘電率の値が同じと計算された場合には、別個の層としてではなく、連続的な一つの層として製造することができる。
【0053】
より具体的には、熱硬化性樹脂と、無機充填材として下記に詳述する低誘電率フィラーと高誘電率フィラーとを含む熱硬化性樹脂組成物を用いる場合、低誘電率フィラーを含有する樹脂と高誘電率フィラーを含有する樹脂の配合比率を変えることにより、所望の比誘電率をもつ熱硬化性樹脂組成物を決定することができる。
図7は、測定周波数1kHzにおける所定の比誘電率を与える材料の選定に用いることができるグラフの一例である。
図7に示すグラフは、所定の高誘電率フィラー含有樹脂の配合比率(体積%)と、比誘電率の関係を示しており、このようなグラフは使用する熱硬化性樹脂、低誘電率フィラー、高誘電率フィラーを決定すれば、予備実験により得ることができる。
図7において、例えば、比誘電率が12の絶縁樹脂層の材料を得る場合には、グラフより、高誘電率フィラー含有樹脂を64体積%含み、残部36体積%を低誘電率フィラー含有樹脂とすることができる。使用する熱硬化性樹脂の組成、低誘電率フィラー、及び高誘電率フィラーの種類が異なれば、高誘電率フィラー含有樹脂の配合比率(体積%)と、比誘電率の関係も異なる。また、測定周波数によっても比誘電率は異なる。そのため、絶縁スペーサを適用するガス絶縁開閉装置の周波数の条件及び使用する材料の条件に応じて、適宜、グラフを作成して配合を決定することができる。
【0054】
絶縁樹脂層の材料は、例えば、以下の選択肢から選択することができる。
【0055】
熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、あるいはそれらの混合物であってよい。熱硬化性樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂主剤と、硬化剤と、任意選択的に硬化促進剤とを含むことが好ましい。エポキシ樹脂主剤としては、脂肪族エポキシ、または脂環式エポキシ、あるいはこれらの混合物を用いることができる。脂肪族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、ビスフェノールAD型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、3官能以上の多官能型エポキシ等が挙げられるが、これらには限定されない。これらを単独で、または2種類以上混合して使用することができる。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ、2官能型エポキシ、3官能以上の多官能型エポキシ等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる2種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。
【0056】
熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、熱硬化性樹脂の硬化剤を含んでもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂の主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂主剤の硬化剤としては、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができるが、特には限定されない。硬化剤の添加量は、主剤の硬化に必要な量であってよく、主剤及び硬化剤の種類によっても異なるが、当業者が適宜決定することができる。
【0057】
また、熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、熱硬化性樹脂の硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜用いることができるが、特には限定されない。
【0058】
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコーンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。
【0059】
無機充填材は、熱硬化性樹脂組成物の比誘電率を所望の値とするように種類及び量を設計し、樹脂に含めることができる。無機充填材としては、絶縁性の無機充填材を用いることができる。比較的低誘電率の樹脂を調製するための充填材としては、比誘電率が6未満の無機充填材を用いることができる。比較的高誘電率の樹脂を調製するための充填材としては、比誘電率が6以上、好ましくは10~15以上の無機充填材を用いることができる。本明細書において、比誘電率が6未満の無機充填剤を低誘電率フィラー、比誘電率が6以上の無機充填剤を高誘電率フィラーと指称する。
【0060】
低誘電率フィラーとして用いることができる物質としては、例えば、シリカ、窒化ボロン、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維が挙げられるが、これらには限定されない。低誘電率フィラーの形状は、特には限定されず、球状、板状、針状、角状などであってよい。
【0061】
高誘電率フィラーとして用いることができる化合物としては、アルミナ(Al2O3)、ドロマイト(CaMg(CO3)2)、酸化チタン(IV)(TiO2、アナターゼ型TiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)などが挙げられる。これらは、組成式がABO3で表記されるペロブスカイト型結晶構造を有しており、A元素としては、Ba、Pb、Laなど、B元素としてはTi、Zrなどが該当するが、これらには限定されない。また、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸鉛(PbNb2O6)、酸化ハフニウム(IV)(HfO2)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、イットリア(Y2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、シリコン(Si)、ダイヤモンドなどがある。高誘電率フィラーの形状も、特には限定されず、球状、板状、針状、角状などであってよい。また、高誘電率フィラーの形状は、低誘電率フィラーの形状とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
無機充填材は相対的に平均粒子径が小さい第1無機充填材と、相対的に平均粒子径が大きい第2無機充填材を用いてもよい。第1無機充填材は、好ましくは、平均粒子径が0.1~100μmの無機充填材である。第2無機充填材は、好ましくは、平均粒子径が1~500nmの無機充填材である。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折法により測定した値をいうものとする。ただし、第1無機充填材の平均粒子径は、第2無機充填材の平均粒子径よりも大きいものとする。本明細書において、0.1~100μmの平均粒子径を有する充填材を、マイクロフィラーとも指称する。また、1~500nmの平均粒子径を有する充填材をナノフィラーとも指称する。そして、第1無機充填材は高誘電率フィラーであることが好ましく、第2無機充填材は高誘電率フィラーであっても低誘電率フィラーであってもよい。また、第1無機充填剤を構成する化合物種と、第2無機充填材を構成する化合物種が同一ではないことが好ましい。
【0063】
工程(A)及び(B)によれば、コーン型絶縁スペーサを解析し、所定の材料を選定することができる。したがって、工程(A)及び(B)は、コーン型絶縁スペーサの設計方法と捉えることができる。
【0064】
工程(C)は、n層の絶縁樹脂層を積層し、コーン型絶縁スペーサを形成する工程である。工程(C)は、より詳細には、選定した組成により熱硬化性樹脂組成物を調製し、注入用型にn層の絶縁樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物を、所定の積層順に注入する工程と、注入され、積層された熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化する工程とにより実施することができる。
【0065】
注入用型としては、鉛直方向下方に向かって凸状であり、凸状の底面中央部に中心導体を設置可能なキャビティを備えるものを用いることができる。キャビティの形状は、所望のコーン型絶縁スペーサの形状に適合するように適宜設計することができる。熱硬化性樹脂組成物の注入は、第1樹脂層L1を構成する熱硬化性樹脂組成物から順に行うことができる。組成が異なる熱硬化性樹脂組成物を注入用型に流し込む場合、先に注入された樹脂が注入用型に行き渡った後で、上層の樹脂を流し込むことが好ましい。
【0066】
より詳細な注型方法は、例えば、特開2020-138486号公報または特開2020-138487号公報に開示された方法にて製造することができるが、特定の注型方法には限定されない。また、本発明に係る絶縁スペーサは、本明細書で例示する方法には限定されず、積層型のコーン型絶縁スペーサについて知られている任意の方法により製造することができ、真空注型の他に加圧ゲル化法、真空加圧ゲル化法などによって製造することもできる。
【0067】
n層の絶縁樹脂層を構成する全ての樹脂の注入後、加熱硬化の工程を行う。加熱の温度及び時間等の条件は、使用する熱硬化性樹脂の硬化条件に適合するように、当業者が適宜決定することができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、120~140℃程度で、1~5時間程度とすることができるが、特定の条件には限定されない。場合により、二段階の加熱による硬化を実施することもできる。また、加熱は、大気圧下で実施することもでき、減圧下で実施することもできる。
【0068】
上記工程(A)から(C)によりコーン型絶縁スペーサを製造することができる。任意選択的に、工程(C)の後に、例えば定格電圧が3.3KVの場合は、30kVの雷インパルス電圧、交流16kVを中心導体1とシース3に印加して、所定の高電圧の耐電圧試験を行うこともできる。また、定格電圧が500KVの場合は、1800kVの雷インパルス電圧、交流750kVを中心導体1とシース3に印加して、所定の高電圧の耐電圧試験を行うことができる。
【0069】
実際の運転時には、定格電圧が長期間に渡り印加しつづけられるため、樹脂には高い絶縁信頼性が必要となるところ、本発明の第2実施形態による製造方法により製造されたコーン型絶縁スペーサは、本発明の第1実施形態により解析され、最適化された電界強度分布を実現可能な所望の傾斜誘電率と高い絶縁破壊電圧を有しており、高い信頼性が得られる。
【実施例】
【0070】
(1)3パラメータを用いたコーン型絶縁スペーサの解析
本発明の第1実施形態の第1態様において説明した手順により、3パラメータを用いたコーン型絶縁スペーサの解析を行った。工程(a)の初期条件は、n=34とし、初期比誘電分布として比誘電率εinit=4の一様分布を与えた。絶縁スペーサの形状は、内外径比1:3、スペーサ傾斜角度45°とした。工程(b)の電界解析は有限要素法を用いて行った。
【0071】
工程(b)、(c)、(d)を1サイクルとして、11回繰り返した時点で3つのパラメータのうち最大のkgが低下から上昇に転じ、解析は、第11サイクルにて収束と判断した。これにより、第11サイクルの工程(d)で34層の比誘電率が得られた。
【0072】
図8中、(a)は、比誘電率ε
init=4の一様分布を与え、工程(b)により得られた電界強度分布(INIT時)を示す。(b)は、第11サイクルの工程(d)で得られた比誘電率に基づく電界強度分布(INS-INV時)を示す。また、図示はしないが、非特許文献1に示す電界強度のみを考慮した逆求解時(EF-INV時)の電界強度分布も得た。
図8において、電界強度分布は、
図8(a)の最大電界強度を100%とした場合の相対値で表した。
【0073】
表1に、INIT時、EF-INV時、INS-INV時の3つの解析結果に基づく、最大電界と絶縁性能の相対値および逆求解された比誘電率の最大値を示す。
【表1】
【0074】
本発明に係る解析方法によって、INIT時はもちろんのこと、非特許文献1に示すEF-INV時よりも、より高い絶縁性能を有する計算結果を得られることが確認された。また、本発明に係る解析方法では、EF-INV時に比べて、誘電率の傾斜を抑えることによって絶縁性能の向上が得られていることが確認できた。
【0075】
図9は、3つのパラメータk
g、k
i、k
sのうち、収束時に最大となっているパラメータの収束値を1として相対化したパラメータk
gr、k
ir、k
srの、繰り返し計算に対する変化を示す。なお、本実施例では、収束時に最大となっているパラメータは、k
gまたはk
Sであった。この結果より、初期時にはk
gr>k
srであることから、ガス側の絶縁性能を向上させる必要があり、それが逆求解の繰り返し計算により、徐々にk
grとk
srの差を低減し、最終的に、ガス中と絶縁スペーサ(固体部)中の絶縁バランスがとられていることが理解される。
【0076】
(2)2パラメータを用いたコーン型絶縁スペーサの解析
本発明の第1実施形態の第2態様において説明した手順により、2パラメータkg、ksを用いたコーン型絶縁スペーサの解析を行った。初期条件は、3パラメータを用いた場合と同様とした。
【0077】
本解析においても、第11サイクルにて収束と判断した。第11サイクルの工程(d)で得られた34層の比誘電率は、3パラメータを用いた場合と同様であった。そのため、電界強度分布は
図8(b)と同じであり、最大電界と絶縁性能の相対値及び逆求解された比誘電率の最大値も表1の結果と同じであった。
図10は、2つのパラメータk
g、k
sのうち、収束時に最大となっているパラメータの収束値を1として相対化したパラメータk
gr、k
srの、繰り返し計算に対する変化を示す。
図10も
図9と同様の結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるコーン型絶縁スペーサの解析方法並びに製造方法は、ガス絶縁開閉装置の設計、製造において用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 中心導体、2 固体部、3 フランジ、4a、b シース
C 凸面、R 凹面
L1 第1絶縁樹脂層、L2 第2絶縁樹脂層、L3 第3絶縁樹脂層
Li 固体部をn分割したi番目の樹脂層(iは1からnの整数)
Ln-1 第(n-1)絶縁樹脂層、Ln 第n絶縁樹脂層