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特許7491524大型ディーゼル二元燃料エンジン用コモンレール噴射装置のモニタリング方法およびモニタリング方法を実装するよう構成される噴射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】大型ディーゼル二元燃料エンジン用コモンレール噴射装置のモニタリング方法およびモニタリング方法を実装するよう構成される噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20240521BHJP
   F02M 65/00 20060101ALI20240521BHJP
   F02M 47/00 20060101ALI20240521BHJP
   F02M 47/02 20060101ALI20240521BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F02M61/16 W
F02M65/00 306D
F02M47/00 A
F02M47/02
F02M65/00 301A
F02D41/40
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020070668
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2020183753
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102019000006428
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520126859
【氏名又は名称】オーエムティー デジタル エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コッポ マルコ
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542373(JP,A)
【文献】国際公開第2017/186819(WO,A1)
【文献】特開2009-222048(JP,A)
【文献】特表2018-517867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/16
F02M 65/00
F02M 47/00-47/02
F02D 41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンレール噴射系の噴射装置をモニタリングするための方法であって、
ヘッドプレートを提供する段階であり、前記ヘッドプレートには、前記ヘッドプレートに形成された複数の穴のそれぞれを介して制御チャンバに接続された吸入側較正オリフィスおよび排出側較正オリフィスが形成されており、前記複数の穴は前記制御チャンバと向かい合っている前記ヘッドプレートの反応面上で開口しており、前記制御チャンバは、噴射ニードルのヘッド面によって部分的に確定され、且つ、前記ヘッドプレートの前記反応面によって部分的に確定され、前記噴射ニードルの開位置において前記噴射ニードルの前記ヘッド面は前記反応面に当接し、前記ヘッドプレートには袋穴が形成されており、前記袋穴は前記ヘッドプレートの厚みが低減された部分を形成し、前記ヘッドプレートは、前記制御チャンバに含まれる加圧流体と直接接触する、前記反応面の一部から成る第1の表面と、前記袋穴の底部に位置し、前記制御チャンバに含まれる前記加圧流体と接触しない、前記第1の表面の反対側の第2の表面との間に形成された一体型のダイヤフラムを有する、段階と、
前記ヘッドプレートに形成された前記袋穴に収容され、前記ダイヤフラムによって前記噴射装置の前記制御チャンバから隔離されており、前記ダイヤフラムの変形を示す電気信号を供給するセンサを提供する段階と、
前記電気信号を処理して、前記噴射装置の動作の特性データを決定する段階と
を備える方法。
【請求項2】
前記ダイヤフラムの変形を示す前記電気信号は、圧電センサによって提供され、前記圧電センサは、前記ヘッドプレートに形成される袋穴に収容され、前記ダイヤフラムによって前記噴射装置の前記制御チャンバから絶縁される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気信号は、前記ダイヤフラムの、前記噴射ニードルの長手軸に沿った変形を示す、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ダイヤフラムの変形を示す前記電気信号を分析して、制御バルブの開時間、前記噴射ニードルの開時間、最大流量の供給の開始時間、前記噴射ニードルの開放のストローク終点位置到達時間、前記噴射ニードルの閉鎖の開始時間、前記最大流量の供給の終了時間、前記噴射ニードルの閉時間、および最大噴射流量のうちの1または複数の前記噴射装置の動作パラメータを決定する、
請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
コモンレール噴射系の噴射装置であって、
ヘッド面、および、加圧燃料供給ラインに接続され、バルブシートが設けられる供給チャンバを有するパルベライザと、
前記供給チャンバの中を通って延出し、前記バルブシートと連携するシール面を有する噴射ニードルであって、前記シール面が前記バルブシートに当たり接している閉位置と、前記シール面が前記バルブシートから離隔している開位置との間で長手軸に沿って移動可能である、噴射ニードルと、
吸入側較正オリフィスを介して前記加圧燃料供給ラインに接続され、排出側較正オリフィスを介して吐出ラインに接続される制御チャンバ
前記制御チャンバと前記吐出ラインとの間の液圧的な連通を選択的に開閉するよう配置される電動制御バルブと
前記パルベライザの前記ヘッド面と液圧封止により接触して配置されたヘッドプレートであって、前記吸入側較正オリフィスおよび前記排出側較正オリフィスは、前記ヘッドプレートに形成されており、且つ、前記ヘッドプレートに形成された複数の穴のそれぞれを介して制御チャンバに接続されており、前記複数の穴は前記制御チャンバと向かい合っている前記ヘッドプレートの反応面上で開口しており、前記制御チャンバは、前記噴射ニードルのヘッド面によって部分的に確定され、且つ、前記ヘッドプレートの前記反応面によって部分的に確定され、前記噴射ニードルの前記開位置において前記噴射ニードルの前記ヘッド面は前記反応面に当接し、前記ヘッドプレートには袋穴が形成されており、前記袋穴は前記ヘッドプレートの厚みが低減された部分を形成し、前記ヘッドプレートは、前記制御チャンバに含まれる加圧流体と直接接触する、前記反応面の一部から成る第1の表面と、前記袋穴の底部に位置し、前記制御チャンバに含まれる前記加圧流体と接触しない、前記第1の表面の反対側の第2の表面との間に形成された一体型のダイヤフラムを有する、ヘッドプレートと、
前記ヘッドプレートに形成された前記袋穴に収容され、前記ダイヤフラムによって前記噴射装置の前記制御チャンバから隔離されており、前記ダイヤフラムの変形を示す電気信号を供給するセンサ
を備える噴射装置。
【請求項6】
前記センサは、圧電変換器である、請求項5に記載の噴射装置。
【請求項7】
前記袋穴は、前記長手軸と同軸の側面と、前記ダイヤフラムの前記反応面に平行であり、かつ前記反応面の反対側にある底面とを有する、
請求項に記載の噴射装置。
【請求項8】
前記センサは、前記長手軸に対して垂直方向に置かれる2つの圧電素子と、前記圧電素子の間に配置される電極とを有する、
請求項5からの何れか一項に記載の噴射装置。
【請求項9】
前記噴射装置上に配置され、前記センサが提供する前記電気信号を処理する処理システムへの接続のために構成される電子ボードを備える、請求項5からの何れか一項に記載の噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、例えば大型艦艇エンジンといった、大型ディーゼル二元燃料エンジン向けの噴射系に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、大型ディーゼル二元燃料エンジン用コモンレール噴射系の噴射装置のモニタリング方法に関する。
【0003】
別の態様においては、本発明は、コモンレール噴射系の噴射装置にも関する。
【背景技術】
【0004】
コモンレール噴射系は、噴射装置に供給を行う高圧(コモンレール式)蓄圧器において燃料を加圧するポンプを備える。噴射装置には、バルブシートと、閉位置と開位置との間で移動可能な噴射ニードルとが設けられる。噴射ニードルの位置は、加圧流体が適切な影響面に作用することによって生成される2つの液圧の力の強さで定まる。
【0005】
加圧流体は、バルブシートの上流に位置する供給チャンバ内に供給される。供給チャンバ内の加圧流体の圧力は、噴射ニードルの開方向に作用する。制御チャンバ内の流体圧は、噴射ニードルの閉方向に作用する液圧の力を生成する。制御チャンバ内の液圧は、電動制御バルブが調節する。制御バルブを開けると、制御チャンバ内の圧力を、噴射ニードルを開けるように作用する力が閉じるように作用する力を上回る点まで低減させる。この状態においては、噴射ニードルがバルブシートから上昇するため、燃料の噴射が引き起こされる。噴射を終了させるときは、制御バルブに対する電気的なコマンドを解除する。それにより、バルブが閉じ、制御チャンバ内で、閉方向に作用する力が開方向に作用する力より優勢となるように戻る点まで圧力が再度上昇し、結果的に、噴射ニードルは、閉方向に向かって移動し始める。
【0006】
ディーゼルエンジンの効率および排気の面における性能は、燃料の燃焼チャンバへの導入方式に顕著に依存する。なぜなら、導入方式がサイクルへの排熱の原理に影響を及ぼすからである。ゆえに、噴射される瞬間流量の経時傾向として定義される正確な噴射ダイアグラムを作るための噴射装置が必要である。設計性能を得るためには、ダイアグラムが噴射開始時間、開段階および閉段階中に噴射される燃料の流量の変化率、および、噴射される燃料の流量の最大レベルといった設計値に一致することを噴射装置が保証することが重要である。
【0007】
設計とは異なる噴射ダイアグラムを生み出す原因となる噴射装置の経年劣化や異常は、性能の劣化、ならびに、消費および/または排気の上昇を伴う。
【0008】
ガスを燃料とする二元燃料エンジンでは、噴射装置が少量の液体燃料を噴射して、空気-ガスの混合が開始される。故に、パイロット噴射の安定性が燃焼の安定性に大きく影響を及ぼす。非常に少量の燃料を投与する必要があるために、コマンドの継続時間と噴射される燃料の量との間の関係の経時的な悪化が避けられない。
【0009】
上記を考慮すると、実際に得られる噴射ダイアグラムを推定するべく、噴射装置の動作パラメータを常時モニタリングすることが望ましいということが分かる。噴射装置の動作パラメータをモニタリングすれば、エンジンメーカーにとって、エンジン制御ユニットが引き起こす電気制御を修正して、各噴射装置の噴射ダイアグラムを設計した噴射ダイアグラムに可能な限り近づけることが可能になり、および/または、噴射装置の最適な動作状態の復元を目的としたメンテナンス介入の提案が可能になる。その結果、燃費面での顕著な節約が達成され、かつ/または、排気が低減される。さらに、噴射装置の動作パラメータをモニタリングすれば、噴射装置およびその消耗部品の残りの耐用寿命を推定すること、および個々の構成部品が置かれている実際の状態に応じたメンテナンス計画を提案することが可能になり、想定外の故障が回避される。
【0010】
噴射装置の動作のモニタリングは、噴射装置内部に配置されたセンサが生成する信号の分析に基づいており、そこから噴射装置の動作状態を示す情報を得ることが可能となり、当該情報によって実際に作成される噴射ダイアグラムを推定することが可能となる。
【0011】
複数の異なる動作パラメータの検出に基づき、技術水準において様々なモニタリング方法が知られる。主な既知のモニタリング方法を以下に説明する。
【0012】
1.制御バルブ切替えの検出
このモニタリング技術は、制御バルブ内部に配置された力センサが供給する信号、または制御バルブの供給電流の周波数分析を使用する。当該方法は、噴射装置の異常またはドリフトの診断を可能にするが、噴射装置の性能に対する影響を予測するモデルに基づいた大幅な外挿が必要である。
【0013】
2.噴射ニードル位置の検出
噴射ニードル位置の測定は、非常に複雑である。なぜなら、噴射ニードルは非常に高い圧力の燃料中に完全に浸されているからである。そのため、センサを噴射ニードルの直ぐそばに配置することが非常に複雑になる。実際、このことは、密閉状態を保証しつつ、非常に高い圧力の環境からのセンサの接続ケーブルの通路を設けるのにかなりの困難を伴う。噴射ニードルを、それがシールシートと接触しているときは第1の回路を閉じ、上側ストローク終点と接触しているときは第2の回路を閉じるスイッチとして使用するシステムが開発されている。この技術によれば、噴射ニードルの経路の両極端の位置しか検出されず、経路の中間部分の情報については提供されない。
【0014】
他の技術としては、噴射ニードル上の磁石とホール効果センサとの挿入が挙げられる。当該センサは、磁石とセンサとの間の相対運動による磁場の変動を検出する。この解決手段に係る問題の1つは、噴射ニードルおよび加圧燃料を含む金属壁の外にセンサを配置する必要がある点である。これは、磁場のほとんどがそのケーシングによって遮蔽され、高い信号対雑音比を得ることが困難になることを意味する。また、燃焼チャンバの近傍に配置され、高温にさらされる薄壁内にセンサを配置することも困難である。加えて、(噴射ニードルおよびノズルを含む部品から成る)噴射装置のパルベライザ(pulverizer)は、損耗しやすいので定期的な交換が必要である。噴射装置の当該部品内にセンサがあることによって、電気接続の問題および予備の部品にかかるコストの増加の問題が生じる。
【0015】
3.燃料供給ライン内圧力の検出
噴射ニードルを開くことによって、コモンレールを噴射装置のシールシートの上流に位置する供給チャンバと接続する供給ライン内に圧力の変化が生じる。この圧力の変化を分析することによって、噴射ニードルの開時間および閉時間をトレースすることが可能になる。さらに、変化の程度は、供給ラインを流れる燃料の流量と相関性があってよい。この技術は、噴射段階の動作を評価するのには効果的だが、提供する制御バルブの動作についての情報は限定的なものである。なぜなら、制御バルブが切替え中に生じさせる細かな乱れは、制御バルブと電力ラインとの間に較正オリフィスがあるせいで、供給ライン上では検出されないからである。ゆえに、当該技術では、一台のセンサのみを使用して噴射装置全体の動作をモニタリングすることは不可能である。さらに、ガスモード動作では、噴射される少量の燃料は、流量を極端に低減する必要があるので、信号/雑音比が非常に小さくなる。そのため、係る動作状態では正確な診断ができない。
【0016】
4.制御チャンバ内圧力の検出
制御チャンバ内の圧力は、制御バルブの動作および噴射ニードルの動作の両方の影響を受ける。制御チャンバ内での圧力変動は、噴射流量にかかわらず大きいので、パイロット噴射モード中の動作については良好に分析することが可能である。制御チャンバ内圧力の検出に係る問題の1つは、制御チャンバの寸法が非常に小さく、そのため、この領域に圧力センサを挿入することが容易ではない点である。ゆえに、制御チャンバと、その圧力の測定をより容易にすることが可能な領域に位置する測定チャンバとの間に小型の通信チャネルを設ける解決手段が知られる。
【0017】
ドイツ公開特許第10 2011 051765号および欧州特許出願第2 216 539号はともに、制御チャンバと連通するチャネルを噴射装置本体内に形成したシステムについて説明している。当該チャネルは、制御チャンバに含まれる流体と同じ圧力に加圧された流体を、制御チャンバを画定する壁の外部領域に伝える。当該チャネル内の流体の圧力は、壁の変形を生じさせる。当該壁は、一方側において加圧流体を含むチャネルに面し、他方側において通常は半導体材料で作成される歪みセンサを収容する。
【0018】
これらの解決手段には以下の欠点がある。
i)チャネル-チャンバシステムは圧力振動を生む液圧共振器を構成し、圧力波の干渉による歪みが信号を妨害することがあるので、分析がより困難となるために、チャネル内部の流体の瞬間圧力は、制御チャンバ内の瞬間圧力と厳密には等しくないこと。
ii)測定チャネル内の圧力振動によって生成される圧力波が制御チャンバ内の圧力信号と重なり合い、噴射装置の動作力学を変更してしまうこと(侵襲的測定法)。
iii)噴射装置の液圧回路アーキテクチャを変更すると、センサを有しない噴射装置と比べて噴射装置の動作の変動を伴うこと。
iv)項目i)、ii)、およびiii)で言及した影響を限定的なものにするべく、追加の回路は、寸法を抑えて作成されること。その結果、重質燃料で動作する噴射装置では、流体が連続的に循環しないことによる、燃料に含まれる残留物の堆積が原因で、これらのチャネルの閉塞が起こりかねず、このことが、たとえ噴射装置は完璧に動作したとしても、測定した信号の変動を招き、誤ったアラームを生成することになる。
v)大型艦艇エンジンの噴射装置の動作診断においては、ニードルが制御チャンバを上部において画定するヘッドプレートの表面に達する、または当該表面から離れる瞬間を検出すること、および、ニードルの開ストロークにおけるニードルの機械的止め部を作成することが特に重要になってくること。既知の測定法は、チャネル内の圧力信号を分析して、ニードルがその上側止め部に停止し、当該止め部から離れる瞬間を推測することに基づいている。この方法では、不正確な結果がもたらされかねない。なぜなら、ニードルが止め部に入り、または上側止め部表面を離れるとき、ニードルによって誘発される細かな乱れの圧力信号において振幅が限定されることを考慮すれば、これらの瞬間の事象をアルゴリズムレベルで常に簡単に規定することはできないと考えられるからである。
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的は、先行技術の課題を克服する、コモンレール噴射装置系の噴射装置のモニタリング方法を提供することである。
【0020】
本発明によると、本目的は、請求項1の主題を形成する特徴を有する方法によって実現される。
【0021】
別の態様においては、本発明は、請求項5の主題を形成する特徴を有するコモンレール噴射系の噴射装置に関する。特許請求の範囲は、本発明に関してここに提供される開示の不可欠な部分を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
これより、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。当該図面は、単に非限定的な例として示されるものである。
図1】コモンレール噴射系の噴射装置の動作を示す概略図である。
図2】コモンレール噴射系の噴射装置の軸方向断面図である。
図3図2の矢印IIIによって示される部分の拡大断面図である。
図4図3の矢印IVによって示される部分の拡大詳細図である。
図5】噴射装置のモニタリングシステムを示す図である。
図6】噴射装置の理論上の噴射ダイアグラムを示すグラフである。
図7】噴射装置の制御バルブの供給電流の傾向を示す図である。
図8】噴射装置によって作成された噴射ダイアグラムと共に、噴射装置のモニタリング信号の傾向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1において、コモンレール噴射系の噴射装置を参照符号10で示す。噴射装置10はパルベライザ12を備え、パルベライザ12は燃料供給チャンバ14を有し、燃料供給チャンバはバルブシート16を含む。噴射ニードル18が、供給チャンバ14の中へと延出し、バルブシート16と連携するシール面20を有する。噴射ニードル18は、シール面20がバルブシート16に当たり接している閉位置とシール面20がバルブシート16から離隔している開位置との間を自身の長手軸Aに沿って移動可能である。ばね22がその特性によって、閉位置に向かって噴射ニードル18を押す。パルベライザ12は複数の噴射穴部24を有し、噴射ニードル18が開位置にあるとき、供給チャンバ14内の加圧燃料が噴射穴部24を通って微粒化される。
【0024】
噴射装置10は格納容器26を備え、格納容器26は、同一のエンジンの他の噴射装置の同様の格納容器と共に、分散型コモンレールを構成する。格納容器26は、高圧ポンプからもたらされる加圧燃料で充填される。格納容器26は供給ダクト28に接続される。供給ダクト28は、パルベライザ12の供給チャンバ14に接続された第1のブランチ30と、第1の較正オリフィス36を介して制御チャンバ34に接続された第2のブランチ32とを有する。制御チャンバ34は吐出ライン38に接続され、吐出ライン38はタンク40につながる。制御バルブ42は、吐出ライン38上に配置される。制御バルブ42は、電気的に制御される2位置バルブであり、その開位置では制御チャンバ34を吐出ライン38に接続し、閉位置では制御チャンバ34を吐出ライン38から切り離す。第2の較正オリフィス44が制御バルブ42の上流に配置される。
【0025】
制御バルブ42が閉じているとき、制御チャンバ34内の圧力は供給チャンバ14内の圧力に等しく、供給チャンバ14内の圧力は、格納容器26内の圧力に等しい。噴射ニードル18は、閉位置にあるとき、その影響面が供給チャンバ14内より制御チャンバ34内において広く露出するために、噴射ニードル18上で液圧による力が生じ、噴射ニードル18は当該液圧の力によって閉位置に押し込まれる。制御バルブ42が開くと、制御チャンバ34内の圧力は下がり、その結果生じる液圧の力を受けて、噴射ニードル18は開位置に向かって移動させられる。
【0026】
図2図3、および図4は、図1を参照して説明した動作原理に基づいて動作する、本発明に係る噴射装置の一実施形態を示す。すでに説明した要素に対応する要素は、同一の参照符号で示す。
【0027】
図2を参照すると、燃料供給ライン28上に流量制限バルブ46が設けられてよく、燃料供給ライン28は、格納容器26からパルベライザ12の供給チャンバ14まで延在する。制御バルブ42は、噴射装置10内部に収容されてよく、電気配線48に接続されており、電気配線48は、制御バルブ42に電気的な開コマンドを与える。
【0028】
図3および図4を参照すると、噴射装置10は、パルベライザ12のヘッド面52と液圧封止により接触して配置されたヘッドプレート50を備える。
【0029】
ヘッドプレート50において、較正オリフィス36、44が形成されており、較正オリフィス36、44はそれぞれ、同様にヘッドプレート50内に形成された穴部54、56を介して制御チャンバに接続される。穴部54、56は、ヘッドプレート50の、制御チャンバ34と面する反応面58上で開口している。ヘッドプレート50の反応面58は、パルベライザ12の供給チャンバ14に向かって開かれたシート60に形成してよい。ブッシング62が、部分的にシート60内部に収容されており、噴射ニードル18のヘッド部が滑り込む穴部64を有する。制御チャンバ34は、ヘッドプレート50の反応面58と、噴射ニードル18のヘッド面66と、ガイドブッシング62の環状部68とによって画定される。
【0030】
噴射ニードル18は、開位置にあるとき、そのヘッド面66が反応面58と接触する。
【0031】
図4を参照すると、ヘッドプレート50は、ヘッドプレート50のうちの厚みの薄い部分によって形成される一体型ダイヤフラム120を備える。ダイヤフラム120は、液圧チャンバ34に含まれる加圧流体と直接接触する第1の表面を有する。ダイヤフラム120の第1の表面は、反応面58の一部分から成っていてよい。ダイヤフラム120は、第1の表面の反対側の第2の表面を有し、第2の表面は、液圧チャンバ34に含まれる加圧流体とは接触しない。示される実施形態では、ダイヤフラム120は、ヘッドプレート50に形成された袋穴72の底部に位置する。袋穴72は、側面74と、ダイヤフラム120の第2の表面を形成する底面76とを有する。
【0032】
図3および図4を参照すると、噴射装置10はセンサ70を備え、センサ70は、噴射装置10の動作をモニタリングするための電気信号を提供する。
【0033】
センサ70は、ヘッドプレート50の反応面58に作用する長手軸A方向の圧力に関する電気信号を提供する圧電圧力変換器であってよい。センサ70が供給する電気信号は、制御チャンバ34内の流体圧の変動と、噴射ニードル18が反応面58と接触する際に及ぼす力の変動とによって生じるダイヤフラム120の変形を示す。
【0034】
センサ70は、2つの圧電素子78、80を有してよい。当該圧電素子はそれぞれ2つの平坦面を含み、当該2つの面は互いに平行であり、かつ軸Aと直交する。圧電センサ70を使用すれば、他のタイプの検知材料の許容温度よりもはるかに高い動作温度に耐えることが可能である。
【0035】
2つの圧電素子78、80はそれぞれ、第1の面に正電荷の蓄積を、第1の面の反対側の第2の面に負電荷の蓄積を生成する。電荷量によって、圧電素子78、80の変形に比例して大きくなるA軸方向の電位差が生まれる。
【0036】
2つの圧電素子78、80間には、2つの圧電素子78、80の第1の面と接触して配置されるシート状の導電材料で形成される電極82が存在する。電極82は、負荷がかかると正の極性を有する。
【0037】
センサ70はまた、圧電素子78、80の第2の面と接触して配置される金属材料の2つの支持要素84、86を有する。支持要素84、86は、負荷がかかると負の極性を有する。
【0038】
2つの圧電素子78、80の間に配置された電極82は、センサ70の正極を構成する。負極は、ヘッドプレート50を介して電気的に接地された支持要素84、86から成る。電極82は、2つの支持要素84、86間で作用する長手軸A方向の力に比例したアナログの電気信号が生成される電気ケーブルに接続される。
【0039】
絶縁材料の環状要素88が、電極82の外側に配置される。環状要素88によって、圧電素子78、80と電極82との芯出しが可能になり、噴射装置の金属構成部品から成る負極から確実に電極82を絶縁する。
【0040】
センサ70は、袋穴72に収容され、袋穴72の底面76と噴射装置10の本体部90の表面89との間で軸方向に圧縮される。弾性要素92が支持要素84と袋穴72の底面76との間に配置されてよい。弾性要素92は、例えばカップばねで形成される。弾性要素92によって、制御チャンバ34内で働く圧力の作用下でのヘッドプレート50の反応面58の変形に応じた圧電素子78、80に伝達される力を調整することが可能になる。このようにして、確実に、表面58、76間に配置された壁に十分な厚みをもたせること、ひいては制御チャンバ34内の圧力の作用下でヘッドプレート50に構造的強度をもたせることが可能になり、同時に、反応面58の変形によって、圧電素子78、80に過度の負荷を生じさせないようにすることが可能になる。
【0041】
弾性要素92の寸法および形状を適切に選択することによって弾性要素92の剛性が圧縮力に適応し、結果的に、表面76の変位が与えるセンサ70の構成部品の変形によって、少なくとも1つの圧電素子78、80の作動フィールド(working field)に適合する力が生成されるよう、当該構成部品の全体としての剛性が修正される。
【0042】
圧電素子78、80を対面配置にすることで、センサ70の感度が1つの圧電素子しか使用しないセンサの2倍になり、かつ、センサの構造が簡略化される。なぜなら、センサは、同一の圧電素子78、80を正極と負極との間の電気絶縁要素として使用し、センサ70が受ける負荷を支持する要素の積層中にさらに絶縁材料の要素を導入しなくて済むからである。
【0043】
センサ70の寸法は非常に小さく、ヘッドプレート50の較正オリフィス36、44間に簡単に収容できる。
【0044】
センサ70は、燃料との接触のない、制御チャンバ34内の液圧の間接的な測定を提供することが可能である。実際、制御チャンバ34内の燃料の圧力が引き起こすダイヤフラム120の変形を、センサ70は優れた信号/雑音比で検出する。
【0045】
大型艦艇エンジンの噴射装置の動作診断では、噴射ニードル18が反応面58と接触する、または反応面58から離れる瞬間を検出することが特に重要であり、反応面58は、噴射ニードル18の開経路中での機械的止め部を実装する。本発明に係る方法および装置の特に有利な特徴は、開位置の噴射ニードル18が、直接ダイヤフラム120との接触状態に入る点である。センサ70は、ダイヤフラム120に機械的に連結され、噴射ニードル18が反応面58と接触する瞬間(噴射ニードル18の開ストロークが終了する瞬間)と、噴射ニードル18が反応面58から離れる瞬間(噴射ニードル18の閉ストロークが開始する瞬間)とを高い精度で検出する。
【0046】
ゆえに、センサ70は、制御チャンバ内に存在する圧力と、噴射ニードル18が反応面58にもたれて与える力とに直接的に関連する、遅延も乱れもない信号を提供する。制御チャンバ内の圧力を調節することによって噴射装置の制御を行う液圧回路は変更されない(標準の噴射装置と、診断機器を装備した噴射装置とは全く同じように動作する)ので、当該測定は、侵襲的な測定ではない。
【0047】
図5を参照すると、各噴射装置10は、噴射装置10のパルベライザ12とは反対側の端部に取り付けてよい電子ボード94を備える。電子ボード94は、圧力センサ70から送られるアナログ信号、場合により温度センサ95から送られるアナログ信号、および、制御バルブ42の駆動電流値を示す電流センサ96から送られるアナログ信号を受け取る。センサ70、95、96からのアナログ信号は、マイクロプロセッサ100に接続してよいアナログ/デジタルコンバータ98に送られてよい。マイクロプロセッサ100は、噴射装置10の識別番号、動作時間数を示すデータ、顧客の識別コード、および、任意の他の情報を含んでよい。噴射装置10の電子ボード94は、エンジン制御ユニット102から制御バルブ42の駆動電流を受け取り、噴射装置10内部に配置される電気配線48を介して当該駆動電流を制御バルブ42に送る。
【0048】
電子ボード94のマイクロプロセッサ100は、通信チャネル104に接続されてよく、通信チャネル104には、同一のエンジンの他の噴射装置10も接続されてよい。通信チャネル104は、バスによって、例えばRS485タイプによって、実装されてよい。通信チャネル104は、インタフェース回路106に接続されてよく、インタフェース回路106は、複数の異なる通信プロトコルによる通信ラインとインタフェースをとることができる。インタフェース回路106は、例えばイーサネット(登録商標)ライン110を介して、処理システム108に接続されてよい。インタフェース回路106は、CANライン112を介してエンジン制御ユニット102にも接続されてよい。
【0049】
処理システム108は、同一のエンジンの全噴射装置10の電子ボード94から送られる信号を受け取り、当該信号を処理して、例えば、制御バルブの開時間、噴射の開始時間、噴射ニードルの開放の終了時間、噴射ニードルの閉鎖の開始時間、噴射の終了時間、噴射流量の最大値といった情報を取得する。処理システム108によって処理された情報は、ローカルで格納してよく、または、リモートサーバ114に転送されてよい。ユーザインタフェース116によって、処理システム108および/またはリモートサーバ114に格納した情報へのアクセスが可能となる。
【0050】
図6は、制御バルブ42に対する4つの電気制御期間値についての、時間tにおいて噴射された燃料の流量Gを示す、噴射装置10の噴射ダイアグラムを示す。噴射装置10は、噴射開始時間、開段階および閉段階における流量の変動スピード、および供給される流量の最大レベルに関する設計によって予測される噴射ダイアグラムを生み出すはずである。
【0051】
図7は、噴射サイクル中の制御バルブ42の駆動電流Iの値を時間tの関数として示す。図8は、制御チャンバ34内の液圧の作用下でのヘッドプレート50の変形を示す、センサ70によって提供される信号Vを示したものである。信号Vはまた、噴射ニードル18のヘッド面66がヘッドプレート50の反応面58に当たり接しているとき、噴射ニードル18がヘッドプレート50に伝達する力も示す。なぜなら、ヘッドプレート50は、噴射ニードル18に関する開ストローク終点としても機能するからである。
【0052】
図6図7図8は、所与の噴射装置に特有の実際の値を示したものである。これらの図に示した数値は、単に例として提供するものであり、本発明は、さまざまなタイミングおよび信号振幅で動作するさまざまな噴射装置モデルに適用可能であることを意図している。
【0053】
信号Vの変動を分析すれば、噴射装置の動作サイクルの最も重要な瞬間を明確に区別することが可能になる。図8の同一のダイアグラムは、モニタリング信号Vと同時にテストベンチにおいて測定された噴射ダイアグラム(時間の関数としての噴射された燃料の流量)を示す曲線Gを示したものである。信号Vの傾向から、
t1:制御バルブを開く段階、
t2:噴射ニードルを開く段階、
t3:最大流量の供給を開始する段階、
t4:噴射ニードルが開ストローク終点にある段階、
t5:噴射ニードルの閉鎖を開始する段階、
t6:最大流量の供給を終了する段階、
t7:噴射装置を閉じる段階
という噴射装置のサイクルの諸段階を特定することが可能である。
【0054】
図8に示す例から、変形信号Vが、噴射サイクル中に有意な変動を呈し、そのノイズが非常に小さいことが分かる。ゆえに、信号Vから、堅牢なやり方で重要なデータを取り出すことが可能になる。信号Vに基づき人工知能技術を使用して、噴射サイクル中に供給される最大流量を外挿することが可能であり、その結果、噴射装置の実際の噴射ダイアグラムの再構築に必要な全要素が取得される。
【0055】
ヘッドプレート50のダイヤフラム120は、制御チャンバ34に存在する圧力と、噴射ニードル18がダイヤフラム120と接触するときに当該ニードルによって伝達される力との両方によって変形させられる。ゆえに、その結果得られる信号は、圧力およびニードル位置の両方に対して直に反応する。図8に示した信号の分析から簡単に推測できるように、噴射ニードルが反応面に達した(または反応面を離れた)とき、信号の有意な変動が測定されるので、これらの瞬間の簡単かつ堅牢な自動認識アルゴリズムを開発することが可能になる。
【0056】
信号Vによって提供される情報は、実際の噴射ダイアグラムの形状を推定するべく、噴射装置の動作パラメータを常時モニタリングすることを可能にする。これによって、エンジンメーカーが、エンジン制御ユニット102によって生成される電気制御を修正して噴射装置の動作を最適な動作状態に復元すること、および/または、メンテナンス介入を提案することが可能になる。
【0057】
当然ながら、本発明の原理を損なうことなく、構造の詳細および実施形態は、以下の特許請求の範囲が規定する本発明の範囲を逸脱せずに、説明し例示したものから幅広く変更されてよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8