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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】空間除菌装置および空間除菌方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20240521BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240521BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20240521BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20240521BHJP
【FI】
A61L9/12
A61L9/01 F
A61L9/14
C02F1/461 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022157795
(22)【出願日】2022-09-30
(65)【公開番号】P2023053928
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162799
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596182472
【氏名又は名称】株式会社ナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福▲崎▼ 智司
(72)【発明者】
【氏名】小澤 由美
(72)【発明者】
【氏名】小林 麻比
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7057607(JP,B1)
【文献】特開2015-078785(JP,A)
【文献】特開2007-312988(JP,A)
【文献】特開2019-069163(JP,A)
【文献】特開2000-197689(JP,A)
【文献】特開2018-050483(JP,A)
【文献】特開2013-148327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-12/14
C02F 1/461
B01D 53/14-53/18
F24F 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に設けられ、気体の吸気部と放散部とを有する気体流路と、
気体を前記吸気部から吸気して気流を発生させ、前記放散部から外部に放散する送気手段と、
殺菌剤含有液体を超音波によってミスト化して、生成した殺菌剤を含むミストを前記気体流路に供給するミスト供給手段と、
前記気体流路に設けられ、前記ミストを吸着する多孔性の吸着部材と、
前記気体から未揮発ミストを除去する未揮発ミスト除去部材と、
を備え、
前記殺菌剤によって前記気体流路を通る前記気体を殺菌するとともに、前記気流によって前記気体流路内のミストおよび前記吸着部材に吸着されたミストを気化し、前記未揮発ミスト除去部材によって未揮発ミストを除去した後、空間に気体状の殺菌剤を放散して前記空間の除菌を行うことを特徴とする空間除菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空間除菌装置であって、
前記ミスト供給手段に前記殺菌剤含有液体を供給する殺菌剤供給手段をさらに備え、
前記殺菌剤は、次亜塩素酸であり、前記殺菌剤供給手段は、塩酸または塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって前記次亜塩素酸を生成させるものであることを特徴とする空間除菌装置。
【請求項3】
請求項1に記載の空間除菌装置であって、
前記ミスト供給手段に前記殺菌剤含有液体を供給する殺菌剤供給手段をさらに備え、
前記殺菌剤供給手段は、前記殺菌剤含有液体を収容する供給タンクであることを特徴とする空間除菌装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の空間除菌装置であって、
前記気体流路の流路壁の少なくとも一部が、前記吸着部材によって構成されていることを特徴とする空間除菌装置。
【請求項5】
筐体内に設けられ、気体の吸気部と放散部とを有する気体流路に、気体を前記吸気部から吸気して気流を発生させるとともに、殺菌剤含有液体を超音波によってミスト化して、生成した殺菌剤を含むミストを前記気体流路に供給し、前記殺菌剤を前記放散部から外部に放散する空間除菌方法であって、
前記殺菌剤によって前記気体流路を通る前記気体を殺菌するとともに、前記気流によって前記気体流路内のミストおよび気体流路に設けられた多孔性の吸着部材に吸着されたミストを気化し、未揮発ミストを除去する未揮発ミスト除去部材によって未揮発ミストを除去した後、空間に気体状の殺菌剤を放散して前記空間の除菌を行うことを特徴とする空間除菌方法。
【請求項6】
請求項5に記載の空間除菌方法であって、
前記殺菌剤含有液体は、塩酸または塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって生成させた次亜塩素酸を含む液体であることを特徴とする空間除菌方法。
【請求項7】
請求項5に記載の空間除菌方法であって、
前記殺菌剤含有液体を、前記殺菌剤含有液体を収容する供給タンクから供給することを特徴とする空間除菌方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の空間除菌方法であって、
前記気体流路の流路壁の少なくとも一部が、前記吸着部材によって構成されていることを特徴とする空間除菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内空間等の空間を除菌するための空間除菌装置および空間除菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間除菌装置の種類としては、例えば食塩水の電気分解により得られた次亜塩素酸水溶液を超音波でミスト状にして次亜塩素酸を含むミストを室内空間に放散する超音波式や、例えば次亜塩素酸水溶液をフィルタに含浸させて、そこに風を送り気化させて気体状の次亜塩素酸を室内空間に放散する気化式等がある(例えば、特許文献1~4参照)。
【0003】
特許文献1には、空気吸込み口と空気吹出し口とを有するケース本体と、ケース本体内のフィルタを備えた空気清浄手段と、加湿手段と、空気吸込み口から吸い込んだ空気を空気清浄手段を介して空気吹出し口へと送風する送風手段と、を備え、加湿手段は、液体からミストを発生させる霧発生装置が設けられた加湿器本体と、加湿器本体に、次亜塩素酸水を含む液体を供給する液体供給装置とを有し、加湿器本体が霧発生装置によって発生されたミストが導かれる部位に配され、ミストを微細化させてナノミストを発生させる円筒電極と、円筒電極の上方に設けられたナノミストの空気吹出し口と、備える除菌機能付き加湿空気清浄装置が記載されている。特許文献1の加湿空気清浄装置では、空気清浄手段(プレフィルタ、脱臭フィルタ)と加湿および除菌手段を個別機能として搭載しており、加湿器本体に、酸性の液性の次亜塩素酸水を供給し、次亜塩素酸水のナノミストを装置外に吹き出している。前記フィルタは、液体からミストを発生させる霧発生装置が設けられた加湿器本体の外側にある。また、脱臭フィルタの脱臭機能は活性炭等の脱臭剤による吸着、除去としている。
【0004】
特許文献2には、吸い込み口と吹き出し口を備えた筐体内に、通過させた空気から微粒子を除去する集塵フィルタと、通過させた空気に次亜塩素酸を含有させる除菌部と、送風部によって吸い込み口から吸い込んだ空気を集塵フィルタに通過させて吹き出し口から吹き出す空気清浄風路と、筐体の内部で集塵フィルタを通過させた空気をさらに除菌部を通過させて集塵フィルタの上流側へ供給する浄化風路とを備える空気浄化装置が記載されている。特許文献2の空気浄化装置では、除菌部において次亜塩素酸水溶液を揮発させるが、超音波霧化に関する記載はない。
【0005】
特許文献3には、筐体に形成された吸気口および排気口を互いに連通する送風路と、筐体内に配設された貯水槽と、この貯水槽に貯留した塩分を含む水を電解処理して次亜塩素酸と次亜塩素酸が溶け込んだ電解次亜塩素酸水とを生成する電解手段と、送風路中に通風可能に配設された除菌フィルタと、この除菌フィルタに電解次亜塩素酸水を含水させると共に、電解次亜塩素酸水から揮発した次亜塩素酸を含ませる除菌手段と、除菌フィルタよりも吸気口側の送風路内に通風可能に配設された除塵用のHEPAフィルタと、吸気口からHEPAフィルタおよび除菌フィルタを順次通風して排気口から排気される空気流を送風路内に生成する送風手段と、を具備し、吸気口から吸気された外気は除菌フィルタを通風する際に除菌フィルタ中で気液接触した電解次亜塩素酸水および電解次亜塩素酸水から揮発した次亜塩素酸により除菌され、除菌された空気は揮発した次亜塩素酸を含んだ状態で排気口から筐体外に排気され、排気された空気中の揮発した次亜塩素酸が周囲の空間を除菌する、空間除菌清浄化装置が記載されている。除菌フィルタに電解次亜塩素酸水を含浸させ、揮発した次亜塩素酸により除菌を行うが、超音波霧化による微細粒子を利用する手段に関する記載はない。また、次亜塩素酸水としてアルカリ性の電解次亜塩素酸水の利用に限定されており、酸性の次亜塩素酸水溶液の利用に関する記載はない。
【0006】
特許文献4には、除菌対象空気が上流側から下流側に流れる通気路を有するハウジングと、通気路を流れる除菌対象空気に殺菌剤溶液を噴霧する噴霧装置と、通気路から降下する殺菌剤溶液を受け止める循環槽と、循環槽の殺菌剤溶液を噴霧装置に供給する循環系と、循環槽と循環系と噴霧装置と通気路とで形成される殺菌剤溶液の巡廻系に殺菌剤用液の原液として微酸性電解水を供給する薬剤供給装置と、殺菌剤溶液を希釈する希釈水を供給する希釈水系を備え、噴霧装置は希釈水で薄められて濃度の低くなった殺菌剤溶液を噴霧する空気浄化装置が記載されている。特許文献4では、殺菌剤溶液を噴霧する装置として噴霧ノズルを使用していることから、明らかに二流体スプレー噴霧を意図しており、超音波霧化に関する記載はない。また、微酸性次亜塩素酸水の使用を前提としており、アルカリ性次亜塩素酸水溶液の使用に関する記載はない。
【0007】
超音波式の場合、ミストに含まれるイオン状の次亜塩素酸や、ナトリウムイオン、塩化物イオン等のイオン成分、イオンになっていない非解離型の次亜塩素酸の全てが室内空間に放散されていた。イオン成分が放散されると、室内空間の固体表面上で析出する場合があった。気化式の場合、気化効率が悪いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6473910号公報
【文献】特開2020-110557号公報
【文献】特開2021-063647号公報
【文献】特許第6202804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、イオン成分の放散を抑制して、効率的に空間除菌を行うことができる空間除菌装置および空間除菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、筐体と、前記筐体内に設けられ、気体の吸気部と放散部とを有する気体流路と、気体を前記吸気部から吸気して気流を発生させ、前記放散部から外部に放散する送気手段と、殺菌剤含有液体を超音波によってミスト化して、生成した殺菌剤を含むミストを前記気体流路に供給するミスト供給手段と、前記気体流路に設けられ、前記ミストを吸着する多孔性の吸着部材と、前記気体から未揮発ミストを除去する未揮発ミスト除去部材と、を備え、前記殺菌剤によって前記気体流路を通る前記気体を殺菌するとともに、前記気流によって前記気体流路内のミストおよび前記吸着部材に吸着されたミストを気化し、前記未揮発ミスト除去部材によって未揮発ミストを除去した後、空間に気体状の殺菌剤を放散して前記空間の除菌を行う、空間除菌装置である。
【0011】
前記空間除菌装置において、前記ミスト供給手段に前記殺菌剤含有液体を供給する殺菌剤供給手段をさらに備え、前記殺菌剤は、次亜塩素酸であり、前記殺菌剤供給手段は、塩酸または塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって前記次亜塩素酸を生成させるものであることが好ましい。
【0012】
前記空間除菌装置において、前記ミスト供給手段に前記殺菌剤含有液体を供給する殺菌剤供給手段をさらに備え、前記殺菌剤供給手段は、前記殺菌剤含有液体を収容する供給タンクであることが好ましい。
【0013】
前記空間除菌装置において、前記気体流路の流路壁の少なくとも一部が、前記吸着部材によって構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明は、筐体内に設けられ、気体の吸気部と放散部とを有する気体流路に、気体を前記吸気部から吸気して気流を発生させるとともに、殺菌剤含有液体を超音波によってミスト化して、生成した殺菌剤を含むミストを前記気体流路に供給し、前記殺菌剤を前記放散部から外部に放散する空間除菌方法であって、前記殺菌剤によって前記気体流路を通る前記気体を殺菌するとともに、前記気流によって前記気体流路内のミストおよび気体流路に設けられた多孔性の吸着部材に吸着されたミストを気化し、未揮発ミストを除去する未揮発ミスト除去部材によって未揮発ミストを除去した後、空間に気体状の殺菌剤を放散して前記空間の除菌を行う、空間除菌方法である。
【0015】
前記空間除菌方法において、前記殺菌剤含有液体は、塩酸または塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって生成させた次亜塩素酸を含む液体であることが好ましい。
【0016】
前記空間除菌方法において、前記殺菌剤含有液体を、前記殺菌剤含有液体を収容する供給タンクから供給することが好ましい。
【0017】
前記空間除菌方法において、前記気体流路の流路壁の少なくとも一部が、前記吸着部材によって構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、イオン成分の放散を抑制して、効率的に空間除菌を行うことができる空間除菌装置および空間除菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る空間除菌装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る空間除菌装置の他の例を示す概略構成図である。
図3】実施例1における殺菌試験の結果を示すグラフである。
図4】比較例1における殺菌試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<(1)殺菌剤電解生成式の空間除菌装置>
本発明の実施形態に係る空間除菌装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0022】
空間除菌装置1は、殺菌剤電解生成式の装置である。空間除菌装置1は、筐体10と、筐体10内に設けられ、気体の吸気部28と放散部30とを有する気体流路26と、気体を吸気部28から吸気して気流を発生させ、放散部30から外部に放散する送気手段として、送気装置20と、殺菌剤を含む殺菌剤含有液体34を超音波によってミスト化して、生成した殺菌剤を含むミスト32を気体流路26に供給するミスト供給手段として、少なくとも1つの超音波振動子14と、気体流路26に設けられ、ミスト32を吸着する多孔性の吸着部材として、少なくとも1つの3次元立体フィルタ16と、放散部30の手前に配置され、気体から未揮発ミストを除去する未揮発ミスト除去部材として、エリミネータ18と、を備える。空間除菌装置1は、殺菌剤含有液体を供給する殺菌剤供給手段として、電解装置12を備え、電解装置12を用いて例えば塩酸または塩化ナトリウム水溶液の電気分解によって殺菌剤として次亜塩素酸を生成させる。空間除菌装置1は、殺菌剤によって気体流路26を通る気体を殺菌するとともに、気流によって気体流路26内のミスト32および吸着部材である3次元立体フィルタ16に吸着されたミスト32を気化し、エリミネータ18によって未揮発ミストを除去した後、空間に気体状の殺菌剤を放散して空間の除菌を行う装置である。
【0023】
空間除菌装置1において、例えば長方体形状の筐体10は、底部に殺菌剤含有液体34を貯留するための貯液部24を有し、貯液部24の例えば底面には、少なくとも1つ(図1の例では、3つ)の超音波振動子14が殺菌剤含有液体34に浸漬されるように設置されている。筐体10の例えば左側面部に吸気部28が形成され、例えば右側面部に放散部30が形成されている。貯液部24の上方に、筐体10の上部の空間を例えば略水平方向に仕切るように仕切り部材22が設置され、貯液部24の上方であって仕切り部材22より下方の空間を空気の流れを遮断するように例えば略鉛直方向に略等間隔に仕切る3つの3次元立体フィルタ16が設置され、3次元立体フィルタ16と仕切り部材22とによって構成されている流路壁によって、気体流路26が例えばジグザク状になるように形成されている。放散部30付近には、送気装置20が設置され、送気装置20の吸引側は、気体流路26と連通し、送気側は、放散部30と連通するようになっている。放散部30の手前であって、送気装置20の吸引側の直前には、エリミネータ18が設置されている。貯液部24における気体流路26の吸気部28付近には、電解装置12が設置されている。
【0024】
本実施形態に係る空間除菌方法および空間除菌装置1の動作について説明する。
【0025】
空間除菌装置1において、送気装置20が起動されると、筐体10の外部からの気体が吸気部28から吸気されて気体流路26を通過して放散部30から筐体10の外部へ放散される気流が発生される。一方、貯液部24には、例えば塩化ナトリウム水溶液が貯液され、電解装置12を用いた電気分解によって殺菌剤含有液体34として次亜塩素酸水溶液が生成される(殺菌剤供給工程)。殺菌剤含有液体34は、超音波振動子14により発生した超音波によってミスト化(微細粒子化)されて、生成した殺菌剤を含むミスト32は気体流路26に供給される(ミスト供給工程)。ミスト32の一部は、気体流路26の流路壁の一部を構成する3次元立体フィルタ16に吸着される(吸着工程)。吸気部28から吸気された外部からの気体の一部は、気体流路26を通過し、一部は、3次元立体フィルタ16を透過して、放散部30へと流れる。気体流路26に浮遊する殺菌剤および3次元立体フィルタ16の表面および内部に吸着された殺菌剤と、気体流路26を通る気体および3次元立体フィルタ16を透過する気体とが接触し、取り込まれた空気中の臭気成分、微生物等が酸化処理されて気体が脱臭および殺菌されるとともに、気流によって気体流路26内のミストおよび気体流路26に設けられた3次元立体フィルタ16に吸着されたミストが気化され(気化工程)、放散部30の手前に配置されたエリミネータ18によって未揮発ミストが除去された後(未揮発ミスト除去工程)、筐体10の外部の空間に気体状の次亜塩素酸等の殺菌剤が放散されて空間の除菌が行われる(空間除菌工程)。
【0026】
<(2)殺菌剤外部供給式の空間除菌装置>
本発明の実施形態に係る空間除菌装置の他の例の概略を図2に示す。
【0027】
図2に示す空間除菌装置3は、殺菌剤外部供給式の装置である。空間除菌装置1における殺菌剤供給手段として電解装置12の代わりに、殺菌剤含有液体を収容する供給タンク36を備える。
【0028】
空間除菌装置3において、筐体10の外部に供給タンク36が設置され、供給タンク36の出口と筐体10の貯液部24とは供給配管38によって連通されている。供給タンク36には、次亜塩素酸水溶液等の殺菌剤含有液体34が収容されている。
【0029】
空間除菌装置3において、送気装置20が起動されると、筐体10の外部からの気体が吸気部28から吸気されて気体流路26を通過して放散部30から筐体10の外部へ放散される気流が発生される。一方、供給タンク36から供給配管38を通して次亜塩素酸水溶液等の殺菌剤含有液体34が貯液部24に供給される(殺菌剤供給工程)。殺菌剤含有液体34は、超音波振動子14により発生した超音波によってミスト化(微細粒子化)されて、生成した殺菌剤を含むミスト32は気体流路26に供給される(ミスト供給工程)。ミスト32の一部は、気体流路26の流路壁の一部を構成する3次元立体フィルタ16に吸着される(吸着工程)。吸気部28から吸気された外部からの気体の一部は、気体流路26を通過し、一部は、3次元立体フィルタ16を透過して、放散部30へと流れる。気体流路26に浮遊する殺菌剤および3次元立体フィルタ16の表面および内部に吸着された殺菌剤と、気体流路26を通る気体および3次元立体フィルタ16を透過する気体とが接触し、取り込まれた空気中の臭気成分、微生物等が酸化処理されて気体が殺菌されるとともに、気流によって気体流路26内のミストおよび気体流路26に設けられた3次元立体フィルタ16に吸着されたミストが気化され(気化工程)、放散部30の手前に配置されたエリミネータ18によって未揮発ミストが除去された後(未揮発ミスト除去工程)、筐体10の外部の空間に気体状の次亜塩素酸等の殺菌剤が放散されて空間の除菌が行われる(空間除菌工程)。
【0030】
本実施形態に係る空間除菌方法および空間除菌装置では、殺菌剤含有液体を超音波によってミスト状にしてから気化させ、未揮発ミストを除去した後、除菌対象の空間に放散するため、イオン状の次亜塩素酸等の酸化剤や、ナトリウムイオン、塩化物イオン等のイオン成分が空間にほとんど放散されず、気体状の次亜塩素酸等の酸化剤が放散されるため、空間の固体表面上でのイオン成分等の析出が低減される。殺菌剤含有液体にpH調整剤等が含まれていても、それらの外部への放散を抑制することができる。また、空間除菌装置の内部では、3次元立体フィルタ等の表面積が大きい多孔性の吸着部材の表面および内部にミストを吸着させることによって、気体と殺菌剤を含むミストとの接触効率が高くなり、気体の殺菌効率が向上するとともに、ミストが気化(揮発)しやすくなる。3次元立体フィルタ等の多孔性の吸着部材が超音波振動子14を備える筐体10の内部にあり、吸着部材の表面を「酸化剤のミストと汚染物質(臭気成分、微生物等)の反応場」としている。脱臭は、「酸化剤による酸化分解」によって行われる。ミストは多孔性の吸着部材の表面で揮発させることを前提としており、空間除菌装置の外にミストはほとんど放出されない。
【0031】
<装置の各構成について>
筐体10は、例えば長方体形状、立方体形状等の形状を有し、例えば、樹脂、耐食性の金属等で構成される。
【0032】
仕切り部材22は、例えば、板状部材であり、筐体10と同様の材料で構成されればよい。
【0033】
殺菌剤を含む殺菌剤含有液体34としては、例えば、次亜塩素酸水溶液、亜塩素酸水溶液、過酸化水素水、オゾン水、二酸化塩素水溶液等が挙げられる。次亜塩素酸水溶液は、例えば、次亜塩素酸またはその塩と、炭酸ガスと、水と、を含む水溶液である。次亜塩素酸の塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの次亜塩素酸またはその塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。次亜塩素酸またはその塩としては、取り扱い性、流通性、価格等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。水は、例えば、導電率が1mS/m以下、全有機炭素が0.1mg/L以下である水、導電率が0.6mS/m以下、全有機炭素が0.06mg/L以下である逆浸透膜処理水等である。次亜塩素酸系水溶液のpHは、例えば、4~7の範囲である。
【0034】
次亜塩素酸水溶液は、筐体10の内部の例えば貯液部24または筐体10の外部において塩酸または塩化ナトリウム、塩化カリウム等の水溶液の電気分解で生成させてもよいし、予め製造した次亜塩素酸水溶液を配管また供給タンク36等によって貯液部24へ供給してもよい。
【0035】
用いられる次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度は、例えば、10~500mg/Lの範囲であり、好ましくは50~100mg/Lの範囲である。次亜塩素酸水溶液は、酸性~アルカリ性であり、次亜塩素酸水溶液のpHは、例えば、4~10の範囲であり、好ましくは5~9の範囲である。
【0036】
オゾンは、次亜塩素酸水溶液と同様に、貯液部24において公知の方法によって電気分解で生成させてもよい。
【0037】
電解装置12は、次亜塩素酸水溶液等を生成するための公知の電解装置を用いればよい。電解装置12は、例えば、1対の電極(陽極と陰極)と、これらの電極間に所定の電圧を印加し、電流を流す制御装置と、必要に応じて隔膜とを有する。
【0038】
電気分解に用いる塩化ナトリウム水溶液等は、予め製造した塩化ナトリウム水溶液等を筐体10の外部から配管また供給タンク等によって貯液部24へ供給してもよいし、水道水、純水等の水を筐体10の外部から配管また供給タンク等によって貯液部24へ供給して、塩化ナトリウム等の粉末、顆粒、錠剤等を添加して、調製してもよい。
【0039】
供給タンク36は、着脱可能なカートリッジ方式であってもよい。これにより、空間除菌装置への殺菌剤を含む溶液の補給を容易に行うことができる。供給タンク36は、配管等によって貯液部24と接続されていてもよい。
【0040】
超音波振動子14は、公知のものを用いればよい。超音波振動子14は、1つまたは複数設けられる。超音波振動子14は、空気の入口に近い箇所に少なくとも1つは配置することが好ましい。
【0041】
超音波振動子14を複数設置し、作動させる超音波振動子の個数によって、発生させる超音波の強度を調節してもよいし、超音波振動子14を1つまたは複数設置し、1つの超音波振動子を作動させる電圧等によって発生させる超音波の強度を調節してもよい。
【0042】
3次元立体フィルタ16は、取り込まれる気体と次亜塩素酸等の殺菌剤を含むミストとの接触効率を高めるためのものである。また、3次元立体フィルタ16は、取り込まれる気体中の臭気成分、微生物等と次亜塩素酸等の殺菌剤を含むミストとの接触効率を高める。3次元立体フィルタ16は、イオン成分等を吸着する性質を有していてもよい。
【0043】
吸着部材である3次元立体フィルタ16は、例えば板形状の多孔性のフィルタであり、例えば厚さ5~20mm程度とすればよい。
【0044】
3次元立体フィルタ16としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂を含む繊維の単体または混用品、セラミック、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル等の多孔性フィルタ等が挙げられる。これらのうち、3次元立体フィルタ16は、殺菌剤含有液体との反応性が少ない、比表面積が大きい、軽量、安価等の観点から、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を含む繊維が好ましい。
【0045】
3次元立体フィルタ16等の吸着部材は、気体流路26内に配置すればよいが、気体とミストとの接触効率を高める等の観点から、3次元立体フィルタ16等の吸着部材によって気体流路26の流路壁を構成することが好ましい。
【0046】
エリミネータ18は、水滴を除去することができるものであればよく、特に制限はない。エリミネータ18としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂を含む繊維の単体または混用品、セラミック、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル等の多孔性材料等の膜、SUS等の金属等が挙げられる。これらのうち、エリミネータ18は、殺菌剤含有液体との反応性が少ない、腐食しにくい、安価等の観点から、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を含む繊維、ポリ塩化ビニルの多孔性材料の膜が好ましい。
【0047】
送気装置20は、筐体10の外部からの気体を吸気部28から吸気して、放散部30から筐体10の外部へ放散する気流を発生することができるものであればよく、特に制限はない。送気装置20は、公知のものを用いればよい。
【0048】
貯液部24は、殺菌剤含有液体34を貯留することができればよく、特に制限はない。貯液部24は、例えば、筐体10の底部に設けられる。貯液部24は、筐体10の外部に設けられてもよい。
【0049】
気体流路26は、外部からの気体が通過する流路であり、幅、長さ、形状等には特に制限はないが、気体と殺菌剤を含むミスト等との接触効率を高くするために、できるだけ経路を長くすることが好ましく、例えば、図1,2に示すように、ジグザク状にすればよい。気体流路26は、気体の流れを阻害しない程度の幅、長さにすればよい。
【0050】
除菌対象の空間は、例えば、密閉または少なくとも一部が開放された室内等であり、特に制限はない。
【0051】
浄化対象の空気に含まれる除菌対象物としては、特に制限はなく、ウィルス、細菌等が挙げられる。これらの他に、臭気物質等を酸化処理によって低減することができる。なお、本明細書における「除菌」には、殺菌、滅菌、消毒等も含まれる。
【実施例
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
[殺菌試験]
図2に示す空間除菌装置を用いて、殺菌剤の噴霧実験を行った。噴霧実験は、66.5m(約17畳)の室内で行った。室内は扉と窓を閉め、ブラインドで遮光し、室内灯をつけて実験を行った。次亜塩素酸ナトリウムと二酸化炭素と逆浸透膜処理水(導電率の測定値:0.51mS/m、全有機炭素の測定値:0.06mg/L)とを混合して調製した次亜塩素酸水溶液(pH6.0、有効塩素濃度70mg/L)を図2に示す空間除菌装置に入れ、連続噴霧を行った(噴霧量87mL/h、3時間)。空間除菌装置の気体流路に多孔性の吸着部材として3次元立体フィルタ(ポリエチレンテレフタレート樹脂繊維およびビスコースレーヨン、140mm×185mm×厚さ10mm)を3枚設置し、未揮発ミスト除去部材としてエリミネータ(材質:塩化ビニル)を設置した。次亜塩素酸(HOCl)のガス濃度は、空間除菌装置から5.6m離れた位置で塩素ガス検知器(XPS-7CL、新コスモス電機(株))を用いて測定した。殺菌実験には、供試菌としてEnterobacter aerogenes NBRC13534を用いた。適宜希釈したE. aerogenesの培養液を滅菌処理済みメンブレンフィルタ(孔径0.45μm)上に吸引ろ過で均一になるように捕集させた後、菌体をリン酸緩衝液ですすいだ。次に、このフィルタをリン酸緩衝液で調製した寒天平板に載せて、空間除菌装置から5.6m離れた机の上(高さ0.85m)に設置して殺菌実験を開始した。殺菌剤の噴霧開始直後(0分)、噴霧開始から60分後、120分後、180分後の菌数および次亜塩素酸のガス濃度を測定した。また、コントロールとして次亜塩素酸水溶液の代わりに水道水を用いて同様に噴霧実験を行った。微生物の死滅過程を、一次速度論(一次死滅速度定数:kmin-1)を当てはめて解析を行った。結果を表1に示す。次亜塩素酸のCT値(ppm・min)に対するlog(N/N0)を図3に示す。
【0054】
<比較例1>
従来の超音波式霧化器(ジアコミスト、株式会社ナック)を用いた以外は、実施例1と同様にして殺菌剤の噴霧実験を行った(噴霧量393mL/h、3時間)。結果を表2に示す。次亜塩素酸のCT値(ppm・min)に対するlog(N/N0)を図4に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1の空間除菌装置を用いた場合、比較例1の従来の超音波式霧化器と比較してk値は約5倍高くなった。実施例の空間除菌装置では効率的に空間除菌を行うことができることがわかった。
【0058】
<実施例2>
[ナトリウムイオン量の確認]
図2に示す空間除菌装置から排出されるナトリウムイオンの量を確認した。0.3質量%塩化ナトリウム水を図2に示す空間除菌装置に入れ、空間除菌装置の放散部と500mL蒸留水を入れた1Lポリ瓶とをホースでつなぎ、45分間稼働させた。ポリ瓶中の水に含まれるナトリウムイオン量を、誘導結合プラズマ質量分析法(iCAP Qc:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))により測定した。コントロールとして0.3質量%塩化ナトリウム水の代わりに蒸留水を空間除菌装置に入れた場合も同様に試験した。結果を表3に示す。
【0059】
<比較例2>
従来の超音波式霧化器(ジアコミスト、株式会社ナック)を用いた以外は、実施例2と同様にして排出されるナトリウムイオンの量を確認した。噴霧時間は、実施例2と噴霧量が同等となるように10分間に設定した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例2の空間除菌装置の10分あたりのナトリウムイオン量は、比較例1の従来の超音波式霧化器と比較して約1/10以下であった。実施例の空間除菌装置では、装置外に放出されるナトリウムイオンを含む未揮発ミストの量が低減されていることがわかった。
【0062】
以上の通り、実施例の空間除菌装置では、イオン成分の放散を抑制して、効率的に空間除菌を行うことができた。
【符号の説明】
【0063】
1,3 空間除菌装置、10 筐体、12 電解装置、14 超音波振動子、16 3次元立体フィルタ、18 エリミネータ、20 送気装置、22 仕切り部材、24 貯液部、26 気体流路、28 吸気部、30 放散部、32 ミスト、34 殺菌剤含有液体、36 供給タンク、38 供給配管。
図1
図2
図3
図4