(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】曳家方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/06 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
E04G23/06 A
(21)【出願番号】P 2020075405
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592182573
【氏名又は名称】オックスジャッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】嘉本 敬樹
(72)【発明者】
【氏名】金築 一平
(72)【発明者】
【氏名】中谷 俊明
(72)【発明者】
【氏名】松田 紘和
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/065711(WO,A1)
【文献】英国特許出願公告第00738397(GB,A)
【文献】特開2019-094732(JP,A)
【文献】特開平05-118145(JP,A)
【文献】特開2007-308134(JP,A)
【文献】特開2007-009658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法であって、
前記既存建物を直進用レール上に支持した状態で当該直進用レールに沿って直進させる直進工程と、
前記既存建物を旋回用レール上に支持した状態で当該旋回用レールに沿って旋回させる旋回工程と、を含み、
前記旋回工程において、前記直進用レールの下に前記旋回用レールを敷設して前記直進用レールごと前記既存建物を前記旋回用レールに支持した状態で旋回させ
、
前記直進工程において、前記直進用レールの下に当該直進用レールを支持する直進用レール受けを設置し、
前記旋回工程において、前記直進用レール受けを前記旋回用レールに置き換える形態で前記旋回用レールを敷設する曳家方法。
【請求項2】
既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法であって、
前記既存建物を直進用レール上に支持した状態で当該直進用レールに沿って直進させる直進工程と、
前記既存建物を旋回用レール上に支持した状態で当該旋回用レールに沿って旋回させる旋回工程と、を含み、
前記旋回工程において、前記直進用レールの下に前記旋回用レールを敷設して前記直進用レールごと前記既存建物を前記旋回用レールに支持した状態で旋回させ、
前記旋回工程において、前記既存建物の旋回中心部の旋回時のずれを防止するずれ防止構造部を設ける曳家方法。
【請求項3】
前記直進工程において、前記直進用レールと前記既存建物との間に介装された状態で前記既存建物を当該直進用レールに沿って移動させる移動装置を用いて前記既存建物を前記直進用レールに沿って直進させ、
前記旋回工程において、前記直進用レール上に前記直進工程用の前記移動装置を設置した状態で前記既存建物を旋回させる請求項1又は2に記載の曳家方法。
【請求項4】
前記既存設置場所から前記移設先場所に至る前記既存建物の移動経路を、前記既存設置場所及び前記移設先場所を含む地中障害物撤去対象エリア外の仮置き場所を通る経路に設定し、
前記地中障害物撤去対象エリアにおいて地中障害物の撤去工事を実行する際に、前記既存建物を前記仮置き場所に仮置きする請求項1~3の何れか1項に記載の曳家方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法では、所謂トラベリング工法を採用する場合がある(例えば、特許文献1,2を参照。)。
曳家方法で採用されるトラベリング工法では、レール上を摺動可能な摺動支持部に既存建物を支持した状態で、摺動支持部に一端部が接続されレールをクランプして固定可能なクランプ装置に他端部が接続された水平ジャッキをクランプ装置の開閉に連動させて伸縮させることで、摺動支持部に支持された既存建物をレール上に支持させた状態で間欠的にレールに沿って移動させることができる。
また、特許文献2に記載の曳家方法では、既存建物をカーブしたレールに沿って移動させることで、既存建物を回転させながら移動可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5162368号公報
【文献】特開2019-094732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存建物をレール上に支持した状態で当該レールに沿って移動させる従来の曳家方法では、移設後の既存建物の向きを移設前から変更しようとすると、既存設置場所から移設先場所に至る既存建物の移動経路にカーブしたレールを組み入れる必要がある。しかしながら、移動経路の設置範囲の制限等により、このようなカーブしたレールを採用できない場合がある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法において、簡単な作業で合理的に移設後の既存建物の向きを移設前から変更することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法であって、
前記既存建物を直進用レール上に支持した状態で当該直進用レールに沿って直進させる直進工程と、
前記既存建物を旋回用レール上に支持した状態で当該旋回用レールに沿って旋回させる旋回工程と、を含み、
前記旋回工程において、前記直進用レールの下に前記旋回用レールを敷設して前記直進用レールごと前記既存建物を前記旋回用レールに支持した状態で旋回させ、
前記直進工程において、前記直進用レールの下に当該直進用レールを支持する直進用レール受けを設置し、
前記旋回工程において、前記直進用レール受けを前記旋回用レールに置き換える形態で前記旋回用レールを敷設する点にある。
【0007】
本構成によれば、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設するにあたり、既存設置場所から移設先場所に至る既存建物の移動経路において、直進工程を実行して既存建物を直進させると共に、旋回工程を実行して既存建物を旋回させることで、比較的狭いスペースであっても既存建物を向きの変更を伴って移設することができる。
そして、直進工程の前後に旋回工程を実行するにあたり、直進用レールの下に旋回用レールを敷設して直進用レールごと既存建物を旋回用レールに支持した状態で旋回させることができる。このことで、直進工程と旋回工程との切り替え時において、直進用レールの撤去や設置が不要となり、作業効率を向上させることができる。
従って、本発明により、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法において、簡単な作業で合理的に移設後の既存建物の向きを移設前から変更することができる技術を提供することができる。
また、本構成によれば、直進工程と旋回工程との切り替え時において、既存建物の支持高さをあまり変更することなく、直進用レールの下に対して旋回用レールを設置又は撤去することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法であって、
前記既存建物を直進用レール上に支持した状態で当該直進用レールに沿って直進させる直進工程と、
前記既存建物を旋回用レール上に支持した状態で当該旋回用レールに沿って旋回させる旋回工程と、を含み、
前記旋回工程において、前記直進用レールの下に前記旋回用レールを敷設して前記直進用レールごと前記既存建物を前記旋回用レールに支持した状態で旋回させ、
前記旋回工程において、前記既存建物の旋回中心部の旋回時のずれを防止するずれ防止構造部を設ける点にある。
【0009】
本構成によれば、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設するにあたり、既存設置場所から移設先場所に至る既存建物の移動経路において、直進工程を実行して既存建物を直進させると共に、旋回工程を実行して既存建物を旋回させることで、比較的狭いスペースであっても既存建物を向きの変更を伴って移設することができる。
そして、直進工程の前後に旋回工程を実行するにあたり、直進用レールの下に旋回用レールを敷設して直進用レールごと既存建物を旋回用レールに支持した状態で旋回させることができる。このことで、直進工程と旋回工程との切り替え時において、直進用レールの撤去や設置が不要となり、作業効率を向上させることができる。
従って、本発明により、既存建物を既存設置場所から移設先場所に移設する曳家方法において、簡単な作業で合理的に移設後の既存建物の向きを移設前から変更することができる技術を提供することができる。
また、本構成によれば、旋回工程においてずれ防止構造部を設けることで、地震時等における既存建物の旋回中心の旋回時のずれを好適に防止することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記直進工程において、前記直進用レールと前記既存建物との間に介装された状態で前記既存建物を当該直進用レールに沿って移動させる移動装置を用いて前記既存建物を前記直進用レールに沿って直進させ、
前記旋回工程において、前記直進用レール上に前記直進工程用の前記移動装置を設置した状態で前記既存建物を旋回させる点にある。
【0011】
本構成によれば、旋回工程において直進用レール上に直進工程用の移動装置を設置した状態で既存建物を旋回させるので、その旋回工程の前に実行した直進工程で利用した移動装置を一旦撤去することなく、その旋回工程の後に実行する直進工程で利用することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記既存設置場所から前記移設先場所に至る前記既存建物の移動経路を、前記既存設置場所及び前記移設先場所を含む地中障害物撤去対象エリア外の仮置き場所を通る経路に設定し、
前記地中障害物撤去対象エリアにおいて地中障害物の撤去工事を実行する際に、前記既存建物を前記仮置き場所に仮置きする点にある。
【0013】
本構成におれば、既存設置場所及び移設先場所を含むエリアが地中障害物を撤去すべき地中障害物撤去対象エリアである場合において、既存設置場所から移設先場所に至る既存建物の移動経路をそのエリア外の仮置き場所を取る経路に設定して、既存建物を当該仮置き場所に仮置きした状態で、地中障害物撤去対象エリアにおいて地中障害物の撤去工事を実行することができる。
更に、旋回工程を実行する旋回場所と当該旋回場所と仮置き場所との間の直進経路とを、地中障害物撤去対象エリア外に設定することで、地中障害物撤去対象エリアでの地中障害物の撤去工事と同時に、旋回工程及び仮置き場所との間の直進工程を実行して、作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本実施形態の曳家方法の第1ステップを示す図
【
図3】本実施形態の曳家方法の第2ステップの第1状態を示す図
【
図4】本実施形態の曳家方法の第2ステップの第2状態を示す図
【
図5】本実施形態の曳家方法の第2ステップの第3状態を示す図
【
図6】本実施形態の曳家方法の第3ステップを示す図
【
図7】本実施形態の曳家方法の第4ステップを示す図
【
図8】直進工程におけるレール及び移動装置の設置構成及び動作状態を示す側面図
【
図9】直進工程におけるレール及び移動装置の設置構成を示す立面図
【
図10】旋回工程におけるレール及び移動装置の設置工程を示す側面図
【
図11】旋回工程におけるレール及び移動装置の設置工程を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る曳家方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態の曳家方法(以下「本曳家方法」と呼ぶ)は、
図1に示すように、既存建物Xを向き(正面Xaが向く方角)の変更を伴って既存設置場所S1から移設先場所S4に移設する方法である。
即ち、本曳家方法は、既存建物Xを直進(水平方向に沿った直線的な移動)させる直進工程と、既存建物Xを旋回(鉛直軸周りに水平回転せる移動)させる旋回工程と、を含んで構成されている。具体的には、既存設置場所S1にある既存建物Xを当該既存設置場所S1から旋回場所S2に向きを変更せずに移動させる形態で直進工程が実行される第1ステップ(
図2を参照)と、旋回場所S2において既存建物Xを平面視で時計回りに90°向きを変更させる形態で旋回工程が実行される第2ステップ(
図3~5を参照)と、旋回場所S2にある既存建物Xを当該旋回場所S2から仮置き場所S3に向きを変更せずに移動させる形態で直進工程が実行される第3ステップ(
図6を参照)と、仮置き場所S3にある既存建物Xを当該仮置き場所S3から移設先場所S4に向きを変更せずに移動させる形態で直進工程が実行される第4ステップ(
図7を参照)とからなる。
【0018】
既存設置場所S1及び移設先場所S4を含むエリアは、地中障害物を撤去すべき地中障害物撤去対象エリアA1とされている。一方、上記旋回場所S2及び上記仮置き場所S3は、地中障害物撤去対象エリアA1の外側に位置する外側エリアA2内に設けられている。即ち、本曳家方法において、既存設置場所S1から移設先場所S4に至る既存建物Xの移動経路は、外側エリアA2内に設けられた旋回場所S2及び仮置き場所S3を通る経路に設定されている。そして、本曳家方法において、既存建物Xを上記旋回場所S2で旋回させた後に上記仮置き場所S3に移動して仮置きする間に、地中障害物撤去対象エリアA1において地中障害物の撤去工事が効率良く実行される。
更に、この地中障害物の撤去工事の実行に合わせて、移設先場所S4では、移設された既存建物Xの免震基礎部分の工事も予め施工される。
以下、本曳家方法で実行される直進工程及び旋回工程の詳細構成について、順に説明する。
【0019】
〔直進工程〕
既存建物Xを直進させる直進工程は、本曳家方法における上記第1,3,4ステップ(
図2,6,7を参照)で実行される。
図8及び
図9にも示すように、直進工程は、既存建物Xを、水平方向に直線的に延びる直進用レールLs上に支持した状態で当該直進用レールLs沿って直進させる工程である。
この直進工程では、直進用レールLsと既存建物Xとの間に介装された状態で既存建物Xを当該直進用レールLsに沿って移動させるトラベリング式の移動装置10が用いられる。
【0020】
直進工程用の移動装置10は、直進用レールLs上を摺動可能な状態で既存建物Xを支持する摺動支持部11と、当該摺動支持部11の後側(
図8の右側)にロッド14aの先端が連結された油圧シリンダ14と、摺動支持部11の前側(
図8の左側)に固定されて直進用レールLsをクランプして固定可能な摺動側クランプ12と、油圧シリンダ14の後端に固定されて直進用レールLsをクランプして固定可能な受け側クランプ16とを備えて構成されている。また、この直進工程用の移動装置10では、摺動側クランプ12と摺動支持部11と油圧シリンダ14と受け側クランプ16との間の夫々の連結部分Jが鉛直方向に沿って揺動自在な継ぎ手等により連結されている。
【0021】
そして、移動装置10は、
図8(a)から
図8(b)への状態変化に示すように、摺動側クランプ12を開放すると共に受け側クランプ16で直進用レールLsをクランプして固定した状態で油圧シリンダ14を伸長させる伸長ステップと、
図8(b)から
図8(c)への状態変化に示すように、受け側クランプ16を開放すると共に摺動側クランプ12で直進用レールLsをクランプして固定した状態で油圧シリンダ14を短縮させる短縮ステップとを繰り返す形態で作動される。即ち、移動装置10において摺動支持部11の移動方向後方に油圧シリンダ14を配置し、その油圧シリンダ14を短縮させた状態から伸長させることにより、既存建物Xを支持する摺動支持部11を、油圧シリンダ14で移動方向へ向けて間欠的に押し込む形態で、直進用レールLsに沿って移動させることができる。
【0022】
そして、既存建物Xの下に並設した複数の直進用レールLs上に複数の移動装置10を配置し、それら複数の移動装置10を同期させながら上述のように直進用レールLsに沿って移動させる形態で、摺動支持部11に支持された既存建物Xを直進用レールLsに沿って直進させることができる。
尚、
図2,6,7に示すように、本実施形態では、直進工程において敷設する直進用レールLsの数を既存建物Xの柱部分に合わせて4本としているが、直進用レールLsの数は適宜変更しても構わない。
【0023】
直進工程では、直進用レールLsの下に当該直進用レールLsを支持する直進用レール受け25が設置される。直進用レール受け25は、上段受け部材25aと中段受け部材25bと下段受け部材25cとの3段式に構成されている。
上段受け部材25aは、ブロック状の部材であり、直進用レールLsの長手方向に沿って所定の配置間隔で上段受け部材25aが複数配置されて、その上に直進用レールLsが載置され固定される。
中段受け部材25bは、直進用レールLsの水平幅方向に延びる所定長さのH形鋼で構成されており、上記上段受け部材25aと同様に、直進用レールLsの長手方向に沿って所定の配置間隔で中段受け部材25bが複数配置されて、その上に上段受け部材25aが夫々載置され固定される。
下段受け部材25cは、直進用レールLsの長手方向に沿って延びるH形鋼で構成されており、一対の下段受け部材25cが所定の間隔をあけて並設され、それらの上に中段受け部材25bが架設され固定される。
【0024】
〔旋回工程〕
既存建物Xを旋回させる旋回工程は、本曳家方法における上記第2ステップ(
図3~5)で実行される。
図10及び
図11にも示すように、旋回工程は、直進用レールLsの下に平面視円環状の旋回用レールLrを敷設して直進用レールLsごと既存建物Xを、旋回用レールLr上に支持した状態で当該旋回用レールLrに沿って旋回させる工程である。
この旋回工程では、旋回用レールLrと直進用レールLsとの間に介装された状態で、既存建物Xを支持する直進用レールLsを当該旋回用レールLrに沿って旋回させるトラベリング式の移動装置40が用いられる。
【0025】
旋回工程用の移動装置40は、直進工程用の移動装置10(
図8及び
図9を参照)と略同様の構成を有しており、旋回用レールLr上を摺動可能な状態で既存建物Xを支持する摺動支持部41と、当該摺動支持部41の後側(
図10の右側)にロッド44aの先端が連結された油圧シリンダ44と、摺動支持部41の前側(
図10の左側)に固定されて旋回用レールLrをクランプして固定可能な摺動側クランプ42と、油圧シリンダ44の後端に固定されて旋回用レールLrをクランプして固定可能な受け側クランプ46とを備えて構成されている。また、この旋回工程用の移動装置40では、摺動側クランプ42と摺動支持部41と油圧シリンダ44と受け側クランプ46との間の夫々の連結部分Jが水平方向に沿って揺動自在な継ぎ手等により連結されている。
【0026】
そして、同心円状に配置した複数の旋回用レールLr上に複数の移動装置40を配置し、それら移動装置40の摺動支持部41上に、後述する支持用円環状レール30を介在させて直進用レールLsを支持させる。それら複数の移動装置40を同期させながら上述の直進用の移動装置10(
図8を参照)と同様に旋回用レールLrに沿って同方向(例えば時計周り)に移動させる形態で、摺動支持部41に支持された既存建物Xとそれを支持する直進用レールLs及び支持用円環状レール30とを旋回用レールLrに沿って旋回させることができる。
尚、
図3~5に示すように、本実施形態では、旋回工程において敷設する旋回用レールLrの数を既存建物Xの柱部分に合わせて3本としているが、旋回用レールLrの数は適宜変更しても構わない。
【0027】
旋回工程では、直進用レールLsを支持する直進用レール受け25(
図9参照)を旋回用レールLrに置き換える形態で旋回用レールLrが敷設され、その直進用レールLs上に直進工程用の前記移動装置10を設置した状態で既存建物Xが旋回される。
即ち、直進工程から旋回工程に移行する際には、直進用レールLsの荷重を一時的に油圧ジャッキ(図示省略)に受け代えた状態で、直進用レール受け25が撤去されて、旋回用レールLr及びそれを支持する旋回用レール受け34が敷設される。更に、旋回工程用の移動装置40の摺動支持部41と直進用レールLsとの間には、旋回用レールLrと同形状の支持用円環状レール30が介装される。そして、旋回工程用の移動装置40を作動させることで、支持用円環状レール30、それで支持される直進用レールLs、その上に設けられた直進工程用の移動装置10、及びその摺動支持部11に支持された既存建物Xが一体的に旋回される。
また、旋回工程から直進工程に移行する際においても、直進用レールLsの荷重を一時的に油圧ジャッキ(図示省略)に受け代えた状態で、支持用円環状レール30、旋回用レールLr及びそれを支持する旋回用レール受け34が撤去されて、直進用レール受け25が敷設される。
【0028】
旋回工程では、
図12に示すように、地震時等における既存建物Xの旋回中心部Xcの旋回時のずれを防止するずれ防止構造部Kが設けられる。
かかるずれ防止構造部Kは、既存建物Xの底面の旋回中心部Xc付近に構築されたコンクリート製の上取り合い部51と、当該上取り合い部51の下方において地盤上に構築されたコンクリート製の下取り合い部58との間に介装されている。上取り合い部51の下面には、旋回中心部Xcと同軸の円環状のリング部53が下面に固定された上ベースプレート52が固定されている。一方、下取り合い部58の上面には、旋回中心部Xcの同軸の円柱状のキー部56が上面に固定された下ベースプレート57が固定されている。そして、キー部56とリング部53とが間に滑り材54を介在させた状態で水平回転可能に嵌合することで、既存建物Xの旋回中心部Xcの旋回時のずれが防止される。
次に、本曳家方法で実行される第1~第4ステップの詳細な作業手順について、順に説明する。
【0029】
〔第1ステップ〕
第1ステップでは、
図2に示すように、既存設置場所S1と旋回場所S2との間に複数の直進用レールLsが敷設される。そして、既存建物Xを直進用レールLs沿って直進させる直進用工程が実行されて、既存建物Xが既存設置場所S1から旋回場所S2に向きを変更せずに移動される。
【0030】
〔第2ステップ〕
次に実行される第2ステップでは、先ず、
図3に示すように、旋回場所S2において既存建物Xを支持する直進用レールLsの一部を残した状態で他の直進用レールLsが撤去され、残された直進用レールLsの下に複数の旋回用レールLrが敷設される。また、既存建物Xの旋回中心部Xcの旋回時のずれを防止するずれ防止構造部Kが設けられる。
【0031】
そして、
図4及び
図5に示すように、直進用レールLsごと既存建物Xを旋回用レールLr上に支持した状態で当該旋回用レールLrに沿って旋回させる旋回工程が実行されて、旋回場所S2において既存建物Xの向きが平面視で時計回りに90°回転される。
【0032】
〔第3ステップ〕
次に実行される第3ステップでは、
図6に示すように、旋回場所S2と仮置き場所S3との間に複数の直進用レールLsが敷設される。そして、既存建物Xを直進用レールLs沿って直進させる直進用工程が実行されて、既存建物Xが旋回場所S2から仮置き場所S3に向きを変更せずに移動される。
そして、上述したように、地中障害物を撤去すべき地中障害物撤去対象エリアA1での地中障害物の撤去工事や移設先場所S4での免震基礎部分の工事が完了するまでの間、既存建物Xは仮置き場所S3に仮置きされる。
【0033】
〔第4ステップ〕
地中障害物撤去対象エリアA1での地中障害物の撤去工事の完了後に実行される第4ステップでは、
図7に示すように、仮置き場所S3と移設先場所S4との間に複数の直進用レールLsが敷設される。そして、既存建物Xを直進用レールLs沿って直進させる直進用工程が実行されて、既存建物Xが仮置き場所S3から移設先場所S4に向きを変更せずに移動される。
そして、移設先場所S4では、予め構築された免震基礎部分の上に既存建物Xが設置される。
【0034】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0035】
(1)上記実施形態では、直進工程から旋回工程に移行する際に、直進用レールLsの下に敷設した直進用レール受け25を旋回用レールLrに置き換える形態で当該旋回用レールLrを敷設したが、例えば直進用レール受け25を設けるか否かに関係なく、直進用レールLsをジャッキアップしてその下にスペースを設け、そのスペースに旋回用レールLrを敷設しても構わない。
【0036】
(2)上記実施形態では、地中障害物撤去対象エリアA1での地中障害物の撤去工事の際に既存建物XをそのエリアA1外の仮置き場所S3に仮置きするために、既存建物Xの移動経路を、仮置き場所S3を通る経路に設定したが、その移動経路については適宜変更しても構わない。
【0037】
(3)上記実施形態では、直進工程用及び旋回工程用の夫々の移動装置10、40において、摺動支持部11、41の移動方向後方に油圧シリンダ14、44を配置したが、摺動支持部11、41の移動方向前方に油圧シリンダ14、44を配置しても構わない。この場合、油圧シリンダ14、44を伸長させた状態から短縮させることにより、既存建物Xを支持する摺動支持部11、41を、油圧シリンダ14、44で移動方向へ向けて間欠的に引き込む形態で、レールLs、Lrに沿って移動させることができる。
【符号の説明】
【0038】
10 移動装置
25 直進用レール受け
40 移動装置
A1 エリア
A1 地中障害物撤去対象エリア
A2 外側エリア
K ずれ防止構造部
Lr 旋回用レール
Ls 直進用レール
S1 既存設置場所
S2 旋回場所
S3 仮置き場所
S4 移設先場所
X 既存建物
Xc 旋回中心部