(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/107 20060101AFI20240521BHJP
【FI】
A61B3/107
(21)【出願番号】P 2021518356
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017834
(87)【国際公開番号】W WO2020226082
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-12
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】福間 康文
(72)【発明者】
【氏名】ワング ゼングォ
(72)【発明者】
【氏名】マオ ツァイシン
(72)【発明者】
【氏名】大森 和宏
(72)【発明者】
【氏名】藤野 誠
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/128367(WO,A1)
【文献】特開平07-136120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0224208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
G01N 21/00 - 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に対向する対物レンズと、
前記対物レンズを通して前記被検眼の角膜に照明光を照射する照明光学系と、
前記対物レンズを通して前記照明光が前記角膜で反射される角膜反射光を撮像する干渉像撮像用カメラを有する角膜測定光学系と、
を備える眼科装置であって、
前記照明光学系の開口数Gは、前記角膜測定光学系の開口数gよりも大きい
眼科装置。
【請求項2】
前記照明光学系の開口数Gと、前記角膜測定光学系の開口数gの関係は
0.01/0.2<g/G<0.06/0.1
である請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記照明光学系の開口数Gと、前記角膜測定光学系の開口数gの関係は
0.02/0.15<g/G<0.05/0.1
である請求項1に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記干渉像撮像用カメラから入力された前記角膜反射光の角膜反射像に基づき、前記角膜反射像の各位置の干渉像の波長特性を検出することで、角膜表面の各位置における涙液層の厚みを算出する演算部を更に備える請求項1から3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は眼科装置に係り、詳しくは被検眼の前眼部の状態と涙液層の状態を検査する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼の角膜に照明光を投光し、前眼部の状態と被検眼角膜の涙液層によって形成される干渉像を観察することで、ドライアイ等の診断を行う眼科装置が知られている。
【0003】
例えば、投光系(照明光学系)を介して角膜に入射する光線を、角膜表面に対して垂直方向に入射させて角膜反射を効率よく集光させると、前眼部の観察ないし撮影が良好に行われることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、投光系と涙液層干渉像の角膜測定系のそれぞれの開口数については規定されておらず、干渉像の観測能力を高めつつ、人ごとの被検眼の形状のばらつきやアライメントの不完全性を許容する技術ではなかった。
【0006】
本開示の目的は、照明光学系の開口数(NA(Numerical Aperture))と角膜測定光学系の開口数の最適化を図り、被検眼の形状のばらつきやアライメントの不完全性を許容しながら測定精度を高める眼科装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の眼科装置は、被検眼に対向する対物レンズと、前記対物レンズを通して前記被検眼の角膜に照明光を照射する照明光学系と、前記対物レンズを通して前記照明光が前記角膜で反射される角膜反射光を撮像する角膜測定光学系と、を備える眼科装置であって、前記照明光学系の開口数Gは、前記角膜測定光学系の開口数gよりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、照明光学系の開口数と角膜測定光学系の開口数の最適化を図り、被検眼の形状のばらつきやアライメントの不完全性を許容しながら測定精度を高める眼科装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る眼科装置の光学系の概略図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る角膜と照明光および角膜反射光の関係を示す概略図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る角膜と照明光および角膜反射光の関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本開示の実施形態に係る眼科装置1の光学系の概略図である。眼科装置1の光学系は、前眼部観察光学系1aと、角膜測定光学系1bと、照明光学系1cと、を備える。
【0011】
前眼部観察光学系1aは、本開示の第1レンズ群18を備える。また、前眼部観察光学系1aは、第1レンズ群18の光軸方向に沿って配置された第3ハーフミラー17、前眼部レンズ19、及び前眼部カメラ20を備える。
【0012】
第1レンズ群18は、所謂対物レンズである。なお、本実施形態では、対物レンズ(第1レンズ群18)が複数のレンズ(18a、18b)で構成されているが、対物レンズが1つのレンズのみで構成されていてもよい。なお、この第1レンズ群18は、照明光学系1cから第3ハーフミラー17を介して入射した照明光を被検眼Eの角膜Eaの角膜表面に照射することができる。また、第1レンズ群18には、角膜表面で反射された照明光の角膜反射光が入射される。この角膜反射光は、第1レンズ群18から第3ハーフミラー17に入射する。
【0013】
第3ハーフミラー17は、第1レンズ群18から入射した角膜反射光の一部を透過(L3)して前眼部レンズ19に向けて出射し、且つ角膜反射光の残りを後述の第2レンズ群16に向けて反射する。
【0014】
前眼部レンズ19は、第3ハーフミラー17から入射した角膜反射光を透過して前眼部カメラ20に向けて出射する。前眼部カメラ20は、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子を有しており、前眼部レンズ19から入射した角膜反射光を撮像して被検眼Eの前眼部の観察像(以下、前眼部観察像という)の撮像信号を、制御部9へ出力する。
【0015】
照明光学系1cは、第3ハーフミラー17を介して前眼部観察光学系1aから分岐した光路を形成する。
【0016】
照明光学系1cは、照明光源10を備える。また、照明光学系1cは、照明光源10から出射される照明光の光路上に沿って配置された照明系レンズ11、フィルタ12、照明系絞り13、第1ハーフミラー14、第2ハーフミラー15、及び第2レンズ群16を備える。また、照明光学系1cは、第3ハーフミラー17及び第1レンズ群18を前眼部観察光学系1aと共有している。
【0017】
照明光源10は、光を出射する光源である。照明光源10は、例えば、白色光を出射するLED(light emitting diode)光源及びハロゲンランプ等が用いられ、照明系レンズ11に向けて照明光L1として白色光を出射する。あるいは、他波長のLEDやレーザー光源およびその組み合わせであってもよい。照明系レンズ11は、照明光源10から入射した照明光L1をフィルタ12に向けて出射する。フィルタ12は、照明系レンズ11から入射した照明光の光量あるいは波長分布またはその両方を調整し、調整後の照明光L1を照明系絞り13に向けて出射する。照明系絞り13は、フィルタ12から入射した照明光L1を第1ハーフミラー14に向けて出射する。
【0018】
第1ハーフミラー14は、後述の第2レンズ群16から入射した角膜反射光の一部(R2)を角膜測定光学系1bに向けて反射する。また、フィルタ12から入射した照明光L1の一部を透過して第2ハーフミラー15に向けて出射することができる。
【0019】
第2ハーフミラー15及び第2レンズ群16は、第1ハーフミラー14から入射した照明光L1を既述の第3ハーフミラー17に向けて出射すると共に、第3ハーフミラー17から入射した角膜反射光R2を第1ハーフミラー14に向けて出射する。
【0020】
照明光源10から出射された照明光L1は、照明系レンズ11から第3ハーフミラー17を経た後、第1レンズ群18を通して角膜Eaの角膜表面に照射される。これにより、照明光L1が角膜表面で反射された角膜反射光R1が第1レンズ群18に入射することができる。
【0021】
ここで、照明光学系1cが有する開口数Gについて説明する。前述のように、本開示の照明光学系1cは、照明光源10、照明系レンズ11、フィルタ12、照明系絞り13、第1ハーフミラー14、第2ハーフミラー15、第2レンズ群16、第3ハーフミラー17、第1レンズ群18の光学部材により構成されている。そして、照明光学系1cの開口数Gが略0.10となるように、これらの光学部材を構成する。第3ハーフミラーから第1レンズ群18までは、角膜測定光学系1bと光学部材を共有するため、開口数Gの設定は、特に照明系レンズ11や、照明光源10の開口等の光学特性を適宜選択することにより行うことができる。また、照明系絞り13の開口によって、開口数Gの設定を行っても構わない。なお、開口数Gは0.1から0.2を設定することができる。
【0022】
角膜測定光学系1bは、第1ハーフミラー14を介して照明光学系1cから分岐した光路を形成する。角膜測定光学系1bは、第1レンズ群18から第1ハーフミラー14までを照明光学系1cと共有すると共に、角膜測定系絞り21、レンズ22、及び干渉像撮像用カメラ23を備える。
【0023】
角膜測定系絞り21及び角膜測定系レンズ22は、第1ハーフミラー14から入射した角膜反射光R2を干渉像撮像用カメラ23に向けて出射する。
【0024】
干渉像撮像用カメラ23は、CMOS型又はCCD型の撮像素子を有しており、レンズ22から入射した角膜反射光R2を撮像して、角膜反射像の撮像信号を制御部9へ出力する。
【0025】
ここで、角膜測定光学系1bが有する開口数gについて説明する。前述のように、本開示の角膜測定光学系1bは、干渉像撮像用カメラ23、角膜測定系レンズ22、角膜測定系絞り21、第1ハーフミラー14、第2ハーフミラー15、第2レンズ群16、第3ハーフミラー17、第1レンズ群18の光学部材により構成されている。そして、角膜測定光学系1bの開口数gの中心値が略0.03となるように、これらの光学部材を構成する。第1ハーフミラー14から第1レンズ群18までは、照明光学系1cと光学部材を共有するため、開口数gの設定は、特にレンズ22や、干渉像撮像用カメラ23が有する光学特性を適宜選択することにより行う。また、角膜測定系絞り21の開口によって、開口数gの設定を行っても構わない。なお、後述の理由から、開口数gは0.01から0.06を設定することができる。また開口数gは、焦点深度や干渉像の波長的特性から涙液層を検出する精度の観点から0.02から0.05であることが望ましい。
【0026】
固視灯24は、被験者の視線を誘導することで被検眼Eの位置を固定することにより被検眼Eの状態を正確に観察撮影するための光源である。固視灯24は、LED(light emitting diode)光源及びハロゲンランプ等を用いることができる。固視灯24から出射された固視光L2は、第2ハーフミラー15、第2レンズ群16を透過し、第3ハーフミラー17で反射され、第1レンズ群18を介して被検眼Eに入射する。
【0027】
制御部9は、照明光源10、前眼部カメラ20、干渉像撮像用カメラ23、固視灯24、と電気的に接続されている。
【0028】
制御部9は演算部9aを備え、演算部9aは、入力された角膜反射光R2の画像データ(角膜反射像)に基づき、角膜反射像の各位置の干渉像の波長的特性を検出することにより、角膜表面の各位置における涙液層の厚みを検出することができる。ここで涙液層とは、油層(脂質層)、水層、または、ムチン質、それぞれの層、あるいはそれら複数の層を組み合わせた層のことを示す。
【0029】
図2、
図3を用いて、本開示の実施形態に係る角膜と照明光および角膜反射光の関係を説明する。
図2は、眼科装置1と被検眼Eの位置関係が理想状態、すなわちアライメントが適正である状態を示している。また、
図3は、眼科装置1と被検眼Eの位置関係がずれている状態、すなわちアライメントにずれが生じている状態を示している。
【0030】
図2において、眼科装置1と被検眼Eの位置関係が理想状態、すなわちアライメントが適正である状態について説明する。また、
図2は、被検眼Eの角膜Eaは半径R
0の球であることを仮定する。角膜Eaの半径R
0は、略7.7mmである。
図2では、被検眼Eの正面方向をZ軸と、Z軸に直交する軸をX軸とする。第1レンズ群18から角膜Eaの表面に入射する照明光L1のうち角膜観察に寄与する部分をL1’とし、角膜Eaで反射される角膜反射光R1のうち、角膜測定光学系1bの干渉像撮像用カメラ23に到達する角膜反射光を角膜反射光R2とする。
【0031】
図2では、角膜Eaを球と仮定し、また、アライメントが適正であるため、第1レンズ群18で集光された照明光L1の光束の中心は角膜Eaが形成する球の中心Pを通る。したがって、
図2では、照明光L1は角膜Eaの半径中心Pを通る光軸を有し、角膜Eaの角膜反射光R2(R1)は、照明光L1が角膜Eaに入射する点Qにおける角膜Eaの接線の法線方向、すなわち照明光L1の180度逆方向に反射される。L1’は照明光L1の開口の中心に存在するため、角膜で反射した角膜反射光R2も開口内に存在することができる。
【0032】
図2において、Z軸方向から入射する照明光L1は、角膜Eaの頂点部分に焦点を結ぶようにアライメントし、角膜Eaの頂点部分においてフォーカルプレーン(焦点面)fpを構成する。照明光L1はある程度の広がりを持っているため、Z軸からX軸方向にHずれた位置から入射する照明光L1’’は、入射角度θを有し、角膜Ea表面とフォーカルプレーンfp間のデフォーカス量dZは
dZ=-R
0(1-cosθ)
となる。
【0033】
そのため、角膜測定光学系1bの開口数gの設定は、このデフォーカス量dZをもって角膜反射光R2(R1)が反射しても干渉像撮像用カメラ23で撮像できるように、ある程度小さい値が望ましい。
【0034】
次に、
図3において、眼科装置1と被検眼Eの位置関係がずれている状態、すなわちアライメントにずれが生じ、アライメントが不完全な状態について説明する。被検眼E、すなわち人間の眼球(人眼)は、人それぞれに応じて形が異なり、さらに角膜Eaの曲率は人それぞれのばらつきを有する。また、その曲率は同一人であっても、縦方向、横方向で異なることが一般的であり、完全な球となっているわけではない。このことにより、直接的、間接的に、アライメントの不完全性の問題が生じる。さらに、眼科装置1と被検眼Eの位置関係は、生体である人間を測定するために、例えば眼球の固視微動等により測定中でずれを生じる場合がある。このように、眼科装置1と被検眼Eの理想的に位置精度を高めることはある程度の限界がある。そのため、人眼に対する観察測定において、眼科装置1と被検眼Eのアライメントの不完全が生じうるものである。
【0035】
図3は、
図2の状態から、眼科装置1と被検眼Eの位置関係がZ方向にΔz、X方向にΔxずれた状態を示している。ここで、角膜測定光学系1bの開口数gを大きくすると、焦点深度が浅くなり、デフォーカス量に対する像の劣化(ボケ)が大きくなる。そのため、開口数gはある程度小さい値を選択することが望ましい。
図3は、アライメントがずれている状態であり、入射する照明光L1は、照明光L1が角膜Eaの表面に入射する点Sにおける接線に直交する法線に対して角度βで入射する。そのため、点Pで反射される角膜反射光R2は、当該法線に対して角度βで反射する。そのため、照明光L1と角膜反射光R2は角度2βの角度をなす。
図3で示すように、角膜測定光学系1bの開口数g、および照明光学系1cの開口数Gがより十分小さく、かつ、角度2βは、照明光学系1cの開口数Gが十分小さい場合は、照明光の一部L1(照明光学系1cの開口数のうち、L1-NAの部分)が角膜反射光R2に寄与することができる。したがって、角膜測定が可能となる。一方、角膜測定光学系1bの開口数gは、照明光学系1c系の開口数Gが小さくなく、また、角度2βが照明光学系1cの開口数Gが同程度かあるいは大きい場合は、照明光の一部L1は角膜反射光R2に寄与することが、一部または完全にできなくなる。したがって、その場合、十分な光量で角膜測定をすることが困難となる。なお、角度2βは、人の眼の特性から決まるアライメントの不完全性によって生じるため、これを一定以上小さくすることはできない。そのため、角膜測定光学系1bの開口数gと照明光学系1cの開口数Gを所定の関係に設定することにより、被検眼の形状のばらつきやアライメントの不完全性を許容しながら測定精度を高める眼科装置を提供することができる。
【0036】
ここで、照明光学系1cの開口数Gを略0.10とし、角膜測定光学系1bの開口数gを略0.03とする。その場合、角膜測定光学系1bの開口数gは、照明光学系1cの開口数Gよりも十分に小さいため、照明光L1に対して、角膜測定光学系1bは角膜反射光R2を効率的に撮像することができ、精度よく干渉像の波長的特性を検出することができる。干渉像の波長特性の検出精度の観点から、照明光学系1cの開口数Gを0.10から0.20、角膜測定光学系1bの開口数gは0.01から0.06の間、さらに0.02から0.05とすることが望ましい。
【0037】
以上の構成により、照明光学系1cの開口数と角膜測定光学系1bの開口数をそれぞれ最適化することにより、被検眼の形状のばらつきを許容しながら測定精度を高める眼科装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 :眼科装置
1a :前眼部観察光学系
1b :角膜測定光学系
1c :照明光学系
9 :制御部
9a :演算部
10 :照明光源
11 :照明系レンズ
12 :フィルタ
13 :照明系絞り
14 :第1ハーフミラー
15 :第2ハーフミラー
16 :第2レンズ群
17 :第3ハーフミラー
18 :第1レンズ群
19 :前眼部レンズ
20 :前眼部カメラ
21 :角膜測定系絞り
22 :角膜測定系レンズ
23 :干渉像撮像用カメラ
24 :固視灯