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  • 特許-熱可塑性樹脂のアブレーション加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂のアブレーション加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/18 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
B23K26/18
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020014359
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021120730
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】中坊 徹
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊昭
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-112727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の溶液に色素を添加する工程と、
前記色素が添加された前記溶液を塗布する工程と、
塗布された前記溶液から溶媒を除去して前記熱可塑性樹脂の層を形成する工程と、
前記熱可塑性樹脂の層の加工対象領域にレーザ光を照射する工程と、
を備え、
前記色素は、第1ピークと該第1ピークよりも長波長側にある第2ピークとを含んだ吸収スペクトルを有し、前記レーザ光が照射されたときに該レーザ光を吸収して前記第1ピークに対応する第一励起状態に遷移するとともに、前記第一励起状態から第2ピークに対応する第二励起状態に遷移し、
前記第二励起状態における励起電子の寿命は、前記第一励起状態における励起電子の寿命よりも長い
ことを特徴とするアブレーション加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料のアブレーション加工方法に関し、特に、比較的安価な熱可塑性樹脂の微細加工に適したアブレーション加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウエハ等の各種基板上に微細パターンを形成するために、フォトリソグラフィー法が広く用いられている。この手法は、通常、基板上に感光性レジスト材料でレジスト層を形成する工程と、レジスト層の表面にマスク越しに光を照射して該レジスト層を部分的に露光する工程と、現像液を用いてレジスト層の露光部分または非露光部分を択一的に除去する工程とを含んでいる。
【0003】
また、近年では、マスクを用いることなくレジスト層の露光すべき部分にレーザ光を直接的に照射することにより微細パターンを形成する直接描画も行われるようになってきている。そして、このような状況を受けて、直接描画に適した様々な感光性レジスト材料の開発が進められているが(例えば、特許文献1参照)、現像後に行われるエッチング等に十分に耐えられる感光性レジスト材料は、開発が非常に困難で、しかも高価であることが多い。
【0004】
そこで、レジスト材料として比較的安価な熱可塑性樹脂を使用することも検討されている。この熱可塑性樹脂からなるレジスト層をアブレーション加工により選択的に除去すれば、感光性レジスト材料に対する直接描画の後に現像を行った場合と同様に、エッチング等されるべき基板表面を露出させることができる。しかしながら、感光性レジスト材料を熱可塑性樹脂に置き換えただけでは、レーザ光を照射した領域(すなわち、アブレーション加工すべき領域)の縁が盛り上がってしまい、後に続くエッチングにおいて、露出した基板がエッチング液に十分に晒されないことがあった。つまり、各種基板上に微細パターンを精度良く形成することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-106991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、レーザ光を照射した領域の縁が盛り上がるのを防ぐことができるアブレーション加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るアブレーション加工方法は、(1)熱可塑性樹脂の溶液に色素を添加する工程と、(2)色素が添加された溶液を塗布する工程と、(3)塗布された溶液から溶媒を除去して熱可塑性樹脂の層を形成する工程と、(4)熱可塑性樹脂の層の加工対象領域にレーザ光を照射する工程とを備えること、および、上記色素がレーザ光を吸収して第一励起状態および第二励起状態に遷移することを特徴とする。
【0008】
レーザ光を照射した領域の縁の盛り上がりは、アブレーションに伴う発熱によって引き起こされていると考えられるので、当該発熱をいかに抑制することができるのかがポイントである。ここで、励起電子の寿命をτ、励起電子がさらに光を吸収したり反応したりするのに要する時間をτとすると、アブレーションは、τ≒τの時に発生する。これは、励起電子が熱緩和する時間と、さらに光を吸収してより高いエネルギー準位まで励起する時間がほぼ同じオーダーであることを意味している。つまり、アブレーションを使用する際、熱発生を完全に抑えることは困難と言える。
【0009】
そこで、本発明では、第一励起に加えて第二励起を用いる。第二励起はブロードであることから間接励起となる。このため、本発明によれば、τが長くなり、より非熱的な熱可塑性樹脂の分解が促進され、盛り上がりが改善されると考えられる。
【0010】
上記アブレーション加工方法における熱可塑性樹脂の好ましい一例は、透明ポリスチレン樹脂である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ光を照射した領域の縁が盛り上がるのを防ぐことができるアブレーション加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るアブレーション加工方法のフロー図である。
図2】本発明の実施例に係るアブレーション加工方法において使用する色素の吸収スペクトルを示す図である。
図3】本発明の実施例に係るアブレーション加工方法による加工がなされた熱可塑性樹脂層の(A)表面写真、および(B)凹凸を示す図である。
図4】本発明の第1比較例に係るアブレーション加工方法において使用する色素の吸収スペクトルを示す図である。
図5】本発明の第1比較例に係るアブレーション加工方法による加工がなされた熱可塑性樹脂層の(A)表面写真、および(B)凹凸を示す図である。
図6】本発明の第2比較例に係るアブレーション加工方法において使用する色素の吸収スペクトルを示す図である。
図7】本発明の第2比較例に係るアブレーション加工方法による加工がなされた熱可塑性樹脂層の(A)表面写真、および(B)凹凸を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るアブレーション加工方法の実施例について説明する。
【0014】
[実施例]
図1に、本発明の実施例に係るアブレーション加工方法のフロー図を示す。同図に示すように、本実施例に係るアブレーション加工方法は、熱可塑性樹脂の溶液に色素を添加する工程S1と、色素が添加された溶液をアルミニウム箔に塗布する工程S2と、塗布された溶液から溶媒を除去して熱可塑性樹脂の層を形成する工程S3と、熱可塑性樹脂の層の加工対象領域に波長532nmのレーザ光を照射する工程S4とを備えている。
【0015】
より詳しくは、工程S1では、溶媒としてのトルエンと10.4wt%の透明ポリスチレン樹脂(東洋スチレン株式会社製のトーヨースチロール(登録商標)GP,G100C)とを含むポリスチレン溶液に、20wt%の色素(有本化学工業株式会社製のFS Red 1304。以下、単に「色素1304」という)を添加する。ここで、色素の添加量である「20wt%」は、溶媒は含めずに、溶液に入っている透明ポリスチレン樹脂の重さを基準とした量である。
【0016】
図2に、色素1304の吸収スペクトルを示す。同図に示すように、色素1304の吸収スペクトルは、レーザ光の波長である532nmの近傍にある2つのピークを含んでいる。具体的には、色素1304の吸収スペクトルは、波長539.5nmにある第1ピークと波長576nmにある第2ピークとを含んでいる。このことは、波長532nmのレーザ光を吸収した色素1304が、第一(S1)励起状態および第二(S2)励起状態に遷移することを示している。
【0017】
工程S2では、工程S1で得られた色素入りの溶液をスピンコートによりアルミニウム箔に塗布する。スピンコートの条件は、5秒で回転数を3000rpmまで上昇させ、30秒間回転数を維持し、5秒で回転数を0rpmまで低下させる、というものである。
【0018】
工程S3では、塗布された溶液を80℃、10分間の条件で加熱する。これにより、溶液中のトルエンが気化し、溶液中の溶媒(トルエン)が除去されることで色素入りポリスチレン樹脂層が形成される。
【0019】
工程S4では、パルス状の波長532nmのレーザ光をポリスチレン樹脂層の加工対象領域に照射する。加工対象領域の数は100個で、隣り合う加工対象領域は50μmだけ離れている。また、レーザ光のパルス幅は12.5psであり、1加工対象領域あたりのショット数は1000個であり、1ショットあたりのレーザ光のエネルギーは0.06μJである。
【0020】
図3(A)は、本実施例に係る工程S1~工程S4を実行した後の、ポリスチレン樹脂層の表面の反射光学顕微鏡写真である。また、図3(B)は、触針式段差計の針で同図(A)中の矢印部分を走査することにより測定した、ポリスチレン樹脂層の凹凸を示す図である。触針圧は5μNであり、走査速度は5μm/秒である。
【0021】
図3(B)は、加工対象領域の縁の盛り上がりが後工程(エッチング)において問題にならないほど小さいことを示している。なお、同図において、加工対象領域に形成された孔の深さにバラツキがあるように見えるのは、孔の径に対して針の径が十分に小さくなく、針の先端が孔の底(すなわち、露出したアルミニウム箔)に到達していないためと考えられる。
【0022】
続いて、本発明に係るアブレーション加工方法の第1比較例および第2比較例について説明する。
【0023】
[第1比較例]
第1比較例に係るアブレーション加工方法は、色素が有本化学工業株式会社製のFS Red 1301(以下、単に「色素1301」という)である点で実施例と異なっているが、その他の点については実施例と共通している。
【0024】
図4に、色素1301の吸収スペクトルを示す。同図に示すように、色素1301の吸収スペクトルは、レーザ光の波長である532nmの近傍にある1つのピークを含んでいる。具体的には、色素1301の吸収スペクトルは、波長538.5nmにあるピークを含んでいる。これは、波長532nmのレーザ光を吸収した色素1301が、第一(S1)励起状態にのみ遷移することを示している。
【0025】
図5(A)は、本比較例に係る工程S1~工程S4を実行した後の、ポリスチレン樹脂層の表面の反射光学顕微鏡写真である。また、図5(B)は、触針式段差計の針で同図(A)中の矢印部分を走査することにより測定した、ポリスチレン樹脂層の凹凸を示す図である。
【0026】
図5(B)は、加工対象領域の縁の盛り上がりが実施例に比べてかなり大きいことを示している。ここまで盛り上がりが大きいと、後に続くエッチングにおいて、露出したアルミニウム箔がエッチング液に十分に晒されず、アルミニウム箔のエッチングが不完全になると予想される。
【0027】
[第2比較例]
第2比較例に係るアブレーション加工方法は、色素が有本化学工業株式会社製のFS Red 1367(以下、単に「色素1367」という)である点と、色素の添加量が10wt%である点と、1ショットあたりのレーザ光のエネルギーが0.03μJである点とで実施例と異なっているが、その他の点については実施例と共通している。
【0028】
図6に、色素1367の吸収スペクトルを示す。同図に示すように、色素1367の吸収スペクトルは、レーザ光の波長である532nmの近傍にある1つのピークを含んでいる。具体的には、色素1367の吸収スペクトルは、波長528nmにあるピークを含んでいる。これは、波長532nmのレーザ光を吸収した色素1367が、第一(S1)励起状態にのみ遷移することを示している。
【0029】
図7(A)は、本比較例に係る工程S1~工程S4を実行した後の、ポリスチレン樹脂層の表面の反射光学顕微鏡写真である。また、図7(B)は、触針式段差計の針で同図(A)中の矢印部分を走査することにより測定した、ポリスチレン樹脂層の凹凸を示す図である。
【0030】
図5(B)と同様に、図7(B)は、加工対象領域の縁の盛り上がりが実施例に比べてかなり大きいことを示している。
【0031】
以上、本発明に係るアブレーション加工方法の実施例について説明したが、本発明の構成は実施例の構成に限定されるものではない。
【0032】
例えば、本発明では、透明ポリスチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いてもよく、その量は10.4wt%に限定されない。ただし、色素の効果を十分に発揮させるために、熱可塑性樹脂は透明であることが好ましい。
【0033】
また、本発明では、色素1304以外の色素を用いてもよく、その添加量は20wt%に限定されない。ただし、色素は、レーザ光を吸収して第一励起状態および第二励起状態に遷移するものでなければならない。
【0034】
また、本発明では、色素入り溶液の塗布方法、塗布条件、乾燥方法および乾燥条件は特に限定されない。
【0035】
また、本発明では、レーザ光の照射条件も特に限定されない。ただし、レーザ光の波長を変更する場合は、それに応じて使用する色素の変更を検討する必要がある。
【0036】
また、本発明は、アルミニウム箔以外のもの(例えば、シリコンウエハ)を基板とする場合にも適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7