(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】効率的なPPRタンパク質の作製方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240521BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240521BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240521BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240521BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240521BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240521BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240521BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K14/00
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2021521907
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021472
(87)【国際公開番号】W WO2020241876
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-06-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019100551
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517163227
【氏名又は名称】エディットフォース株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】八木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇裕
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】飯室 里美
【審判官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/058404(WO,A1)
【文献】Nucleic Acids Research, 11 Feburuary 2019, Vol.47, p.3728-3738
【文献】NATURE COMMUNICATIONS, 2014, Vol.5, 5729, p.1-9
【文献】Nucleic Acids Research, 2018, Vol.46, p.2613-2623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれか1つのポリペプチドを少なくとも2個含む、タンパク質:
(A-1)配列番号:9の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:9の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号:401の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:401の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(A-
2)配列番号:9又は401の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(A-
3)配列番号:9又は401の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(C-1)配列番号:10の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:10の配列において、位置2のアミノ酸のセリンへの置換、位置5のアミノ酸のイソロイシンへの置換、位置7のアミノ酸のロイシンへの置換、位置8のアミノ酸のリジンへの置換、位置10のアミノ酸のフェニルアラニン又はチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置22のアミノ酸のバリンへの置換、位置24のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置27のアミノ酸のロイシンへの置換、及び位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(C-
2)配列番号:10の配列において、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(C-
3)配列番号:10の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(G-1)配列番号:11の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:11の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置15のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のバリンの置換、位置28のアミノ酸のセリンへの置換、及び位置35のアミノ酸のイソロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(G-
2)配列番号:11の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(G-
3)配列番号:11の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(U-1)配列番号:12の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:12の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置13のアミノ酸のセリンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置20のアミノ酸のロイシンへの置換、位置21のアミノ酸のリジンへの置換、位置23のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置24のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のリジンへの置換、位置28のアミノ酸のリジンへの置換、位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換、及び位置31のアミノ酸のロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(U-
2)配列番号:12の配列において、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(U-
3)配列番号:12の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド。
【化1】
(式中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【化2】
式2中、A
1~A
12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか又は1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【化3】
式3中、各アミノ酸は、“i”(-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、L
iii~L
viiは存在しない場合がある。)
【請求項2】
少なくとも2個含まれるポリペプチドが、配列番号9~12、又は401の配列からなるポリペプチドから選択される、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
下記から選択されるポリペプチドの、標的RNAが15塩基長以上であるPPRタンパク質の作製のための使用。
(A-1)配列番号:9の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:9の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号401の配列からなるポリペプチド、又は配列番号401の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(A-2)配列番号:9又は401の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~
4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(A-3)配列番号:9又は401の配列と少なくとも
90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(C-1)配列番号:10の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:10の配列において、位置2のアミノ酸のセリンへの置換、位置5のアミノ酸のイソロイシンへの置換、位置7のアミノ酸のロイシンへの置換、位置8のアミノ酸のリジンへの置換、位置10のアミノ酸のフェニルアラニン又はチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置22のアミノ酸のバリンへの置換、位置24のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置27のアミノ酸のロイシンへの置換、及び位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(C-2)配列番号:10の配列において、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~
4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(C-3)配列番号:10の配列と少なくとも
90%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(G-1)配列番号:11の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:11の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置15のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のバリンの置換、位置28のアミノ酸のセリンへの置換、及び位置35のアミノ酸のイソロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(G-2)配列番号:11の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~
4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(G-3)配列番号:11の配列と少なくとも
90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(U-1)配列番号:12の配列からなるポリペプチド、又は配列番号:12の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置13のアミノ酸のセリンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置20のアミノ酸のロイシンへの置換、位置21のアミノ酸のリジンへの置換、位置23のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置24のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のリジンへの置換、位置28のアミノ酸のリジンへの置換、位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換、及び位置31のアミノ酸のロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(U-2)配列番号:12の配列において、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~
4個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド;
(U-3)配列番号:12の配列と少なくとも
90%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性である、下記の式1で表されるPPRモチーフであるポリペプチド。
【化4】
(式中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【化5】
式2中、A
1~A
12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか又は1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【化6】
式3中、各アミノ酸は、“i”(-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、L
iii~L
viiは存在しない場合がある。)
【請求項4】
n個の塩基配列からなる標的RNAに結合可能な、n個のPPRモチーフからなるポリペプチドを含むタンパク質であって、
該塩基配列中のアデニンに対するPPRモチーフが、請求項3に定義した(A-1)、(A-2)、又は(A-3)のポリペプチドであり;
該塩基配列中のシトシンに対するPPRモチーフが、請求項3に定義した(C-1)、(C-2)、又は(c-3)のポリペプチドであり;
該塩基配列中のグアニンに対するPPRモチーフが、請求項3に定義した(G-1)、(G-2)、又は(G-3)のポリペプチドであり;
該塩基配列中のウラシルに対するPPRモチーフが、請求項3に定義した(U-1)、(U-2)、又は(U-3)のポリペプチドであり;このとき、
nが、15以上である、PPRタンパク質。
【請求項5】
請求項4に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、RNAスプライシングの制御方法、又はRNAの検出方法。
【請求項6】
蛍光タンパク質、核移行シグナルペプチド、及びタグタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つと、請求項5に記載のタンパク質との、融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のタンパク質、又は請求項4に記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを含む、細胞(ヒト個体は除く。)。
【請求項10】
請求項1に記載のタンパク質、請求項4に記載のタンパク質、又は請求項8に記載のベクターを用いる、RNAの操作方法(ヒト個体での実施を除く。)。
【請求項11】
請求項10に記載の操作方法を含む、生物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸に結合可能なタンパク質を用いる核酸操作技術に関する。本発明は、医療(創薬支援、治療)、農業(農水畜産物生産、育種)、化学(生物学的物質生産)などの幅広い分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
PPRタンパク質は、約35アミノ酸長からなるPPRモチーフの繰り返しを含むタンパク質で、PPRモチーフ1つが1つの塩基と特異的に結合することができる。PPRモチーフ内の1番目、4番目、ii番目(次のモチーフの2つ前)のアミノ酸の組み合わせによってアデニン、シトシン、グアニン、ウラシル(又はチミン)のうちのどれに結合するかが決まる(特許文献1、2)。
【0003】
PPRモチーフは、1モチーフで1塩基を認識して結合するため、例えば18塩基長の核酸に配列特異的に結合するPPRタンパク質を設計する場合、18個のPPRモチーフを連結することとなる。これまでに、7~14個のPPRモチーフを連結した人工PPRタンパク質の作製が報告されている(非特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2013/058404
【文献】国際公開WO2014/175284
【非特許文献】
【0005】
【文献】Coquille, S. et al. An artificial PPR scaffold for programmable RNA recognition. Nature Communications 5, Article number: 5729(2014)
【文献】Shen, C. et al. Specific RNA Recognition by Designer Pentatricopeptide Repeat Protein. Molecular Plant 8, 667-670(2015)
【文献】Shen, C. et al. Structural basis for specific single-stranded RNA recognition by designer pentatricopeptide repeat proteins. Nature Communications volume 7, Article number: 11285 (2016)
【文献】Gully, B. S. et al. The design and structural characterization of a synthetic pentatricopeptide repeat protein. Acta Cryst. D71, 196-208(2015)
【文献】Miranda, R. G. et al. RNA-binding specificity landscapes of designer pentatricopeptide repeat proteins elucidate principlesof PPR-RNA interactions. Nucleic Acids Research, 46(5), 2613-2623(2018)
【文献】Yan, J. et al. Delineation of pentatricopeptide repeat codes for target RNA prediction. Nucleic Acids Research, gkz075(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞内で目的とするRNA分子と特異的に結合し、さらに思い通りの操作をするためには、高い性能を有するPPRタンパク質が求められる。
【0007】
また、細胞内で目的とするRNA分子と特異的に結合し、さらに思い通りの操作をするためには、従来の7~14より多くのモチーフを連結し、長い塩基配列に結合するPPRタンパク質が求められる。例えば、ヒトゲノムは60億塩基あり、4つの塩基(A,C,G,T又はU)で構成されているため、その配列の並びから一箇所の塩基配列を指定するためには、最低でも17塩基の配列が必要となる(416は、40億、417は、160億であるため)。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、新規なPPRモチーフ等として、以下を提供する。
[1] 下記のいずれか1つの、PPRモチーフ:
(A-1)配列番号:9の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:9の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号401の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号401の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
;
(A-2)配列番号:9又は401の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~20個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(A-3)配列番号:9又は401の配列と少なくとも42%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(C-1)配列番号:10の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:10の配列において、位置2のアミノ酸のセリンへの置換、位置5のアミノ酸のイソロイシンへの置換、位置7のアミノ酸のロイシンへの置換、位置8のアミノ酸のリジンへの置換、位置10のアミノ酸のフェニルアラニン又はチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置22のアミノ酸のバリンへの置換、位置24のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置27のアミノ酸のロイシンへの置換、及び位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(C-2)配列番号:10の配列において、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~25個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(C-3)配列番号:10の配列と少なくとも25%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(G-1)配列番号:11の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:11の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置15のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のバリンの置換、位置28のアミノ酸のセリンへの置換、及び位置35のアミノ酸のイソロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(G-2)配列番号:11の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~21個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(G-3)配列番号:11の配列と少なくとも40%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(U-1)配列番号:12の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:12の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置13のアミノ酸のセリンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置20のアミノ酸のロイシンへの置換、位置21のアミノ酸のリジンへの置換、位置23のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置24のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のリジンへの置換、位置28のアミノ酸のリジンへの置換、位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換、及び位置31のアミノ酸のロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ
(U-2)配列番号:12の配列において、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~22個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ;
(U-3)配列番号:12の配列と少なくとも37%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ。
[2] 1に記載のPPRモチーフの、標的RNAが15塩基長以上であるPPRタンパク質の作製のための使用。
[3] 1に記載のPPRモチーフのPPRタンパク質の作製のための使用であって、PPRタンパク質の標的RNAへの結合性能を高めるための使用。
[4] n個の塩基配列からなる標的RNAに結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質であって、
該塩基配列中のアデニンに対するPPRモチーフが、1に定義した(A-1)、(A-2)、又は(A-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のシトシンに対するPPRモチーフが、1に定義した(C-1)、(C-2)、又は(c-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のグアニンに対するPPRモチーフが、1に定義した(G-1)、(G-2)、又は(G-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のウラシルに対するPPRモチーフが、1に定義した(U-1)、(U-2)、又は(U-3)のPPRモチーフである、PPRタンパク質。
[5] nが、15以上である、4に記載のタンパク質。
[6] N末端から1番目のPPRモチーフが下記のいずれか1つである、4又は5に記載のタンパク質:
(1stA-1)配列番号:402の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換したPPRモチーフ;
(1stA-2)(1stA-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stA-3)(1stA-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stC-1)配列番号:403の配列からなるPPRモチーフ;
(1stC-2)(1stC-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(1stC-3)(1stC-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(1stG-1)配列番号:404の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換した配列からなるPPRモチーフ;
(1stG-2)(1stG-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stG-3)(1stG-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stU-1)配列番号:405の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換した配列からなるPPRモチーフ;
(1stU-2)(1stU-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ;
(1stU-3)(1stU-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ。
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がグルタミン酸である組み合わせ
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がグルタミンである組み合わせ
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がリジンである組み合わせ
・位置6のアミノ酸アスパラギン酸であり、かつ位置9アミノ酸がグリシンである組み合わせ
[7] 4~6のいずれか1項に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、RNAスプライシングの制御方法。
[8] 4~6のいずれか1項に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、RNAの検出方法。
[9] 蛍光タンパク質、核移行シグナルペプチド、及びタグタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つと、4~6のいずれか1項に記載のタンパク質との、融合タンパク質。
[10] 1に記載のPPRモチーフ、又は4~6のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする核酸。
[11] 10に記載の核酸を含む、ベクター。
[12] 11に記載のベクターを含む、細胞(ヒト個体は除く。)。
[13] 1に記載のPPRモチーフ、4~6のいずれか1項に記載のタンパク質、又は11に記載のベクターを用いる、RNAの操作方法(ヒト個体での実施を除く。)。
[14] 13に記載の操作方法を含む、生物の生産方法。
【0009】
[1] 下記のいずれか1つの、PPRモチーフ:
(A-1)配列番号:9の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:9の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(A-2)配列番号:9の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~20個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(A-3)配列番号:9の配列と少なくとも42%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(C-1)配列番号:10の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:10の配列において、位置2のアミノ酸のセリンへの置換、位置5のアミノ酸のイソロイシンへの置換、位置7のアミノ酸のロイシンへの置換、位置8のアミノ酸のリジンへの置換、位置10のアミノ酸のフェニルアラニン又はチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置22のアミノ酸のバリンへの置換、位置24のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置27のアミノ酸のロイシンへの置換、及び位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(C-2)配列番号:10の配列において、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~25個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(C-3)配列番号:10の配列と少なくとも25%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(G-1)配列番号:11の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:11の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置15のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のバリンの置換、位置28のアミノ酸のセリンへの置換、及び位置35のアミノ酸のイソロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(G-2)配列番号:11の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~21個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(G-3)配列番号:11の配列と少なくとも40%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(U-1)配列番号:12の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:12の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置13のアミノ酸のセリンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置20のアミノ酸のロイシンへの置換、位置21のアミノ酸のリジンへの置換、位置23のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置24のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のリジンへの置換、位置28のアミノ酸のリジンへの置換、位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換、及び位置31のアミノ酸のロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ
(U-2)配列番号:12の配列において、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~22個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ;
(U-3)配列番号:12の配列と少なくとも37%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ。
[2] 1に記載のPPRモチーフの、標的RNAが15塩基長以上であるPPRタンパク質の作製のための使用。
[3] 1に記載のPPRモチーフのPPRタンパク質の作製のための使用であって、PPRタンパク質の標的RNAへの結合性能を高めるための使用。
[4] n個の塩基配列からなる標的RNAに結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質であって、
該塩基配列中のアデニンに対するPPRモチーフが、1に定義した(A-1)、(A-2)、又は(A-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のシトシンに対するPPRモチーフが、1に定義した(C-1)、(C-2)、又は(c-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のグアニンに対するPPRモチーフが、1に定義した(G-1)、(G-2)、又は(G-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のウラシルに対するPPRモチーフが、1に定義した(U-1)、(U-2)、又は(U-3)のPPRモチーフである、PPRタンパク質。
[5] nが、15以上である、4に記載のタンパク質。
[6] 4又は5に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、RNAスプライシングの制御方法。
[7] 4又は5に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、RNAの検出方法。
[8] 蛍光タンパク質、核移行シグナルペプチド、及びタグタンパク質からなる群より選択される少なくとも一つと、4又は5に記載のタンパク質との、融合タンパク質。
[9] 1に記載のPPRモチーフ、又は4又は5に記載のタンパク質をコードする核酸。
[10] 9に記載の核酸を含む、ベクター。
[11] 10に記載のベクターを含む、細胞(ヒト個体は除く。)。
[12] 1に記載のPPRモチーフ、4又は5に記載のタンパク質、又は10に記載のベクターを用いる、RNAの操作方法(ヒト個体での実施を除く。)。
[13] 12に記載の操作方法を含む、生物の生産方法。
[14] 以下の工程を含む、n個の塩基配列からなる標的核酸に結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質をコードする遺伝子の作製方法:
アデニン、シトシン、グアニン、又はウラシルもしくはチミン結合性であるPPRモチーフ各々をコードする4種類、及びPPRモチーフの2個の連結物各々をコードする16種類を含む、少なくとも20種類のポリヌクレオチドが、少なくともm種類の順に連結可能に設計された中間ベクターDest-a...のそれぞれに挿入された、少なくとも20×m種類のPPRパーツのライブラリーから、目的遺伝子を作製するために必要なm個のPPRパーツを選択し;
選択したm種類のPPRパーツを、ベクターパーツとともにGolden Gate反応に供してm個のポリヌクレオチドの連結物が挿入されたベクターを得る(ただしnは、m以上であり、かつm×2以下である。)。
[15] mが10であり、15個以上のPPRモチーフを含むタンパク質をコードする遺伝子を作製するための、14に記載の作製方法。
[16] 下記の工程を含む、n個の塩基配列からなる標的核酸に結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質を検出又は定量する方法:
固相化された標的核酸に、候補タンパク質を含む溶液を供し、標的核酸に結合したタンパク質を検出又は定量する工程。
[17] 候補タンパク質が標識タンパク質と融合されている、16に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】PPRモチーフ配列をシームレスに連結するクローニング方法の例
【
図6】1モチーフ及び2モチーフのライブラリーを用いたシームレスクローニングの検証。A:V1モチーフ、v2モチーフ、v3.1モチーフ、及びv3.2モチーフのアミノ酸配列。V3.1はv2においてアデニン認識モチーフにD15K変異を導入したもの。V3.2は、1モチーフ目は1st
Xを選択し、2モチーフ目以降はv2
C, v2
G, v2
U, v3.1
Aから選択する。B:18モチーフ のPPRタンパク質3種類を各3クローン作製したときの結果。V1においては、PPR2の2番目のクローン以外は、正しいサイズのバンドが得られた。V2においては全てのクローンで正しいサイズのバンドが得られた。
【
図7】ハイスループットなRNA結合タンパク質の結合性能評価の例。A:代表的な核酸-タンパク質結合実験スキーム比較。B:RPB-ELISA (RNA-protein binding ELISA)の概略。C:MS2タンパク質とその標的RNAを用いた場合の実験結果。精製タンパク質溶液(purified protein)、大腸菌ライセート(Lysate)ともに、特異的な結合が検出された。
【
図8】RNA結合性能比較実験の結果。モチーフ配列v2で作製した場合、モチーフ配列v1で作製したものと比較して、全てにおいて標的配列との結合力の増加(1.3~3.6倍)が見られた。また、v2のほうがv1よりも全てにおいて標的結合シグナル/非標的結合シグナル (S/N)が高かったことから、v2がv1より親和性も高く、標的に対する特異性が高いことが分かった。左上グラフ(Binding signal(L.U./10
7 CPU))中、黒は標的配列を持つRNAプローブ、灰はOff target 1を持つRNAプローブ、白はOff target 2を持つRNAプローブそれぞれに対する結果を表す。左下プローブ配列(Prob seq.)中、下線は、標的配列(Target seq.)である。
【
図9】PPRタンパク質のRNA結合性能詳細解析(特異性)。V2モチーフを用いて、23種類の標的配列に対するPPRタンパク質を作製し、RPB-ELISAを用いて全ての結合組み合わせを解析した。21種類のPPRタンパク質で、標的に対する結合力が最も強いことが分かった(上)。同様に、V3.1モチーフを用いてRNA結合性能を解析した(下)。
【
図10】PPRタンパク質のRNA結合性能詳細解析(親和性)。A:作製したタンパク質の標的に対するKd値。最小値は1.95 x 10
-9であり、これまで報告されたデザインPPRタンパク質の中では最もKd値が低い。B:Kd値とRPB-ELISAでの結合実験で得られたシグナル値との相関。RPB-ELISAでの発光値が、1.0~2.0 x 10
7 の場合は、Kd値が10
-6~10
-7 M、RPB-ELISAでの発光値が、2.0~4.0 x 10
7の場合は、Kd値が10
-7~10
-8 M、RPB-ELISAでの発光値が、4.0 x 10
7 よりも大きい場合は、Kd値が~10
-8 以下であることが推定できる。
【
図11】構築成功確率。72種類の標的配列に対するPPRタンパク質をv2モチーフを用いて作製し、RPB-ELISAを用いて構築成功確率を算出した。72個のPPRタンパク質の内、Kd値が10
-6 M以下である(RPB-ELISA値が1 x 10
7以上)と推定されるものは、63個(88%)であった。また、標的結合シグナルを非標的結合シグナルで割った値を特異性を評価する値(S/N)が10より高いものは、54個(75%)であった。これらのことから、v2モチーフを使用しPPRタンパク質を作製することで、効率的に配列特異的なRNA結合タンパク質が作製できることが示された。
【
図12】PPRモチーフ数に関連した標的結合活性の評価。A:各標的配列ごとの結果。B:18モチーフ、15モチーフ、12モチーフそれぞれの値の平均値。モチーフ数が多いほど、結合強度が高くなり、18モチーフと15モチーフを比較すると、18モチーフの方が、高い結合強度を有するタンパク質が安定して作製できることが分かった。
【
図13】PPRタンパク質による人為的なスプライシング制御の例。A:実験スキーム。イントロン1,エクソン2,イントロン2の領域の中から18塩基の配列を選択し、それらに結合するPPRタンパク質によって、RG-6レポーターのスプライシングバリアントの量比を変化させられるか実験を行った。B:PPR発現プラスミドDNAとRG-6レポータープラスミドDNAを混合して培養した後の細胞のGFP蛍光及びRFP蛍光画像。C:スプライシングバリアント比率。蛍光画像撮影後の細胞からtotal RNAを抽出し、RT-PCRによる増幅産物を電気泳動した。114bp付近のバンドをエクソンスキップにより生じたPCR産物(a)、142bp付近のバンドをスキップしていないPCR産物(b)とし、それぞれのバンド強度を測定した。スプライシング比率は、a / (a+b) により算出した。スプライシング比率は、PPRを導入した場合は、大きく変化することが分かった。PPRタンパク質を用いることでエクソンスキッピングを変化させることができることが証明され、さらにv2モチーフを利用することでさらに効率的にスプライシングを変化させることができることが分かった。
【
図14】N末から第1番目のPPRモチーフの凝集への影響。それぞれのPPRタンパク質を大腸菌発現系で作成し精製し、ゲルろ過クロマトグラフィーで分離した。溶出画分(Elution vol.)が少ないほど分子サイズが大きい。V2では、8から10mLの溶出画分で溶出された一方で、v3.2では、12から14mLの溶出画分にピークが見られた。このことから、v2では、タンパク質サイズが大きくなっていることから凝集している可能性が示唆され、その凝集はv3.2において改善されていることが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[PPRモチーフ、PPRタンパク質]
(定義)
本発明でPPRモチーフというときは、特に記載した場合を除き、Web上のタンパク質ドメイン検索プログラムでアミノ酸配列を解析した際に、PfamにおいてPF01535、PrositeにおいてPS51375で得られるE値が所定値以下(望ましくはE-03)のアミノ酸配列をもつ30~38アミノ酸で構成されるポリペプチドをいう。本発明で定義するPPRモチーフを構成するアミノ酸の位置番号は、PF01535とほぼ同義である一方で、PS51375のアミノ酸の場所から2引いた数(例;本発明の1番→PS51375の3番)に相当する。ただし、“ii”(-2)番のアミノ酸というときは、PPRモチーフを構成するアミノ酸の後ろ(C末端側)から2番目のアミノ酸、又は次のPPRモチーフの1番アミノ酸に対して2個N末端側、すなわち-2番目のアミノ酸とする。次のPPRモチーフが明確に同定されない場合、次のヘリックス構造の1番目のアミノ酸に対して、2コ前のアミノ酸を“ii”とする。Pfamについてはhttp://pfam.sanger.ac.uk/、Prositeについては、http://www.expasy.org/prosite/を参照することができる。
【0012】
PPRモチーフの保存アミノ酸配列は、アミノ酸レベルでの保存性は低いが、2次構造上で2つのαへリックスはよく保存されている。典型的なPPRモチーフは35アミノ酸で構成されるが、その長さは30~38アミノ酸と可変的である。
【0013】
本発明でいうPPRモチーフは、より具体的には、式1で表される、30~38アミノ酸長のポリペプチドからなる。
【0014】
【化1】
式中:
Helix Aは、12アミノ酸長の、αヘリックス構造を形成可能な部分であって、式2で表され、
【0015】
【化2】
式2中、A
1~A
12はそれぞれ独立にアミノ酸を表し;
Xは、存在しないか又は1~9アミノ酸長からなる部分であり;
Helix Bは、11~13アミノ酸長からなる、αヘリックス構造を形成可能な部分であり;
Lは、2~7アミノ酸長の、式3で表される部分であり;
【0016】
【化3】
式3中、各アミノ酸は、“i” (-1)、“ii”(-2)、とC末端側からナンバリングされ、
ただし、L
iii~L
viiは存在しない場合がある。
【0017】
本発明でPPRタンパク質というときは、特に記載した場合を除き、上述のPPRモチーフを、1個以上、好ましくは2個以上有するPPRタンパク質をいう。本明細書でタンパク質というときは、特に記載した場合を除き、ポリペプチド(複数のアミノ酸がペプチド結合した鎖)からなる物質全般をいい、比較的低分子のポリペプチドからなるものも含まれる。本発明でアミノ酸という場合、通常のアミノ酸分子を指すことがあるほか、ペプチド鎖を構成しているアミノ酸残基を指すことがある。いずれを指しているかは、文脈から、当業者には明らかである。
【0018】
本発明で、PPRモチーフの標的核酸における塩基との結合性に関し、特異性/特異的というときは、特に記載した場合を除き、4種類のうちのいずれか一つの塩基に対する結合活性が、他の塩基に対する結合活性より高いことをいう。
【0019】
本発明で核酸というときは、RNA又はDNAを指す。なおPPRタンパク質は、RNA又はDNA中の塩基に対して特異性を有しうるが、核酸モノマーに結合するわけではない。
【0020】
PPRモチーフは、1、4、ii番の3つのアミノ酸の組み合わせが、塩基との特異的な結合のために重要であり、これらの組み合わせにより、結合する塩基がいずれであるかを決定できる(前掲特許文献1、2)。
【0021】
具体的には、RNA結合性のPPRモチーフに関しては、1、4、ii番の3つのアミノ酸の組み合わせと結合可能な塩基との関係は、下記のとおりである(前掲特許文献1参照)。
(3-1) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン及びアスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にCに、その次にA又はGに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-2) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にGに、その次にCに対して結合するが、Uには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-3) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にA又はUに対して結合するが、Gには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-4) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合するが、A、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-5) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にUに、その次にAに対して結合するが、Gには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-6) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にUに対して結合するが、AとCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-7) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、リジン、トレオニン、アスパラギン酸、の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合し、次にAに対して結合するが、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-8) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、セリン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合し、次にCに、その次にG及びUに対して結合するという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-9) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、セリンの場合、そのPPRモチーフは、Cに強く結合し、次にUに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-10) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合するが、G、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-11) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にAに対して結合するが、G及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-12) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、トレオニン、トレオニン、アスパラギンの場合、そのPPRモチーフは、Aに強く結合するが、G、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-13) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合し、次にCに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-14) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン酸の場合PPR、そのモチーフは、Uに強く結合し、次にCに対して結合するが、A及びGには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-15) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、チロシン、プロリン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Uに強く結合するが、A、G及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
(3-16) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、ロイシン、トレオニン、アスパラギン酸の場合、そのPPRモチーフは、Gに強く結合するが、A、U及びCには結合しないという、選択的なRNA塩基結合能を有する。
【0022】
具体的には、DNA結合性のPPRモチーフに関しては、1、4、ii番の3つのアミノ酸の組み合わせと結合可能な塩基との関係は、下記のとおりである(前掲特許文献2参照)。
(2-1) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、グリシン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Gに選択的に結合する;
(2-2) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Gに選択的に結合する;
(2-3) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、グリシン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-4) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、グルタミン酸、グリシン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-5) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、グリシン、セリンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-6) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、イソロイシン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、T及びCに選択的に結合する;
(2-7) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、イソロイシン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-8) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、ロイシン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、T及びCに選択的に結合する;
(2-9) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、ロイシン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-10) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、ロイシン、リシンであるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-11) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、メチオニン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-12) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、メチオニン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-13) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-14) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、C及びTに選択的に結合する;
(2-15) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-16) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-17) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-18) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-19) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-20) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-21) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、チロシン、アスパラギン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-22) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-23) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-24) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、セリン、アスパラギン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-25) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-26) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、セリンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-27) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、セリンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-28) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、トレオニンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-29) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、アスパラギン、トレオニンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-30) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、アスパラギン、トリプトファンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合し、次にTに対して結合する;
(2-31) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、アスパラギン、トリプトファンであるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合し、次にCに対して結合する;
(2-32) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、プロリン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-33) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、プロリン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-34) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-35) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、チロシン、プロリン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する;
(2-36) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、セリン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、A及びGに選択的に結合する;
(2-37) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、セリン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-38) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、セリン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-39) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、セリン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-40) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、トレオニン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、A及びGに選択的に結合する;
(2-41) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、トレオニン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Gに選択的に結合する;
(2-42) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Gに選択的に結合する;
(2-43) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、トレオニン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-44) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、フェニルアラニン、トレオニン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-45) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、トレオニン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-46) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、バリン、トレオニン、アスパラギンであるとき、そのPPRモチーフは、Aに選択的に結合する;
(2-47) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、バリン、任意のアミノ酸であるとき、そのPPRモチーフは、A、C及びTに結合するが、Gには結合しない;
(2-48) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、イソロイシン、バリン、アスパラギン酸であるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合し、次にAに対して結合する;
(2-49) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、バリン、グリシンであるとき、そのPPRモチーフは、Cに選択的に結合する;
(2-50) A1、A4、及びLiiの3つのアミノ酸の組み合わせが、順に、任意のアミノ酸、バリン、トレオニンであるとき、そのPPRモチーフは、Tに選択的に結合する。
【0023】
(新規PPRモチーフ)
本発明は、新規なPPRモチーフを提供する。本発明により提供される新規なPPRモチーフであって、アデニン結合性であるものは、下記の(A-1)、(A-2)、及び(A-3)である:
(A-1)配列番号:9の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:9の配列において、位置10のアミノ酸のチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置16のアミノ酸のロイシンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置18のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、及び位置28のアミノ酸のグルタミン酸への置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(A-2)配列番号:9の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~20個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(A-3)配列番号:9の配列と少なくとも42%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ。
【0024】
(A-1)での置換は、1でもよく、2以上でもよく、また上記のすべてであってもよい。
【0025】
(A-2)において、配列番号:9の配列において置換等されうるアミノ酸である、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~20個は、
好ましくは、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、8、13、21、22、23、25、29、35のアミノ酸以外のアミノ酸の1~11個であり、
より好ましくは、位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、8、13、21、22、23、25、29、35のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置20、24、31、及び32のアミノ酸以外のアミノ酸の1~7個であり、
さらに好ましくは、位置10、15、16、17、18、及び28のアミノ酸のいずれかである。
【0026】
(A-3)において、配列番号:9の配列と少なくとも42%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であることは、
好ましくは、配列番号:9の配列と少なくとも71%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、及び位置5、8、13、21、22、23、25、29、35のアミノ酸は同一であることであり、
より好ましくは、配列番号:9の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、位置5、8、13、21、22、23、25、29、35のアミノ酸、及び位置20、24、31、及び32のアミノ酸は同一であることであり、
さらに好ましくは、配列番号:9の配列と少なくとも82%の配列同一性を有し、ただし同一でないアミノ酸は、位置10、15、16、17、18、及び28のアミノ酸のいずれかである。
【0027】
本発明により提供される新規なPPRモチーフであってシトシン結合性であるのは、下記の(C-1)、(C-2)、及び(C-3 )である:
(C-1)配列番号:10の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:10の配列において、位置2のアミノ酸のセリンへの置換、位置5のアミノ酸のイソロイシンへの置換、位置7のアミノ酸のロイシンへの置換、位置8のアミノ酸のリジンへの置換、位置10のアミノ酸のフェニルアラニン又はチロシンへの置換、位置15のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置22のアミノ酸のバリンへの置換、位置24のアミノ酸のアルギニンへの置換、位置27のアミノ酸のロイシンへの置換、及び位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(C-2)配列番号:10の配列において、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~25個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(C-3)配列番号:10の配列と少なくとも25%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ。
【0028】
(C-1)での置換は、1でもよく、2以上でもよく、また上記のすべてであってもよい。
【0029】
(C-2)において、配列番号:10の配列において置換等されうるアミノ酸である、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~25個は、
好ましくは、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置6、9、11、12、17、20、21、23、25、28、及び35のアミノ酸以外のアミノ酸の1~14個であり、
より好ましくは、位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置6、9、11、12、17、20、21、23、25、28、及び35のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置13、16、31、及び32のアミノ酸以外のアミノ酸の1~10個であり、
さらに好ましくは、位置2、5、7、8、10、15、22、24、27、及び29のアミノ酸のいずれかである。
【0030】
(C-3)において、配列番号:10の配列と少なくとも25%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であることは、
好ましくは、配列番号:10の配列と少なくとも60%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、及び6、9、11、12、17、20、21、23、25、28、及び35のアミノ酸は同一であることであり、
より好ましくは、配列番号:10の配列と少なくとも71%の配列同一性を有し、ただし位置1、3、4、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、位置6、9、11、12、17、20、21、23、25、28、及び35のアミノ酸、及び位置13、16、31、及び32のアミノ酸は同一であることであり、
さらに好ましくは、配列番号:10の配列と少なくとも71%の配列同一性を有し、ただし同一でないアミノ酸は、位置2、5、7、8、10、15、22、24、27、及び29のアミノ酸のいずれかである。
【0031】
本発明により提供される新規なPPRモチーフであって、グアニン結合性であるのは、下記の(G-1)、(G-2)、及び(G-3 )である:
(G-1)配列番号:11の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:11の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置15のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のバリンの置換、位置28のアミノ酸のセリンへの置換、及び位置35のアミノ酸のイソロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(G-2)配列番号:11の配列において、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~21個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(G-3)配列番号:11の配列と少なくとも40%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ。
【0032】
(G-1)での置換は、1でもよく、2以上でもよく、また上記のすべてであってもよい。
【0033】
(G-2)において、配列番号:11の配列において置換等されうるアミノ酸である、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~21個は、
好ましくは、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、11、12、17、20、21、22、23、及び25のアミノ酸以外のアミノ酸の1~12個であり、
より好ましくは、位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、11、12、17、20、21、22、23、及び25のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置8、13、16、24、29、31、及び32のアミノ酸以外のアミノ酸の1~5個であり、
さらに好ましくは、位置10、15、27、28、及び35のアミノ酸のいずれかである。
【0034】
(G-3)において、配列番号:11の配列と少なくとも40%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であることは、
好ましくは、配列番号:11の配列と少なくとも65%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、及び位置5、11、12、17、20、21、22、23、及び25のアミノ酸は同一であることであり、
より好ましくは、配列番号:11の配列と少なくとも85%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、7、9、14、18、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、位置5、11、12、17、20、21、22、23、及び25のアミノ酸、及び位置8、13、16、24、29、31、及び32のアミノ酸は同一であることであり、
さらに好ましくは、配列番号:11の配列と少なくとも85%の配列同一性を有し、ただし同一でないアミノ酸は、位置10、15、27、28、及び35のアミノ酸のいずれかである。
【0035】
本発明により提供される新規なPPRモチーフであって、ウラシル結合性であるのは、下記の(U-1)、(U-2)、及び(U-3)である:
(U-1)配列番号:12の配列からなるPPRモチーフ、又は配列番号:12の配列において、位置10のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置13のアミノ酸のセリンへの置換、位置15のアミノ酸のリジンへの置換、位置17のアミノ酸のグルタミン酸への置換、位置20のアミノ酸のロイシンへの置換、位置21のアミノ酸のリジンへの置換、位置23のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換、位置24のアミノ酸のアスパラギン酸への置換、位置27のアミノ酸のリジンへの置換、位置28のアミノ酸のリジンへの置換、位置29のアミノ酸のアルギニンへの置換、及び位置31のアミノ酸のロイシンへの置換からなる群より選択されるいずれかの置換を行ったアミノ酸配列からなるPPRモチーフ;
(U-2)配列番号:12の配列において、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~22個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ;
(U-3)配列番号:12の配列と少なくとも37%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ。
【0036】
(U-1)での置換は、1でもよく、2以上でもよく、また上記のすべてであってもよい。
【0037】
(U-2)において、配列番号:12の配列において置換等されうるアミノ酸である、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~22個は、
好ましくは、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、7、9、16、18、22、25、及び35のアミノ酸以外のアミノ酸の1~14個であり、
より好ましくは、位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置5、7、9、16、18、22、25、及び35のアミノ酸以外のアミノ酸であって、かつ位置8、及び32のアミノ酸以外のアミノ酸の1~12個であり、
さらに好ましくは、位置10、13、15、17、20、21、23、24、27、28、29、及び31のアミノ酸のいずれかである。
【0038】
(U-3)において、配列番号:12の配列と少なくとも37%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸は同一であることは、
好ましくは、配列番号:12の配列と少なくとも60%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、及び位置5、7、9、16、18、22、25、及び35のアミノ酸は同一であることであり、
より好ましくは、配列番号:12の配列と少なくとも65%の配列同一性を有し、ただし位置1、2、3、4、6、11、12、14、19、26、30、33、及び34のアミノ酸、位置5、7、9、16、18、22、25、及び35のアミノ酸、及び位置8、及び32のアミノ酸は同一であることであり、
さらに好ましくは、配列番号:12の配列と少なくとも65%の配列同一性を有し、ただし同一でないアミノ酸は、位置10、13、15、17、20、21、23、24、27、28、29、及び31のアミノ酸のいずれかである。
【0039】
なお本発明者らにより創出された、PPRモチーフv2A(SEQ ID NO:9)、v2C(SEQ ID NO:10)、v2G(SEQ ID NO:11)、v2U(SEQ ID NO:12)は、本願が初めて開示するものであり、また天然には存在しない。またそれら各々のホモログ(上記(A-1)、(A-2) 、(A-3)、(C-1)、(C-2) 、(C-3)、(G-1)、(G-2) 、(G-3)、(U-1)、(U-2) 、(U-3)として示した態様とそれらの好ましい場合として示した態様のうち、SEQ ID NOs:9-12以外の配列からなる態様)に関しては、(ホモログ個々が、本願が初めて開示するものであるか否かにかかわらず、また天然に存在するか否かにかかわらず)、少なくともホモログのいずれかを2個以上、例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個組み合わせたものは、天然には存在しないと考えられる。なお、本発明に関し、「いずれかの」というとき、選択される数は任意である。
【0040】
(新規PPRモチーフの配列についての説明)
図1~4には、シロイヌナズナのPPRモチーフ配列のうち、位置1、4、及びiiのアミノ酸の組み合わせがアデニンを認識するPPRモチーフのためにはVTN、シトシンを認識するPPRモチーフのためにはVSN、グアニンを認識するPPRモチーフのためにはVTD、ウラシルを認識するPPRモチーフのためにはVNDであるものを収集し、各位置に出現するアミノ酸の種類及びその数をまとめたものである。新たなPPRモチーフの配列v2
A(SEQ ID NO:9)、v2
C(SEQ ID NO:10)、v2
G(SEQ ID NO:11)、v2
U(SEQ ID NO:12)においては、各位置のアミノ酸は出現頻度が高いものである。
図6Aには、これらの新規な配列とともに、dPPRモチーフの配列において、位置1、4、及びiiのアミノ酸の組み合わせをv2と同じにした、v1
A(SEQ ID NO:13)、v1
C(SEQ ID NO:14)、v1
G(SEQ ID NO:15)、v1
U(SEQ ID NO:16)も示した。
【0041】
また
図6Aには、v3.1モチーフのアミノ酸配列を示した。V3.1はv2においてアデニン認識モチーフにD15K変異を導入したものであり(SEQ ID NO:401)、他の点はv2と同じである。PPRタンパク質においてv3.1を用いることにより、v2よりも結合力が向上したものが得られる場合がある。
【0042】
また、次の表1~4には、SEQ ID NOs:9-12の各配列におけるアミノ酸の出現頻度が、ランダムな場合(例えば、100個のPPRモチーフを収集し、ある位置のアミノ酸の出現頻度は、仮にランダムに出現するのであれば、20種類のアミノ酸が5回ずつ出現することとなる。)からどれくらいかけ離れているかをまとめた。ある位置において、アミノ酸の出現頻度がランダムである場合から遠く、出現頻度が高い場合は、進化的に収束しており、その位置のアミノ酸は機能との関連は高いと考えられる。機能との関連が高いアミノ酸であれば同じくランダムである場合から遠く、出現頻度が高い他のアミノ酸に置換しても、PPRモチーフとしての機能は維持されうる。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
(新規PPRタンパク質)
本発明は、新規なPPRモチーフを含む新規なPPRタンパク質を提供する。
本発明により提供される新規なPPRタンパク質は、下記のものである。
n個の塩基配列からなる標的RNAに結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質であって、
該塩基配列中のアデニンに対するPPRモチーフが、上述の(A-1)、(A-2)、又は(A-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のシトシンに対するPPRモチーフが、上述の(C-1)、(C-2)、又は(c-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のグアニンに対するPPRモチーフが、上述の(G-1)、(G-2)、又は(G-3)のPPRモチーフであり;
該塩基配列中のウラシルに対するPPRモチーフが、上述の(U-1)、(U-2)、又は(U-3)のPPRモチーフである、PPRタンパク質。
【0048】
PPRタンパク質に含まれるPPRモチーフの好ましい例は、PPRモチーフに関する上述の(A-1)、(A-2)、 (A-3)、(C-1)、(C-2)、(C-3)、(G-1)、(G-2)、(G-3)、(U-1)、(U-2)、又は(U-3)についての説明が、そのまま当てはまる。
【0049】
本発明のPPRタンパク質において、n(1以上の整数を表す。)は特に限定されないが、10以上とすることができ、12以上とすることが好ましく、15以上とすることがより好ましく、18以上とすることがさらに好ましい。モチーフ数を多くすることで、多くの標的に対して高い結合強度を有するPPRタンパク質が作製できる。
【0050】
従来、下表に示したように、7~14モチーフからなる人工PPRタンパク質の作製が報告されている一方で、多くのPPRモチーフが含まれ、それをコードする遺伝子配列において塩基配列上のリピートが多くならざるを得ない遺伝子の構築は、難しいと考えられてきた。また一般に、リピート配列を含む遺伝子を作製する際、クローニング過程でリピート部分が組み変わるなど、作製が困難な場合がある(Trinh, T. et al. An Escherichia coli strain for the stable propagation of retroviral clones and direct repeat sequences. Focus, 16, 78-80(1994))。
なお表中、Kd値は、各文献で示されている最も低い値を表記した。
【0051】
【0052】
15個以上のPPRモチーフを有するPPRタンパク質の遺伝子の構築に際しては、コドンの縮退を利用し、各モチーフにおいて結合に関与する1、4、iiを除いたアミノ酸(後述するGoldenGate法を用いる場合は、共通にする両端付近も除いた5~33番目の29個のアミノ酸)をコードする塩基配列を、各モチーフ間で適宜異ならせることにより、塩基配列上のリピートを減じた遺伝子を構築できる。異ならせる程度は、当業者であれば適宜設計できるが、例えば4.5%以上(87の塩基塩基におい4カ所以上)、15%以上、または30%以上(87の塩基塩基において26カ所以上)の塩基を、異ならせることができる。
【0053】
例えば、既存のv1~v4モチーフ(SEQ ID NO:13~16)をコードする塩基配列に関し、コドンの縮退を利用したモチーフをコードする塩基配列の例として、下表のような配列を挙げることができる。
【0054】
【0055】
なお、「作製」は、「生産」又は「製造」と言い換えることができる。また遺伝子等に関し、パーツを組み合わせて作製する場合に、「構築」ということがあるが、「構築」も、「生産」又は「製造」と言い換えることができる。
【0056】
(PPRモチーフ、PPRタンパク質をコードする核酸)
本発明は、新規なPPRモチーフ及びそれを含む新規なPPRタンパク質をコードする核酸を提供する。新規なPPRモチーフをコードする塩基配列は、コドンの縮退により、いくつかのバリエーションがある。
【0057】
本発明の新規PPRモチーフのアミノ酸配列v2A(SEQ ID NO:9)、v2C(SEQ ID NO:10)、v2G(SEQ ID NO:11)、v2U(SEQ ID NO:12)をコードする塩基配列の好ましい例を、下表に示す。
【0058】
【0059】
dPPRモチーフにおいて、位置1、4、及びiiのアミノ酸の組み合わせをv2と同様にしたPPRモチーフのアミノ酸配列、v1A(SEQ ID NO:13)、v1C(SEQ ID NO:14)、v1G(SEQ ID NO:15)、v1U(SEQ ID NO:16)をコードする塩基配列を、下表に示す。
【0060】
【0061】
PPRタンパク質をコードする塩基配列は、上記の配列のいずれかの組み合わせにより構成することができる。アミノ酸配列v2A(SEQ ID NO:9)、v2C(SEQ ID NO:10)、v2G(SEQ ID NO:11)、v2U(SEQ ID NO:12)をコードする塩基配列と、v1A(SEQ ID NO:13)、v1C(SEQ ID NO:14)、v1G(SEQ ID NO:15)、v1U(SEQ ID NO:16)をコードする塩基配列とを、適宜組み合わせて、タンパク質をコードするアミノ酸を構成してもよい。
【0062】
本発明の新規PPRモチーフのアミノ酸配列v3.1A(SEQ ID NO:401)、1stA(SEQ ID NO:402)、1stC(SEQ ID NO:403)、1stG(SEQ ID NO:404)、1stU(SEQ ID NO:405)をコードする塩基配列の好ましい例を、下表に示す。
【0063】
【0064】
PPRタンパク質をコードする塩基配列は、上記の配列のいずれかの組み合わせにより構成することができる。N末端から1番目のPPRモチーフをコードする塩基配列としては、上記v3.2Xから選択されるいずれか一つを用い、それ以降のPPRモチーフをコードする塩基配列としては、アデニンに対するPPRモチーフをコードする塩基配列として上記v3.1Aを選択し、シトシン、グアニン、及びウラシルに対するPPRモチーフをコードする塩基配列として、上記v2シリーズから選択したものを適宜組み合わせるとよい。
【0065】
(凝集性の改善)
本発明者らは、天然に存在する既存のPPRモチーフのアミノ酸情報から、PPRモチーフの6番目の位置のアミノ酸は疎水性(特にロイシン)、9番目の位置のアミノ酸は非親水性のアミノ酸(特にグリシン)である場合が非常に多いことを見出した。すでに結晶構造が得られているPPRタンパク質の構造(非特許文献6:Coquille et al., 2014 Nat. Commun.; PDB ID: 4PJQ, 4WN4, 4WSL, 4PJR; 非特許文献7:Shen et al., 2015 Nat. Commun., PDB ID: 5I9D, 5I9F, 5I9G, 5I9H)から、1モチーフ目(N末側)のそれら6番目、9番目は外側に露出するため、その露出した疎水性アミノ酸が原因で凝集性を示すと想像した(
図6A)。一方で、2モチーフ目以降においては、6番目、9番目のアミノ酸は、タンパク質内に埋もれ、疎水性コアを形成するため、すべてのモチーフの6番目、9番目に親水性残基を入れるとタンパク質構造が崩壊する可能性があると考えた。そこで1モチーフ目のみ、6番目、好ましくは6番目及び9番目のアミノ酸を親水性のアミノ酸(アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リジン、アルギニン、セリン、トレオニン)にすることでPPRの凝集性を減少させることとした。
【0066】
具体的には、次のようにする。
特定の塩基配列を有する標的核酸と結合可能なタンパク質において、N末端から1番目のPPRモチーフ(M1)において:
(1)A6アミノ酸を、親水性アミノ酸、好ましくはA6アミノ酸を、アスパラギン又はアスパラギン酸とする。
(2)さらに、A9アミノ酸を、親水性アミノ酸又はグリシン、好ましくはグルタミン、グルタミン酸、リジン、又はグリシンとする。
(3)あるいは、A6アミノ酸及びA9アミノ酸を、下記のいずれかの組み合わせとする。
・A6アミノ酸がアスパラギンであり、かつA9アミノ酸がグルタミン酸である組み合わせ
・A6アミノ酸がアスパラギンであり、かつA9アミノ酸がグルタミンである組み合わせ
・A6アミノ酸がアスパラギンであり、かつA9アミノ酸がリジンである組み合わせ
・A6アミノ酸アスパラギン酸であり、かつA9アミノ酸がグリシンである組み合わせ
【0067】
このようなPPRモチーフのうち、特に好ましいものは、下記のものである。
(1stA-1)配列番号:402の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換したPPRモチーフ;
(1stA-2)(1stA-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stA-3)(1stA-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつアデニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stC-1)配列番号:403の配列からなるPPRモチーフ;
(1stC-2)(1stC-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(1stC-3)(1stC-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつシトシン結合性であるPPRモチーフ;
(1stG-1)配列番号:404の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換した配列からなるPPRモチーフ;
(1stG-2)(1stG-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stG-3)(1stG-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつグアニン結合性であるPPRモチーフ;
(1stU-1)配列番号:405の配列において、位置6及び9のアミノ酸を、下記に定義した組み合わせのいずれか1つを満たすように置換した配列からなるPPRモチーフ;
(1stU-2)(1stU-1)の配列において、位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸以外のアミノ酸の1~9個を置換、欠失、又は付加した配列からなり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ;
(1stU-3)(1stU-1)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、ただし位置1、4、6、9、及び34のアミノ酸は同一であり、かつウラシル結合性であるPPRモチーフ。
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がグルタミン酸である組み合わせ
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がグルタミンである組み合わせ
・位置6のアミノ酸がアスパラギンであり、かつ位置9のアミノ酸がリジンである組み合わせ
・位置6のアミノ酸アスパラギン酸であり、かつ位置9アミノ酸がグリシンである組み合わせ
【0068】
図6Aに、v3.1モチーフとともに、v3.2モチーフのアミノ酸配列を示した。V3.2は、1モチーフ目は1st
A(SEQ ID NO:402)、1st
C(SEQ ID NO:403)、1st
G(SEQ ID NO:404)、1st
U(SEQ ID NO:405)を選択し、2モチーフ目以降はv2
C, v2
G, v2
U, v3.1
Aから選択する。PPRタンパク質においてN末端から1番目のPPRモチーフとしてv3.2のいずれかを用いることにより、細胞内における凝集を改善しうる。
【0069】
(その他)
本発明で塩基配列(ヌクレオチド配列ということもある。)又はアミノ酸配列に関し「同一性」というときは、特に記載した場合を除き、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致した塩基又はアミノ酸の個数の百分率を意味する。すなわち、同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al., J.Mol.Biol. 215(1990) 403-410に記載されるNBLAST及びXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0070】
本明細書において、塩基配列又はアミノ酸配列に関し、同一性を%で表すときは、特に記載した場合を除き、いずれの場合も同一性%数値が高い方が好ましく、具体的には、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、97.5%以上であることがさらに好ましい。
【0071】
また、本発明でPPRモチーフ又はタンパク質に関し、「置換、欠失、又は付加した配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、特に記載した場合を除き、いずれのモチーフ又はタンパク質においても、そのアミノ酸配列からなるモチーフ又はタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1~9個又は1~4個程度であるか、性質の似たアミノ酸への置換であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このようなアミノ酸配列に係るポリヌクレオチド又はタンパク質を調製するための手段は、当業者にはよく知られている。
【0072】
性質の似たアミノ酸とは、ハイドロパシー、荷電、pKa、溶解性等の物性が似ているアミノ酸をいい、例えば、次のようなものを指す。
疎水性(非極性)アミノ酸;アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン
非疎水性アミノ酸;アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、リジン、セリン、トレオニン、システイン、ヒスチジン、メチオニン;
親水性アミノ酸;アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、リジン、セリン、トレオニン;
酸性アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸;
塩基性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン;
中性アミノ酸:アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン;
含硫アミノ酸:メチオニン、システイン;
含芳香環アミノ酸:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン。
本発明のPPRモチーフ、それを含むタンパク質、又はそれらをコードする核酸は、当業者であれば、従来技術を利用して調製することができる。
【0073】
[新規PPRモチーフの性能]
(結合力)
本発明の新規 PPRモチーフ(SEQ ID NOs:9-12)を用いて作製したPPRタンパク質は、比較的長い標的RNAに対するPPRタンパク質の作製に適しているのみならず、同じ標的RNAに対する既存のPPR(SEQ ID NOs:13-16)モチーフを用いて作製したPPRタンパク質よりも高いRNA結合性能を有しうる。
【0074】
すなわち、PPRタンパク質において本発明の新規 PPRモチーフを用いることにより、既存のPPRモチーフを用いた場合よりも、標的RNAに対する結合力を高めることができる。結合力が高くなることで、PPRタンパク質による細胞内でのRNA操作の効率が向上されうる。例えば、細胞内でのスプライシング効率が、標的への結合力が高いPPRタンパク質の使用により、向上できる(実施例5参照)。
【0075】
結合力が高められる程度は、標的の配列や長さにも拠ると思われるが、例えば、結合力を1.1倍以上とすることができ、特定すると1.3倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、3.6倍以上とすることができる。
【0076】
標的配列に対する結合力は、EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)やBiacoreを用いた方法によって評価することができる。EMSAは、タンパク質と核酸が結合したサンプルを電気泳動した際、核酸分子の移動度が結合していない場合と比較して変化する性質を利用する方法である。Biacoreに代表される分子間相互作用解析機器は、反応速度論的解析ができるため、詳細なタンパク質-核酸結合解析が可能である。
【0077】
標的配列に対する結合力はまた、後述するRPB-ELISAでも評価できる。RPB-ELISAでは、対象PPRタンパク質とその標的RNAを加えたサンプルの発光量から、バックグラウンドシグナル(標的RNAを加えずに対象PPRタンパク質を加えた際の発光シグナル値)を差し引いた値を対象PPRとその標的RNAとの結合力とすることができる。
【0078】
(特異性)
本発明の新規 PPRモチーフを用いて作製したPPRタンパク質は、標的配列に対する特異性において、同じ標的RNAに対する既存のPPRモチーフを用いて作製したPPRタンパク質よりも高い能力を有しうる。
【0079】
すなわち、PPRタンパク質において本発明の新規 PPRモチーフを用いることにより、既存のPPRモチーフを用いた場合よりも、標的RNAに対する特異性を高めることができる。標的RNAへの特異性が高いPPRタンパク質であれば、それを用いて細胞内で標的RNAの操作を行う場合、意図しないRNAに結合した結果、意図しない効果が出るのを避けることができる。
【0080】
標的配列に対する親和性は、当業者であれば従来法で評価できる。また、RPB-ELISAでは、対象PPRタンパク質ついて適切な非標的RNAを設計し、この場合の結合力(発光シグナル値)を同様に求めることにより、標的配列に対する結合シグナル値/非標的配列に対する結合シグナル値 (S/N)を、標的RNAに対する特異性(親和性)の指標として求めることができる。
【0081】
(Kd値)
本発明の新規 PPRモチーフを用いて作製したPPRタンパク質は、標的RNAに対し、高い親和性(平衡解離乗数、Kd値)を有しうる。
【0082】
標的配列に対するKd値は、EMSA等の既存の方法により算出することができる。本発明に関しKd値をいうときは、特に記載した場合を除き、後述する実施例の項に記載した条件でEMSAにより測定した際の値を指す。
【0083】
本発明の新規 PPRモチーフを用いて作製したPPRタンパク質のKd値は、標的の配列や長さにも拠ると思われるが、標的配列の長さが18塩基長以上である場合は、10-7 M以下とすることができ、 10-8M以下、あるいは10-9Mオーダーとすることができる。本発明者らの検討によると、標的配列の長さが18塩基長である場合の実施例の条件では、Kd値の最小値(高い親和性)は、1.95 x 10-9あり、これまで報告されたデザインPPRタンパク質のKd値(表1参照)のいずれよりも低い。なお、Kd値は、RPB-ELISAでの結合実験で得られたシグナル値と相関することが分かっている。RPB-ELISAでの発光値(実施例の項に記載した条件による)が、1~2 x 107 の場合は、Kd値が10-6 ~10-7 M、RPB-ELISAでの発光値が、2~4 x 107の場合は、Kd値が10-7 ~ 10-8 M、RPB-ELISAでの発光値が、4 x 107 よりも大きい場合は、Kd値が~10-8 以下であることが推定できる。
【0084】
(PPRタンパク質の構築効率)
本発明の新規 PPRモチーフを用いることにより、所望のPPRタンパク質を効率的に構築することができる。構築効率は、既存の方法を用い、高いKd値を有するPPRタンパク質が構築できた割合を求めることにより、算出できる。Kd値の代わりに、上述のようにRPB-ELISAによる発光シグナル値を求め、同様に算出してもよい。
【0085】
具体的には、本発明の新規 PPRモチーフを用いることにより、標的配列の長さが18塩基長である場合は、Kd値が10-6 M以下である(RPB-ELISA値が1 x 107以上)PPRタンパク質が、50%以上、特定すると60%以上、より特定すると70%以上、さらに特定すると80%以上の効率で得られうる。また本発明により、Kd値が10-7 M以下である(RPB-ELISA値が2 x 107以上)標的配列が18塩基長であるPPRタンパク質は、50%以上、特定すると55%以上、より特定すると65%以上、さらに特定すると75%以上の効率で得られうる。また本発明により、Kd値が10-8 M以下である(RPB-ELISA値が4 x 107以上)標的配列が18塩基長であるPPRタンパク質は、20%以上、特定すると25%以上、より特定すると30%以上、さらに特定すると35%以上の効率で得られうる。
【0086】
構築効率は、RPB-ELISA法を用い、標的配列に対する結合シグナル値/非標的配列に対する結合シグナル値 (S/N)に基づき、算出することができる。
【0087】
具体的には、本発明の新規 PPRモチーフを用いることにより、標的配列が18塩基長であり、かつS/Nが10より高いPPRタンパク質が、50%以上、特定すると55%以上、より特定すると65%以上、さらに特定すると75%以上の効率で得られうる。また本発明により、標的配列が18塩基長であり、かつS/Nが100より高いPPRタンパク質は、15%以上、特定すると20%以上、より特定すると25%以上、さらに特定すると30%以上の効率で得られうる。
【0088】
[パーツライブラリーを用いたPPRタンパク質遺伝子のシームレスクローニング]
本発明はまた、以下の工程を含む、n個の塩基配列からなる標的核酸に結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質をコードする遺伝子の作製方法を提供する:
アデニン、シトシン、グアニン、又はウラシルもしくはチミン結合性であるPPRモチーフ各々をコードする4種類、及びPPRモチーフの2個の連結物各々をコードする16種類を含む、少なくとも20種類のポリヌクレオチドが、少なくともm種類の順に連結可能に設計された中間ベクターDest-a...のそれぞれに挿入された、少なくとも20×m種類のPPRパーツのライブラリーから、目的遺伝子を作製するために必要なm個のPPRパーツを選択し;
選択したm種類のPPRパーツを、ベクターパーツとともにGolden Gate反応に供してm個のポリヌクレオチドの連結物が挿入されたベクターを得る。nは、m以上であり、かつm×2以下の整数である。nは、例えば10~20とすることができる。
【0089】
本発明の方法は、Golden Gate反応を利用したものである。Golden Gate反応ではType IIS制限酵素とT4 DNA Ligaseを使用して複数のDNA断片をベクターに挿入する。Type IIS制限酵素は認識配列の外側を切断するため、付着末端を自由に設定できる。また、4塩基突出末端をライゲーションに使用するために効率が高い。さらにアニーリング及びライゲーションしたコンストラクト中には認識配列が残らない。したがって、PPRモチーフをコードするポリヌクレオチドをシームレスに連結することができる(
図5)。Type IIS制限酵素の特に好ましい例は、BsaIである。
【0090】
本発明の方法は、PPRタンパク質の特徴を考慮して適切に設計されたパーツライブラリとGolden Gate反応により、リピート配列が多い場合であっても効率的に遺伝子を作製できる。そのため、この方法は、リピート配列が多くなる15塩基長以上の標的核酸に結合可能な、15個以上のPPRモチーフを含むタンパク質の遺伝子を作製する場合に、有益である。mを10とし、200種類のPPRパーツのライブラリーを用い、ライブラリーから目的の遺伝子を作製するために必要な10個のPPRパーツを選択するようにすれば、10~20個のPPRモチーフを含むタンパク質をコードする遺伝子を自在に作製することができる。なお、以下では、標的配列が10~20塩基長である、RNA結合性のPPRタンパク質をコードする遺伝子を作製する場合を例に説明することがあるが、この方法は他の長さの標的配列に対するPPRタンパク質を調製するためにも応用でき、またDNA結合性のPPRタンパク質を調製するためにも応用できる。
【0091】
本発明の方法では、PPRモチーフをコードする配列を1つ、又は2つ含む、パーツライブラリーが準備され(
図5のSTEP1及びSTEP2)、使用される。パーツライブラリーは、例えば10種類の中間ベクターDest-a,b,c,d,e,f,g,h,i,jへ、PPRモチーフ配列を挿入することにより作製できる。中間ベクターは、Golden Gate反応により、Dest-aからDest-jまでが順番にシームレスで連結されるように設計される。挿入されるPPRモチーフ配列は、各々をコードする4種類(A、C、G、U)、及びPPRモチーフの2個の連結物各々をコードする16種類(AA、AC、AG、AU、CA、CC、CG、CU、GA、GC、GG、GU、UA、UC、UG、UU)を含む、少なくとも20種類とすることができる。この場合、パーツライブラリーは、少なくとも200種類のパーツを含む。
【0092】
次いで、標的塩基配列にしたがって、必要なパーツを選択する。具体的には、例えばDest-a,b,c,d,e,f,g,h,i,jの各々のパーツライブラリーから各1つのパーツを選択し、ベクターパーツとともに、Golden Gate反応を行う(
図5のSTEP3)。全ての中間ベクターに1モチーフが入ったものを選択すれば10個の配列が連結し、2モチーフが入ったものを使用すれば20個の配列が連結する。11~19個を連結する場合は、任意のDest-xライブラリーから、1モチーフが入ったものを選択すればよい。
【0093】
STEP3で用いるベクターパーツは、3種類(最もC末端側に配されるPPRモチーフのii番目のアミノ酸に配慮する必要があるが、グアニン結合性のPPRモチーフとウラシル結合性PPRモチーフとはii番目のアミノ酸が同じである)のCAP-xベクター(前掲非特許文献1参照)から選択することができる。最もC末端側に位置するモチーフが認識する塩基配列がアデニンの場合は、CAP-A、 シトシンの場合は、CAP-C、グアニンもしくはウラシルの場合は、CAP-GUをそれぞれ用いることができる。
【0094】
得られたプラスミドは、大腸菌に形質転換し、増幅・抽出することができる。
【0095】
[PPRタンパク質の検出又は分析方法]
本発明は、下記の工程を含む、n個の塩基配列からなる標的核酸に結合可能な、n個のPPRモチーフを含むタンパク質を検出又は定量する方法を提供する:
固相化された標的核酸に、候補タンパク質を含む溶液を供し、標的核酸に結合したタンパク質を検出又は定量する工程。
この本発明の検出・分析方法は、ハイスループットなPPRタンパク質の結合性能を評価する方法として有用である。
【0096】
本発明の検出・分析方法は、ELISA (Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)を応用したものであることから(
図7A)、RPB-ELISA (RNA-protein binding ELISA)法と称することがある。なお本発明の方法は、本明細書ではRNA結合性のPPRタンパク質を評価する方法として説明しているが、同様に、DNA結合性のPPRタンパク質の、標的DNAへの結合性能を評価するためにも応用できる。
【0097】
固相化された標的核酸に、候補タンパク質を含む溶液を供する工程は、具体的には、プレートに固定された標的核酸分子に、対象結合タンパク質を含む溶液を流すことにより実施できる。標的核酸分子の固定化は、既存の種々の固定化方法が利用でき、例えばストレプトアビジンがコーティングされたウェルプレートに対して、ビオチン修飾した標的核酸分子を含む核酸プローブを与えることにより達成できる。
【0098】
一方、測定対象となる、候補タンパク質は、標識タンパク質、例えばルシフェラーゼ等の酵素や蛍光タンパク質と融合しておくことができる。標識タンパク質との融合により、検出や定量がより簡単になる。
【0099】
RPB-ELISA法は、Biacoreのような特別な装置を要さないという利点がある。またRPB-ELISA法により、スループットが高く、タンパク質と核酸との結合が短期間で評価できる。さらにRPB-ELISA法は、実施例の条件では、6.25 nMのタンパク質濃度以上で十分に検出可能であり、大腸菌ライセートでも同様に検出可能であることから、対象とする核酸結合性タンパク質の精製を行う必要がないという利点を有する。
【0100】
[PPRタンパク質の利用]
(複合体、融合タンパク質)
本発明により提供されるPPRモチーフ又はPPRタンパク質は、機能性領域を連結し、複合体とすることができる。また、タンパク質性の機能性領域を連結し、融合タンパク質とすることができる。機能性領域とは、生体内又は細胞内で特定の生物学的機能、例えば酵素機能、触媒機能、阻害機能、亢進機能などの機能を有する部分、又は標識としての機能を有する部分をいう。そのような領域は、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、生理活性物質、薬剤からなる。なお、以下では、本発明を、複合体に関し、融合タンパク質を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明に準じて、融合タンパク質以外の複合体の場合についても理解することができる。
【0101】
好ましい態様の一つでは、機能性領域はリボヌクレアーゼ(RNase)である。RNaseの例は、RNase A(例えば、bovine pancreatic ribonuclease A: PDB 2AAS)、RNase Hである。
【0102】
好ましい態様の一つでは、機能性領域は蛍光タンパク質である。蛍光タンパク質の例は、mCherry、EGFP、GFP、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、HcRed、KeimaRed、mRasberry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRである。融合タンパク質としての、凝集性の改善、及び/又は核への効率的な局在化の観点から、好ましい例はmClover3である。
【0103】
好ましい態様の一つでは、機能性領域は、標的がmRNAである場合に、標的mRNAからのタンパク質発現量を向上させる機能ドメインである(WO2017/209122)。mRNAからのタンパク質発現量を向上させる機能ドメインの例は、例えば、mRNAの翻訳を直接的又は間接的に促進することが知られているタンパク質の機能ドメインの全部又は機能的な一部であってよい。より具体的には、mRNAへリボソームを誘導するドメイン、mRNAの翻訳開始又は翻訳促進に関連するドメイン、mRNAの核外への輸送に関連するドメイン、小胞体膜への結合に関連するドメイン、小胞体保留シグナル(ER retention signal)配列を含むドメイン、又は、小胞体シグナル配列を含むドメインであってよい。 さらに具体的には、上記のmRNAへリボソームを誘導するドメインは、DENR(Density-regulated protein)、MCT-1(Malignant T-cell amplified sequence 1)、TPT1(Translationally-controlled tumor protein)、及び、Lerepo4(Zinc finger CCCH-domain)からなる群から選択されるポリペプチドの全部又は機能的な一部を含むドメインであってよい。また、上記のmRNAの翻訳開始又は翻訳促進に関連するドメインは、eIF4E及びeIF4Gからなる群から選択されるポリペプチドの全部又は機能的な一部を含むドメインであってよい。また、上記のmRNAの核外への輸送に関連するドメインは、SLBP(Stem-loop binding protein)の全部又は機能的な一部を含むドメインであってよい。また、上記の小胞体膜への結合に関連するドメインは、SEC61B、TRAP-alpha(Translocon associated protein alpha)、SR-alpha、Dia1(Cytochrome b5 reductase 3)、及び、p180からなる群から選択されるポリペプチドの全部又は機能的な一部を含むドメインであってよい。また、上記の小胞体保留シグナル(ER retention signal)配列は、KDEL(KEEL)配列を含むシグナル配列であってよい。また、前記小胞体シグナル配列は、MGWSCIILFLVATATGAHSを含むシグナル配列であってよい。
【0104】
本発明において、機能性領域は、PPRタンパク質のN末端側に融合されてよく、C末端側に融合されてもよく、N末端側とC末端側の両方に融合されてもよい。また、複合体又は融合タンパク質は、複数の機能性領域(例えば、2~5個)を含んでよい。さらに、本発明の複合体又は融合タンパク質は、機能性領域とPPRタンパク質とがリンカー等を介して間接的に融合されていてもよい。
【0105】
(PPRタンパク質等をコードする核酸、ベクター、細胞)
本発明は、上述の、PPRモチーフ、PPRタンパク質又は融合タンパク質をコードする核酸、核酸を含むベクター(例えば増幅のためのベクター、発現ベクター)も提供する。増幅のためのベクターは、大腸菌や酵母を宿主として用いうる。本明細書において、発現ベクターとは、例えば上流から、プロモーター配列を有するDNA、所望のタンパク質をコードするDNA、及びターミネーター配列を有するDNAを含むベクターを意味するが、所望の機能を発揮する限り、必ずしもこの順に配列されている必要はない。本発明においては、当業者が通常使用し得る様々なベクターを組み換えて使用することができる。
【0106】
本発明のPPRタンパク質、又は融合タンパク質は、真核生物(例えば、動物、植物、微生物(酵母、等)、原生生物)の細胞で機能し得る。本発明の融合タンパク質は、特に、動物細胞内(in vitro又はin vivo)で機能し得る。本発明のPPRタンパク質、又は融合タンパク質、又はそれを発現するベクターを導入し得る動物細胞としては、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、ラット由来の細胞を挙げることができる。また、本発明のPPRタンパク質、又は融合タンパク質、又はそれを発現するベクターを導入し得る培養細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS-1細胞、COS-7細胞、VERO(ATCC CCL-81)細胞、BHK細胞、イヌ腎由来MDCK細胞、ハムスターAV-12-664細胞、HeLa細胞、WI38細胞、293細胞、293T細胞、PER.C6細胞を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0107】
(用途)
本発明のPPRタンパク質、又は融合タンパク質は、生体内又は細胞内に、核酸配列特異的に機能性領域をデリバリーし、機能させることができる可能性がある。GFP等の標識部分を連結した複合体は、所望のRNAを生体内で可視化するために用いうる。
【0108】
また本発明のPPRタンパク質、又は融合タンパク質は、細胞内又は生体内において、核酸配列特異的に改変・破壊を行うことができ、また新たな機能を付与できる可能性がある。特にRNA結合性のPPRタンパク質は、オルガネラで見られるすべてのRNA加工のステップ、切断、RNA編集、翻訳、スプライシング、RNA安定化に関与している。したがって、本発明により提供されるPPRタンパク質の改質に関わる方法、及び本発明により提供されるPPRモチーフ及びPPRタンパク質は、様々な分野で、以下のような利用が期待できる。
【0109】
(1)医療
・特定の疾患に関連した特定のRNAを認識し、結合するPPRタンパク質を作製する。また、特定のRNAに関し、標的配列を解析し、及び付随するタンパク質を解析する。それらの解析結果は、疾患の治療のための化合物の探索に用いうる。
【0110】
例えば、動物では、LRPPRCと同定されるPPRタンパク質の異常がLeigh syndromFrench Canadian (LSFC; リー症候群、亜急性壊死性脳脊髄症)を引き起こすことが知られている。本発明は、LSFCの処置(予防、治療、進行の抑制)に寄与しうる。既存のPPRタンパク質の多くは、RNA操作(RNA上での遺伝情報の変換;多くの場合、C→U)の編集部位の指定に働く。このタイプのPPRタンパク質は、RNA編集酵素と相互作用すると示唆される付加モチーフがC末端側に存在する。このような構造を有するPPRタンパク質により、塩基多型を導入すること、又は塩基多型に起因した疾患又は状態を処置することが期待できる。
【0111】
・RNAの抑制・発現をコントロールした細胞を作製する。このような細胞には、分化・未分化状態をモニタリングした幹細胞(例えば、iPS細胞)、化粧品の評価用モデル細胞、創薬のメカニズム解明や薬理試験を目的として、機能性RNAの発現をON/OFFできる細胞が含まれる。
【0112】
・特定の疾患に関連した特定のRNAに対して特異的に結合するPPRタンパク質を作製する。このようなPPRタンパク質を、プラスミド、ウイルスベクター、mRNA、精製タンパク質を用いて細胞へ導入し、そのPPRタンパク質が細胞内でその標的RNAと結合することで、疾患の原因であるRNA機能を変化(改善)させることができる。機能変化する手段は、例えば、結合によるRNA構造の変化、分解することによるノックダウン、スプライシングによるスプライシング反応の変化、塩基置換などが挙げられる。
【0113】
(2)農林水産業
・農作物、林産物、水産物などにおいて、収量や品質を改善する。
・耐病性の向上、環境耐性の向上、向上された又は新たな機能性を有した生物を育種する。
【0114】
例えば、雑種第一代(F1)作物に関し、PPRタンパク質によるミトコンドリアRNAの安定化や翻訳制御を用いて人工的にF1作物を作出し、収率や品質を改善できる可能性がある。PPRタンパク質によるRNA操作及びゲノム編集は、従来技術よりも正確かつ迅速に、生物の品種改良、育種(生物を遺伝的に改良すること)が可能である。また、PPRタンパク質によるRNA操作及びゲノム編集は、遺伝子組み換えのように外来遺伝子により形質を転換するものではなく、元来動植物が有するRNAやゲノムを扱う技術である点で、変異体の選抜や戻し交雑という旧来の育種の手法に近いといえる。そのため、地球規模腕の食糧問題、環境問題にも、確実かつ迅速に対応しうる。
【0115】
(3)化学
・微生物、培養細胞、植物体、動物体(例えば昆虫体)を利用した有用物質生産において、DNA、RNAの操作により、タンパク発現量を制御する。これにより、有用物質の生産性を向上することができる。有用物質の例は、抗体、ワクチン、酵素等のタンパク質性の物質のほか、医薬品の中間体、香料、色素等の比較的低分子の化合物である。
【0116】
・藻類や微生物の代謝経路の改変により、バイオ燃料の産生効率を改善する。
【実施例】
【0117】
[実施例1:PPR遺伝子の作製方法の確立]
(モチーフの設計)
まず、PPRモチーフの設計を行った。これまでに報告された人工PPRタンパク質において用いられているPPRモチーフ配列は、様々な方法で抽出した天然界に存在するPPRモチーフ配列のコンセンサス配列が用いられている。それらの中でもdPPR(前掲非特許文献2、3、及び6)のモチーフ配列を用いて作製されたPPRタンパク質が、Kd値が低い(親和性が高い)。このPPRモチーフ配列を以下v1 PPRモチーフとする。
【0118】
他のPPRモチーフ配列として、各塩基を認識する代表的な1番目、4番目、ii番目のアミノ酸組み合わせを含むPPRモチーフのみを使ってコンセンサス配列を生成した。具体的には、各塩基を認識する代表的なアミノ酸組み合わせは、アデニンを認識する組み合わせは、1番目がバリン、4番目がトレオニン、ii番目がアスパラギン、シトシンを認識する組み合わせは、1番目がバリン、4番目がアスパラギン、ii番目がセリン、グアニンを認識する組み合わせは、1番目がバリン、4番目がトレオニン、ii番目がアスパラギン酸、ウラシルを認識する組み合わせは、1番目がバリン、4番目がアスパラギン、ii番目がアスパラギン酸であるので、それらの1番目、4番目、ii番目の組み合わせを含むPPRモチーフ配列からコンセンサスアミノ酸配列を抽出し、その配列をアデニン、シトシン、グアニン、ウラシルをそれぞれ特異的に認識するPPRモチーフ配列とした(
図1~4、SEQ ID NOs:9-12)。これを以下、v2 PPRモチーフとする。v1 PPRモチーフにおいても、同様の1番目、4番目、ii番目のアミノ酸組み合わせを用いることとした(SEQ ID NOs:13-16)。
【0119】
(1モチーフ及び2モチーフのライブラリーを用いたシームレスクローニング)
これら設計したPPRモチーフ配列をシームレスに連結するクローニング方法を構築した(
図5)。クローニングは、3つのステップで行われる。STEP1では、各モチーフ配列の設計と作製、STEP2では1つもしくは2つのモチーフがクローニングされたプラスミドライブラリーの作製、STEP3で、必要なモチーフ数を連結することで目的のPPR遺伝子が完成する。
【0120】
まず、1つのPPRモチーフ配列(4番からii番)がクローニングされたプラスミドを作製した(STEP1)。STEP1プラスミドには、A, C, G, Uそれぞれを認識するPPRモチーフ配列が含まれる。続くSTEP2において、STEP1プラスミド内のPPRモチーフ配列を含むDNA断片を中間ベクター(Dest-x、配列は下記)へクローニングする。1モチーフのみが挿入可能なSTEP1プラスミドは、P1a-vx-X、2モチーフ挿入可能なプラスミドは、N側が、P2a-vx-X、C側が、P2b-vx-Xと名付けた (vxは、v1もしくはv2、Xは、A、C、G、U)。Dest-xへのクローニングのため、BsaI制限酵素サイト(BsaI制限酵素は、GGTCTCnXXXX配列(SEQ ID NO:17)を認識切断し、XXXX部分が4塩基の突出末端となる(以後タグ配列と呼ぶ)。及びシームレスに連結するための塩基配列を次の通りに設計した。
【0121】
各モチーフ配列の5'側及び3'側に
P1aの場合は、ggtctcaatac(SEQ ID NO:18)、gtggtgagacc(SEQ ID NO:19)、
P2aの場合は、ggtctcaatac(前掲SEQ ID NO:18)、gtggtcacatatgagacc(SEQ ID NO:20)、
P2bの場合は、ggtctcacatac(SEQ ID NO:21)、gtggtgagacc(前掲SEQ ID NO:19)
の配列をそれぞれ付加した塩基配列を遺伝子合成技術により作製し、pUC57-amp へクローニングした。
【0122】
Dest-xは、Dest-a,b,c,d,e,f,g,h,i,jの10種類あり、Dest-aからDest-jまで順番にシームレスで連結されるように塩基配列を設計した。
Dest-aは、gaagacataaactccgtggtcacATACagagaccaaggtctcaGTGGtcacatacatgtcttc(SEQ ID NO:1)、
Dest-bは、gaagacatATACagagaccaaggtctcaGTGGtgacataatgtcttc(SEQ ID NO:22)、
Dest-cは、gaagacatcATACagagaccaaggtctcaGTGGttacatatgtcttc(SEQ ID NO:23)、
Dest-dは、gaagacatacATACagagaccaaggtctcaGTGGttacaatgtcttc(SEQ ID NO:24)、
Dest-eは、gaagacattacATACagagaccaaggtctcaGTGGtgacatgtcttc(SEQ ID NO:25)、
Dest-fは、gaagacattgacATACagagaccaaggtctcaGTGGttaatgtcttc(SEQ ID NO:26)、
Dest-gは、gaagacatgttacATACagagaccaaggtctcaGTGGtcatgtcttc(SEQ ID NO:27)、
Dest-hは、gaagacatggtcacATACagagaccaaggtctcaGTGGtatgtcttc(SEQ ID NO:28)、
Dest-iは、gaagacattggttacATACagagaccaaggtctcaGTGGatgtcttc(SEQ ID NO:29)、
Dest-jは、gaagacatgtggtgacATACagagaccaaggtctcaGTGGtcttc(SEQ ID NO:30)
を、遺伝子合成技術により作製し、pUC57-kanへcloningした。
【0123】
全てのDest-xへ、A、C、G、Uに対応するPPRモチーフを挿入したもの、AA、AC、AG、AU、CA、CC、CG、CU、GA、GC、GG、GU、UA、UC、UG、UUそれぞれの塩基組み合わせを認識する2つのPPRモチーフを挿入したものを作製し、V1, V2それぞれのSTEP1プラスミドライブラリーを作製した(各200種類)。上記の組み合わせになるように、40ng P1aプラスミドのみ、もしくは40 ng P2aプラスミドと40 ng P2bプラスミドと0.2 μL 10 x ligase buffer (NEB、B0202S)、0.1 μL BsaI (NEB、R0535S)、0.1 μL Quick ligase (NEB、M2200S)、を加え、1.9 μLになるように滅菌水で調整した。37℃、5分間、16℃、5分間を交互に5回繰り返す反応を、サーマルサイクラー(Biorad、1861096J1)で行った。さらに、0.1 μL 10x Cut smart buffer(NEB、B7204)と0.1 μL BsaI (NEB、R0535S) とを加え37℃、60分間、80℃、10分間反応させた。反応液2.5 μLをXL1-blue に形質転換し、30 μg/ml カナマイシン入りLB培地で選抜した。目的の配列が挿入されたのをシークエンシングにより確認した。
【0124】
STEP3では、標的塩基配列に沿ってDest-aからDest-jを選択し、CAP-xベクター(前掲非特許文献1)へクローニングする。全ての中間ベクターに1モチーフ入ったものを使用すれば10モチーフが連結し、2モチーフ入ったものを使用すれば20モチーフが連結する。11~19モチーフを連結する場合は、好きな位置のDest-xに1モチーフが入ったものを使用することで作製できる。例えば、18モチーフのPPR配列を作製する際には、Dest-a、Dest-bは、1モチーフ、その他は2モチーフ入ったプラスミドを使用する。
【0125】
STEP3のクローニングで使用する中間ベクターは3種類のベクターから選択する必要がある。最もC側に位置するモチーフが認識する塩基配列がアデニンの場合は、CAP-A、 シトシンの場合は、CAP-C、グアニンもしくはウラシルの場合は、CAP-GUをそれぞれ用いる。STEP3用中間ベクターにクローニングされることで、PPRリピートのN側に、MGNSV(SEQ ID NO:31)、C側に、ELTYNTLISGLGKAGRARDPPV(SEQ ID NO:32)のアミノ酸配列が付加されるように設計した。
【0126】
それぞれ20ngの10種類の中間プラスミド、1μLの10 x ligase buffer (NEB、 B0202S), 0.5 μLのBpiL(Thermo、ER1012)、0.5μLのQuick ligase(NEB、 M2200S)を加え、最終的に10 μlになるように滅菌水で調整した。37℃、5分間、16℃、7分間、15サイクル反応させた。さらに、0.4 μLのBpiLを添加して、37℃、30分間、75℃で6分間反応させた。続いて、0.3 μLの1mM ATPと0.15μLのPlasmid safe nuclease (Epicentre, E3110K)を添加し37℃で15分間反応させた。反応液3.5 μlを大腸菌(XL-1 Blue 株のCompetent cell, ニッポンジーン)に形質転換し、100 μg/mLのスペクチノマイシン入りLB培地で37℃、16時間培養し選抜をした。生えたコロニーの一部を、pCR8
Fw:5′-TTGATGCCTGGCAGTTCCCT -3′(SEQ ID NO:33)とpCR8
Rv:5′-CGAACCGAACAGGCTTATGT -3′(SEQ ID NO:34)のプライマーを使って挿入遺伝子領域を増幅した。5 μL 2 x Go-taq (Promega, M7123)、 1.5μL 10μM pCR8
Fw、1.5μL 10μM pCR8
Rv、2 μL 滅菌水を0.2mLチューブに加え、サーマルサイクラーで98℃、2分間反応後に、98℃で5秒間, 55℃で10秒間, 72℃で2.5分間を15サイクルおこないDNAの増幅反応を行った。反応溶液の一部を、MultiNA(SHIMADZU、 MCE202)を用いて電気泳動し、挿入されたDNA断片のサイズを確認した。v1モチーフ又はv2モチーフを用いて18モチーフのPPRタンパク質3種類(PPR1、PPR2、PPR3)(SEQ ID NOs:35-37, 40-42)を各3クローン作製(v1
PPR1、v1
PPR2、v1
PPR3、v2
PPR1、v2
PPR2、v2
PPR3)したときの結果を
図6Bに示す。v1においては、PPR2の2番目のクローン以外は、正しいサイズのバンドが得られた。v2においては全てのクローンで正しいサイズのバンドが得られた。さらに、それらの配列については、シーケンシングにて確認した。これらの結果から、本方法でクローニングすることで効率的にPPRタンパク質遺伝子が構築できることが示された。
【0127】
[実施例2:ハイスループットなRNA結合タンパク質の結合性能評価系の構築]
一般的に、核酸結合タンパク質と核酸分子との結合評価は、EMSAやBiacoreを用いた方法によって行われる。EMSA (Electrophoretic Mobility Shift Assay)は、タンパク質と核酸が結合したサンプルを電気泳動した際、核酸分子の移動度が結合していない場合と比較して変化する性質を利用する方法である。この方法は精製タンパク質が必要なこと、操作が煩雑なことや、一度に多くのサンプルを解析できない欠点がある。Biacoreに代表される分子間相互作用解析機器は、反応速度論的解析ができるため、詳細なタンパク質-核酸結合解析が可能であるが、こちらも精製タンパク質が必要であり、また特別な装置が必要である。そこで、スループットが高く、短期間でタンパク質と核酸との結合が評価できる方法を考えた。
【0128】
ELISA (Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)は、一般的に、抗体(タンパク質)とタンパク質の結合を解析する際に用いられる。この方法では、一次抗体をウェルプレート上に固定し、そこへ検出したいタンパク質を含む溶液を加え、洗浄後、残存する解析対象のタンパク質量を検出するため、発色、発光検出が可能な二次抗体を反応させ定量する。これを応用し、核酸分子をプレートに固定し、そこへ目的核酸結合タンパク質を含む溶液を流し、結合したタンパク質量を定量する系を考案した(
図7A)。調べたい核酸分子の固定方法は、その末端にビオチンを修飾した核酸プローブをストレプトアビジンがコーティングされたウェルプレートへ加えて行う。測定したい核酸結合タンパク質はルシフェラーゼや蛍光タンパク質と融合しておくことで、検出をより簡単にすることが可能である。また、測定したいタンパク質の精製は必須ではなく、計測したい核酸結合タンパク質が発現している細胞(動物培養細胞、酵母、大腸菌など)の粗抽出液を用いても可能であり、精製するための時間が短縮可能である(
図7B)。この方法によってRNAとRNA結合タンパク質の結合を測定する場合、RPB-ELISA (RNA-protein binding ELISA)と以下記載する。
【0129】
実験系を確立するため組み換えMS2タンパク質とその結合RNAプローブを用意した。MS2タンパク質のN末側にルシフェラーゼタンパク質、C末側に6xヒスチジンタグを融合したタンパク質の遺伝子を遺伝子合成により作製し、pET21b ベクターへクローニングした(NLMS2HIS, SEQ ID NO:357)。RNAプローブは、MS2結合配列を含む標的配列(RNA4, SEQ ID NO:64)及び、含まない非標的配列(RNA51, SEQ ID NO:247)の5'末端をビオチン化修飾したものを合成した(Greiner)。MS2タンパク質発現プラスミドをRosetta(DE3)株の大腸菌に形質転換し、100 μg/mL アンピシリン入り2mL LB培地で37℃一晩培養した。その後,2 mLの培養液を100 μg/mL アンピシリン入り300mL LB培地へ加え、OD600が0.5から0.8に達するまで37℃で培養した。培養した培地を15℃に下げた後に、最終濃度0.1 mMになるようにIPTGを加えさらに12時間培養を行った。5000 x g、4℃、10分間、培養液を遠心し菌体を回収し、5 mLの溶解バッファー(20mM Tris-HCl (pH8.0)、150 mM NaCl、0.5% NP-40、1mM DTT、1 mM EDTA)を加え、ボルテックスミキサーで撹拌したのち、ソニケーションによって菌体を破砕した。15,000 rpm , 4℃, 10分間遠心し、上清を回収した。上清の半分は、大腸菌ライセートとして使用するまで-80℃で保存し、残りについてはヒスチジンタグとNi-NTAを利用したアフィニティー精製を行った。まず、200μl Ni-NTA アガロースビーズ(Qiagen, Cat no. 30230)を、スピンダウンし、ビーズを回収した。そこへ、洗浄バッファーを100 μLを添加し, 4℃、1時間ローテーターにより撹拌することでビーズを平衡化させた。平衡化したビーズを全量を、タンパク質溶液と混合して4℃で1時間、反応させた。その後, 2,000 rpm、2分間遠心してビーズを回収した後に、10 mlの洗浄バッファー(20 mM Tris-HCl, pH8.0、 500 mM NaCl、0.5% NP-40、10 mM イミダゾール)にてビーズに非特異的に結合する因子を除いた。溶出バッファー(20 mM Tris-HCl, pH8.0、500mM NaCl、0.5% NP-40、500mM イミダゾール) 60 μLにて溶出した。精製度をSDS-PAGEにて確認した。20 mM Tris-HCl, pH8.0、150 mM NaCl、0.5% NP-40、1 mM DTT、1 mM EDTA)にて4℃で一晩透析をした。
【0130】
大腸菌ライセートと、精製MS2タンパク質溶液のルシフェラーゼ発光量を測定した。発光バッファー(20 mM Tris -HCl (pH7.6)、150 mM NaCl、5 mM MgCl2, 0.5% NP-40、1mM DTT)で、2500倍希釈したルシフェラーゼ基質(Promega, E151A)40 μLと40μLの大腸菌ライセート、もしくは40μLの精製MS2タンパク質溶液を96ウェルホワイトプレートへ加えて5分間反応させた後、発光量をプレートリーダー(PerkinElmer, 5103-35)で測定した。得られた発光量から、0.01 x 108、0.02 x 108、0.09 x 108、0.38 x 108、1.50 x 108、6.00 x 108 LU/μL になるように、溶解バッファー(20mM Tris-HCl (pH7.6)、 150 mM NaCl、 5 mM MgCl2、0.5% NP-40、1mM DTT、 0.1% BSA)で希釈した。
【0131】
2.5 pmolビオチン化RNAプローブを96 wellのストレプトアビジンコーティングホワイトプレート(Thermo fisher、15502)に加え、30分間、室温で反応させ、溶解バッファーで洗浄した。バックグラウンド測定のため、ビオチン化RNAを加えず、溶解bufferを加えたウェルも準備した(-Probe)。その後、ブロッキングバッファー(20 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM NaCl、5 mM MgCl2、0.5% NP-40、 1mM DTT、1% BSA)を加え、30分間、室温でプレート表面のブロッキングを行った。そこへ、上記で希釈した大腸菌ライセートあるいは、精製タンパク質溶液を、100 μL 加え、30分間、室温で結合反応を行った。その後、200μLの洗浄バッファー(20 mM Tris -HCl (pH7.6)、150 mM NaCl、5 mM MgCl2, 0.5% NP-40、1mM DTT)で5回洗浄を行った。洗浄バッファーで2,500倍希釈したルシフェラーゼ基質(Promega, E151A)40 μLをウェルへ加えて5分間反応させた後、発光量をプレートリーダー(PerkinElmer,5103-35)で測定した。
【0132】
それぞれのRNAとMS2タンパク質を含む溶液を加えたサンプルの発光量から、バックグラウンド(RNAを加えずにPPRタンパク質を加えた際の発光シグナル値)を差し引いた値をMS2タンパク質とRNAとの結合力とした。
【0133】
結果を、
図7Cに示す。精製タンパク質溶液(purified protein)、大腸菌ライセート(Lysate)ともに、MS2タンパク質と標的RNA(Target seq.)との特異的な結合が検出された。6.0 x 10
8 LU/μLは、100nM 精製MS2タンパク質に相当するため、6.25 nM (0.38 x 10
8 LU/μL)のタンパク質濃度以上で十分に検出可能であることがわかった。さらに、大腸菌ライセートでも同様に検出可能であることから、タンパク質の精製を行う必要がないことが分かった。
【0134】
[実施例3:既存PPRモチーフ配列もしくは新規PPRモチーフ配列を用いて作製した18モチーフPPRタンパク質のRNA結合性能比較実験]
v1又はv2 PPRモチーフを用いて作製したPPRタンパク質のRNA結合性能を評価するため、大腸菌でリコンビナントタンパク質を作製し、RPB-ELISAを用いて結合性能の評価を行った。比較のため5種類の標的配列(T1、T2、T3、T4、T5, SEQ ID NOs:46-50)を設定し、それぞれに結合するPPRタンパク質を設計し、それぞれをコードする遺伝子を作製した(v1PPR1、v1PPR2、v1PPR3、v1PPR4、v1PPR5、v2PPR1、v2PPR2、v2PPR3、v2PPR4
v2PPR5, SEQ ID NOs:35-39, 40-45)。作製したPPR遺伝子のN末側にルシフェラーゼタンパク質遺伝子、C末側にヒスタグ配列を付加し、pET21ベクターへクローニングした(NLv1PPR1、NLv1PPR2、NLv1PPR3、NLv1PPR4、NLv1PPR5、NLv2PPR1、NLv2PPR2、NLv2PPR3、NLv2PPR4、 NLv2PPR5, SEQ ID NOs:51-60)。PPR発現プラスミドをRosetta(DE3)株へ形質転換した。この大腸菌を、2 mLの100 μg/mLアンピシリン入りLB培地で37℃、12時間培養し、OD600が、0.5から0.8に到達した時に、15℃のインキュベーターに培養液を移し、30分間静置させた。その後、100 μL (終濃度0.1 mM IPTG)を加え、15℃、16時間培養を行った。5,000 x g, 4℃, 10分間遠心によって、大腸菌ペレットを回収し、1.5 mLの溶解バッファー (20 mM Tris-HCl, pH8.0、150 mM NaCl、0.5% NP-40、1 mM MgCl2、2mg/mL リゾチーム、1 mM PMSF、2 μLの10 mg/mL DNase) を加え、-80℃で20分間凍結させた。25℃、30分間浸透しながら細胞の凍結破砕をおこなった。続いて3,700 rpm, 4℃, 15分間遠心操作を行い、可溶性のPPRタンパク質を含む上清(大腸菌ライセート)を回収した。
【0135】
標的配列18塩基を含む30塩基の配列を設計し、さらにその5'末端をビオチン化修飾したRNAプローブ(RNA1、RNA2、RNA3、RNA4、RNA5, SEQ ID NOs:61-65)を合成した(Grainer)。5'末端ビオチン化RNAプローブをストレプトアビジンコーティングプレート(Thermo fisher)に加え、30分間、室温で反応させ、溶解バッファー(20mM Tris-HCl, pH7.6、150 mM NaCl、5 mM MgCl2、0.5% NP-40、 1mM DTT、0.1% BSA)で洗浄した。バックグラウンド測定のため、RNAを加えずに100μL溶解bufferと1μL 100mM DTTと1μL 40 unit/μL RNase inhibitor(Takara、2313A)を加えたウェルも準備した。その後、200 μLブロッキングバッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.6、150 mM NaCl、5 mM MgCl2、0.5% NP-40、1mM DTT、1% BSA)を加え、30分間、室温でプレート表面のブロッキングを行った。そこへ、1.5 x 108 LU/μLの発光量を有するルシフェラーゼ融合PPRタンパク質が含まれる大腸菌ライセートを、100 μL 加え、30分間、室温で結合反応を行った。その後、200μLの洗浄バッファー(20 mM Tris -HCl, pH7.6, 150 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 0.5% NP-40, 1mM DTT)で5回洗浄を行った。洗浄バッファーで、2,500倍希釈したルシフェラーゼ基質(Promega、E151A)40 μLをウェルへ加えて5分間反応させた後、発光量をプレートリーダー(PerkinElmer, 5103-35)で測定した。それぞれのRNAとPPRタンパク質を加えたサンプルの発光量から、バックグラウンドシグナル(RNAを加えずにPPRタンパク質を加えた際の発光シグナル値)を差し引いた値をPPRとRNAとの結合力とした。
【0136】
その結果を
図8に示す。モチーフ配列v2で作製した場合、モチーフ配列v1で作製したものと比較して、全てにおいて標的配列との結合力の増加(1.3~3.6倍)が見られた。また、標的でない配列を持つRNAプローブを2種類用意し(off target 1、off target 2)(SEQ ID NOs:66, 69)、それらへの結合を調べた結果、v2のほうがv1よりも全てにおいて標的結合シグナル/非標的結合シグナル (S/N)が高かった(
図8左上、)
ことから、v2がv1より親和性も高く、標的に対する特異性が高いことが分かった。
【0137】
[実施例4:v2モチーフを用いて作製したPPRタンパク質のRNA結合性能詳細解析]
(特異性評価)
v2モチーフを用いて、23種類の標的配列(T1~3、T5~T24, SEQ ID NOs:46-48, 51-69)に対するPPRタンパク質を作製(NLv2PPR1~3、NLv2PPR5~24, SEQ ID NOs:56-58, 70-88)し、RPB-ELISAを用いて全ての結合組み合わせを解析した。実験方法は、実施例3と同じである。
【0138】
その結果を
図9(上)に示す。v2
17、v2
24を除く21種類のPPRタンパク質で、標的に対する結合力が最も強いことが分かった。これらのことから、v2のモチーフを利用することで作製したPPRタンパク質が安定的に作製でき、かつ結合特異性が高いことが示された。
【0139】
V3.1モチーフを用いて、同じ23種類の標的配列に対するPPRタンパク質を同様に作製し(塩基配列はSEQ ID NOs:411-433、アミノ酸配列はSEQ ID NOs:434-456)、RPB-ELISAを用いて全ての結合組み合わせを解析した。実験方法は、実施例3と同じである。
【0140】
その結果を
図9(下)及び下表に示す。V2よりも結合力が向上したものが得られた。
【0141】
【0142】
なお、
図9に示したPPRタンパク質のRNA結合性能を、数値(log2値)で下表に示した。
【0143】
【0144】
【0145】
(親和性評価)
さらに、各PPRタンパク質の標的RNAに対する親和性(Kd値)を算出するため、EMSAを行った。先の23種類のうち、10種類のPPRタンパク質をコードする遺伝子配列のN末側にストレプトアビジン結合ペプチド配列、C末側に6xヒスタグ配列を付加し、大腸菌発現プラスミドを構築した(SBP v2PPR1HIS, SBP v2PPR 2HIS, SBP v2PPR 3HIS, SBP v2PPR6HIS, SBP v2PPR9HIS, SBP v2PPR12HIS, SBP v2PPR15HIS, SBP v2PPR16HIS, SBP v2PPR20HIS, SBP v2PPR24HIS, SEQ ID NOs:89-97)。Rosetta(DE3)株の大腸菌に形質転換し、2mLの100 μg/mL アンピシリン入りLB培地で37℃一晩培養した。その後,2 mLの培養液を300 mLの100 μg/mL アンピシリン入りLB培地へ移し、OD600が0.5から0.8に達するまで37℃で培養した。培養した培地を15℃に下げた後に、0.1 mMのIPTGを加えさらに12時間培養を行った。5000 x g, 4℃, 10分間、培養液を遠心し菌体を回収し、5 mLの溶解バッファー(20mM Tris-HCl, pH8.0, 150 mM NaCl, 0.5% NP-40, 1mM DTT, and 1 mM EDTA)を加え、Voltexで撹拌したのち、ソニケーションを行い菌体を破砕した。15000 rpm , 4℃, 10分間遠心し、上清を回収した。
【0146】
続いて、 SBPタグを利用したアフィニティークロマトグラフィーによって、目的タンパク質を精製した。Streptavidine Sepharose High Performance(GE Healthcare, 17511301)を100 μL取り、スピンダウンにてビーズを回収したのち、洗浄バッファー (20 mM Tris-HCl, pH8.0, 500mM NaCl, 0.5% NP-40)を用いて平衡化した。平衡化したビーズを先ほど回収した細胞抽出液と緩やかに混合し, 10分間, 4℃のもとで浸透をおこなった。続いて, カラムにこのビーズ溶液全量を供して、洗浄バッファー10 mLにてビーズ洗浄した。溶出バッファー (20 mM Tris-HCl, pH8.0, 500mM NaCl, 2mM ビオチン)で溶出した。
【0147】
続いてヒスチジンタグを利用したアフィニティー精製を行った。まず、200μL Ni-NTA agarose (Qiagen, 30230)を回収し、遠心ののちビーズを回収した。洗浄バッファーを100 μLを添加し, 4℃、1時間浸透をすることによりビーズを平衡化した。平衡化したビーズを全量を、SBPビーズから溶出したタンパク質溶液と混合して4℃、1時間、反応させた。その後, 2,000 rpm、2分間遠心してビーズを回収した後に、10 mLの洗浄バッファー(20 mM Tris-HCl, pH8.0, 500 mM NaCl, 0.5% NP-40, and 10 mM imidazole)にてビーズに非特異的に結合する因子を除いた。溶出バッファー(20 mM Tris-HCl, pH8.0, 500mM NaCl, 0.5% NP-40,and 500mM imidazole) 60 μlにて溶出した。精製度をSDS-PAGEにて確認した。20 mM Tris-HCl, pH8.0, 150 mM NaCl, 0.5% NP-40, 1 mM DTT, and 1 mM EDTA)にて4度で一晩透析をした。
【0148】
Pierce 660nm Protein Assay Kit (Thermo fisher、22662)を使用し、透析後のタンパク質総量を見積もった。次に、目的タンパク質量を求めるために、まず透析後サンプルを10%のポリアクリルアミドゲルにてSDS-PAGEを行いCBB染色をした。ChemiDoc Touch MPイメージングシステム (Biorad)にて染色後のゲル画像を取り込んだ。このゲル画像からトータルのバンド強度と目的バンドののそれを導いた。目的タンパク質量は、全てのバンド強度における目的バンドのそれの割合を総タンパク質量とかけることで算出した。この値を用いて透析サンプルの精製タンパク質のモル濃度を算出した。上記で求めたモル濃度をもとに,400 nM, 200nM, 100 nM, 50 nM, 20 nM, 10 nM, 5 nM, 2 nM, 1 nMの希釈タンパク質溶液を調整した。その際、結合バッファー (20 mM Tris-HCl, pH8.0, 150 mM NaCl, 0.5% NP-40, 1mM DTT, 1 mM EDTA)を用いて希釈した。5'側にビオチン化修飾されたRNAプローブ(RNA1、RNA 2、RNA 3、RNA6、RNA9、RNA12、RNA15、RNA16、RNA20、RNA24)を結合バッファーで終濃度20 nMとなるように調整した。75℃で1分間熱処理をした後に急冷をおこなったRNA試料を下記の実験に用いた。
【0149】
上記で調整したそれぞれの濃度のタンパク質溶液に20 nMのRNAプローブ溶液を混合し、25℃で20分間結合反応をおこなった。
【0150】
反応後、2μLの80%グリセロールを添加し、よく懸濁した後に、その10μLをATTO 7.5% ゲルにアプライし電気泳動をC.V. 150Vで30分間おこなった。
【0151】
泳動後のゲルをHybond N + メンブレン(GE, RPN203B)に転写した。続いて、ASTEC Dual UV Transiluminator UVA-15 (Astec, 49909-06)をもちいて, RNAをメンブレンにUV架橋した。メンブレンをブロッキングバッファー (6.7 mM NaH2PO4・2H2O、6.7 mM Na2HPO4・2H2O, 125 mM NaCl, 5% SDS)でブロッキングした。その際にStereptavidine-HRP (Abcam, ab7403)を0.5 μLをブロッキングバッファーにあらかじめ入れておき15分間、浸透しながら抗原抗体反応をおこなった。 ブロッキングバッファーを捨てて、洗浄バッファー (0.67 mM NaH2PO4・2H2O, 0.67 mM Na2HPO4・2H2O, 12.5 mM NaCl, 0.5% SDS)を20 mLを加えて、メンブレンを洗った。続いて、この洗浄操作を5回繰り返した後に、平衡化バッファー(100 mM Tris-HCl, pH9.5, 100 mM NaCl, 10 mM MgCl2)を20 mlを加えて、メンブレンを5分間浸透した。その後、Immunobilon Western Chemiluminisecnet HRP Substrate (Millipore, Cat No. WBKLS0100)をメンブレンに加えて、ビオチン化RNAを化学発光させることでバンド検出した。ChemiDoc Touch MPイメージングシステム (Biorad)にてゲル画像を取り込んだ。結合していないRNAプローブのバンドとタンパク質と結合することによりシフトしたバンドのバンド強度を算出した。タンパク質のモル濃度とそれに対応するシフトバンドの割合から、Hill式に当てはめることにより平衡解離乗数(Kd値)を算出した。
【0152】
結果を、
図10に示す。作製したPPRタンパク質は、標的に対してKd値は、10
-9 - 10
-7 Mを有することが分かった。最小値(高い親和性)は、1.95 x 10
-9あり、これまで報告されたデザインPPRタンパク質の中では最もKd値が低い(表1参照)。また、これらのKd値は、RPB-ELISAでの結合実験で得られたシグナル値と相関することが分かった(R
2=-0.85)。これらの結果から、RPB-ELISAでの発光値が、1~2 x 10
7 の場合は、Kd値が10
-6 ~10
-7 M、RPB-ELISAでの発光値が、2~4x 10
7の場合は、Kd値が10
-7 ~ 10
-8 M、RPB-ELISAでの発光値が、4 x 10
7 よりも大きい場合は、Kd値が~10
-8 以下であることが推定できる。
【0153】
(構築成功率評価)
さらに、72種類の標的配列(T1~T3、T6~T76, SEQ ID NOs:46-48, 51-69, 117-168)に対するPPRタンパク質をv2モチーフを用いて作製(NL
v2
PPR1~3、NL
v2
PPR6~76, SEQ ID NOs:56-58, 70-88, 169-220)し、RPB-ELISAを用いて構築成功確率を算出した。標的配列を含むビオチン化RNAプローブ(RNA
1~3,RNA
6~76, SEQ ID NOs:61~63, 98~116, 221~272)と標的しない配列(T
51, SEQ ID NO:143)を含むビオチン化RNAプローブ(RNA51, SEQ ID NO:247)を作製した(Greinar)。実験方法は、実施例3と同じである。その結果を
図11に示す。
【0154】
72個のPPRタンパク質の内、Kd値が10-6 M以下である(RPB-ELISA値が1 x 107以上)と推定されるものは、63個(88%)あり、Kd値が10-7 M以下である(RPB-ELISA値が2 x 107以上)と推定されるものは、57個(79%)あり、Kd値が10-8 M以下である(RPB-ELISA値が4 x 107以上)と推定されるものは、43個(40%)であった。また、標的結合シグナルを非標的結合シグナルで割った値を特異性を評価する値(S/N)とした。そのS/Nが10より高いものは、54個(75%)あり、S/Nが100より高いものは、23個(32%)であった。これらのことから、v2モチーフを使用しPPRタンパク質を作製することで、効率的に配列特異的なRNA結合タンパク質が作製できることが示された。
【0155】
(PPRモチーフ数に関連した標的結合活性の評価)
PPRモチーフ数と標的結合活性に関して解析を行った。13種類の18塩基の標的配列を設定し、その配列の5'側3塩基、6塩基をそれぞれ削り15塩基(T1a、T49a、T3a、T14a、T40a、T12a、T13a、T2a、T38a、T37a、T39a、T56a、T68a, SEQ ID NOs, 273, 275, 277, 279, 281, 283, 285, 287, 289, 291, 293, 395, 297)、12塩基(T1b、T49b、T3b、T14b、T40b、T12b、T13b、T2b、T38b、T37b、T39b、T56b、T68b, SEQ ID NOs: 274, 276, 278, 280, 282, 284, 286, 288, 290, 292, 294, 296, 298)の標的配列を設定した。それらに対応するPPRタンパク質(15モチーフは、PPRxa、12モチーフは、PPRxbと名付けた)を作製した(NLv2PPR1, 1a, 1b; NLv2PPR49, 49a, 49b; NLv2PPR3, 3a, 3b; NLv2PPR14, 14a, 14b; NLv2PPR40, 40a, 40b; NLv2PPR12, 12a, 12b; NLv2PPR13, 13a, 13b; NLv2PPR2, 2a, 2b; NLv2PPR38, 38a, 38b; NLv2PPR37, 37a, 37b; NLv2PPR39, 39a, 39b; NLv2PPR56, 56a, 56b; NLv2PPR68, 68a, 68b; SEQ ID NOs:56, 299-324)。RPB-ELISAによる解析を行うために、標的配列を含むビオチン化RNAプローブ(T1、T49、T3、T14、T40、T12、T13、T2、T38、T37、T39、T56、T68)と、標的しない配列(T51, SEQ ID NO:143)を含むビオチン化RNAプローブ(RNA51, SEQ ID NO:247)を作製し、標的(on target)、非標的(off target)とそれぞれのPPRタンパク質との結合活性をRPB-ELISAで解析した。
【0156】
各標的配列ごとの結果は、
図12Aに示した。18モチーフ、15モチーフ、12モチーフそれぞれの値の平均値を箱ヒゲ図としてプロットしたものを
図12Bに示した。モチーフ数が多いほど、結合強度が高くなり、18モチーフと15モチーフを比較すると、18モチーフの方が、高い結合強度を有するタンパク質が安定して作製できることが分かった。
【0157】
[実施例5:PPRタンパク質による人為的なスプライシング制御]
PPRタンパク質が細胞内で標的RNA分子に結合し、目的とするRNA操作ができることを示すため、スプライシングレポーターを利用した実験を行った(
図13A)。スプライシングレポーター(RG6)は、エクソン1、イントロン1、エクソン2,イントロン2、エクソン3といった遺伝子構造をとっている(Orengo et al., 2006 NAR)。イントロン1、エクソン2及びイントロン2には、チキンcTNTのイントロン4、イントロン5及び、人工的に作製されたオルタナティブエクソン配列が挿入されている。本レポーターは、2つのスプライシングフォームを有しており、エクソン2がスキップしたmRNA、スキップしないmRNAの量比が1:1程度になっている。また、エクソン3には、RFPとGFP遺伝子がコードされているが、エクソン2の存在、非存在により読み枠が変わることで、エクソン2がスキップしたmRNAではRFPが発現し、スキップしないmRNAではGFPが発現する。このレポーターのスプライシングフォームの量は、イントロン1,エクソン2,イントロン2の領域に結合するスプライシング因子により制御されていることが知られている(Orengo et al., 2006 NAR)。そこで、イントロン1,エクソン2,イントロン2の領域の中から18塩基の配列を選択し、それらに結合するPPRタンパク質によって、RG-6レポーターのスプライシングフォームを変化させられるか実験を行った。
【0158】
RG6レポーターから7種類の標的配列(T77~T83, SEQ ID NOs:325-330)を選択した。PPRタンパク質遺伝子は、v1モチーフ、v2モチーフ両方で設計した(v1PPRsp1~6, v2PPRsp1~6, SEQ ID NOs:331-342)。PPRタンパク質遺伝子のN末側に核局在シグナル、C末側にFLAGエピトープタグ配列を融合したタンパク質が発現するようにpcDNA3.1へクローニングした(NLSv1PPRsp1~6, NLSv2PPRsp1~6, SEQ ID NOs:343-354)。pcDNA3.1は、CMVプロモーターとSV40ポリAシグナル(ターミネーター)を持ち、それらの間にPPRタンパク質遺伝子を挿入した。
【0159】
HEK293T細胞を9 mL DMEM, 1 mL FBS入りの10cm ディッシュに1 x 106 cells/well播種した。37℃、5%CO2環境下で2日間培養した後、細胞を回収した。回収した細胞をPLLコーティングされた96ウェルプレートへ1ウェルあたり、4 x 104 cells/wellで細胞播種し、37℃、5% CO2環境下で1日間培養した。100 ng PPR発現プラスミドDNA、100ng RG-6、0.6 μL Fugene(登録商標)-HD (Promega、E2311)、200 μL Opti-MEMを混ぜ合わせ、全量ウェルへ加え、37℃、5%CO2環境下で2日間培養した。コントロールとして、PPR発現プラスミドDNAを加えないサンプルも調製した。培養後、各ウェルのGFP蛍光及びRFP蛍光画像を、蛍光顕微鏡 DMi8(Leica)を用いて取得した。撮影条件は、まずRG-6プラスミドだけを導入したサンプルを用いて、GFPとRFPの強度が同程度になる露光時間、ゲインを決め、それと同じ条件で各サンプルの蛍光画像を取得した。
【0160】
画像取得後、Maxwell(登録商標) RSC simplyRNA Cells Kitを用いてtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNA 500ng、0.5μL 100 μM dT20 primer、0.5μL 10 mM dNTPsを0.2mLチューブに加え、65℃、5分間置いた後、すぐに氷冷した。そこへ、2μL 5x RT-buffer (Invitrogen、18080-051)、0.5μL 0.1M DTT、0.5μL 40U/μL RNaseOUT(Invitrogen、18080-051)、0.5μL 200 unit/μL SupperScript III (Invitrogen、18080-051)を加えて、サーマルサイクラーで50℃、50分間反応後、85℃、5分間反応させ、16℃に冷やした。逆転写したサンプルは、滅菌水で10倍希釈した。それを2μL、10μL 5x GXL buffer (TAKARA, R050A)、4μL 2.5mM dNTPs 1.5μL 10μM RT-Fwプライマー(5'-CAAAGTGGAGGACCCAGTACC-3') (SEQ ID NO:355)、1.5μL 10μM RT-Rvプライマー(5'-GCGCATGAACTCCTTGATGAC-3') (SEQ ID NO:356)、1μL GXL (TAKARA, R050A)、31.5μL 滅菌水を0.2mLチューブに加え、サーマルサイクラーで、98℃ 2分間反応後、98℃ 10秒、58℃15秒、68℃5秒を35回繰り返した後、12℃まで冷却した。反応液を10倍希釈し、MultiNA(SHIMADZU、 MCE202)で電気泳動した。114bp付近のバンドをエクソンスキップしたRNAのバンド、142bp付近のバンドをスキップしていないRNAのバンドとし、各サンプルにおけるバンド強度を算出した。114bpバンド強度を、114bpバンド強度と142bpバンド強度の総和で割った値をスプライシング比率と定義した。
【0161】
結果を、
図13B、Cに示す。RG6レポーターのみを導入した際は、スプライシング比率は0.48であり、PPRsp4を導入した場合は、同程度であったが、他のPPRを導入した場合は、大きく変化することが分かった。v1とv2を比較するとPPRsp4を除き、v2のほうが大きく変化していた。これらのスプライシング比率は、
図13BにおけるRFP、GFP発現比とも一致していた。これらのことから、PPRタンパク質を用いることでエクソンスキッピングを変化させることができることが証明され、さらにv2モチーフを利用することでさらに効率的にスプライシングを変化させることができることが分かった。
【0162】
[実施例6:PPRタンパク質の凝集の制御]
V2モチーフを用いたPPRタンパク質(塩基配列はSEQ ID NO:457、アミノ酸配列はSEQ ID NO:458)と、v3.2モチーフを用いたPPRタンパク質(塩基配列はSEQ ID NO:459、アミノ酸配列はSEQ ID NO:460)それぞれを大腸菌発現系で作成し精製し、ゲルろ過クロマトグラフィーで分離した。
【0163】
(タンパク質の発現・精製)
目的のPPRタンパク質をコードしたDNA配列を含むpE-SUMOpro Kanプラスミドを用いて、大腸菌Rosetta株を形質転換し、37度で培養後、OD600が0.6に達した時に20度に温度を下げ、終濃度0.5mMになるようにIPTGを加え、目的PPRタンパク質をSUMO融合タンパクつとして、大腸菌内で発現させた。1晩、培養後、菌体を遠心よって集菌し、Lysis Buffer (50mM Tris-HCl pH8.0, 500mM NaCl)で再懸濁した。超音波破砕によって、大腸菌を破砕し、17000g, 30minの遠心後、上清画分をNi-Agaroseカラムに供与し、20mM imidazoleを含むLysis Bufferでカラム洗浄後、400mM imidazoleを含むLysis Bufferで、SUMO融合目的PPRタンパク質を溶出させた。溶出後、Ulp1によるSUMOタンパク質を目的PPRタンパク質から切り離すと同時に、透析により、イオン交換Buffer(50mM Tris-Hcl pH8.0, 200mM NaCl)にタンパク溶液を置換した。その後、SPカラムを用いた陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。カラム供与後、NaCl濃度を200mMから1Mまで徐々に上げることによって、タンパク質を溶出させた。目的PPRタンパク質を含む画分をSuperdex200カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって最終精製を行った。 ゲルろ過Buffer(25mM HEPES pH7.5, 200mM NaCl, 0.5mM tris(2-carboxyethyl)phosphine (TCEP))で平衡化したゲルろ過カラムに、イオン交換から溶出した目的PPRタンパク質を供与した。最後に目的PPRタンパク質を含む画分を濃縮し、液体窒素で凍結し、次の分析に使用するまで-80度で保存した。
【0164】
(ゲルろ過クロマトグラフィー)
精製したリコンビナントPPRタンパク質を濃度1mg/mlに調整した。ゲルろ過クロマトグラフィーは、Superdex 200 increase 10/300 GL (GE Helthcare)を用いた。25mM HEPES pH7.5, 200mM NaCl, 0.5mM tris(2-carboxyethyl)phosphine (TCEP)で平衡化したゲルろ過カラムに、調整したタンパク質を供与し、ゲルろ過カラムより溶出してくる溶液を280nmの吸光度を測定することにより、タンパク質の性質を分析した。
【0165】
(結果)
結果を
図14に示す。溶出画分(Elution vol.)が少ないほど分子サイズが大きい。V2では、8から10mLの溶出画分で溶出された一方で、v3.2では、12から14mLの溶出画分にピークが見られた。このことから、v2では、タンパク質サイズが大きくなっていることから凝集している可能性が示唆され、その凝集はv3.2において改善されていることが分かった。
【配列表】